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井 島 宏 幸 目 次

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『中間管理職の変質化と組織』

井 島 宏 幸

目 次 1.問題の所在 2.環境と組織 3.職務の変質化と解体 4.組織変化の成立要件 5.結び

1.問題の所在

組織は常にそのおかれた環境下で最善をつくして状況に対応し,適合した組 織への過程を歩んできている。そうすることは組織を長期的に安定した状態に 保つための基本的な行動であり,管理者の責務である。現在,企業をとりまく 環境は激しくかつ厳しい状況にあり,組織全体にわたって変革が要求されてい るといえるほどである。特に中間管理職は多くの重大な問題に直面しており,

組織的対応が急がれている部署である。

本論では,この中間管理職の変質化と組織変革の方向性について考察を加え,

新しい組織形態とその基本的制約条件について分析することを目的とした。

2.環境と組織

2−1 環境の変化と職能

コンピュータが組織管理に導入されて以来,単なる計算や会計事務だけでな く,管理上のさまざまな方面でめざましい発展をとげてきた。現在はオフィス・

オートメーションとして,トップ・マネジメントから作業現場まで,あらゆる 組織過程でOA機器の導入が推進されている。それにともなって組織機能はよ

り早く,正確で,強力な対応がせまられ,組織は構造の上からも激しい変革の

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波にあらわれてきているのである。

また,企業をとりまく経済的環境は厳しさをまし,激しい競争のなか市場と の関係においても組織は変質化をよぎなくされてきている。

ここでは,OA機器の発達と市場の変化の2つの面より,どのように組織構 造に変化がもたらされているのかを考えてみたい。

コンピュータの導入

今日のように,組織のあらゆる面にコンピュータが入り込んでくる前は,経 営者と労働者の情報の伝達は中間管理者の介在によって実現されていた。経営 者による直接的な情報伝達は,年頭の挨拶や社是社訓といった一般論の形をとっ たメッセージを除き,皆無であるといえるほどであった。

経営者が意図し,その実現をはかりたい内容は,会議ないし文書を通じて組 織階層をおりて中間管理者の手で現場の状況に合せた形に変えられて伝えられ

た。経営者は最終的にどのように伝えられたのかは確認のしようがない立場に おかれていた。

ところが,コンピュータがその事態を一変させてしまった。経営者の意向や 要求はOA機器を通じて直接,現場労働者のOA機器に表示できることが可能

になったのである。当然,経営者からの指示が直接的に現場に提示されれば,

経営者からの命令として絶対視され,現場には強烈すぎる効果をもたらし,戸 惑うか,パニックにおちいらないともかぎらない。直接提示するときには命令 ではなく,高度なレベルの説得力のある表現が要求されることになるにしても,

経営者の意向が直接現場にとどき,その意図するところを実現すべく労働者が 行動に移すという可能性もでてきたわけである。

しかしながら,そのような直接的伝達は日常的に行なわれることは困難が多 い。そこで経営者の意向は,スタッフに伝えられて,各現場に応じて具体化さ れ現場のOA機器に提示されるといったパターンが一般的になる。この場合は

もちろん,経営者は現場に提示された内容を直接確認できることはいうまでも ない。このようなシステムが実行可能な状況におかれていることは事実として も,実際に行なわれるとなるとスタッフの仕事量は格段の増加をよぎなくされ ることは明らかである。

現実には,そのような可能性を持ちながら,中間管理者は存在しているわけ

だから,経営者の意向や指示を労働者にクッションとしての役割を持ちながら

命令したり,情報の伝達をしているわけである。

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井島:中間管理職の変質化と組織      3

このような,コンピュータによる組織的変容の可能性が,スタッフの強化や コンピュータ・ソフトの開発などで少しずつ強まっているなか,共存という形 をとりながら中間管理職は,その期待される職能的活動がそれに対応するかた ちで変質化させられつつあるといえるのである。

次に,コンピュータの導入が中間管理職の職務内容を分化させていくことに ついて考えてみたい。

本来,コンピュータは仕事を高速に正確に低コストで実行するという機能的 利点を最大限に活用すべく導入がはかられたのである。その意味において,・人 員を大幅に削減することが可能になって,賃銀の低コスト化を推進することが できた。しかし,コンピュータは準備から事後処理まで非常に多くの人手を必 要とする機械である。仕事に特有なソフトの開発,実際に動かすためのプログ ラムの作成と多くのキーパンチャーの存在,コンピュータが使用する彪大な紙 の手配と処理,等々。そして定型的補助的事務処理や渉外業務の増加など事務 的業務が飛躍的に増加する結果をもたらした。

一方では企画,判断などの管理的業務は,コンピュータにまかせることがで きることが多くでてきて,人間にしかできない非定型的な側面か,集計された 結果をもとに高度な意思決定が要求される側面の管理的業務が残されるといっ たように,相対的に業務の縮小が進展したといわれている。        ,

以上のように,中間管理職の職能的変化は管理業務の縮小と意思決定の高度 化といった面にあらわれているのである。

市場の変化

最近の市場における商品のライフ・サイクルは短くなってきている。また,

スタッフが開発し工場で生産した商品を営業部が販売するという従来の展開は,

現在の市場では通用しなくなってきている。顧客の要望に応じて商品をすぐに 開発し,提示して始めて売れることになる。もし,それを企業中枢の意思決定 をまって商品再開発ということになれば,当面の顧客は競争相手の商品に流れ ることになり,あらためて新商品が開発されても,そのときには市場が変化し ている可能性もある。

現在の企業組織では市場と生産工場は密接につながれていて,ジャスト・イ

ン・タイム生産方式が採用されるようになりつつある。コンピュータが工場生

産機構と市場の情報とを結合させて,市場の要望に即応できるシステムになっ

ているのである。

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同じ品物でも多種類の中から選択する傾向が強い顧客の動向は,生産販売す る側にとっても多品種小量生産で対応するようになっている。そして市場にお ける商品の陳腐化が極めて早くなり,かつ多様化した市場が出現している現在,

効率的な商品開発のシステムこそが企業の存亡に拘わる重要な問題となってい るのである。

企業の安定成長のためには,売上げと利潤の確保は絶対条件であるが,その ためには市場に対応して商品の多様化,多角化の戦略を採用せざるを得なくなっ ている。比較的売れている商品でも,次の瞬間には全ったく売れなくなるとい う事態も発生する現実の市場の流れは,意思決定が遅れれば企業の命とりにな ることもある。そこで,さまざまな商品開発が試行錯誤の中でおこなわれ,そ の中から売れ筋商品の発見をするということも必要となってくる。そして,そ こから特に企業の主力商品への開発とか,市場動向の見極めと将来への対策が 形成されていくことになる。

