Received on September 7, 2009.
電気通信大学レーザー新世代研究センター 1.はじめに
21世紀に入り、より快適な生活を求めた人類の活動が 活発化すると同時に、限られた資源という限界が現実の 人間生活や産業活動を制限する時代に入った。これまで 湯水のように使ってきた石炭、石油、天然ガスなどの化 石燃料利用については、資源量の限界に加えて、CO2発 生による地球温暖化という新たな問題も深刻化し、化石 燃料に依存しないエネルギー源の開発が求められている。
そのため、原子力エネルギーの見直しや、自然エネルギー の利用など、さまざまな試みが進められようとしている が、それらエネルギー源の変更は、同時に、エネルギー 利用方式の変化と連動していなければならない。これま での議論には、両者を結合したものが少ない。本論文で は、化石燃料利用の代表である内燃機関を利用した自動 車技術が、今後、電気自動車に変化していく時代を見据 えて、本当の電気自動車の在り方と、レーザー技術を応 用したレーザービーム給電が電気自動車の概念を変える ことを構想する。そして、レーザービーム給電という新 しい提案が最も効果を発揮するには、太陽光発電所が適 していると主張する。モーターとパソコンで駆動する電 気自動車を最も効率的な輸送機関とするためには、情報 技術を駆使して衝突回避を行うことで、本当に必要なエ ネルギーを供給するだけで利用できる電気自動車に近づ くだろう。人間を自由に、そして安全に移動させるもの としての、本来の自動車が生まれることを議論する。そ して、本提案が必要としている技術は、すべて現存して おり、それらを発展させて最適に組み合わせることに よって、人類にとって新しい価値のある技術、社会イン フラに仕上げるという意味で、Converging Technology の具体的な試みであることは、本稿を読んでいただけれ
ば理解されるだろう。
2.Converging Technologiesの要請
過去10年間、高度に発展した科学・技術の進歩を前に、
その成果を社会生活上の進歩に反映させようと、科学・
技術研究を政策的に誘導し、より効率的に利用する試み がなされてきた。我が国でも総合科学技術会議が主導し て、ナノテク、バイオ、IT、エネルギーなど重点的な 研究領域を設定し、さまざまな努力を行ってきた。その 結果、多くの革新的な研究が生み出された。しかし、こ れらの研究活動による“知の創造”と、社会が要請する“価 値の創造”は、簡単に接続するものではなかった。科学 が生み出した知識を利用して、社会的価値につながる技 術開発を行えばよい、というような単純なものではない ことが分かってきた。“知の創造”の成果を社会的“価値の 創造”につなげるには、より深い科学の理解を通じて、よ り高い視点からの科学と技術の統合、収斂過程が必要に なるということが理解されるようになった。このような 指摘は米国、欧州による系統的な分析・研究の結果であ り、我が国でも重要な視点と認識されるに至った[1, 2]。
電気自動車のあるべき姿とは?
太陽光発電所からレーザービーム給電をする可能性は?
植 田 憲 一
Future Electric Vehicle Technology : Laser Power Feeding from Solar Power Station
Ken-ichi UEDA
知の創造と社会的価値創造の結合 には、より深い理解が必要
研究者も傍観者をやめて、政策 立案に参加すべきだ。独創性は 手渡せない。
図1 Converging Technologyの要請
図1に示したConverging Technologiesがそれである。
振り返って、科学者や技術者の立場からすれば、この ような視点は、研究や技術開発の原点として内包してい たものである。このように明示してその重要性を強くア ピールすることはなかったが、歴史を振り返ればギリ シャ以来の自然科学の伝統そのものである。しかし、地 球という有限の資源の上に立つ人類にとって、21世紀に おけるConverging Technologiesの重要性は、これまで とは違った意味を持つようになったことを強く意識しな ければいけない[3]。同時に、Converging Technologies の意味する中には、単なる科学と技術の融合・収斂によ る価値創造への道筋造りだけではなく、研究者と政策立 案者の間の連携要請も含まれている。科学者コミュニ ティーが政府の政策提言に大きな役割を果たしている米 国、西欧に比較して、我が国では科学者や研究者は、ど ちらかといえば専門に専念して、政策提言を避ける傾向 があった。しかし、激しい世界競争の中で、“知の創造”
の成果の意味を明確に理解することや、その成果を応用 して“価値の創造”につなげる作業は、政策立案者の知識、
理解だけでは困難であり、政策立案者に対する積極的な 提案、情報提供が求められるようになったことも、現代 科学・技術の状況を強く反映している。そこでは、科学・
技術の専門領域を越えて、広い分野のコミュニティーの 知識を統合、収斂することが必要である。これまでとは 異なったコミュニケーション能力が問われる時代になっ たといえる。我が国でも、政府や総合科学技術会議から Converging Technologiesの要請が述べられるようになっ た。現在のところ科学技術によって、どのように我々の 社会が変化するかの具体的なイメージが欲しいというこ とのようだが、Converging Technologiesでは、未来社 会から見た本来あるべき科学・技術の在り方から、スター トする研究プロジェクトも重要な役割を果たすだろう。
本論文で提案する内容、レーザービーム給電技術を核 とする新しい電気自動車時代の社会構想を、科学者・技 術者の側から構想したConverging Technologiesの具体 例として披露したい。多方面からの批判・提案を受け取 ることで、将来の社会とその中における“価値の創造”、
それは今現在の社会が要求する価値ではないが、人類社 会にとって“かくあるべき社会における価値”という新 しい価値の創造につながるのではないかと愚考する。
3.自動車による燃料消費はどれほどか?
