アメリカ行政法における裁量基準・解釈基準
佐 伯 祐 二
はじめに
Ⅰ 行政手続法の規定およびその他の前提
Ⅱ Policy Statementに関する裁判例
Ⅲ Interpretive Ruleに関する裁判例 おわりに
はじめに
本稿は、わが講学上の行政規則に属する裁量基準、解釈基準との対比を念 頭に置きつつ、これらに概ね対応する合衆国(連邦)行政法上の方針表明
(policy statementま た は
statement of policy)、 解 釈 規 則(interpretive
rule)をめぐる近年の裁判例を分析することを目的とする
(1)。対照の過程では、行政立法手続に関する日米の格差の他、わが行政指導指針の策定に類似した 作用(2)への裁判例の応接や、規則に関わる信頼保護のあり方など、日本の論者 にとっても興味深い現象が見られるであろう。
(1)常岡孝好「解釈規則(interpretive rule)について」塩野古稀『行政法の発展と変革 上巻』
(2001)513頁以下所収は、解釈規則に関する学説を中心に、rule分類の意義を詳細に検討 している。
(2)Ⅱで述べるように、裁判例に現れるのは、個人または個別事業者を相手方とした指導事案 ではなく、一つの業界全体等に適用される指針の策定に関わる事案である。この日本との 相 違 を、 食 品 医 薬 品 庁 の 定 め る 指 針 に 即 し て 指 摘 す る 論 考 と し て、Nakagawa, Administrative Informality in Japan, 52 Admin. L. Rev. 175, 207-08 (2000); Rakoff, The Choice Between Formal and Informal Modes of Administrative Regulation, 52 Admin. L.
Rev. 159, 168-69 (2000).
Ⅰ 行政手続法の規定およびその他の前提
⑴ 行政手続法(Administrative Procedure Act ――以下、APA)の行政立
法手続条項(5 U.S.C.§553)は、若干の字句の修正を除き、1946年の制定 以来、改正されていない。同法にいう規則(rule)は、「行政機関による表 明であって、一般的に……適用され……将来効を有し、法または政策……を 施行、解釈または規定するもの」(5 U.S.C.§551 (4))と定義されており(3)、そ の範囲は相当に広い。様々な規則のうち、理論上、わが法規命令に対応する、法律の個別または一般的な委任に基づく立法規則(legislative rule)のカテ ゴリーは存在するが(APAの文言上は、実体規則(substantive rule)
と呼
ばれる)、日本法との関わりでまず留意すべき点は、わが省令・規則に相当 する、連邦行政機関に横断的・共通的な法令形式が存在しないことである。言い換えると、例えば省令や委員会規則であれば原則として意見公募手続の 適用があるというような、形式に着目した整理は、
APA
上採用されていない。既によく紹介されているように(4)、APA上、①立法規則の制定・改廃には、
大要、ⅰ連邦公報(5)による規則案の公示、ⅱ意見書等の提出の機会、ⅲ根拠と 目的に関する一般的説明を付記した規則の公示、から成る事前手続が原則と して要求される(notice and comment手続と呼ばれることから、以下、NC 手続と略称する)。これに対し、②その規則が方針表明または解釈規則に該 当する場合には、公表要求は及ぶものの(5 U.S.C.§552(a)(1)(D)
,
(a)(2)(B))、その制定・改廃に
NC
手続は適用されない(Id.§553(b)(A))。そ こで、他の適用除外要件を措くと、立法(実体)規則か、方針表明または解 釈規則か、このどちらに分類されるかにより、個々の規則に関し、NC手続(3)この定義が、実害はないものの大雑把で不完全であることについては、Levin, The Case for (Finally) Fixing the APA’s Definition of “Rule”, 56 Admin.L.Rev.1078 (2004)を参照。
(4)例えば、常岡孝好『パブリック・コメントと参加権』119~128、144~145頁(2006)、野 口貴公美『行政立法手続の研究』103~105頁(2008)を参照。
(5)連邦公報 (Federal Register) は、日本の官報と異なり法律の制定・改廃を登載せず、行政 機関の規則案・規則や大統領命令等を公示している。
の要否が決まる。しかし、これら三者がそれぞれ何を指すのか、APAには 定義規定がない。
このような定義上の不備も手伝って、ある規則が三者のどれに該当するの か、実際には判定困難な場合が少なくない、と言われる(6)。広範にわたる諸種 の規則に関し、連邦裁判所が個別に判断する結果、例えば、殺虫剤の安全性 審査において人体実験データを考慮することを当面停止する旨の報道向け文 書を環境保護庁が公表したところ、この文書の内容が性質上立法規則に当た るのに
NC
手続が行われていない違法がある、と判示された事件さえある(7)。 裁判例に現れる規則の形式、内容・性質は多様であり、個別具体の分類につ いては、行政機関と裁判所の間でしばしば見解が分かれている。立法規則と 方針表明、解釈規則の区分に関する適切な最高裁判例が乏しいことも、この ような不安定さの一因である(8)。⑵ APA
の定めが不完全であっても、裁判例の展開は長らく見られなかっ たが、この20年余りは、NC手続欠落の主張をめぐる裁判例が少なくない。この現象は、ほぼ異論なく、
NC
手続の「硬直化」と関係があるとされている。「硬直化」(“ossification”:直訳では「骨化」)は、元来、生理学の用語であ るが(9)、1990年代以降、行政法のキーワードに加えられており、困難な科学
(6)Franklin, Legislative Rules, Non-legislative Rules, and Perils of Short Cut, 120 Yale L.J.
276,286-87 (2010); American Mining Congress v. Mine Safety & Health Admin., 995 F.2d 1106, 1108-09 (D.C.Cir.1993). 裁判例が、各事案のruleを政策表明と解釈規則のどちらか とする判断自体、合理的な異論の余地をはらみうる。
(7)CropLife America v. EPA, 329 F.3d 876 (D.C. Cir.2003). 連邦の本局部長クラスの機関が事業 者に発した一般的通知文書について同趣旨の判示をなした事例として、The Coalition for Common Sense in Government Procurement v. Secretary of Veterans Affairs, 464 F.3d 1306, 1311-12 (Fed.Cir. 2006)を参照。
(8)R. Cass, C. Diver, J. Beermann & J. Freeman, Administrative Law 490-91 (6th ed. 2011). 後 述のように、この分野で参照される裁判例の大半は、控訴裁判所(特に、首都のD.C.
Circuit)のものである。Manning, Nonlegislative Rules, 72 Geo. Wash. L. Rev. 893 (2004).
(9)ossificationの原義は、「骨の自然的な形成過程」である。Comment, Outfoxing Alaska Hunters, 62 Am.U.L.Rev.167,169 (2012). NC手続実務が、諸法令と裁判例の集積により漸
的データ評価を要し利害対立が激しい分野、例えば環境保護、労働者・消費 者安全の保護に関わり、NC手続が数年以上遅延して立法規則の制定・改正 を阻害している、という状況を指す(10)。
「硬直化」の直接の原因としては、①立法規則に関して、近時の大統領命 令が行政内部統制の手続を強化していること、②
APA
とは別の法律が付加 的な行政内部手続を定める諸例もあること、および③裁判所がAPA
のNC
手続規定を拡張的に解釈し、または実体的な裁量濫用ありとして立法規則を 違法と判示する例が増加したため、行政機関が将来の敗訴を免れるようにと、規則案の公示や規則の根拠付けの説明文書が大部にわたるまでに、手続実務 を増強してきたこと、が挙げられる(11)。「硬直化」の原因は、さらに遡れば、
規制の実体的強化に抗する事業者団体と、逆に環境保護や消費者保護等を求 める団体とが、共に手続の強化を求めたためだ、という(12)。
1960年代末までの
NC
手続は、行政実務上簡便であり、これに関するAPA
違反は実際上考えにくいほどであった、という(13)。1970年前後には、わ が国でも知られる有力説が、効率的なNC
手続を称揚し、立法規則の制定拡次煩瑣の度合いを高めてきたことの比喩として、環境保護庁の元次官により1990年のシン ポジウム発言で用いられたのが、最初の用語例だという。McGarity, Some Thoughts on
“Deossifying” the Rulemaking Process, 41 Duke L. J. 1385, 1386 n.4 (1992).
