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武石典史著 『近代東京の私立中学校−上京と立身出世の社会史−』

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Academic year: 2021

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武石典史著  『近代東京の私立中学校−上京と立身出世の社会史−』 

― 55 ―

<図書紹介>

 

武石典史著 

『近代東京の私立中学校−上京と立身出世の社会史−』 

青木  純一 

希望する大学を目指して東京の予備校で学ぶ、

これは現在でもよくある地方の高校生や受験生 の進学パターンである。ところが、日本の公教 育制度が確立し、まだ十分にその体裁さえ整っ ていない明治期においても、受験生が東京に殺 到した。ただ、そのめざすところは大学ではな く高等学校や海軍兵学校、そして陸軍士官学校 である。また、予備校としての役割を果たした のが東京の私立中学校であった。 

  当時、受験のために人々はなぜ東京へ向かわ なければならなかったのか、こうした「上京」

をめぐる人々の意識や行動を掘り下げて考察す ること、この試みを通して日本の近代化の中に

「上京」の意味を再定位すること、それが本書 の目的である。そのための分析視角として、著 者は 5 点を挙げる。まず第 1 が、あえて「上京」

をしなければならない理由、第 2 が受験知(受 験科目)における東京と地方の格差についての 検討である。さらに第 3 として、予備校の役割 を果たした東京の中学校の実態分析、第 4 が、

この「上京」という行動様式の歴史的変化、つ まり時間とともに変化する「上京」の目的や実 態について、その全容を把握することである。

そして第 5 に、受験以外を目的とする「上京」

の考察を挙げていた。 

そこで、まず本書の目次を示し、以下に章ご との概要をまとめた。 

目次 

序  章  上京分析の視点と射程  第Ⅰ部  受験知をめぐる上京 

第 1 章  近代日本における知の制度化  第 2 章  明治東京における知の趨勢  第 3 章  受験知の平準化と上京の盛衰  第Ⅱ部  半途退学者の上京 

第 4 章  中学校の性格変容過程  第 5 章  敗者復活戦の場としての東京 

−私立中学校という受け皿  第Ⅲ部  上京の盛衰過程 

第 6 章  私立中学校の利用層 

第 7 章  近代東京の中学校の構造変容 

−府立と私立の関係  終  章  近代化過程における上京 

第Ⅰ部では受験準備のための「上京」を検討 する。まず第 1 章において、明治以降の知の制 度化過程が学校教育および人材選抜に与えた影 響を明らかにした。日本の近代化は漢学や和算 といった伝統学ではなく、外国語や洋算といっ た近代学のもとに進められる。しかし、地方は 近代学の蓄積において極めて不十分であった。

東京と地方の格差こそが人々を「上京」に向か わせたひとつの理由である。第 2 章では明治前 半の多様な私塾や学校が、いわば受験校として の私立中学校に変貌する過程を追った。裏返せ

(2)

教職研究  第 23 号(2012) 

― 56 ― ば、受験生の期待に東京の私立中学校がいかに 柔軟に対応したか、その背景を探ることでもあ る。第 3 章は、当時、海軍や陸軍の予備校とし ての役割を果たした攻玉社や成城中学校を中心 に、志願者の変化を分析した。それは受験知の 平準化とともに、予備校的性格を有した東京の 私立中学校が一般的な中学校へと変容する過程 でもある。 

  第Ⅱ部のテーマは半途退学者である。第 4 章 は、半途退学者が大量に生まれた明治前半から、

しだいにその数を減らす明治後半から大正期ま でを比較し、公立を中心とする中学校の性格変 容に着目する。半途退学者の減少はこうした 人々に対するまなざしの変化となって表れてい た。一方で、半途退学者の減少は、その受け皿 であった東京の私立中学校にも大きな影響を与 えることになる。第 5 章はその変化の過程を追 ったものである。 

第Ⅱ部で示した東京の私立中学校の変容過程 を、さらに別の角度から検討したものが第Ⅲ部 であった。第 6 章は東京の私立中学校の利用者 層に注目する。「上京」の衰退と歩調を合わせる ように、会社員を中心とする新中間層の子弟が 東京の私立中学校在籍者の中核をなすようにな る。それは私立中学校が東京府民の学校として 定着する過程でもあった。第 7 章は大正中期か ら昭和を対象に、過酷な受験競争と入学難の実 態を追う。中学校進学熱の拡大とそれに伴う受 験競争の激化が問題となるなか、競争緩和策と して公立中学校の入試改革が行われた。「内申 書」を重視し入試の平易化を進めたこの改革に よって公立中学校はその力を弱め、相対的に私 立中学校の評価が高まる。結果として公立と私

立の格差は是正され、両者は東京の中学校とし て平準化した。 

最終章は、日本の近代化の中で「上京」が果 たした役割についてまとめている。後発国日本 の近代化が成功した理由とはなにか。著者は、

一番の理由を、早くから近代学を基本とする公 教育制度が確立したところにみる。ところが、

トップダウンで整備した日本の学校制度は、そ の拙速さゆえに様々なギャップやフリクション も抱え込んでいた。このギャップを埋め、フリ クションを和らげるひとつの有効な手段が「上 京」であったとまとめている。 

以上、簡単にその概要を述べたが、本書が使 った文献は、研究論文、図書、統計、新聞記事、

教育雑誌、公文書、自伝はもちろん、各地、各 種の学校が保管する学籍簿、学生名簿、学校誌、

周年誌など、膨大な数にのぼる。その斬新な分 析視角と対象領域の広さを知るだけでも、教育 史のみならず学校関係者にとって垂涎の書だと いえる。読後、傍証に近代日本が抱えた「上京」

の一般的様子がわかれば、本書の幅と奥行はさ らに広がると感じたが、それは欲張りというも のか・・・。是非、ご一読されることをお勧めす る。 

(ミネルヴァ書房、2012 年 2 月刊行、 

本体価格 6000 円) 

 

参照

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