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現在の犯罪発生状況

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(1)

一七七現在の刑事政策の課題(都法五十四-一)

現在の刑事政策の課題

前   田   雅   英

一   はじめに

現在の犯罪発生状況

刑事システムの現場を回っていると、犯罪発生状況は、沈静化しているように見える。留置施設の収容者数は、

数年前からかなり少な来なってきており、検察官の中からも、事件が多くて忙しいという話は聞かない。地裁・高

裁の刑事部でも、「部」が減りはじめている。そして、法務総合研究所の報告では、図

1に示したように、国民の

治安意識も好転したようである。

法務省の、二四年度の犯罪白書も、基本的にはそのような認識に立っている。

「我が国の犯罪情勢は、平成一四年に刑法犯の認知件数が戦後最多を記録したが、国民と政府が一体となって

治安の回復に取り組むなどした結果、刑法犯の過半数を占める窃盗を中心に刑法犯認知件数は減少傾向にあり、

また、近年、国民の治安意識も好転するなど一定の改善が見られる。」

(2)

一七八 国民の「日本の治安」についての評価 平成24年度犯罪白書207頁

平成16度調査

平成20度調査

平成24度調査

0% 20%

良い 良くも悪くもない 悪い 分からない

(13.2%) (22.2%)

(23.2%)

(29.6%)

(61.0%)

(56.0%)

(33.4%)

(3.6%)

(2.4%)

(4.0%)

(18.4%)

(32.9%)

40% 60% 80% 100%

図 1 17000

15000

13000

11000

9000

7000

5000

犯罪率

戦後犯罪率・凶悪犯認知件数推移

凶悪犯認知件数

2200

2000

1800

1600

1400

1200

46 51 56 61 66 71 76 81 86 91 96 1 6 11 1000 刑法犯犯罪率

 認知件数/人口10万人

図 2

(3)

一七九現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) ただ、白書は、「一般刑法犯の認知件数の水準は、戦後を通じて見れば依然高い水準にあるほか、近年の犯罪動

向では、初犯者がおおむね減少傾向にある中、検挙人員に占める再犯者や刑務所入所受刑者に占める再入者の比率

が上昇傾向にあり、特に覚せい剤事犯者や高齢受刑者等では再犯によるものの比重が大きいなど、対象者の抱える

資質・環境上の問題や社会復帰上の課題を踏まえ、引き続き実効性のある再犯防止対策を推進していく必要があ

る」とし、政府の犯罪対策閣僚会議も、平成二四年七月に決定した「再犯防止に向けた総合対策」において、再犯

防止対策を「『世界一安全な国、日本』復活の礎ともいうべき重要な政策課題」と位置づけ、①対象者の特性に応

じた指導・支援の強化、②社会における「居場所」と「出番」作り、③再犯の実態や対策の効果等の調査・分析及

び、④広く国民に理解され支えられた社会復帰の実現を重点施策の

4本の柱に据えた。これを受けて、同閣僚会議

の下に設けられた再犯防止対策ワーキングチームにおいては、重点施策実現に向けた具体的取組についての工程表

及び成果目標を策定し、実効性のある対策を中長期的視点に立って計画的に実施していくこととしているのであ

る。

ただ、図

2に示したように、

10万人あたりの刑法犯認知件数は、戦後最低となったのである。その意味で、「一

般刑法犯の認知件数の水準は、戦後を通じて見れば依然高い水準にある」という指摘は、若干無理があるように思

われる。そして、同閣僚会議の再犯防止対策ワーキングチームを設けなければいけないような課題が存在するのか

は、検証し直す必要がある。その理由として強調される「検挙人員に占める再犯者や刑務所入所受刑者に占める再

入者の比率が上昇傾向にある」などの点も、確認しておく必要がある。もちろん、再犯者対策の必要性それ自体を

疑う者はいない。ただ、『世界一安全な国、日本』を目指す上で、最も重要な課題といえるかが問題なのである。

また、現在の、矯正局、保護局の取組に、さらに根本的に考え直さなければならないような「大きな問題」がある

(4)

