2008年−2009年
「グローバル化と平和」プロジェクト報告
平和と食料を切り離すことはできません。ま ず、安全で誇りを持って口にできる食料を生産し て食べることは、人間が持つ基本的尊厳であり、
万人への実現は平和の原点です。平和と言う字 は、平等に(=平)、イネ科の米(=禾)を口に する(=口)と分解でき、「すべての人々が食料 を得られる」を意味すると考えられます。また、
第一次世界大戦後の食料不足に取り組むために設 立された国連食糧農業機構(FAO)が、麦の穂の 下に「FIAT, PANIS」(ラテン語で「万人にパン を」)と書かれたロゴを使用していることからも、
両者の関係の深さが見てとれます。
戦争や貧困、食料問題のような、人間の尊厳を 奪う現象がもっとも露骨に現れている地域の1つ はアフリカです。もちろん、全てのアフリカの 国々が深刻な問題を抱えているわけではありませ ん。紛争、干ばつ、国際市場における価格乱高下 などの影響は地域が限定されるため、「アフリカ=
飢えの大陸」という安易な一般化は避けるべきで す。しかし、2008年に起きた食料価格高騰がアフ リカに与えた影響は非常に大きく、国内的・国際 的な背景を丁寧に分析することが求められていま した。
そこで、(特活)アフリカ日本協議会(AJF)、
(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)、
(特活)ハンガー・フリー・ワールド(HFW)、
明治学院大学国際平和研究所(PRIME)では、市 民のもっと知りたいというニーズに応えるべく、
連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリカ諸国 に及ぼす影響」を開催しました。この年度から始 まったこの研究会の試みは多くの参加者が、アフ リカ地域が抱える諸問題や食料問題などを市民と ともに考える機会としてを継続を望みました。
2009年−2010年
「グローバル化と平和」プロジェクト報告
「北」の富裕国では、農業は常に過剰生産に悩 まされ、米国のような農業大国での経済学の入門 教科書はしばしばこの過剰生産をどう市場によっ て調整するかをバターや穀物事例で扱ってきまし た。これに対して、アフリカやアジアのような貧 困国が集中する「南」では、農業問題とは何より も増産の問題で、人々の食料低消費をどう解消す るかに力が注がれてきました。そして農産物貿易 に関しては、「北」は生産者に補助金を出すこと によって支援し、「南」は輸出税を課し、生産者
(農民)の取り分をしばしば減らしてきました。
この南北間の過多と過少、そして生産者に対す る支援と無支援問題は、今日、中国、インド、ブ ラジルなどの新興国のグローバル経済への参入に 2010年度プロジェクト報告(終了報告)
食への権利
─安全・安心で美味しく食べられる世界を目指して─
勝 俣 誠
(PRIME所員)
よって、新たな局面を迎えています。ますます増 大する自国民の食やエネルギーのニーズを、比較 的進んだ技術とノウハウで、これらの新興国がア フリカの土地を利用して充たそうとする動きで す。
この背後には、グローバル化によって急激に膨 張した世界の人々のニーズが、食料、エネルギー という自然の生む富の希少化を生み、資金や技術 や交渉力を持つ「北」やそれに無限に追い上げて いく新興国が、資金、技術、交渉力を持たないア フリカのような地域を舞台にしのぎ合う構図がう かがえます。
自国の食料は、自国の生産力で賄うべきという アフリカの国々の独立以来の自立目標はどこに行 くのか、大規模開発による環境への影響をどう評 価するのか、そして何よりもアフリカの食料生産 を支える圧倒的多数の家族農業はどんな運命をた どるのか。こういった基本的問いが、この新たな 動きに対して検証されなければならない時代に 入ったと思われます。「農地争奪において日本も 遅れをとってはならない」という声も出る中、私 たち自身の問いとして、食料安全保障に関わる新 しい行動のアジェンダを研究会の討論を通じて見 つけていくことを考えた一年でした。また、食料 を含めた資源の取得を国際平和の観点から再考す る一年でもありました。
2010年−2011年
「グローバル化と平和」プロジェクト報告
