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非行少年の概念の意味構造の研究

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

非行少年の概念の意味構造の研究

著者 田辺 正友

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 9

ページ 41‑49

発行年 1973‑03‑10

その他のタイトル The Semantic Structures of Concepts by Juvenile Delinquent Boys

URL http://hdl.handle.net/10105/6277

(2)

非行少年の概念の意味構造の研究*

田 辺 正 友**

(障害児学教室)

問      題

最近の非行の最も顕著な特徴として.中学生年令相当の非行の増加があり.それらの少年たちの家 庭の多くは父母健在で.経済的にも中間層に属しており一 非行の原因についても従来.家庭の貧困と か父母の欠損が主因のように考えられていたころに比べて新たな問題が提起されているO

非行の原因としては.環境的因子と人格的因子の二つがとりあげられる。非行は.その場における 個人の不適当なる反応であり.行動であるが.何ゆえとくにある非行がそこで選ばれたか考える場合.

その個人のパーソナリティといったものだけを取りだして問題とするところには解決がっかないこと が多い。個人は常に種々なる集団の成員として生活を営み,成長していく。自らが育ってきた社会的 環境が彼のパーソナリティの形成と発展の過程に何らかの影響を及ぼすと考えるのが当然であろう。

それゆえ.非行少年の行動を理解するためには,その少年を中心として,とくに彼の両親.教師.友 人たち.すなわち.その少年を取り巻く社会的連関からのアプローチもなされなければならない。

ところで.われわれの日常生活において.いかなる状況のわれわれの行動も.個人が.その状況を どのように認知するかによって大きく左右されるものである。また.その際の個人の認知は.その状 況における対象自体の性質を直接反映するものではなく.対象の性質を個人の内的frame of re‑

ferenceに基づいて選択し.反応するものであるということは.すでに認められているところであ る。それゆえ.同一の対象に対しても.その受けとり方が個人や年令集団等によって異なってくるこ とが考えられる。したがって.少年の行動の問題性を理解するにあたっては.まず.その少年が自己 や彼を取り巻く環境をいかに認知し.どのように受けとっているか検討されなければならない。

一般に.ある対象についての個人の受けとり方は極めて漠然としたものであって.これを具体的な ことばであらわし.その程度を示すということは非常に困難である。これを解決する一つの方法とし て. Osgood.C.E.ら( 1957)のSemantic Differential法(以下. SD法と略称)は 参考となる SD法は.言語の意味構造の分析のために考えられた方法論であるが.意味を分析する だけでなく同じ対象の意味の判断をなす際の個人差をも考慮しうる。また, SD法は.特別な概念や尺 度からなる必要はなく個々の目的に沿った具体的な概念や尺度を選択すればよいという柔軟性をもっ

ている。かかる点から.態度.パーソナリティ.臨床的場面等の応用頒域においても.この方法は有

* The Semantic Structures of Concepts by Juvenile Delinquent Boys

** Masatomo Tanabe (Department of Defectology, Nara University of Education. Nara)

日 一一・

(3)

効であることが明らかにされてきた。一方.手続の複雑さ.言語能力の水準といった点から,この方 法を児童に施行した試みはあまりなされていなかったが.前報告において筆者(田辺. 1 972 )が 紹介したように. Bhagat.Mり&Fraser.W.I. ( 1970 b). Donahoe,J.W.(1961)

Hafner.A.J‥&Rosen,E.( 1964). Maltz.H.E.( 1963), Rybolt,G.A.

( 1968)らの研究によって. SD法を.若干の改訂を加えることで児童.精神薄弱者にも比較的 高い信頼性をもって適用できることが確かめられてきている。とくに. Bhagat.M.ら(1970b) は.非行精薄者にSD法を施行し.テストの信頼性,妥当性についての検討を行なっている。信頼性 の検討については.再検査法により Evaluation,Potency. Activity のそれぞれの困子ご とに高い相関関係が得られたことを明らかにした。また.この研究で用いられた概念の意味内容と個 々の被験者の事例史とを比較分析することによって. SD法の適用の妥当性が検証された。これらの 点から考えて. SD法はわれわれの研究目的に適当な方法であると考えられる。

そこで,本研究では. SD法によって測定される種々の自己および自己を取り巻く環境を表わす語の 意味の受けとり方が非行少年と一般少年との間で.どの点で.どの程度の差をもっかを分析すること を試みた。

方      法

被験者 非行少年群( Group A)揺.奈良県立S教護院に在院中の男子中学生のなかから本検査 が可能とおもわれる者を基準に選んだ29名で.彼らの平均年令は14: 1(13: l‑I5: il).

