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中学校数学教育の問題点(1)

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(1)

中学校数学教育の問題点(1)

←       数学研究室 佐 藤 瑛  一

〃  宮 田 龍 雄

(昭和47年10月28日受理)

まえがき       などと特殊な集合に片寄りすぎていると思われる・また 昭和44年4月の中学校学習指導要領の告示に基づく中  外延的表示による具体例では,偶(奇)数,約(倍)数 学校数学科における改訂では「時代進展への即応を目指  などの定義が,暖味で整数環の同伴元を無視した形で与

して,徽念の導入」を計かり,それに伴なう内容改善 えられるが・このことは盤の性質の指導上の騨と同 の必要性から「基本事項の精選,集約」と「生徒の発達  様に現場での蓼亨に混乱を生ずるおそれがあろう・

段階に応じての数学的な考え方の育成」にいっそうの重   部分集合は有限な集合の具体例を通して導入されるこ 点をおく方針が打ちだされた。これを受けて昭和45年5  とが多い。これは後の関数の指導とも密接に関係してく 月には中学校指導書数学編が発表され,それを基調とす  ることを考慮して見るだけでも,できうる限り一般的な

る中学校数学教育が今年4月より実施されている。    概念として定着させておかなければならないのではある 小学校算数教育の改訂におけると同様,今回の改訂に  まいか。一般に・具体例→抽象化という型の指導では,

機多の問題点があるように思わ潔 3きらにまた轍 それに用いられる具体例は普遍化可能な例でなければな

      らないことは言うまでもない。生徒が概念を把握する過科書の内容も必ずしも指導要領の目標に添い切れている

      程で,その具体例のもつ特殊な性格が利用されるようなとはいい難い。ここでは中学校数学科の 数・式の領

域について,考えられる問題点牽考察してみたい。なお  ことは避けたいものである。たとえば,部分集合の定 他の領域についても順次取り上げていきたい。      義,2つの集合の相等に・多くの教科書で見られるよう

に,具体例を有限集合のみに限定すれば,大部分の生徒

1.集  合       は有限回の試行という形だけで確認するに過ぎない・い

くつかの要素のもつ共通性質に着目させて集合の関係を 集合の考え方は小学校においても指導されてきている  見つけるためには具体例として無限集合までを含めて与 とし「小学校では具体的な事がらに即して,集合に着目  えるべきであると考える。空集合の取り扱いも極めて不 して考えさせてきたのに対し,中学校ではそれらを見直  用意な教科書が見受けられる。要素をもたない集合とし

し共通点を見いだして,それを抜きだし・名前と記号を  ての空集合が定義そのものなのであるか,部分集合の一      ●  ●  ●

与えるその名前や言己舞碑響われる場甲噸極的に 例として生じてくるものなのであるのかとい澗題空       ●  ●用い」ることとし・「集合の意味について理解させ,集  集合はすべての集合の部分集合なのであるのか,部分集

●  ●       ●  ●

合の間の基本的な関係について理解させる」ことが要請  合になるのであるのか,実際の指導では大きな問題であ されている。       ろうと考える。このようなことは共通部分の指導などに

 ここでは数・式の領域との関連において集合の指導の  おいても見ることができる。たとえはA,Bの共通部分       5)

竭闢̲を考えることにする。多くの教科書に見られる集  A∩Bと,B, Aの共通部分B∩Aが初めから同じも 合の定義では上の要請を受けて,集合の範疇性のみが強  の,すなわちA∩B=B∩Aは全く自明として扱かって

く前面化しているが,それだけでは集合概念の規定とし  いる教科書もあれば,それは証明されるべきものとする ては不十分であろう。要素の相等,配列などについての  教科書もある。

指導上の配慮がなされたとしても実際には支璋が起らな   集合の記号についてはあまり強く規定されるべきでは いであろうから,もう少し立ち入った取扱いができるよ  ないと考える。集合を表わすのに大文字の英活字のみを

      一

、に望みたい。たとえば,あるものの集りが集合をなし  用いるならば極めて不自由である。補集合の記号Aは うるかどうかの判定に具体例を用いた指導がなされるこ  論理との関連でこのように統一されていると思われる とは当然であるとしても,とくに内包的表示による具体  が,閉集合の記号との関連も考慮しなければなるまい。

例では整列化された数の集合,有限個の要素のなす集合   つぎに,ベン図と集合の指導との関係を考えて見よ

(2)