一八〇

ようには思われないのである。

が問題なのである。これは、日本の再犯対策の最も大切な柱であるが、「緊急対策」には馴染まない面がある。 限に発揮して、持続的かつ一貫した指導・支援のために連携や協働を一層強化する必要があるとするが、その具体的方策 れまでにも増して不可欠であるとする。これを促進・拡充するための基盤を強化するとともに、官民双方が持ち味を最大 立ってきたことを確認し、少子高齢化の進行や家庭・地域社会の変化等を踏まえ、保護司等民間協力者の協力や参加がこ 罪からの立ち直りを支える重要な役割を果たし、多様な課題やニーズを複合的に抱える刑務所出所者等の再犯を防止に役 施策の現状を幅広く紹介している。我が国の刑事司法制度の中では、保護司を中心に地域に根ざした支援活動が非行や犯 生活基盤の確立に向けた指導・支援を中心に、社会復帰を見守り支えるため処遇の第一線で重点的に実施されている各種 組んでいる。この特集では、社会における「居場所」と「出番」作りの課題、すなわち住居の確保や就労支援の取組等、 1) こうした総合的な再犯防止施策が本格的に歩み出すとする本白書は、「刑務所出所者等の社会復帰支援」と題する特集を

二   二〇一四年までの急激な治安悪化

  治安は本当に悪化した犯罪白書の問題提起

平成一三年版の犯罪白書は、「増加する犯罪と犯罪者」と題されてた。「はしがき」において、「我が国は、諸外

国の犯罪統計と比較しても、これまで治安の良好な地域に属していたが、近年に至り、犯罪の認知件数が激増し、

治安の悪化が憂慮される事態になってきた。治安の良し悪しは、国民の受け止め方もさることながら、その前提と

(5)

一八一現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) しては、犯罪情勢を数量、罪質の両面から客観的に分析し、これに基づいた冷静な判断をすることが必要である」

と問題を提起している。犯罪数が著しい勢いで増加し、矯正施設が過剰収容状態に陥り、一方で検挙率が低下した

ことを示し、日本の治安状況が危機的状況に陥りつつあることを示した。図

2に示した通り、危機的状況に陥って

いたのである。

そして、平成一三年版犯罪白書は、矯正施設の収容率が一〇〇%を超え、過剰収容時代となったことを明示し、

最終章で「最近、社会の人々を震撼させるような凶悪事犯や、不可解な動機に基づく重大犯罪等が、連日のように、

マスコミによって報道され、多くの国民が治安の悪化を憂慮する事態となっている。本白書においては、主として

数量的な面から、この憂慮に根拠があるかどうかについて検証したが、その結果は、遺憾ながら、これら国民の憂

慮を一部裏付けるものとなっている。これに加えて、検挙率の急速な低下や矯正施設における過剰収容は、問題を

さらに複雑化させている。したがって、これら状況の変化に対応して、何らかの対策を早急に講じることは、我が

国社会にとって緊急の課題といえよう」と主張した。

そして平成一四年度の犯罪白書も、我が国の刑法犯の認知件数は、平成八年以降、連続して戦後のワースト記録

を更新していることを指摘し、ことに強盗の検挙率が下がったのは気掛かりな動向であるとして「いわゆる体感治

安は深刻化し、我が国の治安に対する国民の不安の念も強まりつつあるように思われる」としたのである。ただ、

同時に、「主な欧米諸国と比較すると、我が国は、認知件数、発生率ともに最も低く、その限りにおいて今なお安

全な国の一つであると思料される」とした上で、決して楽観視することはできないとし

た。

平成一五年度犯罪白書に至り、「治安に対する国民の意識が「安全」から「不安」へと変化しつつある中で、犯

罪の増加や悪質化への危機感が現実味を帯びてきている」として、緊急な犯罪対策の必要正面から認めた。「社会

(6)

