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生協共済連における健全性維持に関する 考察

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生協共済連における健全性維持に関する 考察

大 塚 忠 義

■アブストラクト

わが国の保障事業における共済の存在は大きいと同時に,大規模共済が破 綻した場合の影響も民間保険会社の破綻と同様の大きさになりうる。本稿で は,共済連合会のうち,経営理念,販売商品の面で民間保険会社との差異が 大きい生協共済連 の財務の健全性を分析し,その維持のための方策を検討 する。

分析結果から,生協共済連は堅固な自己資本に支えられ,高い財務の健全 性を維持していることがわかった。しかし,生協共済連がその事業内容を民 間保険と同様のものに変更すると業務継続が困難なほどソルベンシーマージ ン比率が低下するという結果が試算によって得られた。そして,生協共済連 の自己資本は,生協の特質からくる制約により,短期間に増加させる方策を 持っていない。

生協共済連が財務の健全性を維持するためには,自己資本の充実を図るよ り,引受けるリスク量を管理し,リスク許容度を超えることのない事業運営 を行うことが肝要である。この点は,株式の増資や基金の増額といった自己 資本の増加策をもっている民間保険会社においても留意しなくてはならない。

*平成24年10月20日の日本保険学会全国大会報告による。

/平成24年12月21日原稿受領。

1) 正式名称は 共済生活協同組合連合会 であるが, 生協共済連 と略称す る。また, 消費生活協同組合 を 生協 と, 消費生活協同組合共済 を

生協共済 と,それぞれ略称する。

見出しだけになってしまうので,アキを作成しています

(2)

■キーワード

生協共済連,自己資本,ソルベンシーマージン比率

1.はじめに

わが国の保障事業における共済の存在は大きく,その事業規模に鑑みると 共済は民間保険会社(以下, 民間会社 という)の競合者であるといえる。

その一方で,共済の事業規模の拡大は,販売商品の民間保険との同質化と共 済加入者の相互扶助理念の希薄化を招いており,共済と民間保険の違いがわ かりづらくなってきている。同時に,大規模共済が破綻した場合の影響は民 間会社の破綻と同様の大きさになりうることを考慮すると,高次の協同組合 である共済連合会の機能は重要であり,その健全性が共済事業全体の信頼性 を支えているといえる。

本稿の目的は,共済連合会のうち生協共済連の財務の健全性を分析し,そ の維持のための方策を検討することである。生協共済連を分析対象に選択し た理由は,経営理念,販売商品,および保有資産の面で民間会社との差異が 大きい一方で,事業規模は十分に大きく,健全性に問題があった場合に消費 者に与える影響は民間会社の場合と同様に大きいからである。実際,生協共 済連が扱っている商品はシンプルで,掛金は総じて安く,民間会社のものと 異なっているものが多い。また,財務構造も総じてリスクの低い資産を保有 している。

民間会社は健全性の維持のために自己資本の充実に努めるのが一般的であ るが,生協共済連は生協としての特性から自己資本の調達,充実およびリス ク負担の面で制約がある。このため,健全性を維持するための方策としては,

自己資本増加策ではなく,引き受けるリスク量をコントロールすることが有 効な施策であることを明らかにする。

まず,共済および生協共済連の現況を俯瞰したうえで,生協共済連の自己 資本とリスクの特性を明らかにする。代表的な生協共済連である全国労働者

(3)

共済生活協同組合連合会(以下, 全労済 という)および日本コープ共済 生活協同組合連合会(以下, コープ共済連 という)の自己資本およびリ スク量 を全国共済農業協同組合連合会(以下,

JA

共済連 という),民 間生保最大手の日本生命,民間損保最大手の東京海上日動火災のものと比較 することによって,生協共済連の自己資本の水準および特性を明らかにする。

次に,生協共済連が事業内容を変更したら健全性にどのような影響を与え るかを分析し,健全性への影響度合をソルベンシーマージン比率 (以下,

SM

比率 という)の増減として計量化する。

2.共済および生協共済連の現況

2.1. 共済の現況

共済とは,地域,職業,職場でつながる特定の者を対象とする生命保険・

損害保険に類似した保障ないし補償事業であり,法律の根拠のある制度共済,

または地方自治体内,企業内,労働組合内,学校内,地縁団体内,もしくは 1000人以下の者を相手方として行うものに分類される。

共済は小規模のものが数多く存在するが,その事業規模を合計すると保有 件数が1億5千万件,保障金額が1,122兆円 である。共済は生命共済,損 害共済を兼営している団体もあるため単純に比較できないが,民間生命保険

