著者 川原? 知洋
雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学
篇
巻 66
ページ 201‑212
発行年 2016‑03
出版者 静岡大学学術院教育学領域
URL http://doi.org/10.14945/00009532
静岡大学教育学部研究報告 (人文
社会
自然科学篇
)
第66号(20163)201〜
212 201造形活動を利用した空間デザインに関する考察
2
A Study of the Space Design utilizing Creative Experience 2
川原峙 知 洋
Tomohlro KAM「 ARASAKI
(平成27年
10月 1日
受理)
1.は
じめに
これ までデザインの主たる対象 はモノであった。 しか しなが ら近年、様 々な技術革新 により、
モ ノ自体 よりもむ しろモノの背景にある付加価値が我々に何 を与 えて くれるのかに比重が置か れ始めている。つ まり、デザインす る主対象がモノか らコ トヘ、ハー ドか らソフ トヘ と移行 し ている傾向が見受けられる。一方で、人が存在 している以上、この世界か ら物質的なモノが姿 を消す ことは考 えに くい◇デザインは社会動向や時代の潮流、人の営みに大 きく影響 している と言 える。物質的なモノが存在 しているか らこそ、そ こにはコ トが生 じる。またそ こにコ トが 生 じれば、それに必要なモノも出現 して くる。 より良い社会 を形成 してい く中で、モノとコ ト は切 り離す ことので きない密接 な関係 にある。
この ような背景か ら、造形活動
(ソフ ト
)と、活動す る空間環境
(ハー ド )を 一体的に捉 え なが らデザインしてい くことで、 より質の高い経験 を提供することがで きるもの と考 え、造形 活動 と空間デザインとの新たな関係性の発見に向け、子 どもを対象 とした造形に関す る実践 に 取 り組みなが ら研究 を遂行 している。
2.研
究の目的と方法
本稿 は、『造形活動 を利用 した空間デザ インに関す る考察』
Dの継続研究 として位置付 けて いる。
2015年5月に静岡市 にあるグランシ ップで実施 された「 こどもの くに
2015」での造形イ ベ ン トの実践を事例に、造形活動 と空間デザインとの関係性について考察 した。造形活動 と活 動す る空間の両者 を一体的にデザインすることによ り「造形活動での成果 を有効利用 し、空間 全体 をメデ イアとして捉 えることで有益 な情報 を伝達することがで きる」 とい う仮説 を立てた。
研究の方法 として、多 くの集客が見込 まれる大型の公共施設において、子 どもたちの造形活 動 をデザインするポイン トについて、昨年度 までの実践事例 のでの反省 を踏まえなが ら整理す
る。 また、造形活動 と空間 とを一体的に捉 えてデザインす る際に考慮 されるべ き項 目を列挙 し、
その根拠 について明 らかに してい く。 さらに、造形 イベ ン トに参加 した学生 めに対 し、イベ ン ト終了後にい くつかの設問項 目を設けた レポー トを課 した。その レポー トを考察することで、
今回のイベ ン トで得 られた成果 と、今後の造形活動で重視すべ き課題について明 らかに した。
美術教育系列
3 こどものくに21115〜すいすいざぶ―ん
!〜の概要
日 時 :2015年
5月 3日 (日)〜
6日 (水)までの
4日間 10∞ 〜
16Ю0場 所 :グ ランシップ
(静岡県 コンベ ンシ ヨンアーツセ ンター
)対象者 入場料 主 催
7''7:W
未就学児及び保護者
(特に乳幼児 )'
無料
公益文化財団法人静岡県文化財団、静岡県
「こどものくに」は、家族で楽 しむ参加型イベントとして2006年から始まり、今年度の開
催で節 目の
10年目を迎えた。毎年、
5月の大型連体 に合わせてグランシップ全館 をあげて開 催 されるイベ ン トで、
4日間の会期 中は全ての活動や体験が無料で提供 される。グランシ ッ プは
JR東静岡駅 に隣接 した施設で、大型駐車場が完備 されてぃる。 さらに、近隣の 日本平 動物園に行 くためのシャ トルバスの出発地 とい うこともあ り、様 々な諸条件が相乗効果 とな
り、多 くの親子連れが集 まる °
文化施設である。筆者 はこのイベ ン トの展示 ギャラリー内' で行 われる造形イベ ン トの企画監修者 として
21112年か ら参画 している。
4 プロジェク トのプロセスと広報活動について
「 こどもの くに