一八二

の耳目をしょう動させる凶悪事件が相次いで発生するなど、悪質化も目立ち、その影響が少年犯罪にも深く及んで

いると思われる。いかに犯罪を抑止し、減少させて安全な社会を実現・維持するかは我が国にとって重要な課題と

なっている」としたのである。

  犯罪白書の「犯罪増加論」への批判

ただ当時は、このような白書の内容そのもの対して、懐疑的な指摘が存在していた。特に、国民一般に与えた影

響の大きさから見て重視すべきだと思われるのが、一般紙に掲載された以下の記述である(毎日新聞平成一六年五

月二七日)。「昨春まで法務省に勤務し、犯罪白書を

9699年の

4年間執筆した。一三(筆者修正)年版白書以来、

犯罪の加速度的増加、「体感治安」の悪化、治安の危機、と三年連続で「不安」のアピールを強めている傾向に疑

問を感じ……「犯罪は増えているのか?」シンポを開催した」というものである。その主張は明快で、犯罪関連の

統計数値は、政府機関方針次第で動くということであったといってよ

い。

「統計数値には暗数があり操作性も働く余地がある」という指摘自体は、統計を扱う際の初歩的前提であるが、

白書が明確に犯罪増加を謳っているにもかかわらず、それを否定して「犯罪は増えていない」と、法務省の白書作

成に携わっていた者が主張したのは、異例のことであった。たしかに、検挙率の変化等は刑事司法機関の方針の影

響を色濃く受けるが、凶悪犯の認知件数の増加が、警察の「政策」などでは説明できないことは明らかである。図

2に示したように凶悪犯の認知件数が平成に入り急増を続けたのは、それまで隠されていた暗数が表に出てきたか

らだとは思われない。

(7)

一八三現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) さらに、犯罪白書の特集で示された「矯正施設の過剰収容」については、刑事司法機関の「政策変更」では説明できない。警察が認知件数を操作し得たとしても、検挙人員や有罪人員、矯正施設収容者まで警察・検察の政策で動かし得ないことははっきりしている。

犯罪が増えていないという論者も、「刑務所が溢れてしまった」という厳然たる事実は否定できない。そこで、

過剰収容と犯罪の増加とは結びつかないとするために、「本来刑務所に入らないでよい人間を法務・検察などが無

理に公判請求している」と説明することになる。「一九六六年以降検察庁の新規受理人員に目立った変化はないの

に、強盗、窃盗、恐喝、傷害、強姦等の公判請求人員が上昇傾向にある。その背景には、検察官の厳罰化志向」が

あるとし、検察が公判請求率を上げた等の問題を指摘するのである(監獄人権センター『犯罪は本当に増えている

のか』三頁)。法務省が「増加」を意図的に作り上げているというニュアンスを滲ませているのであるが、同論文

が犯罪の具体例の筆頭にあげられている強盗の受理人員は、検察庁の統計によればその間の一〇年で一一三八人か

ら二六六九人に増加したのである。そして、強盗罪の公判請求率は六一%から六〇%に、むしろ減少したのである。

いずれにせよ、刑務所の収容者の増加は、刑罰を科さねばならない重要な犯罪が増えた結果、有罪人員も増え、矯

正施設に収容しなければならない者も増えたというだけのことなのである。

  日弁連の主張

そして、日弁連も、平成一六年八月一九日の意見書において、「殺人罪、強姦罪、傷害罪等の凶悪・重大犯罪に

関しては、半世紀の長期的視野に立って見れば、平成三年に底を打ち、その後横道いである殺人罪をはじめ他の罪

(8)

一八四 についても、総じてその認知数が最高時あるいはそれに近いというものではない」と主張す

る。また、「凶悪犯罪

の認知件数は、ここ一〇年増加を続けているとはいっても、戦後から現在までの長期的視野でみると、ここ一〇年

が特異的に増加しているというわけではない」とする。

しかし、図

2に示したように、戦後全体を俯瞰してみても、平成一四年までの凶悪犯の認知件数は、誰が見ても

増加しているといわざるを得ないように思われる。昭和の時代は減少を続けたが、平成に入って増加に転じ、その

率は減少期の割合を遥かに超えている。三〇年近くかかって減少した分を一五年で戻しているのである。

たしかに、凶悪犯の中で、最も上昇傾向の弱い殺人罪に着目すれば、「さほど増えていない」という指摘は当た

っている。しかし、その殺人でも一二一五件から一四五二件に二〇%も増加してはいるのである。

日弁連の主張は、当時、刑法改正案として諮問とされていた「重罰化」に反対する論拠として成されたものであ

るが、そして、同改正が、犯罪状況の悪化にきちんと対応したものとはいえない面があったことも事実であるが、

全体としての犯罪の増加を否定することを主張したものとすれば、客観的なデータをあまりにも軽視したものであ

ったように思われる。

( ある。ただ、犯罪増加の原因の分析については別稿に譲らなければならない。 た事象が出現した。最近の我が国の犯罪情勢には、こうした社会・経済状況が深く関わっていると思われる」としたので 間、大企業の倒産、金融機関の破綻、リストラの強化、完全失業率の上昇等、高度経済成長時代には想像すらできなかっ 2) そして、「昭和末期から平成初期のいわゆるバブル経済が崩壊して以来、十有余年の長期に渡って経済不況が続き、この た。殺人や強盗、傷害など罪種別発生件数の年次変化をグラフで紹介した上で「治安悪化はウソ」と断定したのである。 罪は増えているのか?」で、河合幹雄・桐蔭横浜大学法学部教授が「犯罪統計のからくり」と題する興味深い報告を行っ 3) 浜井浩一龍谷大学法学部教授の発言。同記事では「日本犯罪社会学会が〇三年一〇月、沖縄で開いたシンポジウム「犯

