なぜ男性は人に頼らないのか?
——就労地位の効果に注目した実証研究——
1章——はじめに ... 2
1-1 本稿の目的 ... 2
1-2 本稿の背景と意義 ... 2
2章——先行研究 ... 4
2-1 3つの研究潮流 ... 4
2-2 ソーシャル・サポート研究(SS研究)における男性 ... 5
2-3 パーソナル・ネットワーク論(PN論)における男性 ... 7
2-4 男性学における展開 ...10
3章——分析枠組み,使用データと変数 ...13
3-1 前章のまとめと問題設定 ...13
3-2 分析枠組みと仮説 ...14
3-3 使用データと変数加工 ...15
4章——分析結果の検討 ...18
4-1 記述統計 ...18
4-2 分析結果の検討——男性 ...21
4-3 分析結果の検討——女性 ...24
4-4 男女の分析結果の差異 ...26
4-5 議論 ...27
5章本研究のまとめと課題 ...29
5-1 本研究の結論 ...30
5-2 本研究の課題 ...30
謝辞 ...32
注 ...32
参考文献 ...34
1章 はじめに 1-1 本稿の目的
本稿の目的は,男性が男性であるが故に生じる社会的不利として,男性の対人関係におけ る頼りにくさを取り上げ,この男性の頼りにくさが稼得役割の達成という職業上の立場と結 びついていることを明らかにすることである.これまでの研究では,この日本社会で男性が 負ってきた社会的役割についての議論と,男性の対人関係についての議論は独立して発展し てきた.本稿では,この2つの議論を結びつけ,実際に計量社会学的手法を用いて検証する ことで,男性の頼りにくさと男性の社会的役割との関連を明らかにすることを目的とする.
1-2 本稿の背景と意義
日本社会は多くの点で男性に有利な社会であり,女性が社会的・経済的な不利を被る社会 であることが,これまで社会学では繰り返し指摘されてきた(江原 2001).しかし近年,女 性が被る不利だけではなく,男性もまた同じように性別に基づいた不利を被るという主張が 多く登場している(伊藤 1996,多賀 2016,田中 2009).これらの主張は,男性もまたジ ェンダー化された存在であり,女性と同程度では無いにせよ,性別に基づく役割や傾向性を 引き受けており,その結果男性もまた社会的不利を被っていると主張する.彼らの主張する 男性の引き受けている社会的役割とは,対面的相互作用場面における表出能力の低さ,稼得 役割の遂行義務の二つにまとめることができる.その帰結として,男性の過労死や自殺率の 高さ等が指摘されている.特に大きなものとして,男女における幸福度の違いがある.実際 に,現代日本は男性優位な社会であるにも関わらず,男性の幸福度は一貫して女性よりも低 い.さらに女性では大きな違いがないが,男性では未婚・離死別で配偶者がいない場合,本 人が非正規雇用の場合幸福である割合が非常に低い(内閣府 2014: 37-38)1).
彼らの議論は,男性が女性と同じくジェンダー化された存在であること,すなわち男性も 同じく「男らしさ」を社会化の過程で内面化していることを示した点では成功していると言 える.男性が社会的に上記の2つの役割を負っていることそれ自体に対して,大きな異論は ないだろう.だが,男性がこれらの役割を負うことと,それが社会的不利性であることは大 きく異なる.女性の社会的不利性が,昇進機会や賃金に関する格差,雇用の障壁であること や,賃金を支払われない,家事や育児といった家庭内労働を規範的に要請されていることと 比較すれば,男性が背負っているこれらの役割を社会的不利と結論することの難しさは明ら かである.実際,男性学の代表的な論者である多賀太は,男性が経験する「生きづらさ」(本 稿の言葉で言えば,社会的不利)とは,われわれの社会が男性優位の構造をなしており,そ の男性の優位性を維持することの,男性にとっての弊害ないし副作用として位置づけている
(多賀 2016:58).そのため男性が「男として」経験する社会的不利と女性が「女として」
経験する社会的不利は非対称的であると論じている.本稿もまた同じ立場に立つが,それで は男性の経験する社会的不利とは,具体的には何なのだろうか.同じく多賀は,男性の社会
的不利について具体的には以下の3点を指摘する.つまり,長時間労働への要請に代表され る仕事への強いコミットメントの要請,男性の中での競争における敗北による剥奪感,家庭 役割と仕事役割の両立への要請,である.これらは果たして男性の経験する「社会的不利」
として妥当なのだろうか.まず渋谷知美が指摘するように,仕事への強いコミットメント要 請は,裏返せばそれだけの地位や責任を男性が背負っていることと同義である(渋谷 2001).
また,競争での敗北による剥奪感については,多賀自身が指摘するように,男性の特権意識 と表裏一体と言える.最後に家庭役割と仕事役割の両立に関してだが,非正規雇用のみなら ず,正規雇用の女性も増加しつつある現在,むしろこの役割重複を引き受けているのは女性 と言った方が適切だろう(稲葉 2004).さらに言えば,稼得役割の遂行は,賃金の支払いと 社会的立場の獲得を意味する.稼得役割それ自体は,社会的不利性というよりもむしろ有利 なものと言えるのである.つまり,男性学は男性の負っている社会的役割の特定に成功して いる一方で,その社会的役割が負っている男性が経験しうる社会的不利を特定する作業を怠 っていると言ってよい.このような中,田中俊之(2009)は失業した中高年男性が家庭や地 域といった私的領域において「変な人」としてラベリングされ,実質的に私的領域における 活動を制限されるといった事態を指摘している.このような,稼得役割の未達成が私的領域 における居場所のなさを帰結するという事態は,男性特有の不利と言いうるかもしれない.