2015」プロジェク トは
2014年12月か ら本格始動 し、学生ボランテイア事前説 明会 までの間に全
9回の打合せ を行 った。 なお、造形イベ ン トのテーマの検討 については、前 年度の造形イベ ン トが終了 した直後か ら継続的に行 ってきた。
初段階では筆者 を含む企画監修者
2名とグランシップの企画担当者
2名とが打合せに参加 し、
「海」 とい うテーマか ら各 自が持ち寄 つた様々なイメージや想起 されるキーワー ドな どを自由 に意見交換する場 としている。同時に、造形イベ ントの核 となるアーティス ト。を 1名 招聘する こと力`置例 となっている。今年度は美術家の天利道子氏にこどもの くに
2015への参画 を依頼す ることに決定 した。それに伴い、天利氏が過去 に行 った造形 ワークシ ョップについてのヒアリ ングや、今 回の会場条件や諸条件などを照らし合わせなが ら、実現可能な造形活動についての 数回の打合せ を通 しなが ら議論 した。天利氏には核 となるワークシ ョップの企画 と、エ ピロー グとしての作品制作 と展示計画 を依頼 した。
第
5回目の打合せか ら、展示施工業者や照明計画担当者なども交えなが ら打合せを行つた。
特 に空間演出 と、制作 した作品を空間に展示するための効果的な展示方法 について考慮す るこ とは欠かす ことがで きない。監修者 は表現 したいイメージをラフスケ ッチ をもとに伝 え、それ を受けて施工者は安全面 を考慮 しなが ら、最適な演出方法や表現方法 を提案 し、最終的なアウ
トプッ トについては互いのアイデアを尊重 しなが ら決定 していつた。
4月
上旬の段階で、造形イベ ン トの骨格力ヽまぼで きあがった。 この造形 イベ ン トを扱 う「アー トとコミュニケーション」の受講生には新年度の授業開始にあわせて、イベ ン トの趣 旨やこれ までの経緯 を説明 し、テーマや会場で行 う活動内容 などを伝 えた。 また、主体的・能動的に追 形 ワークシ ョップについて考 えて もらうため、 「深海魚」 とい うテーマか らどの ような活動 と 空間をデザインすることがで きるのかについて、グループワークによって提案 して もらった
6その際、多 くの人々が集 まる大型イベ ン トであること、二な対象者は未就学児 と保護者である
こと、 Юぽ (8m× 5m)ほ どの広 さの空間が
2部屋用意 されていること、メイン会場で行 うワー
クシ ョップが既に決定 していること、活動 と空間 とが運動 した関係 になっていること、などを
造 形活動 を利用 した空 間デザ イ ンに関す る考察2
与条件 とした。架空の設定なが らも、自分たちの考案 したワークシ ヨツプによって、子 どもた ちはどのような反応 を見せ るのかな ど、造形活動や空間デザインによって人に与 える影響の大
きさについて理解 しようとしていた。
今回のプロジエク トの試み として、造形イベ ン トの認知 を広げるための広報活動 を行 った。
グランシップの HP上 での告知、造形 イベ ン トの リーフレッ トの配布 は以前か ら行 つていた こ とであるが、 さらに効果的な広報活動 を考 えた結果、小 さな子 どもを連れた家族が多 く集 まる 場所で、出前造形 ワークシ ヨツプを実施することなのではないか とい う結論 に至 った。つ まり ポスター リーフレッ ト HPな どの文字情報 による告知 よりも、実体験 による情幸艮提供の方 が伝達力は強いのではないか とい う提案である。プ レイベ ン トとしての広報活動はグランシッ プでの実施 も当然考 えられたが、家族連れが集 まる日本平動物園での実施が より効果的である と判断 した。「 どうぶつ」がテーマであった昨年度の造形 イベ ン ト企画の際 も、協力いただい た ご縁 もあって、今年度のワー クシ ヨップの実施 も可能 とな り、
2015年3月 23日 (金)に こど
もの くに
2015のプ レイベ ン トとして 日本平動物園の ビジターセ ンター内においてワークシ ヨッ プを行 った。
造形活動の内容 としては、両面テープを貼 った白色画用紙 に動物 シルエ ッ ト
(ベンギン、ア
ザ ラシ、 な ど海辺 の生 き物6種 を用意)の
型 をあて、鉛筆で シルエ ッ トをなぞ り、はさみで型抜 きす る。
その後、両面 テープを剥が し、粘着面 にスパ ンコー ルを押 し当て ることで予期 しない模様 を作 る とい う 内容であつた。 さ らに、スパ ンコールを大量 に用い て、自クマ とチ ョウチ ンア ンコウの「顔 はめパ ネルJ