(9)

一八五現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) 新聞記者は「犯罪報道の渦中にいる私には、にわかに信じられない話だった」とし、「参加した犯罪学の学者約一六〇人の多くが治安悪化説に懐疑的だったという」との報告記事を掲載した。(

4) 平成一六年二月二四日の毎日新聞(朝刊)。

三   平成一五年以降の政府の治安対策

平成一五年九月二日、閣議での口頭了解により、「犯罪対策閣僚会議」の開催が決定さ

れ、一二月に「犯罪に強

い社会の実現のための行動計画「世界一安全な国、日本」の復活を目指して」が策定された。そして、それに

先行して、警察庁は「緊急治安対策プログラム」を平成一五年八月に発表した。犯罪発生状況等の悪化を踏まえて、

「街頭犯罪や侵入犯罪の急激な増加、刑法犯検挙人員の

4割を占める少年犯罪、重要凶悪犯罪の増加、来日外国人

犯罪や暴力団犯罪等の組織犯罪等が、国民の日常生活に多大の不安を抱かせ、さらには我が国の社会・経済にも影

響を与えている。また、社会のグローバル化、IT化に伴い、国際テロ、北朝鮮に関わる問題、サイバー犯罪・サ

イバーテロ等新たな脅威に直面し、さらに、悲惨な交通事故から国民を守るための総合的な対策も大きな課題であ

る。他方、増加の一途をたどる犯罪の捜査、刑事司法の精密化、各種相談業務の増加等により、第一線警察の業務

負担は深刻な状況にある。警察活動の結果が犯罪抑止・検挙に結びついているかどうかという観点から事務の合理

化、効率化を図るとともに、地域や地方公共団体の協力も待ちつつ、必要な警察活動を推進していくことがますま

す必要とされている。警察では、本年を「治安回復元年」とすべく、「日本の誇る治安の復活」、「新たな脅威への

対応(組織犯罪・サイバー犯罪対策の強化とテロの未然防止)」、「警察改革の持続的断行」を基本課題として取組

(10)

一八六

みを進めでいるところであるが、危険水域にある治安情勢の下、犯罪の増加の基調に早急に歯止めをかけ、国民の

不安を解消するため、ここに、当面、緊急かつ重点的に取り組んでいく治安対策のプログラムを策定した」と宣言

し、おおむね三年程度を目途として、本プログラムに記載された施策の実現に向けて取組みを進め、国民が安心し

て暮らせる安全な社会の確立を目指していくこととした。そして、警察庁は各年一万人の増員を図り、犯罪発生状

況の急速な改善に大きく寄与した。

平成一五年度までの犯罪白書の指摘を踏まえ、刑法の一部が改正された。刑法等の一部を改正する法律(平成一

六年法律第一五六号。一七年一月一日から施行)は、凶悪犯罪を中心とする重大犯罪に対処するため、①有期刑の

法定刑の上限を一五から二〇年に、加重事由がある場合の処断刑の上限を二〇年から三〇年に、死刑・無期刑から

有期刑に減軽した場合の有期刑の上限を一五年から三〇年に引き上げ、②殺人、傷害、傷害致死、危険運転致死傷、

強姦、強制わいせつ等の罪の法定刑を引き上げ、集団強姦等の罪を新設するなどしたものであった。

この法改正もあって、これらの犯罪、とりわけ強姦罪の科刑は大きく動いたといえよ

う。

適切な対策を総合的かつ積極的に推進するため、「犯罪対策閣僚会議」(以下、「会議」という。)を随時開催する。 5) 一「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、関係推進本部及び関係行政機関の緊密な連携を確保するとともに、有効     二  会議の構成員は、全閣僚とする。会議には、必要に応じ、その他関係者の出席を求めることができる。

    三  会議は、内閣総理大臣が主宰する。

    四  会議に幹事を置く。幹事は、関係行政機関の職貞で内閣総理大臣が指名した官職にある者とする。

    五  会議の庶務は、内閣府の助け及び警察庁、法務省等関係行政機関の協力を得て、内閣官房において処理する。

    その際に配布された「犯罪に強い社会の実現を目指して」と題する法務省メモは以下の通りである。

   第

 1刑事司法システム強化等

(11)