う。積極的にベン図を指導する教科書が少ないことは歓  である。

迎すべき傾向といえる。1,2の教科書では外延的また   実際の例として現行の教科書から2,3の例を拾って は内包的に与えた有限集合をペン図に表示させる問題を  見ることにする:

      ●  ■  ●  ●  ■ ロしているが,このことは集合の指導における教育的価    24=6×4,つまり24は6の4倍である。このように

●  ●      ●  ●       ●  ●  ●

値を殆んどもちえないと考えたい。最大公約数,最小公  整数σが整数6のちょうど整数倍になっているとき,

      ● {数を求める方法としてペン図を用いるかの表現がみら  δをαの約数といい,αをゐの倍数という。αがど

      ●  ●  ●  ■       ■  ●  ●  ●  ●  9

黷驍ェ,ベン図を作成する過程の中に既に最大公約数,  んな整数でもα=1×αであるから1はすべての整i数の 最小公倍数は把握されてしまっていると考えられる。な  約数である。

お,この場合に考える集合は無限集合であるので,その    (もとの数)=(わる数)×(商)+(余り),わ 要素の中で最大・最小の要素を判定することは実際には  り切れるのは余りが0のときである。整薮αが0でな 直観的にしかなしえない。この例からもペン図が集合の  い盤薮δでわり切れるとき,σ=ゐx(整数)であって,

考えそのものにつながるとはいえないと思う。ベン図の  ゐはαの約数,αはゐの倍数であるという。

使用は推論や思考を進めていく上での補助的な意味はも   これらの例では同伴な数の取り扱いが必要になったと つとしても,逆にベン図を用いて集合のよさ,集合の意  き,現場の指導で問題であると考える。また

味をわからせることには反対である。この方法では真の    整数αを整薮δ(キ0)でわったときの商を9,

集合の理解は得られないと考えるからである。      条らを7とすると,これらの数の聞の関係は

α一δxg=ち7<δ。

Z 数について       ・(割られる数);(割る数)×(商)+(余り),

第1学年の始めに集合を用いて約数,倍数,素数,記  余りは割る数よりも小さい。

数法などの整数の個々,または相互の整数の間の性質が  などの表現では整数≧0を想定しているが,一般の整 指導される。この段階での整数はいわゆるWhole Nu一 数の性質の理解にとって不十分な先入観を生徒にもたせ mberの意味とされる。負数の指導の行われる以前では  てしまうのではないだろうか。また・この事実は剰余系 これらの性質の利用は狭い範囲をでない。すなわち,集  の導入の際,基本となるものであることに十分留意しな 合,部分集合などの包含関係,または整数の整除性など  ければならないことを指摘しておこう。

に用いられる程度である。前者については他の初等的な   約数,倍数については

・   ●   ●

教材で十分なのであり,後者については集合の項でも述    いくつかの自然数に共通な倍数(約数)をそれらの

●  ●   ●

ぺた通りすぐ後に負数の導入を控えて,整数を有理整数  数の公倍数(公約数)といい,その中でもっとも小さい

,  ・  ●

の意味に拡張せねばならないことを配慮すぺきてあろ  (大きい)ものを最小公倍数(最大公約数)という。

●   ■

う。小学校,中学校を通じて一般に数の定義に関して    2つ以上の整数に共通な倍数(約数)をそれらの数 は,同一の用語を必要に応じて何度も意味を拡げて定義  の公倍数(公約数)という,公倍数のうちで0を除いて

●  ●       ,  ■

し直すことが多いようである。このことは教育的な立場  最小なもの(公約数のうちで最大のもの)を最小公倍数 からの配慮であるとしてもやはり問題が残るであろう。  (最大公約数)という。

●   ■

たとえば,負数を導入する以前において整数の代わりに   などの例でも整数の同伴性への配慮は全く無視されて 0または自然数と言い換えても教育的には支障はあるま  いるといえよう。

いし,「数学的な考え方」を育てる目的にも望まれてし   もっとも同伴性や単数の概念は整除の理論に本質的な かるぺきであろう。このことは奇数,偶数,約数,倍数  役割を果さないのではないかという考え方もあるかも知 などの用語についても類似で,負整数への配慮がないと  れないが,その考え方が許されるのは同伴性,単数の概 いえると思う。加法,乗法に関する交換,結合,分配の諸  念を既に経過した後であろう。もしそうでないとすれ 法則が数の拡張ごとにかなり強い調子で前面化している  ば,負の整数の乗法なども本質的でなはないことにな

ことと全く対踪的である。換言すれば,整数環における  り,ある意味では指導されなくてもよいという極端な考       6)1個または2個の要素に関する性質一正則性,同伴性  え方も許されるであろう。