このように観てくると,市場の変化に素早く対応でき,なおかつ多様な展開 を可能とするのは,現場に近い所での意思決定ということになる。もちろん,

多様といっても何でも市場に出せばよいでは,企業資源の有限性から限界があ るが,スタッフの指導と全体の管理において適正な規模に規制されるのは当然 のことである。

このように,商品開発などの経営の意思決定が中央集権的に企業中枢でおこ なわれてきたこれまでの動きに対し,激変する市場に即応できるように分権的 な現場の意思決定を重視する方向に組織が転換してきていると考えられるので

ある。

2−2 組織のかかえる問題 管理組織の肥大

経済の厳しい退潮期を迎えるたびに,組織はその存亡をかけて組織体制の転 換をはかってきた。管理者層の圧縮によって組織上の軽減化をめざしてきたの

も,その1つの対策である。

組織は過去の高度経済成長期に大量の人員を採用したが,その人達が現在組

織の中堅層を形成していて,管理職ポストの不足で問題が発生している。組織

はともすると管理職ポストの増設を指向しがちである。特にその中でも中間管

理者の増加が目立つのは,労働意欲に刺激をあたえる1つの手段として「役職

への昇級」を利用してきたからである。社会的出世を目ざす人達は,管理能力

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井島:中間管理職の変質化と組織      5

とは無関係に,仕事の上で競争し高い成果をあげるために粉骨砕身の努力をし てきた。上司である管理者は,部下に出世の可能性をちらつかせることで管理 上の高い業績をあげることができるわけで,安易な方法ではあるが一定の効果 は期待できるものであった。そのため,課長代理,課長代理補佐等のように実 権のない名前だけのポストを作出し,従業員の労働意欲にプラスの効果をもた

らすように展開してきたのである。

ところが,石油ショックをきっかけに,企業倒産があいつぎ,長期にわたる 経済的停滞の中,組織は存続のため小数精鋭主義にきりかえて人員の削減,組 織の減量化に踏みきらざるを得なくなったのである。

窓際族と呼ばれ,仕事も与えられずに役職名だけがついている人達は,自発 的に退職するよう冷遇されてきた。また,帰るポストに空席が無くなっている 出向人事,退職金上積みによる早期退職奨励,行きたがらない外国への転勤要 請など,さまざまな手段で退社を促進させてきた。

こうした結果をもたらしたのも,安易な管理の帰結であり,中間管理職待遇 の人達が増加し,組織として不健全な中ぶくらみの肥大化した状態になってい たからである。

とはいっても,このような厳しい人事政策の下においても,目立ってポスト の削減ができたわけではない。人員は減らすことは成功しても,ポストそのも のは残っており,経済の好転によって厳しい人事も影をひそめて,形骸化した ポストもそのままにして今日に至っている。

その意味において,肥大化している中間管理職ポストの削減が,組織のかか える重大な問題として今日でも残されているのである。

停滞する人事

中間管理職は急激な環境変化にさらされて,さまざまな機能のより高度な対 応を要求されてきている。組織変革を急ぐ経営者と激変する市場の対応におわ れる現場労働者との間に立たされて,中間管理者は仕事遂行のため多面的な職 能の育成をすることが不可欠な状況においこまれている。

中間管理職の地位は経営管理上いくつかの機能を持たされて利用されてきた。

たとえば,一般従業員の中から将来の幹部候補生を育成し,経営管理の実践的

経験をつませる場所として。また,永年会社のために精勤してくれた人達に退

職の花道として最後の数年担当させる場所としても。また,経営的才能の有無

を判別する場所でもある。そして,さらに経営管理者の最下位として,労働組

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合のバック・アップがないため首或首の際,比較的たやすくできる場所でもある。

こうした機能が利用されながらこの地位にいた人達の中から,有能と判断さ れた人はより広範囲に影響を与えることのできる地位を獲得して出世していく。

しかし,反対に問題があると判断された場合は,平社員へ降格があるかという と2〜3の例外を除いてほとんど皆無に等しい。それなりの実力があり,ミス もなければ,問題があったとしてもその地位から降ろされることは少なく,永 くその地位にとどまる。実力もなく問題があるとしても,実権のない部下のな い名目上のポストに左還されるくらいで,致命的なミスをおかして本人も納得 するようなときしか,平社員への降格人事はおこなわないのが通例である。

そうなると,この地位にいる人達の多くは,花道として出世をさせてもらっ た人達が残りの企業人生を無事に勤めあげることだけを願って働いている場合 と,能力はあるが,より高い地位につく競争に運悪く破れた人達の残留してい る場合。さらに,そこそこの能力があるが上に出世するほどの自信も才能もな いとあきらめている場合など,積極的に問題に対処して最後まで遣り遂げるだ けの気力に欠ける人達で占められているのである。

すなわち,エリート・コースからはずれた人達で,これから先は大した出世 は望めないが,かといって左遷されたくもないと考えることから,チャレンジ ではなく保身を中心にした仕事をすることで安定化を指向する傾向の人達が多 く在任している地位ということになる。そのため,部下は大切な問題で根本的 な解決をつけることができずに,あれもこれもといった仕事をかかえることに なり,仕事と上司との葛藤もからんで不満が充満して暗い職場になってしまう ケースが多いのである。

ところで,この地位は,今まで観てきたように,環境の激変に直接影響を受 ける場所であること。そして,この職位をまっとうするためには,多方面な機 能を育成しなくてはならない状況におかれていることなど,極めて高い能力と 積極的な姿勢をとることが要求される地位である。にもかかわらず,現実に在 任している人達の多くはこれらの条件を満たすことはできない状況にあるとい わざるをえない。

すなわち,現実の中間管理職の地位は,多くの困難に見舞われながら,不平・

不満がうずまいている中で,なおかつ何ごともないように願っている人達が対 応するという,極めて問題が発生しやすい不安定な状態の下におかれているこ

とになるのである。

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井島:中間管理職の変質化と組織      7

2−3 組織変化の誘因・背景

中間管理職をとりまく環境変化とそれに対応して変質化してくる職務関連の 機能は,近年は特に組織管理上の新システムの導入によって,さらに著しい変 化傾向の度合を強めている。たとえば「目標による管理」とか「QC活動」

「ZD運動」「QWL」(注1>等の導入は,自主性を重んじてグループ及び個人の 組織的行動に積極的参加の姿勢の開発を促進している。これら自主的管理は組 織的活動を通じて自主性の尊重と労働意欲の高揚をはかってきたのである。