を制作 した。 ワー クシ ヨップを告知す るポス ター と しての機 能 を持 ちつつ 自由に写真撮影 を楽 しんでい ただけるような役割 を果 た した。
場所 時間 人数 に制約のあ るワークシ ヨップや イベ ン トは、そ こに集 う限 られた人だけに しか提供 す るこ とがで きないため、一見す ると効率の悪い広 報活動 の ように感 じられ る。 しか しなが ら、思わず 写真 を撮 りた くなる ような体験型のワークシ ヨップ は宣伝効果が大 き く、SNSを利用 した情報 の拡散が 期待 される。 また、拡散 され ることをあ らか じめ想 定 し、顔 はめパ ネルや、 ワー クシ ヨップで制作 した 作 品を保管す る袋 には、 こどもの くに2015のイベ ン トロ ゴ、 開催 日時、 開催場所 な どを表記 した グ ラ フィ ックを添付 した。 さ らに
Facebookに
よる特設 ペ ージを作成 し、広 く周知 した。 もちろん、 ワーク シ ョップによつて得 た実体験 について、ロコ ミによ る波及効果 も期待 した。写真
1
ス′ヽンコールを用いたワークショップつ υ nv 9 ι
写真
2
顔はめパネルでの記念撮影写真
3
スマー トフォンで撮影する親5.「
すいすいざぶ一ん 」 のコンセプ ト
今年度の造形活動のテーマは「海 Jで あつた。これはメイン会場 となるグランシップという 名称に由来 している。グランシップはその名前から推測できるように、建物自体が大海原を航 海する大 きな船をイメージしている。よって、こどものくに
10周年という節 目を機に、新たな 船出という決意を込め「海」に決定 した。昨年度の「どうぶつ」を受け、 「さかな
Jというテー マでの可能性 も模索 したが、海が持つ神秘性や、海に棲む生き物の生態や多様性から多角的な 視点が生 まれるのではないかという期待 もあった。海 というキーワー ドからどのような造形活 動が可能なのかを探 りながらイベント全体をデザインした。会場はグランシップ
6階にある展 示ギャラリー
1,2,3を使用 した。会場構成は「すいすいさぶ―ん」 に訪れた来館者に対 し、企 画者が提案する海の世界観が伝わるようなス トーリー性を重視 した。また各々の造形活動の性 質をよく吟味 した上で、全体の連続性が感 じられなが らも、個々の活動が引き立つような配置
を考慮 しなが ら以下のように設計 した。
①ふしぎな海の世界にようこそ
(プロローグ )
②海のいきものに変身
!③海底の世界
④ どんな深海魚がイメージできる
?⑤漁師が見る海の色
(エピローグ )
OUT
図1 すいすいざぶ―んI会場平面図
前述したように、多 くの来館者を集めるイベントであるため、①→⑤の順番に活動が行える
ような動線計画を行つた。また、各展示室内においては造形活動の性格上、来館者の自由な動
線を保証 した。
造形活動 を利用 した空間デザインに関する考察2
(l)「
ふしぎな海の世界にようこそ」について
「すいすいざぶこん」 の導入展示 として位置付けた。
2013年度は「粘土」 という素材テーマ であったため、色粘土を使用 した練 り切 り和某子を
40点ほど制作 し、視覚情報を優先 した導入 展示を提案 した。色粘土による練 り切 り和菓子は訴求性が高 く、また粘土 という素材に対 して 興味を惹 きつけることに成功 したものの、粘土の世界への導入展示 としてはもの足 りなさも感
じられた。 よつて、
2014年度の「 どうぶつ」 をテー マ とした導入展示では、
3層のフレームを用意 し、
そ れ ぞ れ の フ レー ム に は人 間 シ ル エ ッ トの 穴
(H2,000mll)、
猿人 シルエ ッ トの穴
(H:1,000mm)、猿 シルエ ッ トの穴
(H750mm)をあけ、その穴 を くぐ
り抜 けて動物の世界へ誘 う トンネルをデザ インした。
つ ま り、二足歩行の人間か ら四足歩行の猿
(動物 )
へ と自分 自身が変身
(退化 )し てい く体験 を「 くぐ り抜 ける
Jとい う動作が生 じるデザ インによつて来 館者 に提供 した。身体 を伴 う体験 は視覚情報 よりも
より鮮明な記憶 を残 し、来館者の期待 も高 まっている様子が窺 えた。