一八七現在の刑事政策の課題(都法五十四-一)   

 1犯罪に強い社会を実現するためには、

    ○国民の防犯意識を高め、家庭、教育現場、職場、地域社会、地方公共団体、関係省庁が一丸となって、犯罪の起きにくい社会環境を整備する     ○犯罪が発生した場合には、早期に犯人を検挙して、厳正な処罰をする     ○犯罪者に改善更生教育を施して、円滑な社会復帰を図ることが重要

  

 2その意味で、

    ○治安対策の基盤である刑事司法システム全体の機能強化、すなわち、警察、海上保安庁、税関、麻薬取締官などの司法警察職員等、検察庁、裁判所、刑務所、保護観察所などの刑事司法システムを構成する治安関係機関の体制整備が急務であるとともに、

    ○刑事司法システムの最後の砦である刑務所の過剰収容を解消する     ○保護司、更生保護施設など民間との協働による更生保護活動の推進など、民間活力を最大限活用することが重要    第

 2法務省の施策の要点

  

 1水際対策の強化     ○出入国審査の厳格化、バイオメトリクス等の最新技術の活用検討、東京入管新宿出張所など摘発体制の整備     ○公安調査庁における国際テロ等に関する情報の収集・分析機能の充実強化

  

 2各種犯罪対策     ○組織犯罪、ハイテク犯罪など、各種犯罪に的確に対処するための法整備     ○組織的犯罪処罰法、改正少年法等の新法の厳正な運用

  

(  3被害者への配慮 6) 木村光江「性的自由に対する罪の再検討」『犯罪の多角的検討』六三頁以下参照。

四   再犯者についての取組

その後の治安回復の中で、政府の犯罪対策の柱の一つが、「再犯者対策」になっていく。そのプロセスは決して

(12)

一八八

「単線的」なものではなかった。

一つには、平成一六年一一月に奈良県で発生した性犯罪前科を有する者による女児誘拐殺人事件を契機として、

再犯防止のための性犯罪者処遇の充実を求める声が高まったことが大きい。マスコミなども含め、海外の性犯罪者

対策も紹介され、議論は高まっていっ

た。そこで一八年度から、矯正及び更生保護を通じて、性犯罪者処遇プログ

ラムが実施されることとなっ

た。

他方、一七年には、所在不明中の仮釈放者等による重大な再犯事件の発生を契機として、更生保護の再犯防止機

能に対し、疑問が投げかけられた。そこで、「更生保護のあり方を考える有識者会議」が設置され、一八年六月に、

法務大臣に対して提出した更生保護制度改革に関する提言が成された。

しかし、もともと、矯正局・保護局の任務の中心は、再犯予防なのである。そして、収容者の社会復帰にとって

最も重要なものは、就労支援である。自立更生する上で、勤労生活を継続できるだけの意欲や能力を体得すること

が重要なことは、いうまでもない。法務省においては、平成一七年五月一七日、厚生労働省との連携の下、「刑務

所出所者等に対する就労支援対策検討チーム」を発足させ、一八年四月から「刑務所出所者等総合的就労支援対

策」として、受刑者及び少年院在院者等の就労支援に取り組んでき

た。

平成一七年六月一日、法務省は、警察庁に対し、子どもを対象とする暴力的性犯罪等を犯した受刑者の出所予定

年月日、出所後の所在等に関する情報の提供を開始した。情報提供の対象となる受刑者は、受刑に係る犯罪の被害

者が一三歳未満で、罪名が強制わいせつ、強姦、わいせつ目的略取・誘拐及び強盗強姦の者等である。刑事施設の

長は、当該受刑者が釈放となる場合、釈放予定日のおおむね一か月前に、警察庁に対し、釈放予定者の氏名、釈放

予定年月日、入所年月日、帰住予定地その他の参考事項を通知することとなっている。

(13)

一八九現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) これに加え、平成一七年九月一日、法務省は、警察庁に対し、新たに、殺人、強盗等の重大な犯罪やこれらの犯罪に結び付きやすい特定の罪名等に係る受刑者の出所情報の提供を開始した。法務省は、毎月、警察庁に対し、対象となる受刑者の刑事施設における入所日、出所(予定)日、出所事由等の出所情報を通知することとなった。

