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論文の内容の要旨
氏名:塩 入 同
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:海浜の一体的管理を行うための横断連携のあり方に関する研究
わが国では海岸侵食が著しく、さらに高度経済成長期以降盛んに行われた沿岸の開発も合わさり、自然 の砂浜は減少してきた。また、近年の環境意識の高まりや海浜利用の多様化などを受け、国民の沿岸域に 対するニーズも変化してきているといえる。このような沿岸域に対する人々の意識の変化は、世界共通の 流れである。1992 年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(リオ地球サミッ ト)で採択されたアジェンダ 21 行動計画(第 17 章)には、海洋、海域、沿岸域の保護、生物資源の保護、
合理的利用及び開発の必要性が掲げられ、「沿岸域の統合的管理及び持続的な開発」が国際社会の共通認識 として示された。
わが国の砂浜海岸の背後には、古くから農地や家屋などを飛砂や潮害から守ることを目的とした海岸保 安林が森林法に基づき整備・指定され、海岸法(昭和 31 年)と森林法(明治 30 年・昭和 26 年)は制度上 の長大な接触線を形成している。この砂浜海岸と海岸保安林は、現在侵食や波浪などの共通した危機に直 面している。また、砂浜海岸と海岸林を法の視点から捉えてみると、この両者の間においてはそれぞれの 事業(公物管理の計画や実施)を進める上での連携の実態はほとんどなく、国際的な考え方である総合的 な管理とは反対に、多くの場合独立して管理が実施されている。陸では森林法が適用される海側ぎりぎり の範囲まで保安林が造成されているが、海岸では著しい汀線後退が続いているため、結果として海岸法と 森林法の両者の境界で消波ブロックが山積みとなるなど、自然海岸の人工化や、海岸の環境や利用上の問 題が生じている。また、侵食による著しい砂浜海岸の汀線後退に対応させた、海岸保全区域の陸側へのセ ットバックや、背後の土地利用との調整に関する考え方は整理されていない。
このことはいわゆる「縦割り行政」が引き起こす社会システム上の問題が、海浜の周辺で顕在化した事 例の一つであると言え、侵食の著しい砂浜海岸と、その背後に海岸林が存在する各地の海岸で起こり得る 問題である。そこで本研究では、地租改正以降の海浜地における公物管理の変遷を踏まえ、砂浜海岸と海 岸保安林を合わせて、これを「海浜」と定義して議論を進める。そして 1999 年の海岸法の改正や 2000 年 の地方分権一括法の施行などを踏まえ、関係法令及び関連法定計画、自治体総合計画を中心に分析して問 題の構造を明らかにし、実際の連携事例の把握を行い、海浜の一体的な管理を行うための横断連携のあり 方を見出すことを目的とする。
本論文は序論、結論を含めて7章から構成されており概要は以下のとおりである。
第1章は「序論」と題し、冒頭に述べたとおり研究を進める上での問題意識、研究の社会的位置付けの ほか、用語の定義、研究対象範囲、既往研究との関係や研究の方法などについて述べた。
第2章は「海浜の実態と管理の法制度」と題し、「海浜」がこれまでどのような変遷を経て現在の管理形 態に至ったのか、必要となる基本的な事柄を項目ごとに整理した。
第3章は「海浜管理に関する社会システムの分析」と題し、国、省庁から地方という縦割りの制度構造 の下で、海岸法、森林法、地方自治法を中心に、法や制度の面から見た海浜管理に関する社会システムの 実態把握を行い、海岸法と森林法で国と地方に義務付けられた法定計画に定めるべき事項などの比較分析 を行った。その結果、大臣(省庁)レベルの法定計画では、海岸法と森林法の間で連携すべき具体的取組 みの記載はなく、むしろ海岸法制定当時に森林法と間に明確な区分けがなされ、防護(防災)という共通 した目的の下で、その後に連絡調整を要しない体系が確立された背景を知ることができた。一方で、河川 法では、1997(平成 9)年の改正で、治水機能、環境機能の向上のため「樹林帯制度」を設け、保安林管理 者との連携を図り円滑な管理を可能としている。地方分権化による大きな変化もあり、海岸法と森林法の 境界における問題についても、自治体が策定する法定計画において整合性を確保することができる範囲が 拡大したと考えられる。このことから海岸侵食や砂浜保全、保安林保全の問題が地域課題として自治体総 合計画に位置づけられることが、海岸法と森林法に基づいて自治体が策定する法定計画の整合性を確保す
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第4章は「GIS を用いた砂浜海岸と海岸保安林の隣接箇所の把握」と題し、海岸と海岸保安林の 2 つの管 理者間に跨る課題を考えるにあたり、全国の砂浜海岸と海岸保安林の隣接箇所や規模などを把握するため、
