第二部 講演会・ワークショップ講演録
第2回カリキュラム・ポリシー作成 第2回カリキュラム・ポリシー作成 ワークショップ
ワークショップ
日時:2009年11月12日(木)9:30〜11:30 日時:2009年11月12日(木)9:30〜11:30 場所:至誠館3階会議室(今出川キャンパス)、
場所:至誠館3階会議室(今出川キャンパス)、
ローム記念館301(京田辺キャンパス)
ローム記念館301(京田辺キャンパス)
愛媛大学におけるAP・CP・DP策定の戦略
愛媛大学教育・学生支援機構教育企画室長
小 林 直 人
山田 礼子 教授(司会)
カリキュラム・ポリシー作成に関する第2回目のワークショップを開催させていた だきます。今回は、前回をさらに深める形でのワークショップとして、愛媛大学教育・
学生支援機構教育企画室長の小林直人先生をお招きいたしました。
小林先生は、1988年、東京大学医学部医学科を卒業され、同大学大学院を経て、順 天堂大学医学部講師、1995年に医学博士を取得されています。その後、2年間のドイ ツ・ハイデルベルク大学留学を経て、1998年より愛媛大学医学部解剖学講座に助教授 としてご就任されています。現在は愛媛大学医学部総合医学教育センター長・教授で、
医学部統括教育コーディネーター、2009年度より教育・学生支援機構教育企画室長を 兼務されています。
国立大学では教育を専任にする役割がございまして、先生は医学部の中で、特に教 育において中心的な役割を担っておられます。今回は教育を中心に、その業績を紹介 させていただきたいと思います。愛媛大学FDハンドブック「もっと!授業をよくす るために」の共同執筆や、学内外におけるFDワークショップの企画や講師の経験も 豊富で、2005年度のスタート時より学生が選ぶ医学科「ベスト・ティーチャー」に選 び続けられ、教育面においても非常に優れた実績をお持ちの先生でございます。今日 は「愛媛大学におけるAP(アドミッション・ポリシー)・CP(カリュキラム・ポリシー)・ DP(ディプロマ・ポリシー)策定の戦略」ということでお話しいただきます。それ では先生、お願いいたします。
小林 直人 教授
おはようございます。愛媛大学の小林と申します。山田先生からは過分なご紹介を いただき、ありがとうございます。また、このたびはこのようなお話の機会を与えて いただきありがとうございます。FDの講習会というと堅苦しくて、トップダウンの 感じがするので、愛媛大学のFDでは、なるべくそういうのはやめようということに なっています。私も同志社大学のことを前から勉強させていただいていまして、ぜひ 一度同志社のキャンパスに来たいなと思っておりました。私は伊藤若冲が好きで、隣 の相国寺に来たいなと思っていまして(笑)。
今、大学はいろんな軸の外部評価にさらされています。我々はごく当たり前のよう に大学教育をやってきて、ごく当たり前のように成果を上げてきたにもかかわらず、
それでもまだこういうことを求められる時代なんだなと、ひしひしと感じます。確か に安全教育の世界では「見える化」と申しますが、大学が何をやっているかをもっと わかりやすく「見える化」することが求められているのだと思います。評価というこ とで申しますと、私の妻と娘が夏にこちらにお邪魔いたしまして、こっそりと情報収 集をしてまいりました。お昼になりまして、寒梅館の食堂で食べようと。大学に来る と何が面白いか、学生食堂で食事をするのが面白いんですね。食券を買ってしばらく 列に並んでいたら、声をかけられたらしいんです。妻がおつりを忘れたらしいんです ね。おつりを忘れたことを学生が見つけて、事務の方に伝えて、食堂のスタッフから 声をかけていただきました。うちの家族は同志社大学を高く評価しておりました。大 学を評価する軸も、いろいろだなと感じます(笑)。
内容としては、メインの話はカリキュラム・ポリシーについて。前後に連なるディ プロマ・ポリシーとアドミッション・ポリシーの話も一緒にしないと成り立たないの で、アドミッション・ポリシー、ディプロマ・ポリシーについてもお話をさせていた だきます。カリキュラム・ポリシーとはどういうものか、前回のワークショップのお 話に出てきていますので、愛媛大学という地方の国立大学、総合大学でどのように全 学的に進めてきたかという事例をお話しさせていただきたいと思います。この4月、
教育企画室長を仰せつかりまして、医学部で医学教育をやっておりましたものの、全 学の教育は素人で、教育学のバックグラウンドもございませんので、“素人”の目から 見た事例報告ということでご了解いただきたいと思います。
ディプロマ・ポリシーとアドミッション・ポリシーとカリキュラム・ポリシー、大 学の入学から卒業まで、本来なら卒業した少し先まで、一貫したポリシーのもとで大 学の学生を教育しなさいと言われるようになりました。国立大学法人の評価がありま
第二部 講演会・ワークショップ講演録
して、この間、愛媛大学でも評価結果が出ていました。私立大学も同様の状況だと思います。聞くところによりますと、私立大学はアドミッション・ポリシー、カリキュ ラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーがちゃんとできてないと補助金の申請ができ ないという仕組みがあったりして、なかなか厳しい状態です。しかし簡単に言ってし まえば、こういうことだと思います。学生はこのくらいのレベルで入ってきます。卒 業時までは少なくとも、ここまでは持ち上げますよ、と大学は保証する。アドミッショ ンのレベルから卒業時のレベルまで、どうやって学生を持ち上げていくか、どういう ふうに学生の伸びを支援しようか、入学時からずっと変わらずに来ても最後でグッと 上がればいいということもあるし、1年次でグッと上げてしまって高いままを維持す る方法もある。コンスタントに、地道にステップアップしていく方法もある。真ん中 のところをいかにして人に示すかということがカリキュラム・ポリシーだと思ってい ます。
私どもも困難を経てやってまいりました。新しく学部をつくる、新しく学科をつく る、そういう場合にはゼロから組み立てることができます。しかし、現実に動いてい るカリキュラムの中で、しかもカリキュラムにいろいろ問題点を抱えている中で、ポ リシーを示すこと、ポリシーを示しながら変えていくことが非常に難しいというのは、
数年前にこの作業に入る前からよくわかっていました。今日はどういう組織でこの作 業を前に進めているかという、私どものトライアルをお話しさせていただきたいと思 います。
FDという言葉もずいぶん定着しまして、いろんな報告書、中教審答申にも入るよ うになってきました。私が愛媛大学にまいりましたのは1998年です。1999年〜2000年 くらいから医学部の代表として、その後、全学的な組織の中に入りまして、愛媛大学 のFDを始めるようになりましたが、2000年くらいではFDという言葉は通じなかった んですね。「フロッピーディスクですか?」とよく言われました。フロッピーディス クの方が今は死語になってきて、FDの方が定着してきました。時代は変わったなと 思います。FDというのがどういうことなのか、2007年に1年かけて、かなり議論を しました。愛媛大学では、最終的にFDを定義し直しました。
一つは個々の授業、個々の先生の授業改善。これをミクロレベルと呼んでいますが、