化石燃料の消費という観点からすると、我が国はどれ ほどの燃料を自動車に使っているのであろうか。国土交 通省が発表している公式データは図2の通りで、平成 18年度のガソリン、軽油、プロパン燃料の消費量はお のおの59,670,643キロリットル、30,602,500キロリット
ル、2,391,331キロリットルに上る。合計では92,664,474 キロリットルである。それぞれのエネルギー密度を電力 で表現すると、ガソリン9700Wh/L、軽油13762Wh/L、
プロパン燃料7500Wh/Lであるので、総エネルギー量 として1,001,750,339,600kWh、すなわち1ペタワット時
(1015Wh)というエネルギーを自動車を動かすために消 費していることが分かる。
1ペタワット時とはどれだけの電力量であるか。資源 エネルギー庁の統計によれば、2007年度の我が国の発 電実績は図3のように1,004,622,019(1000kWh)、すな わち1ペタワット時(1015Wh)である。なんと、自動 車用燃料消費は我が国の総発電量に相当するエネルギー を化石燃料を燃焼して消費していることになる。我が国 のすべての家庭と産業界で使用している電力量と同じだ けのエネルギーを自動車燃料として燃やしているという ことは大変なことである。
『平成17年度 鉄道統計年報』によれば、2007年度に
0 1 107 2 107 3 107 4 107 5 107 6 107 7 107
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
���燃料�消費量
燃料消費量
年度年度
燃料消費量(キロリットル)
自動車燃料の消費量
0 1 107 2 107 3 107 4 107 5 107 6 107 7 107
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
���燃料�消費量
燃料消費量
年度年度
燃料消費量(キロリットル)
自動車燃料の消費量
図2 我が国のガソリンと軽油消費量 (国土交通省資料http://
toukei.mlit.go.jp/06/annual)
図3 我が国の総発電量は1ペタワット時
JR東日本が運転用電力として消費した電力は図4のよ うに39億7226万9177kWhとされている[4]。すなわち、
3.9テラワット時(3.9x1012Wh)ということであり、日 本の総電力からすれば0.39%にすぎない。JR東海が計画 している超伝導磁気浮上型のリニアー新幹線ですら、東 京電力、中部電力、関西電力の発電量の1%以内と計算 されている。首都圏の大量輸送や超高速リニアー新幹線 ですら、総電力から比べれば、わずかな電力で移動手段 を提供している。自動車はなんと非効率な交通手段であ るのか。
それでも我々は自動車を使い続けるであろう。それは 自動車が、遠距離を自由に移動できる唯一の手段だから である。人類にとって自由に移動できる自動車という手 段は、エネルギーの非効率性を考えても、それほど重要 な存在である。非効率の根本は、100kg以下の輸送対象
(人間+荷物)に対して、移動手段である自動車の重量 が1トンを超えるように、非常に大きな重量を移動させ ていること、そして、燃焼エンジンという動力発生機構 そのものにある。電気自動車の時代が来るとすれば、こ れまでの自動車のもっていた根本的な問題、または矛盾 を解決するものでなければならない。内燃機関駆動の自 動車から電気エネルギーに駆動される自動車への転換は、
それだけ大きなパラダイムシフトを伴うべきである。
自動車と電車を比較から、電車が圧倒的な高効率性を
もっていることは分かるが、電車はレール上を走るとい う制限があり、両者は別種の輸送手段として人類の歴史 の中で長く住み分けてきた。同様の並列条件は電気自動 車が主体となる未来にも、同様に機能し続けるであろう か。全く新しい観点から検討してみよう。
さらに、基本に立ち戻った考察を加えてみよう。原理 に戻って考察した場合、都市における自動車とは基本的 に経水平移動手段である。すなわち、位置のポテンシャ ルエネルギーで表現すれば、図6のように、U=0の地 点からU=0の地点に移動しているわけであるから、本 質的な仕事量でいえば、エネルギーの増加はゼロとなる。
地球上、位置のポテンシャルはほぼ同一であって、費や しているエネルギーは移動のためではなく、移動に伴う 損失、摩擦、空気抵抗によるエネルギー損失を補填して いるに過ぎない。このことを端的に表したものは、昔、
ルイス・キャロルが構想した重力列車であり、図7のよ うに地球を貫通する真空の穴を通して、重力に引かれて 加速する列車は、抵抗損失がなければ地球上のどの地点 にも42分で到着できるとした。重力で加速し、重力で 減速する重力列車は、移動のためのエネルギー消費を必 要としないのである。高効率な移動手段としての自動車 図4 JR東日本の運転に必要な電力は年間39億7226万9177kWh
に過ぎない。
図5 自動車は搭載した燃料を燃焼させて自由に動き回ることが できるが、100kgを移動させるために、1トン以上の重量 を必要としている。
図6 自動車は水平移動のために莫大なエネルギーを消費している。
水平移動に莫大なエネルギーを 消費している。
山登りには仕事が必要 位置のエネルギーは回収可能
U=0
U=mgh
U=0 水平移動のために、
日本の総電力と同じ エネルギーを消費す る内燃機関自動車は、
あまりに非効率である。
自動車とは水平移動のための移動手段である。
ルイス・キャロルが考えた重力列車 エネルギー回収 抵抗がなければ、地球上、どこでも42分で到着
真空パイプ内、無抵抗なら、無動力の新幹線 真空パイプ内、無抵抗なら、無動力の新幹線
図7 重力列車の概念図
の究極のターゲットは、重力列車と同じく、無駄な抵抗 や損失を減少させて、なるべくゼロに近い消費エネル ギーで走行可能とすることである。何しろ、移動のため に必要な本質的エネルギーはゼロなのであるから。これ から見ると、現在、日本の総電力と同等のエネルギーを 使って利用している自動車という輸送手段の効率を本質 的に改善する概念の必要性は自明である。
4.電気自動車の歴史と現状、将来像 4.1 電気自動車の歴史
電気自動車の歴史を調べるとその起源は古く、1832−
1839年にはスコットランドのR. Andersonが電池で駆動 する自動車を開発したとされている。20世紀の初頭に は、当時の内燃機関が非力だったこともあり、図8に見 るように、スピード記録のすべては電気自動車によって 記録された。また1900年当時のアメリカでは、自動車 生産の40%は電気自動車であった。そして、有名なエジ ソンはここでも独創性を発揮して、自動車用に鉄アルカ リ電池を発明し、図9のような電気自動車で160kmを 走行して見せた。自動車技術が今日のように発展するま では、電池とモーターで駆動する電気自動車は単純な構 造であって、すぐさま実用化できたということだろう。
その後、機械産業の中核としての自動車産業が発達し、
今日のように複雑で洗練された機械技術の華である自動 車が普及するに連れて、性能的に劣るようになった電気 自動車は消え去っていった。この背景には、燃料を内蔵
