現代引当金会計 の論理
佐 藤 誠 二
は じめに
本稿は、 ドイツにおける現代の引当金会計を素材にドイツ商事貸借対照表法 (Handelsbilanzrecht)の 改編の意味について考察をカロえた ものである。
周知のように、 ドイツではEC域内諸国の会社法調和化の一環 として、
1978
年EC第4号指令「資本会社の年度決算書」の制定以来、理事会採択の会計関 連 指令 の国 内法化 が進行 し、1985年 12月 19日付 の「貸借対 照表 指 令 法(Bilarlzrichtlinien¨ Gesetz)」
として成立 し、その後、「貸借対照表指令法」の 新商法典に新設の第二編「商業帳簿」への組み込みを経て、1986年 より新 しい 商事貸借対照表法 (以下、新貸借対照表法)が発効 している。引当金規定に関 してみれば、EC第4号指令第20条引当金規定の ドイツ国内法化 を遂行 させ た。EC第4号指令第20条は指令の加盟各国の年度決算書の比較可能性 と均質 性を保証 し、会社 (資本会社)の財産状態、財務状態、収益状態の実質的諸関 係に合致 した写像(い
わゆる真実且つ公正なる写像)の伝達を確保するという 目標設定の上にたつて、損失及び債務性引当金 と費用性引当金の計上を要請 し た。 ドイツにおける新貸借対照表法 も形式的にはこの要請に応 じて、引当金計 上規定の改正をなした。 この引当金計上規定の改正は今次の新貸借対照表法に おいて重要な実質的変更点 と捉えられ、 ドイツ商事貸借対照表法にとってひと つの「改革 (Novum)」 を示 しているという。しかし、かかるドイツ新貸借対照表法引当金法の成立経過 も、内実、1965年 株式法 (以下、旧株式法)以来、税務判決主導のもとに進展 してきた現代の会 計実務に存 していた法的不安定性を、EC加盟各国に与えられた国内法転換選 択権 を行使 しながら回復 し社会的合意化制度の補強を企図した国内会計法制度
(300)
法経研究
42巻
304号(1994年
)の組成改編のひとつであった ということが出来る。すなわち、旧株式法以降に 生起 した現代の会計実務の進展は、新貸借対照表法において経済的実質観 に たつた積極項 目および消極項 目の貸借対照表能力の拡張を促 した。 とくに消極 項 目としての引当金は不確定な債務、偶発損失、 リスクという要件を基礎に負 債概念の拡張を促 し、引当金額の設定を媒介 とした費用拡大一利益縮小実務に 法的論拠を求めたのである。
本稿は、 この点を検討 しようとするものである。以下、新貸借対照表法にお いて重要な改正点 といわれる引当金計上規定
(商
法典第 249条)を取 り上げ、旧株式法下の引当金会計実務の実態 との関連のもとで、それがいかなる論理内 容を纏って登場 しているのかについて考察する。 ここでの視点は税法に対する 商法優先を形式的準拠枠 とするドイツ会計制度のなかで、引当金規定が税法 と の形式的連携をいかに保ちなが ら法的安定性
(Rechtssicherheit)を
かちえよう としたのか、その論点整理を行なうことによって、貸借対照表法改編の意図と 意味 とを探 り出すことにある。I.ドイツ新貸借対照表法 における引当金概念の変化
引当金 という概念は経営経済学において発展 してきた概念であり、商事貸借 対照表実務に取 り入れられ、商法上は 1931年 より採用されている概念であるP
この引当金の概念内容については、これまで論争が有 り、それ故文献において も特に議論有る貸借対照表項目ということが出来るPそれは引当金の概念が貸 借対照表の基礎に如何なる目的を据えるかに決定的に依存するためである。
一般に経営経済学では、静的貸借対照表観 と動的貸借対照表観のふたつの観 点から引当金概念は区分されている。
静的貸借対照表観によれば、引当金は第二者に対する負債性
(Schuldchara‐
kter)を
問題にする。ここでは、貸借対照表日に第二者に対する債務が存在 しているか、あるいは経済的観点からして第二者による請求が予想されることが間 題 とされる。 ここでの引当金は、その発生 と金額が未確定な第二者に対する義 務が重要 とされ、引当金設定の目的は債権者保護の観点から、他の第二者に対
して企業の有する義務 を完全かつ正確に表示することにあるP
これに対 して、動的貸借対照表観は第一義的に損益算定の比較可能性の観点 で引当金をみている。 この原則に基づけば費用 と収益はそれが発生 した期間に
″ (299)
帰属せ しめ られる。従 って、動的貸借対照表観の もとでは引当金 は発生原則 に 基づ き既 に経過 した期間に帰属せ しめ られ るべ きだが、貸借対照表作成時点 に 未だ正確 に数量化 しえない支出を将来 は じめて生み出す費用に対す る特殊 な限 定項 目とみ られているのである。従 って、動的貸借対照表観 による引当金 は静 的貸借対照表観 によるそれ よりも広義であるP
旧株式法第152条第7項の引当金規定 はふたつの事例 (未実施の維持補修費 及び未実施 の廃石物除去費 に対する引当金)を例外 に原則的に静的貸借対照表 観 にたって債務性引当金 (Verbindliこhkeitsruckstellungen)の みの計上 を規定 す る。 これに対 して、1985年に改正 された新貸借対照表法(商法典第249条)
では引当金概念 は拡張 され、動的貸借対照表観 と静的貸借対照表観 を混在 させ ているP
い ま、新貸借対照表法における引当金規定の内容 を旧株式法 との対比 して俯 政すれば図1の とお りである。み られ るように、新貸借対照表法では引当金 に 関 して次の5つの消極計上義務 とふたつの消極計上選択権 を規定 している。 こ の うち、消極計上選択権 の付与 される一定の費用 に対す る引当金 は、将来の費 用が区画 されるとい う意味での典型的な費用性引当金
(Aufwandsrtlckstelltm‐
gen)で あ り、今回の新貸借対照表法 において新たに許容 され、それによって引 当金概念 に対す る動的貸借対照表観が明示的に導入 された ものだ といわれてい る。
消極計上義務
1.不確定債務 に対す る引当金
2.未決取引か ら発生す る恐れのある損失に対す る引当金