一などは無視された形であり,整数環の構造に重点が   整数の集合のもつidea1的性質もいくつかこの段階で おかれているという意味では片手落ちではあるまいか。  軽く扱われる。これも特殊な要素を用いての険証のみで 数体系において個々の要素のもつ性質は体系全体の構造  結論づけられることが多い。しかしながら,構造と共に と不分離の関係を有することは否定できないと思うから  集合の自閉性に関する重要な性質であることを認めると

(3)

すれ}£搬の要素(文字)を用いて証明できるよ磯 数のもつ構造のより深い曜をさせるというてよいであ

       ろう。しかし「2進記数法などによる計算については深会なのであるから統一的に考えさせる,または抽象化へ

       入りしない」とされているので,実際の取り扱いでは,の指向の教材として積極的に取り組むべきではないであ

      重点がおかれる結果,必ずしも記数の方法の理解につな素数の指導では教科書による定義の差はあまりないと

       がることにはならないおそれがある。10進法以外の記数いえるが,中には素数から1を明確に除外してないもの

      法による表示を道具とする計算が或程度深入りして,始もみられるので注意したい。整数の素因数分解は,かな

       めて記数法が生徒に定着されると考えることは誤りであり一般の方法で述べられている教科書もあるが,具体例

       ろうか。その理由として10進記数法と小学校全体を通しの2,3の呈示で済ましているものが多い。分解の一意

       ての10進記数表示による数多くの計算との関連を考えれ性については指導書にも「演繹的に証明することを要求       ば十分であろう。2進法でも5進法でも数多くの具体例しているわけではない」としていることと,分解の可能

       を通して指導することが可能であるので,もっと原理性まで具体例で行なっていることとは興味ある考え方の

@      的,積極的指導が試みられてもよいのではないか。後に相違といえよう。分解の一意性はもちろんその結果だけ

       指導される剰余系の基礎となりうる意味からも無駄なごを知らせるという形で与えているが,素因数の順序につ

       とではないと考える。       、いては殆んど何の注意もなされていない。せっかく整数

の集合に交換法則を導入しておきながら,それを活かす   この段階にまでくるとよく見受けられるのであるが,

       数学教育の具体的方法として僅かの具体例を通して,あ場が高々四則の計算においてのみであることは不可解と

       まり・一般化の背景を考慮せずにしかも結果を一般の形にもいうべきであろう。これに類似のことは今回の改訂で

       形式化し,方法を一方的に呈示して,生徒にはそのpa一 桙髀?ンられるといっても過言ではない。いろいろの知

       tternに合った練習問題のみを課することが多い。いう識を一見系統的に積み重ねる指導がなされていると思わ

       までもなくこの事実は「事象を数理的にとらえ,論理的れがちであるが,実はそれらの知識はあまり有機的なつ

       に考える」こととは逆の方向といえるであろう。「単にながりをもちえず,生徒に大きな負担を課する可能性が

       形式的な内容の指導に陥らないようにする」といわれて多いと考えることは行き過ぎであろうか。

素因数分解伽灘もその糸課が述べられてしま。た 見ても記数法における鱒要領の内容詣轄の説明だ

       けからすれば,このようなことは不可能であろう。そのあとでは捨て去られて省りみない。素因数分解の一意性

を根拠に最松倍数(最大公緻)などが確定されるこ 細づけとなるいくつかの例を指胤ておこう:..

とはいうまでもない。さらに心配されることは,数学の   「十進法の場合は,0から9までの10個の数字でどの       ●  ●  .  ・

いろいろな場に現われる一意性は自明なものなのである  ような数も表わすことができる」,

という印象を生徒に植えつけてしまう怖れがあるので,   「二進法や五進法で表わした数についての加法や乗法

ここの一灘の取り扱いは+頒重にしてもらいたい。 については・これまでの+轡懲やセ轡側箏博

少くとも演繹的に証明する必要のあるものとして残され  ける原理や法則に基づいて計算すればよいことを知らせ       ■

た問題であることを意識させなければならないと考えた  る」・

・㌔このことは,加法,乗法の諸法則の指導においても .墾3騨」曾{3+1G3x°+1°2x4+1°×3+1×5を 同様な注意が払われなければなるまい。        簡単に表わしたものである