(10)McGarity, supra note 9, at 1387-90; Pierce, Seven Ways to Deossify Agency Rulemaking, 47 Admin.L.Rev.59, 62 (1995); Pierce, Rulemaking Ossification is Real, 80 Geo.Wash.
L.Rev.1493, 1493-95 (2012). Strauss, The Rulemaking Continuum, 41 Duke L.J. 1463,1471
(1992)は、「硬直化」が見られるのは限られた領域であるとの評価を示す。
(11)Franklin, supra note 6, at 283-84 ; Johnson, Good Guidance, Good Grief! 72 Mo. L. Rev.
695,700-01 (2007); McGarity, supra note 9, at 1396-1420,1426-36; Pierce, Seven Ways, supra note 10, at 62-65. 邦文では、筑紫圭一「米国における行政立法の裁量論(一)~(四・
完)」自治研究86巻8号~11号(2010)が、本文の①~③の状況を詳細に分析している。①・
②の手続は、国の機関内部のものであり、その違背が訴訟において違法事由となることが 予定されておらず、裁判例に現れることがないので、以下では取り上げない。
(12)McGarity, supra note 9, at 1397. なお Strauss, From Expertise to Politics: The Transformation of American Rulemaking, 31 Wake Forest.L.Rev.745, 777 (1996)は、規 制を抑制するためには実体法の改正よりも手続強化のほうが政治家にとって容易である旨 述べる。
(13)G. Lawson, Federal Administrative Law 306-07 (6th ed. 2013).
充により個別事案の行政裁量統制を強化すべき旨説いていた(14)。しかし、今世 紀に至ると、日本その他の国々に
NC
手続のアイディアが広められているそ のときに、合衆国の行政立法実務は手続の負担過重のために危うくなってい る、との皮肉さえ聞かれる(15)。以上のような事情が、立法規則に代え、方針表明または解釈規則としての 基準策定を行政機関に促す誘因となっている、という(16)。
Ⅱ Policy Statement に関する裁判例
⑴ 方針表明(以下、PS
と略記する)に関する裁判例のリーディングケー スは、Pacific Gas and Electric Co. v. FPC, 506 F.2d 33 (D.C.Cir.1974)であ
(17)る
。1973年の石油危機に伴う全米的ガス供給逼迫に際し、供給条件の見直 しは不可避であった。そこで、連邦動力委員会は、Statement of Policyと題 する文書を連邦公報に掲載し、工業用等の大口契約よりも家庭用、商業用、
農業用の供給を優先すべき旨の方針を示し、特段の事情がない限り、この方 針に従った供給制限計画を含む料金表の改訂届出をなすよう、ガス会社一般 に求めた。天然ガス法により、料金表の届出義務がそれらの会社に課されて おり、届け出られた料金が同法の要件(公正・合理性等)を充たすかどうか については、州・自治体等の申立てによりまたは職権で委員会が審査をなし
(14)K. Davis, Discretionary Justice 54-74 (1969); Wright, Beyond Discretionary Justice, 81
Yale L.Rev.575, 576-77 (1972). 但し前者は、あわせて、方針表明、解釈規則の策定による
裁量統制の進展も推奨していた。Id. at 74-77, 102-03.
(15)Lubbers, The Transformation of the U.S. Rulemaking Process, 34 Ohio N.U.L.Rev. 469, 471-72 (2008).
(16)J. Mashaw, R. Merrill & P. Shane et. al., Administrative Law, The American Public Law System 758 (7th ed.2014); Funk, A Primer on Nonlegislative Rules, 53 Admin. L. Rev.
1321, 1332-33 (2001).
(17)Anthony & Codevilla, Pro-Ossification: A Harder Look at Agency Policy Statements, 31 Wake Forest L. Rev. 667, 680 (1996); Funk, supra note 16, at1332; J. Lubbers, A Guide to Federal Agency Rulemaking 69 (5th ed. 2012).
変更命令等を発する権限が留保されていた。優先順位が低く、主な供給削減 の対象となる電力会社等が原告となり、NC手続の欠如等の違法事由を主張 して、問題の
PS
の司法審査を求めた。判示は、次のようなものである。「PSとは、行政機関が将来の立法規則制定または処分において実施するこ とを希望している方針の内容を公衆に表明するものにすぎない。……[その 利点としては]行政機関が初めに抱く見解が秘密とされず、具体的な適用に 十分先立って公表されることになる。加えて、
PS
が公表されることにより、規制を受ける業界における長期的な計画設定を助け、全米的な関心事につい て統一的な扱いを促進する。……PSは、将来に向けての暫定的意図の表明 である。行政機関は、これを個別の事例に適用する場合、方針表明がなされ ていないときと全く同様にその方針の妥当性を示す用意がなければならな い」(Id. at 38.)。個別の供給削減の適否について、「原告には、将来、前提 となる
PS
の内容の違法を主張する機会がある。特定の状況の下でPS
の適 用が失当である旨の主張もまた可能である。……PSの示す優先順位は、そ れとは異なる処遇が証拠に基づいて認められ得る、安全な出発点である」(Id.at 40-41.)。本件の文書は「立法規則としての法的拘束力を有しない」(Id.
at 43.)ものであり、NC
手続を要しない。本件PS
の実体的適否については事案の成熟性を欠き、本案審理ができない(Id. at 48-49.)、と。
PSに当たる基準に関し、行政活動への拘束性の弱さを言う裁判例は、他 にも見られる。
Farrell v. Department of Interior, 314 F.3d 584 (Fed. Cir. 2002)は、管理 職の国立公園警察官に対する降任処分が争われた事例である。原告は、同僚 らをモデルにして人種的および性的に揶揄する寓話を創作し、そのコピーを 職場の文書ボックスに筆名で配布していた。
本判決によると、国立公園局の「不利益処分ガイド」別表の処分量定表 のうち、本件の事案に最も良く適合するのは、「上司や部下その他の同僚に 関する虚偽、悪意または著しく無責任の表現をなす行為」の類型であり、こ れについては原告のように初回の違反の場合、5日の停職を上限とする旨規
定されている。しかし、「法律と関連規則[人事管理庁および内務省の指令]
のどれも、処分の重さを固定していない」(Id. at 590.)。「行政機関の意図を 判定する主な要素は、表明の文言が行政機関自身への拘束性を予定している ものかどうか、である。……本件では、問題の文書の名称は『ガイド』であ る。……義務的な量定選択の文言は含まれていない」(Id. at 591-92.)。量定 表の前文も、具体的な処分の重さを「本ガイドの指示とは異なるものとする ことができる」と注記している(Id. at 592.)。管理職として不適格な行為に ついて、処分の選択が著しく均衡を失しているとは言えず、本件処分の審査 請求棄却は適法である(Id. at 594.)、と。
Consolidated Edison Co. of New York v. FERC, 315 F.3d 316 (D.C. Cir.