3.翌営業年度の三 カ月以内に埋 め合わ され る未実施 の維持補修費 に対す る引当金
4.翌営業年度 に埋 め合わされ る未実施 の廃石物除去費用に対する引当金
5.法的義務 を伴わない保証給付 に対す る引当金 消極計上選択権
1.翌営業年度の始 めの三 カ月以降に埋 め合わ される維持補修費 に対する 引当金
2。
決算 日において蓋然的 もしくは確実であるが、 その金額 と発生時点が 未確定である、 その属性 に従い正確 に記述 され、当該営業年度 に帰属 す る一定の費用に対す る引当金(298)
法経研究
42巻
3・ 4号(1994年
)図
1
新貸借対照表法 と旧株式法 における引当金計上規定の対比出所 Gross,Gerhart/Schmff,Lother;Der J山 曖
sabschlu3 nach neuem Recht,Aufstellung‐
Prufmg‐Offenlegung,2.Au■
.,1986,S.123.(297)
未決取引から発生する恐れのある損失
法的義務を伴わない保証給付(サービス)
3カ月以内に埋め合わされる 未実施の維持補修費
4‑12カ
月以内に埋め合わされる次営業年度に埋めあわされる 未実施の廃石物除去
ところで新貸借対照表法では、旧株式法同様、統一的引当金概念 を明示 して いない。
「法では消極項 目『引当金』 は、定義 されていない。商法典第249条は専 ら 商法上許容 され る引当金の集団を数 えあげたにすぎない。 この場合、立法者が 厳密な引当金概念 を確定せず に、静的引当金根拠 も動的引当金根拠 もまた正当 な もの とみ な した こ とを認 識 しな けれ ばな らな い
0」
と、ケーネ ンベ ル グ(Coenenberg,Adolf)は 述べ るが、 フレー リックス (Freericks,Wolfgang) も貸借対照表計上問題 は動的貸借対照表観や静的貸借対照表観 を指示す るのみ では説明することがで きない とい う。貸借対照表の計上 は個々の問題 において ある時 には動態論的に、 また、別の ときには静態論的に説明可能であ り、従 つ て、その都度の貸借対照表観で もって貸借対照表 との一致 を結論 じえない とし ているP
この点、ステファン (Stefan,Klaus)は貸借対照表項 目引当金の概念 は商法 典第249条という特殊 な規定か ら明 らか となるのではな く、既 に会計 目的か ら 生ず るのであって、すべての重点 は確かに正規の簿記の諸原則 によって先予 さ れている とい うPステファンの場合、最 も普遍的な会計 目的を財産統制 にみて それ以外の目的はこの会計 目的か ら演繹的・ 目的論的に導出されるとす る。そ して、引当金 を含 める貸借対照表消極側 に該当す る一般貸借対照表計上原則 も 評価原則すなわち正規 の簿記の諸原則 もまた、期間関連的 リスク・ 損失・ 出費
を補償す るのに必要な財産 は配当可能な期間利益 として引 き出 してはならない のだ と解釈すべ きとい う。 そして、 この目標設定 は とくに完全 性の原則、ゴー イングコンサー ンの原則、費用0収益 の期間限定の原則 な らびに不均等原則の なか にみ られ るとする。引当金 に関 してステファンは、財産統制 とこの会計 目 的か ら導出され る正規の簿記の諸原則 は、「年度決算書の枠内で商事貸借対照表 は消極 において、貸借対照表 日に確定 している債務 を把握するだけでな く、そ れ を超 えて、以後の期間に予見的に支出を導 くであろう期間関連的な不確定債 務、損失、 リスク、出費のすべてを把握 して、 これ らを貸借対照表項 目「引当 金」 として表示 され るべ きだ とするのであるP
しか し、新貸借対照表法 において、会計 目的 として何 をみるかに関 して、解 釈 は多様 である。 ミュー ラー (Muller,welf)はそうした会計 目的 として、記 録、会計報告、負債補填統制、情報、利益分配、資本会社の場合の配当抑制 を 列挙 しているν)ヴェルナー
(Wё
rner,Georg)は、商法上の年度決算書の目標(296)
法経研究
42巻
3・ 4号(1994年
)設定はすべての商人に適用される商法典第二編第一章の「すべての商人に関す る」規定部分からは一義的に定義されないとしている:りしかし、かれによれば、
商法典第 243条 第1項によれば、商人の年度決算書 は正規の簿記の諸原則 に 従って作成 されなければならず、これによって、商人は商法典第 238条 第1項 のいう「財産及び収益状態のできるだけ確実な洞察」を与えなければならない という。そして、こうした会計目標の枠付けはかなリー般的であるにせよ、不 断に恣意性の禁止を保持 している。企業の利害関係者すべてに応ずる明確な目 標指示、「客観的に正 しい」貸借対照表は実現可能でないけれども、貸借対照表 の相対的な真実性の保持が必要 と述べるのである♂)
ともあれ、新貸借対照表法における引当金概念の解釈は依然 として正規の簿 記の諸原則に委ねられている。 この場合、正規の簿記の諸原則は会計目的から 誘導される。 この正規の簿記の諸原則の目的論的・ 演繹的決定は今次の商法改 正において明示的に導入された解釈論理であるといわれている:。しかし、 ここ で前提 とされる新貸借対照表法の会計目的は必ずしも明確でないのであって、
不確定法概念たる正規の簿記の諸原則の解釈 もそれに応 じて弾力的適用がはか られざるをえない。上にみた新貸借対照表法における引当金概念の拡張は、動 的・ 静的貸借対照表観を共に含めた、 この正規の簿記の諸原則の弾力的解釈0 適用の結果に他ならない。
ところで、引当金概念 と関連 して、新商法典第二編第二章「資本会社に関す る補完規定」における第 264条 第2項の資本会社の財産・財務・収益状態の「実 質的諸関係に合致 した写像 (いわゆる真実且つ公正な写像)」 規定は重要であ る計
)ク
プシュ (Kupsch,Peter)も 引当金は、「商法上の年度決算書において財 産・財務・収益状態の枠組みのなかの重要な要素1●」だ と述べている。 とりわけ、新貸借対照表法において新規に導入され、引当金領域の拡張を果たした といわ れる費用性引当金一般の容認
(計