これが文部科学省が最初に言いだした時のFDの定義です。授業法、しゃべり方、話 す時の立ち位置とか。でもそれだけではないでしょう。例えばカリキュラムそのもの をいじってくる、これもFDでしょう(ミドルレベル)。もう少し大きく考えると、組 織全体の改革で、私が所属している教育企画室という組織をつくるとか、企画室にど
ういうメンバーを揃えるかとか(ミドルレベル)。愛媛大学では、学部にぶらさがっ た教育専任のポストは私一人なんですけど。教育専任なんです、教育重点ではなく。
教育専任のポストをつくるとか、小林に何をさせるかという組織戦略も、これもFD でしょう。学生の学習効果を高めるための働きかけは、すべてFDですよと主張する ことにしました。主張することにしましたと言うと、いい加減な言い方ですが、何が 言いたかったかというと、何をやってもFDになりますよ、ということです。ここに お集まりいただいたこともFDです。日々の授業の時に、次の授業何をしよう、前回 こういうクレームが出てきたから今日は少し変えてみよう、そういうものもFDだと。
広くFDを考えることにしました。
今日は特にカリキュラムのことになりますので、主にカリキュラムの改善、ミドル レベルの話になります。これは教員一人一人バラバラでは絶対に動かせません。大学 の組織づくりをうまくやって組織全体として動かすようにしないと、ミドルレベルは 全く動きません。時々、大学によってはマクロレベルからミクロレベルまで学長が一 人でされている大学もあって、それはそれですごいなと思いますが、国立大学ではな かなかできません。そこで、いくつかのレベルに分けて考えましょう、それで頭の中 を整理しましょうと考えました。
実際につくった組織は、教育コーディネーターという組織です。各教育コース、教 育単位、学科、専攻に、少なくとも一人、教育重点の教員をおいてください、兼任も ありますが、組織のオーガナイズという観点から見た教育の重点化、そういう教員を おいてください、そういう形にしました。2006年のことです。現在は、共通教育の教 育コーディネーターも含めて65名くらいの教育コーディネーターがいます。また、統 括教育コーディネーターというのは、2006年に副学部長クラスの学部の教育責任者と して置かれました。学部長が推薦して学長が任命するという組織です。絵にするとこ ういう形になります。学長がいて、教育担当理事である教育・学生支援機構長。その 下に各学部、部局がある。医学部に統括の教育コーディネーターを一人おきます。そ れとは別に各学科にコーディネーターをおきます。医学部はわりと少ないですが、法 文学部では中で細かく分かれています。かなりの人数になります。共通教育には専任 の教員がいますので、ここにもコーディネーターをおくことになります。教育企画室 というのは、機構全体の組織の中でちょっと変わったところにありまして、教育担当 理事直結のシンクタンクとして働くということになっています。シンクタンクという とカッコいいのですが、FD関係、何でもやれというところです。他のセンター系と は別に組織をおいています。共通教育センターの他に英語教育センター、学生支援セ
第二部 講演会・ワークショップ講演録
ンターがあるんですが、そういう組織とは別部門として、FD専任部門として教育企画室がおかれています。
教育コーディネーターを組織して、研修としてミドルレベルのFDをすることにし ました。2007年、ほぼ1年をかけてディプロマ・ポリシーをつくりました。1回目は 6月、その後、4、5回やるんですが、最初に学長が挨拶をして、理事が挨拶する。
今年1年間、こういうことを皆さんでつくっていきましょうと。今日の皆さんの集ま りと同じです。1年をかけた気の長いワークショップという形にしました。2回目が 8月、外部の大学から講師をお呼びしてディプロマ・ポリシーの話をしていただき、
その後、ワークショップ形式でディプロマ・ポリシーの原案をつくることを2時間く らいかけてやりました。次の宿題を機構長が出すことになります。10月までに、各学 部では、各学部・学科版のディプロマ・ポリシーを、ある程度完成させて持ってくる わけです。それを各学部から報告してもらって、それに対して企画室がコメントを出 したり、次のツールを出したりさせていただきます。コーディネーターの研修会に集 まっていただき、簡単なワークショップ、シミュレーションをする。今度はそれを各 学部に持ち帰ってもらう。2、3カ月先に、場合によっては各学部の教授会を通さな いといけないこともありますので、事務的な作業もしていただいて、またコーディネー ターの研修会に持ち帰っていただく。これを1年間に2回くらいキャッチボールして、
先に進めることになります。11月、ほぼディプロマ・ポリシーができあがりましたの で、報告をしてもらうとともに、今度は少しカリキュラム・ポリシーにも入ってきて、
カリキュラムのチェックリストの中間報告をしてもらいます。そうすると、どうして もディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーをいじると、今度はアドミッショ ン・ポリシーも大丈夫なのかということが出てきますので、この年は欲張ってアドミッ ション・ポリシーも見直そうかと次の宿題が出てきます。1月、最後に学長にご挨拶 いただいて、一応1サイクル済んでいますので、アドミッション・ポリシーからディ プロマ・ポリシーまでの一貫性の報告をしていただいて、次年度への課題を提起して、
この年の5回のコーディネーター研修会が終わるということになります。
具体的にディプロマ・ポリシーはどういうふうにつくったか。愛媛大学でやったの は、教育企画室、FD専任部門が、こういう形でやったらどうでしょうと、原案、枠 組みを提案します。立命館大学、山口大学の先行事例がありましたので、具体的には ディプロマ・ポリシー(実際にはアドミッション・ポリシーも同じように分けました が)、5領域に整理して言葉に直しましょう、としました。知識・理解、思考・判断、
関心・意欲、態度、技能・表現。教育学ではタキソノミーといわれる分野です。5領
域に分けて整理しましょう、それがわかりやすいでしょうと。それから全学的に、ど の学部もこういう分類の仕方をしているので、大学全体としてディプロマ・ポリシー、
アドミッション・ポリシーを全部見せた時に、大学全体としての考え方が相手によく 伝わるのではないかと。そういうふうに考えました。
もう一つ、全学的なディプロマ・ポリシーも考えています。これはなかなか難しく て、伝統ある私立大学、同志社大学のようなところの方が羨ましい感じがします。こ ちらの教育目標をいただきましたが、同志社大学は創立134年。愛媛大学はやっと昨日、
60周年の祭りをやっていました。伝統があって教育理念がはっきりされている大学は 羨ましいです。
国立大学、地方大学としてのディプロマ・ポリシーをどう考えるか。これは数年が かりでつくろうと、来年度までかかって仕上げることになると思います。実際にワー クショップをやりました。この場で1時間くらいワークショップをやって、同じよう なことを学部に持ち帰ってくださいとお願いしました。愛媛大学ではこういうものを 採用しているというだけで、これが絶対に正しいとは申しません。他にもいろいろな やり方があります。愛媛大学はこういう形を使用しました。なぜこういうふうにした か。アドミッション・ポリシーからディプロマ・ポリシー、各科目のシラバスまで全 部この形式で統一しようと思ったからです。こういうふうに5つの領域に分けて。頭 と心と体、武道でいう心技体に近いですが、こういうふうにすると、学生に伸びてほ しい領域をとりあえず一通り網羅できますよ、という考え方です。シラバスの講習会 でよく出てくる表ですが、学生を主語にして動詞の使い方を統一しました。外から見 た時に統一感がとれていて読みやすい。
