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内部組織における行動意欲について

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内部組織における行動意欲について

その他のタイトル Work Efforts in Internal Organizations

著者 広田 俊郎

雑誌名 關西大學商學論集

24

3

ページ 237‑265

発行年 1979‑08‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00020940

(2)

【研究ノート]

内部組織における行動意欲について

I

製造企業,などの経営組織は,特定の製品市場や,原材料などのインプッ ト市場などの外部組織と取引関係を持ちながら,製品の生産・販売というプ ロセスを遂行している。そのプロセスを支えているのは市場取引とは区別さ れるような,より継続的で,密接な雇用関係や契約で結ぴつけられた組織休 である。その組織休の関係性の特質や形態が,外部取引関係と異なることを 考慮して,それらを内部組織と呼ぶことがしばしば行われるようになってき

この内部組織における資源配分プロセスの特色の一つとして,情報の偏在

*  本稿は,昭和54年組織学会研究発表大会の報告「組織の数理モデルの展開」の後 半部分をもとに書き直したものである。なお,本研究は文部省の昭和53年度科学研 究費補助金(奨励研究W)にもとづく研究の一部をなしている。同補助金によっ て,一橋大学宮川公男教授の主宰される研究会への出席が可能となった事が,本研 究ノート作成の基礎をなしている。記して,謝意を表したいと思います。

*1  Spence,  A.  M. (1973). 1974年ペンルバニア大学で開催されたシンボジウム以 TheEconomics of Internal Organization"という用語が一般的となった。ゎ が国でも,今井賢一,伊丹敬之,洩沼萬里の諸氏による「内部組織の経済学」 1977. 5月〜19781月,経済セミナー連載,の展開以来かなり一般化したように思わ れる。

(3)

72(238)  24 巻 第 3

性がスペンス (197*2 3)によって指摘されている。すなわち,内部組織の取引 の典型的なものとして雇用関係をとりあげると,その取引に関する種々の情 報が,完全に雇用者に知られているわけではない,という事態の事である。

そして, 被雇用者はそのため, 行動について自由裁量性を有することにな る。しかしながらこのような裁量性を持つ被雇用者の行動の如何によって組 織の成果は決定されるから組織体を形成する制度や契約の集合は,被雇用者 の行動意欲を如何に適切に喚起させるかに向けられている,といってもよい であろう。

われわれは,本稿において,種々の特質を持った諸個人の行動意欲を確保 するような,契約関係,ないし制度としての内部組織のあり方を探る,幾つ かの研究を検討することをねらいとしている。このような,内部組織の制度 のコストとベネフィットを分析するという領域が,内部組織の経箔学として 展開され出してきているのである。

そこで,まず, Il,一般モデル,において,内部組織のプロセスの諸局面 についての一般的定式化を行い,それらが皿, リスク回避的労働者について の賃金契約と,『出来高率設定と自己選択, V内部労働市場モデルの,それ ぞれについてどのように特定化されているかを意識しながら,それぞれ,ス ティグリッツのモデルにおいては,不確実性に伴うリスク負担への態度の相 遮に応じて,どのようなインセンティプ・システムが必要か,そして更に,

生産性の異なる労働者の存在が,どのような影響を持つかを,検討し,宮崎 のモデルにおいては,生産性の異なる労働者の行動意欲を確保し,しかも企 業としての収益性条件を満たすものとしての内部労働市場モデルを考察した

"

 

*2  Spence,  A. M (1975)  p. 164参照このような情報上の制約を重視するという考 えは,コース (1937),サイモン (1945),アルキャン=デムゼッツ(1972)らにお いて既に展開されたものであるとしている。

(4)

r r

  内部組織の一般モデル

(1)一般モデルの定式化

内部組織の有効性は,前述の通り労働者の行動意欲によって決定される努 カの供給量に依存する。そこで,労働者の行動意欲によって生産量が影薯さ れる,というような状況を示す一般モデルを提示し,その状況での賃金契約 の設定問題を解く事のできる枠組を示しておきたい。

すなわち,各企業は,何人かの労働者が受け入れるような契約の中で,利 潤を極大化する契約は,どのようなものかを探索する。そこで見出された契 約の内容は,単にそれを受入れる労働者のタイプを決定するだけでなく,数 々の努力の水準や,それによって生産量等の成果を規定する,と考えられる のである。その一連のプロセスを構成する要素を,それぞれ検討していきた