上選択権)は動的貸借対照表観に基づ くもの であると同時に、 この「実質的諸関係に合致 した写像」原貝Jの
含意する情報開 示主義にたつものであるといわれている。1983年政府草案の理由書は、費用性 引当金 (一定の費用に対する引当金)に 関して次のように述べている。「企業の 状態、特に収益状態は、〜 もし将来の費用が引当金を通 じて、個々の営業年度 に対 して、その営業年度に将来の費用が どのような貢献 をなしたか という関連 で帰属されないならば、望 ましい明瞭性が示されな くなると0」
キュティング・ヴェーバー (Ktiting,Karlheinz/Weber,Claus‐Peter)編の『会計ハ ンドブッ
(295)
ク〜貸借対照表化 と監査 に対 す るコンメ ンタール』 も、費 用性 引当金 の帰属問 題 に触 れ、具体 的将来 の費用 の帰属 の基準 とな るの は過去 の収益 との因果関係 で あ る とし、 それ によって収 益状 態が よ り明瞭 に表示 され る としてい るも つつ ま り、理 由書 や コンメ ンタール は費 用性 引当金一般 の容認 は過去 の収益 と因果関 係 の あ る将来 の特別 の費用 を適正 に期 間配分 し収益状 態 を明瞭 とす るた めに行 なわれ た のだ としてい るが、 つ まる ところ、 そ こで は、情報 開示 の拡充 を うた い年度決算書 の正確性・真実性 を目的 とした「実質的諸 関係 に合致 した写像
(真実且 つ公正 な る写像
)」規 定 を梃子 に、新貸借対照表法が債務性 を越 えて費 用性 にむ けての引 当金概念 の拡大 を意 図 してい る とみれ るので あ る。
1)Freericks, Wolfgang; Bilanziemngsfahigkeit und Bilanzierungspflicht in
Handels‐urld Steuerbilallz,1976,S.237.(W.フ レー リックス著、『現代の会計 制度』第
1巻商法編 大阪産業大学会計学研究室訳、
1986年、
305頁)2)Coenenberg, Adolf Gerhard; Jahresabschlu3 und Jahresabschlu3analyse, Betriebswirtschaftliche,handels‐
und steuerrechtliche Gmlldlagen,12.Aufl., 1991.S.221.
3)4)Freericks,Wolfgang,a.a.0。 ,S.237.(邦
訳、
305頁)5)商
法典第
249条引当金規定の成立経過 と旧株式法引当金規定 との詳細 な比較 に ついては、拙書『現代会計の構図』 (1993年
)森山書店、第
9章を参照。
6)Coenenberg,Adolf Gerhard;JahresabschluB und Jahresabschlu3analyse,a.a.
0。
,S.224.
7)Freericks,Wolfgang;a.a.0.,S.382.(邦
訳、第
2巻税法編、
1987年、
512頁)8)Stefan,Klaus;Zurn Ruckstellungsbegriff des BilaFIZriChtlinien‐ Gesetz,in:
StuW,1988,S.145。
9)Ebd.,S.
lo)Mullet welf;Gedanken zuln Ruckstellungsbegriff in der BilaFIZ,in:ZGR, 1981,S.121.
11)12)Wё
rner,Georg;Handels‐ und Steuerbilarlz nach neuem Recht,1991,S。
77u.77.
13)正
規 の簿記 の諸原則 の演繹 的・ 目的論 的決定 が新貸借対 照表法 に導入 された意味 について は、前掲拙書第
3章を参照。
(294) 87
法経研究42巻
304号 (1994年)14)こ
の新商法典第
264条第
2項の「実質的諸関係 に合致 した写像」規定 の内容 に関 して は、前掲拙書第
4章を参照。
15)Kupsch,Peter;Neuere Entwicklungen bei der Bilanzienmg und Bewertung
von IRuckstellungen,in:]Der Betrieb,1989,S.53.
16)Biener,Herbert/Bemeke wilhelm;Bilanzrichtlinien‐ Gesetz,1986,S.82.
17)Ktlting Kahrhein2/ Weber claus‐
Peter, Handbuch der Rechnungslegung,Komrnentar zur Bilanzierung und Prufung,1986,S.534.
Π。旧株式法下 における引当金会計実務の展開
ドイツの会計実務において、引当金は他の貸借対照表項目と比較 して、その 種類の多様 さでも、また、その計上額の大 きさにおいても特異な項 目である。
後述するように、 ドイツにおける引当金会計の実務は連邦財政裁判所の税務判 決を基盤にして、その範囲 と金額 とを拡大させてきた。旧株式法引当金規定 も、
かかる現実の実務に対処する税務判決による事実上の支配を被 り、商法優先を 形式的準拠枠 とするドイツ会計制度において法的不安定性を招来せしめたので ある。 こうした引当金会計実務の進展 とそれにより生 じた法的不安定状況に関 して、グルベル ト(Grubert,Thomas)も 、引当金事実要件に対する納税義務 者 と税務当局・財政裁判所の意見対立 とその解決に向けられた多数の最高裁判 所判決を取 り上げ指摘 しているところであるPそれでは、かかる旧株式法下に おける法的不安定状況を招来せしめた ドイツ株式会社の引当金会計実務 とはど のようなものであろうか。以下、クプシュ (Kupsch,Peter)の アンケー ト調査 結果などに依拠 しなが ら、引当金会計実務の実態の特徴 を検討 しようとするの が本節の目的である。
(1)引当金領域の多様性
旧株式法のもとで計上の認められる引当金にはどうようなものがあろうか。
旧株式法第 152条第7項は原則的に不確定債務引当金に計上義務規定を定め、