2) 本稿において,リスクの定義は,ソルベンシーマージン比率の分母であるリ スク量とし,その分類と計量方法は保険業法施行規則および大蔵省告示第50号,

ならびに生協法施行規程(厚生労働省告示第139号)に基づくものとする。

3) 共済のそれぞれの根拠法では 支払余力比率 という名称を使用しているが,

本稿においては一般になじみのある ソルベンシーマージン比率 または SM比率 を使用する。

4) 共済年鑑2012年版 日本共済協会編。なお,本統計は共済事業を実施して いる団体のうち,41の団体から協力を得て作成しているものである。また,

2010年度とは,各団体の2010年9月から2011年8月までに年度末を迎える事業 年度を意味している。以下,本稿において参照する数値は特に断りのない限り 2010年度の値であり, 共済年鑑2012年版 の他は個別団体・個別会社が公表 している2010年度決算の現状(ディスクローズ誌)によった。

(4)

業界 の個人保険の保有契約件数1億2千万件および保有保険金額879兆円 を凌駕している。すなわち,わが国の保障事業は民間会社と共済によって構 成されているといえる。この意味では,共済は民間会社を補完するものでは なく,競合相手であるといえる 。

また,共済を実施している団体の数は,6,728と民間会社の70社 を大き く上回っている。このうち,保険業等の免許を必要としない共済が3,914団 体と過半を占めている。これらを除いた根拠法のある共済も2,814団体あり,

小規模の共済団体が多数存在していることを伺わせる。一方で,ほとんどの 契約は生協共済と農業協同組合共済(以下, 農協共済 という)で占めら れている。

法規整の面では,2010年に商法から独立して施行された保険法で,保険と 共済を同義のものとして保険契約を定義した。また,1996年の保険業法の改 正によって民間会社に対して健全性の確保が強く求められるようになったが,

共済に関しても根拠法が順次改正され同様の健全性確保が求められるように なった。特に,大規模共済連については,破綻時に契約者に与えるリスクが 大きく,民間会社と同様の規制が必要であるとされている。これにより保 険・共済に係る監督規制の同質化も進んだ。

2.2. 生協共済連の事業規模

生協共済は10の共済連 と共済連に属さない地域生協共済,労働組合生協 共済,職域生協共済からなっている。このうち,全労済,コープ共済連,全

5) インシュアランス生命保険統計号平成23年版 保険研究所。本統計は,簡 保生命を含む民間生命保険会社(支店を含む)47社合計の2010年度末のもので ある。

6) 江澤(2009)p15参照

7) 2011年3月末における民間生命保険会社(かんぽ生命を含む)は47社であり,

国内向けの営業を行っている損害保険会社(再保険専業会社2社を除く)は23 社である。

8) 2011年3月現在

(5)

国生活協同組合連合会(以下, 全国生協連 という)の3つの生協共済連 の占める割合が非常に高い 。

共済全体に対して,3つの生協共済連と

JA

共済連で保有共済件数の85%,

保有共済金額の77%を占めている。すなわち,共済団体6,728のうち4つの 共済連で共済契約の大半を引受けているというのが現状である。

共済全体で引受けている保障額は民間会社合計のものを上回っているが,

個別団体でみても大規模共済連の事業規模は大手民間会社に比肩するもので ある。(表1)はこれら4つの共済連の事業規模を日本生命のものと比較し,

指数化したものである。コープ共済連を除く3団体において,保有共済件数 は日本生命の2.20〜3.81倍,保有共済金額では1.13〜2.12倍となっており,

民間会社最大手の規模を上回っている。

なお,件数と金額で差異があるのは,掛金が安い商品性を反映して平均保 険金額が低いからである。実際,日本生命の平均保険金額1,301万円に対し,

全労済229万円,コープ共済連154万円,全国生協連581万円と民間保険の金 額を大きく下回っている。

次に,受入共済掛金,支払共済金,および総資産をみると,生協共済連3 団体の値は日本生命のものを大きく下回っている。これは,生協共済連が提

9) 一方,農協共済は,単一の連合会であるJA共済連がすべての共済契約を引 受けている。

3.81 2.53

0.48 2.20

2.12 1.13

0.06 1.23

1.32 0.11

0.03 0.12

2.15 0.17

0.03 0.21

0.93 0.01

0.00 0.06

総資産 支払共済金 受入共済掛金 保有共済金額 保有共済件数

(出典) 共済年鑑2012年版 インシュアランス生命保険統計号平成23年版

(保険研究所)をもとに筆者作成

(表1) 共済連の事業規模(日本生命を1とした場合の指数)

全労済 コープ共済連 全国生協連 JA共済連

(6)