更生保護の領域でも、平成一九年度からは、これらの者のうち、生活状態又は精神状態が著しく不安定になって

いる長期刑仮釈放者、人格、環境等に複雑な問題を有する凶悪重大事犯少年、強盗、傷害、暴行等の暴力的犯罪を

繰り返している者等、他者に危害を加えるおそれが高く、その処遇上最も配慮を要する者について、保護観察官が

集中的・継続的な指導監督・補導援護を実施することにより、その再犯防止を図っている。また、同年度からは、

仮釈放者及び保護観察付執行猶予者のうち、暴力的性向があり、かつ、薬物依存傾向や問題飲酒など暴力行為を助

長すると思われる問題性を有する者を「特定暴力対象者」と認定し、保護観察官の関与を強化した綿密かつ専門的

な指導を実施している。

また性犯罪に関しては、平成一八年度から「性犯罪等」の類型に認定された仮釈放者及び保護観察付執行猶予者

に対し、特別遵守事項として性犯罪者処遇プログラムの受講を定めた。更生保護法は、保護観察対象者に対する特

別遵守事項の類型の一つとして、保護観察対象者において、法務大臣が定めた性犯罪者処遇プログラムを始めとす

る専門的処遇プログラムを受講することを新たに定めた。

更生保護法において、すべての保護観察対象者が遵守すべき一般遵守事項として、保護観察官又は保護司に対す

る面接及び生活の実態を示す事実の申告が義務付けられた。これにより、保護観察所が、保護観察対象者の所在及

び生活の実態をより的確に把握し、実効性の高い指導監督及び補導援護を実施することが可能となった。

そして、平成一八年三月に執行猶予者保護観察法の一部が改正され、同年九月一九日の施行日以降に保護観察付

(14)

一九〇

執行猶予の判決の言渡しを受けた者について、保護観察所長は、言渡しをした裁判所の意見を聴き、これに基づい

て本人の特性に応じた特別遵守事項を設定し、それを遵守するよう指導監督することにより、一層効果的に本人の

改善更生を図るとともに、転居及び七日以上の旅行の許否を保護観察所長の判断にかからしめることにより、保護

観察付執行猶予者が所在不明になることを防止している。

「三振法」と電子監視であった。 7) 多くの国で、性犯罪者に対する重罰化と様々な工夫が見られたが、最も注目を集めたのは、アメリカの「メーガン法」、

    「メーガン法」(性犯罪者情報登録・公表制度)は、性犯罪前歴者をデータベース化することによって、犯罪捜査に役立てるとともに、地域住民に情報を公開することで地域住民による社会防衛を促し再犯防止に役立てようとする制度である。一九九〇年のワシントン州を皮切りに、二〇〇〇年までには、米国全州において性犯罪者登録法が制定、施行されたが、近時は、批判が強い。「三振法」は、殺人、放火、強姦等の重大な暴力的犯罪を繰り返す者に対する重罰化政策として、多くの州で導入された。「三振」の条件(犯罪の種類・回数)や効果(処分の内容)は州により異なるが、重大な暴力的犯罪を繰り返す者を対象として長期間の拘禁を可能とする点において共通している。

    電子監視は、保護観察対象者等に対し、電子機器を用いて所在を確認するシステムで、連邦レベルにおいては、一九九一年までに、全米で保護観察対象者、指導監督付釈放者、刑事被告人の電子監視が実施されるようになった。これと並行して、州及び地方政府においても電子監視を導入するようになり、現在では、大半の州が犯罪者に対する電子監視法を有している。電子監視システムには、電話や無線電波装置を使用するもの等があるが、近年では、GPSによる性犯罪者の所在追跡が導入され、二〇〇五年以降、一部の性犯罪者についてGPSによる終身監視を義務付けた州もある。

    この他、施設内及び社会内処遇を通じて、認知行動療法を活用した再発防止モデルに基づく処遇プログラムも広く用いられている。(

止のための教育が行われていたが、このようなプログラムが全国規模で組織的に実施されるのは、我が国においては初め の二〇の指定刑事施設において性犯罪再犯防止指導を実施している。従来も、一部の刑事施設においては、性犯罪再犯防 8) 女児誘拐殺人事件等を契機として、法務省は、一八年三月までに性犯罪者処遇プログラムを策定し、一八年度から全国

(15)

