ドイツにおける上告審の自判について
片野 B良
二
三
四
五 はじめに
連邦通常裁判所の二つの判例
訴え却下判決に対する上告における手続対象
上告審の自判と不利益変更禁止の原則
ZPO五六三条の適用の可否
一はじめに
控訴審が誤って訴え却下判決を下し︑この判決に対して上告が提起された場合︑上告審は︑本案が裁判に熟し
ているとき︑ドイッ民訴法(以下︑ZPOと略す)五六五条三項一号により︑差戻しをすることなく︑本案につ
(且)いて自ら裁判をすることができるか否かについて︑ドイッ法においては争いがみられる︒この問題は︑訴え却下
判決に対して上告が提起された場合の手続の対象は何かの問題および不利益変更禁止の原則の問題の観点から︑
議論が行われている︒
ドイツにおける上告審の自判について=丑(1)
二六(2)
﹁民事訴訟手続に関する改正要綱試案﹂第=二上訴・一控訴5必要的差戻しは︑控訴裁判所は︑訴えを不適法と
して却下した第一審判決を取り消す場合であっても︑事件につきなお弁論をする必要がないときは︑その事件を
第一審裁判所に差し戻すことを要しないものとする︑ことを提案している︒各界意見の概要によれば︑提案に対
して反対意見もみられるが︑賛成意見が多数を占めているとされている︒本稿の直接の対象は控訴審の訴え却下
判決に対する上告審の自判権限であるが︑ZPO五三八条(更なる弁論が必要であるかぎりにおいて差戻しを要
請している)や同五四〇条(差戻しを控訴審による相当性の判断によって控えることを認める)の規定を有する
る ドイッ法と異なり︑わが国においては︑控訴審についても同様の議論が参考になると思われる︒
注(1)肯定説として︑Blomeyer,ZivilprozeBrecht,2.Aufl.,1985,ァ104VII2b7;Bruns,ZivilprozeBrecht,2.
Aufl.,1979,Rdnr.285a;Rosenberg/Schwab/Gottwald,ZivilprozeBrecht,15.Aufl.,1993,ァ146II2b;
Zeiss,ZivilprozeBrecht,6.Aufl.,1985,ァ83VIIclAK‑ZPOAnkermann,198?,ァ565Rdnr.12;
Baumbach/Lauterbach/Albers,ZPO,52.Aufl.,1994,ァ565Rdnr.11;MunchKommZPO‑Walchshofer,
1992,ァ565Rdnr.23;Stein/Jonas/Grunsky,ZPO,21.Auft.,1994,ァ565Rdnr.24;Thomas/Putzo,ZPO,
旨゜Aufl二一り㊤一噸X565Anm.3;Wieczorek/Rossler,ZPρN.Aufl二一㊤ooo◎噛ァ563IV;Zoller/Schneider噛N℃ρ
13.Aufl.,1981,X565III2.
否定説としN'Arens,ZivilprozeBrecht°㎝.Aufl.,1992°ァ36Rdnr.417;Jauernig,ZivilprozeBrecht,24
Aufl.,1993,ァ75VIII;Rosenberg/Schwab,ZivilprozeBrecht,10.Auf1.,1969,ァ147II,III2b.
(2)法務省民事局参事官室﹁民事訴訟手続に関する改正要綱試案補足説明﹂によれば︑①第一審で実体につき
十分審理が尽くされた場合︑②当事者間で事実関係に争いがない場合︑③原告の請求が主張自体からみて理
由のないことが明らかである場合等においては︑控訴審の自判を認めても︑実質的に審級の利益を害するこ
となく︑むしろ迅速に紛争を解決することができるようになるといわれている(七〇頁)︒(3)柳田幸三ほか﹁﹃民事訴訟手続に関する改正要綱試案﹄に対する各界意見の概要(九)﹂NBL五六九号四
三‑四四頁︒(4)訴えを却下した訴訟判決に対する控訴審で︑訴えの変更をすることについて︑最判平五年一二月二日判時
一四八六号六九頁はこれを肯定しているが︑判例・学説において争いがみられる︒本稿においてはふれるこ
とができなかったが︑この場合においても︑訴えの変更が許されるか否かの問題と︑上訴審が請求について
自判できる状況であるか否か(すなわち審級の利益を考慮する必要があるか否か)の問題とが密接に関係し
ている︒
二連邦通常裁判所の二つの判例
次の連邦通常裁判所の二つの判例は︑ともに控訴審が裁判権系列の選択を不当に不適法と解して訴え却下判決
を下した場合︑上告審はどのような措置をとるべきかについて判示したものである︒そして︑①の判決は訴え却