「素数の意味を麹飾させ,これをもとにして,整数が   記数法の応用として・たとえば,9の倍数の判別法が 素数の積として表わされることを萌らふにし,約数・倍  よく取りあげられているが,多くは2,3の具体例から 数など整数についての鍾飾を森ある」としても,指導要  9の倍数を見出させる範囲をでない・このことは9の倍 領の内容に踏み止まる限り形式的に素因数分解がなさ  数そのものの判別が重要なのではなく,むしろこのよう れ,形式的に最大公約数,最小公倍数を求める結果しか  な対象を用いて記数法の理解へと還元されてゆく方向に 期待できないのではあるまいか。       指導されなければなるまい。

つぎに考察を記数法に移そう。「数にはいろいろな表   負数の導入については指導要領では「正の数と負の数

●  ■  ●  ●  ■  ●      ●  ■  ●  ●  ●

現があることについての理解を深める」ことになってい  の意味を理解させ,その四則計算ができるようにすると

●  ●  o  ● る。この意味するものは10進,2進,5進などの記数法  ともに式がより広い意味に用いられることを理解させ       ●

驤モ味では同一の場で考えるということであろう。  る」としている・すべての教科書に見られるように,負 すなわち,10進記数法以外の記数法を指導する目的は,  数は正数に相対するものとして指導されるので正数と負

(4)

数とは対(つい)として理解されなければならない。こ  では避けられない事情と解釈される。

の意味で正数,負数を独立したものとして理解させるよ   つぎに数の集合のもつ構造をとり挙げよう。中学校に うな印象を与える表現は不適切であろう。同様に「数を  おける構造の意味は四則演算の自閉性と,交換,結合,

正の数,負の数にまで拡張すると,減法が常に可能にな  分配の法則などの観点からみたもので,いわば整数のな る」という表現にも問題がある。減法可能という概念が  す環または有理数のなす体の構造を背景にもつものと考 先行するのではなく,数を拡張して始めて減法という演  えてよいであろう。過去の数学教育では数そのものの性 算が定義されることをふまえなければ,論理性を失うこ  格に観点がおかれていたので,数の集合のもつ性格とし とにも考慮が払われなければなるまい。このことについ  ての構造の指導は今回の改訂では極めて中心的な部分を ては後に数の集合とその演算についての自閉性でふたた  占めている。

び考えて見たい。      たとえば「整数全体の集合Mでは,Mに属する任意の

「正の数,負の数についても,これまでの数の四則の  二つの数σ,δをとれば,常にσ+わ∈M,σ一6∈M,

意味をそのまま拡張して,四則の計算ができるという考  α×δ∈Mとなっている。これは,整数の集合は,加法,

え方がたいせつである」と指示されているが,この表現  減法,乗法の演算について閉じていることを意味してい もあまり正確ではない。逆に四則を適当に定義できるよ  る」という表現はcategorica1な立場からのものであ

、に数を拡張する考訪が大切なのであろう。ともかく ぎ㌦たがって剰余系などを考察する_,a、。g。,i,a1

この考え方を生徒に定着させることは大変困難なことで  な立場へはそのまま通用し難い。むしろ整数の集合には あり,多くの生徒は正負の数の四則を形式化した形で記  演算加法,減法,乗法が定義可能とする見方の方が広汎 憶させられることになると思う。これを裏づけるかのよ  であると思う。厳密には自然数の加法を原始概念とすれ うに殆んどの教科書では      ば,整数の加法はそれからの誘導概念である。詳しくい

正数と負数の積は,それらの絶対値の積にマイナス  えば整数は2つの自然数の対として定義されたものの類 の符号をつける。       別から構成されるものであり,したがって整数間の加法

という型の指導にむしろ重点があり,また現場での指導  は類の間の演算であるので,自然数を整数に拡張したと では四則の原理は全く形式的に扱われ,多くの本質的で  きに同型による埋め込みを同一視することによって,自 ない計算の指導に終始してしまうことであろう。     然数の加法演算の拡張として定義されているのてあるか

「α一わ=α+(一のということから加法と減法とが一  ら・加法演算の逆算としての減法も自然数から整数への

       ●  ●  ●  ●  ●  ●  ■  ●  ●  ●

ツのものに統一・されることを理解させることが必要であ  拡張に先き立つものではない。歴史的には減法の拡張の る。このことは,除法が逆数を考えることにより,乗法  要請から自然数→整数と拡張されてきたとしても論理的 と一つにまとめられることと対比して考えられることで  には上のように把握されなければならない。数の集合の ある。こうしたことを理解させることによって,文字を  もつ構造の導入では数学のもつ論理性の意識が背景にあ

      o  ■  ●  ●  ●  ●  ■

pいて式を作ることも簡単になることも理解させること  ると仮定するならばやはりこのことを確実におさえてお

■  ●  ●  ●

ができる」      かなければならないと考える。

と見るのはいささか安易な見方ではあるまいか。ここに   指導書にもこれを受けて

至る前には文字,数字は正のものに強く限定されて来た   「集合Mの任意の二つの要素α,δをとるとき,その のであり・負数の導入の直後にこのような指導がなされ  順序のついた組(α,のから(Mの)一つの要素oへ たのでは・生徒にとって現実的には受けとめ難いのでは  の対応を演算と考えることができる」