一九一現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) てであった。(

題場面への対応能力を習得させる生活技能訓練を実施している。 訓練を実施している。さらに、就労に役立つ能力開発として、就労生活に必要なマナー、コミュニケーションの方法、問 就労先等の確保に向けて支援を行うものである。矯正機関は、完全ではないが、時代状況の変化に合わせて他種類の職業 業訓練や改善指導によって就労能力の育成を図るものであり、後者は、ハローワークや雇用主との連携により、具体的な 9) 矯正施設における就労支援は、対象者の資質面への働き掛けと就労環境の調整という二つの側面からなる。前者は、職     また日常生活や職業生活に必要な知識、常識、学力等を向上させるため教科教育を行い、平成

科学省とが連携し、刑事施設又は少年院内においても、高等学校卒業程度認定試験(旧大検)を実施することとなった。 19年度から法務省と文部

五   再犯者率の増加と再犯者数

再犯者対策の重要性の論拠として、しばしば引用されるのが、「総犯歴数別の人員構成比では、初犯者が七一%

を占めているのに対して、再犯者は、二九%にとどまっている。ところが、総犯歴数別の犯歴の件数構成比を見る

と、初犯者による犯歴の件数は四二・三%にとどまるのに対して、再犯者による犯歴の件数は五七・七%を占めて

いる。このことは、約三〇%の再犯者によって、過半数である約六〇%の犯罪が行われているという事実を示して

10

り、ここに、刑事政策として再犯者対策が重要であることの根拠がある」という記述である(平成一九年度犯罪

白書二二二頁)。

ただ、これだけの理由であれば、「「世界一安全な国、日本」復活の礎ともいうべき重要な政策課題」が再犯防止

だとする説得性に、やや欠けるうらみがある。約

30%の再犯者によって、過半数である約

60%の犯罪が行われてい

るという数値は、これまであきらかにされてこなかったものではあるが、刑法、刑事政策の基本として、一部の再

(16)

一九二

犯傾向の強い者が、犯罪を多く繰り返すことは、

意外なことではないからである。

「現在の緊急課題」と考える上で重要なのは、

①刑務所出所者や保護観察中の者による重大再

犯事件が社会の注目を浴びていること、②一般

刑法犯検挙人員中の再犯者の人員及び再犯者率

が増加・上昇傾向にあること、③成人の一般刑

法犯検挙人員中の有前科者の人員は、近年、増

加を続けていることの

3点重要であろう。とり

わけ、②と③を検証してみる必要がある。

まず、再犯者 11

率が急上昇していることは、明

らかである。警察統計上の再犯者とは、前科・

前歴者であり、再犯者率とは、検挙人員中の再

犯者の割合である。前歴とは、前科に加え、未

決、起訴猶予、微罪処分、審判不開始、触法を

含むものである。最も低かった平成六年は三一

%に過ぎなかったものが、平成二三年には四

七・五%に達し、一・五倍にもなった。

初犯者と再犯者の増減 再犯者率

初犯者

43 48 53 58 63 5 10 15 20

再犯者

%

400000

300000

200000

100000

0 40

30

20

図 3

(17)

一九三現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) しかし、注意しなければならないのは、再犯者の数は平成一九年以降減少しているのである。初犯者の減少が著しい為に、相対的に再犯者「率」が上昇したに過ぎない。認知件数・検挙件数の減少が著しいのである。

そして、③成人の有前科者の人員が増加を続けているというのは、少なくとも、ここ

5年間に関しては、図

4

示したように誤りである。七万八千人から六万五千人と二割近く減少した。不祥事の存在により、矯正教育・保護

観察の効果に問題があるように思われているが、必ずしもそうではない。最近の矯正局・保護局の取組が功を奏し

図 4 120000

100000

80000

60000

40000

20000

0

再犯者数と有前科者数

再犯者 有前科者

H1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23

50

40

30

20

(%)

H1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 前科者率と再犯者率の差

微罪処分 起訴猶予 前科

図 5

(18)

一九四

だしたとみるべきだと思われる。これまで積み上げてきた矯正教育のプログラムを「修正する」という視点は良い

が、根本的な改変は危険である。

初犯者のそれに比べて格段に高いからである。例えば、一人で 再犯者が特に問題なのは、犯罪者に占める人員の比率が比較的低いにもかかわらず、事件数全体に占める事件数の比率は、 10) 一九年度の犯罪白書では、生涯で一回だけ犯罪を犯す「初犯者」と繰り返して犯罪を犯す「再犯者」が存在するとし、