例外 として未実施の維持補修費引当金、未実施の廃石物除去費引当金、法的義 務 を伴わない保証給付に対する引当金に計上選択権 を定めている。 ドイツにお いて権威ある株式法コンメンタールであるア ドラー/デュー リング/シュマル
ツ (Adler,Hans/During,walter/Schnaltz,Kurt)著 『株式会社の会計報告
(293)
と監査』(1968年
)で
は、選択権の付与 され る3つの引当金 に加 えて、不確定債 務 引当金の個別種類 として次の23項目が挙 げられているP(1)手
数料・ 特別賞与・ 利益配当、(2)年
金扶助金庫割当額、(3)年
度決算書監査及 びコンツェル ン決算書監査費用並びに株主総会・ 営業報告書の費用及びその他 の年度決算 によって生ず る費用、(4)租
税・ 公課、(5)と
くに発電所・ 交通企業の 場合の復帰積立金、(6)経
過年度 に対す る商品割引・ 割引、(7)賃
貸借設備 の原状 への復元義務並びに遅滞 した作業及び給付、(8)現
物給与及び類似 の反復的給付 の提供義務、(9)ウ
アラウプの追加承認 もしくはウアラウプ請求の現金支弁 に対 す る費用、(10)代
理商の補償請求権、(11)電
力供給事業の収益補助、(12)訴
訟 リスク、(13)特
許権及び商標権 の毀損、(14)保
証給付 リスクt(15)手形債務か らの請求、保証・ 保証給付契約・ 配当及び類似の保証・ 類似の リスクか らの債 務責任か ら生ず る請求、(16)鉱
山災害、(17)年
金引当金、(18)支
配契約・ 利益 供与契約 もしくは賃貸借契約 。その他の委託契約が存在 している場合の損失補 償 のために発生する畏れのある義務 に対す る引当金、(19)支
配契約 もしくは利 益供与契約 を締結する場合の外部株主 に対す る相応の補償支払義務、(20)支
配 契約が存 しない場合の従属会社の不利益 を補償す る義務、(21)不
確定 リスク及 び一般的 リスクに対す る引当金、(22)住
宅企業の場合の引当金の特性、(23)新
発電所 に とっての積立金請求 に対す る引当金。しか し、引当金概念の解釈 は多様であ り、ア ドラー等のほかにも多 くの主張 が散見 され る。いま、それ らの うち、実務家用 に解説 され る幾つかの著書 を例 示すれば次の通 りである。
エアハル ト (Erhart,Fritz)著 、『商法及び税法に基づ く引当金 と積立金の
A
BC』 (1977年
)3)
ツェーラー
(Zё ller,Artur)著
、『引当金及 び積立金の設定 の利益影響 の55の 可能性〜すべての引当金 と積立金の事典 を伴 う実践入門書〜』 (1979年)。
ミッテルバ ッハ (Mittelbach,Rolf)著、『税法 における引当金 と積立金のハ ン ドブック』 (1978年
)●
これ らの著書 は若干の論点で相違があるものの掲示 され る引当金項 目の領域 においてはほぼ一致 した内容 を有 している。 したがって、旧株式法下 に認 めら れ る、 もしくは旧株式法下で対象にされ る引当金の領域 は概ね、 これ らの著書
(292)″
法経研究
42巻
304号(1994年
)において網羅 されていると考 えられる。そ こで次 に、エアハル トの著書 に代表 させて、そこに掲示 された引当金項 目を列挙 してお こう,それ らは、旧株式法 下 において、いかに広範且つ多岐 にわたる引当金項 目が対象 として論 じられて いたのか を物語 っているといえよう。
(1)取
壊原価 Abbruchkosten,(2)解雇労働者の補償金 Abfindungen an aus‐scheidende Arbeitnehner(3超 過代金の返済 Abfmmg von Mehrer16sen
(4)廃
石物除去 Abraumbeseiti興,(5)決
算書原価 Abschlu3kosten,(6)前払Anzamen(7)原
子力危険 Atomrisiko,(8)清掃作業 Aufraumungsar‐beiten O)代理商 の補償支払 Ausgleichszahlungen an Handelsvertreter,
(10)鉱
山災 害 Bergschaden,(11)職業訓練 費 Bemfsausbildungskosten,(12)同
業主組合負担金 Berufsgenossenschaisbeitrage,(13)矯 正諾約 Be‐sserungsversprechen,(14)事 業所移転費用 Betriebsverlegungskosten,(15) 商 品 割 引 Boni,(16)保証 損 失 BLgschaisverlust,(17)為替 先 物 取 引
Devisente.1.lingeschafte,(18)未
決取 引か ら発生 す る恐 れのあ る損失 Dro¨hend Verluste aus schwebenden Geschaften,(19)荷贅彗 Emballagen,(20) 遠隔義務 Entfemmgsverpflichtung,(21)飛行機 オーバーホール Flugzeug‐
胡腱rh01mg,(22)鋳型費償却
Fo.11lkOSten‐
Amortisation,(23)研 究費Fors‐
chungskosten,(24)保証義務
Garantie¨
Verp■ichtungen,(25)株式会社の営 業報告書及 び株 主総 会 Geschaisbericht und Hauptversarnmlung von Aktiengesellschat,(26)会 社税 Gesellschaisteuer,(27)事業税 Gewerbes‐teuer,(28)企業利益参加 Gewimbeteilirgen,(29)主要義務債務
Hauptp‐
flichtverbindlichkeit,(30)復
元義務 Heimfanverp■ichtung,(31)未 実施の維 持 補 修 費 Instandhaltungaufwand,unterlassener,(32)記 念 日 贈 物 Jubilaunsgaben,(33)災害危険 Katastrophenwagnis,(34)法人税 Kёrper‐
schaftsteuer,(35)疾病 日 Krankheitstage,(36)信 用 コス ト Kreditkosten,
(37)原