次にこれが全学のディプロマ・ポリシーで、「(案)」がなかなかとれないんです。
全学的な合意がなかなか難しいので。いくつか挙げて、文章化してキーワードを羅列 する形になっています。実際にはこういうふうに書いてみると、学士力、社会人基礎 力とか、そういういろんなところがいろいろ言っている「何とか力」に近くなります。
そこにどれだけ愛媛大学らしさを出すかが難しい。これがなかなか全学的合意として 難しいところではあります。この点は、私立大学の方が特徴的なものをつくれるので はないかと思っています。
実際にできたものです。法文学部、学部レベルのディプロマ・ポリシーで、5領域 にそれぞれの文言を当てはめていきます。「思考・判断」、法文学部は社会科学系と人 文科学系に分かれていますので、「特定の学問領域において的確な考察、判断ができ る」。これではなかなか難しいので、学科でもう少し細かく割ります。法文学部の人
第二部 講演会・ワークショップ講演録
文学科のディプロマ・ポリシー、同じ5領域ですが、項目が少し具体化してきます。「思考・判断」のところでは、「自ら設定した課題について」、つまり自分が4年間、勉強 する中で課題は自分で見つけなさい。「自ら設定した課題について、人間文化・地域 文化・歴史文化・言語文化のいずれかの学問領域の研究方法を用いて、考察すること ができる」。ここまで書くと、考察することができましたかと、卒業論文の試験がで きるわけです。自ら、きちんと課題を設定しているかどうか。自分が習ってきた学問 領域の適用が正しくできているか。こういう形を、もう少し文言で具体化していくと、
そのまま卒業論文の成績評価のチェックリストになります。実際にはここだけではな く、他の領域を使って、1〜8番まで、すべてが表れるような卒業論文のチェックリ ストを、今、人文学科がつくられているところです。雛型になるものは既にできていて、
学科内の合意を得る過程に入っていると聞いています。
同志社大学の教育目標を読ませて いただきました。大変僣越ながら、
私どもが使っている5領域を振り分 けると、こういう形になります。愛 媛大学で言えば、こういうことが全 学的なディプロマ・ポリシーになる かと思います。全学的なディプロマ・
ポリシーですので、どうしても知識 の領域は少なくなってしまうのは仕 方ありません。知識や思考・判断の
領域に関しては、各学部・学科の特色が出て、それによって全然項目が変わってきま す。これはしょうがないことなので、例えば態度面、技能・表現面が色濃く出ている。
実際にできる人間をつくりたいという、皆さんのポリシーがよく出ている目標だなと 思いました。
次にカリキュラム・ポリシーについて。カリキュラム・ポリシーというのは一番難 しいところなんです。アドミッション・ポリシーは、実際には高校生にそんなにすご く高いレベルを要求することはできないので、実際書いてみると、それほど知識レベ ルは云々できません。態度、関心のところが前面に出てきます。ディプロマ・ポリシー については、同志社大学には建学の精神、教育目標が既におありなので、比較的明文 化しやすい。その間を埋めるものを、どうやって表現するかというと難しいので、私 どもは文章化することはやめました。もちろん既にいろいろ文章化されているものは
ありました。どういう学生を育成したいとか、どういう方針をとりたいとか。同志社 大学の例で言えば、キリスト教主義、自由主義、国際主義の3つです。3つの言葉で 言い表してしまうことも、一つの潔いやり方だと思います。それができるというのは 羨ましいと思います。愛媛大学の場合には、明確なキーワードがありませんでした。
どうやって学生を持ち上げるかというHowのキーワードがありませんでしたので、グ ラフや表、模式図、スキーム、ビジョンにするという形で、カリキュラム・ポリシー を表現することにしました。
具体的にはチェックリストと、カ リキュラム・マップ。カリキュラム・
マップという定義は大学によってい ろいろなので、ここでは私どもの言 い方のチェックリストとさせていた だきます。これを実際に読んでいた だく必要はありません。どうなって いるか。人文学科のディプロマ・ポ リシーが並んでいます。5領域です。
5つの領域が横軸に並び、縦軸に各
科目の名前が並んでいます。ここに各科目の到達目標が出ています。やりやすいよう に、シラバスの到達目標もすべて「学生が何々できる」という表現にしてあって、ディ プロマ・ポリシーも「学生が何々できる」という表現にしてあります。ここにはどのディ プロマ・ポリシーに合致するかを上げてあります。○、△、◎、よく合致する、半分 くらいというレベルを分けて書いてあります。実際ここにはこれだけしか表はありま せんが、当然すべての科目でつくることになると、ダーッと上下ありまして、プリン トアウトすると1学科、1コースで数十枚分。神戸の某総合大学でこれをつくってワー クショップのお手伝いをしまして、資料をいただいたら10学部ある。そこのカリキュ ラム・チェックリストを見てくださいと。持ち帰るのが大変なので後で送ってもらい ました。そのくらいの量になります。
教育コーディネーターの教員に、実際にチェックリストをつくってくださいと、コー ディネーター研修会でシミュレーションをしました。カリキュラム・チェックリスト をつくるためには、シラバスができてないといけないんですね。コーディネーターは すべての授業について把握しているわけではありませんし、5人くらいのコーディ ネーターで、すべて把握できるわけではありません。そのため、資料は個々の科目の
第二部 講演会・ワークショップ講演録
シラバスになります。シラバスの書き方が統一されてないと、この書き方はコーディネーターにとって非常に大変になりますので、シラバスから手をつけようということ で、シラバス作成の講習会を教育企画室がお手伝いすることになります。
カリキュラム・ポリシーをつくるのはカリキュラムのレベルですから、愛媛大学の FDで言えば、ミドルレベルですよね。ミドルレベルのFDをやりながら、実際にはミ クロレベルのFDも一緒に走らせるということになります。英語圏のシラバスはわか りやすくて、1行目、欧米でいうカリキュラム、シラバスの考え方の一番の骨子はこ こに表れていると思います。You should be able to、「あなたはこういうふうにできる ようになっているはずだ」。それをシラバスで保証するというのが欧米系のシラバス の一般的な書き方だそうです。愛媛大学でも特に共通教育に関しては、シラバスの修 正依頼、シラバスをチェックしていくと、共通教育のコーディネーターがチェックす るんですが、大体、チェックしないといけないところは決まっているので、何回かやっ ているうちにチェックリストができてしまいました。この場合に授業の目的、目標を きちんと書いてください、とチェックがついて、各科目の担当教員のところに行くわ けです。そういう形で、場合によってはシラバスの修正をお願いしながら、全学的な ミドルレベルのFDを進めています。
