「科学とは何か」の授業化に関する研究
教科教育専攻 理科教育専修 小川 貴之
2012年2月10日提出
論文要旨
【研究目的】
1960 年代以降,帰納主義的な伝統的科学観から,科学に固有の方法はない,科学理論は 暫定的なものであるといった現代的科学観への転換がなされてきた .しかし,先行研究に おいて,教師の持つ科学観は伝統的科学観を多く含んだものであることが報告されている.
また,現代的科学観を伝えるような実践,教材は日本には見あたらない.
本研究では,米国で開発された「 COSIA( Communicating Ocean Science to Informal
Audiences 」(以降「 COSIA 」と表記する.)というプログラムの実践を行い,実践結果の
分析を通して,現代的科学観を伝える教材としての COSIA の評価を試みた.
【研究方法】
実践は,現職教員,大学院生,学部生を対象として行った.
実践内容は,はじめに,科学とは何か,科学とはどのように行われているか,を自由記 述させた.次に,教材としての「科学に関する 18 の記述」を提示し,それぞれの記述が科 学についての説明として正確か不正確かを判断させた後,判断した理由について議論させ た.議論終了後,記述が正確か不正確かを再判断させた.最後に,本時の内容から科学観 の振り返りを行った.
「科学に関する 18 の記述」の解説資料から,各記述の議論の到達目標を設定した.分析 は,実践の中で行った自由記述の内容と,議論の音声データを用いた.
【結果・考察】
科学とは何かについての自由記述の分析から,科学と技術を区別することが困難な現状 が明らかになった.科学とはどのように行われているかの自由記述の分析から,科学を身 近に感じていることがわかった.
「科学に関する 18 の記述」の内容分析を通して,記述の多くは到達目標をみたす議論が なされたことがわかった.しかし,到達目標をみたさない議論となった記述も見出された.
また,到達目標をみたす議論がなされた記述では,科学に関する理解が深まったが,到達 目標をみたさない議論となった記述では,科学に関する理解が深まらないことがわかった.
【まとめ】
本研究では, 「科学に関する 18 の記述」について到達目標を設定し,実践結果の分析を 行った.到達目標をみたす議論がなされた場合,科学に関する理解が深まることが見出さ れた.
本実践を通して,COSIA は現代的科学観を伝える教材として有効であることがわかった.
また,実践結果の分析から明らかになった課題を解決するために,教材の改善を行うこと
ができた.
目次
Ⅰ.はじめに ・・・ 3
Ⅱ.研究方法
1.実践対象と実践時期
2.セッション2「科学の本質と実践」の内容 3.分析方法
・・・ 3
Ⅲ.結果と考察
1.自由記述について
2.科学に関する 18 の記述分類について 3.学部生,大学院生との比較
4.総合的考察
・・・ 6
Ⅳ.実践結果をふまえた教材の改善 1.実践の課題
2.記述の削除と修正
・・・ 54
Ⅴ.まとめ ・・・ 57
引用文献 ・・・ 57
謝辞 ・・・ 57
資料 ・・・ 58
3
Ⅰ.はじめに
1960 年代以降,帰納主義的な伝統的科学観から,クーン 1) のパラダイム論やハンソン 2) の理論負 荷性に代表される科学の本質を見つめ直そうという動きを経て,科学に固有の方法はない,科学理論 は暫定的なものであるといった現代的科学観への転換がなされてきた3-8) .
学習指導要領にも現代的科学観は反映されている.たとえば,小学校学習指導要領解説9) の「学習 後,児童は自然の事物・現象についての新しいイメージや概念などを,より妥当性の高いものに更新 していく.それは,その段階での児童の発達や経験に依存したものであるが,自然の事物・現象につ いての科学的な一つの理解と考えることができる」,「科学とは,人間が長い時間をかけて構築してき たものであり,一つの文化として考えることができる」という記述から,現代的な科学観が読み取れ る.
理科の授業を行う教師も現代的科学観をもっていることが望ましい.しかし,過去の研究から教師 の持つ科学観は伝統的科学観を多く含んだものであることが報告されている.
清水10) は教師の持つ科学観と理科授業の実態について調査を行い,教師には伝統的科学観を保有し,
伝統的な科学の方法を支持する割合が高く,理科の学習を進める際には伝統的科学観に配慮して行っ ていることを報告した.丹沢 11) らは日本人の持っている科学観・技術観に関する調査を高校生,大 学生,社会人,理科教師を対象に行い,科学理論が暫定的なものであるということを肯定した理科教 師の割合は他と比べて有意に低く,科学は真理追求の学問であることを肯定した理科教師の割合は他 と比べて有意に高いことを明らかにした.
また,科学観の変化について,石井・角屋 12) は小学校高学年の科学の暫定性に関する理解の変容 を調査した.調査は創造性,テスト可能性,発展性,簡潔性の4項目にわけて行い,授業を行ってい く過程で創造性の項目では肯定する人数が上昇したが,簡潔性については変容が見られなかったこと を報告した.
しかし,これまでに,現代的科学観を伝えるような実践や教員を対象とした科学観の変化の分析は 日本では見あたらない.
そこで,本研究では,教員を対象に現代的な科学観を伝え,教員の科学観と実践による変化の分析 を行った.教材として,米国で開発された「COSIA(Communicating Ocean Science to Informal Audiences・ 海洋科学コミュニケーション実践講座)」(以降「COSIA」と表記する.)というプログラム13) を使
用した.COSIAは科学を専攻する学部生や大学院生などを主な対象として,科学教育の教授法や教育
論を学ばせ,自分たちの知識や研究を社会に伝えるコミュニケーションスキルの習得を目指すもので ある.COSIAは全10回のセッションで構成されているが,今回は,現代的科学観を伝える部分であ るセッション2「科学の本質と実践」の一部を行い,分析を行うことにより,現代的科学観を伝える 教材としてのCOSIAの評価を試みた.
なお,今回使用した教材は,COSIAのオリジナルの指導者向けテキストを特定非営利活動法人海の 自然史研究所が翻訳したもの14) を参考に作成した.
Ⅱ.研究方法
1.実践対象と実践時期
実践は2010年10月2日に小学校教員2名,中学校教員10名,高校教員4名の計16名を対象とし て行った.なお,議論等の活動は4人1班として行った.また,大学学部生と大学院生を対象とした 実践も行った.これらの実践の日時と人数は,学部生対象の実践は2010年7月24日に24名,大学院 生対象の実践は2010年5月8日に9名で行った.
4 2.セッション2「科学の本質と実践」の内容
はじめに,科学とは何か,科学とはどのように行われているか,を自由記述させ,班で議論させた.