平均IQは90.4(71‑117).教護院在院の平均年数は2:2(0:5‑6:9)であった。

これらの少年は.入院前に主として.恐かつ.窃盗などの触法行為,不良交遊.喫煙.家出.睡眠薬 遊びなどのぐ犯行為をなした者であるが.かならずLも非行といえないものも若干あるが.以下.倭 宜的に非行少年群として一括する。対照群(Group B)としては.奈良県下の公立0中学校の男子 2年生のなかから.年令. IQが非行少年群と同程度になるように選定された4 0名である。平均年 令は13:ll(13:0‑14:3).平均IQは93.9(75‑113)であった。なお.非行 少年群のIQは鈴木ビネ一式.対照群のIQは教研式知能検査によって測定された。

使用概念・尺度 評定された概念は.自己および自己を取り巻く環境に関連する「現実の私」 「私 の過去」 「理想の私」 「父」 「母」 「きょうだい」 「家庭」 「先生」 「私の友達」の9個の言語概念 であった。 SD法の形容詞対尺度としては, Osgood.C.E.ら( 1957)の研究を参照しながら.

Evaluation因子に属する「よい‑わるい」 「きれいな‑きたない」 「やさしい‑こわい」

「すきな‑きらいな」 「親切な‑不親切な」 「安全な‑危険な」 「正直な‑不正直な」の7 尺度. Potency因子に属する「男らしい‑女らしい」 「勇敢な‑おくびような」 「つよい‑

よわい」 「やわらかい‑かたい」の4尺度 Activity 凶子に属する「はやい‑おそい」 「す るどい‑にぷい」 「暖かい‑つめたい」 「活発な‑不活発な」の4尺度.合計15尺度が選出 された。これらは.評定される概念に粥係深く.しかも児童に理解できるであろうとおもわれるもの が選定された。

手続き 上記15対の形容詞尺度を順序.左右の位置に関してラソダムに配列したもの9枚で1組

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のSD評定表を作成した。各被験者にこの評定表を配布し.まず.本検査は.各人が自分自身や他の 人々をどのように見ているかを判断してもらうものであって.別に正しい答が定まっているわけでは ないこと,また.この検査の解答は全て数字に直され整理されるので.おもったとおり.ありのまま に答えるよう説明を受け,やり方を例題をやりながら示した後. 9個の概念の1つずつについて.順 次. 1 5項目の形容詞対を5段階のいずれかの段階にかならず評定するよう求められた Osgood

らは評定項目を7段階に区切られた尺度にしているが.あまり細かく区切り.微細な差異の判断を被 験者に要求することは.かえって評定結果の信頼性を低下させる恐れがあるので5段階尺度にした。

なお.実験に際して.概念は別のカードに印刷され.ランダムに呈示されたo各被験者のチェック回 数は. 15(項目)×9(概念)‑135回である。検査は.非行少年に対しては1972年2月〜

3月に個別的に.対照群には1 972年4月に集団的に実施された。

結 果 と 考 察

結果の整理にあたっては. 1 5個の形容詞対の方向をそろえ. positlve なものからnegative なものへ順次. 1, 2, 3, 4, 5点を与えて得点化された。非行群と対照群の両群によってなされ た9概念各々についての尺度ごとの平均値はTable iに示されている。また.この結果を因子別に 図示したものがFig.l. Fig.2. Fig.3であるo これらについて両群間の差の有意性を検定に よってみた。まず.全体の傾向を把えるためにTable lの合計点について.群および概念の2つを 要凶とする分散分析を行なった。その結果.群間の主効果に有意差がみられ(F‑5.705. df‑

1/67, P<.05).概して.非行群が対照群よりもよりnegative な評定をしていることが示 されたO概念の主効果CF‑9.261. d/‑8/536. P<.Ol )および交互作用CF‑8.455.

df‑8/536. P<.01)も有意となった。そこで,さらに9概念ごとに,群と尺度を要因として 分散分析を行った。その結果は. Table 2に表示されている。 「現実の私」 「私の過去」において.

群差および交互作用が. 「家庭」 「私の友達」で交互作用が有意となった Table i中に有意差表 示がなされている尺度は.誤差項を用いて単純効果の検定を行なV\その結果.有意となったものであ る。 「現実の私」 「私の過去」で両群間の認知構造差がかなり著しくあらわれ.非行群は対照群より も「私の過去」を.本実験で用いたほとんど総ての尺度においてnegative なものと評定し. 「現 実の私」をよりわるい.不親切な,危険な.不正直な.女らしい.おくびような,にぷいと評定して おり, Evaluation. Potency. Activity の各因子領域にわたって差がみられた。また.非 行群は「家庭」をよりきたない.危険なと. 「私の友達」をよりわるい.不正直なと評定し.ここで は‑ Evaluation因子に両群の差が認められた。一方. 「理想の私」 「父」 「母」 「きょうだい」

「先生」では,群差および交互作用に有意差はみられず.両群ともかなり類似した評定をしているこ とが明らかになった。

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TabIe1.Acomparisonofmeanscoresbetweenoffenders(GroapA)andnon-offenders(GroapB)

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非行少年が一般少年に比して.自己および自 己を取り巻く環境を表わす語に対して.概して.

negativeな受けとり方を示したことは.Glas‑

gow の非行青年の態度研究にSD法を適用し たBhagat.M.ら( 1970 a)の結果とも.

