204
国語副詞の語彙論としての研究は︑他品詞の研究なみに進捗しては
いないように思われる︒このような現状にあって︑近年に見られる
︵1︶﹁いと﹂をはじめとする一連の程度副詞に関する研究は︑注目されて
しかるべきであろう︒これらは源氏物語を中心資料として論じられた
ものであるが︑そこには大きな成果が見られる︒さて︑程度副詞の中
に﹁おほきに﹂がある︒こんにち︑イ音便化した﹁大いに﹂の形が生
きており︑謝意を表わす﹁おおきに/・︵ありがとう︶﹂が方言として使
用されていることは周知の通りである︒そこで︑源氏物語の用例によ
って﹁おほきに﹂の研究がなしうるかというと︑これは不可能であ
る︒しかしてこれを可能にするのが今昔物語集である︒ここに︑源氏
物語と今昔物語集の用例を検討することによって︑﹁おほきに﹂の用
法や機能︑さらに程度副詞としての占める立場というような点を明ら
かにしてみたいと思う︒
一
和文言語の代表資料としての源氏物語に﹁おほきに﹂を求めると︑
程度副詞おほきに小考︵原栄二
程度副詞おほきに小考
次のような用例を見ることができる︒
側程よりは大きにおよずけ給ひて︑︵紅葉賀︶
程よりおほきに大人しう清らにて︑︵澪標︶
御目も大きになりぬ︒︵少女︶
佃沈の箱に︑瑠璃の坏二つすゑて︑刈剖側まるがしつつ入れ給へり︒︵梅
枝︶七間の寝殿広く大きに造りて︑︵紅梅︶
六十僧の布施など︑圭小きにおきてられたり︒︵蜻蛉︶
何薫﹁⁝⁝心ながら︑かなはい心つきそめなば︑判判司側思ひにたがふべき
事なむ侍るべき︒﹂︵橋姫︶
右の諸例がそのすべてであるが︑大部の源氏物語にあって︑意外に用
例数の少いことが先ず注意を喚起する︒㈲の用法は述格とみられ︑い
わゆる形容動詞としての用法であるところから︑特に問題はないと思
われる︒また㈲の用法も︑下接する動作性動詞の属性概念を修飾し︑
しかも﹁大きに﹂自身が情態性の属性概念を表わしている点︵﹁大々
的に﹂﹁大げさに﹂﹁大規模に﹂というような意味をもつ︶において︑
情態副詞とみられ︑これもまた︑他の情態副詞と区別して格別に取り
原
栄
一一一
Ⅱ ■ ■ 一
あげなければならないものでもない︒ここにおいて属目すべきは︑何
の用法である︒﹁大きに﹂に修飾されている﹁︵思ひに︶たがふ﹂は情態
性の動詞であり︑この場合の﹁大きに﹂にはそれ自体の情態性の属性
概念表示はなく︑属性の程度︵﹁非常に﹂﹁大いに﹂の意味︶を表示し
ているにすぎない︒従って︑この﹁大きに﹂は程度副詞としなければ
ならない︒源氏物語に程度副詞﹁大きに﹂が辛うじて1例のみ見出さ
れることは︑これが草仮名文において普通一般に用いられる和文語で
はないこと︑すなわち訓読語系の程度副詞ではないかということにな
る︒しかして菫という男性の会話文中に見られることは︑一層この予
察を明るくするのである︒
さて︑漢文訓読語と和文語︑それに変体漢文用語との三種の言語が
lそれらが偏在する傾向にあることもさることながらl混合して
いる今昔物語集においては︑どれほどの用例が見られるのであろう
か︒実に川例という多数の例が頻出するのである︒ひとまず︑程度副
詞の用例川︑情態副詞の用例鮒と分類したのであるが︑﹁大キーこを
用法の上からこのように分類することは容易なことのようで実はそう
でない︒たとえば︑
目ハ大キ一︑前ノ足短カク︑尻ノ穴ハ大キー開テ︑︵五昭︶
終二羅刹ノ形二成テ大ニロヲ開テ懸ル時二︵五1︶
の﹁大キーこはその属性を留め︑具体的に﹁開テ﹂を修飾している情
態副詞のようにみられるのであるが︑
極クロ開キ︑不落サズ語ケレバ︑︵三十一咽︶
のような例と比べてみると︑この種の﹁大キーこは程度副詞﹁極ク﹂
と同然であり︑程度副詞とすべきではないかということになる︒ま
た︑ 程度副詞おほきに小考︵原栄二
年五十余計ノ男ノ大キ一太リテ鬚長ク︑︵二十五4︶
長高クシテ刺訓太テナム有ケレバ︑三十八羽︶
などの﹁大キーこも
此ク極ク太ルヲバ何ガセムト為ル︒︵二十八羽︶
の例によって︑﹁極ク﹂と同様︑程度副詞であることが知られる︒右