5回犯罪を犯せば、初犯者

( 当する。この事実は、これまで、国内外の複数の実証研究において明らかにされてきたとするのである。 5人分の犯罪を犯したことに相 において「犯歴」とは、前科、すなわち有罪の確定裁判に関する記録のことをいうとされている。 た者という意味で用いる。これに対し、有罪の確定裁判を一回だけ受けた者を「初犯者」と呼ぶことにする。また、本章 11) 「再犯者」という用語は、それを用いる場面によって意味が異なるが、本章においては、有罪の確定裁判を二回以上受け

六   不起訴処分・微罪処分の刑事政策的意義

さらに重要なのは、図

5に示したように、最近の十数年で再犯者率が一・五倍になる中で、有前科者率は、横ば

いだということである。矯正施設を経た者は、犯罪をそれほど犯してはいないといことである。たしかに再犯者率

が上昇したが、その増加は、起訴猶予になった者や、微罪処分により送検されなかった前歴者によるのである。と

りわけ、前処分が微罪処分であった者の割合の増加が著しい。ということは、微罪処分の特別予防効果に疑問が生

じるということである。もちろん、微罪処分は、「被疑者の再社会化」のために行われるというよりは、刑事シス

テムの円滑な運用の視点が重視されてきた。あまりにも検挙者が増えたので、「きちんと送検していたらパンクす

る」という考慮が働いたのは自然なことである。ただ図

6に示したように、現在は、過度に微罪処分に依存してい

(19)

一九五現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) るとも見える。

ここで、犯罪白書の次の記述は示唆に富むものである。「二〇歳代前半の初入新受刑者の保護処分歴を見ると、

これらの者は、入所罪名にかかわらず、他の年齢層の者と比べて、保護処分歴のある者の比率が相当高く、このこ

とは、年齢は若年であっても、少年時に保護処分によって指導を繰り返し受けながら更生できずにいる者等、犯罪

傾向の進んでいる者が相当程度

いることを示している。したが

って、刑事司法機関においては、

若年者、取り分け二〇歳代前半

の者に対しては、早期に可能な

限り再犯の芽を摘むとの観点か

ら、その特性や再犯の可能性を

十分に見極めた上、厳正に対処

するとともに、再犯防止対策に

おいても、重点的に力を注ぐこ

とが肝要である(平成一九年犯

罪白書二七六頁)」。刑事司法シ

ステムに余力のできた現在、早

期に可能な限り再犯の芽を摘む

60

50

40

30

20

10

056 61 66 71 76 81 86 91 96 1 6 11

(%) 検挙人員中の微罪処分の割合

図 6

(20)

一九六

という視点は重要である。

また、再犯の議論にかなり強く影響してき

た「性犯罪」については、特に再犯傾向が強

いわけではないということに留意しておく必

要がある。再犯は、恐喝・傷害及び暴行等の

粗暴犯、侵入窃盗並びに覚せい剤取締法違反

の占める比率が高いことに注意しておく必要

がある。性犯罪再犯防止のための教育が無駄

であるということではということではないが、

性犯罪者を念頭に、「メーガン法」、「三振法」

や電子監視を参考にすることには慎重でなけ

ればならない。まして、アメリカでもうまく

機能してはいないのである。

また、恐喝、傷害等の同種前科率の高さを

見ると、やはり組織犯罪対策が重要であり、

詐欺犯への手当も考えなければならない。そ

して、侵入盗の再犯傾向の強さは、予想通り

であるが、就労支援が、必ずしも決め手には

侵入盗

恐喝 傷害

詐欺

放火 殺人 公然猥褻

常習賭博

賄賂

強姦

逮捕監禁

再犯率 強盗

同種罪種前科有 40

30

20

10

0

0 20 40 60 80 %

%

図 7

(21)

一九七現在の刑事政策の課題(都法五十四-一) ならないことに注意しなければならない。薬物事犯と同様の課題が存在するように思われる。

今後の日本の刑事政策を考える上で、最も重要な事実は、最近の起訴率の低下である。一〇年前まではほぼ八割

だった凶悪犯の起訴率が五割を切ってしまった。嫌疑不十分による不起訴が目立つ。捜査が不十分なものを送検す

る割合が急に増えたとは考えにくい。基本的には、起訴に慎重になっている。事件数が増加し過重な負担があり、

検察の不祥事もあったので、起訴を慎重にするということも理解できないことはない。重大事件は、裁判員裁判の

対象になるため、慎重に「絞り込む」ということになるであろう。しかし、真相究明の要請、被害者の存在を軽視

することも許されない。捜査手法についての制限の流れも勘案すると、検察の変化を注視していくことも必要であ

る。

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