動機付車両商の顧客サー ビス義務 Kundendienstverp■ ichtungen von Kraifahrzeughandlem,(38)解 雇 保 護 Kundivgsschutz,(39)店 舗 改 築 Laderlumbau,(40)燃料施設の場合 の収容 タンク予備 Lagerbehalter̲Ersatz bei Tankanlagen,(41)禾J用 許 諾 料 Lizenzgebttren,(42)賃金 及 び俸 給Lё
hne und Gehalter,(43)外部監査 に基づ く超過税 Mehrsteuern aufgrund von Au3enprufungen,(44)器官会社損失 Organschaftsverlust,(45)賃貸借"(291)
契約更新義務 Pachterneuerungsvё rpflichtungen,(46)特 許権毀損
Patent‐
verletzung,(47)年金 引 当 金 Pensionsruckstelungen,(48)手 数 料 義 務 Provisionsverpflichtungen,(49)訴 訟費用 PrOze3kosten,(50)割引サー ビス 券 Rabattmarken,(51)復帰義務 Rekultivie―
gs‐
Verpflichtungen,(52)損 害算定及び加工費用 SchadenemittlungsⅢ und‐bearbeitungskosten,(53)回 避困難 な科料 Schwerbehinderten‐Abgabe,(54)自 己保 険Selbstversiche‐
rung,(55)社会計画 Sozialplan,(56)租税条項 Steuerklausein,(57)繰延利 息 Stuckzinsen,(58)書籍及 び ンコー ド連合の場合 の忠実 な装慎及 びプ ンー ト
Treuebande und̲platten bei lBuch‐ und Schallplatterlringen, (59)』 K生
「 勤続者への特別賞与 Treuepramien,(60)売掛金 に対 す る売上税 Umsatz‐
steuer auf AuBenstande,(61)有害 アセチンン瓶 の廃棄
Unbrauchba.11la‐
chung schadhafter Acetylenflaschen,(62)公序良俗 に反す る義務 Unsittli‐
che Verp■ ichtungen,(63)他人 の土地 に存在する通路の維持費
Unterhalts‐
kosten fur auf fremden Boden befindliche Zugangsstra3e,(64)ウ アラウプ 請求 Urlaubsanspruch,(65)保険技術上 の積立金 Versichenmgstechnische Rucklagen,(66)割賦銀行 の場合の管理費 Verwaltungskosten bei Tё
ilzah‐
lungsbanken,(67)商 品の払い戻 し Warennckvergutungen,(68)手 形債務 Wechselobligo,(69)公告宣伝費 Werbe‐/Reklameaufwand,(70)工場復 旧
Werksemeuermg,(71)企 業 年 金 金 庫 年 及 び 年 金 扶 助 金 庫 へ の 割 当 額
Zuwendungen an betriebliche Pensions‐
und Unterstutzungskassen,(72)区 画耕作費用 Feldbestellungskosten(2)旧株式法下の ドイツ株式会社 の引当金会計実務の実態
それでは、上にみた多彩な引当金領域 に対 して ドイツの株式会社 はどの よう な実務 を展開 しているのだろうか。 クプシュが1975年に公刊 した著書『引当金 の貸借対照表計上 とその報告〜株式会社の貸借対照表政策 に関する実証研究の 結果め』は、1965年旧株式法下の ドイツ株式会社 における引当金会計実務の現状 をしるす数少 ないアンケー ト調査のひ とつ ということがで きる。以下、クプシュ の調査結果 をフォロー してみよう。なお、本調査の対象は銀行・ 保険業 。その 他の特殊業種 を除いた、最低3,000,000 DM以上 の資本金 を有す る1971年決算 日現在 における331社の ドイツ株式会社である。 さらにこの調査 を補足す るた め、1969年か ら1971年度の営業報告書 も参照 された とい うυ
(290)"
法経研究
42巻
304号(1994年
)まず、引当金の計上領域 に関 しては表1の結果が示 され る。回答会社の平均 引当金種類 は14.07である。回答数の うち もっ とも多いのが11から15の引当 金種類 を計上する会社であ り、 これに15から20の種類 の引当金 を計上す る会 社 を加 えるとは全体の75,3%にまで達 している。また、計上 され る引当金種類 の帯幅 は4から24に及んでお り、こうした引当金種類 の多岐性 について、クプ シュは、株式会社が貸借対照表政策上、諸々の観念 に従 っていることを示唆 し ているとい うP
表1 計上する引当金の種類
回答数
パ ーセ ン ト
引当金種類 5ま での会社 引当金種類6‑10の会社 引当金種類11‑15の会社 引当金種類16‑20の会社 引当金種類
20を
超過す る会社数
2 2 6
4.7%
13.8%
44.6%
30。
7%6.2%
100.0%
仕
│「斤 Kupsch,Peter;Bilanzierlmg einer Ruckstellungen und ihre Berichtersta‐
ttung,1975,S.44.
次 に、回答会社の計上する引当金種類 の具体的内容 をみてみよう(表
2)。
ク プシュの調査 によれば、回答会社のすべてが「年金引当金」 を自己の貸借対照 表 に計上 している。 クプシュは正規 の簿記の諸原則 を帰納論的に公式化することが一定の価値 を有す るとす るな らば、「年金引当金」を貸借対照表 に計上す る ことは会計実務上、一般的慣行 となっていることが示 されてお り、この結果 は、
