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Academic year: 2021

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(1)

コーチングの技法としての一言アドバイスについて

阿 部 征 次

1.

はじめに

スポーツ指導には技術や体力のトレーニング指導 ばかりでなく、栄蓑や生活の指導など多くの面があ る。多くのスポーツ指導の面のなかで、選手と直接 接して指導する場面で用いられる各種の方法をコー チングの技法と位置づけ、どのように用いられてい るかについて調査してきた。コーチングの技法のう ち、コーチが選手に技術情報や自己の考えを伝える 能力を表現力として、これまでミーティングのもち 方や話し方、そして技術や身体の動きの表現のし方 について調査し報告してきた。

ミーティングや動きの表現の他に、コーチが意志 を表現して選手に伝える場面としては、試合の際に 力を発揮させることをねらいとして、試合直前や試 合中の選手にかける短い言葉があげられる。これは、

試合に臨んであるいは試合中に、日頃練習した力を 最大限発揮させる、あるいは発揮できないと思われ る状態にある選手に力を発揮させるために、コーチ ができる最後のアドバイスとも言える。短いアドバ ィスで選手やチームが変化し、戦況が好転すること があるとすれば、短い言葉をどう表現するかは、重 要なコーチングの技法と位置づけられよう。

今回はコーチが試合時に選手に与える短いアドバ イスを「一言アドバイス」と名付け、コーチがどの ような内容のアドバイスを与え、その効果をどのよ うにとらえているかを調査し、コーチングの技法と しての「一言アドバイス」についての基礎資料を得 ることを目的に調査したので報告する。

2.

研究方法

対象は前回までと同じ、 1990年 度 お よび1991年度 の高校全国大会出場校の監督として登録されている 310名である。回収数は195で回収率62.9%であった。

種目別の回収数はラグビー26、サッカー19、バスケ ットボール40、バレーボール42、野球24、陸上競技 43、 無 回 答1で あ る 。 対 象 者 の 平 均 年 齢 は46.3 (S.D=8.16)、指導経験年数は平均22.6 (S.D=8.19) 現チームの指導年数は15.1 (S.D=9.14)であった。

勤 務 先 は 指 導 チ ー ム の 高 校 教 員 が94.4%、 職 員 が 1.5%であった。

調査期間は1997年220日〜35日で、質問紙を 郵送により配布し回収した。

質問は一言アドバイスの頼度や準備、一言アドバ イスの内容と効果、一言アドバイスの表現のし方、

ア ド バ イ ス と 個 人 の 特 性 な ど27の 質 問 項 目 を 作 成 5段階の選択肢を設けて回答を得た。

その他に一言アドバイスについて、最も印象に残 っている経験を記述する項目を設け、その回答を資 料とした。

3.結果と考察

前述の方法で回収した回答を集計し、次のような 結果が得られた。整数は回答者数を、少数一位の数 は割合を示している。

1)一言アドバイスの頻度や準備 (1)一言アドバイスをしますか

することが多い することがある

135  39 

69.2  20.0 

(2)

どちらとも言えない 3.6  「非常に効果がある」と「効果がある」を合わせ あまりない 1.5  89.2%が効果を認めている。一方で一言アドバイス 全くない

0.0  がマイナスになった経験を持つ者も48.2%あった。

無回答 11  5.6  ア ド バ イ ス の 内 容 を 日 頃 か ら 考 え て い る こ と が 合 計 195  100.0  「多い」「ある」は合わせて61.6%であった。その場 (2)一言アドバイスの効果は で思いつくことがあるいう答えも、 67.2%あり、ア 非常に効果がある 85  43.6  ドバイスの内容を事前に準備するかどうかは、ケー 時々効果がある 89  45.6  スバイケースに行われているものと思われる。

どちらとも言えない IO  5.1  ほとんど効果はない

0.0  2)一言アドバイスの内容

まった<効果はない

0.0  (1)一言アドバイスとして技術的なことは

無回答 11  5.6  非常に多い 10  5.1  合 計 195  100.0  多い 61  31.3  (3)一言がマイナスになった経験は どちらとも言えない 58  29.7  何度もある 11  5.6  あまりない 61  31.3  ある 83  42.6  まったくない 2.6  どちらとも言えない 31  15.9  合 計 195  100.0  あまりない 48  24.6  (2)技術的なアドバイスの効果は

まったくない 11  5.6  非常に効果がある 11  5.6  無回答 11  5.6  効果がある 92  47.2  合 計 195  100.0  どちらとも言えない 56  28.7  (4)一言は日頃から考えているか あまり効果はない 31  15.9  考えていることが多い 44  22.6  ほとんど効果はない 2.6  考えていることがある 76  39.0  合 計 195  100.0 