のように﹁開ク﹂﹁太ル﹂を修飾する﹁大キーこを程度副詞とするな
らば︑
菓既二腹二入ヌレバ︑其ノ身即二大キー肥ヌ︒︵五別︶
腹大キニフクレテ喘ギ吟フ︒︵−3︶
其ノ跡刈判引腫テ︑痛ミ悩ム事先限シ︒︵十三配︶
のように︑﹁肥1﹂﹁フクル﹂﹁踵ル﹂に係る﹁大キーこも程度副詞と
することができるわけであるが︑
本ノ如ク一園刊刈判引渕刈︒︵二十八別︶
の如き用例をもって考え合わせると︑首鼠両端︑情態副詞と程度副詞
とを蔵然区別することがいかに難かしいかを知るのである︒これは︑
動作性動詞とも情態性動詞ともつかない動詞自身にその因があるよう
である︒ここでとりあえず情態副詞と見倣した﹁大キーこは︑﹁登ル﹂
﹁害ク﹂﹁震動ス﹂﹁︵法会ヲ・法花ヲ・食ヲ・僧供ヲ・仏事ヲ・斎会
ヲ︶儲ク.行う﹂﹁︵光ヲ︶放シ﹂﹁︵慈心ヲ・誓ヒヲ・兵ヲ︶発ス﹂
等を修飾する諦例である︒
︑︑刈判●訓黒キ煙三筋許火ノ跡ノ内ョリ高ク登テ見1.︵十二別︶
右の例は︑情態副詞としたものの一例であるが︑﹁大キーこは﹁登
テ﹂に係るものとみるべきで︑﹁黒キ⁝⁝内ョリ﹂の句によって隔て
られているが故に︑﹁大キーこを﹁高ク﹂に言い換えてここに挿入し
たとみられる︒よって﹁大キーこを﹁高ク﹂と同じ意味で用いられた 一一一一
202
情態副詞とするわけである︒
程度副詞﹁おほきに﹂が源氏物語の菫の会話文中に1例だけ見出さ
れることから︑これが和文語ではないことをさきに述べたが︑今昔物
語集とその出典文献とを比校することにより︑程度副詞﹁大﹂の用法
が原漢文に見られ︑そのうえで程度副詞﹁おほきに﹂が漢文訓読の用
語であることを明白に知りうる︒原典が漢文である天竺震旦部の用例
から示すと︑
家大二富テ財宝豊力也︒而二此ノ人︑子有ル事先シ︒︵二筋︶︹其家
大富然無児子︵賢愚経︶︺
沙弥等︑此ノ事ヲ間テ大二歎テ仏二白シテ言サク︑︵一Ⅳ︶︹皆大憂
愁威白仏言︵経律異相︶︺
孔烙大キ一叫ビテ云ク︑︵九肥︶︹格大呼日︵冥報記︶︺
利引嘆キ悲ビ給テ︑︵−3︶︹心大苦悩︵過去現在因果径︺
国王︑此ヲ見テ︑大キー信伏シテ︑⁝⁝寺ヲ造テ舎利ヲ安置シ奉り給
フ︒︵六4︶︹権大瑳伏即為建塔︵神僧伝︶︺
項羽︑此ノ事ヲ間テ大二愼テ云ク︑︵十3︶︹欲西入関︑関門閉︑間
浦公已定関中︑羽大怒︵史記︶︺
の如く︑原典の程度副詞﹁大﹂字をそのまま﹁大キーこと訳出してい
る︒最後の史記の例などは典型的な程度副詞用法といえよう︒なお︑
楊伯峻は︑その著﹃中国文語文法﹄の中の﹁程度副詞l心理活動を
あらわすもろもろの動詞を修飾するものl﹂の項に︑これと同じ史
記から﹁良乃入︑具告流公︑流公大驚︒﹂︵史記・項羽本紀︶の例を引
用している︒
漢文での程度副詞用法﹁大﹂はそのままわが国の変体漢文にも用い
られており︑変体漢文においての方がむしろ頻繁に使用されるくらい
程度副詞おほきに小考︵原栄二 である︒原典が変体漢文である本朝部の用例を示すと︑
女︑此レヲ間テ︑大キ一恥テ其ノ庭ヲ出テ去ヌ︒︵十七弱︶︹女刈恥
出罷︵霊異記︶︺
篭知ノ村ノ東ノ方二住ム人有ケリ︒家大キー富メ︑姓ハ鏡造也︒︵二
十師︶︹篭知村東方有大富家姓鏡作造︵霊異記︶︺
父母︑此レヲ間テ︑大二驚キ恐ル︑事先限シ・︵十六陥︶︹父母大驚
怖︵法華験記︶︺
女︑刈判引恨︑終夜僧ヲ抱テ擾乱シ戯ルト云ヘドモ︑︵十四3︶︹女
刈恨怨︑通夜抱僧擾乱戯笑︵法華験記ご
俄二天下大赦有テ︑頼良被免ヌレバ︑頼良大キ一喜テ︑名ヲ頼時卜改
ム︒︵二十五咽︶︹俄有天下大赦︑頼良大喜︑改名称頼時へ陸奥話記︶︺
守大キー喜テ︑三千余人兵ヲ具シテ行キ向う︒︵二十五昭︶︹将軍大
喜︑率三千余人︵陸奥話記︶︺
などがある︒これらは用例の一部である︒
右のように︑原典の﹁大﹂をそのまま﹁大キーことしたもののほか
に︑原典に﹁大﹂をはじめ極度を表わす程度副詞が無いところに﹁大
キーこを付加して訳出したものがかなり数多く見られる︒天竺震旦部
では︑
大臣︑又︑見畢一兎利刊訓歓喜シテ供養ス︒三筋︶︹大臣q歓喜請供