して、自由自在に好きなところに運転して行ける自動車 の自由度があった。その基礎となったものは、ガソリン や軽油のような燃料のエネルギー密度が電池に比べては るかに大きいということが鍵であったに違いない。
近年、リチウム電池などの性能が大幅に向上した。自 動車用バッテリーに蓄電した電力で、実用的な距離を走 行できるようになったことが、電気自動車を実用的なも のにしつつある。バッテリーやキャパシター技術を改善 することにより、燃料と同等な蓄積エネルギーを実現で きれば、電気自動車は内燃機関自動車よりはるかに高効 率な移動手段を人類に提供することになることは間違い ない。
4.2 現代的電気自動車
環境問題、燃料費の高騰などの背景を受けて、内燃機 関自動車から電気自動車への変化が急速に起こりつつあ る。ガソリンエンジンとモーター駆動を組み合わせたハ イブリッドカーへの流れは、自動車生産そのものの方向 を、純粋な内燃機関自動車から、電気技術とのハイブリッ ド化へと大きく変えた。そして、2009年にはプラグイ ン・ハイブリッドカーからフル電気駆動の電気自動車が 発売される情勢となっている。もはや次世代の自動車技 術の主流は、電気自動車となることが目に見えてきたと いえる。これを可能にしているものは、自動車用のモー ター、およびその制御、そして、高性能バッテリー技術 の革新であった。
表1 エネルギー密度の比較表
方式 エネルギー密度
(Wh/kg) エネルギー密度
(Wh/L)
キャパシタ 0.55
スーパーキャパシタ 2.8
ウルトラキャパシタ 5.7
圧縮空気(200気圧) 0.04 28
鉛電池 32 40
リチウム電池 130 300
キャパシタEEStor (claimed
prototype capacity) 280[1] 600
TNT 4.184 6.92
H2+O2 1160 1580
メタノール 6,400 4,600
Mg 6,850 11,900
エタノール 7,850 6,100
無煙炭 6667 6278
バイオディーゼル 11,700 9,160
軽油 13,762 10,942
ガソリン 12,200 9,700
プロパンLPG 13,900 7,500−6,600
液体水素 39,000 2,600
原子力発電用ウラン燃料 2.5 x1010 4.7x1012 太陽における核融合 1.79x1011
図8 Jamais Contant号ジャメ・コンタント 1899年最高時速:60マイル/h 製作者:Comile Jenatzy
図9 エジソンによる鉄ニッケルアルカリ電池を用いた電気自動車。
走行距離は160kmである。(1909年)(電池の特許US701804)
5.電気エネルギーの蓄積技術
現代社会は実際の動力源としては、燃焼エンジンと電 気エネルギーを使ったモーター駆動に大別される。中で も、電気エネルギーが中心である。電気の問題はエネル ギー蓄積ができないことで、そのため、夜間電力を揚水 発電などに利用して、実効的なエネルギー貯蔵をする試 みがなされている。もちろん、小さな電力貯蔵なら、各 種のバッテリーやキャパシタ蓄電などが可能である。エ ネルギー貯蔵の能力という観点から、各種のキャパシタ、
バッテリー、燃料、などのエネルギー密度を比較したも のが、表1である。
大きく見ると、電気2重層によりその容量を拡大した キャパシタは最大5.7Wh/kg、電池は130Wh/kg、固体 燃料(TNT, Mg)などは4148−6850Wh/kg、液体燃料 は6400−39000Wh/kgであり、核エネルギーはこれら と隔絶した高エネルギー密度をもっている。これらのカ テゴリーは、誘電体の分極エネルギー、化学結合エネル ギー、核エネルギーなど本質的に分かれていて、カテゴ リー間のクロスオーバーは見られない。ただし、米国の ベンチャー企業EEStorが開発したという固体薄膜多層 キャパシタは280W/kgと発表されている。詳細は公表 されていない。残念ながら、これまでの発表は出資を 募るための広告的、株主への限定的情報公開のみであり、
科学的検証可能な形の発表が行われていない。µm厚の セラミックスに350Vを印加するという高電圧セラミッ クキャパシタとされていて、それが本当ならば誘電体の 絶縁破壊強度の限界を凌駕した新技術ということになる が、常識的には不可能である。
電気自動車の搭載バッテリーとして、以前使われてい た鉛電池(32Wh/kg)に比べて、リチウム電池(130Wh/kg)
のエネルギー密度は、約4倍にも達しており、従来700kg であった搭載電池の重量は、来年発売される予定の電気 自動車では170kgにまで軽量化された。バッテリーの技 術開発は、パソコン、携帯電話などの開発に平行して大 きな進歩を遂げたが、電気自動車という巨大な市場の登 場で、さらに高エネルギー密度に発展することは間違い ないだろう。しかし、そのエネルギー密度と電流密度に は化学反応速度や化学組成の変化などの制限があり、急 速充電、瞬発給電能力、さらには長寿命などの点で新し い技術が求められている。表1に示されたエネルギー蓄 積能力は、各々の方式の原理的、材料的な限界に挑戦し ながら、その限界を極めつつある現状を示している。
このような研究開発方向はまったく正しく、その研究 成果が人類の生活様式を大きく変えることになるだろう。
その一方、現在の技術開発がかなり成熟してきており、
今後、1桁以上の性能向上を期待することは、根本的な 点で大きなブレイクスルーがなければ困難だということ
も、上記の現状分析からいえる。
6.レーザービーム給電技術 6.1 給電形自動車とは?
電気自動車を大別すると、図10のようになる。ただし、
電力線と有線でつながっていないビーム給電形自動車と いうカテゴリーはこれまで存在しなかった。現代的電気 自動車は“電池内蔵型自動車”であり、その電池は鉛電 池からリチウム電池に進化した。キャパシタの大容量化 に伴い、電気2重層や高電圧セラミックキャパシタを利 用する計画も進んでいる。これらは両者とも、運転に必 要なエネルギーを内部貯蔵して、蓄積されたエネルギー を消費できる範囲で、自由な運転を保証するものである。
まさに現在の内燃機関型の自動車の動力源を電気駆動に 置き換えることをめざして、技術開発が進められている。
しかし、電気自動車の本質から見て、現在のような開 発方向は、本当に電気自動車のあるべき姿に近づいてい るのだろうか。もちろん、自動車の生産や道路整備には 巨大なインフラ設備が蓄積されていて、それらの利用の 上に将来を考えることは重要な視点である。その一方、
自動車の動力を内燃機関から電気モーターに変換すると いうことは、いわば馬車から蒸気機関へ、そして、蒸気 機関から電気へと変わることで、人類社会がその様相を 一変させていったと同様の歴史的転換である。ならば、
その到達点は現代からの単純な延長ではなく、ある種の 断絶、飛躍が存在することも受け入れるべきではないだ ろうか。
そのような観点で見た場合、バッテリーを搭載して モーターを駆動する、という現在の電気自動車は、内燃 機関自動車の残渣を引きずっているといわざるを得ない。
前章でも議論したように、科学反応熱を利用する内燃機 関に比較して、電気エネルギー利用の最大の特徴は、エ ネルギーを貯めるのが容易でないということである。電