今年度 も昨年度 までの成果 と反省 を受けて、体験 を伴 う展示 を行 つた。具体的には、透明乳 白色のすず らんテープを用いて海岸の波打 ち際の様子 を再現 し、波の中を くぐり抜けることで 海 中に入 り込む感覚が体験で きるような波 の トンネルをデザ インした。 また、サーキュ レー ターを トンネル下部に設置 し、波の動 きを演出 した。すず らんテープが動 くことで、テープ同 士が重な り合いザ ワザワと音が立ち、まるで本物の波のように感 じ取 った来館者 もいたはずで ある。 この ように表現することで、 リアルな海岸の臨場感を演 出 しようとした。身近な素材 を 用いた単純な構造物ではあった ものの、視覚、聴覚、触覚が同時に活性化 されることで、海岸 で見 る波打 ち際の様子が想起 されることを期待 した。小 さな子 どもたちも波の トンネルを楽 し みなが ら海の世界へ入 り込んでい く様子が伺 えた。
(2)「
海のいきものに変身 り について
導入展示 を通 り過 ぎると、い よいよ造形活動 を行 う空間 となる。海 とい う世界 に慣れ、その世界 に没 頭す るための効果的な方法は、 自分事 にす ることだ と考 えた。「 どうぶつ Jが テーマだった昨年度 もま ず は自分 自身が動物 に変身することで、動物にな り きることがで きたために、次の活動 に対 して意欲的 になれた子 どもが多かった。 また、動物 に変身 した 子 どもたちが展示室内にいつぱい広が り、子 どもた ち 自身が空間を演 出す るメインの対象物 となった。
今年度 も昨年度に倣って、まずは子 どもたちに自分の身体 をキャンバスにして もらうこととし た。大 中小、様 々なサイズの ビニール袋 を配布 し、水性マジックで魚の鱗や タコの吸盤な どを 描 き、 はさみを利用 してクラゲの足のようなひだを作 るような子 どもが多かった。制作 した作 品を自分の身体 にまとって も、壁面 に展示 して も良いこととした。また地元の漁師か ら貸借 し た漁獲網 を使用 して天丼 を覆い、ダイナ ミックな空間演 出を試みた。
205
写真4 8、しぎな海の世界にようこそ導入展示
写真
5
海のいきものに変身 !会 場風景(3)「
海底の世界」について
今 回のイベ ン トの中で も最 も大 きい展示室で展開 した造形活動である。直径
30センチほどの円盤型の 画用紙 に、 自分の想 う海の色 をイメージ し、クレパ スを用いて色 を塗るとい う活動である。塗 った円盤 は ,箇 所、中心 までの切 り込みを入れ、少 し重ねる ことで円錐形状 になる。 これを何枚 も重ねてい くこ とで柱 とな り、柱 を天丼か ら吊 り下げてコレクシ ョ ンしてい くことで、展示室内が徐 々に様々な色 を持
つ タワーヘ と変化 した。
海底の世界 会場風景(4)「
どんな深海魚がイメージできる
?」について
この空間での造形活動 は主 に筆者が中心 となってデザインした事例である。全体テーマであ る「海」が提示 された後、す ぐに活動内容 を計画で きる訳ではない。 まずはメイン会場での造 形活動の方向性がある程度決定 された後 に計画することが求め られた。
これまでの造形活動の成果 と課題 を踏 まえた上で、造形活動 と空間を一体的にデザインす る 際に考慮 されるべ き項 目を以下 に列挙 し、デザインした活動 と空間の概要 を図
2の体験者の流 れ として示 した。
I安
心・安全 に造形活動がで きるように配慮すること。
工 前後する活動 と類似 しない よう、部分だけでな く全体の流れ を考慮すること。
Ⅲ 集積 された形跡
(作品 )を 有効利用す ること。
Ⅳ 子 どもの記憶 に残 る体験 を提供すること。
V子
どもの保護者 にも感動体験 を提供すること。
(項
目
I)基本的ではあるが最 も重要な項 目である。怪我や事故の心配のある活動や、危険な 行動 を取 る可能性のある活動は避けるべ きだ と考 える。ただ し、 リスクを回避す るあま り、ダ イナ ミックな活動 を提供す ることがで きな くなって しまうデメ リッ トも当然生 じて しまう。 こ のデメリッ トはマ ンパ ワーでカバーすることが可能である。十分 なマ ンパ ワーの確保が出来 さ えすれば、 自由度の高い活動的な体験 を提供することはで きる。 しか しなが ら、今回のような 大型イベ ン トではマンパ ワーに限界が生 じることが多い。 よって、活動内容 を検討す る段階で、
活動的な体験の提供 を考慮 しつつ も、怪我や事故の恐れがないか どうかの十分 な確認 と配慮が 必要である。
(項
目Ⅱ )直 前 に行 つていた活動内容 と次の活動内容 には変化 をつけることが必要である。特 に今回のイベ ン トでは「海
Jとい うテーマの もと、入口か ら出口まで、一貫 した世界観 によっ て演出 しようとした。流れやス トーリー性 を重視 しつつ も、体験の強弱、緊張 と緩和 といった 減 り張 りをつけることが推奨 される。
