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― ― 中国中小企業経営者の世代交代に関する考察

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(1)

中国中小企業経営者の世代交代に関する考察

―中国語文献を中心に―

北     蕾

Study on Generational Change of Manager in Chinese Small and Medium Enterprises: A Review of the Chinese Literature

B

EI

Lei

China’s small and medium enterprises have developed after Chinese economic reform, nearly 40 years passed. The managers of “The first Generation of Chinese economic reform that was founded at that time are about to begin to think about their retirement soon. However, in reality, few researchers have been conducted in Japan on business succession of small and medium enterprises in China.

In this research, I will organize the previous studies of Chinese concerning business succession of Chinese small and medium enterprises so far and present a new viewpoint to be considered in future based on the research trends.

キーワード: 中国民営企業,中国中小企業,家族企業,世代交代,承継,後継者,Chinese Small and Medium Sized Enterprise, Inherit, Successor, Chinese Private Enterprise, Chinese Family business, Generational Change

【目次】

1.は じ め に 2.研 究 方 法 3.文献レビュー概観 4.示唆と課題

1

.は じ め に

 かつて,中国における企業形態は国有企業1)が主体であった.しかし,1980 年代のいわゆる 改革開放の時代を迎え,数多くの国有企業が民営化という事態に直面することとなった.その

*早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員 1)経営権,所有権ともに政府が所有する企業のことである.

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民営化の過程において,旧国有企業は様々な企業形態に分かれ,かつ様々な事業ごとに分割さ れたため,多様な形態,事業分野の中小企業が数多く生まれることになった.そのため,中国 の中小企業の生成過程は日本とは異なり,様々な組織形態を持っている.例えば,前身は鄕鎮 企業2)であったり,前述した旧国有の中小企業であったり,集体企業3)さらには個人経営4)か ら大きくなった家族企業5)などその企業形態は実に多様である.

 筆者は,様々な経営形態が存在している中国の中小企業について,国有企業から民営化した 中国中小企業の企業実態について経営者へのインタビューやアンケート調査等の実地調査を通 じてそれらの企業の実態を明らかにした上で,これらの企業の今後の課題についても指摘を行 った6).その中で,事業承継も一つの大きな課題として指摘している.

 中国の改革開放が始まってから間もなく 40 年が経過しようとしており,筆者が調査した経 営者たちも含めて,当時創業した「改革開放第一世代」の経営者たちもそろそろ引退を考える 年齢にさしかかってきている.そのため,中国の中小企業においても日本と同様に事業承継が 大きな課題としてクローズアップされつつある.今中国の中小企業7)は「中国中小企業発展研 究及び融資策略研究報告」によると,2016 年まで全国規模上中小工業企業が 37 万社あり,中 国全企業数の 97%を占めており,従業員の 85%が中小企業に雇用されている.ただし,中国 の中小企業の平均企業寿命は短く,3 年程度といわれている8).その中で,中国で事業承継とい

2)中国農村地域の末端政府,いわゆる各村落の末端政府が所有,経営する企業のことである.

3)都市部の地域政府が所有・経営する企業のことである.

4)かつての個人経営,いわゆる「個体戸」は雇用する従業員の数が 8 人以下,生産手段は個人が所 有する経済体のことであるが,2011 年に新たな「個体工商戸条例」が頒布され,従業員数の制限が 廃止された.

5)家族企業に対する定義は学界でも多岐にわたっているが,本研究は企業の所有権と経営権共に同 一家族にコントロールされる企業のことを指す.

6)北蕾(2004)を参照されたい.

7)中国中小企業に関する定義は中国国家国務院,国家統計局および国家発展と改革委員など相関部 門によって 2011 年 6 月に改正された.新たな条例によれば,中国中小企業の正式な名前は「中小微 企業」である.いわゆる,中型企業,小型企業および,微型企業(Micro)である.その詳しい区分 の仕方については,業種によって違う.ここで工業分野を例にすれば,以下のように区分されている.

いわゆる,従業員数 1000 人以下,売上高 4 億元以下の企業は中小微企業として区分されるが,その うち,中型企業の場合は従業員 300 人以上,売上高 2000 万元以上を満たす企業である,また,小型 企業は従業員 20 人以上,300 人以下,売上高 300 万元以上,2000 万元以下の企業を指す.さらに,

微型企業は従業員 20 人以下,売上高 300 万元以下の企業である.今まで,中国中小企業に関しては 中国政府が何回も改定したことがある.1988 年の「大中小型企業区分基準」や 1992 年の当該基準 の補充規定もあり,さらに,2003 年に公布した「統計上の大中小型企業区分方法」もあった.中小 企業の定義に対する何回もの改定はあくまでも中国民営経済の発展の実情に適応するためであり,

各規模の中小企業に対する着実な支援政策を推進するためであると中国政府が説明している.今,

中小企業に関する定義は 2011 年に頒布した「中小企業划型標準規定」だけに準ずる.

8) 「中国産業信息研究網」2018 年 5 月 18 日掲載された「2018 年中小企業発展現状与機遇」一文を参

照されたい.

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う課題に直面している企業は変化の大きな中国で生き残ってきた企業であり,一定の事業基盤 を持ち,また顧客からの支持を受けている企業であると推察される.このような企業こそが,

中国の経済発展に大きな貢献をしてきた企業であり,かつ中国の経済にとっては重要な存在で あるといえる.事業承継は,多くの中国中小企業にとっては初めて経験することであり,かつ 中国の民営企業の発展の歴史から見ても初めて直面する課題であるといえる.中国中小企業の 事業承継は,単に企業自体の存続の問題だけではなく,企業が所在する地域の経済,雇用の安 定,さらには中国民営経済全体の発展にとっても重要な意義をもっている.