電池内蔵電気自動車 鉛電池 リチウム電池
電気2重層 セラミック キャパシタ
ビーム給電
ビーム給電自動車 ビーム給電
ビーム給電自動車 給電型電気自動車
有線給電
トロリーバス 給電型電気自動車
有線給電
トロリーバス
図10 電気自動車の分類
気を自由自在に蓄積し、好きなときに出力して利用でき れば万能となるが、表1に示したように電気的エネル ギー蓄積の能力はそれほど大きくない。ならば、運転に 必要なエネルギーのすべてを内蔵電池に蓄積し、その蓄 積エネルギーで走行するという電気自動車の現在の形は、
本来の電気駆動の形ではない。電車がそうであるように、
電力供給を受けながら走行するというのが、電力駆動型 移動体のあるべき姿である。
給電形の自動車としては、昔懐かしいトロリーバスが ある。環境問題の深刻化から再評価が加えられ、新しく 都市交通として採用される時代になってきた。トロリー バスは確かにレールをもたずに道路を走行するという点 で、電車とは異なっているが、架線から有線給電される という制限条件を持っている。架線を切り替える際には、
内蔵バッテリーで駆動するが、その容量は小容量で済む。
いわばレールをもたない路面電車としての存在であり、
個人が自由を感じることのできる乗り物にはなり得ない。
6.2 レーザービーム給電の提案
現在の電気自動車が燃料内蔵というこれまでの自動車 の概念に縛られて、電気駆動の本質からすれば、いわば 不徹底な電気自動車だとすれば、どのようにすれば、本 来の電気自動車を構想することができるだろう。自動車 の本質を簡単に言い表すと、人間が楽に、安全に、そし て自由に高速移動する手段を提供する乗り物だといえる だろう。電車やトロリーバスといった電気駆動は、楽に 高速移動することを保証するので、公共交通機関ではそ の有用性が受け入れられているが、有線給電という手段 は自由度を束縛するために、不適当な方式である。
ドライバーが意識することなく、自由に移動できる自 動車に、外部から給電する手段があれば、本来あるべき 電気自動車が存在できることになる。そこで、将来の電 気自動車のキーテクノロジーとして、“レーザービーム 給電”を提案する。
自動車が走行する道路の上空数メートルは他に利用で きない安全な空間である。この空間を利用して、街路灯
や信号等のレベルから、道路上の自動車をレーザービー ムで照射して、光電変換をすることに、技術的な困難は ない。何しろ、レーザービーム照射はミサイル迎撃すら 可能な技術なのだから。むしろ、自動車側からレーザー 光やマイクロ波などを通じて情報を提供し、それらに対 するリピーターとして電力供給をするシステムは現在の 都市社会の中にも容易に構築することが可能である。一 般に、リピーターとは送られてきた信号を増幅して送り 返す装置のことをいうが、送り返す信号は必ずしも元の 信号と同じである必要はない。リピーターの概念を拡大 すれば、マイクロ波受信、信号解析、必要な情報分析を 利用したレーザー光による電気自動車へのレーザービー ム電力供給というシステム全体をリピーターシステムと できる。入力がなければ、電力供給がされないリピーター 技術は、高出力レーザービームによって電力供給をする ことを可能にするだろう。ミサイル迎撃に比べれば、き わめて容易な技術である。
図11に示すように、レーザービーム給電は信号など に設置された高出力LDアレイから、太陽電池を受光素 子とする電気自動車に電力供給するシステムである。太 陽電池技術の技術開発は急速に進んでおり、従来の結晶 シリコンを使った太陽電池以外にも各種の薄膜太陽電池 が実用化されつつある。これらの中には、自動車塗装に 応用可能な技術もあり、将来の電気自動車は、同時に ソーラーカーでもあると想定される。ただし、太陽光の エネルギー密度は低い上に、白色光に対する太陽電池の 光電変換効率はそれほど高くすることが困難である。し かし、太陽電池のバンドギャップに整合した単色光に対 しては、太陽電池はフォトダイオードとしての高い効率 で光電変換をすることから、太陽電池発電→一時的エネ ルギー蓄積→LDビーム給電→太陽電池光電変換、とい うプロセスを経て、自動車に電力供給することができる。
現在、固体レーザー励起用に数多く使用されている高 出力半導体レーザー(LD)(940nm、970nm)はこのよ うな用途に適しており、バンドギャップエネルギー(1.1- 1.2eV)によく整合する。
レーザービーム電力伝送の問題は、ファイバーによる 電力伝送の可能性、そして、空中のビーム電力伝送が議
天井型ソーラーカー 広い面積で受光するのが鍵 安全性も確保される。
天井型ソーラーカー 広い面積で受光するのが鍵 安全性も確保される。
940nm LDアレイ バンドギャップと整合 1.1-1.2eV <1μm 940nm LDアレイ バンドギャップと整合 1.1-1.2eV <1μm 自動車の頭上
は安全な空間
図11 頭上から給電するレーザービーム給電 図12 高出力LDアレイでビーム給電できる。
論されてきて、両者とも、大電力伝送の能力については 疑問の余地がない。レーザービーム輸送の問題は、伝送 終端における光電変換であり、せっかく、高エネルギー 密度で輸送したレーザービームも、高エネルギー密度 ビームの形では光電変換できなかった。同時に、空中伝 送の場合、エネルギー密度の高さが危険を生み出すので、
実際的な応用は困難であった。
電気自動車へのレーザービーム給電の場合、通常の電 気自動車用の高速充電能力(50kW/30min)を基準とし ても、10kWの給電能力で充分であり、LDアレイで供 給可能である。しかも、自動車の天井面積は2m2程度 あることから、ビーム強度は5kW/m2と太陽光の5倍 でしかない。この程度の掃引ビームでは、やけどやレー ザー損傷などは起こらないので、基本的な安全性が確保 できる。しかも、紫外線成分などを含まないので、健康 被害は考えなくてよいだろう。自動車に対するレーザー ビーム給電の鍵は、ビームを拡大してエネルギー給電を 行う点で、これまでのビーム伝送と大きく異なっている。
ビームを広げることで、大口径太陽電池を高効率で利用 できるのが、新しい技術的観点である。
もちろん、より細いビームにしても、高効率光電変換 は可能で、どこまで小さな太陽電池で高効率子電変換が 可能か、というのも、別の方向の研究テーマである。そ の場合は、太陽電池内の内部配線などの点で、従来の低 密度光発電とは異なったデザイン原理が必要になる。こ こでも新しい技術開発が問題を解決する。
電気自動車に対する充電システムでは、充電スタンド や道路や駐車場に敷設された無接触高周波充電方式など も提案されている。これらはあくまでも大容量バッテ リーを搭載した電池駆動車への“充電システム”であり、
走行する電気自動車に給電するシステムではない。電気 駆動の本質が、電力を供給されるべきという立場と、将 来の交通手段として、究極の軽量化を目指すとき、重い 電磁遮蔽の金属板を必要とすることは、新しい時代の電 気自動車の本質と整合しない点がある。
6.3 安全なレーザービーム給電技術 リピーター給電 システム