(項
目Ⅲ )多 くの来場者が参加す る本イベ ン トには欠かせ ないキーワー ドである。体 験者が創 出する表現それ自体 にもちろん価値が認められるのだが、それぞれの個性が表出された作品に は力が宿 り、 さらにその集合体 となれば多 くの人々を魅了する力が発揮 される。だか らこそ、
その力 を有効利用できる しかけづ くりをデザイナーは計画す る必要がある。集積 された形跡 と はい くつかの種類 に分類することができるが、 どの ような形跡 を集積 させ るのか、またはどの
写真6
造形活動 を利用 した空間デザインに関す る考察2
ように集積 させるのかについては、対象者の発達段階に応 じて決定される。
(項
目Ⅳ )子 どもの記憶に残る感動体験は、その後の成長に大 きな影響を与える。空間を演出 するためのしかけを施すために、項 目 Iで 指摘 した減 り張 りをつけた。ここでの減 り張 りとは
「制作するための明るい空間」 と「鑑賞するための暗い空間」 という対比である。この段階で、
暗い世界に生 きる「深海魚」 というキーワー ドが想起 され、深海魚の形を自由に創造すること ができる造形活動を提案 した。また、海は人間が想像するよりもはるかに広 く深いため、解明 されていない謎が多いという。子どもたちが柔軟な発想で創出したオリジナル性のある深海魚 も全 くいないとは否定できないところも、自由な造形を保証 しているものと考えた。
暗い空間による鑑賞を活かす手立てとして、蓄光シールを造形活動の主素材 として活用する ことを提案 した。 しか しながら、蓄光シールは高価であ り、造形活動で使用 しやすいと思われ る○△□などの原初形態に切 り抜かれた蓄光シールは安価ではなく、自分たちの手作業によつ て制作する以外、準備することができないことがわかった。 しかしながら暗い室内で深海魚だ けが光る水族館のような空間を是非 とも実現させたいと思い、ロール形状の蓄光テープ
(500 mn巾)を
20mほど購入 した。このロール形状 をカッターナイフで細い帯状になるまで切断 し造 形 しやすい形状になるようさらに切断 した。また、様々な形を切 り取ることのできるクラフ ト パ ンチなども活用 しなが ら手作業によつて大量生産 した。
さらに、 「深海魚をイメージしよう
Jと投げかけられたところで、戸惑う子 どもが多 くいる のではないかという懸念があつたため、制作する空間には創作のヒントとなる写真を主とした グラフイックを提案 した。例えばイガグリガニのような絵を描きたいと思った子どもに対 し、
イガグリガニの話源 となった「イガグリ」の写真をメインビジュアルとし、 「イガグリのよう なカニ
?」というキャッチコピーの入ったグラフイツクをデザインし、創作する空間の壁面に 展示 した。また、 「ッンツン」 「モジャモジャ」 「フワフワ」 「ゴツゴツ」といった擬態語 も創作 する際のヒントとなるのではないかと考え、同じく壁面に展示 した。なお、グラフイックを制 作するにあたり、沼津港深海水族館に協力を仰ぎ、深海魚に関する様々な情報・写真・資料な どについてご提供をいただいた。また、実際に館内を見学させていただき、深海魚のフオルム やその生態などからインスピレーションを受けることが出来た。
(項
目
V)子どもの保護者にも、造形活動の面白さやその意義について実体験を通 して再認識 していただく必要がある。このような親子で参加できる造形イベントにおいて、造形活動を通 して感動体験を提供することは、図画工作科や美術科の教科の意義や必要性を再認識 していた だける絶好の機会でもある。
(5)「
漁師の人と海の色」について
「アーテイス トが、自らの感性で作品を作るというスタイルではなく、誰 もが持っている美 的能力を引き出し、それをもとに作品をつ くるというスタイル」に魅力を感 じた天利氏が模索 した
1つの作品の形であるといえる。この空間に展示 したポー トレー トは、日本各地の漁師の 顔である。この作品は、作家自らが各地の漁港に赴き、漁師に色見本を見せ、自分が感 じる海 の色を選んでもらった。一人ひとりの漁師に会いインタビューを試みた。その選んだ色がキー カラーとなり、漁師のポー トレー トとなっている。 「概念的な海」が見る側の視覚を通 し、心 に映 り込むような空間となった。
207
ど
にな
'天
海魚ブイオブご謹面甲
襦勁スボットライト
課海魚解説グラフィック
②創作 した深海漁を展示するスペース
体験露 酵 ラフィック
鰈
麟 會
陶 !