このような中,こうした男性学の一連の議論とは別の研究領域において,近年,男性の具 体的な不利が繰り返し報告されてきた研究領域がある.それが,人間関係を保有しない状態 である,社会的孤立についての研究である.孤立研究のなかでは,男性の孤立しやすさが繰 り返し報告されてきたのである(石田 2011,金澤 2014,永吉 2017)2).さらに,孤立研 究の母体といってもよいソーシャル・サポート研究でも,男性の他者への頼りにくさは繰り 返し報告されている(稲葉 1998,大日 2017).さらに踏み込めば,男性のサポート源は配 偶者に偏っており,配偶者以外のサポート源をもつことが,女性に比べ少ないことが指摘さ れている.では何故男性は,女性に比べ配偶者以外の関係をサポート源として持つことが生 じにくいのだろうか.概ねこれまでのサポート研究では,男女のサポート源の偏りは,男性 と女性が異なる対人規範を持つことで説明されてきた(稲葉 2002,石田 2011).しかし先 ほど概観したように,男性が内面化している対人規範,すなわち自己表出能力の低さは,男 性の負っている社会的役割の一側面にすぎない.男性の孤立しやすさ,頼りにくさは,内面 化している対人規範の傾向だけでなく,男性の置かれている社会的役割のもう一側面,すな わち稼得役割の達成義務と関連して生じている可能性は,十分検討に値するだろう.
本研究では,この男性の他者への頼りにくさを,男性特有の問題として捉えることで,男 性が男性であるが故に経験する社会的不利として,この頼りにくさが生じていることを明ら かにする.これにより,男性学には頼りにくさという具体的な男性の社会的不利の対象を,
孤立研究やサポート研究には男性の頼りにくさの背景にある社会的役割,すなわち原因につ いての知見を提供することが可能となる.
2章 先行研究 2-1 3つの研究潮流
男性の頼りにくさを検討するためには,先行研究としてソーシャル・サポート研究,パー ソナル・ネットワーク論,男性学という異なる知見を参照しなければならない.本節では,
これらの3つの異なる研究潮流の位置付けを論じることで,それらを参照する意義について 論じることを目的とする.
さて,これまで社会学の計量研究では,個人の保有する人間関係はソーシャル・サポート とパーソナル・ネットワークという,2つの異なる枠組みによって研究が行われてきた.ソ ーシャル・サポート(以下 SS)とは,様々な定義があり得るが,社会学では概ね「対人関 係から得られる,手段的・表出的援助」のことを指す(稲葉 1998a).これは人間関係その ものとは区別され,対人関係の中で個人にとって有益な効果を示す要素として定義されてい る.社会学では,ジェンダー研究や育児サポート研究の文脈で導入されてきた(稲葉 1998a,
松田 2001,前田 2004a)3).これらの研究の主要な関心は女性の行っている,主に配偶者 への潜在的なケアの負担や,育児といった誰かをケアしている人々をサポートしているのは 誰か,といったものだったと言ってよい.すなわち,背景に想定されているのは女性のケア 役割であり,サポートの受け手として焦点が当たっていたのは,主に女性であった.その証 拠に,女性のみを調査対象としたサポート研究は多く挙げることができるが,一方で男性に 焦点が当たるのは,あくまで男女差の析出を主目的とした研究であった(石原編 1999,安 河内編 2008).そのような中,無縁社会,社会的排除といった関心から始まった孤立研究が 明らかにしたのは,男性の孤立しやすさ,ひいては男性の他者への頼りにくさであった.つ まり,男性のサポートそれ自体に焦点があたり始めたのは,社会学におけるサポート研究史 上近年のことと言ってよく,孤立研究の中でも男性が女性と比して何故頼りにくいのか,ど のように頼りにくいのかといった,メカニズムにせまった研究の蓄積は決して多くない.
一方パーソナル・ネットワーク(以下PN論)論とは,「個人がとり結ぶ人間関係を,個人 を中心として捉えようとする研究(大谷 1995)」であり,主に都市社会学の領域で展開され てきた.サポートとの対比関係で言えば,パーソナル・ネットワーク(以下 PN)とは個人 の取り結ぶ人間関係それ自体を対象としてきたと言えるだろう.これらの研究の主要な関心 は,都市度,すなわち居住地の人口量が個人の保有する人間関係にどのような影響を与える のかというものであった(Fischer 1982=2002).さらに言えば,個人の保有する人間関係に 与える影響として都市度以外に関心が寄せられたのはライフステージや社会階層上の位置と いった要因であり,これらの要因とは独立に都市度の効果が認められるかどうかが争点とな ってきた(松本 1995,森岡編 2000,赤枝 2011).であるが故に,PN論の研究群には男女 別に分析されたものも多く,また男性の人間関係それ自体を左右しうる要因に関する知見も サポート研究に比して相対的に多く存在する.
最後に,男性学の知見を参照する.男性学は,男性が男性であるが故に経験する社会的立
場に焦点を当てた研究群である.SS研究,PN論ともに人間関係に関する議論であり,男性 が置かれている社会的立場について直接知見を提供するものではない.SS 研究はジェンダ ー研究として導入された背景があり,女性の置かれている社会的立場や役割,その立場や役 割が与えるサポートへの影響には豊かな知見が存在するが,前述したように男性のそれはあ まり豊富とは言い難い.またPN 論は,後述するようにSS研究と比較した場合男性の社会 的立場に関する知見が存在するが,あくまでも都市度の人間関係への効果が主眼に置かれて いるため,充分なものではない.そこで,男性学の知見を参照することで,男性の社会的立 場についての知見を直接検討する.
以上,SS研究,PN論,男性学という3つの研究潮流の知見を参照することで,本章では 男性の頼りにくさの背景について,これまでの研究の知見の整理と問題点の指摘を行う.