この年度は世界の食料問題をグローバル化の文 脈の中で人々の食への権利(human right to food)
を考察に焦点を合わせた研究会の一年でした。そ こでは討論は以下の問いと分析を中心に展開しま した。
■ 食料への権利とは何でしょうか。
人はただ生まれるのではなく、人権を身にま とって生まれてきます。人権には、知る権利、教 育を受ける権利などいろいろあります。そのなか で、健康に生きるために十分な食料をいつでも生 産し、購入し、手に入れることなどを保証する
「食料への権利(right to food)」も、生まれた瞬間 に誰もがもっているものです。
しかし、今の世界では全ての人に食料への権利 が保証されてはいなく、食料を「買える」人は「食 べられる」という状況にあります。本来、食べら れるかどうかは、お金の問題ではありません。所 得と切り離したところに、食料への権利があるは ずですので、私たちが日頃食べている物は「権利」
の対象であり、単なる「購買」の対象ではないこ とを確認する必要があるのではないでしょうか。
日本でいえば米、東アフリカではトウモロコシな どの「基本食料」は、本当であれば「人権財」な いし「生命財」として平等に提供されるべきだと 私は考えています。
全ての人の食料への権利が侵害されないように は、食料をたくさん作ればいいのでしょうか。私 は食料を量の問題だけで考えることに、危うさを 感じています。インドのある州では、緑の革命に よってコメの生産量を増やしたことで、飢餓人口 が減ったという例があります。しかし、これから は質の問題も考えるべきです。質とは食料の安 全・安心性と「おいしさ」です。アフリカで食べ られている主食だけを見ても、イモ、小麦、トウ モロコシ、雑穀、米、と多様なように、また、日 本でも住むところが違えばみそ汁に入れる味噌の 味が違うように、「おいしさ」は国や地域によっ て違います。おいしく食べることは人間の尊厳に 関わることです。私たちは安全で「おいしい」食 料を地域で確保するにはどうしたら良いかを、
もっと考えるべきではないでしょうか。国連労働 機関(ILO)はすでに「ディーセント・ワーク
働きがいのある人間らしい仕事」というキャン ペーンを打ち出していますが、いまや「ディーセ ント・フード 安全・安心でおいしい食」という 国際キャンペーンをしてもいいのではないかと思 われます。
■ 日本に住む私たちは、どのような視点からこ の問題を考えればいいでしょうか。
「アフリカの食料問題をどうにかしないと」と、
よく他人事のように言われますが、例えアフリカ などの日本から遠い国々で起こっている問題で も、日本とつなげて考えていくべきです。なぜな ら、アフリカの多くの国々も日本と同じように、
海外から食料を輸入しています。世界的に食料が 不足するような場合には、お金で買うことができ る日本が彼らの買うはずの食料を奪ってしまうか もしれないのです。また、世界中で生産された穀 物が、食肉用の牛や豚などのエサとして大量に消 費されているように、私たち先進国や新興国に住 む人々の食べ方も考えていかなければ、食料問題 は解決できません。
日本が食料をたくさん輸入しているアメリカな どでは、大企業による大規模経営で食料を生産し ています。そのような企業などによって、食料を 生産するための農地争奪戦がアフリカを舞台に起 こっています。外国からの農地取得ラッシュで自 国民に相談なく国土を差し出すアフリカ政府も出 てきています。私たちの輸入依存の食べ方によっ ては、個人の農地が奪われ、小規模経営で行われ ているアフリカの食料生産が成り立たなくなって しまうかもしれません。そもそも、食べ物が地球 の裏側にまで運ばれ、買われて行ってしまうこと には違和感があります。他人の農地を奪ってでも 食料を生産するような状況は、尚更おかしいので はないのでしょうか。
■ 提言
本来であれば食料は、その土壌や気候に合った ものが生産されてきたはずです。自給自足してい た昔の暮らしに戻せとは言いませんが、その土地 に合った方法で食料を生産するなど、かつて地域 がもっていた合理性をもう一回考え直すべきで す。人類が生き残るために目指すものとは、地域 での食料の自給でしかないと思います。