①深海魚をイメージして割44・するスペー
含 知
⑮ 創作 テーカ ラ
ー
速 光カーテン
゛ 働 スポットライト , , 床 竜 獅
鷲 爾 ト
ス タ ツ フ ・ ロ
已
Z菫
鰺S N
Maミ
②創作 した深海魚を展示するスペース
(5)学生スタッフに展示壁面に作品を濃示 してもらう.
(6)10分間に i度 、部屋の照明が消える。それまで床に座っ
の
hiえ[]と写霊鶯 々 ←
な形の深海魚を鑑責する。
C燭
を持ち帰る子供は展示壁から剥がしてもらう。①深海魚をイメージして創作するスペース
(1)体験者は台紙受波 じカウンターで様々な大ききの黒画 用紙か ら ,枚選鳥
(2)案材置場で、様々な大きさ 形の蓄光テープと様々な 色のベンを選ぶ。
(3)発想補助グラフイツクを元に、創件テーカ レで 思い思 いの深海魚を制作する。
r41413が 出来上がったら、作品を持っで②の部屋〜移動 する。
図
2
どんな深海魚がイメージできる?体
験者の流れ消灯後
NO SCALE
造形活動 を利用 した空間デザインに関す る考察2
6.学
生ボランティアの レポー トか ら抽出された成果 と課題
造形イベ ン トのポランテイアに参加 した学生がイベ ン ト後 に記述 した レポー トか ら、今回の 造形 イベ ン トにおいてどのような成果 と課題が発見 されたのかについて概観 してみる。い くつ
かの設間を用意 したが、今回はデザインした中心的な空間である「深海魚を創造 しようスペー ス」についての感想を抽出した。設問 ′′″待夕会を創者 ιまうメペースノ だついて、あなたなどのよう
│こ感 じま した″。?ま た、
どれ ゆ ヽま発 とどのような課題が残 されたと考えます力ヽ?
209
(1)成果 について
・
誰 もが扱 いやす い素材 を使 ってい なが ら人それぞれ個性 のある作 品が仕上 がっていた。
・
思 つていた よ りもスムー ズに制作 に とりかか る親子 が多 かった と思 う。
・
私 たち大人が思い もつかない よ うな 自由な発想 です ば らしい作品がた くさん生 まれ 、子 どもたちの創造性 を養 うには とて も効果的な活動だった と思 う。
・
暗 くなる部屋 では皆 の作 品が一体 となって1つの部屋(作品)が できあが り、子 も親 も反応 が良か つた し、
印象 に残 る大切 な空間になつた と思 う。
・
金や銀 のシール が電気 をつ けた瞬 間のギャ ップが大 き く、意外 にも効果的だったの話 を開いて、意 図 して いなかった効果だ った とい うことだが、明 る くした時 も楽 しめる展示 とい うのは とて も良い と思 った。
・
完全 に 自由ではな くある程度制限がある中で子 どもが どの よ うに発想 し工作す るのか気 になった。
・
現象 は よ リー層記憶 を強 く残 して くれ るよ うに感 じる。今 回の ワー クシ ョップで も記憶 に残 るよ うな場 と なつた と思 う。
・
思 つた よ りも多 くの家族 が長 い時間かけて丁寧 に制作 して くれた。
・ 自らが制作した深海魚作品が最後に暗い部屋の中で光るというのは最終の成果として目に見えたので良
か つた。
・
た くさんの子 どもたちに楽 しんで もらえた こと、子 どもだけでな く親 も一緒 に楽 しんでいて くれ た。
・
「作つて」→ 「展示」とい う形はた くさんあるが、このよ うな光 る水族館 として魚 を光 らせて展示す るの は新 しくて、また集積 の力 とい うのが見 られ て良かった と思 う。
。
明 るヒ`ところか ら一気 に暗い ところへ行 つてその雰囲気のギャップ と自分の作 つた作品が生きているよ うに光 る姿で感動 も大 きかった と思 う。
・
多 くの人 (スタ ッフや来館者 も含 めて
)が
参加す ることで成 り立つイベ ン トだ と思 つた。・
団体の一部 になつて一つ の作 品をつ くる とい う協調性 もあつた し、す ごく良い コーナー になった と思 う。
・
ボ ラン2イアの人たちの声だ けが とて も上手だ と思 った。
。
暗い部屋 の フクフク感 がボ ランテエ アの呼びかけで よ り増 してい るのだな と思 った。
。