次に,教材としての「科学に関する18の記述」(各記述の内容は表1に示す)を提示し,それぞれの 記述が科学についての説明として正確か不正確か判断させた.判断した理由について班別で議論させ た後,全体で議論させた.議論終了後,記述が正確か不正確かを再判断させた.最後に,本時の内容 から各自の科学観を振り返り,今後,授業等にどう活かしていくかを自由記述させた.また,このと き使用した教材を巻末資料1に,使用したパワーポイントのスライドを巻末資料2に添付した.
表1 科学に関する18の記述
記述番号 記述内容
1 科学は事実を集めたものである.
2 科学は完全でありすでに私たちは自然界について知るべきことのほとんどを発見した.
3 すべての科学者が従う,単一の「科学の方法」がある.
4 科学のプロセスは純粋に分析的であり,創造性は関わらない.
5 実験は,科学のプロセスに必要なものである.実験がなければ研究は厳密でなく,科学的 ではない.
6 自然科学(例:化学や物理学)は,社会科学や行動科学(例:心理学や社会学)より厳密 で科学的である.
7 科学的な考えは,絶対的で変化しない.
8 科学的な考えは暫定的であり変化するものであるため,信用することはできない.
9 科学は考えを立証するものである.
10 科学は,考えが誤りであることを証明できるにすぎない.
11 証拠がある仮説を支持すれば,その仮説は理論になる.理論がより多くの支持を獲得すれ ば,法則になる.
12 科学的な考えは,民主的に判断される.
13 科学者の仕事は,自ら立てた仮説を支持するものを探すことである.
14 確固たる結論に達していない調査は,役に立たないし公表することはできない.
15 科学者は,科学的な考えや証拠の評価に関して完全に客観的である.
16 科学者は,自分の考えを応用することを考えずに仕事をしている.
17 科学においては,通常,予想とは今後起こると期待されることを指す.
18 科学とは孤独な営みである.
3.分析方法
受講者の自由記述の回答から,受講者の科学についての認識を分析した.また,「科学に関する18 の記述」の解説資料から各記述の議論の到達目標を設定した.設定した到達目標を表2に示す.受講 者同士の議論の内容(グループ別にICレコーダーで録音した)から,議論が到達目標をみたしていたか を調査し,講義による認識の変化,教材としての18の記述内容のわかりやすさ,議論の内容等を分析 した.
5
表2 議論の到達目標
記述番号 到達目標
1 事実は科学の一部にすぎない.科学は世界がどのように成り立っているのかを発見し,その知識 を力強く一貫性のある枠組みに組み込んでいくためのプロセスである.
2 科学者は,つねに新たな証拠や観点に基づいて,確立された科学の考えを練り上げ,洗練させ,
修正している.
3 科学のプロセスは予測できないものである.多様な活動に携わる多くの人々が,さまざまな順序で 関わる.
4 創造性は科学にとって重要である.代わりの仮説を思いつくことや,ある考えを検証する新しい方 法を考案すること,古いデータを新しい視点で検討することに,創造性は使われる.
5 実験で検証するのが最適なものもあるが,観察することや,いくつかの方法を組み合わせて検証 する方がよいものもある.実験はひとつのアプローチに過ぎない.
6 研究分野による厳密さの違いはない.科学的な研究の厳密さは,その学問分野よりも,研究者の 用いるアプローチに関係するものである.
7 科学的な考えは新たな証拠や観点に基づいて修正されうる.
8 科学的な考えは暫定的だが,現時点ではある程度信頼できる
9 立証された概念―現実の絶対的な証明―というのはあまり科学的ではない.
10 考えは完全に立証されることも完全に反証されることもない.そうではなく,科学は新たな証拠や観 点によって根拠が示されれば,これまでの結論を修正することもある.
11 仮説,理論,法則とはすべて,支持のレベルの違いではなく,その広さが異なる科学的な説明であ る.
12 科学的な考えは,その人気によって判断されるのではない.科学的な考えは,それを支える,ある いは矛盾する証拠に基づいて判断されている.
13 科学者の仕事は,自ら立てた仮説を支持するものを探すことだけではない.どの仮説が間違いな のかを明らかにすることも科学者の仕事である.
14 確固たる結論に達しない調査でも役に立つこともあり,公表する価値があることもある.大半の科 学研究は「確固たる」結論には達しない.
15 個々の科学者は完全に客観的ではないが,科学者集団は科学の仕事を精査し,偏見がかかりす ぎないようバランスをとっている.
16 科学者は過去の研究者あるいはこれまでの自分の考えを応用している.
17 科学の予想は過去の事象に関係することもある.
18 どんな科学者でも,科学者の共同体の他の人たちとのやりとりによって,自分の仕事を吟味し,新 しい研究のアイデアを得る.科学は社会的な営みである.
6
Ⅲ.結果と考察 1.自由記述について
教員16名の結果について考察していく.受講者の自由記述の回答を表3に示す.自由記述から抽出 した単語を書いていた人数を図1に示す.科学とは何かの自由記述では,「証明」,「再現」などの科学 的な考え方の特徴に関する記述や「生活を便利に」や「問題解決」といった科学の目的に関する記述 がみられた.「便利」という科学よりも技術の成果であると考えられる単語が最多であることから科学 と技術を区別することが困難であることがわかる.これは丹沢11) らが行った調査の結果とも一致する.
また,科学はどのように行われているかの自由記述では「身のまわり」,「専門機関」などの科学を行 う場所に関する記述や「観察」,「実験」といった科学的な方法に関する記述が見られた.科学を行う 場所に関する記述で「専門機関」をあげた人は「身のまわり」も同時にあげており,科学を身近なも のに感じていることがわかった.
図1 自由記述の単語出現数
2 2 2
2 3 3 3 3 3 3 6 8
0 2 4 6 8 10 客観的
論理的 真理の発見 仮説(仮定) 証明(解明・検証) 説明 追試(再現) 実験 問題解決 ロマン 自然現象 生活を便利に
「科学とは何か」
2 3 3 3
4 4 4
5 8
0 2 4 6 8 10 予想
専門機関(実験室) 気づき 無意識 観察 法則(一般化) 仮説 実験 身のまわり(生活)
「科学はどのようにおわれているか」
7
表3 自由記述回答
「科学とは何か」
記述内容 物事を客観的に説明できるようにすること.
自然の中でおこなわれていて,原因・仮定・結果が順序立てて証明され,理解されるもの.思い 込みや,希望的観測に基づかないもの.
世の中の現象全てを説明できる.もっとも簡素な表現方法を追求する活動.統一原理が発見され
(検証され)た時点で終了?