供する商品が短期で保障性が高いものがほとんどであることの証左であると いえる。

共済は,地域,職業,職場でつながる特定の者を対象とするものであり,

小規模のものが数多く存在する。民間会社が不特定多数の者を対象としてい るのとは対照的である。一方,共済も保障・補償事業であるので大数の法則 に従う。このため,事業規模が大きい方が事故率は安定し,事業の健全性が 向上する。生協共済連は,生協共済の上位の団体として日本全国の会員共済 から保障・補償を引受けることによって,事業を安定化させ,健全性を高め る機能を果たしているといえる。

3.生協共済連における自己資本とリスクの特性

3.1. 生協共済連の自己資本の水準

生協共済連の自己資本の水準を確認するために,全労済,コープ共済連 と

JA

共済連,日本生命,東京海上日動火災の自己資本比率と

SM

比率を列 記し,その傾向を分析する。

生協共済の中核的な自己資本は,保険加入者が払い込んだ出資金(生協共 済連の場合は会員共済が払い込んだ出資金)および利益剰余金を留保し積み 立てた法定準備金と任意積立金から成っている 。また,修正自己資本は純 資産額に資本的な性格を持つ負債である価格変動準備金と異常危険準備金を 加えた額である。これらは

BIS

基準における

Tier

1,

Tier

2の概念に近い。

SM

比率は,1996年の保険業法改正により民間会社に対して導入されたが,

生協共済および生協共済連に対しては2008年の消費生活協同組合法(以下,

生協法 という)改正により導入された。(表2)によると全労済の

SM

比率は1109.7%,コープ共済は984.9%と高い水準にある。規制当局による

10) 全国生協連はSM比率にかかるディスクローズを行っていないため,分析 対象から除外した。

11) この他に資産・負債の時価評価のための科目である 評価・換算差額等 が 純資産の項目としてある。

(7)

早期警戒措置の発動水準が200%であることに鑑みるとリスクに備える自己 資本は十分であるといえる。

この水準は,JA共済連の966.6%,日本生命の966.2%,東京海上日動火 災の823.8%の

SM

比率と同じレベルである。生協共済連は生命共済事業と 損害共済事業の両方を実施しているため,生命保険会社または損害保険会社 の

SM

比率とは単純に比較できないことは留意しなくてはならないが,絶 対的な水準としては十分な値であるといえる。

一方,5つの団体の

SM

比率は同水準であるにもかかわらず,自己資本 比率はばらつきが大きい。その中でも,コープ共済連が35.8%と非常に高く,

全労済も7.4%と日本生命の4.3%と較べると高水準にある。すなわち,生協 共済連の2団体は,他の団体と比較すると総資産に対する自己資本比率は充 実しており財務の健全性が高いといえる。

なお,JA共済連は4.3%と日本生命と同水準であり,5団体の中では低 い値を示している。また,民間会社の中でも,東京海上日動火災の自己資本 比率は,19.3%と日本生命に較べると非常に高い。リスクに対する自己資本 比率である

SM

比率が同水準であるのに,総資産を分母とする自己資本比 率にこのようなばらつきがあるのは,それぞれの団体が引受けているリスク の構造,すなわち,販売商品および保有資産の違いを反映しているからであ る。

東京海上日動 JA共済連 日本生命

コープ共済連 全労済

823.8 966.2

966.6 984.9

1109.7

19.3 4.3

4.3 35.8

7.4

32.1 6.7

10.9 45.4

16.3 修正自己資本比率

自己資本比率 SM比率

(表2) SM 比率と自己資本比率 (単位;%)

(出典)各団体のディスクローズ誌より筆者作成

12) 自己資本比率,修正自己資本比率は共済連については公表されている数値を 記載した。また,民間会社については筆者が財務諸表より算出した。

(8)

3.2. 生協共済連の自己資本の定量的な特性

つぎに,生協共済連の自己資本の特性を明らかにするために,前述した5 団体の修正自己資本の内訳を分析する。

(表3)によると修正自己資本の中で,中核的な資本である会員資本 の 占める割合は,コープ共済連が77%と飛び抜けて高く,全労済の48%がこれ に続いている。さらに,会員資本のうち,出資金 でみるとコープ共済連 が67%,全労済が27%であり,JA共済連の3%,日本生命の8%,東京海 上日動火災の4%と比較して非常に高い。

補完的な自己資本の項目をみると,評価・換算差額等については,3共済 連はマイナス2〜プラス3%と小額であるのに対し,日本生命は20%,東京 海上日動火災は32%と有価証券や土地の含み益が修正自己資本に占める割合 が高い。また,損害保険会社である東京海上日動火災と損害共済事業を多く 13) 相互会社である日本生命では基金等合計,株式会社である東京海上日動火災