下判決に代えて請求棄却判決を下し︑他方②判決は控訴審判決を取り消して事件を控訴審へ差し戻している︒こ
の他︑上告を棄却する措置を行う判例もみられるが︑これは上告審の自判権限を認めた上で︑不利益変更禁止の
原則により︑上告棄却の裁判に留めるものである︒この点については︑四のところで検討したい︒
ドイッにおける上告審の自判について二七(3)
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①連邦通常裁判所(第三部)一九五三年=月一六日 決[JZ1954,325=ZZP67,159=JR1954,182=NJW
1954,150]
︻事実の概要︼原告が緊急援助法の成立に関する政府の態度に対して非難を行ったが︑その過程で生じた懲戒裁
判所の費用︑回状の費用および郵便立替料の賠償を求めて通常裁判権の裁判所に提訴したところ︑高等裁判所は
前二者の請求に関して裁判権の系列の1択(Rechtsweg)の誤りを理由として︑訴えを排斥したが︑連邦通常裁
判所は︑裁判権の系列の選択を適法と解し︑かつ請求棄却判決を下した︒
︻判旨︼ZPO五六五条三項の文言はあまりにも狭く表現されているので︑次のような一般原則がそこから引き
出されるべきである︒すなわち︑上告審の法的見解によれば︑確定された事実に基づき本案が裁判に熟しており︑
原審への差戻しは余計なことであり︑単に手続法の理論上の処置にすぎないと思われる場合︑上告審は本案自体
について裁判することができる︒上訴の目的は判決の取消ではなく︑本案についての他の部署による裁判である︒
特に︑上告の目的も︑ZPO五六五条三項の狭い表現にかかわらず︑判決の取消ではなく︑本案について裁判す
ることである︒⁝⁝また︑上告審が︑従来の不適法としての訴え排斥判決に代えて︑理由なしとしての訴え排斥
判決を行うことにより︑上告人に不利益な裁判を下すことも︑上告審が本案審理を行うことに対する妨げとはな
らない︒このような結果は︑上告審が本案審理をしない場合に︑新たに本案に携わる原審の裁判がもたらすもの
と同一であり︑上告人は上告を提起することにより︑本案の審理が肯定されることを求めているのであるから︑
当然上告人が甘受すべき帰結である︒
本件の場合︑次に示すように︑訴えにおける主張はいかなる点からも有理性を欠くものであり︑訴えの申立に
ついて原告に有利な裁判を導くことに不適切である︒原告が新たな弁論において訴えの有理性を理由づけうる他
の︑本案に役立つ主張または証拠方法を訴訟資料として提出しうる可能性は︑法律上排除されている︒したがっ
て︑事件は更なる確定を必要とすることなく裁判に熟している︒このような場合に︑事件を原審に差し戻すこと
は︑単に上告審の代わりに原審が実体法上の理由により有理性を欠く訴えを排斥することを意味するにすぎず︑
民事訴訟の意義・目的に反することになるし︑また上告審が上述したように差戻しを取り止め︑自身により本案
について裁判しうるときに認められる訴訟経済の原則にも反することになる︒
②連邦通常裁判所(第四部)一九五三年一二月一〇日判決[BGHZ11,222=NJW1954,310=JZ1954,325]
︻事実の概要︼被告はライヒの官署から接収された漁船の報酬を受けとっていたが︑原告はこれを不当なものと
考え︑支払われた金額の返還を求める訴えを提起した︒高等裁判所は裁判権系列の選択を誤ったものとして訴え
を却下したが︑その際︑さらに訴えは理由具備性をも欠くとしていた︒上告審は︑裁判権系列の選択を適法と解
し︑控訴審判決を取り消し︑かつZPO五六五条三項一号により本案を自ら裁判することはできないとして︑
ZPO五六五条一項により事件を控訴審へ差し戻した︒
︻判旨︼控訴審は訴えを明白に不適法として排斥した︒したがって︑単に訴訟判決だけが下されたのであり︑本
案判決は行われていない︒確かに︑控訴審は裁判権系列の選択の適法性を否定する理由に︑訴えは﹁さらに実体
法上の理由によって返還請求権を貫徹しえない﹂との説明を加えている︒しかしながら︑訴えは訴訟法上の理由
と実体法上の理由に基づいて同時に排斥されえないのであるから︑裁判理由のこの部分は裁判上重要なものでは
ない︒訴え却下と請求棄却とは異なる内容を有している︒訴え却下は単に﹁適切な排斥﹂であり︑原告が適法な
要件の下で主張に係る請求を新たに追行することを妨げないが︑他方請求棄却は原則としてその既判力によりか
ドイッにおける上告審の自判について=九(5)