アインシュタインの「神はサイコロをふりたまわず」といった言葉,物理専攻の先輩に「あそこ に白い犬がいるよ」と言ったら「こっち(見える)側は確かに白いね」と言われた言葉,この2 つが,空想的な文学少女の私には30年間強烈にのこっています.物があり現象がある時,そこ には必ず存在やプロセスを検証できる方法があり,それを万人が検証できる方法があり,それを 万人が同じように納得・確認ができることが「科学」なのかなあと思いました.そのため,一部 の天才だけでなく多くの人がある程度理解できる社会背景がないと,その時代の「科学」にはな り得ないんだなと思っています.
生活を便利にしたり,楽しくするもの.問題を解決してくれるもの.自然・環境など.
実験または観察をして結果を出すもの.真理を見出そうとするもの.生活の中に深くかかわって いるもの(環境).自然・生活?
自然界などで起こる様々な現象や不思議なこと.生命の誕生や繁栄.それらに興味をもち研究し ていくこと.世界のロマンを考えること.自然界の法則.知識・技術.人として.生活を便利.
実験で証明できる.問題解決してくれるもの.
自然界の法則やそれらをもとにした技術・知識.追試可能であり,だれもが確かめ利用できるも の.
自然とか身の周りの現象.実験などによって証明できるもの.非科学的の反対にあるもの.世の 中のロマンを考える.自然界の法則を考えていく.生活を豊かしていく.客観性がキーワード.
自然など自分の身の回りにの環境や身の回りで起こる現象がなぜ起こるのかを解明するための学 問.「不思議」「なぜ」の解明.
一言でいえば,人として生きるために必要なこと.例えば,自分の体のことを理解し,ケガや病 気などにも対応できる知識が必要である.便利に快適に生活するために考え出された様々な機器 のおかげで,不自由ない状態で過ごしている.また,仕事をしながら,家事・育児など,すべて 自分の思い通りに進めていけるのは,科学が発達したからだと考える.
現在わからないことを知りたいという欲求のもとに,研究する学問であると考えています.した がって,知りたいという欲求がなければ進まないと思いますし,欲求が強ければ発展すると思い ます.
自然界で起こっている現象について,どんな仕組で起こっているか等について,実験や観察をし ながら理由づけて解明していく学問.再現性.
8
自分・自分を取り巻く世界に対する好奇心・探究心をもとに,理論的に整理して説明をすること.
そして,それに到達するために行う,仮説や仮説を証明するための手だて・技術も含まれると考 える.また,理論的に説明され再現可能になったことを使って新たなものを創り出す,既存のも のを守るなど生活を豊かにしていくものであるべき.個人的には,ロマン,趣味,おもちゃ(あ そび)のような感覚.
論理的な考え方を行う自然界の探究.自然の姿を論理的に語ること.自然界についての見解に形 式的評価を下すこと.世界の中のロマンを考えること.環境問題.法則を考える.生活の中で利 用.生活を便利で楽しく.問題を解決する.実験で説明.
今後,必要とされる何かを見つけ出す方法.また,過去につくられたモノを今にあったモノにす るための手段.人がより良く生活するために必要なこと.
9
「科学とはどのように行われているか」
記述内容 やろうと思った時.
自然界の中で,人間が意識してもしなくても変わらずおこなわれている.実験室.科学者,技術者 によって行われている.普通の科学的な思考.
①観察 世の中の現象を見る
②仮説 どうやってその現象が生じるかのカラクリを考察,単純なカラクリに分解
③検証 カラクリから同じ現象を起こせるか実験(失敗したら①に戻る)
④一般化 そのカラクリは新しいか?(さらに分解できるかもしれないので②に戻る)
生活をよくするため,好奇心を満たすために,夢をかなえるためと,疑問や目標をもつ.観察,実 験,調査,考察などの探究.(かかわる事実を今までから捜す→仮説・予想を立て確かめる→プロ セスを導き出す(法則性)→それにあわせて新しいことをしてみる→新しい事実を見つける,造り だす).広く社会生活に生かす(物的・心的)
身のまわりでいろいろ利用している.より便利なものを追求.自然保護.
実験・観察など企業・大学で行われている.日常生活の中で使われている.
科学は,日常の生活の中にも関係している.
多くの人は自覚せずに行っている.「自ら考え,予想し,実験を行い確かめたものが伝わる」こと で一般化されている.
日常生活の中にいっぱいあるのに「科学」という名前がつくと,かた苦しく,学校や専門機関行わ れているものと考えられがち.薬品や実験器具を使って研究しているイメージが強い.人間として,
どうやって生きるのかを学ぶ.車の機能.「知りたい」という欲求が大事.「面倒くさくても,知り たい」欲求が勝った時.
まずは,「気づく」ことからはじまるので,「気づき」をとり入れる.生活する中で,全く気づかず 通り過ぎてしまう事柄に視点をあてることからはじめ,実験や観察を通して深めていく.
毎日の暮らしの中で,意識することなく,利用されていると思う.電話,テレビ,電子レンジ,洗 濯機,お風呂の給油システム,自動車,冷蔵庫,掃除機,パソコン,電子黒板など.
手軽に自由自在に使える能力が,自然と身についてきているように思う.(これらの開発者は今の 現状をどれだけ予測できていたのか興味深い).このことを意識して気づくことから始め,興味・
関心を持って,知識・理解を深めていくという流れで授業にのぞんでいる.
科学はさまざまなところでさまざまな時間におこなわれていると思います.学校などでもおこなっ ていると思いますが,そこには知りたくもない場合,知りたいと思わない人も含まれると思います.
最近は TV 番組などでも放送されているが,現状は学校の理科で.
未知なるものや事象を調べデータをとるなどして数学的に統計をとったり相関関係を示したり,多 様な情報を系統立ててまとめていく作業.思考実験・(仮説)など現実から離れたところで整理さ れることもある.
実験・観察を元に法則性を見い出す.仮説の下で研究の方法を考え,実践し,結論を導き出す.再 現性を重視し,自然界の現象の解釈を試みる.数学との関連.気づきから深める.発展させる.
好奇心,夢.社会に認められる.思考実験(アインシュタイン,まさつ).
未来の生活をより良いものにしようと考える事が,「科学」ではないか.地球,生物の事を考える こと.
10 2.科学に関する18の記述分類について
(1) 記述1「科学は事実を集めたものである.」について
以後,教員の班をA班,B班,C班,D班とする.「科学に関する18の記述」の結果を表4に,記 述1についての受講者の回答と各班の議論のプロトコルを表5に示す.
C班,D班では「考えていくこと自体が科学」といった発言があり,到達目標をみたす議論がなさ れたと考える.しかし,A班では科学を追求する心が科学的かどうかの議論で,科学を追求する心は 科学的ではないため,この記述は正しいという結論であった.B班は事実とされていることが,未来 では事実でなくなる可能性についての議論となり,今は科学は事実を集めたものであるが,未来では 事実でなくなる可能性があるので,どちらともいえないという結論であった.これらのことから,A 班,B班では到達目標をみたさない議論となったと考える.
