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序 本プロジェクト研究の目的 序 本プロジェクト研究の目的

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Academic year: 2021

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はじめに

 児童福祉法にもとづく児童福祉施設中,入所施設は,児童養護施設をはじめとする養護を 必要とする子どもの施設,障害のある子どもの施設,生活指導等を要する子どもの施設に大 別される。これらへの入所理由は多様なため,それぞれの施設には,家庭の養育困難と非行 傾向,あるいは被虐待経験と障害などの重複した困難をもつ子どもたちが生活をともにして いる現実がある。しかし,それぞれの目的をもった児童福祉施設がそうした複数の困難から 生じる子どものニーズに応えうる機能を有しているかといえば,否である。たとえば今回,

本研究が主な対象とした児童養護施設は,障害のある子どもが生活していることを前提とし た支援の条件はそもそも整備されていない。

 本研究は,児童養護施設等で生活する障害のある子どもに焦点をあてる。その理由は,第 1 に,発達障害者支援法の施行や特別支援教育の開始など,障害のある子どもの施策の展開 とあいまって,近年,児童養護施設で生活する障害のある子どもに関する調査研究がみられ,

それら先行する調査との比較が可能であること,第 2 に,本社会福祉研究所において,社会 的養護,特別支援教育を専門とする所員の共同研究が可能であると思われたからである。本 研究は,児童養護施設等で生活する障害のある子どもの現状を明らかにすることを第一義的 な課題にして,あわせて家族支援,学校教育(特別支援教育)との連携という個別課題を検 討するという目的をもって取り組むものである。

1 .児童養護施設で生活する障害のある子どもに関する先行調査・研究

 先にふれたように,児童養護施設に障害のある子どもが入所することは,児童福祉法制上,

違法ではない。障害が明らかであっても養育困難を優先的な要件として児童養護施設に措置 される,障害がある乳児が乳児院から継続して措置されるほか,当初は障害が明らかでなかっ たけれども,年齢が長じるにしたがって障害が疑われたり診断が下されたりする場合もある。

⑴ 全国の実態

 まず,児童養護施設等に入所している障害のある子どもの実態に関する全国的調査につい て述べる。

 担当行政の厚生労働省は「児童養護施設入所児童等調査」によって,その量的実態を明ら かにしている(表 1 )。それによれば,児童養護施設入所児の「心身の状況」という項目の

「障害等あり」の割合は,1997年調査の10.3%から2009年の23.4%へと増加している。入所児 のほぼ 4 人に 1 人になんらかの障害があるという結果である。2009年調査でその障害の内訳

序 本プロジェクト研究の目的

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をみると(表 2 ),知的障害が9.4%と最も多い。10人に 1 人に近い割合である。つぎに注目 されるのが,「ADHD」「LD」「広汎性発達障害」という区分の割合である。これらを「発達 障害」としてくくると,知的障害についで比率の高いグループとなると推測される(重複回 答であるため実数は不明)。本調査の前回,すなわち2004年調査では「ADHD」のみが調査 対象となっており(結果は1.7%),これらの 3 区分はなされていないためその増減は不明だ が,2009年調査の結果から知的障害についで多いことがわかる。この区分には,発達障害者 支援法の施行が影響しているものと思われる。

 いまひとつは,2006年に財団法人こども未来財団が実施した調査(「障害児に対するサービ ス提供実態に関する調査研究報告書」)である。この調査結果から,障害のある子どもの施設 入所の実態を抽出すると,児童養護施設入所児中,障害のある子どもの割合は11.1%であり

(障害の内訳は表 3 参照),知的障害の割合が高い。また障害のある子どもが通う特殊学級(当 時),養護学校(当時)への就学は12.3%であった。

 これらの調査はいずれも,児童養護施設において障害のある子どもが生活していることを 明らかにしたものである。

⑵ 地域調査

 文部科学省による「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関す る全国実態調査」(2002年,以下「02年文科調査」とする)は,学習上あるいは集団生活をお くる上で特別な配慮が必要な子どもが,通常の学級において学んでいる実態を明らかにした。