2003)では、ガスのパイプラインを利用する事業者が、利用料金値上げ認 可処分の司法審査を求めた。連邦エネルギー規制委員会は、処分に対する異 議申立ての係属中に、将来の料金認可に関する
PS
の改訂を行ったが、旧PS
に従って処分を維持した(パイプライン会社による新規の敷設費用に関 し、旧PS
は一定の限度で利用者全般の料金に転嫁を認めていたが、新PS
は、新規敷設の効用による正当化が、既存利用者らに及ぶ経済的不利益を凌駕す るのでなければ、転嫁のための値上げ認可をしない方針を示していた)。
判決によると、「新
PS
を係属中の案件に適用することを命じる法理は存 在しない。遡及適用は可能であるが、義務ではない。行政機関は、係属中の 案件を処理するために既存の方針を適用することができる。ただ、既存の方 針の内容が裁量濫用に当たらないこと、処分の理由について合理的な説明が あることは求められる」(Id. at 319.)。判決は続いて、審決例の変更よりもPS
の改訂のほうが、より柔軟に行えるという。すなわち、法律が許容する 範囲内で審決例が変更された場合、「新しい審決例のルールは、その審決手 続の当事者に対して遡及的に適用可能であるが、そのためには、新ルールの 適否に関して証拠を提出する機会が当事者に与えられること……、影響を受 ける当事者が、旧来の確立した審決例を信頼したために不相当な不利益を被ることのないことが、共に必要である」(Id. at 323.)(18)。「しかし、法的効力を 持つことを予定しない
PS
を行政機関が改訂しても、PSは、どの当事者も 拘束せず、先例的効果も持たないものである」(Id. at 323-24.)。「行政機関は、係属中の案件に旧
PS
を適用し新PS
には拠らない合理的理由を示せば足り る」(Id. at 324.)。以上の観点から、認可処分は適法である、と。PSは、このように、法律が政策形成・変更の裁量を認める範囲内で不断 の改訂を受けうる点でも、裁量行使の態様を固定化しないものとされている。
⑵ それでは、行政機関が PS
として定めた文書が上記のような扱いをされ ていない場合、NC手続なしの制定および制定後の運用は、裁判例上、どの ように評価されているか。American Bus Association v. United States, 627 F.2d 525 (D.C.Cir. 1980)
は、州際通商委員会が
PS
と称して連邦公報に掲載した文書(合衆国・カナ ダ間の運送事業認可に関し、従前のPS
を改訂する規制緩和基準)が立法規 則に当たるとして、裁判所がこれを取り消した事例である。本件では、既存 の運送事業者とその団体が、当該基準の制定にはAPA
上NC
手続が必要で あるのにこれが行われていない違法がある、と主張して基準の司法審査を求 めた。本判決は、この主張を容れ、次のようにいう。PSと称する文書が意 思決定権限を有する行政機関の裁量を拘束しないものかどうかを判定するに 当たり、裁判例は、「その文書の文言と制定の経緯を検討してきた」(Id. at 530.)。Pacific Gas判決も、その事案のPS
が画一的・拘束的ではなく将来 のガイドである旨述べている(Id.)。しかし本件の文書は、「委員会は……できる(may)」ではなく「……するものとする(will)」と記しており、そ の想定される効果は「裁量の制限ではなく、廃止である」。問題の
PS
の公 示後に下された委員会審決2件における拘束的運用は、この点を例証してい(18)「判例の不遡及的変更」(田中英夫『法形成過程』(1987) 第4論文(初出1966))の問題と パラレルな、行政の審決例変更に対する信頼保護上の制限については、後掲注46および対 応する本文で再度触れる。
(19)以下本文に示す他に、CNI v. Young, 818 F.2d 943 (D.C.Cir. 1987)(per curium)、General Electric Co. v. EPA, 290 F.3d 377 (D.C. Cir.2002)、および前掲注7のCropLife America判決 がある。
る(Id. at 532.)、と。
同種の判示は、以後、繰り返されることになる(19)。McLouth Steel Products
Corp. v. Thomas,
838 F.2d 1317 (D.C.Cir. 1988)(per curiam)は、法令に基
づき危険物質リストに指定された種別の廃棄物を産出する製鉄会社が、個別 の危険性欠如を理由に関連法令上の規制を免除されるための申請を拒否さ れ、その拒否処分の司法審査を求めた事例である。判決は処分を取り消して、やり直しのため事案を環境保護庁に差し戻した。同庁は、製鉄所から鉛・カ ドミウムが地下水に浸出する可能性を評価するに当たり、汚染物質拡散を予 測する算定式モデルに依拠しているが、そのモデルの策定は、NC手続を経 ていない。すなわち、免除の判断基準に関する立法規則案が連邦公報で公示 された際、モデルが利用される旨の記述はあったが、拘束的な内容を持つモ デルの採用は、案に明示されていなかった(Id. at 1322.)。
判決によると、「環境保護庁が算定式を適用してきたやり方は、モデルの 拘束的性格を確認させる」。約100件の申請処理例のうち、モデルの予測と 異なる判断がされたのは4件であり、かつ、その例でも、モデルの適用修正 は極めて限られている(Id. at 1321.)。NC手続が全く欠落した本件では、
その手続的違法が処分に及ぼした具体的影響いかんを問うのは失当である
(Id. at 1323-24.)。処分庁は、差戻後、NC手続を行うのでなければ、「以後、
モデルを非拘束的な方針として扱うこともできる。……この場合、処分庁は、
個々の免除申請案件において真に裁量権を行使し……モデルの個別適用の適 否を検討する他、モデルの使用一般についてもオープンに異議を検討しなけ ればならない。」すなわち、環境保護庁は「[原告の]免除申請について、問 題の検討がオープンであることを完全に認めた上で再考しなければならな い」(Id. at 1324-25.)。
United States Telephone Association v. FCC, 28 F.3d 1232 (D.C.Cir.1994)
は、連邦通信委員会が通信法令違反の行為についてなしうる民事制裁金賦課 処分の額に関する量定表が、同委員会の主張する
PS
には当たらず、NC手 続を経て公示されるべきであった、と判示して、これを取り消した。その表 は、事業者の類型と違反類型の組合せごとに、通信法が定める上限額の範囲 で標準何十%の額とするのか、また、加重または軽減すべき事情に応じてど の程度標準から上下させるのかについて、一覧を定めていた。原告は、放送・ケーブルテレビ事業者と比べて一律4倍の標準額を設定された、電話事業者 らである。
裁判所は、量定表が個々の裁量行使の余地を明記していることに触れなが ら、これが適法の評価にはつながらないことをいう。「これほど包括的な制 裁判断枠組の公表を望んだ行政機関が、裁量の制約のために用いる意図を持 たなかったとは考えにくい。この表は、典型的な
PS、すなわち、特定の規
制課題について行政機関が現在有している立場を示す文書とは全く異なる」(Id. at 1234.)。本件の場合、委員会は、300余りの案件のうち8件を量定表 の適用に拠らずに処理しているが、それも、4件は審判訴追を控えた事例で あり、3件はマイナーな修正に過ぎず、残るは8分の1に減額の1件だけで ある(Id. at 1234-35.)。加えて、同一の違反類型でも事業免許の類型別に異 なる額の賦課を通信法が授権しているかどうかは、本件では未成熟の法律問 題である。委員会は、自らの見解を
NC
手続に付した上で、公衆に、また、必要があれば裁判所に対してルールの正当化をなす用意をしなければならな い(Id. at 1236.)。
Chamber of Commerce v. Department of Labor, 174 F.3d 206 (D.C.Cir.