ないだろうか。       としている。すなわち,閉εそC・巻C・演章とは便宜上

「正の数と負の数についても,これまでの数の四則の  の表現と解釈されなければならない。したがっで・演算・

■  ●  ●  ●  o  ●  ●  ●  ●  ●  ¶  ●  o  ●  ●  ●

意味をそのまま拡張していけばよいことから・これまで  なり, 閉じている という用語の使用はさらに厳格に の数で成り立った演算の基本法則である交換,結合およ  したいものと希望する。

●  ●  ●  ●  ■  ●  ●  o  ■

び分配の法則も・そのまま同じ形式で成り立つ」ことを   「数の集合のある演算についての基本的な法則が成り

●   ●

理解させることは所詮不可能であって,事実すべての教  立つかどうかという見方ができるようにする」とされて 科書ではそのような立場はとっていない。2,3の具体  いるがその意味は曖味である。法則が成り立たないこと 例の適用による検証で逃げた形がとられ,結論だけが上  はただ1つの反例で示すことが出来るが,法則が成り立 から押しつける形で述べられているに過ぎない,しかし  つことの立証は不可能であろう。このことは数学的な考 この事実は極めて望ましくないとしても,指導要領の下  え方を育成するねがいから導入された指導内容が,みず

(5)

から数学的な考え方を否定する結果を招いているともい  一般性を失うことではないので適切であると考える。

えることで,さらに十分の検討が必要であろう。      指導者,教科書を通じて,剰余系はその完全代表系に 単位元,逆元の指導のあと,「α+劣=δという方程式  おきかえてしまって考えているが,このことにより・剰 を解くことと,α×κ=6という方程式を解くこととは,  余系を導入した大きな意味が殆んど失われてしまうのは 同じような考え方に立っていることをわからせることは  残念である。さらにその結果として剰余系の演算をどの たいせつである」とされているが,方程式の指導におい  ように考えるかという指導,つまりはじめの集合Mにお て解集合の考えが重視されるという立場をとるのである  ける演算をもとにして,剰余系においても同じように演 から,いずれの方程式を考えるにせよ,α,δ,κ,をど  算が定義され,その自閉性とか,その演算についての諸 んな集合の要素と考えるのかに留意せねばならないの  法則の考察を極めて薄めた程度で考察させる。現実的に で,加法,乗法をそれぞれ演算とする数の系相互の同型  はZ/@)における演算表の作成のみで終ることにな 性を考慮せずに上のように述べることはあまり有意義で  る。これでは「剰余系の考察を通して,数の集合とその

■  ●  o  ●  ●  ●

はないのではあるまいか。       演算についての理解を深める」ことにはならない。

大小関係は数の集合における関係であることはいうま   剰余系の演算においてはそのwe11−definednessが重 でもない。その内容は順序集合,全順序集合の概念に限  要なのであり,集合自体が集合の要素を構成しているこ 定されている。順序集合が数学教育の対象となることは  とを把握してこそ始めてその導入の意味があるのである        9

wんどないといってもよい。また集合を実数の範囲以内  から,このような重要な教材の導入には大きな注意が払 で考えれば多くは自明なのであるから,中学2年で一度  われていなければならなかったのではなかろうか。

だけ登場して消えるような教材という意味では場合によ   近似値,誤差の取り扱いも小学校におけると同様に全 っては割愛されて差支えないのではあるまいか。     ったく中途半端なものである。これについては前に指摘

リの集合は騰的であり,鱗の集合は糖であしておいた8で繰腿えさな、・.さらに計算尺の指導の

ることの指導は,それらが順序関係をもつこととは直接  重要性が強調されているが,積極的でないまでも筆者は には関係しない。それはともかくとしても,これら集合  同調しえないことを付言しておく。

のもつ位相的性質は数学における重要な概念であるので   第3学年で平方根の指導がなされる。「有理数の範囲 慎重な配慮をした上で生徒に与えられなければならな  では量の大きさを正確に表わすことができなかったもの