この管理システムの導入の結果,グループで困難な問題と取り組み,それを 克服し完成させたときの一体感や充実感の嬉びを経験して,自分たちで意思決 定をしていきたいという意欲も高くなってきたという効果も出ている。小グルー

プにおける自主性の育成や個人の自己管理の向上はこのシステムによって促進 されてきたといえる。そこでは組織や個人の統轄方法や組織活動への関与,精 神的自立の嬉びなど従業員自身が経験してきたのである。このような従業員の さまざまな経験が,中間管理職の職能分化ないしはその機能の高度化への要求 をさらに強める結果をもたらしているのである。

たとえば,小グループのリーダーシップのとり方に対する経験が,上司であ る中間管理者のリーダーシップへの批判的観察もしくはお手本として利用され ることとなる。また,管理者は小グループで検討している内容へのアドバイス や援助など,スタッフとして機能を充分はたらかせないと小集団管理そのもの の効果があがらないため,多くの努力をかたむけることになる。そして,その ような組織活動に参加する全体の流れに対して,それを疎外しないように管理 をより高い立場から実行するなど管理能力の高度化を体験することになる。こ うして従業員も管理者もともに経験をつんできたことが,組織変化を促進させ る基礎ないしは背景として作用しているのである。

先にも述べたように,中間管理者の能力とおかれた状況によって,これらさ

まざまな機能の高度化要求は管理者の困難性を大きくするばかりといったこと

もおこっている。ある意味では,自主管理システムの導入と経験が中間管理者

の職務の遂行能力を混乱させてしまっているともいえるわけで,管理機能の変

質化をさらに推進する作用もはたしてきていると考えられるのである。

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3 職務の変質化と解体

3−1 官僚としての職務

環境の激しい変化は,中間管理職の職能的対応を厳しく要求してきている。

本来,この地位にいる管理者は官僚としての役割を要求されている。そもそも 官僚そのものは,組織を構築するときの基本的枠組みを形成するもので,どん な組織にもなくてはならないものである。官僚の基本的原理で1番重要なもの は,組織全体にわたって全ての職務が明確に規定され,相互関係が明らかにさ れていることがあげられる。

すなわち,中間管理者の職能は明確に規則化されていて,上司,部下,他の 職務そして全体とのそれぞれの関係が相互に明らかになっていることになる。

だから職務規定に従えば各人の職務はそれを遂行する能力がありさえすれば,

誰が担当しても充分実行できるように設計されていることになる。

しかし,各職務の役割規定は明確にされているといっても国家組織と私企業 組織とでは自ずと違いがあるのは当然である。公務員のシステムは規模が巨大 であるが故に,全て規則化され細部にまで規定がいきとどいている。さもない

と同じ仕事はどこでも同じ内容になるようにしないとサービスに混乱をきたす ことになるためで,必然的に人々は規則で行動することになる。私企業組織で は,それほどの規則は必要ではないし,かえって企業の生命を危険にさらすこ ともおこりうる。それは,企業が経済動向や市場の動きに対応して職務を変動 させなくてはならないからで,当然職務の規定は大枠で把握されるという特徴 がでてくる。

しかしながら大枠ではあっても,中間管理職の規定は本来なにをなすべきで あるかは明らかにされていなくてはならない。たとえば,上司からの命令をも とに部下を統合して目的の実現をはかる。市場や経済動向に応じて情報を収集 して,重要な情報を上司に報告する。目的実現のため職場のモラールを高める。

などのように,組織の中でも中間管理職は重要な位置を構成しているわけであ るから,その仕事は組織の要石として大きな期待がよせられていることになる。

ところが,前節でふれたように,環境の激しい変化は,この大枠でとらえて いる中聞管理職の職務規定をさえバラバラにしてしまうほどのインパクトを与 えているのである。

コンピュータの導入と市場の動向によって,職務の変化傾向のおおよその動

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井島:中間管理職の変質化と組織         9

動きはとらえてきたが,少くとも組織の構成原理である職務規定は,以前とは 全く異なるものに作り変えねばならないほどの意味を含んでいるのである。組 織全体が明確に相互依存的関係で規定されている状態の中では,ある一部分だ けを変形させるだけですむというものではない。一ケ所を変えれば全体の関係 が変わることになるから,彪大な作業を要求されることになるが,現実は不可 能であるがため,手をふれることはできないでいる。

しかし,そうはいっても現状を維持するだけでも問題が山積している現実に 応じて,中間管理者の職務を解体し,そこだけの規定みなおしで対応せざるを

えないことになる。他の部署になるべく波及しないように,中間管理職の職能 だけを分解することが組織の現実的対応になってきているのである。

そこで,次に職能の分解がより具体的で鮮明になるよう,前節と重複するこ ともあるが,具体例をもとに分析していくことにする。

3−2 職能の分化

中間管理職は,トップ・マネジメントの意図を組織として具体的に実現する ため,経営者の立場にそって従業員を管理・監督する重要な位置を占めている ものである。そして,同時に現場のさまざまな問題を実際に則して理解してい るために,上層の経営管理者にとって重要な情報の送り手としての役割をも持っ ているのである。中間管理職の職能としては,大きくみるとこれらの管理的側 面とスタッフ的側面に大別することができる。そこでこの2つの面について,

それぞれの内容を分析してどのように変質化し分化しているかを観ることにす

る。

管理的職能について

組織全体の人員の省力化の過程の中で,コンピュータが導入されてきた。そ の結果,管理的業務の縮小がおこっている。たとえばの例として次のようなこ

とから理解を具体的にしてみよう。

コンピュータ導入以前の管理者は,企画会議において状況把握に必要な書類 や図表等の作成命令を課員に出す場合,なにがどのように作られるべきかを判 断し指示しなくてはならない。当然,人員の手による作成だから,数日前より の作業日程を考慮に入れることになる。そして,なおかつ会議直前までの売上 げ等の収集など最新の情報を取り込みながらの作成要求をすることになる。

ところがOA機器導入後は,数字の収集は各端末機によって自動的に集計さ

れており,定型的作図や書類は会議中であっても必要とあればすぐにコンピュー

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タのキーをたたくだけで作られ,コピーされて配布されるなど,管理・監督職 能のかなり部分は機能する必要がなくなってしまうことになる。図表の作成に あたった課員への叱咤激励,督促,慰労,叱責,賞賛等々,管理的職能として 監督過程に発生するさまざまな行為は,コンピュータに置換された範囲におい て不必要なものとなってしまったわけである。