2-2 ソーシャル・サポート研究(SS研究)における男性
本節では,SS 研究の概観と,その応用領域といってもよい孤立研究の知見を確認してい く.まず SS 研究は,元々は社会心理学領域で発展した研究群である.対人関係と健康との 関連が報告されたことに端を発したこの研究領域は,ソーシャル・サポート(以下 SS)と ディストレス,すなわち対人関係と心理的健康との関連と,そのメカニズムの解明こそが主 要な関心であった(浦 1992).これらの研究が明らかにしたもののうち,社会学に大きく影 響を与えたものとして,以下の2点が挙げられる.1つは道具的,表出的というサポートの 種別に関する区別であり,もう1つは知覚されたサポート,実行されたサポートという,サ ポートの測定指標に関する区別の知見である.道具的サポートとは,特定の目的を達成する ための手段を提供・貸与してもらえるというサポートであり,具体的にはお金を貸すといっ た行為が該当する.表出的サポートとは,相手の情緒に働きかける行為であり,例えば話を 聞く,励ますといった行為が当たる.また,サポートの測定指標としては,社会学では実行 されたサポートではなく知覚されたサポートが用いられるのが主流となっている.これはつ まり「サポートが期待できる人間関係」が測定されていると言ってよく,別の言い方をすれ ば人間関係における「サポートの利用可能性(と本人が認知しているもの)」が測定され,議 論されていることは念頭に置かれたい4).
次に,SS研究の社会学における導入について述べていく.前述した通り,SS研究の社会 学への導入にはジェンダーや家族,育児といった関心が大きく関わっている.この導入の流 れは,大きく2つの流れに分けることができる.1 つは,核家族化の進行によって育児の担 い手が母親に集中していくという流れから行われた,育児サポート研究の文脈である(松田 2001,前田 2004a).
もう 1 つが,家族ストレス論の流れを直接引き継いでいる,稲葉らによる一連の議論であ る.稲葉はソーシャル・サポートを導入することで,家事や育児といった,遂行している本 人にも意識されやすい「強いケア」だけでなく,本人には自覚されにくい,他者の身に生じ
た出来事に共感する,心配するといった,「弱いケア」をも性別役割分業の議論の中に組み込 むことに成功している(稲葉 1998a).稲葉の議論で問題とされているのは,この「弱いケ ア」が男女で不均衡に分配されていること,すなわち配偶関係の中で夫のほうが妻から多く のサポートを受け取っている点に集約される.家事や介護,育児といった「強いケア」だけ ではなく,「弱いケア」もまた性別によって社会的に分業されているのである.
いずれにせよ,社会学における SS 研究の導入は,ジェンダー論的関心によって,すなわ ち女性を中心に対象とされてきたと述べてもよいだろう.もちろん,男女問わずSSが調査・
研究されたケースも散見される(菅野 2001)ものの,やはり研究関心の中心にあったのは 女性であった.別の言い方をすれば,男性は SS 研究の中では周辺的な存在であり,注目さ れてきた存在であるわけではない.そのために,男性のサポートについての理論的考察や,
その背景に対しての議論が乏しかったと言わざるを得ない.こうした中,後述する孤立研究 の中で,男性の孤立しやすさが報告されていくことで,男性のサポートにも焦点が当てられ ていく.
孤立研究の嚆矢と呼べるのが,石田光規による JGSS2003 を用いた研究である(石田
2011).石田はJGSS2003を用い,表出的サポートを持たない状態を孤立と定義した上で分
析を行っている.結果,男性,高齢者,離死別経験者,町村居住者に孤立する傾向が見られ た.さらに石田は男女別に分析を行った結果,男性では配偶者の有無が,女性では団体参加 の有無が孤立と有意に関連していることを明らかにしている.また金澤悠介(2014)は,サ ポートを全く持たない状態を孤立,1 つしか持てない状態を孤立予備軍,2つ以上持つ状態 を複数保持者と定義し,分析を行っている.その結果,婚姻状態が孤立と孤立予備軍を分け ること,男性であることや世帯収入が低いことが孤立予備軍と複数保持者を分けることを指 摘している.また,男性にもその関心を広げた家族社会学の研究に,大日義晴(2017)によ る男女別の表出的サポート源の組み合わせパターンについての分析がある.大日はNFRJ08 データを用いた分析の結果,男性のサポート源のパターンは,配偶者と友人という組み合わ せが最も多く,次に配偶者のみ,三番目に配偶者と子どもの組み合わせ,最後に多様なサポ ートで構成されるグループという順に分布していることを明らかにしている.特に,配偶者 のみのグループの構成割合が女性と比較して多く(全体の 3 割弱を占める),孤立研究と同 様に男性が配偶者依存的なサポート構造を持つことを指摘している.これらの先行研究から 一貫して読み取れるのは,男女問わず,表出的サポート源の中心として配偶者があること,
ただし,女性は配偶者以外のサポート関係を持ちやすいのに対し,男性は配偶者以外の関係 を持ちにくいという事態である.すなわち,サポート源という観点からは,男性は配偶者に 依存的であり,女性は配偶者以外の関係を持ちやすい(その意味で依存的でない),という構 図である.従来このようなサポート関係の男女間における非対照性は,男性が婚姻関係から 女性に比べ多くの心理的メリットを得ているとして,つまり男性における女性からの搾取構 造として理解されてきた(稲葉 2002).しかし石田や金澤が指摘するように,表出的サポー
ト源の配偶者への依存は,裏を返せば配偶者サポートの喪失が即孤立につながりうるという 危険性をはらんでいる.近年では未婚者や離別者の増大が繰り返し指摘されている.つまり,
配偶者を得ることができないないし失いうる事態が増加している以上,男性の配偶者サポー トへの依存傾向は,孤立につながりうる男性の増加を意味している.
それでは,ソーシャル・サポート研究,ないしサポートの有無を孤立とみなす孤立研究に おいて,男性のサポートの得難さ,孤立しやすさはどのように説明されてきたのだろうか.
