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渡辺正雄編著『ニ

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渡辺正雄編著﹃ニ

ートンの光と影﹄︵共立出版一九八二年︶

渡辺正雄編著『ニュートンの光と影』

 科学史上の天才を眺めるとき︑歴史を経て伝わってきた業績の輝きに目を奪われるせいか︑彼らがすでに現在の

われわれとまったく同じ自然観を持っていたかのように思い込みがちである︒しかし︑当時の誤謬に満ちた自然認

識を一夜にして払い除け︑新しく打ち立てた真理によって無知蒙昧な人々の目を一瞬にして評せたなどと考えるこ

とは︑あまりにも短絡に過ぎることは明らかである︒天才もまた︑それぞれの時代と社会の中に生身の人間として

生きていたのであり︑そこから完全に超越することなどできるはずはないのである︒本書の一節を借りると︑ 〃現

       ヘ  ヘ  ヘ  ヘ  ヘ  ヘ  ヘ      ヘ  ヘ  ヘ  ヘ  へ       ゐ在われわの科学体系のなかに取り込まれてすっぽり収まっているコペルニクスの地動説やガリレオの落体法則︑二・

ヘ   ヘ   ヘ   ヘ   ヘ      ヘ   ヘ   ヘ   ヘ   ヘユートソの万有引力の観念やデカルトの機械論的世界観を︑そのままコペルニクス︑ガリレオ︑ニュートン︑デカ

ルトのものだとつい錯覚してしまう︒これは明白な錯覚である︒〃︵二五四頁︶ということになる︒

 では︑この錯覚は何に起因するのであろうか︒科学法則の正当性は時代︑社会には無関係であることは誰しも認

めることと思う︒たとえぽ︑ニュートンの運動法則はいつの時代の運動現象でも同じように記述できることは明ら

かである︒しかしながら︑このことと︑運動法則に対する解釈までがいつの時代においても同じであったと考︑兄る

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ことはまったく別である︒この点を混同してしまうと︑今述べた錯覚につながるのではないだろうか︒

 科学は︑決して教科書に年代順に整理された如く能率よく前進してぎたわけではない︒跨ぎつ戻りつの手探りを

繰り返してきたはずである︒現在に伝わる知識は︑初めて掘り出されたとぎの原形がそのまま保存されているので

はなく︑後世の人々によって手を加えられ︑磨かれて今ある姿になったのである︒このように考えると︑われわれ

が理解し.ているのは︑恥恥いいめひ運動法則ではなくわかかかひ運動法則ということになる︒

 一般の歴史を学ぶ場合は︑問題にしている時代の個別性に注目しなければならないことをわれわれはよく知って

いる︒ところが︑科学を考えるとき︑最終的に得られた真理の普遍性だけにスポットライトをあてすぎ︑研究に携

わった人間の存在を往々にして看過しがちである︒ここに︑科学史を学ぶ際に陥りやすい盲点がある︒

 本書は︑以上論じたような観点からニュートンという大天才を彼が生きた時代と社会に置き直し︑多方面からの

分析を試みたニュートンに関する学際研究書である︒書名が示すとうり︑ニュートンの光の部分だけでなく影の部

分も浮ぎ彫りにされている︒経済学者のケインズは︑ 〃ニュートンは片足を中世におき︑片足は近代科学への途を

踏む〃と評した︒そこから天才にも時代がいかに色濃く影を落しているかを見て取ることがでぎる︒

 さて︑本書は十一章から成るが︑その内容は以下に紹介するように学際研究の名にふさわしく多岐にわたってい

る︒ 第二章﹁ニュートンの時代と社会﹂︒﹁科学革命﹂という言葉を聞くと︑その中心に大学の存在を考えがちであ

る︒しかし︑当時の大学にはそのような知的基盤はほとんど芽生えていなかったことが︑イギリスの社会背景と関

連させて論じられている︒むしろ︑ニュートンの過したケンブリッジの知的環境がいかに荒廃したものであっ売の

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渡辺正雄編著rニュートンの光と影』

かを教えられ︑注ぎの念を禁じ得ない︒ニュートンは人生の前半をケンブリッジでの隠遁的な研究生活に捧げたが

後半生はロソドソで学界︑官界の大物として世間の表舞台に登場する︒彼のこの変身も興味の湧くところである

が︑イギリスの歴史の中でこの問題を考察している︒

 第二章﹁ニュートンのりんご﹂︒ニュートンといえば万有引力︑そしてりんごを思い出す︒この逸話は︑大家と

なったニュートンが晩年︑友人に万有引力に気がついたいぎさつを回想した話が元になっている︒これほど有名に

なったのは︑深遠な物理法則の発見がりんごという誰にもなじみのある身近な存在に託されたからであろう︒この

章では︑ガリレオとケプラーによって端緒が馨れた天上界と地上界の運動を統一したニュートンの力学体系の骨子

が描かれている︒なお︑本書全体の狙いを意識してか︑普通一番力を置かれる話がここでは敢えて筆を抑えて書い

てある印象を受ける︒

 第三章﹁ニュートンのプリズム﹂︒ ニュートンの業績は︑力学︑数学︑光学の三つに大別できるであろうが︑最

後の光学については前の二つに比べいささか知名度が落ちるようである︒ところが︑ニュートンが王立協会員に選

出された理由は反射望遠鏡の発明によってであるし︑ケンブリッジ大学教授としての最初の議義題目も光学であっ

た︒また︑現在ケンブリッジを訪ねると︑手に小さなプリズムを携えたニュートンの立像を目にすることができ

る︒力学︑数学一辺倒でなかったニュートンの研究が紹介されている

 第四章﹁ニュートンと音階﹂︒ニュートンが科学者としてデビューしたのは光学によってであったが︑今からみる

と物理学からは完全に逸脱しているところも見られる︒それは︑光のプリズムによる七色の分散光を音楽における

七つの音階と対比させていることである︒このようにまったく無関係な事柄を統一させようとする姿勢は︑近代科

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学を起動させた天才の思想の中にも︑古代のピタゴラス学派による数理的神秘主義の宇宙観が潜んでいたことを示