しかしながら,他方では,コンピュータ導入が事務的業務の増大をまねき,

こんどは違った側面の管理的職能の増大につながる問題が発生している。

売上げや販売予約など数字の収集・集計作業や,統計及び図表の作成等に熟 練した数人の作業者が必要であったものが,OA機器の導入で不熟練の1人の 新人の作業でことたりるようになるほど,省力化は極だって進展した。一方で

は,定型的・補助的事務処理は単純ではあるが極めて大きな作業量を要求する ようになってくる。新しく要求されるプログラマーやキーパンチャー等の新業 務に対する人員の増大ないしは外注による費用の増大は,抵抗が少なく可能で ある。しかし,新機構の採用により旧業務の人員削減に成功した場合,その人 達を同じ職場で不熟練で可能な単純作業にふりかえることは困難である。新機 構の採用が人員削減につながらないようにみえると,なんのための機械化だか わからなくなるためである。すなわち,省力化を目的に多額の資金を投入して のOA化であるため,単純作業者でコストが安くても,人員の新らたな採用は 管理者能力を問われることになり,心理的に抵抗があるのである。

そのため,現場の管理者は少人数の作業グループのリーダーとなって,とも すれば率先して作業を手助けしていく傾向が増大し,管理・監督者としてより

も作業の牽引者としての対応をよぎなくされているのが現実の姿である。

この事例で観るように,コンピュータを中心としたOA機器の導入は,中間

管理職の職能が分化してそれぞれに専門的対応をせざるをえない状態にたちい

たっていることを示している。すなわち,管理機能と監督機能の専門的分化で

ある。管理機能はより包括的な高度な意思決定に関連していき,上位管理者層

に吸収されてしまう可能性がでてくるほど機能が縮小してきたこと。また,監

督機能は課のフォーマル・リーダーというよりは,グループ・リーダーとして

の機能,すなわち,経営者の立場を推進するための管理者ではなく,グループ

の索引者ないしは先導者としての性格を強くもった非管理者的機能を増大させ

ていることなどである。

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井島:中間管理職の変質化と組織      ll

上記の事例で,ここまで主張するのは無理があるが,市場の動きとの関係 で意思決定の現場主義化の傾向が強まっていること。現実の中間管理者の動 きで,管理よりも監督業務におわれているケースや,逆に,現場は部下にま かせっきりで部下の監督を手抜きし,管理者の意思決定会議におわれてしまっ ているケースなど,管理者の得意とする方面への努力の傾倒がみられる。も ちうん,管理者のおかれた事情や状況との関係もあるが,両機能をバランス よく統括しているケースはむしろまれであることも事実である。

スタッフ的職能について

経営者と労働者の接点に位置し,双方に情報を伝達し,組織目的のより良い 実現を達成するための機能として,中間管理職は経営者にも労働者にもスタッ

フ的役割を基本的にもっていることは否定できない。

経営者から発せられた情報は,組織目的にそってそれぞれの現場で具体化さ れ,労働者にとって明確な行動指針となりうるように変形されているのが当然 である。トップ・マネジメントの意思決定の特徴は,実現したい希望を中心に した将来指向型である。逆に,現場の作業は,過去に決められたことが実現し たかどうかなどの過去の流れを引きずった過去指向的な面が強くある。これら 相反する行動指針を融合させるために,その場の特殊事情を考慮して将来の指        じ

jを伝達し,具体化していかなくてはならないという理由から,上からの情報 は変形せざるをえないのである。

製造及び販売の現場にはさまざまな問題が常に発生している。たとえば,商 品トラブルによる顧客の苦情,他企業との対応ミスと責任問題従業員間のト ラブル,従業員の突然の退社とその仕事の対策,従業員の不平・不満,モラー ルの低下等,どこの職場でもかかえている問題は表面に出ているものだけでな

く,水面下でくすぶっているものも含めて多種多様である。

これらの問題のうち,企業の存続に大きくかかわるような問題であるほど経

営者に近い所で対策が講ぜられることになる。そのためには問題の発生したと

き,それらの事態の分析と対策を中間管理者がとりおこなうなかで,どの情報

を上位の管理者に伝えるかを取捨選択する過程が重要になる。些細なことまで

伝えれば,本人の能力が疑われることになるし,上位の者にとってそれでは情

報過多となって問題の本質がズレて理解されてしまうこともある。また現場の

責任者として自分の責任問題となる可能性のあることは少しでも隠したいとい

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う気持ちが発生しやすく,カモフラージュしたりして自分に優利な情報を意図 的に利用するなど,情報を歪曲して伝達することさえある。そして,当然のこ とながら問題を自分の力で解決できると判断して失敗し,それにこだわってい るうちに報告時期を失ってしまい問題を大きくしてしまうなど判断ミスにとも なう情報の変質化もおこるのである。

このように,上からの情報を現場に合せて変形して伝え,現場からの情報も 変形の危険性をはらみながら報告しなくてはならない立場が,中間管理者のお かれたスタッフ的機能の実情である。

OA機器の発達により上からの情報の変形は,比較的チェックができる体勢 になりつつあるが,現場からの情報変形は事情が違う。そこでそうした危険を さけるため,情報管理を重視する経営者は中間管理者の重要性と困難性を背景 に,管理・監督者の立場とスタッフとしての機能展開との相互の関係を意図的 に分離することで対応しようとすることになる。すなわち,経営者としてはス タッフを独立してあつかうことで情報の歪曲化をさけようとするのである。

しかし,現実は管理・監督,スタッフの3の機能は1人で対応しているわけ であるから,自ずと能力問題が発生することはさけられないのである。

次に市場との関係でスタッフ機能について考えてみよう。

 近年は経済的競争の激化とともに市場展開が短期にめまぐるしく変るといっ       ,た状況が出現してきた。中間管理者は事態の把握と対策を考えて上位者に必要

と思われる事項の報告をおこなわなくてはならない。現商品の問題点,競合す る他企業の商品との関係,顧客の動向,新商品の対策など,さまざまな留意事 項がその報告の中に含まれている。そして,市場対策での現場のかかえている 諸問題を,現場での解決と上層の意思決定との相互の対策が,長期・短期の企 業の在り方を決めていくことになる。

こうした過程で,中間管理者は現場での解決のためのスタッフ的活動をする 一方で,上位管理者層の意思決定に大きな影響を与える現場からの情報を伝え

るアドバイザーとしてのスタッフ的機能を強く要請されているのである。

ところで,最近の市場は転変が激しく,上層の意思決定を経ていては時間的

に遅くなって,市場に対応しきれないといった事態も出現してきている。その

ため,現場サイドのさまざまな意思決定を多角的に優先・実行させ,その中か

ら市場の動向との関係をみながら,企業の主力商品の開発と戦略化をはかる傾

向が強まってきている。すなわち,現場の多くのグループの意思決定に権限を

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井島:中間管理職の変質化と組織      13

与えることで市場の変化にただちに対応できる体勢がつくられることになるわ けである。こうして,市場を重視すればするほど現場グループの意思決定に管 理者として関与することは弱まり,アドバイスもしくは自分も提案者として参 加するスタッフ的機能の強まりを指向することにならざるをえないのである。