 しかし,これまで中国の中小企業の事業承継についての日本語での研究は,見かけなかった とともに,一連の問題についての体系的な整理はこれまであまりなされていなかった.

 本研究では,これまでの中国中小企業の事業承継についての中国語の先行研究を整理し,そ の研究動向をふまえて今後検討すべき新たな視座を提起するものである.

2

.研 究 方 法

 本研究では,中国の中小企業の事業承継に関する文献を収集しレビューを行う.分析対象を 中国語の文献とする理由は,筆者は元々学術向けのインターネットサイトgoogle scholar,論 文オンラインデータベースの CiNii9)及び中国語文献検索サイトの「知網(CNKI)」10)を用いて,

想定した検索キーワード「中国 民営企業」「中国 中小企業」「中国 家族企業」「中国 企 業 世代交代」「中国 企業承継」をそれぞれ日本語,中国語,英語で検索したところ,日本 語及び英語文献のほとんどは中国人学者によって執筆されたものであった.そこで,中国語文 献だけを分析対象とした.文献収集は 2018 年 8 月に実施した.中国民営企業や中小企業およ び家族企業というキーワードだけの場合,該当する文献がどの検索サイトでも 1000 件を超え るが,「事業承継」「世代交代」で絞り込みすると 46 件の論文が残った.このうちほとんどの 文献が家族経営スタイルを取り上げている.いわゆる家族企業を扱っている11).さらに,それ ぞれの文献の内容をチェックし,研究目的に明確に該当しないもの,自伝やエッセイなどの論 文に該当しないものは除外した.その結果,最終的に 32 件の文献を分析の対象とした.

3

.文献レビュー概観

 文献レビューをベースに,中小企業の世代交代についてレビューを行った結果,研究内容は 9)学術情報ナビゲータ “サイニイ” である.

10) CNKI(China Naitonal Knowledge Infrastructure)は中国学術情報ナビゲータである.

11)本研究は家族企業だけが分析の対象ではなく,あらゆる組織形態の中小企業をレビュー範囲に含む.

しかし,中国中小企業の 90%は家族企業であることと中小企業の世代交代に関する先行研究では家 族企業を取り上げる文献が圧倒的に多いことから,結果的に本研究の文献レビューで取り上げる企 業が家族企業に偏った印象を与えてしまう.

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主に①後継者の育成,②後継者の選択,③事業承継の内容,④事業承継の方式といった 4 つの 項目に集中している.以下それぞれの項目について順番に説明しよう.

3-1 後継者の育成

 中国中小企業の世代交代について,最も多い研究は後継者の育成に関する内容である.中に は,後継者を育成する際に重視すべき内容を論じるものもあれば,(馮思宁李智2013)後継 者育成の仕組みやポイントを論じるものもある(余明陽 2012;王陸庄ら 2008).余明陽(2012)

が後継者の育成について言及した陳万思,姚圣娟(2005)と黎彩眉(2007)の研究は中国中小 企業における後継者育成の現状を概観できる.2 人は後継者育成の手法に焦点を当て,それぞ れ「後継者の段階的な育成手法」と「個人の職業キャリアの発展に照らした後継者育成手法」

をまとめた.2 つの育成手法それぞれの手法のアプローチに違いはあるが,将来の経営者とし て集中的に教育を行うことが共通点である.以下,二つの育成手法について詳しく見てみよう.

 陳万思,姚圣娟(2005)は 23 組の親子への家族企業の経営者世代交代のプロセスに対する 定性的な分析を行った結果,後継者育成を 6 つの段階に分けた.その中で,初期の 2 つの段階

「家庭教育段階」「エリート教育段階」での育成は「前期育成段階」と呼んで,その育成の内容 に関してはまず後継者の定義(例えば,後継者に必要な能力,スキル,心構え等の資質をあら かじめ定義する)を決定し,企業に入る前からそれらを身につけるために必要な教育を行うこ とにある.特に,企業の文化や理念を理解してスムーズに承継できるように,創業家内の家風 や文化といったものを身につけるように家庭内での教育を重視する.また,将来の経営者とな るべく,専任のサポートチームを付けて帝王学を学ばせるなどのエリート教育を施す.

 残った 4 つの段階「基礎を鍛える段階」「役割適応段階」「経営チーム作りの段階」と「権 威蓄積段階」は「後期育成段階」と呼ぶ.いわゆる,後継者が企業に入った後は,企業内の文 化や将来の経営者として理解しておくべき企業内の様々な事業を経験させるために,いきなり 経営層に就けるのではなく末端のポストに就けて社内の様々な部署での事業を経験させていく.

それと並行して,後継者を将来的にサポートする経営チームを作るために,サポートチームメ ンバーの人選を行い後継者候補の周辺でのサポートを行っていく.後継者候補が様々なポスト,

業務を経験していくのに合わせてしかるべきポストに就かせて社内での権威付けを行い,将来 の経営者候補として社内での認知度を高めていく.

 黎彩眉(2007)の提起した「個人の職業キャリアの発展に照らした後継者育成手法」も陳万 思ら(2005)と似たように,後継者の育成を段階的に分けて行うが,この手法の特徴は,将来 の経営者としての教育をより長期的なタイムスパンで捉え,かつ段階を明確に区分していると ころにある.つまり,後継者の人生におけるライフステージごとに分けて人間としての成長段 階とリンクして将来の経営者としての教育を行うという考え方のため,すでに生まれた時から

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教育が開始されているといえる.その分け方を詳しく説明すると,次のようになる.