正答率の変化について,到達目標をみたす議論がなされた班では議論後に正答率が向上し,全員が 正答となった.このことから,到達目標をみたす議論がなされた結果,正答率が向上したといえる.
しかし,到達目標をみたさない議論となった班は全員が不正答,あるいはわからないとしていた.
表4 教員の「科学に関する18の記述」の結果
記述番号 議論前 議論後
○ × ? ○ × ?
1 7 9 0 3 8 5
2 0 16 0 0 16 0
3 2 13 1 1 15 0
4 1 15 0 0 16 0
5 10 6 0 6 10 0
6 5 10 1 1 11 4
7 2 13 1 3 13 0
8 3 13 0 1 15 0
9 11 5 0 12 4 0
10 1 13 2 0 16 0 11 12 3 1 13 2 1 12 3 11 2 4 12 0
13 8 7 1 11 5 0
14 1 15 0 0 16 0
15 9 6 1 8 6 2
16 0 16 0 0 16 0
17 9 6 1 11 5 0
18 2 14 0 1 15 0
○:記述を正しいとした人の人数
×:記述を誤りであるとした人の人数
?:わからないとした人の人数
11
表5 記述1「科学は事実を集めたものである.」の回答と議論内容 A班 <回答>
1 前 ○
後 ○ 本来ならば 2 前 ○
後 ○
3 前 ○ 集めて,「まとめた」もの 後 ○
4
前 ○ 非科学的…という言葉にある,空想・予想・思いこみ・主観的解釈を除いていくと,
客観的事実を対象にしていると思っていた.
後 ? 対象が客観的事実(物・現象)であっても,それを試行する人間の心のあり方をすで に科学とよぶなら,「事実」と今思っているものも実は事実じゃないかも知れないから
<議論内容>
「非科学的なものというのが,思い込みとか,主観とかそういうものをどけて,残った科学的なもの といったときに客観的な事実という言葉か私たちの中で出たので,そうなのかなと思う.」
「そう思います.」
「ただ,追求しようと思う心が科学だという意見が出たら,人間の気持ちというものを科学の中に入 れるかどうかは迷っている.」
「事実をもとにしてやっている.結果的に事実じゃなかった場合があるとしても.基本的に事実とし てやっている前提がある.もちろん想像もあるが,事実とするためにやっているから,基本的に事実 としてやっている.」
「そうすると,事実じゃないという感じですか.事実じゃないものも入っているのだから.」
「そこはどうとでも取れると思うのですが.」
「最終的には事実じゃなかったら,科学ではないと.」
「科学から外してしまう.科学は事実が集まっているものだと思うんですけど.」
「じゃあ,科学を探究しようという心は科学ではないということですね.」
B班 <回答>
1 前 × 現時点で確認され,判例もなければ正しいが,そうとはかぎらない.
後 ? 2 前 ○
後 ? 現時点では○だが未来は△→×かも.
3 前 × 新たな事実がでてきたりすることがあり,理論が覆されることがある.
後 ? 現時点では○,未来は△→×.
4 前 ○ 現時点では,事実でなければ科学とはいえない.
後 ? これからの研究で事実でなくなることもある.
<議論内容>
「現時点でわかっていることかということもあるけども,これから先研究していく,今研究している ものも含めていくと,それは間違いというか,また違ったものが出てきたときには,これは違った,
違うという事実ととらえれば,全部事実に入るのかもしれないけども,これから先のことも含めてい
12 ったらということで×にしたんですけど.」
「×ですね.」
「新しい事実が出てきましたというので理論がくつがえされることを見たことがあるので,×にした んですけど.」
「僕も最初は×にしていたんです.なんでかって言うと,今出てきた話と一緒で,例えば天動説は一 時は信じられていたけど,それは事実じゃなかったということがあった.でもやっぱ○にしたのは,
現時点では事実というか正しいことじゃないかなあという.天動説もその時点では正しかったわけで.
現時点という考え方をすれば,事実を集めたものと言ってしまっていいのかなあという気持ちですね.」
「そうですね.私も○×○って書き換えたんですけど,最終的に科学って,科学者が自分で仮説を立 てて,実証したものだとしたら,今現時点では事実を集めたものなのかなあ.」
「とりあえずそれに合わないことが見つかってないからそうなっているけれども,現時点でとらえた ら○かな.でも,もうちょっと幅広くしておいたら,特に過去よりも未来の方をしておくと,もしか したら中身は事実じゃないのかなあという風になるから,迷ったのは迷ったんですよ.」
「これ,じゃあ,現時点では○,未来では△というぐらいにしておきますか.」
「多分,×までは言わないのかもしれないけれど.○とまで言い切るのはどうかな.」
「もしかすると,その時点では現実のものになるんだろうけど.」
「現時点で探究できないものもあるじゃないですか.調べられないものも科学に入っていると思うん ですけど,そう考えると×なのかなと思ってみたりするんですけど.そのあたりはどうですか.その 今実験できなかったり,事実を集められなかったりすることも科学に入りますか.」
「最初の科学をどうとらえるかですよね.」
「例えば,その科学というのを今わかっている科学と考えれば.」
C班 <回答>
1 前 ○ 現時点では
後 × わかっていないこともある.検証されていないことも多い.
2 前 × 事実かどうか確かめるのも科学だと思うから.
後 ×
3 前 × 今だに解明されていないこともあるから.例えば宇宙の果てや,海底の最も深いとこ ろなど.
後 × 同上
4 前 × 事実を集めたものだけでは科学といえない.まだわかっていない事も含めたものが科 学だと思う.
後 ×
<議論内容>
「わからないことも含めて科学といえるんでしょうね.わかってないものもいちおうふくめるんかな あ.発展途上のやつもあるんで.」
「確かめるっていうのも科学かなあという.」
「海の底潜ったこともないし,地球から出たこともないのでわからんことやけど,それも科学と思う.」
13 D班 <回答>
1 前 × 理論はあっても,技術的な部分で実験で確認できていない所もあるのでは…
後 ×
2 前 × 事実を探求しようという姿勢の中にあるものだが,事実以外の仮説などを含む多様な ものである.
後 ×
3 前 × もともと,このような考え方をすること自体間違っている.質問自体,空虚なもので あり,間違っている.(考えていくこと自体,科学である.)
後 ×
4 前 × 事実と思われていたものも,今後事実ではないこともあるし,仮説によって進められ ているものもあるから.