電気自動車の走行に必要なエネルギーをLD光で供 給する場合、拡大ビームでエネルギー供給したとして も、さらに安全な供給方法を考案する必要がある。そこ で、リピーター給電システムを提案したい。事務所内に 情報を行き渡らせる方法として、無線LANが便利であ る。面倒な配線がなく、高速情報伝送が実現されてい る。可視光、近赤外線を用いた無線LANも技術的には 開発されており、さらなる高速情報伝送が可能になって いる。しかし、実際の職場には普及していない。その理 由は、途中に障害物が入った場合、光通信の無線LAN
は情報と途絶えるためである。これは通信技術としては 困ったことであるが、電力伝送の観点から見れば、安全 技術として優位性を発揮する。すなわち、電気自動車か ら電力供給を依頼する情報が、無線、光を通じて届いた 場合、その信号を増幅する形でエネルギービームを逆送 するいわゆるリピーター技術を活用すれば、対象物との 間に障害物が入って干渉した場合、依頼してくる入力情 報そのものが影響を受けるため、高エネルギービームの 発生が行われないというリピーター給電システムが可能 となる。これは、安全管理技術に役立つ視点である。
6.4 安全なレーザービーム給電システムはロボット社 会の基礎も形成する。
エネルギー供給源と受け取り側の間に緊密なコンタク トが形成されなければ、高エネルギービームによる供給 がされないという安全なビーム給電技術が確立された場 合、この技術は、単に電気自動車へのエネルギー供給手 段を越えて、より一般的な電力供給手段となる。たとえ ば、図13のようにロボットやロボスーツへの電力供給 がそれである。現在、さまざまな用途を目標として自立 移動型ロボットやロボスーツの開発が盛んである。それ らの多くは電池で駆動されており、場合によっては、電 力線を引きずって作業をしている。これらが、介護ロ ボットや火事ロボットとして、一般家庭に広く入り込む 時代にも、今と同様にバッテリー駆動が続くのであろう か。競技会に参加するロボットも、サッカーやゲームで 楽しむロボットも、いずれも現在は珍しいもの、そして、
遊びだから、一定の間、きちんと動けばすばらしいとい う評価を得ることができる。しかし、老人介護や家事労 働、さらに農作業を手伝うロボットには、もっと本格的 なエネルギー供給手段が必要である。現に産業用ロボッ
サイバーダインのロボスーツ 電池
サイバーダインのロボスーツ 電池
レーザー ビーム 給電
図13 ロボットへの電力供給も可能
トは、電力供給されて動いており、そうでなくては、人 間に代わり、または人間以上の働きをすることができな い。レーザービーム給電技術を確立すれば、家庭内にお いても、人間が間に入れば電力供給を停止し、安全な時 間は必要に応じて電力供給がなされる、本当のロボット 新時代を実現することができる。
現代社会は家庭内の隅々にまで、電力線を張り巡らせ た電力供給網の中で生活していることを忘れてはならな い。このような電力インフラ全体を、電池充電システム に置き換えるのがよいのか、それとも、自律的に活動す る自立型ロボットに自由空間を通じて電力供給を行う レーザービーム給電技術が未来社会の基本であるかは、
深く考える必要のある点である。光ファイバー通信で議 論された「最後の10m」と同様、社会を変えるのは、人 間の生活と密着した最後のコンタクト方法だということ を銘記する必要がある。
7.太陽光発電所とレーザービーム給電 7.1 消費地発電所としての太陽光発電所
前述のように、現在、自動車燃料として消費している ガソリン、軽油、LPガスの総エネルギー量は、我が国 の総発電量に匹敵する。すべての自動車が電気自動車に なった場合、内燃機関と同じ効率であれば、我が国の発 電量を2倍にしなければならない。もちろん、電気自 動車は内燃機関自動車に比べて、はるかに高効率で、2 倍の発電量は必要ないとしても、大量の発電所建設が必 要になることは間違いない。これらはまったく新しい電 力需要であり、しかもその電力消費は基本的に都市部に 集中している。かねてより、最も理想的な発電所立地は、
消費地発電であると指摘されてきた。しかし、原子力発 電や水力発電はどうしても都市から離れたところに建設 せざるを得ず、比較的、都市に近いところに設置される 火力発電所も、消費場所そのものに建設するのは困難で ある。太陽光発電所は分散型発電システムで、とくに家 庭用など消費場所における発電システムであるとかねて より強調されてきた。
自動車が電力を消費するのは道路上である。そこで、
東京都区内の道路面積を調べてみると、表2の通りであ る。区部面積の16%、100平方キロメートルを道路が占 めている。この道路面積に降り注ぐ太陽光パワーは、 10 の11乗W、すなわち100GWに達する。すなわち、区部 の道路面積に降り注いでいる太陽光パワーは、東京電力 の総発電量6040万kW(60GW)(年間0.52PWh)より 大きいのである。電気自動車社会のために、新しい発電 システムを構築するとして、消費地そのものにある太陽 光パワーを利用すれば、どれだけの能力があるかを評価 するべきである。
表2 東京都の道路状況
http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/douro/gaiyo/07.html 区分 行政区域面積
(km2) 道路延長
(km) 道路面積
(km2) 道路率
(%)
区部 621.81 11,863 99.5 16 多摩部 1,159.89 10,831 71.08 6.1
本提案は、太陽光→太陽光発電→半導体レーザービー ムに変換→太陽電池による光電変換 であるが、これ らの効率は、太陽光発電(20%)×半導体レーザー(50%)
×レーザービーム光電変換(80%)=総合効率(8%)と概 算できる。太陽電池の効率は現在でも38%以上が報告さ れており、将来は80%以上も可能とされているが、本 稿のような未来社会のインフラ構想には、最高性能で はなく、無理なく普及できる効率として20%を用いる。
また、LD効率もすでに73%以上が実現され、80%を目 指した開発が進められているが、こちらも現在の市販 図14 道路上太陽光発電所から走行中の自動車レーザービーム給
電も可能
図15 自動車から発車されてビームを元に、フェーズアレイ型 レーザーからレーザービーム給電がなされる。給電も可能
品の効率50%を採用した。将来構想を構想する場合、画 期的な技術開発だけではなく、現在の科学技術の正確な 理解と評価が重要という視点である。日照時間を8時 間としても、区内道路上の太陽光発電所の発電能力は 1日当たり100GW×8%×8時間=64GWh、年間では 23.4TWhとなる。MiEVを例に取ると、200V, 15A, 7時 間でフル充電される。すなわち、車一台当たり21kWh なので、道路太陽光発電所の電力容量は300万台以上の 電気自動車をフル充電できる電力に相当する。レーザー ビーム給電によって、搭載バッテリーの容量は1桁以上 小さくすることが可能なので、実際には5000万台(走 行距離10kmを想定)の充電能力があることになる。現 在想定されている完全自立型の電気自動車とは異なり、
幹線道路に来ればレーザービーム給電を受けることがで きるので、搭載バッテリーで走行するのは、横町に入っ て仕事をするときである。走行距離は10kmもあれば十 分だろう。こうしてみると、発電総量としては、道路太 陽光発電所は東京都区内の自動車走行を支えるに十分な 電力供給が可能な能力を有していると評価できる。