「0 歳〜 24 歳:個人レベルでの成長段階」

 つまり,0 歳〜 24 歳が第一段階と捉えられている.この段階は,人生での人格形成期に該 当するが,同時に将来の経営者としてのベースを築く時期と捉えられているため,経営者たる に必要な素養を身につけるための教育を受けさせたり,様々なことを経験させたりする.この ような教育や経験を通じて経営者としての人格の基礎を築くことに主眼が置かれる.

「25 歳〜 44 歳:個人レベルでの職業キャリア確立段階」

 この段階では,色々な職に就くことを通じて職業人としてのキャリアを形成,確立していく 段階である.ただし,多様な職業経験を通じてキャリアを形成していくことを主眼としている ため,キャリアを積む場所としては自社だけに限らず,他社での経験も視野に入れており,場 合によっては他社で修業をしてから自社に入社し,社内でのキャリアを積んでいくというパタ ーンもありうる.その上で,経営にも関与させることで将来の経営者としての自覚を身につけ させていく.

「45 歳〜 64 歳:権限委譲段階」

 自社であるか他社であるかを問わず,様々なポストや部署を経験し,職業人としてのキャリ アを身につけ,経営にも参画して経営幹部としての経験を積み,経営者としての視点を持つよ うになった後継者に経営者としての権限を委譲し,名実ともに経営者となる.

 上述した 2 つの手法は,タイムスパンやアプローチに違いはあるが,いずれも入社前の段階 から必要な教育機会を用意して教育を施し,社会人になってからは様々な部署での経験やポス トでの経験を積ませて経営者の地位に就けるというプロセスでは共通しているといえる.

 このように,2 人の研究からは中国中小企業において後継者育成の際に使われている一般的 な手法や育成内容の実態を見ることができる.しかしながら,どのような育成手法が効果的で あるかについては言及していない.

 後継者の育成と企業経営者個人のパーソナリティとの関連性について,陳絳平,龔江濤(2008)

の実証研究から興味深い示唆が得られた.彼の研究は浙江省義烏市の中小企業の後継者育成に 焦点をあて,15 社の企業経営者にアンケート調査を行った.

 中国浙江省の義烏市は,数多くの雑貨関連の多様な中小企業が集積し,日本では「100 円シ ョップの調達源」としても有名である.この地域の中小企業の多くは,家族経営の中小企業で ある.

 陳絳平ら(2008)はまず義烏市の中小企業の後継者育成の特徴として,①高等教育を受けさ せる,②身をもって手本を示すの 2 点にまとめた.これは世代交代に直面する中国中小企業の 普遍的な状況を表している.つまり,変化と競争が激しい中国の企業間競争を勝ち抜くために,

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後継者にはできるだけ高い教育を受けさせて将来の経営者としての素質を高めておこうという 意図が働いていると思われる.また,中国では高い教育を受けた方が社会的なステータスを得 ることができ,企業内でも重要なポストに就く可能性が高くなる.また,人的ネットワークが 重視される中国社会の特徴もあり,高い教育を受けさせれば,それだけ社会的なステータスの 高い人々と人脈を築けるチャンスが広がるという期待も働いている.こういった背景があるか らこそ,高等教育を受けさせるのは普遍的に行われていることである.

 育成の手法についても同じように,一般的には,学問的,観念的な教育は外部の高等教育機 関に任せて,企業内での教育は,経営者が自ら自分の経営者としての姿を見せて実践的に行わ れていることが述べられた.

 この研究のユニークなところは,経営者の性格と学歴というアプローチから分析を加えたこ とである.経営者の性格という変数を入れることによって,後継者育成のプロセスが違ってく ることを提示している.

 陳絳平ら(2008)の分析結果によると,性格が強い(積極的な経営手法を取る傾向が強い)

経営者は,後継者を自社または,自社の関連企業に入社させ現場でどんどん経験を積ませてい く.つまり現場での経験をベースに育成を進めていく傾向が強く,性格が穏やかな(慎重な経 営手法を取る傾向が強い)経営者は,いきなり現場に放り込むのではなく,後継者に必要な学 歴を付けさせてから安定した職業に就かせて,じっくりと経験を積ませた上で自社での育成を 行う傾向が強いことを明らかにした.また,経営者の学歴からのアプローチに基づく分析では,

学歴が高いほど後継者の育成を重視し,早い段階から後継者育成に力を入れることを指摘した.

 後継者育成に関する数多くの中国語文献において,経営者,企業側あるいは育成側の特徴,

事情によって育成手法や内容との相違に注目する研究が,筆者の知る限りでは,非常に少ない.

陳絳平ら(2008)の研究は,教育を提供する経営者側の特性というユニークな着眼点からの分 析を行っているところは評価に値すると思われ,今後の研究焦点が広げられるだろう.ただし,

経営者の性格についての分類の仕方が恣意的かつ単純化されているきらいがあり,その点では 課題が残ると言わざるを得ない.

 後継者育成の手法に関して様々な研究が蓄積されている中で,その育成の効果の分析視点と して,影響する要因に注目した王晓凯(2008)の研究が,多数の文献に示唆を与えている(例 えば,前掲した余明陽(2012)の研究の中でも言及された).王晓凯(2008)は,後継者育成 の主な手法を,主に「教育育成」「社会での実践的な育成」「自社内育成」の 3 つに整理しい ずれの手法を取ったとしても,効果が上がるかどうかを左右する共通の要因として以下の点を 挙げている.