上層の管理者からも市場との関係からも,中間管理者はよりスタッフ的職能 の強化を期待されてきているわけである。特に現場の事情や背景を熟知したス タッフの存在は,長期的安定・維持を目的とした組織の意思決定にとって不可 欠のものとなっているのである。

以上のように,情報のより一層の重視と現場の意思決定の重要性から,スタッ フとしての専門的期待と要請は,スタッフ機能と管理・監督機能との分化をさ らに促進する傾向を強くしているのである。

3−3 組織の対応

マトリックス組織の採用について

中間管理職の職能の分化傾向は,それぞれの機能の専門的対応への要請過程 にもつながっている。組織的にはこうした傾向にどのような対策を講じている のか,マトリックス組織との関連でここでは考察してみる。

マトリックス組織とは,今までの職能別に分けられた組織と恒常化したプロ ジェクト・チーム組織とを共存させる形で,それぞれのよい所を利用しながら 組織展開しようとする組織システムである。そこでは,従業員が職能別に分け られた部署に所属しながら,同時にプロジェクト・チームにも所属するという 二重在籍の形態をとっている。そして,仕事内容に応じて,どちらの組織で実 行するのが有利かの判断がおこなわれ,組織行動が決められるというものであ る。マトリックス組織の理念はそれぞれの組織の長所を活すというところにあ ると考えられてきている。

マトリックス組織においては,2人以上の上司をもっているマネージャーが 重要な位置を占める。それは職能別組織とプロジェクト・チーム組織の複数の 組織に所属しているためで,多元的指揮系統組織のもとでマネージャーは上司 達の指示の(instruction)に対して服従を拒否することのできる立場にある。

そして,どちらの組織で仕事をするのか内容に応じて意思決定をする権限をもっ ている。これは現場の裁量幅のある意思決定権が与えられていることで,われ われのいう問題発生の現場に近い所での意思決定がおこなわれる組織といえる。

ただこの組織に所属する人達は,複数の指揮系統の下にあるため指揮の混乱が

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生じやすく,各個人はそれらの問題に対して処理能力をもっていることが必要 とされる。そして現実には,この組織を展開するためには,そこに所属する人 達が今までの組織とは異質の組織人として意識していることが前提となるざる

をえないところから,権力争いなどの問題が発生しやすく,うまく作用しない ことが考えられるのである。(注2)

このマトリックス組織における問題点について,われわれの立場から論及す ると次の点にあると考える。

先ず,マトリックス組織におけるマネージャーの機能的特徴を考えてみよう。

マネージャーに要求されている機能は,仕事に応じて組織を選択すること,か なりのレベルに達している選択すること,かなりのレベルに達している人達の リーダーとなること,現場の意思決定が優遇されていること,などが当面あげ られる。これに対して,われわれはマネージャーに対応するものとして中間管 理職を考えるのであるが,職能の機能的分化として3つの機能と対比してみよ う。市場や仕事に応じてグループを編成できるし,そこでの意思決定が優遇さ れつつある。また,グループ・リーダーとしての行動も期待される。などは同 じ機能を有していると考えられるが,管理機能の高度化とスタッフ機能の充実 化は,そこには入っていない。

この比較によって考えられることは,中間管理職の職能の分化傾向に対して,

マネージャーはその一部の現場重視のグループ・リーダーの内容と一致するこ とである。しかし,他の2つの分化しつつある機能は,職能別組織下におかれ ていることからみても末分離のままにおかれていることになる。すなわち,環 境や状況の変化に対して専門化への機能的対応が要求されつつあるマネージャー

(=中間管理職)が,そのうちの1つの機能が強調されるだけで,他の機能は 分離されていなければ,前から述べているように,非常に困難な状態におかれ ることになろう。

このグループ・リーダーの機能は具体的にはプロジェクト・チームでの行動 によって実現されるものであるから,マトリックス組織はプロジェクト・チー ム組織をかかえることによって,職能別組織の問題を部分的に解消したものと 考えることもできる。

しかしながら,組織として他の2つの問題に対して抜本的に改良が加えられ

たわけではないから,マネージャーは中間管理職と同じ機能分野で,同様の困

難をかかえていることにはかわりがない。そのため,マトリックス組織は職能

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井島:中間管理職の変質化と組織      15

別組織とプロジェクト・チーム組織の両者の長所を活用するような充分の機能 的展開がなされているとはいえないのである。

課長制の廃止について

最近の組織的対応のなかに課長制を廃止した組織が出てきている。(注3)そこ で課長制度廃止の内容を,職能の機能的分化に関連して考えてみよう。

課長職は職能別組織のLow Managementとして中間管理職そのものを指す 具体的職階名である。われわれは,この中間管理職そのものを失くしてしまう

ことが,組織的にどのような作用をもつのかを明確にしなくてはならない。中 間管理職の職能は分化傾向にあるといえども,1人の担当職務領域として職務 の遂行を期待されていたわけであるから,その職位の消滅は必然的に職務遂行 機能の転化がなされていなくてはならない。

そこで情報の伝達と,命令と指導の面について考えてみたい。

経営者の意思決定が現場に伝達されるルートは,職位の上の者から順次下へ 会議を通じて,問題意識や留意点などとともに伝えられていったのであるが,

課長ポストが無くなるとそのルートは中断されることになる。すなわち会議を 通じての情報伝達は直接には届かなくなる。そこで,情報はOA機器が利用さ れて迂回して伝えられることになる。

すなわち,経営者の意向は,それぞれの現場をよく知っているスタッフを通 して分析され,具体化されてOA機器を通して現場に伝達されるようになる。

そして現場の結果は数値化されてOA機器にインプットされる。現場の情報と 状況は経営者はすぐに把握できる。その情報はまたスタッフによって傾向分析 や問題点の発見などに利用されOAに入れられる。そのため,経営者だけでな

く,現場も同時にその内容をチェックできるし,それぞれの考え方の相違や対 立点など,OAへのインプットで意思表明が可能となって,全体の状況把握が 以前より容易にできるようになってくる。

こうして必要な情報はOA機器を通じて,常にチェックできるため,情報の 変型にともなう誤解や対立を短時間のうちに修正することが可能となって,現 場と経営者のコミュニケーション・ルートの短縮化が実現することになる。