最後に研究会の付属資料として研究会の参加者 である渡辺直子さん(日本国際ボランティアセン ター(JVC)南アフリカ事業現地代表兼東京事業 担当)の現地での声と感想を添えておきます。
南アフリカの農村で有機農業の研修を実施して いた際、ンディビさんという男性がこんなことを 言っていました。
「かつて金鉱山に出稼ぎしていたときのほうが お金はあった。でも年に一度しか家に帰れず、常 に危険と隣り合わせの生活でストレスが耐えな かった。有機農業を始めた今はお金はないけど自 分で安全な食べ物をつくって家族を食べさせるこ とができる。自分に誇りが持てるようになった し、家族と安心して一緒に暮らせる今のほうが幸 せだ」。
お金がなくても今のほうが幸せなんだというン ディビさんの発言は、私には「こんな生き方もあ るんだ」というメッセージにも聞こえました。
でも実際の暮らしを見てみると、病院や学校に 行くのにはお金がかかるし、生活が苦しいことに は変わりがありません。どうしたらいいのだろう か、私たち
NGO
スタッフは悩みます。やはり現 金収入向上を目指したほうがいいのだろうか。あ るいは「お金がなくても前より幸せ」と言うン ディビさんのような人たちが安心して暮らせるよ うに、世の中の仕組みのほうを変えていったらい いのだろうか。「収入」や「生産量」といったデー タでは測れない「安心」や「誇り」がもたらす現 地の人たちの喜びや幸せを意味のあるものとして支えていけるような社会はどうしたら可能になる のだろうか。
グローバル化と平和研究会の「飢餓を考えるヒ ント」のセミナーでは、現場で直面するこうした 課題についてアフリカから遠く離れた日本で考え る場です。セミナーでは、海外で起きている問題 についてそれがどのように私たちの暮らしと関係 あるのかという視点を大事にしています。グロー バル化された社会構造のなかで同時代に生きる者 として、日本人である私たちがその加害者あるい
は同様の被害を受けているかもしれない「当事 者」だと考えているからです。セミナーの議論か ら得たヒントは私たち
NGO
の活動を通じて現場 へとつながっていきますし、日本でともに学び、考える仲間が増えることで、世の中を変えていく ことにつながっていく可能性があると信じていま す。平和研究の使命とは
NGO
の運動と私たち平 和学研究者の研究の間に知的実践的橋をかけるこ とでもあるでしょう。2008年度の研究会
AJF・HFW・JVC・明治学院大学国際平和研究 所共催
連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリカ諸国 に及ぼす影響」第1回
─なぜ高騰する食料価格:食料価格はどうやっ て決まるのか?
世界的な食料価格の高騰により、各地で食料を 求める行動が広がる、教育費・保健医療費が食費 にあてられたために子どもたちが学校へ行けなく なる、乳幼児死亡率が高まるなど、さまざまな問 題が起きています。先月末、横浜で開かれた第4 回アフリカ開発会議(TICAD Ⅳ)でも、アフリ カ諸国の首脳から、食料危機によって社会不安が 高まっている状況で経済成長は望めない、MDGs 達成がさらに遠のくという発言が相次ぎました。
アフリカ54カ国のうち21カ国で食料が不足してい るのに加えて、食料価格高騰のために援助食料が 半減するなど、危機が増幅される状況も報告され ています。TICAD、6月3〜5日に開かれた食 料サミットで緊急対応策が打ち出され、7月に北
海道で開かれる
G8サミットでも議題として取り
上げられる食料価格高騰が、なぜ起きているの か、どのような対応が求められているのかをテー マに、連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリ カ諸国に及ぼす影響」を開催しました。2008年7月3日の第1回セミナーでは、東京農 業大学教授の板垣啓四郎さんに、「なぜ高騰する 食料価格:食料価格はどうやって決まるのか?」
を話していただきました。板垣さんは、以下の内 容についての講演をなさいました。
1)食料、農業の特性と食料価格の関係 2) 食料流通、食料メジャーの存在と現在の食
料価格高騰の関係
3) アフリカ諸国への農業支援は役立ってきた のか、何が課題なのか?