 まず,「教育育成」の効果に影響する要因は,①家族メンバーの関係,②後継者個人の能力 が挙げられた.同じ教育プロセスと環境が用意されていたとしても,後継者自身とその環境を

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取り巻く,あるいは構成する人々によって環境の内容も変わってくる.家庭内環境は家庭ごと に異なるため,その環境しだいで教育環境がよくもなれば悪くもなるといえる.また,さらに 親族が絡んでくる場合は,後継者の家族との関係性も変動要因として関わってくることになる.

後継者の家族との折り合いが悪ければ,親族たちが故意に後継者教育を妨害したり,怠ったり といったことも考えられ,そうなれば当然ながら教育の成果も芳しくないものになる可能性が 高いと推測されるし,その逆もまた然りである.また,これは最大の変動要因であるが,最も 重要なのは後継者個人の能力の問題である.後継者教育の成果はこれによって決定されるとい っても過言ではない.

 次に,「社会での実践的な育成」に社会経験の養成に影響する要因は①仕事の機会,②企業 の規模,③職場内の人間関係だと指摘した.具体的に説明すれば,つまり,将来の経営者にな るための様々な経験の内容は後継者教育の効果を左右する大きな要因である.当然ながら,容 易かつ安穏な仕事しか経験できず,ギリギリの決断を迫られたり,難度の高い仕事を経験する 機会を与えられなければ,経営者としてのスキルを身につけられたとは言い難いであろう.そ もそも,一般に経営者に近いポストになればなるほど,責任も重くなり重要な決断を迫られる 場面が多くなる.

 また,企業の規模も一つの要因となってくる.例えば,特定の分野しか行っていない企業で あれば,企業内で経験できる事業内容には限りがあるが,ある程度の企業規模があり多様な事 業を展開している企業であればそれだけ多様な事業での経験を積むことができ,経営者として の幅が広がる可能性が増えるといえるだろう.

 さらに,職場内の人間関係については,親族内の関係とも類似する部分があるが,後継者と 敵対する人間が多ければ,教育効果は低減する可能性があるし,ほかにも将来の経営者候補と いうことで過度に甘やかす人間やいわゆるイエスマンしかいなければ,厳しい経験をしないこ とで,経営者としての資質に影響が出る可能性があると考えられる.

 最後に,「自社内育成」の効果への影響要因として挙げられたのが,①後継者個人のキャリ ア開発,②家族メンバーの意思,③経営者の退任意思,④経営者と後継者との人間関係である.

後継者個人のキャリア開発というのは,後継者の育成事業と後継者個人として持っているキャ リアビジョンや,「こうなりたい」という将来像とがうまくマッチするかどうかということで あろう.そもそも,事業承継については,将来の経営者として求められる素養やスキルなどは 企業ごとに異なるため,後継者候補として企業内で様々な経験を積む際に,その内容や順番が 体系的に準備されていることが考えられる.それらの教育内容と後継者候補個人のキャリア開 発のルートに沿っていれば,もちろんその教育成果が高くなることが期待される.また,家族 メンバーの意思については,中国中小企業の経営スタイルが多様であるが,特に家族経営の企 業では家族メンバー間で当該後継者を将来の経営者として育てていこう,そのために協力しよ

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うという意思統一ができていれば,後継者育成事業もスムーズに運ぶと理解してもよいだろう.

たとえば,特に兄弟姉妹が同じ企業の中にいる場合は,後継者に進んで協力をする場合は教育 効果が高くなることが期待されるが,将来の経営者の座を巡って兄弟姉妹間で争いが起こった りすると教育効果どころではなくなる可能性が高くなる.さらに,経営者の退任意思も大きな 要因として考えられる.特に,創業経営者に見られがちであるが,後継者が有効な教育を受け,

順調に将来の経営者としてのキャリアを積んできたとしても,現経営者がいつまでも退任せず に経営者の地位に留まることで後継者はいつまでたっても経営者になることができず,後継者 の経営者としての権威づけにも影響を及ぼすことが考えられる.この点については,実は経営 者と後継者の人間関係とも関連している.経営者と後継者との間に良い信頼関係がなければ,

後継者育成の効果にプラスにならないのが当然であろう.

 次に,後継者を選択する際にどういったところが重視されているのかについての議論を確認 しよう.

3-2 後継者の選択

 中国中小企業の世代交代に関する研究の中で,後継者の選択基準についての議論も少なくな い(万希 2007;殷旭東 2011;于斌斌 2012).万希(2007)は,後継者の選択基準として ① 仕事能力,②忠誠心,③企業に対する帰属感,④委託コストの 4 つの指標を提示している.こ の中の④の委託コストは,いわゆる経営者と後継者との信頼関係指数を指している.つまり,

信頼関係が高ければ高いほど委託のリスクを最小限に減らすことができて,企業に対するロイ ヤリティの高い後継者ほど委託コストが少ないということである.万希(2007)は 4 つの指標 を提示しているが,②から④までの指標は似たようなものなので,大きな枠組みとしては 2 点 にまとめることができるだろう.つまり仕事能力と企業に対する忠誠心との 2 点である.

 殷旭東(2011)は,包装分野の 13 社の家族企業に対するアンケート調査を実施し,後継者 選択指標体系を作った.それは,主に①後継者の個人能力,②後継者の個人的魅力,③家族の 利益,④企業の利益の 4 つの指標である.この指標体系の特徴は後継者選択過程において多様 な影響要因を考慮し,家族利益と後継者と経営者の信頼関係との 2 つの変数を入れたことであ る.この指標体系を用いて後継者選択の要素を分析した結果,「家族の利益」という指標が最 も重視されており,次に,「企業の利益」「後継者の個人能力」と「後継者の個人的魅力」で ある.殷旭東(2011)の研究を通して,家族企業は後継者を選ぶ際に,家族の利益が承継され るかどうかが最も重要な指標であることが確認された.家族の利益について,殷旭東(2011)

は家族が企業に対する所有と管理の権限に注目し,企業株の値上がりよりも重きを置いている と解釈した.