(2)生産関数

そこで,まず,企業の中に,数多くのクスクがあり,それが各個人によっ て遂行されるとき,その生産量は次のように表わされる,とする生産関数の 定式化が行なわれる。*3 

ii=hfIi(ejJ9 (ji,  (ji,  (j;i) 

(記号)

=個人

hq1i=第h企業のiというタスクについての個人jの生産量 糾=個人によって供給される努力

Oi=個人属性 (IQ,など)

o

i  =技術特性

卸=当該タスク成果についての個人属性

(1) 

ここで,生産量は,労働者によって供給される努力と,その他の状況を示

*3  Stiglitz, J. E.  (1975),  p. 554参照

(5)

74(240)  24巻 第 3

す変数ベクトル釦=((Ji'(}9}(i) によって規定されるものとされている。

ここで状況ベクトル 0の要素として,(a)個人の特徴 (IQなど) (Ji'(bl技術 に関して,その困難度や例外性を示すバラメーク(}J,(C)当該クスク成果に関 連した個人の属性を表わすバラメークか, などが考えられる。操作的モデ ルを作るに当っては,様々な形で,これらの要素についての特定化が行われ るだろう。

(3)労働者による努力の供給

また,ここで努力という用語が用いられたが,それは,通常の経済分析の ように,投入された労働量を測定するだけでは不十分だ,という立場にもと づくものである。すなわち,インプットとして重要なのは,単なる労働量で はなく,その労働強度をも併せ含んで表現される努力の水準だとされる。

そして,ある一時点におけるその努力は,オッファーされた賃金と,情報 構造によって規定されるものと考えることができる。*4 

e;i (t)= が (wi, 11(t)) 

(記号)

e;(t)=努力 wi  =賃金水準 1/  (t) =情報構造

(2) 

このように,一般的に定式化された関係に対して,数々な特定化が想定さ れうる。長期的な形での特定化を考えれば,ダイナミック・プログラシング の解として,各時点の努力水準を決定していく,という形が考えられるであ ろう。

(4)賃金水準

ところで,賃金については,企業によって,各個人の特性をふまえてオッ ファーされるものと考えられる。すなわち, Wh を第h企業によって, j 目の個人に l番目に提示される契約を示すものとする。そして,和を,当該 個人についての属性とし, Wh (b)を当該個人に適合的な契約の集合とす

*4  Stiglitz,  J.E.  (1975)  p. 555参照

(6)

内部組織における行動意欲について(広田俊)

ると,

WA1iEWh (3) 

と示される。*5 

また,個人が,期待効用の最低額を支える労働に対する契約を W"miとす ると,

u1 (wh1i) >U; (w. が成り立つ。

(5)効用関数

(4) 

基本的に,努力水準が,賃金によって決められるとしても,その努力水準 のモニクーが困難である,という事などの事情のため,各労働者による自発 的な努力の供給を促すように,種々の契約が提示される。その場合,労働者 は自己の決定を効用極大化の観点から決定するものと思考されるから,彼 の効用問題も,どのような形状のものが重要となる。それは,何よりも,賃 金によって,決定される,と同時に,努力の投入水準によっても影善される

と考えられるのである。

U,=U, (w;,  e,)  (5)  各人は,これで示される効用関数を最大化するよう,ジョプの契約を受け 入れるか,どうか判断するわけであるが,前の式で示したように,提示され る賃金は,各人の属性が異なるのに応じて,相異り得ることは注意しなけれ ばならない。

(6)売上高

売上高は,各個人の各タスクについての生産量の関数である,と考えられ る。すなわち,売上高を Rhで表わすと,次式が成り立つ*6 

Rh=Rh (hQ hQ,=hq,i

(記号)

*5  Stiglitz,  J.E.,  (1975)  p. 555参照

*6  Stig!itz, J. E.  (1975)  p. 555参照。

(6)  (7) 

(7)

76(242) 