後 ×
<議論内容>
「そもそもこういう考え方をする自体がわからない.」
「事実じゃないことを探究するのが科学だと思うし,こう断定するのは間違いだと思いますね.」
「的外れな質問というんですかね.そんな気がします.」
「現状では理論で終わってしまっていても,それを考えていくこと自体が科学かなって気がするもの で.」
(2)記述2「科学は完全であり,すでに私たちは自然界について知るべきことのほとんどを発見し た.」について
受講者の回答と各班の議論のプロトコルを表6に示す.全ての班で「科学は完全ではない」という 発言は見られたため,到達目標をみたす議論がなされたと考える.また,C班では「変わっていくこ ともあるかもしれない」という発言があり,科学が洗練,修正されるものという点も議論がなされて いた.
この記述は全員が正答していため,議論前後に正答率の変化は見られなかった.
表6 記述2「科学は完全であり,すでに私たちは自然界について知るべきことのほとんどを発見し た.」の回答と議論内容
A班 <回答>
1 前 × 完全はあり得ない.
後 ×
2 前 × まだわからないことがたくさんある.
後 ×
3 前 × まだまだ分からないことだらけだと思う.
後 ×
4 前 ×
自分が子どものとき聞いた説明や事実が,この50年間でさえ次々と変わっていくの を見ていると,まだまだ知らないこと,間違っていることがあるし,あるんだろうな あと思う.
後 × 同上.
14
<議論内容>
「完全だったらやる必要はない.」
「そうですね.」
B班 <回答>
1 前 × 不明なものがまだまだある.
後 ×
2 前 × わかっていないことも多い.生態,宇宙,ウィルス.
後 ×
3 前 × 宇宙についてのことなど,わからないこともまだあると考えられるから.
後 × 知らないことだらけ.
4 前 × まだ発見されていないことはたくさんある.
後 ×
<議論内容>
「さっきの話の続きじゃないんですけど,わかってないことはやむを得ないと思うので.」
C班 <回答>
1
前 ×
後 × まだ,わからない(解明されていない)ことは,数多くあると思う.また,自然界は,
日々変化しているから.かわっていくこともある.
2 前 × 地球の表面だけでなく,中までまだ知られていないことが多いから.
後 ×
3 前 × 上記と同様.まだすべてを知りつくしていないし,変化することもあるから.
後 × 同上
4 前 × まだ,わかっていないことが多いと思う.そして,知るべきことはまだたくさんある と思う.
後 ×
<議論内容>
「ほとんどの事を発見した.これは×です.」
「1番と同じ考えでこれは×にしました.」
「わからないことはいっぱいあるということでいいですか.」
「変わっていくこともあるかもしれないですね.」
D班 <回答>
1 前 × 宇宙・深海など,まだ未知の部分がたくさんあると思う.わかっているのはほんの一 部.
後 ×
2 前 × むしろ,自然界の一部を理解しただけで知らないことの方が多い.宇宙について生命 についてなど分からないことだらけ.
後 ×
15
3 前 × 目標としては存在するのかもしれないが,現実的には困難であり,例えば,多様性と いうような考え方も最近は出てきている.
後 ×
4 前 × 今までも,これからも完全であることはないと思う.
後 ×
<議論内容>
「わかっているのは本当に一部の事だけ.」
「多様性とか言ってたじゃない.最近,あれも見方によってはずるい考え方ですよね.自分たちで科 学に対するきちんとした答えが見いだせないから,多様性という言葉で全体を包んでしまうみたいな ところがあって,そういうような面があるから,子供が発見したいという気持ちはわかるんだけれど も,絶対無理だなという気がしますね.」
「わかってない部分はたくさんあるというあたりで.」
(3)記述3「すべての科学者が従う,単一の「科学の方法」がある.」について
受講者の回答と各班の議論のプロトコルを表7に示す.全ての班で科学の方法は多様であるという 議論がされていたため,到達目標をみたす議論がなされたと考える.
この記述は議論前後ともに全ての班で正答率が高く,議論前後に正答率の変化は見られなかった.
表7 記述3「すべての科学者が従う,単一の「科学の方法」がある.」の回答と議論内容 A班 <回答>
1 前 ×
後 × 広い意味ではあるかもしれない.
2 前 ×(?) 具体的な方法.動機etc異なる.方法→結果→考察が単一な方法と見るのか.人によ って違う
後 ×
3 前 × 方法は人それぞれ….
後 × 同上.しかし,かんさつ→仮説→検証という手続きの大すじは共通.
4
前 × 科学の方法のための,発想のしかた・調査や実験技術の変化・それを受けとる社会の あり方によって,方法も変わるだろう.
後 × 目に見えぬ,今はしていないかもしれない「単一の方法」が努力しやすいかも…とは思 うが.
<議論内容>
「よくわかりません.でも,わからないから×かな.」
「具体的方法はちがう.」
「動機とかも人それぞれだったりするのも単一じゃないってことかも.」
「子どものときに科学で聞いた発想の仕方もずいぶん変わってきたし,それを確かめる方法とかそん な道具や技術も変わって,実際そこから出でくる事実が子どものころに聞いた説明とかと違うってい うのを見ていると,やり方を変えると前に事実であったものが違ってくるのかなあと.」
「それは多分前が間違っていたということだと思います.」
「例えば,動物を観察する時に,事実がこうだけど,人間の思い浮かびが入ってて,母親が子供を大
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事にして愛情たっぷりだからってそれは人間が勝手に思っているだけだけど,そうやってみる事実が 全然関係なしに,猿と人間が頭が違うからなんも考えてないでと見る事実と,解釈が違ってきますよ ね.」
「科学ははじめにそういう前提がないんです.だだ,科学は行動を純粋に客観的に見てやってという のがあるので,もし,その前提にあるとしたら,その時点で科学ではない.ただ,昔の方法は間違っ ていたという風になってしまうんじゃないかなあと.」
「理科なんかで,一つの学習する時に過程とか仮説とか結果はもちろんあるけど,結果までは事実だ けど,そのあとに考察というか結論がありますよね.事実は並べられたけど,それをどう読みとるか は考察だから,そこまでは科学にはならんの.自分が言っているのは,科学が結果から読み取った人 間としての解釈・考察,そこまでが自分は理科って思っているので,考察の仕方が変わってきたり,
読み取り方が変わったりすると思うんだけど,先生の言う様な,実験観察の結果までが科学.」
「いや違います.考察も入ります.もちろん.考察も入るんですけど,その考察は本来的には同じ結 果で考察が違っているのは,それがどっちが正しいか,結果的には昔が正しいこともあれば,今が正 しいこともあるし,ただ,実際に考察をするときにも,結果に基づいた考察なんです.それには余計 な感情ってのは一切入ってはだめなんです.と学生の時に言われました.」
「考察をどこまで書くかは研究室の流儀とかあると思うんですが,そこも含めて単一ではないという ことでいいですか.」
「結局科学って調査があり,実験があり,何か方法があって結果ができて,考える.大まかにいくと 単一といえば単一なのかなと.」
「ああ,そうだ.流れとしては全然,確かに.」
「その方法ってどの分野でも,まず,やる方法なんですよね.」
「そうですね.」
「例えば,想像だけで書いていれば科学ではないはずなんですよ.それを大筋では決まっているとい う意味で,それは○なのかなあと.一般的にいえば方法があって,結果があって,考察があれば科学 とみなしている気がする.どれか一つが欠けるとそれは科学ではないとなっていた気がするので.」
「自分自身が検証しないと科学じゃないとなると,例えば子どもが「これ,なんで?」と聞いたとき に,大人が説明するじゃないですか.その説明があっているか,正しくないかは子どもにはわからな いのだけれども,説明を聞いてわかった気になるじゃないですか.それは科学ではないの.」
「ないと思いますね.でも,子供がなぜ思ったかとかの過程まできっちりやっていけば科学になるか もしれないですね.」
「保留で.」
B班 <回答>
1 前 × いろいろな考えがある.