 于斌斌(2012)は殷旭東(2011)と似たような分析手法を用いて,後継者選択モデルを作っ

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て実証研究を行った.しかし,于斌斌(2012)の後継者選択モデルの指標は,より後継者個人 の能力に焦点が当てられている 8 つの要素に絞った.それは,①社会ネットワーク,②政府と の関係,③商機を発見する能力,④リスクを取る能力,⑤資源を整合する能力,⑥戦略と決断 の能力,⑦学習創新,⑧科学管理の能力の 8 つである.また,①〜④までの 4 つの要素は後継 者の管理能力を測るグループであり,⑤〜⑧までの 4 つの要素は後継者の管理技能を測るグル ープに分類できると指摘した.

 董巍(2013)は,中国福建省の闽南地域の家族企業に対して行ったアンケート調査は,後継 者の選択に影響する要素として以下の 8 つが最も重視されていることを明らかにした.それは,

①管理経験,②組織における協力と調和の能力,③コミュニケーション能力,④企業文化への 認識程度,⑤戦略管理能力,⑥企業への忠誠心,⑦個人権威,⑧教育レベルである.上記の研 究以外では,李紅(2011)の研究の中でも後継者の選択基準について,①管理能力,②人格的 魅力,③リーダーシップという 3 つの要素を強調した.

 このように,後継者の選択基準に関する議論は多様な視点と指標を用いて展開されているが,

後継者の「個人の能力」や「人格的魅力」が最も重視されていることが確認できる.しかし,

後継者の「個人の能力」については,実に多様に解釈されていることに留意しなければならな い.例えば,管理能力や人間関係をうまく維持する能力,社会ネットワーク能力(劉学方,王 重鳴ら 2006;王連娟 2007)等々である.

3-3 事業承継の内容

 企業の承継には,事業そのものやヒト(従業員),モノ(不動産や設備など),カネ(資本,

利益,現金,負債など)といった形のあるまたは目に見える資産を承継するのはもちろん,形 のない,または目に見えない資産をどのように承継するかも重要である.企業の無形資産の代 表的なものとして,陳玉宇(2011),馮思寧,李智(2013)範博宏(2013)は「ブランド」「企 業家精神」「政治資源」「社会ネットワーク」「経営者のカリスマ性」「創業初期の理想」や

「信念」などを挙げていて,これらをいかに承継するかについては様々な議論が展開されている.

 馮思寧,李智(2013)は,企業の無形資産の承継を企業家の創業精神の承継と見なし,事業 承継後の企業の引き続きの発展にとって重要な源であることを強調した.企業家の創業精神の 承継には後継者を早い段階から企業に入らせて,末端から様々な仕事を経験させながら,問題 の解決能力を養う.この過程において,先代からの知識と経験が受け継がれて,創業家の使命 感と企業家精神を承継できると述べたのである.

 企業の無形資産は形が見えないものだけに,属人的であることが多く,これらをうまく引き 継げるかどうかで事業承継の成否が決定されるといっても過言ではない.事業承継による経営 者の交代でこれら無形資産が新経営者に承継されず,顧客離れや風評が広まって業績不振に陥

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ったり,さらには倒産に追い込まれてしまった事例もある(靳来群李思飛 2015)

 中国での多くの先行文献では事業承継においては,有形資産の承継だけでなく,無形資産の 承継をより重要な要素と捉える研究が多いことが窺える.しかし事業の承継において有形資産 と無形資産との承継を分けて議論することには実に多くの課題が浮かんでくる.

 企業家精神の承継と関連して,後継者に「創二代」(第二創業精神を持つ後継者)精神を涵 養させることの重要性を強調する研究も多数みられる(周悦 2017;袁炎林,倪根金 2013) これらの研究では,事業を承継する後継者は単に承継するだけではなく,「創二代」という名 前の通り(第二の創業精神をも必要である)と指摘された.「創二代」というネーミングに刺 激を受けたのかもしれないが,(王樹金,林沢炎 2017;朱妍,吕鵬 2016)らは,「継創者」(承 継と創業の結合)という概念を提示し,「継創者」を評価する指標を設定し,次の 4 つを挙げ ている.①産業の承継,②精神の承継(いわゆる,創業者の創業理念と価値観を理解し,積極 的に引き継いでいくこと),③新市場開拓,④第二創業精神(具体的には,創業理念などを理 解した上で,時代の変化に合わせて改善し,新たなビジネスモデルや創業理念を生みだすこと と解釈されている)

 上記のように,「創二代」であれ,「継創者」であれ,この 2 つに共通するのは,先代が築い た事業や無形資産だけを継承するのではなく,後継者自らが新たに開拓し,築いていく理念や 市場またはその開拓・創新精神の重要性を強調していることにある.これらの研究において,

保守的な承継だけではなく新規創業的な承継の重要性に焦点をあてていることからも,変化と 競争が激しい中国の企業生存状況を垣間見ることができるだろう.日本では,どちらかといえ ば保守的な事業承継に偏っているように見えるが,今後は中国のような新規創業的な事業承継 の重要性が認識されてくるのではないか.