養之︵賢愚経︶︺
大王︑刈判斗喜テ︑殊二座ヲ儲テ其レ一令坐メテ︑︵五9︶全聞之
d喜︑即出奉迎前為作礼︑敷好床褥請令就座︵賢愚経︶︺
僑曇弥︑此レヲ間テ大歓喜シテ即出家シテ︑︵一岨︶︹愛道q歓喜便
得出家︵経律異相︶︺
客︑此レヲ見テ大キー驚テ︑家主一一此ノ事ヲ告グ︒︵九四︶︹客q驚
告主人︵冥報記︶︺
一一一一一
家大キー富テ財宝豊也︒︵九羽︶︹家q富於財︵冥報記︶︺
子ヲモ親ヲモ刺引怨テ云ク︑︵九羽︶︹皆4怨日︵冥報記︶︺
責ノ難堪キ一依テ刺訓怨ヲ成テ︑︵三8︶︹心懐q志恨︵大唐西域
記︶︺
本朝部では︑
下姓ノ人也ト云ヘドモ刈判引富テ家豊力也︒︵二十四9︶肴q富家
︵霊異記︶︺
狐申サク︑理也︒我レ刈判●訓犯セリ︒怖ル︑所也︑卜︒︵二十三Ⅳ︶
︹狐白之言︑服也q犯也僅也︵霊異記︶︺
女ノ籠居ダル倉代ヲ見テ大二怨ノ心ヲ発シテ︵十六賂︶︹見女籠蔵代
q大生盆恨心︵法華験記︶︺
夢覚ヌ︒其ノ後︑別当刈判刈驚キ恐レテ春朝ヲ獄ョリ出シシ︒︵十三
Ⅲ︶︹ぐ驚夢示現令出獄所︵法華験記︶︺
髪二守:⁝・卜大キー愼テ︑貞任ヲ召テ罪セムト為ルー︑三十五略︶
︹髪将軍q怒召貞任欲罪之︵陸奥話記︶︺
家刈判訓富テ財豊也ケリ︒︵十五馳︶︹其夫q富人也︵日本往生極楽
記︶︺
のような例が見られる︒賢愚経・経律異相・冥報記・霊異記・法華験
記・陸奥話記など︑いずれも原典の﹁大﹂を﹁大キーことしたもの
と︑原典には無いにもかかわらず﹁大キーこを付加したものとがあっ
て︑いかに原典以上に今昔物語集が﹁大キーこを多用しているかを窺
うことができる︒このように︑程度副詞が多用されていることは︑今
昔物語集と同原の宇治拾遺物語や古本説話集との対比によっても明ら
かにすることができる︒
対訓驚テ︑女ノ微妙カリッル事モ忘レヌ︒三十四︹刈剖叫驚き
て︑此女のめでたげなるも忘られぬ︒︵宇治拾遺物語︶︺ 程度副詞おほきに小考︵原栄一︶
は︑今昔・宇治ともに﹁おほきに﹂としている例であるが︑
忠恒兼テノ支度祁利刊引違フテ三十五9︶︹忠恒かねてのしたくにぐ
たがひて︑︵宇治拾遺物語︶
元輔ガ乗ダル荘馬刈蹟シテ︑元輔頭ヲ逆様ニシテ落ヌ︒︵二十八6︶
︹馬をいたくあふりければ︑馬くくるひて落ちぬ︒年老いたるものの︑
頭をさかさまにて落ちぬ︒︵宇治拾遺物語︶︺
不成ジト云フヲ聞ダル人ハ刈判●訓愼テ︑此ハ何事云居ル旧大君ゾ︒道
祖ノ神ヲ祭テ狂ニコソ有ヌレ︑ナド云テ︑腹立テナム返ケル︒︵三十一
筋︶︹えならじといふを聞きつる人は︑qなに事いひをるふる大君ぞ︒
さえの神まつりて︑くるふにこそあめれ︑など︑つぶやきてなん帰け
る︒︵宇治拾遺物語︶︺
大納言︑極ク思上煩テ︑刈歎打シテ︑此ハ長キ名カナト︑打云テ︑懐
ョリ陸奥紙二書ダル歌ヲ取出テ︑︵二十四銘︶︹大納言︑いみじく恩ひ
わづらひて︑q懐より陸奥紙に書きて進りたまへば︑︵古本説話集ご
のように︑宇治拾遺や古本説話では用いていない部分に︑今昔では
﹁大キーこ︵﹁大キーこを含む句︶を用いている︒
以上のように程度副詞﹁大キーこは多用され︑天竺震旦部に船例・
本朝仏法部に別例・本朝世俗部に虹例あらわれている︒型としてはV
︵ワ②︶型を示しているが︑本朝世俗部に虹もの用例があり︑天竺震旦部と本
朝仏法部との差異が僅少であることは︑V型らしいV型ではない︒す
なわち︑訓読語らしい訓読語ではないといえる︒これが和文語でない
ことは確かであるが︑本来訓読語であったものがかなり通常語化し︑
編者自身にとっては身近な使用しやすいことばの一つであったのでは
ないかと考えられる︒変体漢文用語に近いという意味で︑漢文訓読語
系の用語としておきたい︒
二 四
200
一一
程度副詞﹁大キーこが今昔物語集に剛例見られるのに対して︑源氏
物語ではただ1例しか見ることができなかった︒ここで︑源氏物語前
後の草仮名文献にいまいちど﹁おほきに﹂を求めると︑落窪物語・枕
草子・大鏡に︑これもまたそれぞれ僅か1例ずつではあるが︑その用
例を見出すことができる︒
巳■■■■■■■■■■︑︑︑入り臥しにけりと恩ふに︑大きに腹立ちて︑︵落窪物語︶