この際有力な説明としてしばしば用いられるのは,稲葉昭英の「ネットワーク構造化仮説」
である(稲葉 1998a).この仮説は2 つの命題によって構築されている.まず,われわれの 社会では女性は男性と比べ他者にケアを提供することが規範化されている.次に,ネットワ ークは同性を中心に形成される.この2つの命題により,女性は男性と比べネットワーク内 にケアの提供者を多くもち,男性は乏しいという帰結が想定される.すなわち,男性がサポ ートを得にくい,つまり人に頼りにくいのは,ネットワークの他者の多くが男性であり,ネ ットワーク内にケアの提供者を多く持ちにくいことが原因であると説明される.それゆえに,
男性にとって配偶者の獲得はケアの提供者を確保できることを意味する.この仮説は,男性 の配偶者依存の傾向と,配偶者以外のサポートの得にくさを十分に説明しているように見え る.ただし,稲葉の研究自体の焦点が女性のストレスと提供している「弱いケア」にあり,
説明されるべき事象が男女差に置かれていたために,男性の人間関係について説明する上で は不十分であるとは言わざるをえない.これらの議論の問題点は,男性のサポート源の少な さを最終的に,男性の対面的相互作用場面における自己表出能力の低さに帰している点にあ る.男性の孤立しやすさについて稲葉のロジックを採用する石田の議論もまた,同様の問題 を孕んでいる.というのも,孤立研究の中では,男性と女性では孤立へのメカニズムが異な り,かつ日本社会では男性の孤立と経済的資源や職業上の立場との関連があるという可能性 が報告されているためである.永吉希久子(2017)は女性においては貧困や失業は非家族サ ポートの欠如と関連していないが,男性において非家族サポートの喪失に貧困への移行や失 業といった,経済的要素が関連していることを指摘している.また伊達平和(2013)は,
EASS2010を用いて,日中韓台の東アジアの孤立要因を比較している.結果,性別の効果が
強いのは日韓に限り,中国ではその効果が弱く,台湾では孤立に対して性別の効果が見られ なかった.伊達はこの結果を,日韓では性別役割分業が強く残っているからではないかと考 察している.すなわち,男性の孤立傾向の要因は,単に男性が孤立しやすい対面的相互行為 における規範,すなわち心理的傾向を内面化していることだけではなく,男性の置かれてい る社会的立場,つまり男性に要請されている職業的立場にある可能性が示唆されているので ある.
2-3 パーソナル・ネットワーク論(PN論)における男性
本節では,PN論における男性の人間関係に関する知見を確認していく.前述したように,
PN論とは「個人がとり結ぶ人間関係を,個人を中心として捉えようとする研究」(大谷 1995:
28)であり,その中心にあった関心とは,都市度の人間関係に対する影響,すなわち居住地 によって人間関係(すなわち,パーソナル・ネットワーク)がどのように変わるのか,とい うものである.しかし,単純に都市度のPNに対する影響だけが議論されたわけではなく,
階層,ライフステージ,性別といった,都市度以外の人間関係に関する様々な要因が同時に 研究されていたことも注目すべきである(松本 1995,森岡編 2000).つまり,PN 論にお ける理論的争点とは,都市度(居住地の特性)と社会構造(社会階層,ライフステージ,性 別)のどちらが人間関係を説明するのかというものだったといってよい 5).そのため,PN 論の知見には,男性の人間関係,すなわちPNに関する知見も多く存在する.本節では,PN 論における男性の人間関係についての理論的,実証的な知見を参照することで,男性の人間 関係の規定要因や,実態の把握を行なっていく6).
性差に直接注目したPN論としてまず,野辺政雄(1999)と大和礼子(1996)がある.ま ず野辺の議論から確認していく.野辺は高齢夫婦の PNとSSにおける性差を,岡山市居住 の65歳以上の夫婦を対象にした調査から明らかにしている.まず理論的な点に着目すると,
野辺が想定している男女差は2 つある.1つは,男女における社会関係の形成スキルと自己 表出スキルの差異である.女性は他人と親密な関係を結ぶことや,自己を表出するような社 会化を受ける傾向にあり,一方男性は自力で行動することや,自尊心を保つような社会化を 受ける傾向にある.これにより,特に人間関係を喪失しやすく,人間関係の構築機会が限ら れる高齢期では人間関係の男女差が大きくなりうる.もう1つは,男女における就労の差で ある.男性は仕事に生活の多くを拘束されているが故に,職場関係を女性よりも多く組織し ている.かつ,高齢期においては退職し職場関係を大きく喪失するため,女性よりも配偶者 依存的になりうる.以上の2つの想定の下での調査の結果,明らかにされた知見のうち本稿 との関連の上でまとめれば,以下のようになる.まず,PN の規模に関しては,男女差が認 められなかった.次に,PN の種類別に男女差を確認すれば,男性では職場関係が多く,女 性では近隣関係が多かった.逆に言えば,親族関係,友人関係には大きな差は認められなか った.ここで女性に近隣関係が多い理由として,野辺は子どもの活動への参加を通じた関係 であると推察している.言い換えれば,男性における就労,女性における養育という,伝統 的な性別役割分業がPNに影響を与えていると理解できるだろう.またSSに関しては,男 性は女性よりも配偶者からのサポートを期待でき,また職場関係にも女性よりもサポートを 多く期待できた.一方女性は近隣関係や親族に対して男性よりもサポートを期待できた.ま た,表出的サポートに限れば男性よりも女性の方がPN全体に対しサポートを期待できる傾 向にあった.なお,友人関係へのサポート期待に男女差はなかった.野辺の知見をまとめれ ば,PN に関する男女差は性別役割分業に関する職場関係や近隣関係の差であること,逆に 言えばその他にPNの男女差はないことがある.次に,SSに関して言えば男性は配偶者への サポート期待が高く,同時に表出的サポートに関しては女性に比して乏しいことが指摘され
ている.