い。整数の集合は離散的,有理数の集合は稠密であるこ  が,無理数(ここでは平方根の意味)を用いることによ       ●  ●

ニは間違っていないのであるが,「このような整数の集  って表現が可能になる」ので平方根の導入は思考過程の 合の離を騰的」,「このよう鮪理数の集合の離 簡潔化・矧の明確化溌展的な考察を進めることがで

を稠密である」とするのは明らかに誤りである。これで  きるとすることも不正確な言いかたであるし・現実性に は離散,稠密は数の集合のみの性質に限定される。中学  乏しい期待であろう。中学生にとって平方根が思考過程 校の段階ではかかる整数,有理数の集合のもつ性質を指  に用いられることなどは殆んど考えられないからであ 導する必要はあるとしても,あえて離散的,稠密などの  る。

あまり日常的てない用語を使用して生徒の学習に負担を   負数,有理数の導入時のときと同様平方根の導入も かけることはどうであろうか。少くともこのあとの学習  「方程式の解の存在に関連して理解させる」としている にはこれらの用語は現われないし,高等学校においても  が,数の拡張と方程式の解との関連は一般には複雑であ 不必要と考えられる。しかもそれらの定義が一般陛をも  る。たとえば,α,δを自然数として一次方程式α+κ=∂

たないので将来の数学への発展に殆んど無意味であるこ  を考える。κは必ずしも目然数でないので,ここで既に とを考え合わせればなおさらである。         σとκとの和が簡単に考えることはできない。またκ

       o  o  ●

u数の集合を類別し,それから有限個の要素の集合を  は未知のものであり,それに自然数を加えること自体が 考え,その構造をさきの見方から考察し,はじめの集合  論理的に十分裏づけられることは数学教育の段階では不 と同じ点や異なる点はどこかなどについてとらえ,数に  可能である。この様な現象は現代数学が確立する以前に ついての理解を深めることをねらいとしている」     は数学の内容になりえてきたとしても,そのような曖昧 とあるが,数の集合Mを類別しただけでは必ずしも有限  さを克服するために数学自体現代化されてきたと考え 集合をえることはできない。ここでは漠然としてではあ  る。数学そのものの現代化と数学教育の現代化とは区別 るが,〃zo4π,〃は合成数または素数の剰余系Z/@)  されなければならないが,少くとも数学教育の現代化は を意味しているもののようである。このことは必ずしも  数学の現代化に逆行することではないと考える。この意

(6)

味で数の拡張を数学教育において意識的にとり挙げるこ  は式に含まれる文字の役割が複雑な,かつ多様な性格を とに反対するものではないが,問題なのはその方法と過  もつからと思われる。文字が数そのものとして機能する 程である。前にも述べたが数の拡張を論理的に矛盾なく  場合もあれば,文字が超越元として機能することがある 行なうことは非常に複雑な過程を必要とする。一っ一っ  ので,それらの区別が生徒にとっては理解しにくい。式 の過程に暖味な既成事実を積んで形式だけを整えること  の四則などが形式的に実行できたとしても,これが直ち が,数学的な考え方を育成することであるとは考えられ  に式を理解していることにはつながらない。

ない。「一元二次方程式κ2=α(σは正の有理数)の解   数学的には実数体,または有理数体を係数体とする一

が常に存在するように新しい数を導入して,数の集合が  変数多項式環の要素としての式と,その特殊化とに関連       ■  ●

さらに拡張されることを理解させる。これによって,数  するのがこの領域である。

は四則以外に 平方に対する逆の演算についても閉じる   「文字が数を表わすとき,その文字を用いた式が,数

       ●  ■       ●  ●

テ言}∫埣翠誉誓下いくことを明らかにし,数を拡張して  と同じように操作できることを理解させる」とあるが,

いくときの考え方についての理解をまとめる」という表  その内容は多項式環における演算と,その準同型像(特 現は数学教育の今回の改訂を代表するものであると考え  殊化による準同型)の演算との関係を意味する1)したが るが・このような要請は実行不能に近いことであり,さ  って理論的には上と逆で 数は文字を用いた式の演算と らには安易な論理の習慣を重要な発達段階にある生徒に  同じように操作できる のであろう。一応指導要領では 強個定させる危険があるとするとは思い過ごしであろ昌 u文字を用いた式における乗除のあらわし方の鋪」と