カリキュラムのシラバスの書き方とディプロマ・ポリシーの書き方で、ほとんど同 じフォーマットを採用させていただきました。実際にやっていただいたコーディネー ターの方々の反省、感想ですが、実はミドルレベルのカリキュラム改善をやったはず なんだけれども、実際には個々の科目のシラバスの書き方が変わってきました。個々 の科目と学部・学科全体の目標をすり合わせるように、少しでも努力しているという ことです。実際にはいろいろ問題があって、「○と△を、と言われても困るよ」とい うご意見も出ました。ただ、やってみてよかったのは、カリキュラムをいちいちチェッ クする、チェックを各学部の先生方にお願いする過程で、例えばシラバスに関しての 見方が変わってきたということです。考え方としては、ディプロマ・ポリシーの項目 が全部カバーされていないといけない。各科目の到達目標をずらっと並べるとディプ ロマ・ポリシーが達成されるように書いてないといけないのですが、それでは、必修 科目だけでカバーしないといけないのか。選択科目が多い学科、例えば社会科学系の 学科は選択の幅が非常に広いのですが、選択の幅の広い科目の中で、学生がつまみ食 い的にとった時、果たしてその学部・学科のディプロマ・ポリシーが達成されたと言 えるのかどうか。そういうところの問題も出てきました。皆さん、以前から感覚的に はわかっていたことですが、チェックリスト、スプレッドシート表を見せてしまうこ
とで、「学生がこういうふうにとったら、このディプロマ・ポリシーは達成できない ですよね」ということが、よくわかるようになってしまいました。実際、学生にとっ て選択の幅の広い学部・学科に関しては、カリキュラム・ポリシーはつくるのが結構 難しいということがわかります。
実際にやってみるとよくわかりまして、医学科のような場合、カリキュラム・ポリ シーは1日でできちゃうんですね。カリキュラムが決まっていますから。看護学科は 設置基準から実施細則からがんじ搦めですから、自由度は全然ないんですね。そうい う学部・学科から、対極にある学科まで、総合大学の場合、いろんな学科があります ので、なかなか全学で足並みを揃えてというのは、必ずしもうまくいきません。それ は我々もよく経験しています。各学部のご意見を聞いて、折衷案を見つけて、という ことになります。もっとポリティカルな要素が入ってくることは、教育学生支援会議 でということで、教育担当理事と各学部から一人ずつ(統括教育コーディネーター)
出てきていただく。こうすると10名ちょっとの会議になりますが、学部のトップと教 育・学生支援機構の全学的なトップが集まる会議ですり合わせをしながら進んでいき ます。愛媛大学のカリキュラム改革は、専任の機構の組織があって、もう一つ各学部、
部局があって、その間に教育コーディネーター研修会ともう一つ教育学生支援会議、
少しポリティカルな話をするところがあって、何段階かに分かれていて、それで全学 的な方向性と各学部の方向性の間をつなぐようにしています。これが私も機構の仕事 をするようになってからよくわかったことで、実はそれが愛媛大学のアドバンテージ になっていることが、よくわかりました。よその大学の話を聞いていますと、そこが うまくすり合わせられていない。国立大学にはよくあることなんですけど、学部の独 立性が強いので、学部は学部としてガンとしてあるわけです。そこからは全学的な方 向性はでてこないし、学長のトップダウンが求められるので全学的な組織をつくるわ けです。それが二項対立になってしまう。こっちはこっちでやりたいことをやる。こっ ちはこっちでやりたいことがある。うまく間を埋めていく組織をつくらないと、完全 にそっぽを向き合うことになってしまう。お話をお聞きすると、そういう大学も、ま まあるようです。愛媛大学は、その間にいくつかのステップを置いたということが、
組織的なアプローチとして、うまくいっている一つの要因かなと思っています。
ディプロマ・ポリシーも見直しながらカリキュラム・ポリシーをつくっていくよう になると、アドミッション・ポリシーは大丈夫かなということで、アドミッション・
ポリシーも適宜見直すことにしました。実際やってみると、アドミッション・ポリシー にあたるものも前からあります。なかったら大変です。どういうポリシーで学生を募
第二部 講演会・ワークショップ講演録
集しているか決まってなかったら大変なことなので、調べてみると各学部にも文章化されたものがありました。ただしほとんど場合、ディプロマ・ポリシー、場合によっ てはカリキュラム・ポリシーも混在していました。どういう学生に来てほしいかとい うことと、どういう学生にまで育てたいかということの間には、ちょっと乖離がある。
アドミッション・ポリシーでは特に意識してディプロマ・ポリシーと分けるという作 業をしました。入学試験の内容と対応させるということも求めました。各学部に持ち 帰っていただいて、チェックリストをつくっていただきました。
これは人文学科のアドミッショ ン・ポリシーです。これ以外の学科 を勉強しなくてもいいとは言ってい ませんが、試験には出しますよとい うのが、国語、地理、歴史、公民、
これをアドミッション・ポリシーと して求めているので、当然、センター 試験ではこういう科目を課します。
二次試験にも出てきます。それだけ ではなく関心・意欲・態度に関して
はこういうことを、と。それが実際に日本語で表現できること、つまり論文を書かせ ますよ、ということですね。よく見ると、どういう試験をするかということと一対一 対応はできるようになっています。こちらはその対応関係を見せたもの、農学部は入 試の形態がたくさんある学部です。いろんな入試の形態があって、縦軸にアドミッショ ン・ポリシーを並べてあって、例えばセンター試験を課さない推薦入試ではどういう 項目を主に見ているか、センター試験を課す前期入試ではこういうところを見ていま す、というのを表にしてお見せすることになりました。年度内に各学部のホームペー ジにはられる約束になっています。
いろいろ難しいこともありまして、ここまでの総括ですが、ディプロマ・ポリシー というのをどのくらいの教育単位で設定するかというのが、今、我々にとってかなり 大変な問題になっています。医学部の場合は甚だ構造が単純で、学部の下に2つしか 学科がありません。法文学部も同じです。しかし医学科や看護学科はその下にサブディ ビジョンはございません。法文学科の人文学科はその下にさらにコースが分かれてい ます。ディプロマ・ポリシーをコースごとにつくるのか。ただ、そうすると、かなり の量を学生は読まないといけない、受験生に示す分量が増えてしまいますので、どこ
かで線を引かないといけないのですが、今のところ、学部・学科の単位で設定しよう となっています。果たしてそれがいいかどうかは、学部・学科によって状況が違って、
統一できていません。実際に、ある一つの学部だけ、5領域ではなく、3つの領域で 整理しています。もともと(タキソノミーの分類では)3つの領域がそもそもあって、
認知領域と態度領域と精神・運動領域と3つあった中に、それぞれの深さが3段階ず つあったので、オリジナルは9領域になる。ところが9つに分けるのは現実的ではな いので、愛媛大学では5領域に整理して考えています。ある学部だけはオリジナルの 3領域で考えていて、学生にわかりやすければいいだろうと。ただ、そちらの学部は 学部のポリシーと学科のポリシーが明確に分かれていて、それぞれお互いに補完し合 うように論理的にできているので、結果的に学生がわかればいいだろうなと、いくつ かの自由度は持たせています。