1999)
では、労働安全衛生庁が労働安全衛生法の執行のために定めた「協力
的コンプライアンス計画」が違法とされた。この計画により、全米で危険度 の高い約1万2,500の重点的立入調査対象事業所が選定され、そのうち同計 画に任意で参加する事業所は、法令よりも厳しい安全確保措置を採る義務を 引き受ける反面、調査を受ける確率を70~90%減じることとされた。事業 者団体の訴え提起を受け、被告は、APA上、同計画はNC
手続要件が適用除外される手続規則(procedural rule)または
PS
に当たる、と主張した。本判決は、純粋な手続でも結果に影響を及ぼしうるので、手続と実体の二 区分はしばしば困難であるから、公衆参加の必要性と行政の内部的運営の利 益との衡量を考慮に入れつつ
NC
手続の要否を判断する、という(Id. at 211.)。本件の計画は、少なくとも、既存の法令を超えて事業者に義務を課 す限りで、調査に伴う不便を超える負担を課すものであり、実体的要素を有 する(Id. at 211-12.)。多数の使用者らの安全実務に計画が確実に影響を及 ぼす以上、「労働安全衛生庁が方針を定める前に公衆のコメントを良く知り、これに応答するようにすることには、高度の価値がある。……法的効力がな いことは、ほとんど重視するに足りない」。調査の負担軽減により、実際上、
事業者には相当な影響力(substantial impact)が及ぶ。手続規則として、
NC
手続の欠落を正当化することはできない(Id. at 212.)。また、本件の計 画は、参加しない事業者には立入調査を順次実施する旨述べており、PSと もいえない。これは、将来に向けての暫定的意図の表明ではなく、既決の判 断の通知であり、労働安全衛生庁自身、現場の検査官に裁量の余地がないこ とを認めている(Id. at 213.)。本判決は、以上のように述べて、本計画を取 り消し、NC手続を踏まない限り再度の策定は認められない旨判示した。行政により
PS
と性格付けられながら、事実上の拘束性を持つ文書に関し、最も厳しく批判する判決は、Appalachian Power Co. v. EPA, 208 F.3d 1015
(D.C.Cir. 2000)である。清浄大気法により、環境保護庁の監督の下で州ま たは地方公共団体が、汚染物質排出源となる工場等の操業許可を行うことと され、その許可要件の主要部分は同法の委任に基づく立法規則で定められて いるところ、本件の
PS
文書は、連邦法・州法上事業者が負う排出モニター 義務よりも厳格な義務の履行を、許可要件に含めて記載していたことから、許可を受けるべき事業者らが、その司法審査を求めた。環境保護庁の局長ク ラスの2機関が連名で作成し、Guidanceと称した本件文書に関し、判決は 次のようにいう。
「本件に見るのは、お馴染みの現象である。まず、[連邦]議会が文言の不
明確な法律を可決する。次に[連邦]行政機関が、広汎で外延の定かでない 用語を含む立法規則……を制定する。年月を経るにつれ、行政機関は、立法 規則の命じるところを説明、解釈、定義、さらには往々拡張する内容の通知、
ガイダンス、メモランダムを発する。……立法規則が被規制者に何を要求し ているのかについて、行政機関が次々に具体化を図り、規則中の数個の言葉 が何百ページかの文章を生み出すことがある。案の公示とコメント、公衆の 参加、連邦公報での制定公示または連邦行政規則集(20)への登載を抜きに、法が 定められる。インターネットの登場のおかげで、行政機関は、文書の周知の ために正式の広報手段を取る必要もない。新しいガイダンス、メモランダム、
PS
をウェブサイトに掲示すれば、利害関係のある人々に報せることができ る」(Id. at 1020.)。「行政機関が、本庁の作成した文書をもって現場で支配 的な意味を持たせ、立法規則と同様な扱いをし、……州が文書の条件に従わ なければ[連邦]行政機関が州の許可処分を取り消すはずと私人や州の機関 に信じさせるのなら、その文書は、実際上いかなる意味でも『拘束力』を有 する」(Id. at 1021.)。被告は、「本文書に記載の方針は、専らガイダンスと して意図されており本庁の最終判断を示すものではないため、何人もこれに 依拠して権利を主張することはできない。」との但書きを引用するが、これ は10年近く使われ続けている定型的例文にすぎない。「『権利』は創出されな いかもしれないが、州の規制機関と被規制者が負う『義務』は確実に創出さ れている。何にせよ、最後の但書きを除き、本件ガイダンスの全体が、帝政 ロシアの勅令のように読める」(Id. at 1022-23.)、と。本判決は、環境保護 庁がNC
手続を経ずに立法規則を改正したのと等しいとして、本件ガイダン ス文書全体を取り消した(Id. at 1028.)。⑶ 以上⑵の裁判例について、若干のコメントを加えておきたい。
(20)連邦行政規則集(Code of Federal Regulations)には、「一般的に適用され法的効果を有 する」文書であって連邦公報に公示されたもの、すなわち立法規則が、体系的に登載され なければならない(44 U.S.C.§ 1510(a),(b))。但し、立法規則でない文書を登載するこ とも妨げられていない。J. Manning & M. Stephenson, infra note 49, at 656.
第一に、学説上は、PSにより行政裁量の適正な制約が期待できるという 積極的意義を挙げる見解が有力である(21)が、上記の裁判例は、むしろ事実上の 画一的拘束性の危険を強調する学説(22)に同調している。ただ、これは、各事案の 内容に規定されたものであろう。Professionals and Patients for Customized
Care v. Shalala, 56 F.3d
5928 (5th Cir.1995)は、食品医薬品庁の検査官が処
分手続の開始を求めるか否かの判断基準たるPS
に関し、職員がこれを重視 して参照するのは当然であるとし、「すべてPS
は裁量を一定の限度で方向 付ける(channel)。それこそがPS
の目的である。……食品医薬品庁の裁量 を全部とまでいかなくとも大半、実効的に排除している[かどうかが問題で ある。]」(Id. at 600.)、と述べている。この点は、⑵の裁判例と矛盾してい ない。もっとも、文言と運用の固さ、ひいては被規制者などの私人への事実 上の拘束がどの程度に至れば違法となるのかは、事案により線引きの困難な 問題と指摘されている(23)。第二に、日本法の裁量基準の事例であれば、基準自体またはその個別的適 用の適法性が問題とされるところ、⑵の裁判例では、直接には、基準制定手 続の違法が問われている。最初の
American Bus Association
からChamber
of Commerce
までの四判決は、手続的違法を挙げるが、各PS
の実体的適法性いかんについては判断していない。最後の
Appalachian Power
判決の事 案では、日本法であれば、審査基準の内容が上位の法令に反するという議論 になろうが、この判決は、そのような実体的違法の言い換えとして、NC手 続の欠落をもって違法事由としている(24)。(21)Levin, Nonlegislative Rules and the Administrative Open Mind, 41 Duke L. J.1497,1499- 1502(1992). Pierce, infra note 47, at 426 も、行政機関のトップがPSと異なる扱いをな す裁量権を留保している限り、PSによる裁量の制約はむしろ望ましいと述べる。
(22)Anthony, Interpretive Rules, Policy Statements, Guidances, Manuals, and the Like ― Should Federal Agencies Use Them to Bind the Public?, 41 Duke L.J. 1311, 1359-62
(1992). Appalachian Power, 208 F.3d at 1021 に、この学説の肯定的引用がある。
(23)P. Strauss, T. Rakoff, C. Farina & G. Metzger, Gellhorn & Byse’s Administrative Law 192-93
(11th ed. 2011); Gersen, Legislative Rules Revisited, 74 U. Chi. L. Rev. 1705, 1719 (2007).