後 ×
2 前 × あればもっと知られているだろう.
後 × 3 前 ? 後 ×
4 前 × いろいろやってる.
後 ×
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<議論内容>
「わからなかった.」
「迷って,最終×にしたんだけど,単一の方法ね.多分色々と調べていくときには,順序と言うか,
まずなんかの理論にあわせてならないからというニーズがあって,もしかするとほとんどの科学者が まずはこれに当てはめるんだというのはあるのかもしれないけど,でも全ての科学者やから違うのか なと.どんな分野もあるわけやし.」
「×にしたんですけど,例えば予想を立てて,色々実験をして確かめて,答えを出すという非常に単 純なプロセスを単一の科学の方法と言ってしまえば単一なんだろうけど,それも細かく見ていけば,
例えば,予想の立て方からして,もうすでに多岐多様.それを単一と言い切るのは無理かなあと言う 気がします.」
「単純にあったらもっと知られているかなって思いました.そんな方法があったら,もう知ってるん じゃないかなということで,知らないので無いんだろうって.」
「じゃあ,×で.」
C班 <回答>
1 前 ×
後 × 単一ということはない.いろいろあると思う.多様なものがある.
2 前 × 科学者の視点,研究は多様だと思うから.
後 ×
3 前 × いろいろな考え方があるので,単一ではないと思う.
後 × 同上.
4 前 × それは,自由であって,事実をつきとめる方法は1種類ではない.
後 ×
<内容>
「単一ってことはない.みんな違う.」
「色々あるような気がするんで.」
「多様な.」
D班 <回答>
1 前 × ちがう方法があっても良いと考える.
後 ×
2
前 ○ ニュートン力学→量子論へと発展していったように不十分なことを補完していった ら,やがていつかは単一のものにたどりつけると信じたい.
後 × 「方法」を検証の手だて,ととらえれば,様々な視点からアプローチをかけて一つのこ とを検証するのは必要.
3 前 × 自然は一つだが,そのとらえ方は十人十色であり,一つとして同じものはない.
後 ×
4 前 ○ 理由はないが,あるかもしれないと思ったから.
後 ○
<議論内容>
「あるはずだという感じですねニュートン力学で説明できなかったのを補足する方法で量子論とかが
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発展していったりして.突き詰めていけばあるはずなんだけれども見つかっていない」
「捉え方ですよね.自然は一つなんだけれども,どう捉えていくか.例えば量子論一つにしても,大 学の先生が講義すれば,先生一人ひとりによって,量子論にしても,捉え方が違う,表現の仕方が違 う,教える内容も違ってくるわけであって,言ってみれば十人十色,自然科学の内容というのはとい う気がしますね.だから,量子科学も一つなんだけれども,それが色々な捉え方をされているのがあ るんじゃないかと思って×にしました.」
「自分も確かに一つの見方でいくものもあれば,いろいろな方向から突き詰めていくものもあるかな.
具体的に言うと,出てきにくいんだけど,1分野関係,物理とか化学になるとどうしても,同じ方法 でというのは,頭に.という所で,単一の方法でっていうのはどうなんかなということで×はつけた んですが,どうですかね.」
「方法っていうのは,法則というイメージでとっているもので,×でいいと思いますよ.」
「多様な見方があってもいいということですね.」
(4)記述4「科学のプロセスは純粋に分析的であり,創造性は関わらない.」について
受講者の回答と各班の議論のプロトコルを表8に示す.全ての班で創造性が重要であるという議論 がなされていたため,到達目標をみたす議論がなされたと考える.また,A班とB班では創造性は実 験方法や仮説を考えることに使われるといった創造性を伴う具体的な行為についても議論がなされて いた.
正答率の変化について,到達目標をみたす議論がなされた班では議論後に全員が正答となった.こ のことから,到達目標をみたす議論がなされた結果,正答率が向上したといえる.
表8 記述4「科学のプロセスは純粋に分析的であり,創造性は関わらない.」の回答と議論内容 A班 <回答>
1 前 × 後 × 2 前 ×
後 × 方法は色々あるから.基礎科学→応用科学.創造性→新しい物質を作り出す.
3
前 ○ 創造性は「技術」ではないか.
後 × 科学が行われること自体,創造性あっての.方法の中にもアイデア,創造性.産業に かかわる科学には必ずある.
4 前 × 科学の始まりが,生活を良くする・好奇心を満たす・夢をかなえるといった心からス タートする以上,過去に解明されたことより創造的になるのが当然だと思う.
後 × 同上.
<議論内容>
「創造になるのは科学が技術に切り替わる時かなあというイメージがあって,○にしました.」
「調べ始める動機とかも創造性といえばそうなのかなあと.」
「人間の精神が科学,動物にはない科学の学問ていうので,その人間の行動とかが科学と呼ぶとした ら,「空を飛びたいな.」と思うだけで創造的じゃないですか.科学的分析という言葉があるけど,科 学が分析じゃなくて,科学的に分析して,その人間のやろうとか使おうそこまでを科学に入れるのか なあと.」
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「創造性がないと科学が出てこないという感じですか.」
「私は単純に,実験にしてもプロセスとかやり方とか方法とか過程はやろうと思った人で違うから,
そこに創造性が関わっているかなと思ったので×かなと思ったんですけど.」
「一応,創造性があるということにしたんですけど,曖昧なんですよ.基礎科学だとあまりないよう な気がするんですけど,応用科学になってしまうし,結局はそれまであった事実をもとにして,何か をつくるために創造性につなげる過程に対して科学をあてはめていくということ.いろいろな物質を 作り出す,それには創造性が入っているのかなという気がしました.」
「×にします.」
B班 <回答>
1 前 × それでは新発見はない.
後 ×
2 前 × 創造性がないと,新しいことは発見できない.