■■■■■■■■■■■■︑︑︑人々取りて見て︑いみじう笑ひけるに︑大きに腹立ちてこそ憎みし
か︒︵枕草子︶
■■■■■■■■■■■■︑︑︑その折に︑いとど大きに腹立たせたまひて︑︵大鏡︶
源氏物語の場合は︑菫という男性のことばとして訓読語系のことばが
混入したとすることができるが︑枕草子に見られる訓読語系の程度副
詞﹁大きに﹂をどのように考えたらよいのであろうか︒ここにおいて
気付くことは︑右の三例に共通点があること︑すなわち︑﹁腹立つ﹂
が被修飾語となっていることである︒﹁大きに﹂は人間の心理作用の
甚だしい程度︵極度︶の表示を主な機能としているが︑腹立ちの甚だ
しさを極度に表現するために︑特に和文においては︑﹁いみじく﹂や
﹁いたく﹂というような和文語を用いるよりも訓読語系の﹁大きに﹂
を用いる方が︑より効果的に表現できたのであろう︒今昔物語集で
﹁大キーこが﹁腹立シ﹂に係る例は
慶範川判訓腹立テ︑︒⁝・・卜云ケルヲ︑︵二十八稲︶
の1例にすぎないが︑これには次のような理由があったと思われる︒
内供刈判訓嚥テ︑紙ヲ取テ頭面二懸ダル粥ヲ巾シ︑︑︵二十八型丙
供湖削剖側腹沿ちて︑かしら顔にかかりたる粥を紙にてのごひつ︑︵宇
治拾遺物語︶︺
程度副詞おほきに小考︵原栄二 見ルママニ︑刈判引鳴テ︑︵二十四亜見るま皇に︑刈岡腹あだでて︑︵宇治拾遺物語︶︺
右のような宇治拾遺物語との対比例によって︑﹁腹だつ﹂に該当する
部分が﹁唄ル﹂によって表わされていることを知るのであるが︑今昔
物語集編者の意識としては︑﹁腹立シ﹂は口語的・通俗的もしくは和
文語的ことばであるとみていたのではあるまいか︒このようなことか
ら︑怒気を表現するのに︑訓読語系の﹁大キーこが修飾する語句は︑
︵イカ︶﹁腹立シ﹂の1例を除き︑すべて唄︵腹・葱・怒︶ル⑳例緬奔ぽ釦輌恥
認識壁・順︵腹・念︶ヲ成ス⑧.愼患ヲ発ス③によって表現したもの
と推察される︒﹁腹立シ﹂に係る程度副詞は
■■■■■■■︑︑︑痛ウ腹ヲ立テ魁ムヲ追ダル侯ハム程︑︵十九筋︶
■■■■■■■■■■■■■■︑︑年ハ老テカク倒しヌルヲイミジク腹立テ恩ハク︑︵五4︶
■■■■■■■■︑︑異物モ否不善マジトテゾ極ク腹立ケル︒︵二十八鮒︶
の如く和文語﹁痛ウ﹂﹁極ク︵イミジク︶﹂を用いているのである︒
このこのような今昔物語集編者の用語意識もさることながら︑怒気
の極度を表わすのに﹁大キーこが別例も使用されていることは注目す
べきことであろう︒
程度副詞﹁大キーこは專ら動詞を修飾する点において﹁極ク﹂や﹁
極テ﹂とまず異なるのであるが︑その大きな差異は係る動詞において
あらわれる︒﹁極ク﹂﹁極テ﹂は種々の動詞に係るのであるが︑﹁大
キーこは係る動詞に偏向性がある︒すなわち︑心理作用を表わす動
詞︑具体的には喜怒哀楽の情を表わす動詞に偏っているのである︒少
々その内容についてここで見ることにする︒さきに見た怒気について
は
■■■■■■■■■■■■︑見ルママニ大キ一填テ云ク︑三十四弱︶⑱
一
一
五
共二刈判訓鳴尹崩どプ︑︵二十五3︶③
王刈刈臘患計粥渉テ群臣二仰セテ︑︵二空③慶範対判斗腹恥テ︑三十八錘①
の如く︑馳例と最も多く︑このため︑他の程度副詞は﹁腹ル﹂に係る
﹁極ク﹂②︑﹁腹立シ﹂に係る﹁極ク﹂②.﹁痛ウ﹂②の僅か6例で︑
﹁大キーこが独占した形である︒
次には︑歓喜をあらわす動詞に係る別例
遥二我レヲ見テ刈判刈喜テ問テ云ク︑宅竺⑰
善哉々々︒我レ渕訓歓喜ス︒︵五5︶③
などがある︒この﹁喜プ﹂には他の程度副詞もよく上接しており︑
﹁極一ご⑥・﹁極ク﹂④.﹁甚ダ﹂②で計胆例となっている︒
恐怖をあらわすものには
恐︵怖︶ル⑫・恐レヲ成ス①・恐し有り①・恐ヂ怖ル③・傍1①
計肥例
の如き動詞に係るのであるが︑これらを見て気付くことは︑﹁恐ル﹂
に準ずる﹁恐ヂ怖ル﹂までは﹁大キーこが係るけれども﹁恐ヅ﹂には
係らないということである︒﹁恐ル﹂と﹁恐ヅ﹂とは前者が訓読語で
後者が和文語というように区別されるが︑和文語﹁恐ヅ﹂に訓読語系