3-4 事業承継の方式

 最後に,承継の方式について見てみよう.中国の中小企業の事業承継の特徴としては,家族 血縁重視の世襲方式がメインであることが多数の研究文献から指摘された(周留征,劉江寧 2016;何慶齢,李生校 2015;戴志強 2005,2009;楊在軍 2009).周留征,劉江寧(2016)は 事業承継方式の選択を論じた時,「中国民商」雑誌が行った調査結果12)を引用し,当該調査企 業の 60%の企業経営者が自分の子供に事業承継させると紹介した.中国中小企業の経営者は,

自分の事業を身内の人に承継して欲しいという願望は中国社会の伝統的な因習に由来する上に,

企業が置かれた目前の中国社会の制度や企業の成長段階,規模とも関連があると考えられる.

12)2013 年 11 月中国民商雑誌会社が行った全国規模の調査で,売上 1000 〜 5000 万元の企業から,

世代交代にさしかかってきている 50 名の企業経営者を調査対象にし,アンケート調査を実施した.

詳しくは周留征,劉江寧(2016)を参照されたい.

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 しかし,一方,上の調査を含めて,家族世襲方式を取り上げた多くの研究では,企業経営者 の子弟が事業の承継に決して積極的な態度を取っていないことも指摘されている(魏良益 2012;李永勝 2008;劉芳 2012).これらのことから,中国の中小企業では親世代である経営 者は自分の子供が事業を承継することを望んでいるが,自分の親の事業を引き継ぐことに積極 的なのは比較的少数であり,親世代と子世代の事業承継への意識にギャップがあることが示さ れている.

 世襲方式について,前掲した余明陽(2012)と周留征ら(2016)は,後継者の多くが企業経 営者の子女であるのでこのような血縁関係は互いに堅い利益基礎と高い信頼関係を築くことが 出来るし,企業経営の連続性にも資すると指摘している一方,外部人材の取り入れに障害があ り,組織の硬直化につながり,また,家族メンバー間で矛盾を抱える場合,内部闘争が起こり,

企業の運営に致命的なダメージをもたらすなどといった欠点も並べている.

 また,漢吉月(2014)と王在全(2007)は,家族企業の多くの企業経営者は自分の子供がま だ小さい時から意識的に後継者育成を行い,海外で専門教育を受けさせてから自分の企業か外 部の企業で一定期間の研修を受けさせてから管理職に就かせるケースが多い.しかし,危機を 乗り越える能力と企業内で権威付けを行うことが多くの企業にとって課題であると指摘した.

 事業を承継する方式に注目する研究の中では,血縁世襲以外の承継方式についても議論され ている.それは企業上層部管理者から選ぶ方式と企業外部からプロの経営者を招聘する方式で ある.繰り返しになるが,経営者の子女による事業承継は中国家族企業の主な事業承継の方式 であるが,子供のいない家族企業の経営者,あるいは元々家族企業でない中小企業の場合,こ の 2 つの承継方式を取ることが考えられる.しかし,現状ではこれらの承継方式に関する研究 はほとんど理論段階に留まり(魏良益 2012),実証研究が不足していることが確認された.

 血縁世襲以外の承継方式は,関連する法律整備がまだ不完全な中国社会ではリスクが大きい ため,ほとんどの中小企業では事業を承継してくれる子供や親族がなければ,これらの 2 つの 方式を取るよりも企業を売却するという選択肢を取るケースが多い.このため,本来であれば 親族以外からも優秀な後継者を選べる選択肢であるはずの外部人材市場(プロ経営者市場)は 現状の中国の法体制の下ではその機能を十分に果しているとは言いがたい.

4

.示唆と課題

 以上の先行文献を基に,中国中小企業における世代交代に関する主な議論をまとめたい.ま ず,次世代経営者,いわゆる後継者の育成についての状況をある程度把握することができる.

すなわち,中国の中小企業経営者は後継者に高いレベルの教育を受けさせる場合が多く,海外 留学をさせるのも珍しいことではない.このような後継者たちは,海外の大学または大学院で 経営学修士(MBA)などを取得している者も多い.また,高等教育機関や海外留学で経営の

(12)

基礎知識や語学力を身につけており,すでに経営者候補としての高いスタートラインに立って いることで,経営者として将来にわたってより大きく発展していく余地を持っているというこ とが考えられる.また,多くの後継者には留学で視野を広げた結果,企業の社会的責任といっ た概念にも理解を示し,経営の国際化を志向する者も少なくないことが伺える.しかし,一方 で彼らには企業現場でもまれた経験が不足していることが懸念として残っている.実際のとこ ろ,中国では企業内でのマネジメント層と現場でのワーカー層の間には明確な線引きがあり,

マネジメント層が経営についての高いレベルの知識と見識を持っていたとしても,現場にそれ らが共有されず,あるいはそれらの知識や見識が現場で理解できず,いわゆる 5S等の基本的 な概念さえも実践できていないケースも少なくない.それぞれの企業現場の実情に適応する経 営管理が行えるためには高い現場感覚が必要となる.海外生活が長い次世代の後継者にはこう した能力が問われる.

 また,もう一つ問われることが社会ネットワークの能力である.中国でビジネス活動を継続し ていく上では,顧客の支持はもちろんだが政府機関との関係構築も重要なファクターである.政 府機関との関係構築及び保持においては,往々にして経済合理性よりも,情実や人脈などとい った非経済的な要因が重要であることが多く,せっかく海外留学で身につけた経営の考え方や,

経営の国際化といった視点がむしろ障害となってしまうケースがあり,これによって経済合理性 よりも非経済的要因に縛られてしまう企業及び経営者が再生産されるという課題が浮かんでくる.

もっとも,これは「中国的経営者」が増えるという意味ではプラスに捉えられるであろう.