連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリカ諸国 に及ぼす影響」第2回
2008年7月17日第2回セミナーでは、バイオ燃 料問題と食料価格高騰の関係について、東京農業 大学准教授の稲泉博己さんにお話ししていただき した。原油価格高騰によって、輸送費用、肥料や
「グローバル化と平和」プロジェクト活動報告
飼料価格、トラクターなどの稼働費用も上昇し、
食料価格高騰の一因となっていることは広く知ら れています。一方で、原油価格とほぼ平行してバ イオ・エタノール、バイオ・ディーゼルの価格も 上昇していることが、食料価格に影響を及ぼして いることも指摘されています。ところが、先日 ローマで開かれた食料サミットで出された声明で は、米国、ブラジルなどのバイオ燃料生産国の主 張もあって、バイオ燃料に関しては「注視が必要」
という記述にとどまってしまいました。
第2回セミナーでは、こうした現状分析を踏ま えて、バイオ燃料生産と食料価格高騰の関係はど うなっているのか? また、先進国市場向けのバ イオ燃料がアフリカ諸国を始めとする途上国で生 産されるという新たな南北問題をどのように考え るべきなのか? について、報告と提起がなされ ました。
連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリカ諸国 に及ぼす影響」第3回
─投機マネーと食料価格:今、必要な取り組み は何か?
この第3回セミナーでは、投機マネーが食料価 格に及ぼす影響をどのようにして軽減するのか、
今、何をすべきかについて、オルタモンド事務局 長の田中徹二さんにお話ししていただきました。
2008年4月14日付の
MSN
産経ニュース「食糧高 騰、各地で政情不安 世銀警告、犯人は−」は、食料価格高騰の背景を、以下のように解説してい ました。
低所得者向け高金利型住宅ローン(サブ プライムローン)に端を発した金融危機を 阻止するため、米連邦準備制度理事会
(FRB)による利下げは昨年9月以来3%
に達し、欧州中央銀行(ECB)などと連携 した市場への資金供給も拡大。投機筋や
ファンドの膨大なマネーは、低迷する株・
債券市場には向かず、原油や金、穀物の商 品先物に流れ込んだ。
利下げによるドル安も、米国内のインフ レ圧力を高めるだけでなく、通貨がドル相 場と連動した他国にまで物価上昇を 輸 出 。しかし、火元の米政府は「金融危機 の対処がわれわれの最優先課題」(財務省 幹部)とし、食料インフレの沈静化は後回 しのようだ。
投機マネーの商品先物市場への流入によって食 料価格が高騰する仕組みと、投機マネーの動きを 制御し食料価格の引き下げと安定化を実現するた めに必要な施策について、オルタモンド事務局長 の田中徹二さんより報告と提起を受けました。田 中さんは「投機マネーの規制こそ、価格引き下げ のための最も即効性のある取り組みである」と言 い、従って「今日、明日の食料とエネルギーを得 るためにただちに投機規制の運動を作る必要があ る」とも言われました。
連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリカ諸国 に及ぼす影響」第4回
─沙漠化に直面する人々にとっての食料価格高 騰問題
アフリカ大陸では、かつて自給自足的な生活が 成り立っていたものの土壌劣化や乾燥化の進行に よる沙漠化に直面する人々がたくさんいます。沙 漠化が進行する地域では、農業生産が不安定なた め、他の地域や国外から運び込まれた食料を購入 しなくてはなりません。
2008年10月9日の連続公開セミナー第4回では、
チャド、ブルキナファソで沙漠化に対する取り組 みを続けてきた緑のサヘル代表の岡本敏樹さんが、
沙漠化に直面する地域の歴史や現状を紹介しなが ら、食料価格高騰が及ぼす影響を検討しました。
「食料価格高騰がアフリカ諸国に及ぼす影響」
第5回
─アフリカの都市での生活と食料問題
食料価格高騰は、食料を購入している人々の生 活を直撃します。都市で暮らすことは、食料を購 入することです。連続公開セミナー第5回(2008 年12月5日)では、アフリカの都市で暮らす人々 がどのようにして生活し、食料を入手しているの か、どんな時に食料に困り、そのことがどういっ た問題を引き起こしているのかについて、国士舘 大学教授の鈴木裕之さんから話を聞き、食料価格 高騰がおよぼしたインパクトについて考えまし た。