次に,大和(1996)を確認していく.大和は,ジェンダー・ロールを大きく分けて2つの 側面に整理する.1 つは,社会構造上の地位に対応した役割としてのジェンダー・ロールで ある.これは,女性は主に家事や育児といった家庭役割を,男性は職場での役割を割り当て られるという伝統的な性別役割分業を意味している.もう1つは,対面的相互作用場面にお ける役割としてのジェンダー・ロールである.これはいわゆる「女らしさ/男らしさ」とい ったものであり,女性のコミュニケーションおける表出的,共感的傾向,男性のコミュニケ ーションにおける道具的,競争的傾向として考えられる.このうち大和は対面的相互作用場 面におけるジェンダー・ロールに注目した.その結果,中高年男性を対象に,水平的なコミ ュニケーションを志向する「結びつき志向」と配偶者以外からサポートの期待が関連してい ることを明らかにしている 7).また前田尚子(2004b)は男女のライフコースの違いに注目 し,高齢期(40〜69歳)に保有している友人関係の形成文脈(出会いのきっかけ)と継続期 間の男女差を岐阜市のデータを用いて分析している.結果,男性は女性と異なり,友人関係 の出会いのきっかけの大部分を学校と職場が占めること,かつ女性と比して関係の継続期間 が長いことを明らかにしている.また,ネットワークとサポートの関連を分析しており,職 場由来の人間関係であることが,表出的・道具的サポートの両サポートの受領と正の関連を 持つこと,継続期間が長いほど,表出的サポートを受領しやすくすることを明らかにしてい る.野辺や大和の整理に従えば,社会構造上のジェンダー・ロールに注目した議論と言って よいだろう.最後に,性差を直接主眼に置いていない研究についての知見も確認していく.
大谷信介(1995)は,男性のネットワークは女性と比較し規模の大きなネットワークを持ち,
職場仲間・友人との関係が多いと指摘している.松本康(1995)は,朝霞市の調査から,関 係の出会った文脈の大部分を学校と職場・仕事であること,職場関係は実用的絆である割合 が強く,学校関係が相談の絆や精神的絆の割合が強いことを示している.ここでの相談の絆 や精神的絆は,表出的サポートと同等のものと理解してもいいだろう.また松本(1999)は,
名古屋市調査のデータから,年齢及び家族周期に焦点を当てて男女別に分析を行っている.
その結果,まず若年期は友人関係の数とそこから得られるサポートが多かった.次に仕事仲 間人数は年齢及び家族周期に関わらず変化がなかったが,仕事仲間から得られるサポートは 年齢の上昇と共に減少していくことが指摘されている.また,家族周期の後半(年齢 60 歳 以上)では近隣関係人数が上昇し,職業や居住年数が有意な効果を示した.
以上の知見をまとめると以下のようになる.まず,PN 論において男性の人間関係は,理 論的には2つのジェンダー・ロールのいずれかが想定されている.1つは社会構造上の地位 に対応したジェンダー・ロールであり,これは男性において就労し仕事に大きく拘束されて いるという側面から理解される.生活の大半を職場で過ごすが故に,職場由来の関係性が男 性のネットワーク全体の中で大きな意味を持つ.もう1つは対面的相互作用場面におけるジ ェンダー・ロールであり,男性は自己表出のスキルを持たず,女性と比して社会関係を構築
しにくい,ないし頼りにくいといった心理傾向を持つという側面から捉えられるものである.
こちらは,SS研究における自己表出能力の低さと同様のものと捉えることができるだろう.
実証的には,男性と女性のPNは,目立った違いは認められないが,男性において職場関係 の比重は女性に比して大きい.またSSにおいては差が顕著であり,男性の配偶者依存傾向,
女性における配偶者以外のSSの豊かさが,前節におけるSS研究と同様に指摘されている.
前節における知見との差異を述べれば,男性は女性とPNという観点からは大きく違いがな いこと,自己表出能力の低さといった点のみならず,男性の置かれているジェンダー・ロー ルとして就労という側面を指摘している点が明らかになったといってよいだろう.
最後に,本節における PN 論の問題点を指摘しておきたい.野辺や大和の議論は,PN,
SS 両方を研究対象としていること,その性差についての理論枠組みにまで踏み込んでいる という点で特筆すべき研究と言える.だが,本節で整理したジェンダー・ロールに関しての 2つの位相が分析上区別されていないために,PNに関連する要因とSSに関連する要因が混 同されているという問題点を孕んでいる.例えば野辺は,男性は職場関係に女性よりもサポ ートを期待できると報告している.しかしこれは男性の社会的立場,すなわち仕事へのコミ ットメント度合いが男性の方が多いことで,男性の人間関係において職場関係が多いことに 起因しているのか,それとも男性の心理的傾向に起因するのかが定かではない.また大和の 議論は,理論的には2つのジェンダー・ロールを想定していながらも,実際の調査・分析に おいては,対面的相互作用場面におけるジェンダー・ロール,すなわち「結びつき志向」の 効果のみを検討している.つまり両要因が区別されているかいないか以前に,社会構造上の 立場としてのジェンダー・ロールが検討されていない.またこれら以外の研究でも,男性に おいて仕事へのコミットメントが繰り返し男性のネットワークを説明される際想定されてい るにも関わらず,就労上の地位や職種といった,仕事へのコミットメント自体を検討してい る研究は少ない8).すなわち,理論的には男性のPNとSSは,2つのジェンダー・ロールか ら理解されているにも関わらず,十分な検討がなされていない点が指摘できる.
2-4 男性学における展開
前節により,男性の人間関係には就労と文化的・心理的レベルの特殊性が背景にあること が明らかになった.本節では,男性学の知見を確認していく.男性学とは,フェミニズム研 究との対応関係から出発した,男性を「ジェンダー化された存在」として捉え直す研究領域 である(多賀 2006).この領域の研究蓄積を確認することで,本節では男性が置かれている 社会的立場についての知見を直接確認していく.本節では,男性学の代表的な論者と言える,
伊藤公雄,多賀太,田中俊之という3人の論者を参照することで,男性学の主要な知見と主 張を確認した後,批判点について考察していく.
まず,日本の社会学において男性学の嚆矢と呼べるのが,伊藤公雄である(伊藤 1996)
9).伊藤の議論は黎明期に行われたこともあり論点は多岐にわたるが,ここでは最も主張の
中心にあると思われる,「男らしさの鎧」という概念を中心に論じていく.「男らしさの鎧」
とは,男性がいわゆる「男らしさ」のような文化的・心理的傾向を志向しなければならない という規範的要請であると差し当たり言える.ここで伊藤が「男らしさ」としてあげている のは,端的には「『男は,弱みをみせてはならない』『男は,自分の感情を表に出してはなら ない』『男はがまんしなければならない』といった〈男らしさ〉への縛り」(伊藤 1996: 32)
である.これらの「男らしさの鎧」の規範的要請があるが故に,男性たちの自殺率の高さ,
サラリーマンの過労死,コミュニケーション能力の低さがあると伊藤は主張する.男性たち はこれらの心理的傾向に束縛されており,こうした心理的傾向から男性たちは最早自由にな るべきである,というのが,端的に伊藤の主張であると言えるだろう.こうした伊藤の議論 に対し,強い批判を加えているのが,渋谷知美(2001)の指摘である.渋谷の伊藤の議論へ の批判は,伊藤は男性の負担を心理的レベルに留めており,制度的側面についての言及が全 く欠けていること,また男女間の権力関係への視座が欠けているという 2 点に集約される.