の﹁大キーこは係らないということになる︒しかし︑訓読語﹁極テ﹂
が
御夢ヲ恩シ合セテ制邦恐謡給ヒケリ︒︵十二坐④間人モ圃州瀞捕り︒三十一理⑤
のように︑﹁極ク﹂と同様に係っており︑いくらかの矛盾が感じられ
る︒これは︑﹁恐ル﹂と﹁恐ヅ﹂の一二アンスの違いを編者が意識し︑
﹁大キーこが﹁恐ヅ﹂︵畏縮した︶の修飾語として相応しくないとした 程度副詞おほきに小考︵原栄一︶
一一一
以上触れてきた用例によってもわかるように︑程度副詞﹁大キーこは
原則として動詞のみを修飾する副詞であって︑形容詞や形容動詞を修
飾することはない︒
刈判訓善ク荘厳セル宮殿堂閣有テ︑︵九里
刈判刈暗キーノ穴有り︒︵十七四︶
念殊ノ刈刊斗長キヲ押灘テ居タルハ︑︵十九聖 からであろうか︒この場合の﹁大キーこは程度副詞とはいえ︑このあたりに情態副詞としてのなごりが残されていたのかも知れない︒なお︑﹁恐ル﹂﹁恐ヂ怖ル﹂には︑﹁極テ﹂⑥︒﹁極ク﹂④︒﹁甚ダ﹂②の計皿例も係っている︒
このほか﹁大キーこは﹁驚ク﹂⑲.﹁叫ブ⑧・音ヲ放シ③・音ヲ挙
グ①﹂⑫︒﹁歎︵嘆︶ク﹂⑧.﹁恨︵怨︶ム③・怨ヲ成ス③・怨ノ心ヲ
発ス①﹂⑦.﹁姓︵奇︶ム﹂⑤.﹁泣︵笑︶ク﹂③などを修飾してい
る︒心理作用を表わすもの以外の動詞では︑
家刈刈富テ国ノ中ノ第一ノ人也︒⁝⁝又家刈訓富テ父ノ長者二勝レタ
リ︒︵二靴︶
のような︑﹁富ム﹂に係る用例が妬見られる︒日本古典文学大系﹃今
昔物語集一﹄の頭注で既に指摘されているように︑﹁家大キー邑テ...
⁝﹂は常套句となっており︑他の極度をあらわす程度副詞によって
﹁富ム﹂が修飾されることはないほどである︒
程度副詞﹁大キーこの用例数川のうち︑右にあげてきたものだけで
Ⅷ例に達し︑その使用範囲がいかに限定されていたかを知ることがで
聖ぎごプ︵︾0 一一一ハ
198
利刊引高キ榎ノ木有ケリ︒︵二十七4︶
大キー高キ山ナレバ︑︵十師︶
人ノ大キー器量ク︑有様ノ不似ザリケル也︒︵三十一船︶
右の諸例は﹁大キーこに形容詞が下接してはいるけれども︑これらは
﹁大キーこによって修飾されているのではなく︑﹁大キーこそのもの
が
ニノ縄有り︒一ハ大二︑一ハ小シ◎︵九銘︶
仏ハ刺判引︑堂ノ南ノ戸ハ狭シ︒︵十一躯︶
などと同様に八大きくてVの意味をもっているのであり︑程度副詞で
はない︒文の前後の意味から考えて程度副詞ではないことが明らかな
例を一つ示すと︑
猿ノ︑歯ハ銀ヲ貫ダル様ナル︑牛少渉刈判訓器量キ︑歩出タリ︒︵二
十六8︶
において︑﹁大キーこを仮に程度副詞としたならば︑上接の﹁今少シ﹂
との関連が不自然となり︑どうしても程度副詞とすることはできな
い︒
河ノ水甚外刈判訓荒クシテ︑忽二筏ヲ編メル縄切レテ︑既二筏解ケ
ヌ︒︵十二M︶︹水甚荒︑忽絶縄解械︵霊異記︶︺
右の例は︑霊異記の﹁甚﹂に相当する部分が﹁甚ダ大キーことなって
おり︑一見︑程度副詞﹁甚ダ﹂と﹁大キーことが重ねて用いられてい
るかのようである︒しかしこれも原則に照してみると︑﹁甚ダ﹂が形
容動詞﹁大キーこに係るということになる︒﹁甚ダ﹂が﹁大キナリ﹂
を修飾する例は
日日■■■■■︑︑︑其ノ門ノ状甚ダ大キニシテ重楼也︒︵九斜︶
其ノ形チ勘知力や伽︒︵二士一面︶
程度副詞おほきに小考︵原栄二 など5例あり︑この﹁大キーこも述格とみなしてよい例ではなかろうか︒このように形容詞が下接する例において﹁大キーこが程度副詞でないことをみてきたが︑形容動詞またはこれに準ずるものについては︑
魚ノ刈判訓楽気ナルニ耽テ︑︵二十坐
鮨鮎ノ大キー広ラカナルヲ尾頭許ヲ押テ︑︵二十八鴎︶
屋許ハ大二空ナレバ︑︵十六7︶官府刈刊訓縣螺︶︵九空管府亦刈謹言報記︶︺
他ノ改任︑大キー分明也︒汝ヂ理先シ︒︵九剥︶︹他改任大分明也︑
汝無理︵冥報記︶︺
の如き用例がある︒前3例は形容詞が下接した場合と同じく述格であ
り︑これらの﹁大キーこもまた程度副詞ではない︒ただ後の2例につ
いては︑この2例に限り異例であり︑﹁監也﹂﹁分明也﹂に係ってい