消灯す るタイ ミングでアナ ウンスが あつたので、特 に混んでい る状況 の中で、制作す るスペ ースか ら展示 す るスペースヘ とタイ ミング良 くスムーズに誘導できた。
・
慌 てて制作す るよ うな事例 もい くつか見受 け られ たが、混雑す る中で、来館者 を次 のスペースヘ と誘導 さ せ るきつか け となつた。
・
深海 つて こんな感 じなのかな、とい う声 も開かれ た り、実際の深海魚 を見てび つ くりした り、もっ と想像 を膨 らませ た りしてい【、 アー トと,ミ ユニケー シ ョンの良い場 となつた。
課題について
ペ ンが一緒に置いてあつたことで、メインがベンでのお絵描きになって しまっている子 (と くに年齢 の高 い子が多かった?)がお り、暗い部屋であま り光 らずもつたいない と感 じる作品がいくつかあつた。
写真か らイメージす るとい う害1に、ポスターがあま り目立たなかつたのが残合だつた。ポスターのデザイ ンが大人向けっぽい物であつたことや、掲示する場所に原因があつたのではないかと考え、そこの工夫次 第で少 し変わったのではないか と思った。
深海魚 スペースで実際に制作風景を見ていると、壁に貼つてあつた「ユウレイのようなイカ?Jや「イガ グ リみたいなカニ
?Jと
いつたヒン トのポスターがあまり役立てられていなかった。このことは、もつと 受付 にて声かけをす ることによつて意識 してもらうべきだつた と反省。深海魚 の名前 をキー ワー ドに作品を作る とい うテーマだつたのに少 し主題がズ レて しまったかな と思 う ところもある。もともと少 しこの課題は難 しかつたような気がする。
根本である深海魚 の名前か ら…とい う部分は果たせ なかつたよ うに思 う。ビジ三ァルだけ壁に貼つておく とい う方法は人が混んでいたせいもあつて機能 していなかつたように思 う。
初 めの部屋で ヒン トを与えるような掲示は効果的だ と思つたが 、深海魚 とい うよ りは 自分で考えた生物や イメージの中だけの魚をつ くる子が多く、深海魚 とい うテーマは少 し弱 くなって しま うと思つた。
全 て の 部屋 で制作 していたので、 どこかで違 う体験 を した らいいのか と考 え させ られた。
シール の枚数制 限が とて も残念 に感 じた。 も し制 限 され るな ら、始 めか ら10枚セ ッ トをつ くつてそれ を 渡 して使 って も らう方 が良かつたのではないか。
「光 る水族館
Jに
ついては、も う少 しナ レー シ ョンに気 を利 かせれ ば良かつた。例 えば、遊園地 のア トラ クシ ョンのよ うに、はじめに「光る水族館へようこそ!」
と言つてみるなど、ナ レーシ ョンによる雰囲気 づ く りもあつて良かった と感 じている。深海魚 を創造す るとい うよ りは、シール とペ ンを使 って好 きな作 品を作 り上げ る活動 になつていたので、
制作時間にも う少 し深海 のテーマ のこ とを伝 え られ ると良かつた。
子どもたちもわくわくしてきているし、 空間は非日常的なのに、スタッフがかける言葉が現実的すぎる
(日′ 常的すぎる
)と、せつかくつくつた非日常の空間のイメージが薄れてきてしまうかなと思つた。スタッフ
として来てい る し、空間 を非 日常的につ くりだ してい くのは人 に よつては難 しい と思 うので、企画 の際に もつ と雰囲気づ く り、言葉 の例 、話 しておいた ら良かつたか も しれ ない。
10分間隔での部屋 の消灯で したが、その待 ち時間が思 いの他 手持 ち無沙汰 に している様 子 を多 く見かけ た。ただ待つのではなく、光が消されるまでの間に何かすることがあれば良いのでは。
視覚以外にも聴覚等で訴 えればよかつたかもしれない。例 えば名前を言 うなど。
音楽 との融合 を考 えて深海のイメージされた BCMを 流すなど、もつと工夫 した らよ り子 どもの創造力をか き立てることができるのではないかと思つた。
今回は深海 について考え、新 しいまだ発見されていない深海魚に夢をはせるとい うよりは、自分の制作物 を仕上げ光 らせるとい うことが目的になつてしまっている。