Rh=第h企業の売上高 hQ戸:第h企業の生産量

24巻 第 3

Aqi=第h企業のi労働者のjクスクについての生産量 (7)期待利潤

ところで,賃金コストは,前に述べたように,労働者の効用を最大にする ような契約によって規定された。したがって,企業の期待利潤は,企業の提

示する賃金契約AA(0)の関数となる。

冗=冗 (A1 (0)) 

(記号)

冗=利潤

A1 (0)=諸属性,諸事情を考慮に入れた賃金契約 (8途業の利潤極大化

(8) 

そこで,企業の直面する問題とは,労働者の効用最大化を達成する契約の 中で,どれを選べば,利潤が最大化され得るか,という問題である。すなわ ち,それを定式化すれば,次のようになる。

Ma (A, (0)) 

subject to A, A&* (0) 

(記号

A,* (O)=労働者の効用を最大化するような契約

III  リ ス ク 回 避 的 労 働 者 に つ い て の 賃 金 契 約

(1)リスクを含んだモデル

(9) 

以上の一般モデルをふまえて,賃金契約の型を特定化し,更に, リスク回 避的労働者が存在する場合の分析がスティグリッツ(1975a)によって行なわ

れている。その分析を検討することにする。

•7 Stiglitz,  J.E.,  (1975)  pp. 555556参照。

•8 Stigliz, J. E.  (1975),  pp. 556560参照。

(8)

仕事に対する報酬は,その仕事に費した時間と,その仕事による成果の二 つに依存して決められうる。前者を,スティグリッツは,時間率という。ま た,成果に対する報醐は,一定期間の中でのより高い支払(出来高率)の形 でなされることもあるし,より高い昇進の確率の増加という形で動態的に実 現されることもある。

報酬形態を静学的なものに限定しても, 種々の型が存在し得る。たとえ ば,時間給と出来高給が,非線形のものがある。たとえば,一週40時間を超 えた労働は,より高い率の時間給を受け取るし,出来高給についても,最小 限のノルマが割り当てられ,それを超えなければ,出来高賃金が支払われら れない,というケースがある。

しかしながら,ここでの分析は,すべて,線型の報醜関係が設定されてい るものとして,分析が行なわれる。

(2)リスク回避労働者に対する線形契約

一般モデルにおける生産関数(1)式において,すべての個人が同質であると 考え,ランダムなパラメータとしては,技術のパラメークだけが考えられる にすぎないとする。そのような要因にもとづくランダム性を表わすリスク変 数として0を位置づける。そして,生産量が,努力の供給量と, リスク要因 の積として表現されると特定化する。*9 

q=efJ,  q=f (e,  fJ) 

(記号)

=生産量 =努力 =リスク変数:

(10) 

そして,賃金契約は,時間率,出来高率についての線形の式で表現される,

とする。

C=l+roe 

(記号)

*9  Stiglitz.  J.E.  (1976),  p. 559参照

(ll) 

(9)

78(244) 

I=時間率 r=出来高率 C=所得総額

24 巻 第 3

市場に競争があり自由参入があるものとすると次式が成り立つ。 (C,5 平均を示す)

C=l+r(je=(je  かくして

C=r(je+(l‑r)玩=r((jeOe)+玩

⑱  個人の所得は,平均的限界生産物と各自の限界生産物の加重平均となる。

あるいは個人の所得は,平均的限界生産物に,彼の労働サービスと平均との 差異に等しいだけのインセンティブ・ペイを加えたものとなっている。

契約スケジュールが以上のようなものとして,労働者の行動は,彼の効用 関数を最大にするよう決定される,とする。その際,効用関数は,その個人*10 

の所得と,努力の関数として表硯されることとなった。すなわち,

U=EU (C,  e ) ( 1 4 )  

(記号)

U=効用 C=所得総額 =努力

ここで,諸個人は, リスク回避的であると仮定され, Uc>o,  U cc ~o, 更に, U,<o, U.,>oであると想定される。各人は効用を最大化するもの

とし,その際,何らの制約も受けない場合を考えよう。

各人は, 0の値を発見してから,出来高率r,時間率Iを考慮して,次式 を満たすように,努力の水準を決定する,と想定される。そこで次式が成り

UcrO+U.=o 

*10  Stiglitz, J. E.  (1975),  p. 559参照

*11  Stiglitz,  J.E.  (1975), p. 559参照

(15) 