では株主資本合計を比較の対象とした。

14) 日本生命では基金,東京海上日動火災では資本金を比較の対象とした。

15) 日本生命の法定準備金とは基金償却積立金である。また, 価変+異常危険 は 価格変動準備金および異常危険準備金 のことである。

東京海上日動 日本生命

JA共済連 コープ共済連

全労済

28 44

36 77

48

4 8

3 67

27

0 26

5 1

7

24 11

28 9

14

32 20

3 2

−2

40 36

61 21

55 価変+異常危険

評価・換算差額等 うち任意積立金 うち法定準備金 うち出資金 会員資本合計

(出典)各団体のディスクローズ誌より筆者作成

(表3) 修正自己資本の内訳 (単位;%)

(9)

営んでいる全労済,JA共済連は異常危険準備金積立額の割合が高いという 特徴がある。

これらの数値より,生協共済連の自己資本は,出資金と利益を留保して積 み立てた法定準備金・任意積立金の合計額である中核資本で占められている ことがわかる。そして,含み益の割合が低く,金融市場の影響を民間会社に 較べると受けにくい。すなわち,民間会社に較べると総資産に対する自己資 本の割合が高いうえに,自己資本が毀損する恐れの低い安定的な特性を持っ ているといえる。つまり,生協共済連は,堅固な自己資本に支えられて保 障・補償事業を行っているといえる。もっとも,株主と異なり,共済加入者 が事業の破綻によって出資した金銭を失う可能性があることを認識している かというと別の議論が必要であるかもしれない。

しかしながら,自己資本の実額を比較すると異なる特性がみえてくる。

(表4)によると全労済の保有共済金額は日本生命より大きいが,総資産は 日本生命の6%に相当する30,470億円,修正自己資本は15%の4,973億円に とどまっている。つまり,全労済の財務規模は日本生命の1割前後である。

また,コープ共済連の財務規模はさらに小さい。

財務的な規模が日本生命より小さな存在である生協共済連の引受けている 保障額は日本生命とならぶ水準であるということは共済事業の健全性を分析 するうえで留意しなければならないポイントである。

価変+異常危険 2,713 200 30,697 11,688 11,075 東京海上日動 日本生命

JA共済連 コープ共済連

全労済

7,820 14,471

18,166 728

2,378

8,942 6,619

1,611 15

−118

27,837 32,777

50,474 943

4,973

86,700 486,848

462,975 2,077

30,470 総資産

修正自己資本合計 評価・換算差額等 会員資本合計

(表4)修正自己資本の内訳 (単位;億円)

(出典)各団体のディスクローズ誌より筆者作成

(10)

(表5)は修正自己資本比率の分母を総資産の他に保有共済金額(民間会 社は保有契約高),および保有共済件数(民間会社は保有契約件数)として 比率を求めたものである。対総資産と対保有共済金額では逆の傾向を示して いる。対保有共済金額の修正自己資本比率は,全労済が0.2%,コープ共済 連が0.9%と,JA共済連の2.4%,日本生命の1.7%と比較すると非常に小 さい。すなわち,一般的な財務分析指標である総資産に対する自己資本の比 率でみると生協共済連の値は高いが,保障額に配賦されている自己資本額で ある対保有共済金額の修正自己資本比率は低くなっている。

また,対保有共済件数の修正自己資本比率は,契約1件当たりに賦課され た自己資本額といえるが,全労済は15,574円,コープ共済連は13,494円と,

JA

共済連の137,420円,日本生命の225,501円と比較して約1割という水準 となっている。

このような現象がみられる理由は,それぞれの団体が販売している商品の 特性の違いにより,引受けているリスクプロファイルと資産構造に差異が生 まれるからである。生協共済連の主力商品は,シンプルで保障性を重視する ものであり,貯蓄性はあまりない。これに対し,JA共済連と日本生命では,

終身共済・保険を中心とし,保障機能と貯蓄機能を兼ね備えているものを多 く販売している。また,生協共済連の掛金は総じて安いため,保有共済契約 に比較して総資産は多くならない。さらには,全労済や

JA

共済は損害共済

東京海上日動 JA共済連 日本生命

コープ共済連 全労済

32.1 6.7

10.9 45.4

16.3

0.7 1.7

2.4 0.9

0.2

50,238 225,501

137,420 13,494

15,574 対保有共済件数

対保有共済金額 対総資産

(単位;対保有共済件数:円,その他:%)

(出典)各団体のディスクローズ誌より筆者作成 修正自己資本比率

(表5)各種の修正自己資本比率

(11)

も多く扱っているため,それぞれの比率の並びはどちらかというと日本生命 より東京海上日動火災のものと近い。すなわち,自己資本の特性という面か らみると,生命共済・損害共済を兼営している生協共済は生命保険・損害保 険両方の特性を持っているのではなく,損害保険の特徴をより強く示してい るといえる。これは,シンプルで保障性を重視する生命共済の商品性は,長 期の終身保険のような生命保険商品より,短期の損害保険商品に近い性格を 持っているためであると考えられる。