2008年4月、ハイチで起きた食料価格高騰が引 き金となった暴動は政権交代につながりました。
5月、横浜で開かれたアフリカ開発会議の際に は、 ア フ リ カ 連 合(AU)、 国 連 食 糧 農 業 機 関
(FAO)、世界食糧計画(WFP)、世界銀行の呼び かけで食料価格高騰問題に対する緊急会合が開か れ、日本政府も緊急の資金拠出を表明しました。
あれから1年、リーマン・ショック以降の金融 危機の急激な拡大により、日本ではデフレ懸念さ え出てくる状況になっていますが、アフリカ諸国 からは、食料価格が下がらない、飢餓が広がって いるというニュースが聞こえてきます。南アフリ カで活動している
JVC、ブルキナファソで活動し
ているHFW
から、食料価格高騰問題の現状はど うなっているのか、何が問題なのかについて報告 と提起を行いました。2009年度の研究会
2009年度「飢餓を考えるヒント」第2回(2009 年6月23日)
─世界の水危機が食料生産にもたらす影響
世界の水需要の多くは農業分野であるように、
水がなければ食料生産はできません。水は私たち の日々の生活にとって欠かせないものであるだけ ではなく、食料の生産にも大量に使われていま す。つまり、食料輸入大国の日本は水輸入大国で あり、また、食料生産に必要な水を大量に使用し ている国でもあります。食料増産によって水使用 量は増えていきます。利用可能な水資源から見て、
食料増産は可能なのか、課題は何か。佐久間智子 さんより報告と提起をいただき、討議しました。
【講師プロフィール】
佐久間智子さん
アジア太平洋資料センター理事。
1996年〜2001年、市民フォーラム2001事務 局長。現在、「環境・持続社会」研究センター 理事、女子栄養大学非常勤講師、明治学院大 学国際平和研究所研究員などを務めており、
経済のグローバル化の社会・開発影響に関す る調査・研究および発言を行っている。
共著書:
『どうなっているの?日本と世界の水事情』
(アットワークス、2007年)
『儲かれば、それでいいのか ‐ グローバズム の本質と地域の力』(コモンズ、2006年)
『連続講座:国際協力
NGO』(今田克司・原
田勝広編、日本評論社2004年)『非戦』(坂本龍一監修、幻冬舎、2002年)
『グローバル化と人間の安全保障』(勝俣誠 編、日本経済評論社、2001年) など。
2009年7月16日の連続公開セミナー「飢餓を考 えるヒント」第3回
土地と食料生産 ─南アフリカから考える
食料生産には土地が必要です。昨年から、食料 生産に適した土地を求めて先進諸国がアフリカの 国々で土地確保の動きをしていることが、マスコ ミ等でとりあげられています。一方で、途上国に おける食料問題を語る際には「土地を分配して、
適切な指導の下、農業従事者が増えれば食料問題 は解決する」という文脈で語られがちです。
では、人々にとって土地は食料生産のためにだ けあるものなのでしょうか。南アフリカの土地改 革の中から見えてくる人々にとっての土地問題の 意味をアジア経済研究所の佐藤千鶴子さんに紹介 してもらうことで、考える手がかりにしました。
【講師プロフィール】
佐藤千鶴子さん
独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済 研究所地域研究センターアフリカ研究グルー プ研究員。
立命館大学と英国・オクスフォード大学セ ントアントニーズ・カレッジにて南アフリカ の土地改革と土地返還運動の研究に従事。
1998と2002に同国クワズールー・ナタール州 に6ヶ月〜1年程滞在。
以後も隔年ペースで同地を訪れ現地の変化 を追い続けている。最近は、看護師の国際移 動や公立病院の人材不足問題についても関心 を寄せる。2009年4月より現職。
主な著書: 『南アフリカの土地改革』(日本 経済評論社、2009年)
2009年10月23日の連続公開セミナー「飢餓を考 えるヒント」第4回
栄養の観点から食料危機への対応について考える