(10)

ここで,

内部組織における行動意欲について(広田俊) 245)79 

Uc= au F T   au 

oC' ug=oe 

もし,努力が, 0の既知となる前に決定されるとすれば,次式によって努 カの供給が決定される。

E (Ucr(}U,)  =O  (16)  ここで, er0の関数であると考えると期待効用は,時間率Iと出来 高率rの関数として示される。すなわち,

EU= EU(rOe(r, 0), I)  となる。

(1

a u

+   

︑‑︱

/ 

>

/ 

/ ︐ / 

  /

  / /

/ 

/ 

/ / /  

/ q /

/ 

/

 

/ 

/ 

 

/ / 

/ 

図一l

‑‑‑…線は、所得水準がランダムであることを示す。

図ー1で示されたように,支払いは C=l+Oreのように, 不確実性を含 んだ形で想定される。その際,平均的な状態において支払いは,生産を超え ることがあってはならないから,

I+re::;:eaが成り立ち。

I~ (1‑r) e7Jが制約式として課せられる。

労働者は, 0を知る前にeを決定するとすると,労働者の効用を,利潤を 負としないという制約のもとで最大化するような,報醒形態はどのようなも のかが上式の制約のもとに, EU(e(r,  8) Or+I,  e)を最大化するという

(11)

80(246)  24巻 第 3

12 

問題を分析することによって解明される。

ここでラグランジュ乗数入を用いて,

L=EU (e(r,  O)紆 十I,e).+}..{e万— re万ー I} (18)  とする。そして最適条件として次の二つの式を得る。

‑=oL Eucoe+Eu,  0r+ oe/.,... EU

Or  訊如—}.. (e万ー(1‑r)痘) (19) 

EU,J..=O

ところで, Uの期待値についての全徹分をとると

dEU EUcdC E U , d r ( 2 ] )   となり, U=一定とするような諸関係を考えるとすると

EU dC

双 亡 ― 石=‑Or

が成り立たなければならない。これを(19)式に代入し,それと関式からラグラ ンジュ乗数入を消去して次式を得る。

oe  eEUc(O‑o)‑(1‑r)EUc"if:;=0

9

U=一定の場合を考察していることを示すために(ae 

,  副;;と示すと

eEUc(0‑0) = (1-r)liEU:や)—み.

上式を変形して次式が得られる。

‑EUc(O 1‑r =  oEUc 

rt8e 

e

Ucについてのテイラー展開などを利用して次のように近似式を設ける。

EUc(0‑0) ̲̲ E(Uc —万c)(O- 万)Ucc万erE(0‑0)2  DEUc  =  OEUc  Uc  02 

•12 Stiglitz,  J.E.,  (1976),  p, 560参照

Rrso2(26) 

(12)

内部組織における行動意欲について(広田俊)

ここで, Rはアロー=プラット流の相対的危険回避度一!召U, 2

リスクの変動性を示している。

結局,次式が成り立つ。

1‑r. Rso2r  r .   7/ 

を示し, S

:. =で 7/=0e 

::.  ::.  虚);で, 努力の, 出来高率に対する供給の弾力性が示され

また, Scを消費の変動率として, 上式を変形すると次式が導出される。

E(Uc‑U(C‑c)

(1 ‑r) ~ 認竺7/  (28) 

(29)式と(30)式から,出来高率 r リスクが小さい程高く, リスク回避度 が低い程高く,努力の供給の弾力性が高い程,高いということが示された。

このことは,個人がリスク中立的であったり, リスク状況での変動がなか ったりすれば, r=lとなることを示している。 その場合, 諸個人は,彼の 限界生産物に等しいだけ受け取る。 もし, 相対的リスク回避度が 1ぐらい で,努力の供給の弾力性が0.5であり,消費の変動率が0.4であれば,所得の

内,ーが時間率により,所得のーが出来高率として支払われる, というこ

とが考えられる。

出来高率設定と自己選択

(1)異なった生産性労働者の影響

次に生産性の異なる諸個人がいる,という形で問題性が示されている場合 の分析を行なう。このような場合,雇用者は,各ジョプについてもっとも生 産性の高い労働者を見出そうとする。そのように有能な人間を見分けるプロ