もちろん、図14のように、道路全体を太陽電池で覆 うのは良くないという考えもあるだろう。その場合は道 路周辺のビルや住宅を使えば、同等の電力を発生するこ とは造作もない。住民が受け入れるかどうかが問題であ るが、太陽光発電所は公共的インフラであるので、公的 資金、または太陽光発電所を建設・運営する会社の費用 で太陽光パネルを設置し、その設置の代償として、その 電力を家庭やビルで消費することを許せば、住民達は大 喜びで太陽光発電所に屋上や屋根を提供してくれるので はないだろうか。
都心のような大消費地における太陽光発電のメリット は、自然に降り注いでいる太陽光の一部を発電に利用し ているだけで、その場における新たなエネルギー発生が ないことである。水力発電が放っておいても流れ落ちる 水のエネルギーを使って発電すると同様、図16のよう
に自然のエネルギーの流れをバイパス利用させてもらっ ているだけである。したがって、熱源が存在しない。こ の発電によってヒートアイランドは起こらない。たとえ、
その電力を使って自動車を走らせても、そして、家庭用 のエアコンを動かしても、余剰の熱を発生させているわ けではない。これが都心の太陽光発電所の巨大なメリッ トである。
宇宙空間に巨大な太陽光発電所を打ち上げて、電力を 地上に送電しようとする計画もある。しかし、実際に想 定されているマイクロ波電力伝送の計画では、地上に 10km四方のレクテナで、1GWの電力を受電するとなっ ている。飛んでいる鳥が丸焼けになることを防ぐために、
電力密度を10W/m2としたためである。東京都区内の道 路面積と同じレクテナ面積で受電する電力は、同じ面積 に降り注ぐ太陽高エネルギーの1/100にすぎない。も ちろん、エネルギー供給という点では可能な方式ではあ るが、地球全体に入力されるエネルギー量を増大させる という点で、必ずしもエコロジー技術とはいえない。付 加的で限定的なエネルギー源としてはあり得ても、人類 のエネルギー源として、主要エネルギーと想定したと同 時に、現在の化石燃料と同様の問題を生み出すのである。
太陽光エネルギーの利用は、消費地で発電してこそエコ ロジー技術なので、都心道路面積を利用した太陽光発電 所を提案する所以である。
7.2 太陽光からレーザー光への変換
インコヒーレントな白色光である太陽光から、コヒー レントで単色であるLD光に変換することで、どのよう な変化を生み出すことができるだろう。コヒーレントな レーザー光の性質を使うと、
1) 太陽電池のバンドギャップに一致した波長の光で、
高効率光電変換が可能。
2) 駐車中または走行中の自動車から情報を送り、自動 車を追尾するビーム給電が可能。
3) 異なった形状の自動車、位置による射影の変化に対 応した最適形状ビームによるビーム給電など、未来 型のビーム給電システムを構築することが、可能と なる。このために必要な技術は、フェイズアレイ型 のLDアレイやレーザーのコヒーレント結合、ビー ム整形、ビームステアリング技術であり、レーザー の研究課題としても、最先端の面白いテーマである。
従来は、このようなフェイズアレイ型レーザーの研究 は、主にミサイル邀撃用の軍事技術として研究されてき た。すでにマイクロ波を使ったフェイズアレイレーダー は図16のように実用化されており、より分解能の高い フェイズアレイ型レーザーの研究も進んでいる。人類社 会により近いところで、レーザーの最先端技術を開発、
発展させることは有用である。何より、情報を提供して
自然エネルギーの流れの途 中を利用させてもらう。
図16 自然エネルギー利用とは自然のエネルギーの流れの一部を 利用させてもらう利用法であり、余剰エネルギーを発生しない。
くれないミサイルとは異なり、給電されるべき自動車は、
自ら情報を発信して、その位置を知らせるのであるか ら、その情報を増幅してパワー供給する、いわばリピー ター技術でよい。このような技術は、重力波天文学など で開発されている技術を応用することができる。巨大な マーケットをもつことが分かれば、現在、最先端の研究 として行われているフェイズアレイ、コヒーレント結合 の研究も、たちまち長足の進歩を遂げることは間違いな い。アクティブビーム制御が可能な技術は、コヒーレン トビームの本当の応用、利用を可能にして、多くの産業 応用分野で、本格的なレーザー応用の時代を生み出すだ ろう。
8.無衝突電気自動車制御は可能か 8.1 電気自動車の構造
ビーム給電形電気自動車の構造を考えると、現在の自 動車に比べて、きわめて単純な構成となる。本質的な機 能は、ビームで給電された電力を小容量の蓄電装置に蓄 え、その電力でモーターを駆動するだけで、現在のラジ コン・モデルカーとよく似た構成となる。つまり、パ ソコン制御模型と同じ構成で、電気自動車とはパソコン
制御電気自動車となるはずである。図17に示すように、
与えられた電力でインホイールモーターで駆動すること を考えると、マイクロロボットを制御していることと変 わるところはない。むしろ、図18のような模型自動車 の方が、現在の自動車より、将来の電気自動車との類似 点が多いといえよう。電気自動車の時代が来ると、自動 車メーカーの競争相手として、電気技術や電池技術に優 れた電気企業がライバルとなると議論されているが、意 外と、タミヤ模型やマブチモーターのような企業がライ バルとなるかも知れない。工場に導入されつつあるマイ クロロボットは、多数のマイクロロボットが協調して作 業するシステムとして開発されており、その過程で、互 いに相互干渉したり、衝突を回避するような制御は、基 本中の基本として、進歩し続けている。ならば、そのよ うな自動制御、自動運転、自動的回避活動などは、電気 自動車の本質的な特徴に加えられるべきものである。
8.2 情報技術による無衝突電気自動車の実現
電気駆動によって、充分な制御能力を与えられた電気 自動車では、無駄な要素を極限までそぎ落とすことが 可能である。すでに、レーザービーム給電が実現すれ ば、内燃機関の残渣である内蔵電池を切りつめて、最小 限、横町の充電不能地域を走行するに十分な容量だけで 可能だとした。現在の自動車は、鉄板で囲われた重い ボディーをもっている。ボディーが必要な理由は、人間 を快適に保つためのキャビン特性と、万が一、衝突した ときに人間を守る事にある。そして、鉄板で作られた頑 丈なボディーは、衝突しない自動車では不要となる。単 に、走行時の風雨を防ぎ、温度管理をするためのものな ら、現状のように大きな重量を必要としない。
多数のマイクロロボットを衝突なく作業させているよ うに、パソコン駆動電気自動車であるなら、道路上を走 行している多数のパソコンで多重バックアップをしなが ら走行できる。たとえ、1台の自動車のパソコンが故障 図17 将来の電気自動車はインホイールモーターをパソコン制御
し、パソコン制御模型と同様の構成となる。
図17 フェイズアレイ型レーダーは実用化されており、同様の機 能を持つフェイズアレイ型レーザーによって多ビーム給電 が可能になる。
図18 将来の電気自動車はリモコンカート共通点が多い。