自然災害や紛争がもたらす食料不足による食料 危機に対しては、FAO・WFPによる早期警戒シ ステムが構築され、緊急食料支援が実施されるよ うになりました。しかし、食料はカロリーあるい は物理的な量だけでとらえることはできません。
特に育ち盛りの子どもたちや妊産婦に適切な栄養 を提供することは、その後の成長や次世代の健康 につながる重要な課題です。長年、開発支援に携 わってきた栄養学者に、食料と栄養に関する課題 を紹介していただき、栄養の観点から食料危機へ の対応について考えてみました。
【講師プロフィール】
磯田厚子さん
女子栄養大学栄養学部食文化栄養学科教 授、同学科長。
日本国際ボランティアセンター(JVC)副 代表。
上記大学助手、講師を経て、88年より
JVC
に参加。JVCソマリア代表、同ラオス事務所 代表などを経て、現職。各地携わってきた住 民参加による農村開発の方法論や開発教育も 紹介できる。共著 書:『 メ コ ン 川 流 域 の 開 発 と 人 々』
(JVC、1995)、『小規模社会開発とプ ロジェクト評価』(国際開発ジャーナ ル社、2003)、『国内・海外の地域づく りの最前線』(共著)など。
2010年度の研究会
2010年5月19日の研究会
「飢えに立ちむかう政府」と NGO の関係を考 える─「25年ぶりの大飢饉」と報道されたエチ オピアで見たこと・考えたこと」
講師:林達雄さん
【セミナーの概要】
昨年秋、エチオピアは「25年ぶりの大飢饉」と 報道されました。25年前、100万人が亡くなった 大飢饉の救援活動に参加した林さんが、食料危機 の実態と政府・市民社会・国際機関の対応を知る ために訪ねたエチオピアでは、現政権が飢えに直 面した800万人を対象に全国で
work for cash/work for food
事業を展開するなど、飢えに立ちむかう 姿勢を見せていました。かつてはNGO
が取り組 んだ事業を政府が実施するという状況の変化の 中、「飢えに立ちむかう政府」とNGO
はどのよ うな関係を持っていくのか、一緒に考えました。【講師プロフィール】
林達雄さん
(特活)アフリカ日本協議会(AJF)代表 理事。
1983年から
JVC
に参加し、タイ・カンボ ジア国境地帯、エチオピアで活動。JVCア代 表理事、「ほっとけない 世界のまずしさ」代表委員などを歴任。
2000年7月、南アフリカ共和国ダーバンで 開かれた第13回国際エイズ会議に参加し、南 アの
HIV
陽性者運動と日本における取り組 みをつなげ、アフリカでのエイズ治療実現を めざす運動を提起した。著書: 岩波ブックレット『エイズとの闘い 世界を変えた人々の声』(2005年)
2010年7月8日の研究会
アフリカの食料安全保障と国際的土地取引 「タンザニア、エチオピア取材で感じたこと、
考えたこと」
講師:辻浩平さん
【セミナーの概要】
2008年10月、農業・農民問題に取り組む国際的
な
NGO・GRAIN
が、アニュアルレポート「食料と金融危機最中の農地に卑劣な手口」を発行した ことなどをきっかけに、国際的な大規模土地取引 と食料安全保障の関係が問題とされるようになり ま し た。2009年 5 月 に は、 国 連 食 糧 農 業 機 関
(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国際環境開 発研究所(IIED)から調査報告書「土地争奪なの か開発の機会なのか? アフリカにおける農業投 資と国際土地取引」が発行され、また、世界銀行 が各国別の状況をまとめた調査報告を準備しまし た。
しかし、FAOほかによる調査報告書が「国際 土地取引とその影響についてはほとんどわかって いない」という中で、さまざまな立場から、期待 や思惑あるいは不安に基づく主張がなされてき た。昨年秋、タンザニア、エチオピアで国際的土 地取引の実情と及ぼす影響を取材した
NHK
の辻 さんに、取材しながら感じたこと、考えたことを 話してもらいました。また、取材をもとに作成し たニュースも見て、一緒に何が課題となっている のかを考えました。【講師プロフィール】
辻浩平さん NHK報道局国際部記者 2002年入局。鳥取放送局を経て国際部。
中東・アフリカ担当。
ガザ大規模空爆、ソマリア沖海賊問題、イ ラン大統領選挙などを現場で取材。
2010年7月14日の研究会
「国際的な食料価格はどう決まるのか」