どちらとも言えない 28  14.4  (3)精神的なアドバイスは

日頃はほとんど考えない 30  15.4  非常に多い 38  19.5  日頃はまったく考えない 3.1  多い 108  55.4  無回答 11  5.6  どちらとも言えない 35  17.9  合 計 195  100.0  あまりない 12  6.2  (5)一言をその場で思いつくことが多いか 全くない

0.0 

その場でが多い 46  23.6  無回答 1.0  その場でがある 85  43.6  合 計 195  100.0  どちらとも言えない 30  15.4  (4)精神的なアドバイスの効果は

その場で思いつくことはない 18 9.2  非常にある 38  19.5  まったくない 2.1  効果がある 129  66.2  無回答 12  6.2  どちらとも言えない 22  11.3  合 計 195  100.0  あまり効果はない 2.1  一言アドバイスをするかどうかについては、「す ほとんど効果はない 0.5  ることが多い」 Iすることがある」を合わせると、 無回答 0.5  89.2%がすると答えている。その効果については 合 計 195  100.0 

(3)

(5)チームワークについてのアドバイスは 合 計 195  100.0  非常に多い 10  5.1  (1 o)心理的なアドバイスの効果は

多い 44  22.6  非常に効果がある 31  15.9  どちらとも言えない 67  34.4  効果がある 105  53.8  あまりない 62  31.8  どちらとも言えない 50  25.6  ほとんどない

, 

4.6  あまり効果がない 1.0  無回答 1.5  ほとんど効果がない

0.0 

合 計 195  100.0  無回答 3.6  (6)チームワークのアドバイスの効果 合 計 195  100.0  非常に効果がある 17  8.7  一言アドバイスの内容についてそれぞれの「多い」

効果がある 74  37.9  と「ある」をあわせた割合を高い順に並べ、それぞ どちらとも言えない 79  40.5  れの効果についての回答の「非常にある」と「ある」

あまり効果がない 19  9.7  をあわせた割合の順位を〇数字で示すと、次のよう ほとんど効果がない 1.0  になる。

無回答 2.1  内容 効果

合 計 195  100.0  精神的なこと 74.9  85.7  (7)作戦や戦術のアドバイスは 心理的なこと 64.6 9.7 非常に多い 30  15.4  作戦戦術 59.0  74.9  多い 85  43.6  技術的なこと 57.8  52.8  どちらとも言えない 47  24.1  チームワーク 27.7  46.6 

あまりない 22  11.3  よくいわれるように、試合時には気カ・頑張りな ほとんどない 2.1  ど精神的・心理的なことが大きく影響し、また作戦 無回答 3.6  や戦術が勝敗を左右するという状況が表れていると 合 計 195  100.0  思われる。

(8)作戦や戦術のアドバイスの効果は

非常に効果がある 31  15.9  3) アドバイスの表現の仕方

効果がある 15  59.0  (I)アドバイスに身ぶりを加えることは

どちらとも言えない 33  16.9  非常に多い 25  12.8  あまり効果がない 3.6  多い 81  41.5  ほとんど効果がない .5  どちらとも言えない 48  24.6  無回答 4.1  あまりない 34  17.4  合 計 195  100.0  全くない

0.0 

(9)心理的なアドバイスは 無回答 3.6 

非常に多い 34  17.4  合 計 195  100.0  多い 92  47.2  (2)身ぶりを加えることの効果は

どちらとも言えない 45  23.1  非常に効果がある 17  8.7  あまりない 15  7.7  効果がある 89  45.6  まったくない

0.0  どちらとも言えない 74  37.9 

無回答

, 

4.6  あまりない 3.6 

(4)

全くない

0.0  どちらとも言えない 29  14.9 

無回答 4.1  あまりない 3.6  合 計 195  100.0  全くない

0.0 

(3)論理的なアドバイスは 無回答 0.5 

非常に多い

, 

4.6  合 計 195  l()() 多い 60  30.8  (8)奮い立たせる言葉の効果は

どちらとも言えない 66  33.8  非常に効果がある 39  20.0  あまりない 50  25.6  効果がある 119  61.0  ほとんどない

, 

4.6  どちらとも言えない 33  16.9 

無回答 0.5  あまりない 0.5 

合 計 195  100.0  全くない

0.0 

(4)論理的なアドバイスの効果は 無回答 1.5  非常に効果がある 3.6  合 計 195  100.0  効果がある 60  30.8  表現のしかたの「非常に多い」と「多い」をあわ

どちらとも言えない 97  49.7  せ、それぞれの効果について「非常にある」と「あ あまりない 16  8.2  る」を合わせた割合を高い順に示すと次のようにな ほとんどない 10  5.1 