る︒意味の上からもぎごちなさを感じるが︑やはり程度副詞としなけ
ればなるまい︒このような異例が出た事情は一目瞭然で︑原典である
冥報記を直訳したことにほかならない︒なおもう一つ︑
■■■■■■■■︑︑大臣︑其ノ後︑哀レニ貴ク恩テ︑此ノ事ヲ大二普ク語ケリ︒︵十四4︶
の如きものがある︒﹁大一こが﹁普ク﹂に係るとみるよりは︑﹁普ク﹂
は﹁大一このいいかえをしたものとみて︑﹁語ケリ﹂に係るとみた方
がよいと思われる︒原典の﹁普地震動﹂を﹁世界大二震動ス﹂︵二2︶
と訳出した例など参考になろう︒
以上のように︑﹁大キーこは動詞にのみ係る程度副詞であると断定
して支障のないことが知られた︒少くとも今昔物語集においては︑情
態副詞を兼ねる程度副詞は形容詞・形容動詞を修飾することはなかっ
たとしてよいようである︒
二
七
四
次に︑程度副詞﹁大キーことの関連において︑今昔物語集において
用いられる他の同類の程度副詞について見てゆきたい︒さきに見てき
たように︑﹁大キーこは形容詞・形容動詞には係らず専ら動詞を修飾
することにおいて﹁痛ク﹂と同等である︒ただ異なる点は︑﹁大キーこ
が訓読語系であるのに対し﹁痛ク﹂は和文語であるということであ
る︒﹁痛ク﹂は別表に示しているように︑各部での用例数は6m7即
剖のA型を示し︑和文語であることを分布に表わしている︒天竺部に
見られる﹁痛ク﹂の用例は︑
此ノ編輻等⁝:火ノ勢高ク燃エ上ガリヌレバ痛ク被炮レテ皆死ヌ︒︵四
皿︶︹彼諸編輻錐為火困︑愛好法音忍而不去︑於此命終︵大唐西域記︶︺のように︑原典に﹁痛﹂字は当然のことながら見られない︒また︑
︑︑︑︑此ノ玉盗タラムト恩ス人ヲ召テ︑痛ク酔う酒ヲ多ク令飲メテ善ク酔テ
死ダル如クニテ令酔メ臥セツ︒︵五3︶︹各勧酒食極令使酔︵撰集百縁
経︶︺
においては︑原典の﹁極﹂を十二分に訳出するために︑﹁多ク﹂﹁善
ク﹂と共に﹁痛ク﹂を用いていることが知られる︒﹁痛ク﹂の例は
﹁大キーこの川例に比べると五分の一ではあるが︑本朝世俗で祉例で
﹁大キーこの虹例に近くなっている︒﹁痛ク﹂に下接する動詞はかな
り限られており︑降ル⑦.酔う⑥・老1④.︵云う③︶・深更ク②.そ
の他各①などであるが︑これらの動詞が痛ましい情と結びつくところ
から︑編者はそのような意識をもって使用したのではないかとさえ思
われる︒確かに﹁痛ク﹂は程度副詞であるが︑情態副詞としての意識
が多少働いているのではないかと臆測されるのである︒ 程度副詞おほきに小考︵原栄一︶
雨刈判●訓降テ風痛ク吹テ︑︵五坦
雨詞刎降テ少シ止タリケルニ︑三十九翌
のように︑﹁降ル﹂に係る極度をあらわす程度副詞は﹁病ク﹂が特に
多くて⑦︑﹁大キーこが①﹁極ク﹂が②となっている︒同様︑﹁酔う﹂
については痛ク⑥.極テ②.極ク①︑﹁老1﹂については痛ク④︒極
テ③.極ク②となって︑全用例数の割合からみると︑﹁痛ク﹂が限ら
れた動詞修飾には多用されていることがわかる︒また︑
雨利刊訓降テ風矧刎吹テ︑︵五坦
馬刈僧シテ︑元輔頭ヲ逆様ニシテ落ヌ︒⁝⁝馬ハ痛ウ蹟ケバ落ヌ︒■■0二■■■■︑
︵二十八6︶ ※被修飾語は︑一応︑その形態によって分類してはいるが︑場合によってはやむをえず︑形態によらずその機能によって分類しているものもある︒従って︑表に示している数字は︑﹁概数﹂として見ていただきたい︒ ︵別表︶
甚 極 極 痛 大キ一
糸 俄修︾鮒
│
÷
ダ ク ク
天竺本朝
震旦仏法
14 16 2|M 6−7|別一
3−3−6 93
3
||岨一 一別一姐一
動
本朝
世俗
133
詞
149 計
17 82 220
−
│,,, 震旦 天竺
17 朋一陥一1− 形容
㈹一伽一
228
|昭一帥一 本朝仏法 本朝世俗
‑ 卜
123
267 45462105 計 詞
天竺
震旦 ー
一
八
9|弱一冊一 羽−3−1
47 22− 副詞など 形容動詞その他
一別一朋一 3一別一 | 本朝仏法 本朝世俗
110 27 126 27
三一脚
1鮎
■■■■■■■■︑大納言掴刊酔ダル内一一モ:︒⁝大臣ハ痛ク酔ニタリ︒