次に命令と指導の機能について考えてみる。

トヨタ自動車を例にとると(注4),改革前は,部長,副部長,次長,課長,副

課長,係長とピラミッド型の職階があった。それを中間管理職を廃止してスタッ

フ制を導入し,仕事に応じた横断的に柔軟なグループ編成に変えたのである。

(16)

具体的には,一つの部門に部長が1名,室長が2〜3名,グループ・リーダー が7名前後となる。そして,グループ中には部長クラスから一般社員までが編 成され,全員がスタッフとして扱われるのである。

ここでは職階による身分はなく全員がスタッフとして平等になるから,命令 とか指示はなくなって,合議制による意思決定と行動があるので,プロジェク ト・チームの内容がここにグループの名において実施されているものとみるこ とができる。

先に述べた情報に関しても,トヨタの事例では,OA機器の使用は当然であ るが,同時に部長を含め全員がスタッフとしてグループに所属しているため,

情報管理はより直接的で合議制による意見の交換を通じてスムーズに情報が伝 達できることがわかる。

以上のように,各職場のグループは,グループ・リーダーとともに情報や仕 事に応じてなにをなすべきかを討議し,それによって決定された内容をもとに 実行されることになるから,命令そのものは存在しないが,合意にもとつく指 令はあることになる。

合意にもとつく行動は,逆にいえば,合意できなければ経営者の要求といえ ども実行にうつされないことになる。その意味で,命令が無くなる替りに,現 場に対して説得力のある状況として要求が提示されることが必要となってきて

いる。

経営者の意思決定のなかにはグループが受け入れがたい内容のときもありう るであろう。それでも受け入れさせるためには,グループにそのような内容で も常に前向きに話し合う姿勢ができていなくてはならない。即ち,不可能と考 えられる場合でも,常に実現に向けて最善の努力をする姿勢を持ったグループ を作り,維持しなくてはならないことになる。このように,全体が前向きに解 決をはかる積極性を前提として組織化されていることが組織存続の基盤である となると,グループを形成している全従業員は大変な状況に常におかれること になるわけで,疲労を含め,長期的に維持しつづけるのに多大な問題を含んで いるといわざるをえない。

こうした新たな問題はあるが,以上のように観ると,環境の激変によって困 難な状況に立たされている中間管理職の立場は,分化してより専門的対応が要 請される機能を1人で無理にやらされていたためにおこった問題であるから,

その職位を廃止することは,一挙に問題を解消してしまうことにつながるので

(17)

井島:中間管理職の変質化と組織      17

ある。

そこで,われわれは課長制廃止にともなう組織の変化が,安定的に成立する ための要件について考えを進めていきたい。

4 組織変化の成立要件

4−1 新組織の形態的特徴

中間管理職ポストの消滅は,組織の形態としては,経営者の階層のうち労働 者に近いところのポストがそっくり無くなるわけだから,上下の接近が進み,

全体としてフラット化した特徴が出てくることになる。

この消滅したポストは,組織全体からみて管理者が多すぎてバランスをくず しているといわれたところだけに,人員とコストの削減の面で大きな効果があっ たと考えられる。そして,情報の面においても,中間でチェックする機能がな

くなることは,上下の情報がより簡潔で短縮されて伝達されるわけで,情報の 歪みを減少させる可能性も高いなど,長所が多々あると考えられている。

しかし,組織のフラット化は長所ばかりでなく,今まで中間管理職として展 開されてきた有効ないくつかの機能も,実施者を失しなうことになる。しかも その機能は組織の維持に重要な働きをしたものもある。たとえば,下からの情 報を上に伝えるとき,チェックして不必要なものは上に伝えないなど情報量の 調節機能をはたしてきた。また部下を指導したり,命令・統制など多くの機能 をまかされてきたのである。そのため,フラット化と同時に,もろもろの機能 は組織的に消滅するのではなく,転換せざるをえなくなっているわけである。

たとえば,グループ・リーダーとしての機能やスタッフの機能の新展開にみ られるように,中間管理者が期待されていた行動様式がある意味では,そのま ま機能分化して再編成された面もある。

具体的にみると,売上増大を目標に中間管理職は,業務に関連した知識や技 術に精通し,経営者の方針を部下に実行させ,率先して行動するグループ・リー

ダーの機能を遂行してきたし,経営者に対して戦略や意思を明確に示し,状況 の変化に柔軟に対処して,問題意識をもって積極的に提案をするなど,戦略参 謀としての機能,すなわち,スタッフ機能の充実などの面も期待されてきたの

である。

それが,組織のフラット化によって実施者がいなくなって,機能だけが残さ

(18)

れることになる。これが,それぞれ機能的に特殊化された型で出現してくるこ とになる。すなわち,従業員の小グループ化とその内部におけるリーダーの出 現。また,グループ間相互の連携や経営者層の戦略や方針の具体化における援 助・補佐などのスタッフ集団などである。

これらの組織的再編成は,常に変更がきく状態におかれている。そして仕事 やプロジェクトに応じてグループ化されたチーム形態によって,それぞれの現 場が管理されると同時に,全体組織も同じようにチーム形態を原理的に採用し ながら展開されることになる。その意味では,チーム管理組織の特徴が強くなっ ている組織というよう。

そこでは,経営のトップ・グループも,現場の小グループも,またスタッフ のグループも,それぞれが対面する仕事を遂行するためにプロジェクト・チー ムの性格を強くもって機能的展開をすることになる。

特に経営者のグループと現場の小グループ集団を有機的に連結する役割をス タッフが専門家集団として荷うことになる。そのために小グループに専門家の スタッフが加わって,一体となると同時に小グループの性格がプロジェクト・

チームと同じであるため,その構成員は全員がスタッフとしての性格を持つこ とになる。

このように新しく展開される組織形態は,それぞれにリーダーがいる小グルー プの集合体である。そして,部分も全体も原理的に同じプロジェクト・チーム 方式のもとで,環境の激変に柔軟に対応していくフレキシビリティに富んだ特 徴をもっているといえるのである。

4−2 小グループの組織と機能

ここでは,組織の構成単位である小グループの機能について,グループ・リー ダーとスタッフ機能との関係において検討したい。

小グループの構成は,その目的に応じて自主的に形成される。そのため,比 較的大きいグループから,少人数のグループまでさまざまな形として存在する。

リーダーはグループ内で自主的に決定され,グループ・リーダーとして一定期 間組織的に認定される。すなわち,インフォーマル・リーダーとして選ばれ,

フォーマル・リーダーとして組織から公認されるわけである。仕事の内容と方

法・手段などはグループがリーダーを中心にして自主的に決定できることになっ

ているが,全体組織との関係があるため,スタッフの指導・アドバイスの下で

統合をはかることになる。

(19)