3番目が難しくて、カリキュラムの評価。必ずやらなければいけないので、今年、
この評価の作業をやっています。評価の作業をやっているというのは、まだ評価して いるのではないんです。どう評価すべきか、ということを考えています。テクニカル にどういう指標を使ってカリキュラムを評価するかということを、今年1年間、コー ディネーター研修会で検討しています。3番は我々が今、少し進みつつあるところで、
なかなか評価は難しい、という感じです。
もう一つ、愛媛大学がカリキュラム・マップと呼んでいるものです。先程のチェッ クリストは山口大学ではカリキュラム・マップと呼ばれていて、大学によって少し定 義が違うんですが、愛媛大学はもう少しビジュアルにこだわれないかということで、
フローチャートやダイヤグラムで、模式的に各科目間の系統性、連続性を示せないか とチャレンジをしました。コンセプト・マップとも言われるそうです。学生や受験生が、
その絵をパッと見た時に、今、自分は2回生だからこのくらいのところを勉強してい る。その前にこれだけの科目の知識が前提になっていて、ここから先はこうなるんだ と見えるように。受験生には4カ年、6カ年で、こういうふうに積み上げていくんだ なとわかるように、そういうのをビジュアルに示すものです。本物をお見せした方が 早いと思いますが、これを2008年の教育コーディネーター研修会のテーマにしました。
4回にわけて、6月から1月まで。カリキュラム・マップ作成のシミュレーションも しました。各学部とのキャッチボールを2回。現在、すべての学部のホームページに はられています。
例えば卒業研究があるような形だと、基礎的な科目から順次応用に積み重なってい く。医学系は入門的な科目、初年次教育があって、いろんな領域の専門教育を習って、
第二部 講演会・ワークショップ講演録
最終的には臨床実習、臨地実習で統合されて、試験、卒業研究があって、国家試験に行く。絵に表してみようという作業をしました。目標としては流れや構造がわかりや すい。誰にとってわかりやすいか。
学生にとって、ですが、教員にとっ て、受験生にとってわかりやすい。
もう一つ就職先の企業にもわかりや すいことを考えています。科目同士 の関係性がパッと見てよくわかるの がいいだろう。それにはチャートが いいだろう。学生にとって自分がこ こまで勉強したという道のりをたど るのにいいでしょうという考え方で す。
具体的には、ある学科の開講されている科目をすべてダーッと羅列します。年賀ハ ガキを出す時に住所を印刷する糊付きのシールで、切れ目がはいっているタイプがあ ります。あれにダーッと印刷すると、ペタペタ張りつけることができます。これをやっ てお示しすると、まず聞かれるのが「こんなにたくさん科目があったのか」という声。
すべての科目を把握されている方はどこにもいないんです。自分の学科でこんなにた くさんあったのか、それをまず言われます。シールを利用して模造紙にペタペタ張っ ていく。いかにシールが多いかがわかります。これに順次性と系統性と、できれば難 易度も含めて模式化することになります。実際にやってみるといろいろ問題が出てく るので、1回やって、提出していただきます。研修会の2週間前に各学部から提出し ていただきます。教育企画室で全部見て、コメントを出します。具体的に「ここはこ ういう方がいいのではないでしょうか」。ある学科はA案とB案を二つ出されたので、
「どこがどういいか、ただ企画室はB案の方がいいです」とコメントを出させていた だきます。そのコメントをもとに、次の回までに宿題としてブラッシュアップしてい ただく。2回くらいキャッチボールになります。出てきたのを、1月に発表していた だきました。4つほど典型的な例を出します。
理学部数学科。下の方が基礎的な数学の科目。学年を経るにつれて少しずつ上がっ てきます。数学科は卒業研究がトップになるんですが、そこに行く過程でそれぞれの 学生の専攻が出てくる。数学の中での、この分野を勉強しましたと分かれてきますの で、集約しない。卒業研究に集約しているといえばそうですが、科目の並びとしては
集約しない。専門性が少しずつ出て くる。スタートより出口に近い方が 広がってくるパターンです。数学科 で面白いのは、ところどころに吹き 出しをつくって、マンガのようにし て「こういう科目ですよ」と科目群 の内容を紹介しています。例えば医 学科も科目群の中で「これはディプ ロマ・ポリシーの何番に対応します」
と入れておきました。この中にディ
プロマ・ポリシーも少し表現することができます。
次は教員養成の課程で、時間軸が 下から上に上がっていくのは変わら ないですが、縦割りの状態です。科 目教育と教育理論と分かれているの で、こういう書き方になってしまう。
一部斜めにきている矢印もあります が、お互いの関係性が見えます。全 体的には下から上に上がっていっ て、比較的縦の分け方が強いパター ンです。
これは工学部情報工学科です。記 号に情報工学的な意味があるらしい ですけど。ホームページで全部見ら れますので、ぜひ拡大できるファイ ルで見ていただければと思います。
このあたりに集約してくる。卒業研 究にいくラインもあるし、孤立して いる科目群もあるんですが、「全体 的にはいろいろ勉強するけど、最終 的には君たちはここに行き着くんだ
よ」という形が示されています。卒業研究とは別に、科目のコースワークとしては「こ
第二部 講演会・ワークショップ講演録
ういうものを習うんだ」ということです。ここに何があるか。ヒューマン・マシーン・インターフェイスです。情報工学が求めているものは、最終的にそこなんですね。機 械と人の間をつなぐソフトウェアをつくる、これがこの学科のポリシーだということ が見てとれます。工学部には凝る方がいて、クリックすると細かくなるとか、動画付 きとか、いろいろあるんです。
最後は法文学部総合政策学科の企 業システムコース。社会科学系です。
現時点において、企画室としてもう 少し求めること、コメントを出した ところは、時間軸が入っていない。
確かに時間軸は入れにくいパターン がございます。事前に拝見した同志 社大学の理工学部のカリキュラムを 見ますと、私どもがチャート化した のと、ほぼ同じように科目と科目の
関係性が矢印で示されています。ところが社会科学系、人文科学系だと、必ずしもそ ういう表現にされてない場合があります。年次は示されていて、年次にまたがって2 年次でも4年次でもとれる科目がある時に、順次性、系統性をどう表現したら良いか、
難しいと思います。愛媛大学の総合政策学科の場合は科目群を示して、2008年度の作 業は進めておいて、この後に時間軸を盛り込むような複雑な作業をお願いしています。
よその大学でワークショップをお手伝いしても、全く同じパターンになります。医 療系の学部はすぐできてしまう。社会科学系、人文科学系は最後まで悩んでらっしゃ います。学体系の本質だと思いますので、どっちがいいとか悪いではありません。学 生にとってどうなのかを考えておく必要があると思います。ただ、「この科目はいつ とってもいいですよ」というのは、学生からみると「いつとったらいいかわからない」
ということかもしれません。学生にどう説明するか。こういうふうに順番に勉強して いますよ、と卒業した後の就職先に、企業にどうやって示すか、そこは我々も考えて いかないといけないところだと悩んでいるところです。