男性が仮に男性であることによって負わされているものがあったとしても,それがいかなる 制度的構造の元生じているのか,男性の負っている心理的負担に説明を還元する伊藤の議論 では,全く明らかになることはない.言い換えれば,男性の背負わされている社会的不利が,
伊藤の議論では心理的・規範的なレベルに留められており,具体的には何か特定されていな いのである.渋谷が挙げる男女間の昇進,給与,雇用機会の格差や,女性が一般に家庭内に おける家事・育児といったケア労働を規範的に要請されている点から考えれば,不十分な議 論と言わざるを得ない.
次に,男性が置かれている社会の制度的側面に強く注目した論者として,多賀太を挙げる ことができる(多賀 2006, 2011).伊藤の議論との比較で論じれば,多賀の議論の特色は,
男性の置かれている制度的立場への着目にある.多賀が男性の社会的役割として注目するの は,企業社会の中で「長期安定雇用と年功序列賃金に守られながら定年まで同じ組織で長時 間労働に励む(多賀編 2011: i)」こと,すなわち「サラリーマン」であることである.多賀 は戦後においてブルーカラーとホワイトカラーの雇用条件の格差が縮小され,「ブルーカラー のサラリーマン化」が生じたと指摘し,その結果として「「サラリーマン」の意味は単なる男 性雇用労働者の別称へと拡張された(多賀 2011: 9)」と述べている.さらに言えば,「サラ リーマン」であることは単に正規雇用労働者であることを意味しない.そこには残業や転勤,
出張を厭わず仕事を遂行すること,すなわち生活全体を仕事中心に組み立てることが含まれ,
さらに男性たちは企業社会の中での競争から容易に降りることはできない.このように,安 定した稼得役割の遂行義務こそが,多賀が見出した男性の社会的役割と言ってよい10).多賀 の議論のもう 1 つの大きな論点は,「サラリーマン」であること,すなわち男性の社会的役 割の遂行が普遍的なものではなくなり,男性の役割に関して「揺らぎ」が現在生じていると いう点である.近年の非正規雇用の男性における増加は確かに,男性の稼得役割の安定した 遂行を脅かすものではある.多賀はこの「揺らぎ」を男性の経験する社会的不利と結びつけ
るが,しかしこれを持って男性が社会的不利を経験しているという主張は妥当ではない.ま ずもって,ここでも男性の社会的不利は必ずしも明示されていない.次に,男性の社会的役 割が揺らいでいるという主張は,裏返せば女性の社会的役割が揺らいでいることもまた暗に 意味する.すなわち,この主張は男性特有の社会的不利を特定しているというよりも,社会 全体における男女両方のジェンダー役割の揺らぎを示していると言った方が適切だろう.
最後に,男性における稼得役割の未達成の帰結を記述した議論として,田中俊之の議論が 挙げられる(田中 2009).田中は多賀同様現代における男性の負っている社会的役割として,
安定した稼得役割の遂行を指摘する.さらに田中の議論の特色は,失業した男性や非正規雇 用に従事する男性の経験,つまりこの稼得役割の遂行に失敗した際男性が経験する事態を描 いている点にある.田中はルポルタージュの引用から,定年前に失業した男性の家庭や地域 での居場所のなさ,「変な人」として与えられるラベリングについて言及する.また非正規雇 用や「ニート」といった「社会問題」が実態とは別に男性と関連付けてイメージされる,と いう田中の指摘も重要である.田中の議論から浮かび上がるのは,稼得役割の達成に失敗し た男性は女性と異なり,家庭や地域でも居場所を失ってしまう,ないし社会的立場の強烈な 喪失状態になりうるという構図である11).
以上の3者の議論から見出せる,男性の置かれている社会的立場,役割についての知見を ここでまとめておきたい.まず伊藤の議論に見られるように,男性は自己表出を避けるよう な心理的態度を内面化している傾向があることが指摘できる.これは,SS研究やPN論にお いて見出されてきた,男性の自己表出能力の低さと同じものと考えられる.次に多賀の議論 から,こうした心理的態度のみならず,男性においては稼得役割の安定した遂行義務が要請 されていることが分かる.最後に田中の議論から,男性は稼得役割の遂行に失敗したとき,
社会的立場の喪失状態とみなされやすいという可能性が示唆されている.第1の知見と第2 の知見はすなわち男性の負わされている社会的役割についての知見と呼べる.この2つの知 見は,PN 論において見出された,自己表出スキルと就労の義務という男性役割とほぼ同等 のものであると言えるだろう.ただし,PN論においては男性が単に就労しており,時間的,
空間的にその多くを職場に拘束されている,というニュアンスであるのに対し,男性学が指 摘する男性の稼得役割とは,より象徴的な役割遂行が出来ているか・いないかというニュア ンスの違いは認められる.第3の知見は,稼得役割の達成が男性の社会的立場と強く結びつ いているという点であり,第1と第2のものとは性質が大きく異なる.
こうした男性学の知見は,男性が負っている社会的役割を明らかにしているという点で一 定の成果があったと言える.ただし,以上に挙げた3者の議論に限らず,男性学の議論は断 片的な資料の解読や計量モノグラフ的手法に留まっており,実証的には検討の余地を残して いると言わざるを得ない.またこうした手法の問題とも関連するが,男性学は男性の社会的 役割については明らかにしているものの,彼らが主張するような,男性の経験する社会的不 利についての特定性に乏しい.唯一,田中の指摘する稼得役割の失敗が男性にとっては社会
的立場の喪失につながってしまうという可能性が示されているのみである.