井島:中間管理職の変質化と組織      19

リーダーはグループの管理・監督するのではなく,リーダーシップを握って グループを統合し指導する機能と,市場との関係で意思決定のイニシャチブを とることも期待されている。スタッフはグループの組織状況から,業務内容,

そして市場との関係まで全体を把握し,グループの成員全体の評価をする立場 にある。しかし,スタッフとグループの成員とのあいだに身分上の上下関係が あるわけではない。

グループの指導には「目標による管理」が導入され,グループや個人の業務 活動は基本的にそれぞれが自主的に相互に話し合いながら決定される。スタッ

フは目標とか満足水準の決定にあたってアドバイスをすることになる。

また,経営者のグループにおいても,その意思決定にあたって,スタッフは 現場の状況や特殊性・環境など必要とされる情報を提供することになる。

情報についてはスタッフの介在があるが,内容に応じて小グループは,その 事実の分析など話し合いを通じて行動の指針を決定したり,自己を管理し状況 や環境に対応しようとする行動がとられることになる。

すなわち,命令は基本的になくなり,必要な事実や情報と,場合によってス タッフの援助も加わって,どのように実行したらよいかの意思決定がグループ の自主性の下でなされるわけである。フォレットのいう「状況の法則」(注5)に 従うことにより,命令一実行の関係,すなわち上司と部下の関係ではなく,事 実にもとつく判断を自分達で下し,それを命令として実行にうつすことになる のである。

このような小グループ制の採用は,小集団管理の組織構i造に基本的に共通の 形態となっている。それは,自主管理システムの導入によって,自主性を育成 する管理手段として展開されるからである。すなわち,グループの構成員は所 属するグループの目的を明確にもち,自分がその目的の実現のためになくては ならない一員としての自覚を持つことで,グループ行動が自主的で積極的にな るように形成されるためである。

4−3 組織の維持と要因 組織の安定要因

組織の特徴とグループの組織形態の中でみてきたように,グループの意思決

定がかなりのレベルで自主化されている状態を,当然のものと設定した状況の

なかでとらえてきた。 組織の運営は,成員全体が共通の目的を持ち,それを

実現するために協働関係が成立していなくてはならない。しかし,現実は,さ

(20)

まざまな人達が組織の中に存在している。たとえば,給与をもらっている範囲 で仕事をするが,それ以上でも以下でもない人。組織のためとか職場の同僚の ために一生懸命仕事をするということはなく,自分の趣味とか組織以外の所に 生き甲斐をみいだして,そのために努力する人とかのように,組織目的から離 れたところに各自の目的や意義をみいだし,形式的に組織の協働関係を維持し ている人達も現実には存在しているのである。

このような人達の存在をそのままにして,命令・統制系統を消滅させてしまっ たら,組織はばらばらになってしまうことは明らかである。職能別組織に多く の問題が発生していても,改革の手段が講じられないでいる組織が多いのはこ のためである。基本的に必要な組織構造を創り出せないでいる組織は,組織の フラット化はかえって組織を崩壊させてしまうことになるので,実施は不可能 となる。       \

組織のフラット化にあたって,基本的に必要な組織構造とは,組織全体が共 通目的をめざして統合への過程を歩んでいる状態をさしている。当然,所属す る個人も積極的に組織活動に参加する状態がそこにはなくてはならない。この ような状態が創られているか,もしくは,その過程にあるとき始めて職能別組 織を構造的に変革することが可能となるのである。

以上のようなことから,統合への過程を歩んでいる組織とは,管理の自主化 のシステムが有効に作用し,同時に,個人の組織への統合を推進する自己管理 の組織化の過程が実行されている組織を指していることになる。そして,この 状況が維持されているとき,組織が安定していることになるからである。

なぜならば,フラット化された組織は,上からの命令がなくなり,自主的に 行動が決定できることになっているため,グループの基本的姿勢が組織に対し て前向きになっていなくてはならないからである。もしそれがなくなっていれ ば,当然,グループの成員それぞれが求心力を失ってバラバラになって統制が とれなくなってしまうことになるからである。

ところで,このように組織の構成員が基本的に方向づけられている状況下で は,組織のフラット化はなんの問題もなく進展することになるのであろうか。

次に,組織の安定にとって阻害要因となる点について考えてみよう。

組織安定の阻害要因

人間行動には潮の干満と同じように大きなうねりがある。緊張を高い状態で

長期に維持することは困難であり,反作用も強いことを考えなくてはならない。

(21)

井島:中間管理職の変質化と組織      21

組織に所属していることに安心と喜びがなければ,自己保全の1方法として 他の組織に移ってしまうこともある。ある程度の緊張状態を作り出していない と,自己管理システムは有効に作動しない。しかし,その緊張に対して,自己 現実につながる可能性をみいだしている人と,その可能性をなくしている人と では,組織の存続にとって大きな差異のある行動が起こる。これは,組織行動 に関連して,将来に夢を持てる人と,そうでない人との関係としてみることも できる。自己実現が可能な人は,組織行動に緊張が加えられても,積極的に対 応してくるが,反対に,自己実現や夢を持てなくなっている人は,所属の安定 を求め,現状の維持を目的とした行動を取ることによって,将来に期待をもて なくても,組織及びグループに所属していることを希望し,自己管理システム の緊張に耐えるシステムを持つことになる。

このことを,個人の立場でみると,将来の希望や自己実現の期待と,この現 状維持との間は,組織的緊張の立場と弛緩の関係と理解することができる。こ の両者を繰り返しながら,全体の自己管理の組織化にあたってレベルのアップ かダウンの方向を歩むことになる。また集団の立場でみると,目的が不明確で それなりの仕事に対応している状態と,明確な目的のもと集団がそれにたち向 う姿勢がでた状態のときに弛緩と緊張がおこる。たとえば,外的圧力があるグ ループに加えられ,グループの安定に重大な危険が及んだとき,そのグループ は・一致団結してそれに対抗しようとモラールの高まりが発生する。それが緊張 で,グループがまとまって行動をおこしていない状態を長く続けると,成員間 に弛緩の状態がでてくる。このどちらかのみの長期的持続は組織自体の存続を 危うくすることになる。