のように︑同一文あるいは同一説話内において︑いわゆる避板法のた
めに﹁痛ク﹂を用いていることが知られる︒右の前の例は︑﹁大キー降
テ﹂と﹁大キー吹テ﹂との重複を避けた例であるが︑﹁吹ク﹂に係る
程度副詞は
風刈判刈恥テ雨多ク降ル︒︵十一面︶③
のように他の所では﹁大キーこを用いる︒後2例もそれぞれ﹁大急ぎ﹂
﹁極テ﹂の重複を嫌って﹁痛ウ︵ク︶﹂としたものである︒このほか
にも﹁痛ク﹂が用いられたところはそれなりの理由が見られるようで
ある︒
暫有テ活リ起タリ︒痛叫テ足ヲ病事先限シ◎︵二十別︶︹良久蘇起︑
然病叫言︑痛足実云々︵霊異記︶︺
右の﹁痛﹂は﹁イタク﹂と訓んで程度副詞とすべきであるが︑これは
原典である霊異記の﹁痛﹂字にひかれてこのように訳したものと思わ
れる︒﹁叫ブ﹂に係る程度副詞は︑
■■■■■日日■■g︑音ヲ放チ大キ一叫テ︑陰陽師一一取り懸レバ︑︵十九3︶③のように︑⑧例が﹁大キーこを用いており︑これが普通である︒ま
た︑﹁歎ク﹂に係る程度副詞も︑
此ヲ間テ後︑刈判訓鄭拍悲ムデ︑︵十七巫⑧
のように︑﹁大キーこ⑧を用いることが多い︵﹁極テ﹂①︶のである
が︑
■■■■■■■︑痛ク不歎給ハデ御マセ︑︵二十九邪︶
という﹁痛ク﹂の1例が見られる︒これは会話文中に用いられている
ことによって得心できるのである︒
なお︑痛感を留めた形容詞の単なる副詞用法
程度副詞おほきに小考︵原栄一︶ 橋ノ下二音有テ云ク︑鳴呼痛ク踏哉卜︒︵十二Ⅱ︶︹椅下有音日︑鳴呼莫痛践耶︵霊異記︶︺
女ノ云ク︑人ヲ犯サムトセム者ハ︑シャ頬痛ク被打ナム︑ト︒︵二十
三岨︶︹女言犯人者頬痛所拍︵霊異記︶︺
は︑原典を直訳することによってこのようにあらわれたものである︒
このほかの出典不明の︑
耳ヲ制刎摘︵︵二十六8︶・足二物痛ク当ル三十七Ⅷ︶・腱ヲ痛ク突
タリケレバ︵二十九別︶・腱ヲ痛ク突テハ︵二十九釦︶
等も︑恐らく原典に拠ったために︑この種の﹁痛ク﹂が見られるので
あろう︒ともあれ︑今昔物語集において︑﹁痛ク﹂は用例に乏しいと
はいえ︑程度副詞として意識され︑確平たる自己の地位を維持してい
ることは以上のごとく事実である︒
﹁大キーこ﹁痛ク﹂は動詞のみを修飾する程度副詞であったが︑﹁極
ク﹂﹁極テ﹂﹁甚ダ﹂は︑それぞれ動詞・形容詞・形容動詞を修飾す
ることにおいて類似している︒﹁極ク﹂がA型︑﹁極テ﹂がD型︑﹁甚
ダ﹂がV型で示されるように︑﹁極ク﹂は和文語﹁甚ダ﹂は訓読語︑
そして﹁極テ﹂はその中間に位置付けることのできる語︵変体漢文用
語という意味をも含めて︶として大別できよう︒これら三語は︑次の
用例に見られるように︑避板法として同一文同一説話内に共存するこ
とがあるわけである︒
倒外益先ク恩1︒老ノ畢一一︑由シ先キ人ノ御故ニ今更戦セム︑極テ益
先カルベシ︒︵二十五5︶
其レハ極テ権キ事ニコソ有ナレ︒若シ盗タルニャ有ラム︑極ク不審キ
事也︒︵二十九9︶
歯モ先ク掴升萎ル顔ヲ極ク咲テ︑︵二十四8︶
二 九
﹁極ク﹂は︑
讃ム⑩・泣ク③.墾境元⑥・感ズ⑤.山今⑤・恐ヅ⑤.不心得ズ⑤・喜
︵ブルマ︶ブ④・擁︵怪︶ブ③・哀ガル③・翔フ③
﹁極テ﹂は︑
喜ブ⑥・見マ欲シ⑤︵見ムト思う①︶・恐ヅ④・恐ル④・帷シブ④・
老1③・好ム③.不心得ズ③
などである︒
﹁糸﹂については︑日本古典文学大系﹃今昔物語集五﹄の補注で既
︵q︾︶に検討が加えられ︑更に︑井上博嗣氏のご論考があるので割愛する︒
ただ︑﹁糸﹂の陳述副詞化ということについては︑井上氏の﹁〃いと
″は陳述副詞にはとてもなりえない﹂と述べられたことに同意する︒
補注にあげられたところの︑陳述副詞化した用例を象徴する類例⑨︑
夢見セナドシヶムハ糸只者ニハ非ズ︑︵十九羽︶
其シガ判只人ニモ非ザリケル一ャ︑︵十一6︶
における﹁糸﹂は︑﹁只者ニハ﹂﹁只者ニモ﹂に係り︑否定辞と呼応
するものではないと思われる︒この場合︑﹁ニハ﹂コーモ﹂の﹁ハ﹂ 詞の主なものを列挙すると︑ 汝ヂ刷罰刈河愚也︒死ダル子ヲ悲ムデ今二不弄ザル事︑勘列愚也︒︵四