1961年の連邦最高裁判所 の消極計上選択権 を是 とした判決 に対 して反論 で き るし、1965年株式法 における貸借対照表計上選択権の問題性 を再考すべ き反論 素材 とな りうるとしているP)
さらに、 このアンケー トは商事貸借対照表 における引当金 に関連 しているた め、その貸借対照表計上が税務上許容 されない引当金 も対象 となっている。 そ の結果 として、回答会社の92.3%(60社 )が税務上の容認が活発 に議論 されて
"(289)
表2 具体的引当金種類の頻度
引当金種類 回答数
パ ー セ ン ト
1
年金引当金2
租税引当金3
簿記決算費用に対する引当金4
特別賞与・ 記念 日援助 に対する引当金5
訴訟引当金6
労働者 に対する社会義務引当金7
未決取引か ら生ず る損失 に対す る引当金8
手形債務 に対する引当金9
営業報告書及び株主総会の費用 に対す る引当金10 将来 の経営監査 に基づ く税追加請求引当金
11 保証̀保証給付 に対す る引当金
12 未実施 の維持補修費引当金
13 貸倒引当金
14 サー ビス給付引当金 12 その他の引当金 16 役所付帯条件引当金
17 料金・ 会費・ 保険料 に対する引当金
18 外国債権 に対す る引当金
19 特許権毀損 に対す る引当金
20 代理商 の補償請求権 に対する引当金
21 商品割引・ 割引に対す る引当金
22 手数料・ 特別賞与・ その他の特典 に対す る引当金
23 不確定債務引当金(狭義)
24 補償損失引当金
25 復旧義務 に対す る引当金
26 許諾及び許可 に対する引当金
27 鉱山災害引当金
28 利子・ 相場の リスク、現金割引に対す る引当金
29 廃石物残留及び廃石物除法費 に対 す る引当金
30 自己保険引当金
5 3 0 3 7 7 3 2 9 9 5 5 4 4 2 5 1 9 8 7 7 7 7 4 2 1 1 9 8 7
100.0°/。
96.6%
92.3%
81.5%
72.3%
72.3%
66.2%
64.6%
60.0%
60.0%
53.8%
53.8°/。
52.3%
52.3%
49.2%
38.5%
32.3%
29.2%
27.7%
26.2%
26.2%
26.2%
26.2%
21.5%
18.5%
16.9%
16.9%
13.8°
/。12.3%
10.8%
出所 Kupsch,Peter;Bilanzierung einer]Ruckstenungen und ihre Berichtersta‐
ttung,a.a.0。 ,S.45。
(288)"
法経研究
42巻
304号(1994年
)いる「簿記決算書費用に対する引当金」を貸借対照表計上 しているという。同 じ│と は、税務上承認されていない「将来の経営監査に基づ く税追加請求引当 金」にも当てはまる。 この引当金については回答会社の60%(39社)が貸借対 照表に計上 している。他方、税法上 も商法上 もともに許容されない点について 基本的な一致をみている「 自己保険に対する引当金」を計上 している会社は7
社 (10.8%)も 存在 している。
なお、 ここで興味をひ くのが旧株式法上、計上の義務付けられている「不確 定債務に対する引当金」の相対的に少ない頻度である(17社、
26.2%)。
クプシュは、その理由として一般的に不確定債務 とみなされる会計上の負担の大部分が
「その他の引当金」に組み入れられているからだとみている。また、「その他の 引当金」の大きな数値 (32社、49.2%)は、 この項目以外に帰属させることの できない引当金根拠から設定される引当金がそこに含まれているからだとして いる:1)
ところで、このクプシュの調査では、実際の営業報告書において ドイツ株式 会社が どれほどの引当金の種類 と金額を計上 しているのかは、個別・ 詳細には 判明し得ない。それは旧株式法の表示に関する規定に関わっている。確かに旧 株式法は第 151条第1項の貸借対照表シェーマにおいて、消極側第四の項目と して引当金を「年金引当金」 と「その他の引当金」二つに区分表示すべきこと を規定するにすぎない。ただし、クプシュによると、旧株式法第 160条第2項 の「営業報告書の内容」の説明義務規定に基づけば、貸借対照表項目引当金に 対 しては、営業報告書の中に諸々の引当金種類 について特別の決算説明に関し てその重要な内容の一般的説明義務 を負 うことになるから、評価方法、その都 度の変化の比較可能な影響、評価方法の変更や償却方法の変更に伴 う相違額、
に関する報告を営業報告書に含めなければならない
V)と
いう。クプンュはこの点を回答会社65社の営業報告書を用いて分析 している。回答 会社の65社中64社が旧株式法第 151条第1項に基づき、引当金を「年金引当 金」と「その他の引当金」に区分表示するが、「その他の引当金」に属する項目 として引当金種類 を具体的に記載 しているのは僅かにすぎない
(表
3から1社 平均 して 3.64種類)。 表3が示すように、「その他の引当金」の内容説明 として 4種類以下の引当金を掲示する会社で約7割を占め、表 1の 多様な引当金計上 領域に関する結果(平
均引当金種類が14.07)と
比較 して、回答会社が自身の会 社の引当金内容の説明義務に対 していかに消極的かを示 している。さらに、個% (287)
その他の引当金の内容の叙述 回答数
パーセ ン ト
指摘な し 1種類 の弓 2種類 の弓 3種類の弓 4種類 の弓 5種類の弓 6種類 の弓 7種類 の弓 8種類 の弓 9種類 の弓
当金の指摘 当金の指摘 当金の指摘 当金の指摘 当金の指摘 当金の指摘 当金の指摘 当金の指摘 当金の指摘
3 7 9 11 18 6 5
31
24.6%
10.8%
13.8%
16.9%
27.7%
9.2%
7.7%
4.6%
1.6%
3.1%
表3 「その他の引当金」の際の引当金種類の頻度
Kupsch,Peter;Bilallzierung einer Ruckstellmgen und ihre Be五 chtersta‐
ttung,a.a.0。
,S.80. 1個別の引当金種類の金額上の重要性の指摘
出所 Kupsch,Peter;Bilalllziemng einir Ruckstellungen Ш d ihre Berichtersta‐
ttung,a.a.0.,S.81.