(24)裁判例上、同様の言い換え方は、解釈規則の違法判断の場合にも見られる。後掲注32お
第三に、裁判例のように、行政が
PS
と称して策定した基準に関し、その 運用実績から見て固い拘束性ありとし、違法判断を導くと、APAの本来の 前提 ―― ある規則の制定に先立ち、NC手続の要否は客観的に定まり、行 政機関はこれに従うという前提(25)が ―― 一部働かなくなってしまう(26)。 第四に、前記⑵とはニュアンスの異なる裁判例もある。Center for AutoSafety v. NHTSA, 452 F.3d 798
(D.C. Cir.2006)で攻撃されたのは、自動車メ
ーカーが行う無償リコール修理について地理的限定を容認する(例えば塩害 による支障であれば融雪剤を多用する諸州に実施を限定できる旨の)方針を メーカー等に通知した文書である。消費者保護団体は、これがNC
手続を欠 く実質上の立法規則だと主張したが、本判決は、この方針に事業者が事実上 従い、業界標準となっていても、それは文書の法的効果ではないことを指摘 し(Id. at 811.)、また、一般に裁量の余地を残した本件文書は、行政機関の 最終的行為とはいえず、訴訟による直接の攻撃対象とはならない旨判示した(27)(Id. at 809-10.)。
第五に、上記
Center for Auto Safety
判決を含む一部の例は、それぞれの 事件で争われたPS
はNC
手続を要しないものであるとしながら、これを直 接に攻撃する訴えは対象の最終性(finality)または成熟性(ripeness) 欠如
により不適法である旨判示している(28)。これらの訴訟要件が充足するのは、PS
と称される基準がほぼ画一的に運用されている場合であるから、それは⑵の裁判例に従えば、本案において NC
手続の未実施が違法と判示されるとよび対応する本文を参照。
(25)Attorney General’s Manual on the Administrative Procedure Act 30 (1947).
(26)G. Lawson, supra note 13, at 390. これに対し、American Hospital Association v. Bowen, 834 F.2d 1037,1056 (D.C.Cir. 1987) は、理想的にはともかく、裁判所としては運用に関す る事実の蓄積を待って判断するほうが賢明である、という。
(27)Gellhorn & Byse’s, supra note 23, at 1378 は、先述のAppalachian Power判決が個別の文 脈に応じて最終性いかんを判断したのに対し、Center for Auto Safety 判決は一般的に消極 の判断をしている、と述べる。
(28)Utility Air Regulatory Group v. EPA, 320 F.3d 272,278 (D.C. Cir.2003); NRDC v. EPA, 643 F.3d 311, 320-21 (D.C. Cir.2011).
きでもある(29)。
Ⅲ Interpretive Rule に関する裁判例
⑴ 適正手続(due process)に由来する処分要件の明確性確保と解釈規則
処分の要件が法律と立法規則で定められていても、それだけでは意義が不 明確な場合において、解釈規則(以下、IRと略記する)による補充が、憲 法上の適正手続からの類推により要請されることがある。General ElectricCo. v. EPA, 53 F.3d
1324 (D.C.Cir. 1995)は、その一例である。本件では、PCB
含有廃棄物処理に関する有毒物質規制法令違反として、環境保護庁に より2万5,000ドルの民事制裁金納付命令を受けた大手電器事業者が、その 命令を争った。同庁の立法規則は、PCB洗浄に用いた溶剤を安全に焼却処 理することを事業者に義務付けているところ、General Electric社は、最終 段階で残る高濃度溶液を焼却するが、中間段階の低濃度溶液は蒸留により精 製して洗浄に再利用する手順を採っていた。本件の処分理由は、一度洗浄に 用いた溶剤を直ちに焼却処理しないことが同規則に違反するという点にあ る。しかし、規則の関連する諸規定は、事業者に対し、一方で汚染溶剤を直 ちに焼却することを求めながら、他方では、PCB含有物質を廃棄目的のた めに処理することを認めていたので、後者の定めからは、安全性が保たれて いる限り再利用プロセスの実施は違反とならない、と解する余地があった。本判決は、立法規則を制定した行政機関がその規則に加える解釈について 裁判所が裁量を認める判例(30)に従い、技術的に複雑な法律・立法規則の解釈に は行政の専門的判断への尊重が働き、被告の解釈は許容範囲であって適法、
と述べる(Id. at 1327-28.)。そこで、「環境保護庁が
GE
社に規則の遵守命(29)J. Mashaw, R. Merrill & P. Shane, supra note 16, at 666は、PSに関する最終性(finality)
の判断はNC手続上の違法判断と重なることを指摘する。
(30)法令解釈について行政裁量がどの限度で認められるのか、近時、判例の蓄積があるが、
後掲注37、38で触れる他、本稿では立ち入る余裕がない。
令を発しただけであったのなら、本件の判示は終わりである。しかし同庁は、
規則違反の判断に加えて制裁金を課している。……適正手続は、人が財産を 奪われるに先立って公正な告知(notice)を要求する」(Id. at 1328.)。すな わち、何が法により禁止または要求される行為か、適用に先だって私人に告 知することが適正手続上必要であるという法理は、刑事制裁を超え、行政法 上の一般原則として、制裁的処分にも類推適用される。蒸留再利用禁止の警 告・指導が事業者に対してなされていなかった本件の事案では、行政機関が 発した立法規則およびその他の公的言明から行為の禁止を誠実に読み取れた かどうか、が問われなければならない(Id. at 1329.)。「原告による規則解釈 も合理的であり、行政機関自身が規則の解釈を断定するのに難渋した本件で は、規制を受ける者は、行政による最終的解釈を『告知されていた(on
notice)』とは言えず、従って制裁を受けるいわれはない」(Id. at 1334.)、と。
適正手続に由来する「公正な告知」の法理は、車のリコール実施命令と民 事制裁金の両者の執行判決を求めて行政が提訴した事例である、United
States v. Chrysler, 158 F.3d 1350
(D.C.Cir. 1998)でも適用されている。交通 車両安全庁は、シートベルトを固定する鋲に関する立法規則上の強度基準が 満たされていないと判断したのであるが、人間の骨盤に見立てた金属器具を シートのどの位置に設定して強度試験をするのか、立法規則には定めがなく、行政側と事業者側の試験結果に食い違いが生じていた。同庁によるこの点の 解釈は、原審の審理段階でようやく示されており、IRによる明確化は、本 件でもなされていなかった。本判決は、制裁金に劣らず多額の金銭負担を要 するリコールも、十分に厳しい制裁と評価でき、やはり「公正な告知」が要 求されるとし(Id. at 1355.)、行政の請求はいずれも失当と判示した。この他、
Trinity Broadcasting of Florida v. FCC, 211 F.3d 618, 628-32
(D.C.Cir. 2000)は、連邦通信委員会への不実の申告を原因とする放送局免許更新拒否処分を も制裁として理解し、処分に関する不明確な立法規則の下、「公正な告知」、
言い換えると、誠実に認識可能な要件解釈の公表による告知はなされていな かった、と判示している。
これらの裁判例は、制裁(sanctionまたは
punishment)の観念を未だ厳
密に検討していないが、処分の原因となる私人の行為に先立ち、IRによる 要件の明確化がなかった点を、違法事由の一つとしている(31)。⑵ IR の適法要件その1 ―― 上位の法令から導出可能な解釈か
それでは、制定された
IR
の適法性は、裁判例上、どのように判断されて いるか。リーディングケースは、American Mining Congress v. Mine Safety& Health Admin., 995 F.2d 1106(D.C.Cir. 1993) である。法律の委任を受け、
NC
手続を経た立法規則により、炭鉱事業者は、その労働者がじん肺等の「診 断を受けた(diagnosed)」ときには、鉱山安全衛生庁に届け出る義務を負っ ている。しかし、この「診断を受けた」とは何を指すのか、立法規則には説 明がない。同庁は、職員と一般市民向けに発行した通知文書(ProgramPolicy Letters)の中で、ILO
が定めた診断基準12段階のうち、9段階相当以上の肺
X
線写真評価が上記の「診断」に該当すると述べ、事業者や労組 らへの周知を行っている。この文書はNC
手続を経ずに発出されていること から、事業者団体が手続の違法ありとして攻撃したのに対し、本判決は、文 書がIR
に当たり、かつ、立法規則の文言と矛盾しないことを理由に、その 主張を退けた。すなわち、まず、裁量の余地が純粋に残されているかどうかは、PSの手 続的適法性に関しては問題となるが、IRと立法規則の区別に関しては問題 とならない(Id. at 1111.)。法律と立法規則だけを根拠に法執行が可能な場 合において、NC手続を要しない
IR
の範囲を制限的に解すれば、行政を場 当たり的(ad hoc)な裁量に任せ、利害関係者に予測を困難にさせる。本件 では、立法規則自体が届出義務を課しており、その執行の根拠に欠けるとこ ろはない。本件の文書の策定に当たり、法律の委任が根拠とされているわけ でもない。さらに、この文書は、関連する立法規則の内容を「事実上改正す(31)Gellhorn & Byse’s, supra note 23, at 201.