したとしても、その影響を排除して、安全な交通制御を することが可能になるだろう。この点では、本格的な情 報技術の応用が重要だが、原理的な困難さはどこにもな さそうである。多数の自動車が互いに会話し、相互の位 置関係、速度を制御しながら、集団運行するというのが、
電気自動車の時代だろう。もちろん、個人が自由に運転 することを排除するものではなく、その場合も、ドライ バーが運転している情報は、近隣の自動車にはすべて伝 わっていて、それを自動的に回避してくれて自由な運転 を妨げない、というシステムは開発可能である。最近の パソコンゲームの中で行っている運転予測、それからの 回避指令などは、まさに、このような現実社会の電気自 動車運行制御のためのシミュレーションとして活用され るべき技術である。
高度交通制御システムが長年にわたって研究され、衝 突防止システムなどが実用レベルに達しつつあることは 承知している。筆者はこのような分野には門外漢である が故に、その本質的な部分だけに言及し、具体的な技術 課題にはふれない。ただ、これまで、高度交通制御シス テムや衝突回避技術の研究は、あくまでも既存の自動車 制御技術の中で語られることが多く、本論文のように、
移動手段である自動車の重量を極限まで軽量化し、水平 移動のための必要電力量を最小にするべきだという提案 はなかったように思える。電力駆動である電気自動車の 時代には、不必要なエネルギー消費を抑え、最小の給電 で走行可能にする必要があるので、これまでとは根本的 に異なった観点からの、高度交通制御システムが構想さ れなければならない。
8.3 高密度集団走行による安全性の確保
以前から、電気自動車は自動運転に優れたシステムで あり、そのような交通制御が適しているとされてきた。
東京都区内のようなビジネス街では、ドライブを楽しむ ための自動車というより、ビジネス目的の移動手段であ
る。その場合、ナビゲーションシステムに目的地を入力 すれば、後は自動運転で目的地に運んでくれる電気自動 車の時代が来るだろう。到着までの間は、仕事をするな り、音楽でリラックスするなり、各人各様の時間を過ご せばよい。
ところで、衝突事故が起こる原因は何だろう。根本的 には、走行する自動車間に相対速度が発生することが問 題で、もし、すべての自動車が同一速度で走行していれ ば、衝突事故はあり得ない。事実、連結されて走ってい る電車では、車両間の衝突はないのである。ならば、衝 突をしないための運転手法が、現在の自動車とは異なっ てくる。現在は、何かアクシデントがあったときにも安 全に回避可能な車間距離を保つことを基本原理としてい る。しかし、実際は、そのような車間距離を保って運転 することはほとんど不可能で、そのため、自動車事故は なくならない。
もし、すべての自動車が連結されて走れば、少なくと もそのグループ内では衝突事故はない。レーザービーム 給電が、自由度を保ちながら必要電力を供給する手法だ とすれば、自動車間情報通信とパソコン自動制御による 自動車IT連結技術は無衝突走行を実現するためのキー テクノロジーである。自動車相互間は物理的、機械的に は連結していないが、情報技術を通して、強固な連結を することができる。その場合、自動車間の距離を数m以 上も離す意味はあるだろうか。むしろ、なるべく近づけ た方が安全である。そして、図19のような集団走行が 可能になると、空気抵抗が大きく減少するので、高効率 運転に直結する。
考えてみよう。多数の自動車が同じ速度で走行してい るとする。何か事故があって、急激に先頭車両が減速し たとする。先頭車両が減速すると同時に、同じ情報は後 続車両にも伝えられるので、グループ全体が同じ加速度 で減速することが可能である。情報伝達という点では、
同じ自動車内も、集団運転中の他の自動車もまったく区 別はない。人間のドライバーが自分で判断して減速させ る場合は、各々のドライバーの反応速度だけ遅れが生じ る。そのため、集団運転をしていると、多重事故に発展 する。全体が情報技術で連結され、多重バックアップコ ンピュータで制御されている場合は、応答遅延がないの で、このような多重事故は発生しない。これは、人間が 運転する自動車と、自動制御が基本の電気自動車走行と の大きな違いである。
上記のような状態では、これまでとは常識が逆転する。
上記の集団走行運転の場合、万が一、制御が聞かなくなっ て、暴走が起こった場合、その衝撃は何で決まるか。元々、
同じ速度で走行していたのだから、制御が外れて、衝突 に至るまでの加速による。そして、車間距離が短ければ 短いほど、その加速は小さいのであるから、これまでの
('#%
) "
%
% +*,-#&%!$
図19 情報技術で連結された電気制御自動車の場合、高密度、集 団走行が安全走行につながる。
常識とは逆に、車間距離が短い方が安全だということに なる。強力な制御網の中で走る電気自動車では、これま でとは異なった安全技術が必要になるといえるだろう。
各人が自由に合流・離脱を繰り返しながら集団運行を 行うシステムを見ると、現在の光通信が行っているパ ケット通信と全く類似である。情報そのものにタグがつ き、それによって貨物を統合分配する物流システムでも 同じことが行われている。これを電気自動車に応用する ことは、パソコン制御・モーター駆動の完全電気自動車 ならば、技術的な問題点はない。自動車の運行において も、信号管理システムとも連携して、無駄な停止をする ことなく、人々の行きたい目的地に、自動的に到着させ るシステムも可能となる。技術的に基本的な問題がない ならば、このような未来社会に向かって積極的な努力を することが重要であろう。情報通信においても、物流に おいても、さらに工場内の生産管理においても、このよ うな方式が優れていることはすでに実証済みである。そ れらをさらに洗練させて、人間個人の自由度を束縛して いる要素を取り除くことが、個人のドライバーを気持ち よく、新しいパケット交通システムに誘導することにな るだろう。
ここで必要になる技術は、図20のように不特定多数 のコンピュータが集団で互いをバックアップしながら、
全体を最適制御するというシステムである。どこが中心 であるわけではなく、自動的に集団の統率を測る群れの 制御を行うには、渡り鳥や集団暴走する野牛の生態を真 似る必要があるかも知れない。一見複雑に見える集団行 動が、実はごく少数の運動原理だけで再現できることは、
ソフトマターなどの研究ともつながるかも知れない。
不特定多数の電気自動車に搭載されたコンピュータが 互いに会話しながら、集合・分離・連携を繰り返しなが ら、明確な中心を持たないで、高信頼の制御を行うシス テムが必要となるが、これらは、現在、群知能ロボット
として研究されているものの延長にある。集団の中心部 分は硬い結合で結ばれており、自由度の少ない集団走行 を行う。周辺部になるにつれ、集合方向にはコンピュー タの制御が厳しくなるが、離脱方向には自由度の拡大を 認めるフェイル・セーフ制御が開発目標となる。何より 重要なことは、自動車交通のトラフィック制御は、これ までの情報制御やゲーム、ロボット制御と異なり、間違 えば人命にかかわるIT制御技術の開発だという点にあ る。現実の人間社会における本気の情報制御技術の真剣 な開発は、情報技術、制御技術の飛躍的な発展を生み出 す土台となるだろう。