組織的緊張と弛緩の交互の過程は避けることのできない人間行動の心理的作 用とみなくてはならない。

われわれは,先に,組織目的に成員が方向づけられているとき,すなわち,

組織的に緊張状態が出ているとき,組織のフラット化は促進されると展開して きた。しかしながら,組織の安定的持続のためには,緊張状態だけの過程はあ りえないことになり,かえってそれは組織安定の阻害要因ともなりうる側面が あると考えるのである。

そこで,自己実現や夢を持てなくなっても,現状維持によって所属の安定を 求め,そのことによって自己管理システムの緊張に耐えることができる。とい

う内容についてさらに分析してみよう。

(22)

組織的な緊張と弛緩の関係は,相反する心理的作用と理解される。しかし,

緊張が高まる状態と,緊張が弱まる状態とでは,共に緊張の状態が存在してい るにもかかわらず,心理的に緊張と弛緩の作用がもたらされていることがわか る。実は,自己実現や夢を持てる緊張状態と現状維持の状態とでは,共に一定 の緊張状態の範囲での高まりと弱まりの作用がおこなわれていると考えられる のである。組織的管理はこの心理的作用の下で,阻害要因の除去を指向するこ

とになるのである。

ところで,グループの場合における緊張と弛緩も個人の心理作用と同じと考 えるべきであろうか。集団の成員間相互の心理作用は,大きな振巾をもってい るため,個人の心理作用とは異なる側面が大きい。集団を構成する人達の個人 間には感情の問題が特に大きく入ってくる。固体間の競争の原理が作用して,

心理作用の振巾を大きくすることになる。組織の緊張であれ弛緩であれ,成員 間では相互作用に反応してより一層の強い行動をおこすことがある。緊張状態 がでてくれば,その状況に落ちこぼれないよう意図的に参加意欲を高め,組織 のモラールの高揚に大きく作用する。反対に,弛緩状態が発生すると,自分だ けが一生懸命行動することの心理的抵抗感が起り1人ひとりがグループの構成 員の関係を弛めてしまうため,まとまりを作ることは非常にむずかしい状況が 出現する。このように,集団における緊張と弛緩は,個人のように緊張状態の 中における弛緩作用がおこることとは異なり,明確に相反する作用として発現 してくることになる。

このように考えてくると組織の維持のためには,集団の管理と,個人の管理 は異なった展開をよぎなくされることになる。全体の組織維持にあたっては,

個人管理の心理作用をより重視しなくてはならないことが明らかである。すな わち,個人の組織に対する参加姿勢の持続と強化(=自己管理の組織化)こそ が,組織安定のための基本的要件となるわけである。なぜなら,個人の集団帰 属意識が明確であれば,組織の緊張への過程は基本的に保障しうるからである。

5 結 び

現代の企業は,どこでも中間管理職の質的低下に大変苦労しているといわれ ている。部下の指導を始め,職場全体の管理ができていないというわけである。

どれもこれも問題が山積していて,手がつけられないほど困難な状態にたちい

(23)

井島:中間管理職の変質化と組織      23

たっているのである。当然,そのような管理者の下にいる部下は,上司に対す る不信の念とあきらめで,職場の雰囲気を暗くしており,結果的に退職者も非 常に多いといった事態が出現しているのである。

ところが,中間管理職の職能の分析で判明したように,管理者の能力の低下 だけが原因ではなく,むしろ能力よりは環境の激変による機能の変質化が,管 理者の行動を困難なものにしているということが明らかなのである。コンピュー

タの導入や市場の激しい変化が管理職の機能の分化をうながし,それぞれに,

より高度な対応をせまるといった状況が出現してきたのである。それにもかか わらずに,組織はなんの手もうてずに,管理者1人で全てうまくやるようにと いった無責任な行為を続け,職場に混乱が生じた場合は,管理者の能力のせい にするという安易な考えで放置してきたのである。

中間管理職のおかれた状況は,より高度な管理能力と,より専門化されたス タッフとしての活動と,そして,現場従業員のグループとしてのとりまとめ能 力の高度化,などとそれぞれが専門的に対応せざるをえない傾向のなか,管理 者1人でそれら全てをやるように期待されてきたのである。どこの組織も人員

を少なく切りつめているため,なにかのきっかけで,部下が辞めると,その仕 事は手いっぱいの他の従業員に振り分けられ,こんどはその従業員が限界にき て辞職するといったように,連鎖反応的に問題が大きくなるわけである。

この問題を根本的に解決するには,現在のところ,中間管理職を廃止すると いった方法しか対策がない。しかし,その手段を講ずるには,組織の体制その ものを改良しなければできないことが明らかになった。それは,中間管理職の 廃止が,従来の組織制御の方法である,命令と統制の手段を同時に消滅させて

しまうからである。そのため,廃止をするには,従業員に,上司による命令と 統制の手段がなくてもよい状態を作ることが,最低の条件となったのである。

それを達成するには,自主管理システムにより,自主性の発展と組織に対する 積極的参加の姿勢を作ること。そして個人の自己管理の目的を組織のために方 向づける「自己管理の組織化」(注6)が不可欠のものとなることが明らかになっ たのである。

しかし,これら自主管理システムによる自主性の発達や自己管理の組織化は,

どの組織でもたやすく実行できるというものではない。これができるところだ けが,中間管理職の廃止という解決策がうてるということになる。そのため,

現実の多くの企業組織は,これからも,中間管理職の困難な状況をだまって観

(24)

ている外に解決の方法がみつかっていないのが現状なのである。

[注記]

注1. Qc活動=Quality Contro1 Circle

(品質管理グループ)

ZD運動=Zero Defect Movement

(欠陥品をゼロにする運動)

QwL=Quality of Working Life

(労働の人間化)

これら全て小集団活動である。

注2.Davis,S.M.&.P.RLawlence,Matrix,Addison−Wesley,1977 津田達男・梅津祐良訳『マトリックス経営』ダイヤモンド社,1980 注3. トヨタ自動車㈱は1989年8月に事務と技術部門の課長ポストを廃止。

清水建設㈱は1990年4月に全部門の課長ポストを廃止。

注4.高木敏行著『トヨタから課長が消えた』ごま書房1990年 21〜22頁参考 注5.Mary Parker Follett, Dynamic Administration, Edited by H.

C.Metcalf&L.Urwich, Harper&Bro. pp.58〜64(米田清貴・三戸公 訳『組織行動の原理一動態的管理一』未来社 1972年 83〜91頁)

注6. 「自己管理の組織化」と自主管理については,次の拙稿を参照

「管理の自主化と自己管理」 (『茨城大学人文学部紀要』社会科学第17号 昭和59年3月)

「組織統合と個人に関する研究一自己管理の組織化との関連において一」

(『茨城大学政経学会雑誌』第51号 1986年)

参照

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