3.3. 生協共済連の自己資本の定性的な特性

定量的な特性に加え,生協共済および生協共済連の自己資本は調達の手法 が限られているため,自己資本の増加に係る自在性が欠けているという定性 的な特徴に留意しなくてはならない。生協は,その利用と所有が一体化して いるため,外部から所有だけを目的とする自己資本の調達は認められていな い。この制約は,出資金は加入者の払い込みのみによるという生協の根源的 な特性からきており,自己資本によって財務の健全性を担保しなくてはなら ない共済事業においても例外ではない。民間会社には,保険株式会社の新株 発行による増資,保険相互会社の基金の増額,および劣後債務の取り入れと いった外部資金による自己資本の増加策が存在していることとは対照的であ る。このことは生協共済事業にとって,自己資本の調達,充実およびリスク 負担の面で大きな制約であり,今後の柔軟な事業の展開を阻害する要因とな りうる。

また,利益準備金の積立に関しては,出資総額に達するまで毎事業年度の 剰余金の5分の1以上を準備金として積み立てなければならないとされてい るが,一方で,剰余金の80%以上を組合員に還元する旨が規定されている。

保険株式会社においては剰余金の契約者への還元規定は存在しない。また,

保険相互会社については剰余金の20%以上 を契約者(社員)に還元する こととなっており,生協共済および生協共済連の方が剰余金の還元を強く求

16) 保険業法の規定に基づき各社の定款に定められている。

(12)

める規定となっている。すなわち,出資金に次ぐ中核的な自己資本である利 益剰余金の積立についても,生協共済および生協共済連は民間会社に較べる と制約が大きい。

このような定性的な性格を踏まえると,現在の法規制下で生協共済および 生協共済連の財務の健全性を維持するためには,自己資本の充実を図るより,

引受けるリスク量を管理し,リスク許容度を超えることのない事業運営を行 うほうが現実的であるといえる。

3.4. 生協共済連が引受けているリスクの特性

(表6)は

SM

比率の分母であるリスク量合計額の内訳 を比較したもの である。一般共済・保険リスク相当額は,全労済は41%,コープ共済連は94

%と,JA共済連の14%,日本生命の18%,東京海上日動火災の12%と比較 して格段に大きい。これに,損害共済・保険事業に特有の巨大災害リスク相 当額を加えると,全労済は83%,コープ共済連は98%と,JA共済連の63%,

日本生命の18%,東京海上日動火災の60%を大きく上回っている。生命共済 と損害共済を兼業している共済と生命保険会社,損害保険会社を単純に比較 することはできないが,全労済とコープ共済連が引受けているリスクはほと んどが保障に係るリスクであるということがわかる。これに対し,日本生命 は資産運用リスクに予定利率リスクを合わせると96%となっており,その保 有しているリスクは大半が資産運用に係るものであるといえる。このように,

保障・補償業務を行っている5つの団体におけるリスクの内訳は大きく異な っている。

17) リスク量の内訳は合計しても100%にはならない。なぜならば,リスク量合 計額の計算式は + + + + となっているからである。こ こに, :一般共済・保険リスク相当額(民間会社における第三分野保険の 保険リスク相当額を含む), :予定利率リスク相当額, :資産運用リスク 相当額(民間会社における最低保証リスク相当額を含む), :巨大災害リス ク相当額, :経営管理リスク相当額である。

す ま い アキを作成して 図表が入らないため

(13)

財務構造の違いもリスク量の構成に大きな差異を生んでいる。(表7)は,

運用資産の内訳を示したものである。本稿では,現預金等 ,国債,地方債,

社債を低リスク資産と定義し,株式,外国証券,貸付金,不動産,金銭信 託 をリスク性資産と定義して,それぞれ合計をとって比較した。これに よると,生協共済連,JA共済連と民間会社の間で資産運用に対する姿勢に 明らかな差異がみられる。低リスク資産の割合は,全労済が85%,コープ共 済連が91%,JA共済連が85%と,共済連は安全性を重視した運用を心掛け ていることがわかる。これに対し,日本生命はリスク性資産の割合が61%,

東京海上日動火災は64%とリスクを取って収益性を重視していることが伺わ れる。

運用資産利回りは,全労済が1.56%,コープ共済連が0.55%,JA共済連 が1.83%と日本生命の2.23%,東京海上日動火災の2.00%と比較して,低い 水準にとどまっている。特に,コープ共済連の0.55%は際立って低い。これ は,預貯金等(現金,預貯金,譲渡性預金)といった安全で,かつ短期の運 用資産の占める割合が68%にのぼることによる。