るもの(de facto amendment)」として立法的な性質を帯びたルールでもな い。「解釈の対象よりも具体的、詳細な内容を示すからと言って、それが対 象の[事実上の]改正となるわけではない。そうでなければ、立法規則の解 釈は、同じ文言を繰り返すか、不明確な文言を別の不明確な言葉に言い換え る例だけが、適法とされることになろう」(Id. at 1112.)。問題の文書は
IR
であって、立法規則に当たらない、と。American Mining判決は、前述⑴で見た制裁的処分の諸例とは異なり、不 明確な立法規則でも、それ自体で適法な法執行の根拠となりうることを前提 とした上で、
IR
による明確化があることの望ましさをいう。もちろん、立法 規則を解釈するIR
は、その立法規則と矛盾するものであってはならない。本 判決のいう事実上の改正が、IR
と称する文書によってなされた場合、つまり、立法規則と内容上矛盾する
IR
が策定された場合、その文書は、以後の裁判 例により、「[NC]手続の観点から無効な立法的規則(procedurally invalidlegislative rule)」と評されている(Hemp Industries v. Drug Enforcement Admin., 333 F.3d 1082,1091
(9th Cir.2003))(32)。上位の法との整合性の要求とは別に、上位の法から解釈により導くこと のできるルールかどうか、も問題とされる。Hoctor v. Department of
Agriculture, 82 F.3d 165
(7th Cir.1996)は、IRの内容が立法規則の解釈とし ては成立しえないことを理由に、その内容に従った不利益処分(33)を違法とした。動物福祉法は、「[本法の]目的を達成するために適切と思量する規則を発 布する権限」を農務省長官に一般的に授権しており、この委任に基づいて
(32)類似の表現は、既にAmerican Mining, 995 F.2d at1109-10 に現れている。日本法において 同様の現象があれば、解釈の誤りとして実体的違法に数えられるはずだが、ここでも、
NC手続との関わりから、手続的違法の評価がなされている。前掲注24を参照。
(33)法の規定上、ライセンスの停止・取消しや民事制裁金支払命令の処分が可能であるが、
本件で、これらの処分のうちどれが発動されたのかは、判文上、明らかではない。判決文 には、単に“sanctioned”とある。82 F. 3d at 168. なお、本文で後述するように、原告は 当初、行政の職員の助言を受けてフェンスを建てたのであるが、この事実に関わる信頼保 護の問題は、争点となっていない。
NC
手続を経た立法規則は、「屋内外に動物を収容する施設は、構造上堅牢 なものであること、動物を傷害から守りつつ収容するよう維持管理されたも のであることを要する」とだけ規定している。原告Hoctor
氏は、ライオン や虎の類(Big Cats)を育成する施設を建設した際、農務省検査官の助言を 受けて、檻とは別に、施設の外周を取り巻く6フィート(約1.8メートル)のフェンスを設置した。ところが翌年、上記の立法規則の下で、農務省は検 査官に向けた解釈通達たる
IR
を発し、猛獣類には最低8フィートのフェン スを要することとした。原告は、この解釈に従った対応により、立法規則違 反として処分の対象となった。本判決は、8フィート規制が適法な程度に合理的かどうかの問題や(原告 は、期せずして檻から出ていた2頭をやむなく射殺したことがあるが、その 際、動物はフェンスの内側にいたという)、立法規則が構造物の堅固さを要 求しており、施設外への飛越え逃亡の防止に関わるとは読みにくいという問 題を指摘した上で、これらについては判断する必要がない、と述べる。本判 決によると、「[8フィート規制が]IRであるためには、その内容が、合理 的に解釈と呼べる推論過程を通じて立法規則から導かれなければならない」
(Id. at 170.)。確かに、法律・立法規則が透徹して明晰な場合でなければ、
執行の任に当たる行政機関は、解釈を避けることができない。しかし、数値 に依拠するルールは、任意の(arbitrary)選択を示している。「8フィート の外周フェンス規制と、7.5フィート、9フィート、10フィート規制とを対 比して優劣を論じることはできない。確実な収容の義務のためにどの数値が 特に適切か、また、この義務からどの数値が導かれるか、決めることはでき ない」(Id..)。時効の期間の設定が立法的であり、この期間を立法者ならぬ 裁判所が定めることはできないのと同様、「行政機関が任意の選択に依拠し てルールを定める場合、……これらのルールは立法的・実体的であって、立 法者が法律を制定する際の[法案提出・公聴会の]手続に類似した
NC
手続 を経ることが必要である」(Id. at 170-71.)。多数の動物ディーラーが多額の 費用をかけて既存施設の改修を迫られているところ、NC手続は彼らの正当な関心に応えるものである(Id. at 171.)。
本判決は、通達が、8フィート未満のフェンスは「確実な収容」要件を充 たさないと推定されると規定していたなら、被告側に分があったであろう、
とも述べており、
PS
としての適法な書換えと運用の余地を示唆している。「あ るルールが“一律である(flatter)”ほど、法律・立法規則に内在する意味 を忠実に説明したものとは考えにくくなる」(Id at 171.)、と。Catholic Health Initiatives v. Department of HHS, 617 F.3d 490 (D.C.