後 ×
3 前 × 結果を予想する時などは,創造性も入ってくると思う.
後 × 創造性がないと予測や仮説が立てられない.
4 前 × 仮説を立てるときは創造的である.
後 ×
<議論内容>
「×ですね.仮説を立てる段階は非常に創造的である.創造性がなければ仮説は立たないと思うので.」
「そうですね.どんどん新しいものを発見していくのが科学であるとすれば,創造性がなければ発見 はできない.」
C班 <回答>
1 前 × 発想する時,創造性は要る.分析は必要だが.
後 ×
2 前 × 創造性がなければここまで発展しなかったと思う.
後 ×
3 前 × 分析は必要であるが,発想の段階や探究していくときには,創造性も必要である.
後 × 同上.
4 前 × 創造性が関わることは重要である.
後 ×
<議論内容>
「これも×です.創造がなかったら.」
「発想する時にそれぞれの,なんて言ったらいいんだろう.」
「創造性は要るということで.」
「ここはストレートに×.」
「そうですね.」
「分析するのは必要かもしれないですよね.」
「関わらないとは言い切れない.」
20 D班 <回答>
1 前 × 後 ×
2 前 × むしろその創造性を補うために分析の作業があると思う.
後 ×
3 前 × 科学は夢やロマンの探究であるという一面がある.発展性が出てこない.
後 ×
4 前 × 分析だけでなく,仮説など,様々なものから,成り立っていると思う 後 ×
<議論内容>
「科学は夢とロマンの探究ですから,創造性はたっぷりあると思います.」
「探究していくものとしては,創造的な部分がほしいですかね.それがないと発展性という部分が出 てくるかなって思いますね.」
「じゃあ,×で.」
(5)記述5「実験は,科学のプロセスに必要なものである.実験がなければ研究は厳密でなく,科 学的でない.」について
受講者の回答と各班の議論のプロトコルを表9に示す.A班とB班では調査や観察といった実験以 外の検証方法について議論がなされていた.このため,到達目標をみたす議論がなされたと考える.
C班では実験はしなければならないという議論で,D班では科学的なことに検証は必要とは限らない という議論であった.これらの班は到達目標みたさない議論となったと考える.
正答率の変化について,正答率は議論後に上昇していた.上昇していた班はA班,B班,D班であ り,A班とD班について到達目標をみたす議論がなされた結果と考えられる.D班で議論後に変更し た人の理由は「調査などの研究もあり,実験のみ科学的であるというのはおかしい」という,記述の 到達目標に沿ったものであった.これは全体での議論の効果であると考える.
表9 記述5「実験は,科学のプロセスに必要なものである.実験がなければ研究は厳密でなく,科 学的でない.」の回答と議論内容
A班 <回答>
1 前 × 調査.
後 × 2 前 ○
後 × 実験だけでなく,調査も含まれる.観察も.自然は再現するのはむずかしい.
3 前 × 実験も厳密とは言いきれない.
後 × 「調査」もある!
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前 ○ ある現象は,逆の面も確かめないと,事実に近づけない.
後 ○ 調査のつみ重ねだけでも,事実に近づけるという声もあったが,「地球をもう1つ作 って実験してみないと」やはり真実はわからない.
<議論内容>
「×.実験だけでなく,調査も含まれる.」
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「調査も実験なのかな.それはよくわからない.」
「カメの産卵を夏になるとよく見に行くけど,じっと見ていて,観察していて去年はこうだったとい うのが調査ですよね.なんで,こうなるのかというときに,逆のことを実験してみないと,Aの面だ けでそうかなといっているとあかん,逆を知るためには実験しないとあかんのかなと思うけど,そん なのはどうですか.」
「うーん.私はもともと調査の方の人間なので,ものによって実験で再現できるものは実験しよう,
実験で再現できないものは調査を積み重ねて事実に厚みを持たすという作業をするんですね.」
「地球がもう一つないと,できない実験みたいな感じですよね.海洋なんかの調査って.」
「そうか.」
「変な話なんですが,ほんとは再現性とか大事なんですけど,自然の場合二度と同じ時はこないので,
近い状況で最後は判断することがある.事実を何度も積み重ねて.そういう意味ではさっきの2番な んかそう.発見できないというか.創造性が入ってしまう.事実もそう.創造性が入ってきて,事実 じゃなかった可能性もあるんですけど,事実に近づけるために積み重ねるということ.」
「実験できなくても調査という手法があるということで,これは×で.」
B班 <回答>
1 前 × 実験は必要であるが,理論科学も必要.
後 ×
2 前 × 観察でもよい.実験できないこともある.(宇宙・海底)
後 × 3 前 ○
後 × 調査・観察などでもよい.研究できないものもある.
4 前 ○
後 × 理論科学もあった.アインシュタインもいた.
<議論内容>
「実験しなくちゃ確かめられないと思うんですよね.」
「ただ,僕ここが引っ掛かったんですよね.科学的でない.理論科学をしている人は皆否定されるの か.理論科学で理論的に考えた,確かにその理論は正しいかどうか実験はしていくのだけれども.で も,まず実験する前の理論,理論は理論をしている人,実験は実験でまた別の人がしているから,ど っちも大事だから,この最後の科学的ではないというのが引っ掛かって.理論だけだから厳密じゃな いのかもしれないけど,科学的でないことはないかな.」
「実験できないこともあるんじゃないかな.実験できることばっかりじゃないから,観察しかできな いものは科学に入らないとか.もっとわかってない,さっきも言った,わかってないことがたくさん あるので,それを理論としてやっている人は科学的じゃないのかとか考えると,単純に実験至上主義 でいいのかなとは思ったんです.イメージ的には実験ほしいんですけどね.」
「実験して,データが出たらそれは間違いないだろうと思うんだけど,理論の考え方も科学的ではな いかな.僕はやっぱり最後のこの言葉が引っ掛かって.」
「これですね.」
「科学的やん.別に.」
「なるほど.じゃあ,○で.」
「○でいいですか.」
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「太陽が昇ることが科学だとすれば,実験のしようがない気がするんです.観察の蓄積というのも入 れてもいいかな.」
「そのへん考えてなかった.単純に.それこそ一番最初に言ったどう捉えるかになる.難しいなと思 うんですけど,×で.」
C班 <回答>
1 前 ○ 「科学的ではない」これは,ひっかかる.△はだめなのかと考えた.可能な限り実験 しなければいけないと思う.
後 ○ 2 前 ○
後 ○ 「科学的ではない」という言葉がひっかかる….
3 前 ○ 仮定したことを,実際に調べる活動は必要.
後 ○ 科学ではないとは言い切れないと思うが….可能な限り実験で解明したいから.
4 前 ○ 多くの場合は,実験が必要であるが,実験でできないものがあり,それも科学だと思 う.