GIS を用いてその位置や規模を推定した。次に、その推定結果を基に、道県庁の海岸担当部局への電話によ る聞き取り調査を行い、森林担当部局との隣接箇所に関する情報共有の状況や、連携事例の把握などを行 った。その結果、海岸や海岸保安林の管理者が多くの場合知事であるにも関わらず、自治体内部で管理者 間相互の情報共有がほとんど行われていない状況が把握できた。これらのことから、都道府県(知事)を 中心に砂浜海岸と海岸保安林の連携施策を実施する有効性と、地方自治体が策定する法定計画(海岸保全 基本計画、地域森林計画)や、自治体が任意に策定する自治体総合計画の担う役割の重要性を知るに至っ た。
第5章は「新聞記事データベースを用いた侵食に対する関心の把握」と題し、全国の地方新聞から海岸 侵食に関する記事を取得し、記事の内容を防護、環境、利用などの視点で分類することにより、侵食が顕 在化している砂浜海岸についての各地域や行政での関心を把握した。その結果、砂浜海岸とその背後にあ る海岸保安林は、侵食という共通した危機に直面しているにも関わらず、砂浜海岸と海岸保安林を一体的 に捉えて保全することへの地域や行政の関心が低いことが、記事件数の少なさから確認できた。また、一 部の自治体では、市民や地方自治体の首長による意志決定、地方議員などの働きかけも確認され、市民の 海浜管理に関する理解向上に有益な情報を、行政だけに頼っていない実態も明らかになった。
第6章は「地方自治体における横断連携の実態」と題し、第4章で抽出した調査対象地域 18 沿岸道県に ついて、制度の縦糸である海岸法や森林法、及びこれに付随する法定計画(海岸保全基本計画と地域森林 計画)と、横糸である道県の自治体総合計画(総合計画と環境基本計画)について、その連携実態の比較 分析を実施した。その結果、千葉県は法定計画により、神奈川県は自治体総合計画により、それぞれ連携 を図っている実態が確認できた。また、4章の聞き取り調査により、静岡県では既存の計画に反映させる のではなく、特定の課題に対処するための個別の計画を新たに策定し連携に着手した事例も確認されてお り、これら3県における取組みを把握し分析した。
第7章は「結論」と題し、海浜の一体的管理を行うための横断連携の実現に向けて、第1章から第6章 までで明らかになったことを具体的に次のとおりまとめた。
管理区域が隣り合う海岸と海岸保安林の管理者は、ぞれぞれが海岸法と森林法に基づいて業務を進めて いる。実務上はお互いの業務内容について理解しているが、行政はそれぞれの業務を法律に基づき独立し て進める体系をとっており、各管理者は、互いの業務について何かの決定を下す立場にはない。このため、
たとえ区域を越えて考えるべき問題があったとしても、海岸管理者と海岸保安林の管理者は従来通りに区 域内でその責任を果たそうとする。知事はこれらの調整を行う立場にありその権限を有するが、一般的に はより重要な行政課題が優先され、細かな事柄まで踏み込んだ調整を行うことは困難である。
一方、地域住民は管理者間の業務上の議論を聞く機会がないため問題の所在を知ることはできず、現地 で公共事業が始められる段階になって初めてその事業内容に気づくということになる。このことから、管 理者間における議論を公開で行い、それぞれの利害得失が地域住民の目線で多面的に理解される必要があ るといえる。行政担当者の仕事は、地域住民の合意を得て初めて意味を持つものであり、管理者間の都合 による局所最適化した調整にならないためにも、相互の議論が公開でなされる必要がある。
地方分権一括法の施行後は自治体(知事)の裁量が拡大した。環境面では、砂浜保全と海岸保安林の保 全の両者に関心を持つ自治体も多い。知事にはこれらの調整を行う権限が付託されており、行政組織にお ける指揮命令や自治体総合計画に基づく政策調整を行って、海岸域の一体的管理に努める必要がある。
情報の公開を積極的に行うことは、行政の都合による局所最適化に至る調整を防止することにつながる。
また、情報公開により地域住民の問題意識や関心も高まり、知事の行政判断を後押しすることにもつなが る。公開される行政情報を適切に理解し議論する上では、地域住民が地方分権時代の行政制度についての 知識を得ることも重要な要素である。
一方で、国においては、海岸法と森林法の関係だけにとどまらず、海洋基本計画に沿って地方における 実態や課題を把握し、法制度というレベルでの整合を図る役割がある。
今後は、このような取組みを足がかりとし自治体の実務レベルでの認識共有を深め、侵食による海岸保 安林の指定解除やセットバックなどにおいて、必要となる権限や財産的側面の検討を要する課題へと議論
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が発展していくことが期待される。また、本研究における分析や結果が海岸法と森林法の間の問題解決に とどまらず、縦割り管理の弊害を乗り越えるための一つの事例となり、国際社会で標準的な考え方となっ ている「沿岸域の総合的管理」の推進に向けた重要な示唆となることも期待される。