講師:佐久間智子さん
【セミナーの概要】
食料価格が高騰した2008年、家計に占める食費 の割合が高い途上国に住む人々の食生活は、ます ます苦しい状況に陥りました。一方、世界の穀物 生産量は過去最高を記録、世界では68億人をまか なうだけの十分な食料が生産されているにもかか わらず、途上国に住む人々の生活は、いまだに苦 しいままです。
主食の穀物も含めて、自国の食料を海外からの 輸入に頼る国が多い途上国。かつては食料を自給 していた国もあるなかで、このような仕組みはど のように作られてきたのでしょうか。また、国際 市場で決定される食料価格によって人々の生活が 大きく影響されるなか、国際的な食料価格はどう 決定され、その過程にはどのような問題があるの でしょうか。佐久間智子さんより報告と提起をい ただき、討議しました。
【講師プロフィール】
佐久間智子さん
2009年「飢餓を考えるヒント」第2回の講 師プロフィールを参照。なお、2010年の最 新本に次の作品がある。
最新刊: 『穀物をめぐる大きな矛盾』(筑波書 房、2010年)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/
4811903609/ryospage03-22
2010年10月14日の研究会
2010年度連続公開セミナー「飢餓を考えるヒ ント」第4回
「私たちの暮らしと世界の食料安全保障〜何がで きるのか?」
講師:大野和興さん
【セミナーの概要】
7月14日に開催した連続公開セミナー第3回
「国際的な食料価格はどう決まるのか」で、世界 で最も大量に食料を輸入している日本の食料自給 率が向上し輸入する食料が減ることは、食料の国 際価格の低下につながり、途上国の食料安全保障 に寄与するかもしれないという問題提起がありま した。
日本の食料生産の現状と課題、特に食料生産に 関わっている人々が直面している課題を知ること を通して、日本の食料自給率を向上させるとはど ういうことなのか、どういった課題があるのかを 考えてみました。日本そしてアジアの農村を歩 き、国際貿易と農業の関係を追及してきた大野和 興さんより報告と提起をいただき、討議しまし た。
【講師プロフィール】
大野和興(おおの かずおき)さん
1940年生まれ。農業ジャーナリスト。脱
WTO/FTA
草の根キャンペーン・アジア農民交流センター世話人。
主な著書に『日本の農業を考える』(岩波 ジュニア新書)、『農と食の政治経済学』(緑 風出版)、『食大乱の時代』(七つ森書館)な ど。
2010年度「飢餓を考えるヒント」第5回
2010年11月12日 「食料への権利の視点から考 える食料安全保障」
講師:勝俣誠さん、斉藤龍一郎さん
【セミナーの概要】
連続公開セミナー第4回「私たちの暮らしと世 界の食料安全保障〜何ができるのか?〜」では、
日本国内の食料生産の現状をふまえながら、日本 の食料安全保障の危うさについて議論されまし た。海外から食料を買うことができる私たちは、
かろう じて「食料はある」という安心感を保て ていますが、日本と同じく食料の確保を輸入に頼 る国も多い途上国には、その安心感はありません。
このように、食料を「買える人」は食べること ができるという現状のなかで、全ての人に平等に 保障されているはずの食料への権利とは何なの か、また、そもそも「食べる」ことがもつ意義と は何なのか、長きにわたって、食料安全保障につ いての研究や情報発信を行ってきた、明治学院大
学教授の勝俣誠さんと(特活)アフリカ日本協議 会事務局長の斉藤龍一郎さんより報告と提起がな されました。さらに活発な討議がされました。
【講師プロフィール】
勝俣誠さん
明治学院大学国際学部教授。1969年早稲田 大学経済学部卒業、パリ第一大学開発学博士 課程修了。西アフリカ・セネガルのダカール 大学 客員教員、カナダ・モントリオール大 学招聘教員などを経て現職。日本国際開発学 会常任理事。
斉藤龍一郎さん
(特活)アフリカ日本協議会事務局長。1990 年にアパルトヘイト否!国際美術展下町展開 催に関わったことをきっかけにアフリカへの 関心を深め、1994年に
AJF
入会、2000年より 現職。食料安全保障、アフリカ障害者の10年、アフリカ子ども学に関わる取り組みを担当。