後 ○ 同上
<議論内容>
「なければいけないというのは,そうだなあと思う.」
「科学的でないのかどうかわからない.」
「そこまでは.」
「これは引っ掛かるけど,前半○なんで,○にしちゃった.」
「△ってつけたらだめなのかなあと思って,書きました.」
「一応○で.」
「可能な限り実験しなければいけないような気がするんで.」
D班 <回答>
1 前 × 実験は必要であるが,ないからといって科学的でないとはいえない 後 ×
2 前 × 仮説の段階であっても科学的だと思う.ただその理論を再現したり検証して普遍的な ものにするプロセスには必要.
後 ×
3 前 ○ 科学的真理の裏付けは実験結果によらなくてはならない.
後 ○
4 前 ○ やはり,検証するためには何らかの実験が必要である.
後 × 調査などの研究もあり,実験のみ科学的であるというのはおかしい.
<議論内容>
「やっぱり要るやろなって思っていたけど.なんかの実験は必要なんじゃないかなあと思って○にし ました.」
「科学的真理の裏付けは科学実験結果のよらなくてはならないという.裏付けがないと,やっぱり事 実といえない.」
「×はどうですか.」
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「自分は後半,実験がなければ研究は厳密でない,実験してなければ科学的ではないというのは,思 考実験で真実にたどりついた人というのも否定するようなと思うので×をつけました.」
「自分も実験は必要なんだけれども,なければ駄目なのかというと,ちょっとそこの部分で?ついた もので.どうでしょうかね.前段階は自分も肯定しますけどね.」
「最終段階でこのたどりついたことを,普遍化して広げていく段階では必要なんかなあと.そこまで のほぼ科学という最後の段階だけで必要なんかなあと.」
「超常現象とかオカルト的なこと,あれは科学的でないと思うんですよね.真実にするのは実験なん じゃないかなと.裏付けというか,そういう気がするんですけどね.だから,UFOがおると言って いるのはいいけれども,証拠があるのかと.実験・観察してちゃんと結論が出なければ,UFOが存 在するというのは否定されるんじゃないかなという気はするんですけどね.」
「でも,確かにこれを○にするというのは.」
「理科的に考えるということで○にしたんですけど,理科以外の科学的なことってたくさんあると思 うので.」
「実験がなくても科学的なことはあるのかなという気が今しました.」
「6番で言う,社会科学や行動科学も科学と含めていくと,理科だけじゃなくてよく見る必要がある のかな.そう考えていくと必ずしも実験がないと駄目だとは言いにくい部分も出てくるかな.」
「裏付けがあれば厳密かなっていう気がするんですけど,それでは測れやん部分があるかな.」
「説得力ということだけ.実験があるとね.」
「それが正しいと思う.」
「×で.寝返ります.」
「大事にするポイントが変わると答えが変わってくる.」
「そう思う.」
「やっぱり後半の実験がないと科学的ではないというのは受け入れがたいと.」
(6)記述6「自然科学(例:化学や物理学)は,社会科学や行動科学(例:心理学や社会学)より 厳密で科学的である.」について
受講者の回答と各班の議論のプロトコルを表10に示す.B班,C班,D班では学問分野が違うので 比較できないという議論であった.これらの班は到達目標をみたす議論がなされたと考える.しかし,
A班では学問分野による厳密さの差があってはいけないが,自然科学の方が厳密な結果が得やすいと いう議論であった.これは到達目標をみたさない議論となったといえる.また,科学的な研究の厳密 さは研究者のアプローチによるものであることを議論していた班はなかった.
正答率について,到達目標をみたす議論がなされた3つの班のうち,B班とC班では議論前後とも に正答率は高かった.D班では比較できないためわからないという結論になった.また,A班では正 答率の上昇が見られた.変更理由は「科学だから同様に厳密にするべき」という記述の到達目標に沿 ったものであった.これは全体での議論の効果であると考える.
表10 記述6「自然科学(例:化学や物理学)は,社会科学や行動科学(例:心理学や社会学)よ り厳密で科学的である.」の回答と議論内容
A班 <回答>
1 前 × どのようなものでも科学的に行うならば差があってはならない.
後 × 本質的には.
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2 前 ○ 化学や物理学は実験しやすい.心理学や社会学は調査になる.
後 × 科学だから同様に厳密にするべき.
3 前 ○ 扱うシステムが小さいほど,厳密さが増すと思うので.
後 ? 現状は○かもしれないが,本来あるべき姿は×.
4 前 ○ 突然変異のように変わったことがあってもそれは事実(人間の力では変えられない)
であり,社会・行動科学は人間の意志で変えられる.
後 ○ 同上.
<議論内容>
「突然変異みたいに『そんなまさか』と思うことが起こるけど,何かそこには理由がある.けど,社 会とか行動は人間が意志で勝手にこう変えられるで,それに比べたらさっきの自然科学なんかはほん とに実際そうなんだから仕方ないと思うんだけど,そこらへん×の理由は.」
「見方だと思います.きっと物理学の方が厳密な結果になってしまっているんですけど,多分社会科 学や行動科学も本来的には同じものを目指しているはずなんですけど,でききれてない.実はさっき の調査と実験の違いなんですけど,化学は実験できるんですよ.社会科学や行動科学は実験しづらい.
だから,調査を積み重ねて事実を厚くしていくのか,実験で結果をはっきり出していくのかという違 いが出てしまうんですけど.目指している所は一緒かなという意味で,○にさせてもらいました.」
「目指すところで見るか,現状で見るかの違いで意見が分かれている.」
「本来的には差があってはいけないという意味で○にしたわけで,結果的には多分差がないと思いま す.」
「そうですよね.扱いやすい分野.」
「さらっと表面だけ読んで○かなって考えた.でも,実際にやられるかた,奥が深いな,そうかなと 思うし.」
「よくもめるんです.これ.魚の行動を研究していたもので,とくに水産はいろんな分野が入ってい ますんで,実験室でやっているものもあるし,そうなるとその人と話をすると必ずもめるんです.」
「わかる気がします.」
「ちゃんと結果が出てないやないかというのと,ここまでやったら十分やっていうのと,もめるんで す.だから多分ほとんどの人は○にすると思うんですよ.個人的にこだわりがあって×にしただけで.」
「じゃあ,本来は×であるべき.時間があったらということで,現状は○で.」
B班 <回答>
1 前 × 後 × 2 前 × 後 × 3 前 ?
後 × 社会科学や行動科学にも実験がある.
4 前 × 社会の科学も厳密で科学的であるが,実験がわかりにくいだけである.
後 ×
<議論内容>
「偏った考え方なので,厳密でとか.」
「厳密でっていうのに引っ掛かって.わからんかったけど,なんとなく×のような感じもするし,わ