3章 分析枠組み,使用データと変数 3-1 前章のまとめと問題設定
前章での先行研究のレビューから,明らかになった知見と課題を整理しておきたい.まず SS 研究から,男性のサポート源の得難さと,配偶者依存という構図が浮かび上がる.ここ では,男性のサポートの得難さは,ネットワーク内における男性比率の高さ,つまりネット ワーク内においてケアの提供者を持つことができないという点で説明される.しかしこの説 明ロジックは究極的には,男性の内面化している心理的傾向に男性の「頼りにくさ」の原因 を返してしまっており,男性においては社会的孤立と経済的要素が関連している事態を説明 することはできない.次に,PN論を確認すると,男性の人間関係は 2つの社会的役割,す なわち自己表出能力の低さと就労義務から理解されてきたことが分かる.男性は就労に時間 的・空間的に拘束されているため,人間関係は女性と比べ職場関係が多く,またサポートに 関しては女性よりも少ない.さらに,男女においては就労や近隣といった関係を除けば,人 間関係の保有量に大きな違いはないが,人間関係から得られるサポートに関しては大きく違 いがあることが指摘されている.ただし,分析においてこの2つの役割は区別されていない だけでなく,単独での検討も乏しい.また野辺の議論で顕著なように,PN に関連する要素 とSSに関連する要素が十分に区別されていないがために,独立変数の影響がPN に関連し ているのか,SS に関連しているのかが定かでない.男性学からは,男性の負っている社会 的役割に心理的傾向レベルがあることと,稼得役割の遂行義務という制度に関連したレベル があること,最後に,稼得役割の遂行に失敗した男性が社会的立場を喪失するという可能性 が言及されている.ただしその知見の多くが計量モノグラフ的手法を用いているため検討の 余地が残っているという点と,男性の社会的不利が明示されていないという問題点がある.
これらの先行研究の共通する問題点は,まず従属変数に関するものと独立変数に関するも のに分けることができる.まず従属変数に関してだが,SS研究においても,PN論において も,サポートとネットワークの関連が想定されておらず,独立に分析されてしまっている点 である.SS研究において男性のサポートの乏しさが繰り返し指摘されるが,その乏しさが,
果たしてそもそも人間関係を持てないが故に生じるのか,保有している人間関係に頼れない が故に生じるのか,定かではない.PN 論の知見から男女におけるネットワークは職場,近 隣関係を除けば男女で大きく違いがないことが指摘されている以上,男性のサポートの乏し さは,保有する関係に頼れないが故に生じている可能性が高い.この男性の頼りにくさを直 接検討するためには,保有するネットワークへの頼れなさそれ自体を検討できる分析枠組み を用いる必要がある.先行研究のうち,この頼りにくさそれ自体を検討しているのは,松本
(1995)と前田(2004b)のみである.いずれもネットワーク内におけるサポート関係の有 無を従属変数としており,直接頼りにくさを検討できる分析枠組みになっている.ただし,
いずれも検討されているのは関係の間柄と交際年数であり,独立変数に検討の余地がある.
またいずれも職場を通じた関係に焦点が当たっているものの,職場関係に頼りやすいか,頼 りにくいかという結果は一貫していない.次に独立変数に関して述べていく.男性の社会的 役割が心理的レベルと制度的役割のレベルの2つがあることは繰り返し述べてきた通りだが,
先行研究ではこれらは十分に区別されていないどころか,単独での検証も少ない.心理的傾 向に関しては大和(1996)の検証があるが,ここでは就労の義務に関して検討されていない.
また,就労義務の与える人間関係への影響は,2通りの影響が想定できる.まずPN 論の知 見から,男性は就労に時間と空間を拘束されているが故に,職場以外の人間関係を女性より も形成しにくく,サポートを期待できるような人間関係が形成できない可能性が考えられる.
次に男性学の知見から,男性の稼得役割の未達成は社会的立場の喪失を意味し,より頼りに くくなる可能性がある.つまり,従属変数にはネットワーク内においてサポートを期待でき るかどうか,すなわち人間関係に対しての頼りにくさを直接置き,独立変数には就労地位の 影響を2通りの因果を想定しながら組み込んだ分析を行う必要がある.
3-2 分析枠組みと仮説
前節の問題設定を前提に,本節では分析枠組みの提示を行う.まず本研究では,サポート 源を従属変数として分析を行うのではなく,頼りにくさそのものを従属変数として分析を行 う.具体的には,前田(2004b)を参考にネーム・ジェネレータを用いたデータをダイアド
(2者関係),すなわち個人レベルではなく,得られた個人とネットワークの他者との関係を 単位として変換し分析を行う.このダイアドがサポートを期待できる関係か否かを従属変数 とすることで,関係を保有しているかどうかではなく,関係に頼れるか頼れないかを直接分 析することが可能となる.なお,この従属変数の問題をクリアするためには,ニュートラル に人間関係の有無を尋ねているネーム・ジェネレータを組み込んだデータを分析する必要が ある.現時点で二次分析に利用可能な社会調査データのうち,ニュートラルな人間関係につ いてネーム・ジェネレータを用いて尋ねているのは,後述の「全国パーソナル・ネットワー ク調査2005(以下,「NNP2005」)」のみであるため,このデータを用いる.次に独立変数に ついてはまず男性の就労地位を投入する.男性のジェンダー・ロールが2つのレベルで想定 されている以上,本来であればそれぞれのレベルに関連する変数を投入すべきである.だが 自己表出スキルに関しては少なくとも社会学的には明確な測定指標が存在せず,社会調査デ ータにおける検証は現時点では難しい12).そこでこれまで明確に検討されてこなかった就労 地位の効果をまず検討する.男性の自己表出スキルとサポートとの関連は,現時点では分析 結果の解釈から残余的に読み取るほかない.また本来なら独立変数は就労による時間的拘束,
すなわち労働時間と,稼得役割の安定した達成として就労地位の両方を投入する必要が有る が,NNP2005 では労働時間を尋ねていないため,就労地位の効果を事後的に解釈するとい う分析戦略をとる.さらに本研究ではダイアドを対象に分析を行うことで,これまで有力視
されてきた稲葉の「ネットワーク構造化仮説」の直接の検証,また松本,前田の議論同様に 職場関係の頼りやすさ・頼りにくさの2点を分析に組み込めるメリットがある.男女の自己 表出スキルの違いを直接検討できなくても,ネットワークの相手の性別を分析に組み込むこ とで稲葉の仮説自体は検証可能であること,その検証結果から,男性の自己表出スキルのみ から男性の頼りにくさを説明することが妥当かどうかについては,ある程度迫ることが可能 である.また,PN 論では男性の人間関係の特色として職場関係の多さが繰り返し指摘され ていた.男性にとって配偶者以外の人間関係として重要なものと言える職場関係への頼りや すさ・頼りにくさを検討することで,男性の人間関係への頼りにくさが,男性が構成するネ ットワークの性質に還元されるのかも検討可能となる.