うか・      なっているが指轄では「式の操作に耕そも数の操

平方根につ㌧得脾押題点としては,正の数の平 作で基本となった交換,結合,分酉己などの法則麗乱方根に正,負二つの数があ警ζ曽?平方根は・であ こそ卦ことを理解させる」と内容が轍している.ること,負の数の平方根は考えられないことなどと指導 ほとんどすべての教科書でも式の力噛灘は慧の

翻盃::懸欝:才旨導∵狸を1籍響赫雛ξ懲繋尋蕪叢聯銚蹴讐警野亡㌃瓢欝鐵鷲穿謡禁綴は指導要領の内脊と一致しない。また {α+∂v/21α・  も低触するであろう。

ればなるまい。事実多くの教科書では式の計算の形式的

       練習に重点をおいたと思われる記述が多い。展開の公式3.式について       の指導のあとでは諸法則への考慮が生徒の意識の中に存

中学校で取り扱う式は2次以下の多項式,またはそれ  在するとは考えられない。この点数学教育における原理 らの分数式程度である。       の理解と,その運用との間に大きな距離があるようであ

      ●  ■  ●

@「文字を用いることによって,関係や法則が一般的  る。その両者を密着させたいとする指導要領と現場の実●       ●  ●  ■      ■  ●

に,かつ簡潔に式に表わされることを理解させる」と  際の指導との ずれ が心配されるわけである。このこ

       ・  ●  ■  ●  o  ●  ■  ●  ●  ●

オ,「文字を用いた式のよさをよく理解させるようにす  とに関連する実例を指摘しよう:

ることがたいせつである」と指示してあるが,このこと    3+(6−1)=3+6−1,3−(6−1)=3−6+1が成り立 は相当困難であるという現場からの声を聴く。その原因  つことからα+⑦+の=σ+う+6,σ一(b−−c);α一δ+0

(7)

とかっこをはずすことができる。       は指導の表面にはでてこない問題かも知れないが,それ 文字式でも3@+20)=3×κ+3×20のように・分  だけに指導が皮相化,形式化するという危険性が考えら 配法則がなりたつ。        れる。「文字が二つのときは方程式の数が二つあれば,

このようにして実例→一般化→形式的練習という型の  解の集合は決まる」とは限らないが,このようなことは くり返えしのみに終始する傾向が文字を用いた式の領域  生徒がみずから発見してゆけよばいことと思う。.

ではとくに目立つ。       二次方程式の考察に先き立って「文字α,δが数を表 方程式や不等式に含まれる文字は不定元の意味をもつ  わしているとき,励=0ならばα=0またはδ=0であ と解釈されるので指導者,教科書の取り扱いはおおむね  ることの意味を理解させるとともに・そのような表現が 妥当であろう。しかしこれについても前にも述べたよう  できるようにする」として・これに関連して直ちに「二 に式そのものの解釈に本質的に内包される困難さは依然  次方程式がα一α)(κ一の=0の形のときは炉α=0

として残された問題であろう。      またはズーδ=0」となることを理解させるとしている。

方程式,不等式の解は,ともに「それぞれの条件を満  このような安易さは不可避なことなも知れないが,少く たす値である」ということを根拠にして方程式,不等式  ともこの場合にはκ一α,κ一6は数としての扱いをしな を統合的に見させることがねらいとされているが・これ  ければならないので,劣を変数として強調した意図が無 も不定元のとりうる数の集合(全体集合)の与え方によ  意味ないしは矛盾を含むということになる。数学教育の っては相当に異なった解の集合を形づくるので,解の図  改変において必然的にひきおこされる矛盾ともいえよう による表示に低抗を感じさせない配慮が必要であろう。  が・少しでもかかる矛盾を減免するためには,あまり多 やはり同じ観点で考察できる面と,そうでない面とを対  くの内容を盛ることに強い反省がなされなければならな 立させながら指導してゆくことを望みたい。       いと痛感される。