18) コールローン,譲渡性預金等を含む。

19) その他の運用資産はリスク性資産に含めた。

(表6)リスク量の内訳 (単位;%)

(出典)各団体のディスクローズ誌より筆者作成 一般共済リスク相当額

巨大災害相当額 予定利率相当額 資産運用リスク相当額

経営管理リスク相当額 2 2 2 2 2

29 8 33 82 48

8 0 14 14 1

42 4 49 0 48

41 94 14 18 12

東京海上日動 日本生命

JA共済連 コープ共済連

全労済

(14)

4.事業構造の変化に対するソルベンシーマージン比率の感応度分析

前章において,生協共済連の財務の健全性を維持するためには,自己資本 の充実を図るより,引受けるリスク量を管理するほうが現実的であると述べ たが,本章では生協共済連が販売商品,資産運用方針といった事業の構造を 変更した場合に,リスク量がどのように変化し,健全性指標である

SM

比 率にどのような影響を与えるかを計量化する。さらに,販売商品の変化およ び運用資産構成の変化がリスク量の変化に与える影響を分析したうえで,大 規模生協共済連が大規模民間会社と同様の事業構造に変更するという仮定の もとでのソルベンシーマージン比率の感応度を調べる。

販売商品の変更,収益構造・財務構造の変化を精緻に分析するためには,

複雑なモデルオフィスを構築しなくてはならず,専門家でないと理解しづら い。また,分析対象の事業構造に関する十分なディスクローズが前提となる。

(表7)運用資産の構成 (単位;%)

(出典)各団体のディスクローズ誌より筆者作成 現預金等

国債 地方債 社債

低リスク資産合計 株式

外国証券 その他の有価証券 貸付金

不動産 金銭信託 その他の運用資産 リスク性資産合計 運用資産合計 運用資産利回り

全労済 コープ共済連 JA共済連 日本生命 東京海上日動

6 68 1 2 5

39 11 53 28 23

10 7 21 3 2

31 5 10 7 7

85 91 85 39 36

0 0 2 13 28

2 0 4 22 17

0 0 1 1 1

0 0 6 18 5

0 0 1 4 3

6 8 0 0 0

6 0 2 3 10

15 9 15 61 64

100 100 100 100 100

1.56 0.55 1.83 2.23 2.00

(15)

そこで,大規模生協共済連の事業構造を参考にいくつかの仮定をおき単純化 した仮想のモデル(以下, モデル共済連 という)での分析を試みる。こ れらの分析にあたり,基本シナリオにおけるモデル共済連の

SM

比率は 1000%とし,SM比率の分子である広義の自己資本額にあたる支払余力総額 は,事業構造の変化によって増減しないものと仮定する。

4.1. 主たる販売商品の変化に対する感応度

生協共済連が提供している商品は,シンプルで,掛金は総じて安いものが 多い。全労済の こくみん共済 ,共済コープ共済連の たすけあい , あ いぷらす ,および全国生協連の 生命共済 が代表的なものである。これ らの共済商品の給付内容は,生命保険商品でいうと医療特約が付加された自 動更新付定期保険,または自動更新付医療保険に相当している。一方,生協 共済連においても,終身共済のように,共済掛金率が性別・年齢別に定まり,

民間会社が提供している終身保険の保障内容と違いがないものもある。試算 では,モデル共済連は,民間会社と同様に終身共済を主たる販売商品に変更 すると仮定する。

全労済が推奨している こくみん共済 の標準的な契約のサイズ は,

月払掛金5,000円弱で,普通死亡保障500万円に各種の医療保障が付加されて いる。一方,終身生命プランの普通死亡保障500万円に各種の医療保障が付 加された契約の標準的な掛金は,男性30歳で,12,000円程度となっている。

これらの商品の特性を試算の前提とする。また,終身生命プランは経過10年 前後で死亡保障額の1割程度の責任準備金が積み立てられる。

販売商品の変化はすぐには財務構造に影響を与えないが,商品の掛金水準 の差と貯蓄機能の差は,保有共済金額と総資産の比率を徐々に変化させてい く。主たる販売商品を変更した後,相当程度の期間を経過したという仮定の もと,2つのシナリオを検討する。

20) 全労済のホームページでの掛金試算によって得られた契約内容を推奨する標 準的な契約サイズとした。

(16)

シナリオ1は,民間会社ほどではないが終身共済が現状より販売された後,

相当程度の期間を経過した状態と仮定し,単純に保有共済金額を基本モデル の3分の1,総資産を2倍にしたものである。シナリオ2は,日本生命と同 程度に終身共済を販売した後,相当程度の期間を経過した状態と仮定する。