まとめです。2008年度のコーディネーターの研修会を4回実施し、カリキュラム・
マップの作業を完了して、現在、ほとんどすべての学部がホームページ上に載ってい ます。一部は受験案内にも載っています。はじめはモデルを提示してシミュレーショ ンを行って、学部・学科に持ち帰っていただいて、中間報告。その時にコメントをつ
けてお返しして、また持ち帰っていただいて再報告。2回くらいキャッチボールして 作業を進めてきました。いかに科目数が多いかが印象的でした。それだけではなく、
いかに流れが複雑になっているかも、わかりました。それがいいことか悪いことかは 別ですけど、流れが非常に複雑な場合は学生にわかりにくいのではないかと見えてき ます。課題としては、理系のマップは比較的単純ですが、社会科学系、人文科学系は 同心円になったり、螺旋になったり、グループになったり、いろいろ表現が難しい。
二次元では難しいのかもしれない。いろいろ議論が出ています。体系化されていない とは言えない。どういう形で体系化されているかを、どうやって示すかというところ が、特に人文社会科学系は難しいようです。
この他にもアンケート調査をしまして、やりとりするわけですが、特に教員にとっ てどういう効果があるか、また学生にとってどういう効果があるのかとは常に言われ ます。教育コーディネーターの方にはいろんな課題をこなすことをお願いして、宿題 もたくさんあります。締め切りも結構、厳しい。その分、「こんなことをやっていて 意味があるのか」とたくさん受けています。必ずお答えするのは、「学生にとってわ かりやすいものにしてください。学生が履修計画を立てる助けになるものにしてくだ さい。多少細かすぎてもいいです」と。「カリキュラムの大筋から離れている科目が ありませんか。無駄な科目がないですか」ということを暗に言っていたわけです。実際、
作業していくと、そういう科目はほとんど出てきませんでした。足らない科目の方が、
よくわかります。この流れの中で、ここにポカンと科目がない。「1、2年でここま でやってきて、卒業次でここまで要求しているのに、3年次で関係する科目がないで すね」というのがチェックリストとかマップで見えてきます。そういう意味で、「次 のサイクルのカリキュラム改善の時には、ここをつなぐような科目をつくれませんか」
という形で利用していただくことになります。
今年度は国立大学の最初の6カ年の最後の年にあたりましたので、今年度は評価と いうことで、カリキュラム自体を評価する。個々の学生の評価ではなく、提供してい るカリキュラム自体をどう評価したらいいかを、外部評価との絡みで考えています。
具体的にはチェックリストをつくって、作業途中ですが、ディプロマ・ポリシーがあ り、評価の方法論、いつ、どれくらいの頻度で、誰に対して、何を行うかリスト化し て、ここでそれをどう使うかを、今、作業していただいています。11月頭に一度、3 回目のカリキュラム研修会で一通り出していただきました。教育企画室でコメントし て、2月までにブラッシュアップして3月までにはホームページに載せられるように してくださいという宿題を各学部にお返ししたところです。今日はなるべくカリキュ
第二部 講演会・ワークショップ講演録
ラム・ポリシーに話題を絞りながら、他のポリシーについてもお話しさせていただきました。
改めて、ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリ シーとは何だったか。入り口と出口を規定して、その間の、学生を伸ばす方略を何ら かの形で外部に向けて訴える、内部に向けて訴える、そういう作業なんだと思います。
結果的には、これは教育についての質の保証の一つです。これだけで質の保証ができ たら、こんな楽なことはありませんが、質の保証は非常に大変な作業で、これはその ための方略の一つにすぎません。実際には学生が直接触れるのは個々の授業ですから、
カリキュラムを組んでいくと、結局は個々の授業の改善をしなければいけなくなる。
ここ数年、ミドルレベルのFDを、かなり教育企画室主導でやってきましたが、次の 6カ年は、またミクロに戻ってくるんだと思います。もう一つはマクロのところで、
大学の方針の明確化とか、学長のトップダウンをどうやって表現するか、マクロのと ころにくるのだと思います。愛媛大学は比較的、よその大学と比べるとマクロのレベ ルはうまくいっていると言われますが、そういう形で再びミクロとマクロと二極分化 して、FDの基本に返っていくのだろうと考えています。
さて、誰のためにFDをやっているのか。もちろんカリキュラム・ポリシーを受験 生に見せて、いい学生を確保する、これがアドミッション・ポリシーとリンクした使 い方です。次に学生の就職先の企業等のため。こういうカリキュラムを提供していま す、ここが他と違います、自分たちの教育理念、教育目標、建学の精神に沿って、こ ういう特徴的なカリキュラムをやっているというのが、うちのウリです、それを延々 と文章で書いても、なかなか読んでくれない。だったらチャートにしてドンと示せな いかという考え方です。
我々自身のため、ということもあります。大事なのは、ここです。私立大学に来て いつも思うのは、事務スタッフの方がすばらしいと思います。国立大学はまだまだだ なと思います。先日ある別の私立大学でワークショップをさせていただきました。カ リキュラム・マップのセッションでしたが、参加者の半分以上が事務職員でした。そ れだけ学務関係の事務職員が、自分が担当している学部のカリキュラムをよくご存じ だということです。それを勉強する機会になったと言われました。実際には教員だけ 動いていても全然だめで、裏方というよりは正面に出てこられますが、事務職員の方 がいいものをつくっているということもあります。
もちろん、結局は学生のためにならないといけないので、これがしんどいところで す。FDをやっていると、問い掛ける先が学部だったり、学部の先生方だったりします。
最終的に、FDをやったアウトカムはどうやって出てくるか。学生が伸びたことで出 てくるんです。最後は学生次第だという感じもしますが、学生がどれだけ伸びるか、
学生をどれだけ伸ばしてあげられるか、このために日々努力しているということを常 に忘れないようにする。そうでないと、形式的なFDになってしまいます。確かに学 校教育法が変わってしまって、FDをやることが必修です、と大学として当たり前の ように求められています。外部評価でも聞かれます。「しょうがない、今年はこうい うことをやってFDをしたことにしよう」と流れがちです。それを忘れないようにす るためには、「学生」の2文字を常に念頭においていくという、極めて基本的なこと しかないのだと思ってFDの仕事をさせていただいています。どうもご清聴ありがと うございました。
〔質疑応答〕
圓月 勝博(司会)
小林先生、どうもありがとうございました。よく整理されたお話を拝聴することが できて、勉強になるところがたくさんありました。私たちがワークショップを2回構 成にしましたのは、前回は初級レベル、今回は中級から上級レベルと考えて企画しま したが、私たちの期待どおりのご見識あるお話であったと喜んでおります。気楽な意 見交換の場を提供することを目的としておりますので、質問がございましたらお気軽 に言っていただければと思います。