師 却
個別の引当金の金額上の重要性
に関する指摘 数
パーセン ト
指摘 な し
25 35,8°
/0 と くに重要 な引 当金種類 と、 と くに重要 な引当金種類 の大 きな変更 に関す る 指摘
29 44,6%
その他の引当金の中の複数引当金種類
の引当額に関する数量指摘 11 16,9%
計 65 100,0°
/。(286)95
法経研究
42巻
304号(1994年
)別の引当金の金額に関する記載状況をみても事態は同様である(表4参照)。 回 答会社のうち、「その他の引当金」に含 まれる引当金種類の金額上の重要性に関 して報告するのは僅かにすぎない
(16.9%)。
そこでは個別の引当金に重要な変 更がある場合、 もしくは金額的に重大な隔たりがある場合の一般的な指摘にと どまっているのである。か くして、クプシュは、以上の営業報告書の分析結果 に対 して、旧株式法の施行された直後の移行期に同様の実証研究を行なった ゼーマン (Seemam,H.‐J)の調査結果 (1968/69年の営業報告書を対象に分 析)を引き合いに出しながら、 ドイツ株式会社の引当金に関する開示状況の不 明瞭な事態は依然 としてさほど変わるものでないと指摘するのである♂)さて、以上のクプシュの実証研究の結果からは、 ドイッ株式会社における引 当金会計実務の実態は必ずしも判明 しえない。しかし、少なくも旧株式法下に おいて ドイツの株式会社の引当金会計実務は極めて多彩にわたってお り、営業 報告書における「その他の引当金」の具体的説明が不十分 とはいえ、株式会社 の計上する引当金領域の多様 さ・帯域の広さからみて、実務の上では引当金の 許容範囲あるいは引当金概念が拡大解釈 されていることは想像に難 くない。ま た、旧株式法のもとで税務上の許容が大きく議論の対象 とされていた「年度決 算書費用に対する引当金」等の計上が既に実務上、相当程度浸透 していた点、
「自己保険に対する引当金」のように株式法上 も税務上 も拒絶される引当金を 計上する会社が一定程度、存在することからすれば、引当金会計実務の法規定
を離れた一定の先行状態が存在 している点は注目されよう。
ところで上にみた、 ドイツ株式会社の引当金計上領域の多様化の傾向が、 ド イツ株式会社の引当金計上額の顕著な伸張状況 と利益縮小効果に端的に表れて いることにも留意 しなければならない。「 ドイツ企業の貸借対照表を一瞥する と、貸借対照表総額にしめる引当金の割合は70年代半ば以来、増加 している。
1974年 には11%をわずかに上回っていたものが、1988年 には既に21%弱にも 至っている
y)」
(ベットケBaetge,Jё rg)、
「年度決算書における引当金の重要さ は幾つかの統計資料から明確に証明されている。1975年 と1976年 における824
社の健全な工業株式会社の引当金は貸借対照表総額のほぼ20%に達 している。毎年の引当金繰入額及び取崩額の操作性はそれによって、表示利益 とその結果 たる配当と課税に多大の影響 を及ぼしているもり」(グルベル ト)。 こうした指摘 はその他、クプシュミのアィフラー
(Eifler, Gunster)ミ
ηナウマン (Naunlan,Klaus‐ Peter)1め等がひとしく行なうところである。ドイツ統計年鑑の「株式会社
%(285)
の貸借対照表」の数値 によれば、旧株式法施行後、新貸借対照表法成立 にいた る20年間 に ドイツ株式会社の引当金計上額 は約6.5倍、一社平均で約8倍に達 している。 これ と貸借対照表総額、年度利益の伸び率の3.6倍、2.5倍
(一
社平 均 は各、4.5倍と3.1倍)と比較 して も、旧株式法下の引当金実務の顕著 な拡大 傾向 とそれ による利益縮小効果 を容易 に察知 しうる (表5を参照)。表
5
ドイツ株式会社の引当金計上の動向師 翠盤腸毅巖:鵡事λmel場蹄靭蹴辞1躙舞籍
を四捨五入して算定した。
さらに、かか る ドイツにみ られ る引当金会計実務の許容性 は、それが税務判 決 とりわ け連邦財政裁判所判決 との連関のなかで進展 していることにも着 目す る必要があろう。連邦財政裁判所 は1965年の旧株式法の施行後、数々の引当金 に対 して判決を下 してきている。ブンナー/バライス
(Brё
mer,Herbert/Bar‐eis,Peter)編著の『商法及び税法による貸借対照表19』 最新版 (1991年)に基 づき税務上の引当金計上の可否 とその根拠 となる連邦財政裁判所判決を一覧す れば付表の通 りである。ブレナー等の編著は、一覧表にいて引当金を91項目列 挙 してお り、このうち税務上、計上の認められる項 目は約 50項 目である。旧株 式法施行以来、連邦財政裁判所が直接、その計上を認める項 目だけで も約 20項 (284) 97 株式会社全体 Mill.DM 株式会社1社平均 Mill.DM
引当金 年度利益 賃借対照表総額 引当金 年度利益 賃借対照表総額
1965
1970
1975
1980
1984
25,312 3,796 177,428
14.3% 2.1% 100%
35,103 5,712 257,259
13.6% 2.2% 100%
67,750 5,431 399,613
17.0% 1.4% 100%
112,477 7,844 543,890
20。
7% 1.6% 100%165,266 9,617 640,621
25。
8% 1.5% 100%1.65 2.05 95。 70
21.00 3.42 153.96 43.04 3.45 253.88 74.54 5.20 360.43 110.55 6.43 428.51
法経研究
42巻
304号(1994年
)目に及んでお り、 これ らの数字 は旧株式法下 において、引当金 に対す る課税 を め ぐる税務 当局 と企業 との間にいかに多 くの訴訟問題が生 じたていたのか、そ して また、連邦財政裁判所が先行す る引当金実務 に対 していかに現状肯定的な 判例 を提供 してきたかを如実 に示す もの といえよう。
か くして、以上の考察か ら旧株式法下では引当金会計実務の著 しい多様化・
拡大化傾向 とそれによる利益庄縮化が、課税問題 に波及 し、それ に対応 して連 邦財政裁判所の多 くの税務判決が下 されてきた ことが、少なか らず明 らかであ る。そして、 この税務判決支配の経緯のなかで旧株式法引当金規定の適用能力 に対する疑義 を生 じさせ、新貸借対照表法引当金法の改正へ と促 した とみるこ とが出来 よう。以下、 この点 について考察 してみたい。
1)Gnlbert,Thomas;Ruckstellungsbilanzie―
g in der Ertragsteuerbilarlz,Ein Beitrag zur Objektiviemng der Bilanziemng dem Grund nach,1978,S,1‑2.
2)Adler,Hans/Dttring,Walter/Schmaltz,K耐 ;Rechnungslerg und Prufung der Untemehmen,4.Aun.,Band。
1,1968,S.332‑336。
3)Erhalt,Fritz;A―
B― C der Ruckstenungen tmd Rtlcklagen nach Handels‐
undSteuerrecht,1977.
4)Zё
ller,Artur;55 Mё glichkeiten der Bildung von Rtlckstellungen und Rtlck‐
lagen zur Gewimbeeinflussung,Ein praktischer Leitfaden nlit einen Lexikon aner]Rucklagen und Ruckstellungen,1979.
5)Mittelbach,Rolf;Handbuch der Ruckstellungen und Rtlcklagen im Steuerre‐
cht,1978.
6)Erhalt,Fritz,ao a.0。 ,S.39‑173.
7)Kupsch,Peter;Bilarlzie― g von Rtlckstellungen und ihre Berichterstattung,
Ergebnisse einer empinschen Untersuchung uber die Bilarlzpolitik von Aktiengesellschaften,1975.