セスが,スクリーニングの理論という名のもとにおいて展開されてきた。そ

(13)

82(248)  24 巻 第 3

の際,主に能力の代理変数として,教育水準,などが用いられた。しかし,

スティグリッツは出来高率システム自体が,スクリーニングの作用を果たす

*14 

ということを示そうとしている。そして,より低い能率の個人の存在が,ょ り高い出来高率の設定の必要性を生み出す,としている。

二つの,生産性の差異を持ったグ)レープがいるものとし,一方が高生産性 グループ,他方が低生産性グループとする。個人は,それぞれ自分の能力を 知っているものとする。これらの個人の労働を,確保できるような,出来高 率と時間率の組み合わせを,予約賃金曲線,と呼ぶことにする。その有様の 一例が図ー 2で示される。この予約賃金曲線は,一般モデルにおいて,提示

される賃金水準の規定条件と許容条件を示す(3), (4)式に対応する。

低生産性労働者は,すべての支払いが時間率によってなされるとすると,

より低い予約賃金で雇うことができる。このことは高生産性の個人の機会費*15 

用がより大であることを示している。また一方低生産性労働について,すべ ての支払いが出来高率による,とすれば,より高い予約賃金が必要である。*16 

その他の例として時間率においては,低生産性労働者と高生産性労働者が 低生産性労働者

予約賃金曲線

図ー2

*14  Stiglitz,  J.E.,  (1976),  p. 561参照

*15  Stiglitz,  J.E.  (1975),  p,561参照

*16  Stiglitz,  J.E.  (1975),  p. 561参照

時間率

(14)

生来高率

図ー3 時間率

時間率 図ー4

同じ機会費用を持つような場合が,図ー 3で示され,低生産性の労働者が,

比較優位を持つ状況が,図ー4で示される。

以上は,労働者の側の要求を明示した説明であったが,雇用者にとって開 心があるのは,期待利潤のレベルである。

る期待利潤は,

ク イ プjの労働者を雇うことによ

*16 

一般モデルの(8)式を特定化して次式で与えられる。

*16  Stiglitz,  J.E.,  (1975),  p. 562参照

(15)

84(250) 

Eei0J‑rEei0i‑I 

24 巻 第 3

高生産性等利潤曲線

図ー5

等利澗曲線が,図ー 5で示されて いる。もし,高生産性労働者しかい ないものとすると,均衡はM1であ る。同様に考えて,図ー 2において も,高生産性労働者のみを雇う場合 の均衡点はM1で示される。また,

低生産性労働者についてはM2 低生産性労働者の行動意欲を確保し

ながら,最大利潤を得させる均衡点 となっている。

企業は,今やどのような契約を提 示するのがよいか,という選択に直 面する。すなわち,両グループの双方を満足させるような契約か,一方だけ を満足させるような契約か,ということである。図ー2では,二本の予約賃 金曲線の交点Maは,双方のクイプの労働者を確保する。また, M,C上のど の契約も,高生産性労働者によって受入れられるが,低生産性労働者によっ

*17 

ては受け入れられない。 M11B上については,逆のことが成り立つ。

そこで,もし企業が一つの種類の労働者だけを雇おうとした場合,結論は 明確である。 MJIを提示することによって, 低生産性の人ばかりを雇える CMa上でM8より少し高い出来高率を提示することによって,高生産 性の人ばかりを雇うことになる。かくして,高生産性労働者だけを雇用しよ

うとすれば,より高い出来高率設定が設定される。

しかし,企業が,低生産性労働者を除外することができないか,あるいは 望ましくない場合がある。それは図ー 4のような場合で,低生産性労働者の 行動意欲を確保しようと思えば,非常に低い率で,それが可能であるケース

*17  Stiglitz,  J.E.,  (1975),  p. 562参照またM1においては,双方のタイプの労働者 を受け入れられる。要するに外側にある予約曲線だけが問題とされる。

(16)

である。現実には,高生産労働者の行動意欲の確保のためのより高い率での 契約提示が行なわれるが,その場合,提示される契約条件は低生産労働者の 予約賃金曲線の外側にあるので,彼らについての行動意欲確保はなされてい