保有共済金額はシナリオ1と同額とするが,保有共済金額と責任準備金の比 率が日本生命と同じ になるように総資産を定めたものである。

試算結果では,SM比率はシナリオ1, 2でそれぞれ105.2%,436.3%下 落し,基本モデルの1000%から894.8%,563.7%となる。どちらのシナリオ でも早期警戒水準の200%を上回っているので,健全性は維持されていると いえる。しかし,シナリオ2の563.7%は民間会社の最下位に近い水準であ り,モデル共済連としては選択しがたいものである。すなわち,健全性の維 持の観点から,民間会社と同じ商品構成を目指すべきではないと試算結果は 示唆している。

一方,シナリオ1は,現行の商品構成と民間会社の商品構成の中間という べきものである。この場合の

SM

比率は894.8%と許容できる水準である。

シナリオ1が示唆しているものは,終身共済のような民間会社の商品と近い ものは,主たる販売商品を補完し,商品ラインナップを充実するための商品 として位置付けるべきであり,積極的な推進活動は行わない方がよいという ことである。

なお,本試算においては,次のような仮定をおいた。

①保有共済金額が減少するにあたって,死亡保障と医療保障は同じ割合で減 少する。

②総資産が増加するにあたって,運用資産の構成に変化はない。

③損害共済の契約高に変化はない。

④過去に契約した既契約の状況に変化はない。

21) 日本生命の個人保険,個人年金,団体保険の保有契約高と責任準備金の比率 は,6.1:1である。

(17)

4.2. 運用資産の構成の変化に対する感応度

次に,モデル共済連は,資産運用収益の増大を目的に,資産ポートフォリ オの見直しを行うと仮定する。3つのシナリオを提示する(表8)。基本モ デルは全労済の運用資産の構成割合をもとにした。これに対し,シナリオ1 は,低リスク資産,高リスク資産の割合は変更せず,低リスク資産の構成に つき利回りの高い社債を31%から60%に倍増させ,その分,預貯金,国債,

地方債を54%から25%へと減らすと仮定する。シナリオ2は,リスク性資産 を15%から30%へと倍増すると仮定する。なお,低リスク資産の内訳は変更 しないものとする。シナリオ3は,低リスク資産,リスク性資産のいずれも 日本生命の運用資産の構成と同一にすると仮定する。

SM

比率は,シナリオ1,2,3でそれぞれ44.2%,143.3%,337.0%下 落し,基本モデルの1000%から955.8%,856.7%,663.0%となる。いずれ の場合も200%を上回っているので,健全性は維持されているといえる。し かし,シナリオ3の663.0%は民間会社の最下位グループの水準に該当する。

シナリオ1は,低リスク資産の割合は変更しないが,その内訳を利回りの 高い社債に振り向けるというものである。この影響は44.2%の下落に留まっ ており,健全性にほとんど影響がないことから,利回り向上のために選択可 能な案であるといえる。

一方,シナリオ2,3では,リスク性資産が増加すると

SM

比率が急激に 悪化することが観測できる。日本生命と同一の運用資産構成は選択し難いが,

シナリオ2については意見が分かれるところである。基本モデルではリスク 性資産の割合は15%であり,これをどの程度増加させるかは,期待する運用 収益と許容できるリスク量とのバランスによって定めるべきものである。

運用収益を向上させるためにはリスクを取らなくてはならないことは自明 である。一方で,リスクの増加が健全性の低下に直接的に影響を与えること がこの感応度分析により明らかになった。自己資本の増加に制約がある生協 共済連の健全性は,ひとたび悪化すると短期間に回復する方策が限られてい る。これらの点を考慮すると生協共済連は,民間会社が行なっているような

(18)

株式,外国証券等による資産運用を積極的に行うべきではないと考える。一 方,公社債の中で比較的利回りの高い社債の占率を高め,運用効率の向上を 図ることは十分検討に値する。

なお,試算に際し,預貯金等,国債,地方債のリスク係数は0としている。

また,社債は

A

格のものを購入したと仮定し,リスク係数は0.01とした。

リスク性資産合計のリスク係数については,全労済の資産運用リスク総額 35,229百万円と運用資産の構成比をもとに逆算して求めた0.067を使用した。

シナリオ3におけるリスク性資産のリスク係数は,株式0.10,外国証券0.10,

貸付金0.01(A格以上

AAA

格未満の企業に貸し付けたと仮定する),不動 産0.05,金銭の信託0.10(すべて株式信託と仮定する),その他の運用資産 0.067(全労済のリスク性資産合計のリスク係数)を使用した。また,資産 運用関係以外のリスク項目に変化はないと仮定する。