等式においては文字を,数を表わすものとして指導さ

れているが,その等式の性質を根拠こして方程式を解く   あとがき        ●

フである。方程式では文字は未知数という考えでなく,   以上新指導要領に基づく中学校数学科の数・式の領域 ある集合における変薮という指導がなされる。したがっ  について,問題点と考えられる点をいくつか不十分なが て形式的には方程式は解きえても,上に述べた等式と方  ら考察してきた。指導要領「数学」における目標である 程式の異質1生をふまえた指導はどのようにして実現され  「事象を数理的にとらえ,論理的に考え・統合的・発展 るのかという本質的な問題が残ってしまう。この意味で  的に考察し,処理する能力と態度を育成する」ために は数学ないしは数学教育の重要な武器である言己号の導入  「数量,図形などに関する基礎的な概念や原理・法則を は困難であるにしても慎重に検討されなければなるま  じゅうぶんに理解できるようにし,数学的な考え方がい い。とくに大切な発達段階にある生徒に不明確なままの  っそう育成される」ようにし,「事象の考察に際して適 形で定着させることは極力避けなければならない。この  切な見通しをもち,論理的に思考する能力を伸ばす」こ 点について指導書の説明は,その場に都合のよい形でな  とが要求されているが,上に述ぺてきたように,その具 されているといわれてもやむをえまい。        体的内容が果して上に挙げてある目的に添いうるもので

さらに全体集合を,あらかじめ与えて方程式を考える  あるかどうかは遺憾ながら極めて疑問であると言わざる ことと,方程式を通して数を拡張することの関連が断た  をえない・

れている。数の領域では方程式は数の拡張に焦点があ    「単に形式的な内容の指導に陥らないようにする」こ り,方程式を解く場では定められた全体集合の中で考え  ととされてはいるが,現場における指導にあたって・ど ることは正反対の方向である。このことについて統合的  のような方法を用いれば新精神に添いうる指導ができる に考慮されていないことも混乱の原因の1つとなろう。  かという裏づけはあまり見あたらない。したがって「い

この意味で方程式と不等式の取り扱いの間には大きな差  っそう数学的な考え方の育成」には種々の困難が考えら があるように思う。したがって解集合を軸とする方程  れる。「数学ができあがったものであり,これによって 式,不等式の統一には問題があるといえよう。      とらえることのできるもの,それが数学の対象であると 二元_次方程式は関数との関係,および連立方程式の  考えられやすい。しかし・数学はすでに数学の舞台にの 解法紳心である.前と同様に文字の意味がここで欄 せられているものだけでなく,進んで事躯数学の舞台 題であろう。変数と考えれば連立方程式の形式的な解法  にのせて考察処理しようとしているものである」といっ の意味づけが困難となるからである。もっともこのこと  てみても,上に指摘して来たように具体的内容の取り扱

(8)

いには できあがった事実 を上からおしつける形とな        参  考  文  献 る可能性が強い。「ものごとを断定したり,推論を進め

たりする場合,明確な理由をふまえて,筋の通った考え   1)佐藤・宮田・算数教育の問題点(1),茨城大学教育学 方」ができるようにすることを,自らが放棄している部         部教育研究所紀要・第3号

分が稀れではない。たとえば「基礎的な概念や原理法則   2)     算数教育の問題点(皿)・茨城大学教育学 を単に記憶させるのではなく,それらの理解を深める」         部紀要・第21号

      3)  〃   算数教育の問題点(皿),茨城大学教育学としておきつつも,数・式における内容,原理法則の取

      部教育研究所紀要,第4号り扱いに関する限り,このことは不可能といえよう。      4) 中学校指導書数学編,文部省,昭和45年

現代数学の考肪に基づく概念購造などを背景とし   (以下,「……」は指轄よりの引用)

て現実に肌えない教材を・もし不臆・導入するなら ・)新し噸学,鯨舗株式会社,昭和47年 ばこれは逆に数学性の放棄につながるであろう。統合性    数学,   啓林館,     昭和46年 を前面化すれば論理1生がそれだけ後退し,その逆もいえ    中学校数学, 学校図書株式会社, 昭和47年 よう。数学教育にそれらのバランスをどのようにしてと    中学数学, 大阪書籍,    昭和47年 りうるかということは未解決の大きな問題であることを    中学校新数学,大日本図書株式会社,昭和47年 謙虚に反省しなければならないと考える。      中学数学・ 教育出版,    昭和47年

6) 宮田竜雄,環論入門,槙書店,昭和45年

7)代数構造については, C,Chevalley, Fundamental Concepts of Algebra(1956),または,弥永・小

平,現代数学概説1(1961),岩波書店

8) 宮田竜雄,数学教育の現代化,茨城大学教育学部紀要.

第19号

Problems in Mathematics Teaching

in Jun呈or High School Education(1)

Eiichi Sato and Tatsuo Miyata

Abstmct

Th・R・vised C・urse・f St・dy ・aised m・ny q…ti・n・i・m・th・m・tics teachi・g i。 j。ni。,

high school education. The purpose of this study is to survey and consider the contents of the teaching materials particularly in the domain of Numbers and Formulae.

参照

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