*18 

る。そのとき,高生産性労働者の予約賃金曲線上における利潤は,二つのグ ループについての利潤率の加重平均であり,そのウェイトはニグループの規

*19  模による。

今,出来高率を増加させると,高生産性労働者については収益性は減少す るが,低生産性労働者については増加する。それは,図ー5において,低生 産性の人々についての等利潤曲線が,高生産性の人についてよりもより急だ からである。ちなみに,等利潤曲線は,原点に近い程,利潤水準は高い。

各々の出来高率と時間率の設定について,異なった志願者の組が考えられ る。ところで,企業の収益性は,次式のように与えられていた。

(1‑r) ‑I

ここで, Qは労働者当たり平均生産性で, EeOと同じである。 ここで期 待値は, リスク 0だけでなく,志願する人のクイプについても,とられてい

*20  る。かくして,内点解が次のように得られる。

(1‑r) iJQ 

Q=O 

(1 ‑r) iJQ 

訂 ― 1=0 

(32) 

*18ここではあくまでも,単一の契約提示が想定されているが,後で述べる宮崎にお いては,複数個の契約提示が想定されている。

•19 Rothschild & Stiglitz (1976)においては,一般に高生産性と低生産性の両グル ープの活動する均衡が成立しないとされた。しかしながら,ここでの分析は,必ず しも自由参入を認めていないということ,どの二つの企業も同一でないこと,とい うような仮定にもとづき,各企業は,予約賃金曲線条件として取り扱える,という 仮定のもとで分析がなされている。

•20 Stiglitz, J. E.,  (1975),  p. 563参照。ここでの分析は部分均衡論的なものに基く ものである。 も, 同様な企業が多数存在する場合, 均衡の存在問題が生じてく る。たとえば,生産性の異なる労働者の存在する場合賃金額だけが,労働者の質に 影響を及すとされる場合において,ナッシュ解が存在しないとされているのである。

(17)

86(252)  24巻 第 3

ここで,平均的生産性Qの変化は, 1)インセンティプ効果 (r)。 2) 得効果 (I)3)セルフ・セレクション効果,によると考えられる。第三の*21 

ものは,自分の能力を自覚した労働者が,自分に相応しいと思われるジョプ に志願したり,撤退することを通じての,志願者の構成の変化にもとづくも のである。

自己選択による志願者の変化は,出来高率 rの増加が,平均生産性Q 対して持つ効果をより大にするものと考えられる。また時間率Iの増加も,

Qを増加させる, と考えられる。 たとえば, より高い生産性の労働者が,

より高い時間についての機会コストを持てば, Iの増加は,志願者の平均的 な質をより高めるであろうと思われる。

このように生産性を高めるために,グやIを増加させたりしている内に,

しばしば, Iを少し減少させても,志願者が全てなくなってはしまわないよ うな状況が見られる。つまり,企業は高い質の労働力を得るのに支払わなけ ればならない賃金水準より,より高い賃金を支払っている,という状況に到 っていることがある。このように内部組織においては,雇用者が労働者のク イプを完全に知り得ないとき,出来高率,時間率がスクリーニングの働きを して, 自己選択による労働者の志願の組合せを決定するという働きを持つ ことを期待されている。しかしそのスクリーニングの働きには不十分な点が あり,労働の供給が需要を上回ると,賃金が下落するという市場のようなプ ロセスが,完全には出来高率,時間率設定について作用しないことがしばし ばある,と指摘されたのである。

諸個人が,自分の能力を完全に知らされているとし,その他のリスクがな ければ, 均衡は,出来高率 r=1とし,時間率 1=0または負とする事態 が考えられる。次に述べる宮崎 (1976)の分析は,そのような事態について の分析と考えられる。

*21このような効果以外に,クローズトなシステムを考えて,低生産性労働者の失業 を救済せざるを得なくなるような状況を考えると,そのような要因にもとづく平均 生産性変化が考えられる。その分析は,次の宮崎においてなされている。

(18)

