九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
中国農民専業合作社における構成員の異質性と組織 運営に関する研究
程, 明
http://hdl.handle.net/2324/4060226
出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏 名 程 明
論 文 名 中国農民専業合作社における構成員の異質性と組織運営に関する研究
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 福田 晋 副 査 九州大学 教授 前田幸嗣 副 査 九州大学 教授 矢部光保 副 査 九州大学 准教授 森高正博
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
1990年代、中国政府は、竜頭企業が中核となり契約農業を通じて農家をけん引し、一貫した生産・
加工・流通のシステムを構築するような農業産業化経営を推進した。しかし、竜頭企業と農家との 間に中間組織が存在しないことで、契約締結・履行上の、および利益分配上の問題が顕在化した。
2006年、農家の主体性をより強く反映させるために、政府は合作社を導入し、新たな農業経営の担 い手と位置付けた。しかしながら、合作社の構成員間には、職業や生産規模等の異質性が存在し、
経営陣と非経営陣の対立構造も発生している。異質性は広く組織運営、農産物調達、利益分配等に 影響を与えている。当該研究は、合作社による農業産業化経営を成功させるために、異質性を抱え る合作社の組織運営の発展方向について検討したものである。
第2章では、まず、先行研究を整理し、異質性の形成過程を分析している。次いで、こうした異 質性への対策を検討する上で、日本および欧米の農協の経験が、直接的には応用できないこと、し たがって、合作社独自の発展状況を踏まえた分析が必要であることを明らかにした。
第3章では、中国福建省安渓県に位置する企業主導型、および大規模農家主導型合作社の優良事 例に基づき、異質性を抱える合作社における組織・事業の特徴を分析した。組織運営においては民 主的方法となっているとはいえないこと、しかし、このことは、合作社ブランドが確立できた要因 ともなっていることを明らかにしている。優良事例とされる組織においても、竜東企業型の農業産 業化経営のパラダイムから脱し切れておらず、合作社の中間組織としての機能発揮に至っていない ことが明らかにしている。
第4章では、非経営陣社員の生産規模が二極化している中で、大規模社員の出荷率が低下してい ることが先行研究で問題視されていることを取り上げ、このメカニズムを契約理論から解明してい る。分析の結果、大規模社員ほど合作社外への出荷が発生することを、理論上も明らかにしている。
出荷率低下が発生するのは、小規模社員の総生産量が大規模社員より相対的に大きい場合、かつ合 作社の経営方針が自己の利得のみを追求する場合であって、合作社は大規模農家からの農産物調達 を断念することで、小規模農家からの調達価格を低下させ搾取を強めることが可能となるためであ る。一方で、一般的な市場連動型の調達価格の下では、合作社の経営方針が社員を含めた結合利得 最大化であれば、社員の異質性がどのような場合であっても、合作社外への出荷は理論上発生しな いことも明らかにした。以上の結果は、先行研究の主張する、「大規模社員は機会主義的行動を取る 傾向が強いために、大規模社員の加入を制限するという対策」が、全体最適の見地から否定される ということである。よって、根本的な対策は、経営方針が結合利得最大化となるよう経営陣を掣肘 できる体制づくりであること、そのためには、社員総会を機能させることが重要であることを理論 的に明らかにしている。
第5章では、多くの合作社で剰余金分配が違法に経営陣に有利になっているにも関わらず、非経 営陣の社員が社員総会で権利を行使せず、対案が出されない問題について、ゲーム理論を用いて解 明している。対案が出さない理由は以下の二点である。第1に、ある非経営陣の社員が対案作成に 協力した場合、他の非経営陣社員にはそれにただ乗りをするインセンティブが常に生じる。そのた め、非経営陣の社員間でコストを分担する協力関係をつくれないことである。第2に、合作社の財 務構造が不透明、かつ財務情報の公開が不十分であるため、非経営陣の社員にとって対案を作るコ ストが膨大になる。それに対して、非経営陣の社員は相対的に小規模であり、剰余金分配の是正に よって得られる追加的な配当が小さく、対案作成のインセンティブが発生しにくいことである。以 上の結果を踏まえて、5 点の対策案を導出している。すなわち、①対案作成のコストを別途補償す るシステムの導入、②合作社の財務情報公開の義務化、③合作社法違反に対する罰則規定の導入、
④監事に非経営陣の社員を入れるか、第三の独立した監査役を設けること、⑤社員が権利を理解し 行使できるような教育、である。
以上要するに、本論文は、中国の農業産業化経営を推進するための中間組織としての合作社につ いて、その機能不全および合作社法の理念からの乖離のメカニズムを理論的に解明し、これまでの 対策案の問題点の指摘、および新たな対策案の導出を行った研究であり、食料流通学の発展に寄与 する価値ある業績と認める。よって、本研究者は博士(農学)の学位を得る資格を有すると認める。