質問を待つ間に、去年、立命館大学の沖先生に来ていただきましたが、立命館大学 と山口大学がペアで出てくるのはなぜかについて、少し解説しておきます。沖先生は 3年前、立命館大学に来られましたが、それ以前は山口大学におられました。そこで 教育課程の整備等の仕事をされ、業績をあげられて、それを評価されて立命館大学に 行かれたわけです。沖先生は国立大学のやり方を立命館大学で応用することをなさっ ているわけですが、大学の性質が違って、うまくいくところもあればいかないところ もあって、ご苦労されていると聞いております。
沖先生のお話では、チェックリスト方式のカリキュラム・マップをご紹介いただき ましたが、愛媛大学ではそれを図のような形で示したのがカリキュラム・マップだと 分けて考えておられます。用語は違いますが、重要な点はどうやって見えやすくする か、そして、「見える化」することの目的は何かということが、今回の一番のテーマ だと思っています。それでは、フロアから手が挙がりましたので、質問をお願いします。
第二部 講演会・ワークショップ講演録 フロア
アドミッション・ポリシー、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーの関 係を図でお示しいただいて大変よく理解できました。ディプロマ・ポリシーというの は、図を拝見しますと、カリキュラム・ポリシーによってだけ達成されるもののよう に見えるんですが、どういう卒業生を送り出したいか、授業以外で単位化されていな い活動も通して人材を育成したいと思っていますが、ディプロマ・ポリシーを書く時 には、そういう面は除いて、あくまでカリキュラムで達成される目標を書くのが原則 ということでしょうか。
小林
どういうふうに表現するかは各大学の考え方次第ですので、愛媛大学の考え方だけ が正しいわけではありません。カリキュラーなものと、「コ」カリキュラーなものと、
どういうふうに組んでいくか。学部のディプロマ・ポリシーには書きにくいところも あるかと思います。愛媛大学では現在、ディプロマ・ポリシーは比較的狭くとらえて いて、ミニマム・リクワイアメントを保証するものだと考えています。中教審とか外 部評価に使われている指標に出てきますが、それはあくまでミニマム・リクワイアメ ントです。ただ実際には、それ以外に学生は付け加えて外に巣立っていく。愛媛大学 の今のやり方では、プラスαは盛り込めないですね。ただ科目としてはしないが、学 生に強く求めているものがあれば、ディプロマ・ポリシーの表現の中に、必ず入れる ことができると思います。これはチェックリストの中に入ってこないが、こういう活 動を君たちは必ずやるんだ、その活動の中で、こういう能力は必ず身についていくん だということを表現できれば、それはディプロマ・ポリシーの中に入っているべきだ と思います。ただ、愛媛大学の今のやり方だと、表現上、テクニカルに難しいかなと 考えています。
フロア
以前、JABEEをやっていましたので話の流れはわかるんですが、困ったのは、選択 科目の問題と一般教養の科目を、どう学部・学科のカリキュラム・マップに入れてい くか、難しい作業だと感じていますが、そこをどう対処されていますか。
小林
一般教養は愛媛大学では共通教育として、(学部にもよりますが)1年〜2年履修
です。そこが終わった時点でのディプロマ・ポリシーというとおかしいのですが、共 通教育としての到達目標は掲げていって、これも5領域に分けて記載しています。共 通教育の到達目標があって、学部目標があって、その上に全学のディプロマ・ポリシー があるという階層構造にしたいと思っています。ただ例えば、医学部のディプロマ・
ポリシーの場合には、専門分野にとらわれず一般的な教養を身につけるという目標が 入っています。つまり学部のディプロマ・ポリシーに教養教育のことが入っています。
そこでチェックリストの中で表現することもできます。初年次教育も医学系では全体 の流れの中に入るようにしています。これは大学生としての初年次でもあるし、医療 人の教育として初年次でもあるので、医学の教育の中の全体に当てはめることができ ます。確かに、選択してとれる教養科目を流れのどこに持ち込むかは、工学系は難し いですね。工学系のカリキュラムの中に、どういう形で法律や経営の授業を組み込む か、なかなか難しいと思いますが、一部は横の方に、右の列に入ってくる。縦のつな がりのないところに入ってくるかと思います。できればスタディ・スキルの授業は当 然、ベーシックのベーシックですから、そこから始まって、スタディ・スキルの授業 でプレゼンテーションを習って、それが実際に最後の卒論に影響していると書けると、
学生も納得すると思います。そういう工夫がいるのではないかと思っていますが、い かがでしょうか。
フロア
共通教育は自由にとれてしまうので、学生がある程度、幅広く、バランスよく身に つけてくれるかどうか表現しにくい
ものがある。スポーツ・パフォーマ ンスのような体育関係のかわりに語 学で埋めてしまおうとか、自然科学、
人文科学系の科目をとってほしいん ですが、それを指定していない時、
書き方が難しくなるということが悩 みだったんですが、そういうところ を、どうされているのかなと。
小林
幅広く、というのはいい言葉ですよね。どこまで広いか、書いてないですから。少
第二部 講演会・ワークショップ講演録
し逃げているというか、誤魔化しているところがないわけではありません。ただ、愛媛大学は平成18年度くらいから、それまで学生がバラバラにやっていた教養教育に一 貫性を持たせて、大学全体で必ずこういうメニューはとってほしいと新入生に提供す る考え方を取り入れてきました。初年次科目はほとんど必修でクラスが決まっている ので、1年生が4月に入った時、完全に自由に選べるクラスはスポーツ科目でどれを 選ぶかと、もう一つくらいしかありません。1年生の春学期はクラスを決めてしまっ て、全学で統一したカリキュラムで授業を提供しようという考え方に変わりつつある ので、愛媛大学の場合は自由度を狭めているのかもしれません。それがいいことかど うかはわかりませんが、そうした理由の一つはリメディアルの必要性が増えているこ と、スキルも含めてリテラシー教育もしないといけないこと、各学部が1年生に要求 するものが以前よりも増していることがあります。1年生の授業の自由度が少ないの は、学生からのクレームとして上がってくることもあります。ただ、「こころと健康」
の科目を今年から改編しましたが、「心理学」、「食育」、「基本的な医学」、「スポーツ医学」
については、どの学部の学生も必ず聞くという科目にしました。スポーツも入門科目 は15コマですが、はじめの5コマのテーマは全学で決まっています。スポーツという よりフィットネスの授業をして、卒業後の生涯スポーツにつながるような授業をして いただいています。愛媛大学は選択を狭める方向で、その代わり愛媛大学の学生だっ たらこういうことを必ず聞いているという形の考え方に変わりつつあるので、方向性 がちょっと違うかもしれません。本当に無秩序にとらせるのがいいのかどうかわかり ません。医学科の学生には必ず法律と経済は勉強してほしいと思っているので縛りを かけたいのですが、なかなかテクニカルにかけにくい。毎年先生方も変わる、コマ組 みも変わっていくので、必修にはできないのですが、できれば秩序だってとらせたい なと思っています。
圓月
