両大戦間期における対外債務不履行の
経験と国際金融危機
田口信夫
両大戦間期における対外債務不履行の経験と国際金融危機 1 1 1
は じ め に
周知のように, 1 9 8 2 年 8 月のメキシコの対外債務支払危機を契機として,
発展途上国および、東欧諸国の対外債務累積問題が今や世界経済における最大 の懸案課題の 1 つとして急速な関心を集めるにいたっている。その主たる理 由は対外債務不履行が金融恐慌をひきおこしはしないかということであるが,
それはともかくとして歴史的にみれば,一国が外国から資金を借入れ,その 支払いが困難になったという経験は何もことさら新しいものではない。たと えば,今日の一大債務地域を形成しているラテン・アメリカ諸国についてい えば,これら諸国は「前世紀(1 9 世紀)を通じて信頼につぐ幻滅の,借入周 期につぐ広範囲な債務不履行の,そして対外債務の支払拒絶と承認との交代 の歴史て、あった;)といわれていたし,さらにいえば,今日世界最強の資本主 義国であるアメリカでさえも,かの1 9 世紀においては資本の一大借入国であり,
テーフォルトの経験はかなりあった 2 ) たとえば,日3 0 年代にアメリカの諸州 が運河や鉄道の建設のために借入れた巨額の資金は 1 8 4 1 年と 1 8 4 2 年にデフォ ルトにおちいっている。その原因は,綿花の価格が暴落し,債務返済をおこ なうための外国為替が入手できないことによるものであった。全部で 9 つの 州がデフォルトにおちいったが, 1 8 4 5 年には綿花価格の回復にともなって,
2 つの州を除く全部の州が返済を開始している。さらに, 1 8 7 0 年代と 9 0 年代 においては,鉄道会社と自治体が起債した外債にいくつかのデフォルトが生 じ , 1 9 1 5 年にはフランスの対 New Haven R a i l r o a d に 対 す る 貸 付 が デ フ ォルトにおちいっている。
このように,対外債務不履行の歴史をひもとくと,その枚挙にいとまがな いが, しかし今日との比較でもっとも興味深い経験を提供してくれるのは,
両大戦間期(それもとくに 1 9 3 0 年代)における対外債務不履行と国際金融危
機の経験だろう。というのは,この期は空前の世界的不況の存在,失業の増
加,保護主義の高まり,一次産品価格の低下,世界貿易の停滞という点で今
日の経済情勢ときわめて類似しており, しかも賠償や戦債の支払いという不
安定要因をかかえたなかで多くの一次産品国やヨーロッパの諸国が対外債務
の不履行と国際金融危機を経験したからである。
本稿の目的はこのような両大戦間期における対外債務不履行の経験と国際 金融危機の実態を把握し,そこから今日の対外債務問題に対しての教訓を引 き出すことにあるが,ただ第 2 次大戦前と大戦後の対外債務問題の相違点と して,戦前の対外債務が,大部分,起債にもとづいていたのに対し,戦後の 場合は政府や国際金融機関および民間銀行等からの直接借款にもとづいてい
るということに留意しておく必要がある。
I 一次産品国の対外債務不履行
先にも述べたように, 1930 年代は空前の世界的不況,世界貿易の縮小,一 次産品価格の下落といった国際経済環境の悪化によって特徴づけられるが,
これらの事態は当時の一次産品国,とりわけラテン・アメリカ諸国の輸出貿 易に大打撃を与え,彼らの対外債務返済能力に重大な支障を生ぜしめた。第 1 表は一国の債務返済負担度(外貨での返済負担度)を示す指標として,一 国の輸出収入に占める債務返済コストの割合(デット・サービス・レーショ,
以下 D S Rと略す)を示したものであるが,ラテン・アメリカ諸国が当時直 面した困難の大きさを示している。同表をみると, D S R は 1931 年から急激 に増加しているが,これは主要には,過剰生産恐慌を反映して,これら諸国
第 l 表
1 9 3 0 年代におけるラテン・アメリカ諸国のデッ卜・サービス・レーショ 1 9 3 0 1 9 3 1 1 9 3 2 1 9 3 3 アルゼンチン 1 8 . 2 2 2 . 5 2 7 . 6 3 0 . 2 交 ボ リ ビ ア 1 3 . 5
24.5~た5 0 . 0 交 3 8 . 5 カ フ、、ラジ/レ 2 3 . 5 2 8 . 4 {J 4 1 . 0 女
45.1~たチ 1 8 . 0 3 2 . 9 交 1 0 2 . 6 大 8 1 . 9 交 コ ロ ン ビ ア 1 4 . 0 1 5 . 6 2 1 . 8 交 2 9 . 6 会 キ ュ ー ノ 〈 6 . 1 1 3 . 4 1 8 . 1 2 2 . 4 カ
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