8)本
調査 に対 して積極 的 な回答 を得 た会社 は
65社(回 答 率
20.6%)であ る。 ネガ テ ィブな反応 をした会社が多 く、その うち、営業状態や内部事情 に簡単 に触れた ものが
22社、時間的制約 と人 的理 由 を挙 げた ものが
12社、それ以外 の
217社は その他 の理 由 を挙 げるか、 もし くは全 く回答 を寄せ なか った会社だ とい う。
9)Ebd.,S.43u.44.
"(283)
10)Ebd。
,S.45u.46.11)Ebd。 ,S.79.
12)Ebd。
,S.80u.81.13)Vgl.,Seemarln,H.― J。
,Bef01gttE des neuen Akitiengesellschaften und ihre
Aus宙rkung auf Verfahren der Ergebnisp」
ung,1970。14)Baetge,Jё rg(hrsg。 );Ruckstellungen in der Handels‐
und Steuerbilarlz,Vor‐trage und Diskussionen zuln neuem Recht,1991,S.i(VOrwOrt des Heraus‐
geber)。
15)Gnibert,Thomas;a.a.o。
,S.1.
16)Kupsch,Peter;Neuere Entwicklungen bei Bilanzie― g und Bewertung von
Ruckstellungen,in:DB,1989.
17)Eifler,Gunster;Gnmdsatze Ordnungslna3iger Bilanzienmg ftlr Ruckstelllm̲
gen,1976.
18)Naumam,Klaus‐
Peter;Diё Bewertung von Ruckstellmgen in der Einzel…
bilarlz nach Handels‐ und Ertragsteuerrecht,1989。
19)Bareis,Peter/Brё rmer,Herbert;Die Bilarlz nach Handels‐
Шld Steuerrecht,9.Aun.,1991.
Ⅲ.新貸借対 照表法 にお ける引 当金規定 の論理
(1)経済的観察法
(Wirtschaftliche Betrachtungsweise)と
債務性要件の拡大 新貸借 対 照表法 にお け る引 当金計上規 定 をフェーダーマ ン(Fedellllam,
Rudolf)に従い示せ ば図2のようである。 この場合、引当金 は債務性引当金 と 費用性引当金 との二つに大別 され るが、債務性引当金 には消極計上義務が費用 性引当金 には原則 として1)消
極計上選択権が付与 され る。 これは立法者が財政 裁判所判決 をつ よ く意識 したためだ という。ドイツ会計制度の特徴 は、所得税法第5条第1項に基づ き商事貸借対照表の 税務貸借対照表 に対す る基準性原則原則が存在す ることにある。 この基準性原 則 によって、引当金 に対する正規の簿記の諸原則 は税務上の引当金概念 に対 し て事前決定 としての意味 を有 している。 この ことは、引当金に対する商法上の 正規の簿記の諸原則が税法 に対 して基準性原則 を媒介 にどの程度適用 され うる かに関わっている。
(282)"
法経研究42巻
3・ 4号(1994年
)図2 新貸借対照表法における引当金計上規定
出所 Fedёmam,Rudolf;Bllarlzie―g nach Handelsrecht unt Steuerrecht,
8.Au■
.,1990,S.246.ヱω
(281)その意味では旧株式法引当金規定 は法的不安定状況 を呈 していた。連邦財政 裁判所判決 は1960年中庸 か らいわゆる経済的観察法 に依拠 して、債務性引当金 の計上要件の拡大 を認 めるい くつかの法判決 を下 して きているが、 これ らは旧 株式法引当金規定 に対 する法解釈 に対す る支配的見解 に配館 をしめし、規定の 法解釈 に対す る法的不安定状況 を招来せ しめた。新貸借対照表法 はかか る連邦 財政裁判所の法判決への歩寄 によって、引当金概念の実質的内容の拡大 を果た したのである。すなわち、当初、税法 における引当金 は、 ライヒ財政裁判所の 判決 に基づ き、それが貸借対照表 日に法的義務が存 している場合 にのみ計上す ることが出来 るとの見解 を示 していた。 その後、連邦財政裁判所 は保証給付引 当金 に対す る1962年11月 20日付の判決 において、経済的及 び道義的理 由か ら 商人が将来の給付 を回避 しえない場合、引当金の計上 を許容 した。 この判決 に よって、不確定債務引当金 を根拠づける義務 の領域 は事実上の義務
(faktische
Verpflichtungen)が 追加 された。 さらに、連邦財政裁判所 は引当金 を根拠付 ける義務 の領域 を拡張 し、1980年3月 20日 付の年度決算書費用 に対す る引当金 の判決 において公法上の義務 (ё
ffentlich‐ rechtliche Verpflichtungen)を
債務 性引当金計上の根拠 として認 めるに至 っているPところで、 こうした連邦財政裁判所の判決 は、 とくに公法上の義務の債務性 を認 めた1980年3月 20日付の判決 によって、商法 (旧株式法)上は費用性引 当金 として性格づけられ、消極計上不能 な引当金 に債務性 を認める引当金の計 上要件の拡張 を示す ものであった。 それ は、税務貸借対照表 における貸借対照 表表示が商事貸借対照表 に遡及す るとい う、商事貸借対照表の税務貸借対照表 に対す る基準性原則の逆転 を示す ものであったのであるP
こうした事態に対 して、新貸借対照表法引当金規定 は新たな論理内容 をもっ て「逆基準性 (Umgekehrte Ma3geblichkeit)」 の合理付 けを図った。それは、
税法上の観察方法 とされ る「経済的観察法」 を商法へ も取 り入れ、税法論理 を 商法へ移転せ しめるとい う対応であった。経営経済学の観点か らはなれて純粋 に法学的観点 に立脚 した もの ととらえられていた経済的観察法 を、それが税法 上採用 され る特別の方法ではな くして、経営経済学 において も貸借対照表法の 解釈 と経営経済学がその発展 に対 して不断に経験科学た りうる事実関係 の判断 のための経済的基準 とす るという経済的実質観 にたつ論理の転換であった。 こ の経済的実質の観点 に立脚 して新商法典 は引当金の債務性要件 に対 して税法 と の近似化 を図 り、法的安定性への立法上の解決 をみた とされ るのである。