未就学児の子 どもに とつて深海魚 とい うのが何 なのか?の状態か ら活動 をは じめろと言 われて も子 ども たちは困って しま うと思 う。
スペースではなか ったのではないか。
造形活動 を利用 した空間デザインに関す る考察2 211
7.考
察とまとめ
イベ ン トに参加 した学生たちか ら抽 出された成果 と課題 を受け、今 回の造形 イベ ン トを実践 す ることで見出された価値や、成果、明 らかになった課題などにについて以下のように考察 さ れた。
・室内を消灯 し、蓄光 したシールが光 を放つた瞬間、部屋 を囲う壁面全体が光る深海水族館 とい うメデイアに変貌 した。 このメデイアを通 じて多 くの人々を実顔 に し、た くさんの歓 声 を聞 くことがで きたことが学生 レポー トか ら抽出された。多 くの人々が この造形活動 に 参加す ることによつて創出 されたこの経験が有益 な情報であ ると捉 えることがで きる。
よつて本稿で設定 した「造形活動での成果 を有効利用 し、空間全体 をメデ イアとして捉 え ることで有益 な情報 を伝達することがで きる」 とい う仮説の妥当性 をある程度示す ことが できた。
・本稿で設定 した仮説の中にある「有益な情報」の解釈について、当初は子 どもにとつて「何 かが分かるようになる情報
Jまたは、「分か らなかったことが理解で きるようになる情報」
が有益 な情報である と思 っていたが、「光の変化 による美 しさ」 とい う感覚的な視覚情報 も有益 な情報であることが理解 された。
・ 「深海魚 をイメージさせ るためには視覚情報である写真が有効 に働 くのではないか とい う ね らい」に対 しての批判的な意見が多 く見受けられた。体験者の行動観察 を通す ことで当 初のね らいが棄却 されたことが確認 された。
・学生たちは自分事 としてイベ ン トに参加 していたことが レポー トか ら見受けられた。これ は単にイベ ン トに参加 しただけではな く、企画段階か ら能動的にイベ ン トに関わった経緯 があったか らこそ課題意識 を持 って当 日の運営にあたることがで きたのではないか と考察 した。授業者 としては、 自分事 として考えられるきかっけをどの ように提供 してい くのか がポイン トであ り、継続的な課題で もある。
今 回の光 る水族館での体験が原体験 とな り、造形活動 は楽 しいだけでな く感動 を生み出す行 為であることが伝 えられていた ら幸いである。今後 も造形活動 と活動す る空間を一体的に捉 え
なが らデザインす ることを念頭 に置 き、 より質の高い経験 を提供 してい きたい。
註
1)川 原崎知洋
,「造形活動 を利用 した空間デザインに関する考察」
,『静 岡大学教育学部研究 報告
(人文・社会 自然科学篇 )第
65号』
,2015,pp 2132202)川
原峙知洋
,「造形活動の開発 と空間デザインとの関係性 について‐グランシップ 「こども の くに』 ね ん どで きゅっ
"の実践報告 」
,『静 岡大学教 育 実践 総合 セ ンター紀 要 第
22号』
,2014,pp 155‑1∞3)ア
ニ トとコミュニケーシ ョンは「教職に準ずる科 目」に位置付けられている。受講者は学 部
3年生の美術教育専修、美術・デザイン専攻の学生 を中心 に構成 されている。今年度の 受講生は
27名であつた。
4)5月3日 (日)5,266名/5月4日 (月
祝
)4,695名/5月5日 (火視
)4,210名/5月6日 (水祝
)3,782名。
4日間の合計で
17,953名の来場者数があつた。
5)展 示ギヤラリー
1は425ピ、天丼高柳Ю mあ る大型の展示空間である。メインの活動 となる
「海底の世界」で使用 した。展示ギャラリー
2は 113ごの展示室で
3つの空間に分かれている。
天丼高
2,91111〜3,600ounの展示空間で、 「ふ しぎな海の世界にようこそ」「海のい きものに変 身」 で使用 した。展示ギヤラリー
3は113ポの展示室でこちらも
3つの空間に分かれている。
天丼高
2,900〜3β∞
nnの展示空間で、 「深海魚の名前から何がイメージできるかな
?」「漁 師の人と海の色」で使用 した。
6)2013年