本学も3年前、全学共通教養教育制度ができました。今回の企画も、全学共通教養 教育を各学部のカリキュラムとどう接点を持たせていくか、共通理解をつくるかとい うことを大きな目的の一つとして実施させていただいています。
小林
大学全体として、組織としてどうやって動いたらいいかという話で、特に初年次教 育について聞かれます。愛媛大学では教育企画室が共通教育の担当と別にある。そう
いう国立大学は少ないんです。共通教育を担当しているところがFDを担当している ところが多い。愛媛大学のFD部門は分けました。共通教育も一緒にコラボレートして、
専門でFDのお手伝いをすることもあります。全学的に卒論をどうするかという大き なテーマがありますので、来年度以降、卒論についても教育企画室がお手伝いする形 になると思います。離れたところで、シンクタンク、サードパーティ的な働きができ るので、いろんなレベルでお手伝いできているのが、教育企画室が外からよく言われ るいいところだと思います。内にいると仕事が増えて困るんですけど(笑)。
圓月
組織の面もなかなか難しいところで、本学でも教育支援機構として教育開発セン ター、教務部、全学共通教養教育センター、免許資格課程センターがありますが、各 組織の連携も大きな課題です。
フロア
各学部のディプロマ・ポリシーを終えていれば、アウトカムとして教員になった時 も十分通用しますよ、というお考えをお持ちなのかどうか。というのは、教員になる のに学部卒だけでは難しい時代だと思いますので、それに関して教職科目をとってい る学生たちに何かケアをされていますか。カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポ リシーをお考えかどうか。付属的なものとしてつけるべきかどうか。
小林
愛媛大学でどうしているかをご説明します。愛媛大学は教育学部がありますので、
教育学部の中に教員養成課程があります。それ以外の5学部で教職課程をとる学生も います。教職課程の科目のディプロマ・ポリシーを別途つくりました。各学部のディ プロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーとは別に、教職科目でここまでは到達さ せるというディプロマ・ポリシーを学部のディプロマ・ポリシーとは別途つくりまし た。理学部の学生であれば理学部のディプロマ・ポリシーはクリアして、それとは別 に教職課程のディプロマ・ポリシーもクリアしなければいけない。このように授業科 目が組まれているという考え方をとっているので、理念としては教職課程のディプロ マ・ポリシーをクリアしていれば学士レベルの能力は身についていると一応保証でき ると思っています。実際どれだけ実質化しているかは難しいです。文部科学省は教職 6年化構想を考えているようですので、それだけでは足らないと言われるかもしれま
第二部 講演会・ワークショップ講演録
せん。でも教職課程はそういう形で整理して、平成20年度からそのネタで教育GPをいただきました。平成20年度から22年度にかけて、来年度までに全学的な教職課程の実 質化作業を今、教育学部を中心に行っています。来年度以降、その成果を発表するこ とがあるかと思います。
フロア
順次性、系統性について、単位を落とした場合、ほとんどの科目がギリギリのもの となると考えた方がよろしいでしょうか。
小林
単位を落とした場合、その後の科目をとれるかどうかについては、現実的には順次 性が崩れることを容認せざるをえないケースは、ままあると思います。これは学年進 行も考えていくと難しいところではあります。場合によっては「このまま先にいくと 次の学年の履修は無理です」と出てくる場合もあります。留年ですね。そこは文部科 学省も暗に留年させてはいけないと言っている(?)ので、医学部のように留年が多 い学部は困るんですが。4年すべてにチェックポイントをおく必要はありませんが、
真ん中くらいでチェックポイントを入れて、それより先にいけないというケースが出 てくる場合も、質の保証を考える上で致し方ないかなと。国立、私立で事情は違いま すが、真ん中のチェックポイントは致し方ないかなと思っています。
フロア
同志社大学の場合と比較しながらお聞きしていましたが、教育コーディネーター研 修に対応するかどうか、教育開発センターには部会が3つあって、各学部からFD担 当の教員が出てきて全学的な情報共有をしています。昨年度から各学部にFD委員会 をつくっていただき、そのFD委員会の委員等に教育開発センターの部会に出てきて いただいています。愛媛大学の場合、教育コーディネーターの先生方の活躍をお聞き して、教育コーディネーターの先生方が各学部・学科に戻った時、マップやチェック リストをつくる作業で、どういう形で各学科でやっておられるか、教育コーディネー ターだけの負担になるのか、学部・学科の体制をお教えいただければと思います。
小林
全学的には教育コーディネーターは60数名いるので相当な人数ですが、各学部で割
ると10人以下です。学部に帰るとマイノリティになります。マップの作成、チェック リストも含めて基本的には少数精鋭でつくっていただいています。自分の担当する学 科だけではなく、他の学科の作業も手伝う。各学科に戻ると教育コーディネーターは 学科に一人だったりして、教務委員会、学務委員会等々の組織がありますから、そこ の委員を総動員して、ということになると思います。研修会に出ていただいているの で、他の委員の方より、ちょっと経験がある、知識がある。ちょっとだけリーダーシッ プがとれれば、そこでの作業は進んでいるようです。いろいろ温度差はありますが、
基本的にはそういう考え方で各学部の既存の組織を使っています。
理学部の場合は、既存の組織をどんどんなくしていって、コーディネーター会議、
各学科のコーディネーターが集まって業務を集中しています。理学部の教育コーディ ネーターはほぼ毎週作業をやっているので、ご負担は大変だと思います。若手の准教 授クラスを投入して、教育もできる次の世代の教員を育てたいという考え方が色濃く 出ています。ご負担もありますので、どうやってインセンティブをつけていくかとい う問題も一緒に考えなければいけません。先代の学長が教育コーディネーター制度を つくった時には、給与面、人事面で優遇しますと明言しました。人事面の評価には必 ず入れてくださいと、お願いしています。
もう一つはコーディネーターをバックアップするために資金が必要ですので、現時 点では学長裁量経費で年間5000万円割いていただいて、学内の競争的教育資金の制度 をつくりました。これも教育コーディネーター制度と一緒にできました。15件程度採 択して、1件100〜300万円を2年間補助しよう。学科内でアイデアを出していただい て、教育コーディネーターのコーディナリーな作業、ディプロマ・ポリシーの見直し、
チェックリストの作成にも予算支援をしよう。チェックリストをつくるのにはお金は いらない。システムを改善する時に、それにまつわることに使えます。コーディネー ター経由で予算を出します。コーディネーターに執行の責任と権利がある。少しでも インセンティブをつけてさしあげようということを考えています。
フロア
本学でも、お金の方を考えていただくといいかもしれません。
圓月
お金のことになると、一般の私学がそのまま真似ができるかという点もあります。
教育コーディネーター制度をやると、教員評価までいかなくても教育業績評価を制度