し興味深かい︒さらに最近の研究から︑ニュートンは万有引力の法則がピタゴラスによって発見された弦の振動法

則と合致することを︑ ﹃プリソキピア﹄の注に付記しようとしたことが明らかになったことも指摘されている︒

 第五章﹁ニュートンと仮説﹂︒﹁私は仮説をつくらない﹂という有名な言葉の本来の意味を論じ︑﹃プリソキピア﹄

に現われる仮説の変遷を調べながら︑ニュートンの学問発展の軌跡を追っている︒彼が︑﹁実験哲学﹂をどのよう

な学問としてとらえていたのかを考えると︑そこから自然哲学の中で産声をあげようとする自然科学の姿が浮んで

くる︒ 第六章﹁ニュートンと錬金術﹂︒近代科学の創始者がよりにもよって錬金術に耽っていたという事実はいささか

ショッキングなことのように思われる︒それも︑生涯にわたって最も持続したのが錬金術の研究であり︑力学︑数

学︑光学はそれに比べるとはるかに短期間研究したにすぎないというのである︒ケインズは︑ニュートンを﹁理性

の時代の最初の人ではなく︑魔術師のうちの最後の人﹂と称している︒さらに︑﹃聖書﹄の預言書研究にもなみな

みならぬ関心を持っていたことが示されている︒この章では︑科学上の業績と神秘的な事柄へ向うニュートンの姿

勢のつながりを︑彼の自然観の中で探ろうとしている︒

 第七章﹁ニュートンの精神障害﹂︒ ニュートンが五十歳頃精神障害に悩まされたことも意外な事実である︒病因

についての諸説が紹介されているが︑最近ニュートンの遺髪を分析した結果︑錬金術の実験による水銀中毒に罹っ

ていた可能性が強いことが詳しく論じられている︒

 第八章﹁ニュートンとキリスト教﹂︒現在に生きるわれわれにとって︑科学と宗教は完全に分たれたものであろ

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うが︑近代科学の黎明期には必ずしも両者を対立したものとしてとらえていたわけではない︒ニュートンは︑科学

と宗教の調和を信じ︑そこから宇宙の秩序ある構造を理解しようとした︒彼が自然の中にどのように神を見たのか

が考察されている︒

 第九章﹁ニュートンの英語﹂︒中世以来学術用語にはラテン語が用いられてきた︒ニュートンも﹃プリソキピア﹄

はラテン語で著わしているが︑﹃光学﹄の方は英語で書かれている︒この本を中心にニュートンの英語の特徴を論

じ︑英語が近代的な国語として確立されて行く過渡期の状況が認れている︒

 第十章﹁英詩にあらわれたニュートン像﹂︒今のわれわれには︑科学と文学は互いに無縁なものとしか映らない︒

しかし︑ニュートンの業績は英文学にも大きな影響を与えている︒科学によって彼がとらえた自然の美しさは同時

に詩人の心をもうったのである︒古くは原子論的自然観をうたったルクレティウスの詩があるが︑自然科学が自然

哲学であったニュートンの時代にはまだ科学と文学の生き生きとした交流のあったことが示されている︒

 第十一章﹁ニュートンの社会思想上の影響﹂︒相対性理論と量子力学が誕生するまで︑ ニュートン力学は人間の

自然観を支配するみごとなまでに完成されたひとつの体系であった︒しかし︑冒頭にも述べたようにそれをニュー

トン自身の自然観と混同できないことを︑両者を対比させて論じてある︒特にラプラスの魔で代表される決定論的

自然観の誕生が︑この問題を考える上で重要であることが指摘されている︒もしも︑今の世の中にニュートンが生

き返ったとしたら︑自分の名前が冠せられた力学を果してどこまで理解するのだろうかという問題を常に頭に置い

て︑科学史を考えねばならないということであろう︒

 さて︑光の中につつまれたニュートンを見慣れているわれわれにとって︑錬金術や精神障害︑ ﹃聖書﹄研究やピ

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タゴラスの数理的神秘主義の影響といった影の部分には少なからず好奇心を覚えることは否定できない︒しかし︑

だからといって本書の扱かいは︑いわゆる暴露的な意味あいを持つわけではない︒ 〃ニュートンは︑彗星のように

現われて人類に知的大光明をもたらした不世出の天才のようであるけれども︑また︑古代︑中世︑ルネサンスの思

想や学問からも多くのものを受け継ぐことなしにそれをなすことはできなかった ︵一頁︶ことを明示しているの

である︒ ︑1ーミ黛という簡潔な式の背後には︑これだけの混沌が渦巻いていたことを教えている︒

 最後に欲をいうならば︑ニュートンの数学についても一章を設けてほしかった︒微積分法の発見に関するライプ

ニッツとの論争︑力学体系の構築に果した数学の役割などもニュートンの思想を知る上で重要な位置を占めるもの

と思うからである︒

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