Cir.2010)は、同じく、IR
とされる規則に従う処分は違法と判示した。高齢者の公的健康保険に関するメディケア法は、「合理的費用」、すなわち「医療 機関が現実に負担した費用のうち、効率的な医療サービスのためには不要と 判断される費用を除くもの」が、保険者により医療機関に支払われる額の算 定の基礎となる旨定める。この「合理的費用」は、立法規則により、メディ ケア医療提供に「必要かつ適切なすべての費用」などと言い換えられている。
争いのない解釈によれば、医療機関が民間保険会社に支払う医療過誤保険料 は、原則として「合理的費用」に含まれるが、所管の省の長官名によるマニ ュアル文書は、この例外を定めた。マニュアル上、医療機関が医療過誤等に 関する保険契約に伴い支払う保険料を「合理的費用」に算入することは、① 病院が設立した内国法人たる保険会社との契約の場合、一般の保険会社と同 等程度の保険料であれば認められるが、②病院が設立した外国法人保険会社 との契約の場合、⒜同保険会社が合衆国債その他の列挙された5種類の低リ スク対象に限って投資を行っていること、⒝1995年10月6日以降は、合衆国 内の著名な証券格付け会社による上位2つの低リスク投資も含まれること、
⒞持株会社への投資は同保険会社の資産額の10%以下に限り低リスクと判 定されること、などの条件を充たすときに限り認められる、とされていた。
原告の病院が設立した保険会社の本拠地はケイマン諸島であり、これらの条 件を充たしていなかったため、原告は保険料の費用算入を認められなかった。
本判決は、先の
Hoctor
判決も引用しながらいう。「関連する法律または 立法規則が、『公正かつ衡平』、『公正かつ合理的』、『公益に適合』などの不明確または内容の乏しい文言を用いている場合、これらの文言の適用を具体 化する推論過程は、通常、解釈ではない」(Id. at 495.)。「詳細かつ厳格な投 資規則……は、『合理的費用』の解釈からは出てこない」(Id. at 496.)。NC 手続を経ていれば法律に適合した適法な規則といえるかもしれないが、本件 の規則は経ていない、と(Id.)。
但し、上記
Hoctor, Catholic Health の両判決は、数値的基準が普通に見ら
れる科学的・技術的分野では、一般的・規範的文言を数値に言い換える規則 が解釈として正当化されうる、という(82 F.3d at 171 ; 617 F.3d at 495.)。その例としては、本節⑵の最初に引いた
American Mining
判決におけるじ ん肺等診断基準の例の他、全米精神医学会発行の診断マニュアルに依拠して 立法規則を解釈するIR
が適法とされた、Mora-Meraz v. Thomas, 601 F.3d 933 (9th Cir.2010)がある。この事件では、修了すれば上限1年間の刑期短
縮が認められる、薬物中毒治療・リハビリプログラムの参加資格の一つであ る、立法的規則上の「薬物中毒問題[を抱えていること]」の意義について、刑務局が、これを診断マニュアル基準適合性と読み替える文書を
NC
手続な しに発し、この文書に従い、原告の参加申請を拒否していた。同マニュアル は、薬物濫用または依存の診断には12ヶ月間以上の薬物使用・症状継続を要 すると記載していたため、刑務局は、収容前12ヶ月間の記録を審査していた。本判決は、画一的なルールは立法規則の徴表であるとの原告側主張を退け、
診断マニュアルの直接的応用は「既存の法を明確化または説明する」にすぎ ない、としている。ある論者は、科学者たちが法律または立法規則の意味を 数値基準によって共通的に理解するかどうかが
IR
の適法性いかんを分ける、という(34)。
(34)J. Lubbers, supra note 15, at 77(Jordan, News from the Circuits, 36 Admin. & Reg. L.
News 22 (Winter 2011) からの引用).
⑶ IR の適法要件その2 ―― 従前の解釈を変更する IR に及ぶ、NC 手続 要件
ⅰ 立法規則が行政機関、私人および裁判所の三者を拘束するのに対して、
行政機関の長またはその委任を受けた機関が法律を解釈した
IR
は、その下 級の職員のみを拘束する、と判示されている(35)。また、裁判所は、法律の解釈 について行政機関の判断を否定することがあり、その場合、行政の解釈は裁 判所を拘束しない(36)。以上については、対応する日本の議論と変わらない。しかし、行政機関の権限に関する個別法律の不確定的な文言の意義が、解 釈により具体化される場合、かの国で、解釈の適否は裁判所の判断により一 義的・客観的に定まるとは考えられていない。立法者意思による限界付けが あるのは当然であるが、政権交代などの事情を背景に政策的判断から法律解 釈を変更する裁量が、行政機関には認められてきた(37)。例えば、FCC v. Fox
Television Stations, 556 U.S.502
(2009)では、1934年の通信法が、放送局 に対する民事制裁金賦課や免許更新拒否等の処分要件のうちに、放送中の「不 品行の(indecent)……言葉」を挙げるところ、最高裁は、この解釈の変更 により規制を強化した連邦通信委員会の審決を適法とした。fuck やshit
な どの言葉は、旧来の審決例では、意図的に繰り返し口にされ、かつ原義通り に性行為や排泄物を意味したときに「不品行」に当たると解されていたが、委員会は、1980年代に至り、原義通りの使用は一回的でも「不品行」に当 たるとし、次に、2000年代には、本件(ポピュラー音楽賞の授賞式ライブ 放送中にセレブ女性が
f-,s-
の語を発した事例)の審決で、原義を連想させ(35)そこにいう職員には、聴聞を担当する行政法判事(administrative law judge)も含まれる。
Warder v. Shalala, 149 F.3d 73, 75&82 (1st Cir.1998) ; CropLife America v. EPA, 329 F.3d876, 882 (D.C. Cir.2003).
(36)Dismas Charities v. Department of Justice, 401 F.3d 666, 681 (D.C. Cir.2005).