以上の分析枠組みに基づき,本研究では以下の3つの仮説を検討する.
仮説1:フルタイム就労に就いている人々は,そうでない人々に比べてサポートを得にくい.
仮説2:仕事関係は,そうでない関係に比べ頼りにくい.
仮説3:ネットワークの相手が男性ならば,より頼りにくい.
なお,仮説2と3の検証のため投入する,関係の間柄とネットワークの相手の性別を投入 するのは,仮説1における就労地位の効果に対しての統制変数の意味合いもある.なお,分 析は男女に分けて行い,それぞれの分析結果を比較する.これは以上の仮説が男性にのみ当 て嵌まるのか,すなわち男性の特質性と呼べるのか,それとも男女問わず生じているのかを 判別するためである.
3-3 使用データと変数加工
本研究で用いるのは,石黒格が中心となって調査を行った,「全国パーソナル・ネットワー ク調査2005(以下,「NNP2005」)」である.本データは2005年3月に離島を除く日本全国 から層化無作為抽出された 25~74 歳の男女 2,200 人を対象とした,留置法による調査であ り,有効回答数は 1445名,回収率は 65,7%である.本データを用いるのは,2つの点によ る.まず1つは,現時点で貴重なネーム・ジェネレータを用いた全国調査データであること.
次に,本データでは比較的ニュートラルな「よく話をする人」を4人まであげる形でネット ワークが尋ねられており,その上で各ネットワークにおけるサポートの有無が尋ねられてい る.つまり本データではネットワークの有無とサポートの有無を区別されている.以上の 2 点により本データを使用する.
次に,上記のように各ネットワークを尋ねているため,1 人目〜4 人目のネットワーク項 目全てに無回答であるものが,項目全体に対して無回答であるか,それともネットワークを 1 人も保有していないか判別できない.そのため,1 人目から4 人目までのネットワーク項 目全てに無回答の場合は分析から除外した(無回答370名を分析から除外)13).
さらに,本データにおけるネットワーク人数は,ネットワーク保有数が1人と4人に偏っ ている(表1).ネットワークのサポート利用可能性という観点から考えると,ネットワーク 保有数が1人の場合と4人の場合では,サポートの利用可能性は大きく異なっていると推測 される.保有数が2人のものと3人のものも,同様にサポート利用可能性が異なっている可 能性が捨てきれない.つまり,投入する各変数がネットワークのサポート利用可能性に与え る影響を純粋に析出できない可能性がある.そのため,本研究では,データをさらにネット ワーク保有数が4人のものに限定した.なお,ネットワーク人数は先行研究から男女で異な る可能性がありうるため,念のため男女別にネットワーク人数を確認したが,カイ二乗検定 の結果は有意ではなく,本データではネットワーク人数に男女差は認められなかった.結果 残った男性サンプル n=337,女性サンプル n=413 を分析対象とする.次に,こうして得ら れた男性337名,女性413名が保持するダイアド(2者)関係を単位に,ロング形式のデー タを作成した.結果,得られたダイアドは男性1348ケース,女性1652ケースである.最後 に,就労地位の効果を適切に分析するため,それぞれ就労地位が「経営者」「自営業」を除い た男性ダイアド948ケース,女性ダイアド1384ケースを分析対象とする.
次に,変数加工について述べていく.まずは従属変数についてだが,NNP2005 では,表出 的サポートを3種類の設問で測定している.1つめは,問36(7)「ふだん,その方と話題に なるのはどんなことですか(◯はいくつでも)」という設問内の,「あなたの悩みについて」
という項目である.2つめと3つめは,問36(9)「その方との関係に,次のようなことはど のくらいあてはまりますか(◯はいくつでも)」という設問内における,「自分の相談にのっ てもらう」「相手から励まされる」という項目である.いずれもの設問も 2 値変数として尋 ねられている.これらの3種類の設問のうち,いずれかに有りと回答している場合,該当の ダイアド(2者関係)にサポートの利用可能性があると判別した.なお3つのうちどれかの 設問に無回答の場合は分析から除外した.このような加工の意図は,関係にサポートの利用 可能性があるかどうかの解釈を容易にするためである.
独立変数や統制変数は個人属性,ダイアド変数(間柄),ダイアド変数(関係性質)の 3 つに分けて投入する.個人属性における独立変数は就労地位である.NNP2005 では,就労 地位を,「経営者,役員」「常時雇用されている一般従業者」「臨時雇い,パート,アルバイト」
「派遣社員」「自営業者」「自営業の家族従業者」「内職」「その他」から尋ねている.「常時雇 用されている一般従業者」を「正規雇用ダミー」,「臨時雇い,パート,アルバイト」「派遣社
1人 2人 3人 4人 N p値
男性
18.60% 7.40% 4.30% 69.60% 484
女性16.10% 7.80% 6.30% 69.90% 591
合計17.20% 7.60% 5.40% 69.80% 1075 n.s
注:***:p<.01,**:p<.05,*:p<.1表1:NNP2005のネットワーク分布