狐︶
眼キラメキテ勘列怖シ︒⁝⁝ト云う音︑極テ怖シ︒︵十空
別表によって﹁極ク﹂と﹁極テ﹂とを比較すると︑﹁極ク﹂の半数以
上が動詞を修飾し︑﹁極一この三分の二以上が形容詞を修飾している
ことが知られる︒﹁極ク﹂と﹁極テ﹂は位相の差異ということもある
が︑これはあくまでもその一面であって︑このような本質的な差異が
あることをここで知らなければならない︒﹁極ク﹂﹁極テ﹂が係る動 程度副詞おほきに小考︵原栄一︶
五
程度副詞﹁大キーこは漢文訓読語であり︑かつ変体漢文用語でもあ
る︒そして︑今昔物語集編者が好んで用いた副詞である︒原典の訳出
にあたって︑原典の﹁大﹂をそのまま﹁大キーことするのはもちろん
のこと︑適当に付加することによって自由自在に駆使している︒程度
副詞﹁大キーこはそのような性格の語であった︒では︑漢文訓読語と
和文語とを両端に配し︑その間に﹁大キーこの位置付けをすることで
その語性を究めたことになるであろうか︒l究めたことにはならな
いと言わざるをえない︒﹁大キーこは︑その修飾機能において︑﹁極
ク﹂﹁極テ﹂﹁甚ダ﹂﹁糸﹂などとは差異がある︒すなわち︑﹁大キ
ーこは形容詞・形容動詞を修飾しないという点である︒これは﹁痛ク﹂
についても同じことがいえる︒﹁大キーこ﹁痛ク﹂ともに︑自身が所
有する情態性の属性概念を保持しながら副詞l情態副詞lとなる
ことがあるが︑このように情態副詞として機能する副詞が程度副詞に
転化した場合に︑形容詞・形容動詞を修飾することは原則としてない
のである︒しかして動詞のみを修飾するのであるが︑その動詞に偏り ﹁モ﹂という係助詞に注目しなければならないであろう︒
此ノ事判昔ノ事ニハ非ズ︒︵十九基
糸出家ノ志マデハ先カリヶレドモ︑︵十九別︶
の例においても︑﹁ニハ﹂﹁マデハ﹂としており︑それぞれ﹁昔ノ事
一天﹂﹁出家ノ志マデハ﹂に係るとみるべきではなかろうか︒
日■■■■■︑此レハ極テ恥ニハ非ズャ︒︵二十五5︶
という例と同じ形であるが︑この﹁極テ﹂を陳述副詞化した例とみる
よりは︑﹁恥一天﹂に係るものとみた方がよいのではないかと思う︒
○
194
他の程度副詞に目を転じて︑﹁極テ﹂の三分の二以上は形容詞を修
飾し︑﹁極ク﹂の半数以上は動詞を修飾し︑﹁糸﹂は︑﹁大キーご﹁痛
ク﹂とは全く反対に︑動詞を修飾しないことなど︑修飾関係の面から
程度副詞個々の性格を少しは探ることができたように思う︒程度副詞
の比較によって文体を論じる場合などには︑このような面に十分留意
して検討されなければならないであろう︒
今昔物語集には︑右にあげたもののほかに︑﹁頗ル﹂﹁艶危ごズ﹂
﹁惜曾︶夕︑シク﹂﹁責テ﹂等々の副詞がある︒これらについては後
の稿で触れたいと思う︒ がみられ︑修飾範囲にひとつの限界があったとみられる︒﹁大キーこの場合には︑心理作用を表現する動詞と︑常套句にあらわれる動詞とに係る用例が八割を占めていることでも明らかであり︑﹁おほきに腹立つ﹂に限って和文にあらわれることなどもその一端を示しているといえよう︒また︑﹁大キーこ﹁痛ク﹂が程度副詞でありながら︑情態副詞としての意識が多少働いているのではないかと感じられるふしもあり︑これが被修飾語を限定する一因になったとも考えられる︒情態副詞から転化した程度副詞は︑情態副詞と程度副詞との弁別が或る場合に容易でないように︑情態副詞的程度副詞とでもいうような暖昧な合に容易でないように︑情態副詞坐性格をもつこともあると思われる︒
︵注︶L井上博嗣氏﹁中古の程度副詞についてlいとの場合I﹂国語国文部巻岨号・﹁中古の程度副詞についてI〃いといと〃と〃いとど〃の場合l﹂国語国文師巻胆号・﹁中古の程度副詞I〃いみじく〃と〃いたく〃の場合I﹂女子大国文弱恥合併号︒2拙稿﹁副詞の語性と今昔物語集のADV型﹂福田良輔教授退官記念論文
程度副詞おほきに小考︵原栄一︶ 集︵昭和仏年如月︶参照︒&注1に同じ︒
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