(37)Chevron v. NRDC, 467 U.S. 837 (1984) および 筑紫・前掲注11「(三)論文」自治研究86 巻10号101頁以下、正木広長『行政法と官僚制』198頁(2013)の他、後掲注46のEpilepsy
Foundation判決を参照。但し、行政機関一般に適用されるAPAの解釈について、司法審
査との関係で行政裁量を認めた判例・裁判例は見当たらない。
る一回的な使用も「不品行」に当たる、と判断した。最高裁は、政策変更に 従う解釈の変更につき、「行政機関は、新政策を支持する理由が旧政策を支 持する理由よりも優れていることを裁判所に説得付ける必要はない。新政策 が法律の下で許容されること、新政策に十分な理由があること、意識的な変 更が示す通り行政機関が新政策を旧政策より優れたものと確信しているこ と、があれば足りる」(Id. at 515.)、と判示した。本判決は、新政策への変 更が裁量濫用とならないためには旧政策の定立のときよりも厳密な正当化を 要する旨の原審の判断を否定した。ただ、傍論では、旧政策が重大な信頼利 益を生み出している場合は別論である、と留保を付している(Id.)。
ⅱ 以下の裁判例でも見るように、法律だけでなく、これを具体化してい る立法規則もなお不明確な文言を用いており、立法規則の当てはめに解釈を 要する例は、少なくない。その場合、判例は、法律の行政解釈と同様、立法 規則の行政解釈にも裁量を認める(38)。そして、法律の改正がなくとも審決理由 中の法律解釈が変更されることがあるように、上位の立法規則が改正されな くともその解釈は変更されるときがある。そのようなとき、一部の裁判例は、
立法規則の下で最初に
IR
を定める際には必要なかったNC
手続を、IR改訂 の際には要求している。その発端となったのは、Paralyzed Veterans v. D.C. Arena, 117 F.3d 579
(D.C.Cir. 1997)お よ び
Syncor International Corp. v. Shalala, 127 F.3d 90
(D.C.Cir. 1997)の二判決である。前者に関わる障害者保護法律は、公衆が 利用する施設を所有または管理する者は利用者の障害を理由に平等なサービ スを拒否してはならないと定め、これに基づく司法省の立法規則は、施設の 観覧席において車椅子の利用者にも一般の観客と同等の視界を保障するよう に義務付けているが、その規則は、一般の観客が昂揚して立ち上がったとき にも同等の視界を確保すべきか、明言していない。この論点につき、司法省
(38)Auer v. Robbins, 519 U.S.452, 461 (1997)は、先例を引用しつつ、適法な立法規則を定め た行政機関がその規則に与えた解釈を裁判所が否定できるのは、その解釈が、立法規則に 照らし「明白に誤りまたは齟齬のある」場合に限られる、と判示する。
の
IR
は当初言及していなかったが、その策定から約3年後の改訂により、積極の解釈を書き込むに至った。そこで、退役軍人障害者団体が、建設中の バスケットボール・アイスホッケー用施設所有者を被告として(この事業者 は、設計段階で
IR
の上記改訂公表を知っており、車椅子用座席の配置を検 討する機会があった)、席の設計改善を求めたのに対し、原審は、司法省に よる解釈を尊重すべきとして請求を一部認容した。控訴審では、事業者側が、APA
違反の主張を追加している。判決は、「立法規則は、行政機関による立 法的作用の有意義な行使であるためには、十分な内容と明確性を持たなけれ ばならない。行政機関には、過度に意味不明確な立法規則を発し、後に……解釈を通じて具体性をもたらす途は認められない。そのようなやり方は……
APA
のNC
手続を迂回することになろう。」(117 F.3d at 584.)、と述べながら、本件では司法省に
NC
手続違反はないと判断し、アリーナ側の控訴を退けた。すなわち、誰であれ立法規則の文言を読めば、回りの観客が立ち上がった際 の視界保障が含意されている可能性に気づかなければならなかったはずであ る(Id. at 585.)。また、「行政機関が一度立法規則に与えた解釈を
NC
手続 抜きで変更することは、APA
の手続要件の潜脱となろう」(Id. at 586.)が、本件の事案では、司法省が公式に確立した解釈を変更したのではなく、予測 された解釈を明らかにしたにすぎない、と。
この
Paralyzed Veterans
判決は、NC手続を経て不明確な立法規則が制定された後、NC手続抜きの規則が累積されていく現象を批判する点で、先に
Ⅱ⑵で見た
PS
関係の裁判例と共通している。ただ、ここでは、IRの内容が 立法規則の解釈として適法とされる限り、その内容は、立法規則を通じて裁 判所をも拘束する。そのため、行政への拘束性さえ消極に解されるPS
の場 合とは異なり、IRの一定の改訂の際にはNC
手続による統制が必要、との 見方が上記の傍論に示されている。続く
Syncor 判決の事案は、身体の特定部位の検査を行うために用いる、
放射性同位体を含む薬剤に関わる。食品医薬品庁は、1995年に “guidance”
または “policy statement”
と称する新公示を連邦公報に掲載し、それらの薬
剤の製造・販売は新薬承認等の法律上の規制に服する旨述べた。しかし、同 庁の1984年の旧公示では、同じ法律の下、それらは規制対象とならないと していたことから、薬剤会社らが、新公示の違法性を主張して訴えを提起し た。この公示文書の法的性格について、当初、行政側は
PS
と主張していたが、原審は
IR
と解している(控訴審の審理においては、行政側もこれに従って いる。127 F.3d at 96.)。このように、本件は、法律を解釈するIR
の違法性 が問われた事案であるので、立法規則を解釈するIR
に関する次の判示は、やはり傍論である。すなわち、法律を解釈する
IR
と異なり、解釈を超えて 委任に基づき法律の規範を補充する立法規則にはNC
手続が要求される趣旨 から推すと、解釈により実質的に立法規則が修正されないよう、行政機関に は、再度NC
手続を経なければ立法規則の解釈を変更できないことがありう る(Id. at 94-95.)、と。判決は、問題の公示が、法律の解釈と称しながら、解釈すべき法律の文言の特定を抜きに、薬剤技術の進展などの事情を挙げて 規制の必要性を言い、規制対象を拡張するものであり、NC手続を経た立法 規則でなければ許されない内容を持つ、と結論付けている(Id. at 95-96.)。
ⅲ 立法規則を解釈する
IR
の改訂に実際にNC手続を要求した代表例は、Alaska Professional Hunters v. FAA, 177 F.3d 1030
(D.C.Cir. 1999)である。交通手段の乏しいアラスカ州では、狩猟や釣りのために訪れる旅行客を軽飛 行機で遠方のロッジに送り、着陸後に現地を案内する事業が盛んである。
1963年、北極熊狩猟目的の顧客一人を運んだガイドが、個人飛行の免許を 持っていたが、商用飛行(立法規則の定義では「報酬を得て、または雇用さ れて」行う飛行)の免許を得ていなかったことから、審判訴追を受けた。立 法規則は、仕事に「単に付随して」別段の報酬を受けることなく人または物 品を運ぶことは個人飛行免許でも妨げない、とも定めていた。狩猟客らがガ イド兼パイロットに支払う料金は、宿泊費や案内料などをすべて一括した定 額である。民間航空委員会は、被審人による顧客輸送がガイド業に「単に付 随」したものと判断し、不利益処分発動を拒否した。以来、連邦航空庁アラ スカ地方局は、この審決例に依拠し、一貫して、ガイドらに商用飛行免許は
不要と説明していた。ところが、1980年代末以降、ワシントン
DC
の本庁は 地方局への統制を漸次強め、アラスカ局が個別の飛行サービスの実態に関わ りなく審決例の趣旨を過度に一般化している、との評価を固めていく。本庁 は、1998年、連邦公報により、上記のガイドらにも商用免許が必要である との解釈(彼らは、事業に不可欠の飛行につき、独立の費目として輸送代を 収受していなくとも、顧客から報酬を得ているとの解釈)を公示した。そこ でガイドら600人余りの団体が公示の司法審査を求めたのが、本件である。本判決は、前記
Paralyzed Veterans, Syncor
の両判決を引用し、次のよう に述べる。「行政機関が自らの立法規則に公権的(definitive)(39)な解釈を与え た後、その解釈に重大な改訂を施すことは、実質的に見て、NC手続抜きに なしえない立法規則改正をなすことに等しい」(Id. at 1034.)。1963年審決 例の射程を限定する本庁の解釈は、可能であるが、これには十分異論の余地 がある(Id. at 1034-35.)。地方局の解釈は必ずしも行政機関全体の公権的解 釈とはならないが、本庁は、1998年の公示まで、長らくアラスカ地方局の 解釈を把握していた。他方で、同州の事業者らは同地方局と本庁の対立につ いて知る由もなく、地方局の説明に依拠して開業し営業を続けてきた。事業 者らは、30年余りの間、商用免許に関する立法規則の度重なる改正に関して コメントを提出することがなかったが、仮に必要を覚えて提出していたなら ば、アラスカ州の特殊事情に応じた改正または適用除外を提案することがで きたであろう(Id. at 1035-36.)。「連邦航空庁は、[商用免許に関する]立法 規則をこれら事業者に適用するのであれば、その前にコメントの機会を与え なければならない。NC手続を経ない……[本件]公示は無効(invalid)で ある」(Id. at 1036.)、と。この判示によると、変更された行政解釈の実体的適否が専ら争点となる場 合であれば裁判所により立法規則の許容範囲内と判断されるときも含め、そ
(39)この形容詞はauthoritative と同義で用いられている。Mortgage Bankers Association v.
Harris, 720 F. 3d 966, 968 n.2 (D.C.Cir.2013).