253)87 

内部労働市場モデル

(1)宮崎 (1976)のモデル

ここでは,すべての企業が同ーであり, 製品も同一であると仮定した上 で,労働の異質性が, 企業内に階層的賃金構造を成立させる, とする宮崎

(1976)のモデルを検討する。*22 

簡単化のため,労働者には,二つのクイプがあり,それは,生産性と,仕 事への態度の二面から見られる,とする。クイプ2労働者は,クイプ1労働 者よりも,より生産的であるとする。入をクイプ1の労働者の比率, 1J..  をタイプ2の労働者の比率とするが,分析を通じて, Aは与件として与えら れ,一定である,とされる。かくして,全体労働者のクイプ毎の分布がすべ ての人に知られ各労働者は自分がどのタイプの労働者に属するかを知ってい るという状況が想定されている。しかし,反面,市場において,企業家や雇*23 

用者は被採用者がどのクイプの労働かを検証すべき方法を持たないとされ,

ここに情報の非対称性 (informationalasymmetry)ないし情報の偏在性 (informational impactedness)のもとでの分析が意図されている。

生産関数の一般的な形が(1)式において与えられていた。ここでは,技術特 性は単一の製品しか考慮していないので無視され,また個人属性も,タイプ 1労働者,クイプ2労働者というレペルに還元しつくされ,関数形に陰状的 に表硯されている,とする。

ここで,全体的生産関数は,個々人毎の生産関数に分解されると想定され ており,分解された生産関数は,それぞれ各人の全体への追加的貢献がもた らす生産性を示しているので,それは企業にとっての限界生産性を示してい る。このように解して,クイプ1労働者,クイプ2労働者の生産関数は,次 のような式で表現される。*24 

•22 Stiglitz, J. E.,  (1975)  p. 563参照。

•23 Miyazaki H.,  (1976),  pp. 396397参照。

*24  Miyazaki,  H.,  (1976), p. 400参照。

(19)

88(254)  第 24 巻 第 3

q1 = !1  (e1) 

釦=f2

(記号)

qi  =タイプi労働者の生産量

=タイプ i労働者の努力の供給量

J, (e1)  =MPL1 (e,) 企業にとってのクイプ i労働者追加にもとづく限 界生産性

タイプ1労働者が L1人,タイプ2労働者が L2人いるとして,上の生産 関数は一次同次であるとすると,

Q1=L (ez) =F1(L1,  e Q2=Lふ(む) =凡 (L幻む)

そして,集計された生産襲数が,本来的に線形の加法性を持っていたと仮 定すると,次式のようになる。

F(L1,  L2,  e1,  e2) = F1 (Li,  e1) F2(L幻む)

(記号)

Q=総生産量

iクイプの労働者について, 努力の供給による追加的生産は,次式のよう に示される。*25 

f/(e)>f(e) 境界条件に関して,

(36) 

/2(0)~/1(0) (37) 

が成り立つとされ,したがって,すべての e~o に対して

MPL2(e) =f2(e)>f1(e) =MPL1 (e)  (38)  が成り立つとされている。

平均生産性はタイプ1労働者が入, タイプ 2 労働が 1 —入の割合でいるも のとして,次式で示される。*26 

*25  Miyazaki,  H.,  (1976),  p. 400参照。

*26  Miyazaki,  H.,  (1976),  p. 400参照。

(20)

APL(e) =JMPLz(e) (1‑)MPLjl(e)

(記号)

APL(e)=平均的生産性 入=クイプ1労働者の比率 これらの有様を図示すれ ば,図ー6のようになる。

また,労働者のジョブへ の態度が効用関数U、で示 され,その内容として,賃 金水準Wでと,努力の供給 水準 e、によって規定され ると想定される。

w生産性

MPL2 

/ 

/ 

/ 

/ 

/ / / / 

/   

MPL1 

図ー6

u=U(w,e;)

(記号)

w、=賃金

e、=努力の供給水準 ここで aul  au

,玩;>0, <o

これは一般モデルの(5)式で示された想定と同じであるが,さらに個々人の相 遣が明示されている。すなわち,今,低生産性労働者であるクイプ1労働者 と高生産性労働者であるクイプ2労働者とを比較してみる。すると,その効 用を同一水準に保つための,賃金と努力の限界代替率 (MarginalRate of  Substitution,  MRS)について,次のような条件が想定される。

MRS1(W1,  e1)>MRS2(W1,  ea) 

MRS(Wi, e1)

= 出

ai;/dU;=O 

(4n 

となる。図から明らかなように高生産性労働者は,より eを要するジョプを

参照

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