 このように,中国中小企業の後継者の多くは若い頃から海外で教育を受けることが珍しくな いことが確認された.これは日本の中小企業とは随分違う.日本の中小企業での後継者育成は 現場経験から入っていく帰納的な育成アプローチがメインであり,一部を除き中国の中小企業 経営者のように海外に留学し,経営の専門知識を身につけた上でマネジメント層として入社す るケースは比較的少ない.どちらのアプローチを取るのが良いかは一概に言えないが,まずは,

社内全体のことを俯瞰してから具体的なスキルを習得していった方がよいと考える場合は,例 えば総務などの管理部門から始めて事業部門や現業部門へといった演繹的な順番になるであろ うし,逆にまずは現場感覚や具体的なスキルを理解した上で,全社的な視点を養った方がよい という場合はその逆の帰納的なアプローチが有効と考えられるであろう.

 次に,中国中小企業の世代交代には主に 3 つの方式であることが確認された.①血縁世襲,

②企業内上層部から選択,③企業外部からプロの経営者を招聘する.これまで見てきたように,

中国の中小企業では自分の子供を後継者とするケースが多いが,後継者候補である子供世代の 意識は親世代ほどには積極的とはいえないという現状もあり,今後は外部から後継者を見つけ るというケースも増えてくることが考えられる.その場合は,上述したように企業内の経営上 層部管理者から選ぶ,または外部からプロの経営者を招聘するケースが多いと思われる.しか

(13)

し,これらのプラス点としては創業家以外に人材を求めることで人材の多角化を図ることがで き,開放的な組織構築にも資するという点が挙げられるだろう.一方で,創業家が中心になっ て選考を行うため選択プロセスが不明瞭になりがちであること,また選択の評価基準が恣意的 または不完全になりがちであること,また最も重要なことであるが,当該企業の創業理念や企 業文化の承継がうまく行われないという懸念があることが挙げられる.

 そもそも,事業承継は中小企業に限った話ではない.企業や組織や,あらゆる集団でいずれ 直面する問題である.スムーズに承継できるかどうかは様々な要素によって決定される.中国 の中小企業はほとんどが家族経営であるので,企業内だけでなく創業家及びその家族メンバー,

親族メンバー等の変数が多くなるため,その事業継承はより複雑である.

 筆者は拙著『中国中小企業の起業・経営・人材管理』(勁草書房刊 2014)において中国のか つての国有企業の民営化への過程及び新しい経営者,経営陣が国有企業時代の有形,無形資産 を活用して民営化後のビジネスを軌道に乗せていく過程を分析した.取り上げた企業の中では,

国有企業の技術や取引関係を継承して,事業を軌道に乗せ,市場シェアを拡大した事例があ る13).この場合は,家族企業の話ではないが,やはり新旧の経営陣,国や地元政府,従来から の従業員の意向など多くのステークホルダーが登場し,変数の多さでは家族経営の事業承継に も劣らないといえる.また,当該企業の経営を引き継いだのは旧国有企業とは全く関係のない,

いわば外部の人物だが,従前からの有形及び無形の資産を引き継いで経営を軌道に乗せていっ た事例についても言及している.中国では,家族経営企業での外部人材による事業承継はまだ 少数だが,今後制度が整備されていけば事業承継の一つの有力な形態として定着していくので はないだろうか.

 最後に,多数の先行研究に言及された後継者の「創業」意識,あるいは「継創」意識につい て検討したい.

 後継者に「創業」意識の重要性や「継創」という視点の承継が必要と強調する研究があるが,

ほとんど言葉だけに留まり,その理論的,実証的な検討は不足している.本研究の初めでも強 調したように,現在の中国のビジネス環境が大きく変化している.多くの中小企業の経営者が 創業した当初の中国の経営環境は消費市場の黎明期であり,売り手市場であった.しかし,今 は市場の競争が厳しくなった.よって,事業承継においては,単にこれまでの事業を承継する だけでは,企業が存続していくのは難しい.時代の変化に合わせて企業自身が変化し,新しい 製品,市場を開発しないと企業が一時的に継承されても長く続かない.そこで,単に先代から の事業を引き継ぐだけでなく,「創業」意識を持ったいわゆる「継創者」になることが重要に なる.しかし,創業意識を持たせるためには個人の意思による以外に,社会や政府がさしのべ

13)詳しくは北蕾(2014)第 2 章を参照されたい.

(14)

る支援も必要である.既に明らかにしたように,中国では海外で経営に関する知識を学ぶ者も 多く,そのような者は留学先や海外滞在先でのネットワークがあるかもしれない.しかし,中 国に帰った後のビジネス活動において,特に事業承継において彼らをサポートするネットワー クが必要であろう.要するに,中小企業の事業承継において後継者の「創業」意識の必要性が 強調されているのに,その「創業」精神の涵養をいかにサポートするか,創業・開拓のための 環境の整備をしていくのか,また,たとえ既存の支援ネットワークがあっても,それらは効果 的に機能しているのか,についての議論を欠いたままである.

 中国には,現状でも企業間,政府,民間組織による後継者支援のためのプラットフォームが 存在する(童襌福,陳啓賢 2012).例えば,“企業後継者特訓コース”14)や “創二代研修クラス15)

など.ただし,これらは現状では形式的であったり,サポートの内容や実績が脆弱であり,有 効に活用されているとは言い難い現状がある.

 これらを改善するために,円滑な事業承継のために後継者をサポートする様々なレベルでの プラットフォームの整備と再構築が必要であるとともに,さらに学術界においてもこれらの課 題をより深く掘り下げ,体系的,かつ包括的な研究を積み重ねていくことが必要であろう.筆 者は今後もこれらの課題に対する研究を引き続き深めていきたい.