無回答 2.6  表現 効果

合 計 195  100.0  励まし奮い立たせる言葉 81.1  ①81.0  (5)擬音語や擬態語を使うことは 言葉と身振り 54.3  ②54.3  非常に多い 18  9.2  擬音語や擬態語 47.7  ③48.4  多い 75  38.5  論理的に話す 35.4  ④35.4 

どちらとも言えない 53  27.2  表現の仕方と効果について、ほとんど同じ回答で あまりない 43  22.1  あった。効果があるから使っているということを示 ほとんどない 2.6  しているのだろうか。励まし奮い立たせる言葉が、

無回答 0.5  他の内容と比較して非常に多くなっており、典奮状 合 計 195  100.0  態にある試合時には、特定の選手やチームにある種 (6)擬音語や擬態語のアドバイスの効果は の言葉が非常に効果的であることを、コーチたちは 非常に効果がある

, 

4.6  経験的に知っていることがうかがえる。またそのよ 効果がある 66  33.8  うな状態の試合時には、論理的な話し方は不向きで

どちらとも言えない 92  47.2  あるとも捉えられている。

あまりない 23  11.8 

ほとんどない 1.0  4)アドバイスと個人の特性

無回答 1.5  (1)アドバイスは選手によって違うか

合 計 195  100.0  非常に違う 98  50.3  (7)奮い立たせる言葉を使うことは 違うことがある 91  46.7  非常に多い 44  22.6  どちらとも言えない 0.5  多い 114  58.5  ほとんど違わない

0.0 

(5)

全く違わない 無回答

0 5  

0.0  2.6  合 計 195  100.0  (2)アドバイスのうまさはコーチによって違うか

非常にうまい下手がある 104  53.3  うまい下手がある 79  40.5  どちらとも言えない 4.1  あまり違わない 0.5  全く違わない

0.0 

無回答 1.5  合 計 195  100.0  (3) 自分のアドバイスのうまさについては

非常に満足している 3.6  満足している 49  25.1  どちらとも言えない 98  50.3  やや不満足である 25  12.8  不満足である 13  6.7  無回答 1.5  合 計 195  100.0  アドバイスの与え方は選手の性格や特性によって 違うと97.0%が答えていることから、コーチは日頃 から選手を観察し選手によってアドバイスを変えて いることがうかがわれる。

アドバイスのうまさはコーチによって違いがある 93.8%が認め、自分のアドバイスの仕方に満足し ているのは28.7%で、約半数はどちらとも言えない と答えている。コーチを対象としたこのような調査 では、自己評価は常に低く表れる傾向がある。向上 心の現れか、または自チームや選手について「調子 はどうか」と聞かれたとき、絶好調でも「まあまあ です」と答えるコーチがほとんであるが、あの習癖 が表れた結果なのだろうか。

4.記述内容について

最も印象に残っている一言アドバイスについて、

状況や内容そしてそのアドバイスの結果どのような 変化が起こったかを記述したのは、回収数195中141 (72.3%) で あ っ た 。 記 述 さ れ た ア ド バ イ ス は 当 然 のことながら成功例に関してが多く、失敗を記述し

たのは1例であった。おおむね一言アドバイスの効 果を認めているが、効果を認めながら、一言で選手 を左右するようなことは、本来あってはいけないと いう反省も1名に見られた。

記述された具体例は、数的な処理を行うような性 質のものではないが、コーチングの技法として、コ ーチングの実際に役立てるには、これらを基礎にし て個々のケースの詳細を収集する必要があると思わ れる。

5.

まとめ

全国高校大会に出場したチームのコーチの約90%

は、試合時に選手に「一言アドバイス」をかけてい る。その内容は「精神的なこと」「心理的なこと」

が多く、その効果はこの二点に「作戦や戦術につい て」が認められている。

表現の仕方としては、論理的な表現や擬音語・擬 態語より、選手を励まし奮い立たせるような言葉が 多く使われている。また、アドバイスは選手の性格 や特性によって変えており、選手をよく知る努力と アドバイスの内容の工夫が感じられた。

試合時の一言アドバイスは、選手やチームを奮い 立たせ、戦況を変える可能性を持つことが示唆され、

コーチングの技法として究明されるべき課題である と思われる。

参考文献

l)阿部征次 (1994)「コーチングあらかると」ベー スボールマガジン社

2)ジョン・ホイットモア、呉下圭訳 (1995)「コー チングの技術」日本能率マネジメントセンター 3)  L.レゲット、綿井永寿監訳 (1994)「コーチの心

得」不昧堂出版

4)永嶋正俊編 (1994)「コーチ学入門」日本スポー ツ方法学会コーチ学研究会

5)武田建 (1985)「コーチング」誠倍書房

6)武田建 (1997)「コーチング読本」ベースボール マガジン社

参照

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