だいたい一致するものである。かかる結果は.

次の水島( 1964)の指摘から解釈できるも のとおもわれる。すなわち.水島は.非行性を 一元的に規定する要因として「社会的人間関係 からの自己疎外」または「社会的人間関係の欠 如」ということをあげ.これは.社会的わく組 みの中の人間に対する不信感に密接に関連する

ものであると指摘している。自らが育ってきた 社会に対する否認といった非行少年のひとつの 心理特徴がかかるsemantic profile上に おいて示されたものと考えられる。ここで.概′

念別にみた場合, 「理想の私」 「父」 「母」

「きょうだい」 「先生」では両群間に有意差が 認められなかった。非行少年の家庭環境の研究 において.非行少年は一般少年に比して.その 親子関係のあり方に問題があり.問題の家庭.

問題の親が青少年の非行化の大きな要因の一つ であるということはすでに多くの研究の指摘し てきたところである。かかる点から.非行少年 群は. 「父」 「母」を一般少年群に比べてより

negative に評定するであろうと予想された。

しかるに.本研究では.必ずしも予期した結果 が得られなかった。この点に関しては.われわ れの対象とした被験児が教護院に収容されてい る児童で.その平均在院期間が2年2ケ月であ ったということを考慮に入れなければならない であろうとおもわれる。対象がちがうので直接 比較することはできないが, Bhagat.M.ら

(1970 b)の非行精薄老(平均 CA 29才, 19才〜39才)を対象とした研究に おいては,現に施設に入院中の者は施設外で社

‑Efj ‑

(9)

会生活をしている者に比して, 「家庭」 「隣人」 「友達」 「父」 「母」などをよりpositive に評 定したという結果を得た。これから示唆されるように,生活がかなり制約されている施設における場 合と,そうでない社会における場合との比較の必要があろうと考えられる。またその際,青少年期の 急激な心理的変化といったものを考えるとき,その親子関係のあり方の発達的傾向を考慮しておかな ければならないであろう。さらに,われわれは,一般少年群との比較において非行少年群の平均の傾 向を示したにすぎない。ひと口に非行といっても,その種真如まきわめて多く,程度,態様もさまざま であり,同一に論ずることはできないo今後のいっそう厳密な対象選択による吟味を必要とするよう におもわれる。

従来の種々の非行行為の研究は,調査とか質問紙法,パーソナリティテストなどに基づいてなされ てきた。本研究は,上記のようなさらに吟味されるべき問題を含んでいるが, SD法を用いてのかか る概念についての意味認知を検討することも,非行の理解にとって有望な方法の1つであるというこ とを示すものと考えられる。また,従来の非行少年の収容施設においては,ただ単に,規則とか訓練 によって個人のパーソナリティの矯正をはかろうとするものであったが,今日では,治寮教育の場と いう見地が重視され,そこでは,種々の治療教育的アプローチがなされている.われわれは,自分自 身および自分を取り巻く社会との新しい概念を得ることにより,行動の改善にむかって援助していか なければなら.・ないという考えのもとに,今後,治梗教育的な試みとしてHuman Relation Trai‑

ningを計画している。しかし,心理療法の効果の測定といった問題は,非常に困難なものである。

かかる効果の測定に, SD法を使用し,概念の意味づけがどのように変化するかを数量的にとらえて いくことを意図している。

要      約

本研究は,非行少年の行動の問題性を理解するにあたって,その少年が自己や両親,教師など彼を 取り巻く環境をどのように認知しているか検討することも,大きな手がかりを与えるものであろうと いう考えのもとに, SD法を用いて,非行少年と一般少年におけるかかる概念を表わす語に対する意 味認知の構造差を分析しようとしたものである。非行少年群は教護院に在院中の男子中学生2 9名が, 対照群としての一般少年は公立中学校の男子2年生4 0名が被験者として選ばれた。

各被験者は9概念の1つずつについて,順次, 1 5項目からなるSD尺度を5段階評定することが 求められた。

その結果,非行少年群は一般少年群に比して, SD尺度上でよりnegatlve な評価を示し,両群 間の差は「現実の私」 「私の過去」で著しく, E.P.A.の各因子領域の尺度で差がみられ, 「家庭」

「私の友達」ではE因子の尺度に差が認められた。

<付記> 本研究にあたり,資料の蒐集と整理にさいしては,奈良県立精華学院の上田庄一先生の ご協力を得た。記して厚く感謝の意を表したい。

引 用 文 献

Bhagat.M. ,& Fraser.W, I. 1970a Young offenders images of self and

(10)

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田辺正友 1972 概念の発達的変化の測定に関する方法論的検討‑ SD法の適用について‑

奈良教育大学教育研究所紀要 第8号 101‑108.

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