4.3. 民間会社と同様の事業構造に変更した場合の健全性

感応度分析の総括として,モデル共済連が民間保険と同様の事業構造に変 更した場合の

SM

比率を試算する。民間会社と同様の事業構造の仮定とし て,日本生命と同様の商品を販売した結果,保有共済金額と責任準備金の比 (表8)資産構成の変更シナリオと SM 比率の感応度 (単位;%)

預貯金・国債・地方債 社債 低リスク資産合計 リスク性資産合計

合計

SM比率

SM比率の増減 − −44.2 −143.3 −337.0

1,000.0 955.8 856.7 663.0

100 25 40 33

15 15 30 61

85 85 70 39

31 60 30 7

54 25 40 33

基本モデル シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3

(19)

率が日本生命と同一になるとする。日本生命と同じ商品構成を仮定する4.1.

(主たる販売商品の変化に対する感応度)のシナリオ2を使用するが,貯蓄 機能の高い商品を中心に販売する場合は資産運用成果も日本生命と同水準を 目指さないと消費者にとって魅力ある商品を提供することができず,その結 果販売が成功する可能性は低い。すなわち,日本生命と同じ商品構成とする 場合には,必然的に運用資産の構成も日本生命と同一となると仮定しなくて はならない。そこで,4.1.のシナリオ2の総資産を仮定したうえで,その運 用資産の内訳を4.2.(運用資産の構成の変化に対する感応度)のシナリオ3 のものとする。

この前提の試算によると,モデル共済連の

SM

比率は,772.2%下落し,

227.8%と経営破綻する直前の

SM

比率となる。このことは,モデル共済連 は健全性維持の観点からみて民間会社と同様の商品を提供するべきではない ということを明確に示唆している。

5.おわりに

これまでの分析結果から,生協共済連は堅固な自己資本に支えられ,高い 財務の健全性を維持していることがわかった。しかし,もし生協共済連がそ の事業内容を民間保険と同様のものに変更すると業務継続が困難なほど

SM

比率が低下するという結果が試算によって得られた。そして,生協共済連の 自己資本は,生協の特質からくる制約により,短期間に増加させる方策を持 っていない。このため,ひとたび健全性が悪化すると元の状態に戻ることは 容易ではない。すなわち,生協共済連の財務の健全性を維持するためには,

自己資本の充実を図るより,引受けるリスク量を管理し,リスク許容度を超 えることのない事業運営を行うことが肝要である。

株式の増資や基金の増額といった自己資本の充実手法を有している民間会 社であっても,一度健全性に問題が発生すると外部資本の取り入れは困難に なることは,バブル崩壊時に破綻した中堅生保の事例より明らかである。そ のような事態を招かないためには,将来予測も含めたリスク許容度に関する

(20)

定期的な確認が重要であると考える。

そして,民間会社においても,事業内容の変更,新規事業の開始に際して は,新たな販売商品,販売チャネル,運用資産構成に基づき増減するリスク 量の変化を分析・把握し,健全性への影響を測ることが求められると考える。

なお,本稿においては,監督官庁によって定められた

SM

比率をもとに 健全性の分析を行ったが,実質的な健全性を測定するためには経済価値ベー スの財務情報に基づき分析するべきであり,今後の課題であるといえる。

一方,現状では,生協共済連は経済価値に係る情報をほとんど公開してい ない。消費者の信頼性を確保するためには,財務の健全性の維持とともに,

各種の経営情報のディスクローズが重要である。特定のものを対象とする共 済においても,不特定多数のものを対象とする民間会社と同様の水準までデ ィスクローズの範囲を広げることが望ましいと考える。透明性のさらなる確 保は,組合員の共済運営に参加するという意識を高めることにもつながると 考える。

(本稿は, 2011年度 全労済 給付奨学生 の研究成果である。)

(筆者は早稲田大学保険規制問題研究所 招聘研究員)

<参考 献>

江澤雅彦(2009) 保険と共済の 境界 について 保険学雑誌 605号,pp.13‑

32

坂井幸二郎(2002) 共済事業の歴史 日本共済協会 生協共済研究会(2008) 生協の共済 コープ出版

生協共済研究会(2011) 21世紀の生協の共済に求められるもの コープ出版 茶野努(2001) 生命保険のコーポレート・ガバナンスに関する展望 生命保険

論集 136号,pp.129‑188

堀越芳昭(1989) 協同組合資本学説の研究 日本経済評論社

米山高生(2008) 保険規制の国際動向が協同組合共済に与える影響 ―共済の財 務健全性規制の あるべき姿 ― 日本共済協会

米山高生・山本信一・山本 進(2010) 国際保険監督および国際会計基準等の最 近の動向に関する研究 全労済協会

山下友信(2008) 生協法改正と共済のあり方 生活協同組合研究 386号,pp.

24‑43

参照

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