8.4 究極の軽量化技術
上記のような強力な情報連結、安全制御のなかで走行 する自動車を考えると、自動車はどこまで軽量化できる だろうか。絶対に必要なものはホイール、モーター、イ ンバーター、電力源、制御用コンピュータ、フレーム、
ボディーである。自動車に求められる高速、安全、快適 で自由な移動を提供し、なおかつ、前述のように密に結 合して、必要なときはグループ走行を、そして、それか ら自由に離れたり合流したりできるシステムを構築すれ ば、自動車そのものの本質的な機能に必要な重量まで、
軽量化することができる。それによって、内燃機関で駆 動している現在の自動車に比べて、桁違いに高効率で快 適な乗り物を提供できる可能性がある。
そのためのキーテクノロジーが、離れた位置から大電 力を供給することのできるレーザービーム給電である。
一見、電気自動車と無関係な技術である高出力半導体 レーザーが、新しい時代の、本当の電気自動車のキーテ クノロジーとなりうるのである。
8.5 エアコンはどうしよう。地域冷暖房の提案 究極の軽量自動車ができた場合、もしかしたらエネル ギーの大半はエアコンに使われるのではなかろうか。集 団走行をして空気抵抗を減少させた場合、一定速度で走 り続ける自動車に必要なエネルギーは摩擦や転がり抵抗 のような損失だけである。それらは意外と少ないだろう。
加速するのにはエネルギーが必要でも、走っている車の タイヤ抵抗がそれほど大きいとは考えにくい。ならば、
エアコンこそが最大のエネルギー供給が必要な機能と なる。
エアコンのエネルギーを個別自動車でバランスさせよ うとすると、それだけのエネルギー供給が必要となり無 駄である。むしろ、図21のように一定地域を太陽電池 で覆ってしまい、その地域に入る太陽光エネルギーを減 少させることで、地域を冷房することは容易である。太 陽電池と同時に、透過率が自由に変えられるガラスなど を設置することで、地域冷房は原理的にできる。現在主
集合
離脱
集団中心は硬い制御 離れると、Fail Safe条件で 自由運転
多数によるバックアップ 部分的故障を全体でカバーする フェイルセーフ制御
図20 多数のコンピュータが離合集散しながら、全体と個の調和 を制御するシステムが必要となる。
流のシリコン太陽電池とは異なり、透過する太陽光スペ クトルを選別、制御できる太陽電池を利用すれば、この ような機能を実現できる可能性がある。
暖房についても考えよう。電気自動車に電力を供給す る半導体レーザーの効率は50−60%である。すなわち、
40−50%は熱になっているので、必然的に水冷または 空冷をすることになる。これらのエネルギーはそのまま、
道路上に放熱されるのであるから、一定の地域暖房の機 能も果たすことができる。そのようにして、本当に必要 なエネルギーだけをエアコンで消費するようになるのが 未来社会というものだろう。
8.6 電源立地の考察
2008年から2009年にかけて、100年に一度の経済危機 が到来し、それを切り抜ける方策として、グリーンニュー ディールが取りざたされている。その中では、太陽光発 電が中心的技術として語られ、欧州をはじめ、中国など でも大規模太陽光発電所が建設されている。典型的なも のは、ドイツ/ベルリンの40MW太陽光発電所で、ベ ルリンの不要になった軍用空港の滑走路に太陽電池を張 り巡らしたものである。それ以外にも、巨大な面積を持っ た太陽光発電所が建設されているが、不思議に感じるの は、これらの太陽光発電所の電力コストの議論には、土 地の取得価格などは一切含まれていないことである。現 在は、不要な公共用地や不毛の荒野を前提として、太陽 光パネルは地面に直接設置されることを前提としている。
これは、その面積を利用する能力を発電のみに限定させ るので、非常に非効率な土地利用の形態となる。飛行場 や発電所の敷地で行うものは、いくら大規模でもそれは 実験設備の域を出ない。そして、本当に太陽光発電所を 建設する場合には、土地取得を始めとする立地のための コストが大きなものになる。実際、原子力発電所なども 含めて、広大な土地取得が必要になる。
一方、ここで提案した道路上の太陽光発電所は、元来 が公共用地なので、土地取得コストが不要となる。さら
に、道路周辺の住居やビルに協力を仰ぐ場合も、屋根や 屋上の賃貸契約であり、それを電力使用量で保証すると いうことにすれば、こちらも直接的な費用は発生しない。
巨大都市インフラを構築する場合、土地取得が不要な形 で、巨大太陽光発電所を建設可能というのは、大きな利 点である。これらを経済学的に計算/評価した場合、意 外と、道路上発電は実用価値が認められるのではないだ ろうか。現在のように、太陽光発電を個人の選択に任せ るのではなく、電力供給という公共インフラ整備と捉え ることが重要な視点であろう。
それ以上に重要な視点は、地表が持っている本来の生 産力を殺してはならないという点であろう。スペインな どに建設されている太陽光発電所では、広大な山野にパ ネルが設置され発電をしている。本来、畑や果樹園とし て生産力のある地面を単なる太陽光パネルの設置場所と して、電力以外の生産力を奪っていることを失念してい る。これでは本当のエコロジーではあり得ない。地表に おける生産力、そして、人間の活動を毀損しない状態で 大容量発電が可能な都市型道路発電は究極のエコロジー 技術である。
8.7 核融合発電所と同時に開発しよう。
太陽光発電所の宿命は、雨が降った日や夜は発電でき ないことである。当然、電気自動車が走り回る時代には、
上記の太陽光発電所をバックアップする発電所が必要と なる。CO2問題などを考えると、これから大規模の建設 されるべき未来型原子力発電とは核融合発電所であるだ ろう。始めの部分で、物質のエネルギー密度を議論した が、核融合の発生するエネルギー密度は、他のものから 隔絶して大きいので、それを利用しない未来はない。電 気自動車のために、大量の高出力半導体レーザーが必要 となり開発される。当然、940nm、970nmの波長をもっ た半導体レーザーは大量に生産されるようになり、値段 も劇的に安価になる。ちょうど、阪大レーザー研に建設 してきたLFEXレーザーが完成し、日本が独自提案し た高速点火方式の実験も始まろうとしている。2011年 には4.2MJという巨大な出力のレーザーを用いた米国の National Ignition Facilityにおける核融合実験が始まり、
レーザー核融合の研究は、核燃焼が可能かどうかといっ た物理学的な研究から、電力発生にいたる工学的研究に その意味合いを変える次期に来ている。工学的観点から すると、今日までの慣性核融合の最大の問題は、高繰り 返しに耐える高出力固体レーザーの開発と、その励起源 である半導体レーザーのコストダウンであった。しかし、
核融合発電そのものが、半導体レーザーの最大マーケッ トであるような状態では、そのコストダウンを研究段階 ですることになり、きわめてむずかしい。しかし、技術 的には容易な太陽光発電所からのレーザービーム給電な
太陽電池
反射率可変 太陽制御膜
太陽光制御による 地域冷房
図21 太陽光発電所に反射率可変型太陽電池を組み込むことで、
太陽光入力そもののを制御した地域冷房を可能にすること ができる。