謝辞:本研究は住友生命保険相互会社「未来を強くする子育てプロジェクト」スミセイ女性研究員奨励 賞の助成を受けたものです。

参 考 文 献

《分析対象文献》

漢吉月(2014)「新生代民営企業家隊伍建設研究」『企業改革与管理』中国国際経済技術合作促進会  2014 年第 6 期 76 77 頁

陳万思・姚圣娟(2005)「中国家族企業継承人培養計划」『華東経済管理』安徽経済管理学院 2005 年第 12 期 45 49 頁

陳絳平・龔江濤(2008)「浙江義烏家族企業接班人培養実証研究」『科研管理』中国科学院,中国科学院 科技政策与管理科学研究所 2008 年 12 月第 29 巻増刊 12 44 頁

王晓凯(2008)「家族企業接班人培養方式選択影響因素研究」『知網CNKI 学位論文庫』浙江大学 2008 黎彩眉(2007)「我国家族企業内部接班人培養模型研究」『知網CNKI学位論文庫』東北師範大学 2007 殷旭東(2011)「我国家族企业接班人遴选制度影响因素分析」『广东社会科学』广东社会科学院 2011

年第 3 期 49 55 頁

万希(2007)「我国家族企業接班人模式的比較和分析」『経済経緯』河南財経学院 2007 年第 1 期 116 118 頁

余明陽(2012)「中国家族企業接班的現状,困境与対策研究―基于 54 家企業的様本分析」『中国地質大

14)コンサルタント会社が主催する塾のようなクラスもあれば,各大学が主催する研修課程もある.

15)福建省アモイ市にある.中国語では “創二代培訓班” と名づけられている.詳細は尤小波(2016)

を参照されたい.

(15)

学学報』(社会科学版)中国地質大学 2012 年 9 月第 12 巻第 5 期 92 101 頁

王陸庄・方潔・談暁燕(2008)「当代中国家族企業伝承中後代培養方式的実証研究」『科研管理』中国科 学院,中国科学院科技政策与管理科学研究所 2008 年 12 月第 29 巻,増刊 126 133 頁

董巍(2013)『中国家族企业权利继任者选择模型研究』成都 西南交通大学出版社 2013

李紅(2011)「中外家族企業接班人選択標準比較―基于常州的調研分析」『常州工学院学报』常州工学院 2011 年第 3 期 77 88 頁

王連娟(2007)「家族企業接班人選択研究総述」『学術研究』広東省社会科学連合会 2007 年第 4 期 31 37 頁

馮思寧・李智(2013)「企业家精神视角下对家族企业传承问题的思考」『福建商业高等专科学校学报』福 建商业高等专科学校 2013 年第 6 月第 3 期 34 38 頁

于斌斌(2012)「家族企業接班人的胜任―绩效建模―基于越商代際伝承的実証分析」『南開管理評論』南 開大学国際商学院 2012 年第 3 期 61 71 頁

劉学方・王重鳴・唐寧玉・朱健・倪寧(2006)「家族企業接班人勝任力建模―一個実証研究」『管理世界』

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王樹金・林沢炎(2017)「民営企業 “継創者” 分析框架,特征及培養策略」『中央社会主義学院学報』中央 社会主義学院 2017 年第 1 期 67 72 頁

朱妍・呂鵬(2016)「“継創者” 改変中国経済」『東方早報』(上海)2016 年 6 月 7 日掲載

袁炎林・倪根金(2013)「非公有制経済人士 “創二代” 培養問題研究」『広東省社会主義学院学報』広東省 社会主義学院 2013 年第 4 期 34 36 頁

魏良益(2012)「民営中小企業接班人与可持続発展問題研究」『経済体制改革』四川省社会科学院 2012 年第 6 期 123 125 頁

何慶龄・李生校(2015)「家族企業第二代企業家創業新発展能力分析」『紹興文理学院学報』紹興文理学 院 2015 年第 35 巻第 4 期 77 97 頁

戴志強(2005)「民企 “子承父業” 的継任模式」『中国中小企業』中国中小企業国際合作協会 2005 年第 11 期 66 68 頁

戴志強(2009)「 “子承父業” 継任模式的風険控制模型研究」『中国石油大学学報』中国石油大学 2009 年第 6 期 46 50 頁

楊在軍(2009)「中国家族企業継任子承父業模式困惑及其理論解読」『当代経済科学』 西安交通大学  2009 年第 5 期 104 109 頁

周留征・劉江寧(2016)「基于公司治理的中国民営企業接班人選択研究」『財経界』国家信息中心 2016 年第 10 期 366 368 頁

李永勝(2008)「家族企業血縁継承模式存在的問題及対策」『河南理工大学学報』 河南理工大学 2008 年第 9 期 326 329 頁

劉芳(2012)「家族企業傳承模式的風険識別」『首都経済貿易大学学報』首都経済貿易大学 2012 年第 5 期 65 72 頁

(16)

王在全(2007)「当前民営企業発展必経的一道坎―企業接班人問題探析」『理論学刊』中共山東省委党校  2007 年第 1 期 64 66 頁

童襌福・陳啓賢(2012)「浙江省民営企業伝承与発展問題的調査」『政策瞭望』中共浙江省委辦公庁  2012 年第 5 期 37 38 頁

《引用・参考文献》

北蕾(2004)『中国中小企業の起業・経営・人材管理―民営化企業の多様化に迫る』勁草書房

尤小波(2016)「打造一個創二代的培養体系―浅談対非公有制経済人士年軽一代的教育引導」『政協天地』

福建省政協弁公庁 2016 年第 6 期 34 36 頁

張彤・蔡哲(2016)「探析民営企業接班人問題」『中外企業家』ハルビン工業大学 2016 年第 17 期 112 頁

参照

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