その割合は約6.3%であったが,これが通常学級においても障害を考慮した教育をすすめるこ 表 1  厚生労働省児童養護施設入所児童等調査にみる「障害等あり」の推移

(%)

1997年度 2004年度 2009年度

児童養護施設 10.3 20.2 23.4

情緒障害児短期治療施設 48.2 59.5 70.7

表 2  児童養護施設入所児の「障害あり」の内訳

(重複回答)

総数 障害等

あり 身体虚弱 肢体 不自由

視聴覚

障害 言語障害 知的障害 てんかん ADHD LD 広汎性 発達障害

その他 の障害 人数 31,593人 7,384人 753人 131人 246人 411人 2,968人 391人 791人 343人 815人 2,314人 構成比 100.0% 23.4% 2.4% 0.4% 0.8% 1.3% 9.4% 1.2% 2.5% 1.1% 2.6% 7.3%

(厚生労働省:児童養護施設入所児童等調査.2009年 4 月より作成)

表 3  児童養護施設における障害児の入所状況 知的障害 視覚障害 聴覚障害 言語障害(聴覚障害なし) 肢体

不自由 自閉症 重症心身 左記以外の軽度 合計 1,096人 14人 14人 21人 29人 213人 4 人 265人 1,656人

(障害児に対するサービスの提供実態に関する調査研究検討委員会:平成18年度障害児に対するサービスの提 供実態に関する調査研究報告書.こども未来財団,2007年より作成)

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とを柱の一つとする特別支援教育を出発させる根拠となった(2006年学校教育法改正,2007 年 4 月施行)。また,省庁や制度の枠を越えて横断的な施策を推進するための制定・施行され た発達障害者支援法(2005年 4 月施行)は,法の対象となる障害の定義を学習障害(LD),

注意欠陥・多動性障害(ADHD),高機能自閉症として,これまで特別な教育(特殊教育)

や障害者福祉の対象外とされつつも,障害に起因して教育や生活上にさまざまな困難をもつ 子ども・成人にたいする社会的な注目を喚起した。

 こうした動きを反映して,施設関係者とこの問題に関心を寄せる研究者などが,地域のあ る児童養護施設等入所児と障害のある子ども,あるいは発達障害の疑われる子どもの関係の 実態調査に取り組みはじめた。調査の詳しい内容はそれぞれに異なるが,いずれも「02文科 調査」を入所児に実施し,障害のある子どもが入所している事実を確かめ,改善すべき課題 を提起している。たとえば,静岡県(2005年),北海道(2005年),神奈川県(2010年)があ る。そのほか,栃木県では,入所児の障害の有無,その疑いをという調査を実施している。

 静岡県の調査は,県下の全施設の職員を通じて入所児に「02文科調査」を実施したもので,

「発達障害児10.9%」という結果を得ている(後藤・池本,2008)。

 北海道の調査は,内容が多岐にわたる。厚労省の児童養護施設入所児童等調査を参考にし た施設調査(Ⅰ),02文科調査を実施した児童調査(Ⅱ),Ⅱの中から「学習上・行動上に困 難さをもつ児童」に該当した児童の被虐待エピソードの調査(Ⅲ),Ⅱにおいて「学習上・行 動上の困難さをもつ児童」の割合が高率であった施設にたいして行った面接調査(Ⅳ)で構 成されている。Ⅰからは「特別支援学級または高等養護学校に在籍している児童」の割合が 12.4%であったこと,Ⅱからは「学習上・行動上に困難をかかえる児童」が31%であったこ と,Ⅲからは「学習上・行動上に困難を抱える児童」のうち被虐待体験をもつ児童の割合は 74.6%と高率であること,Ⅳからは「学習上・行動上に困難を抱える児童」は施設,学校の 双方において個別の専門的ケアが必要であることが明らかになったとされている。

 つづいて神奈川県の調査は,県下のすべて児童養護施設,児童自立支援施設,情緒障害児 短期治療施設の入所児童にたいして,障害に関わる基礎的調査,「02文科調査」,学校への付 き添いなどにかんする調査を実施したものである。まず,特別支援教育との関わりでは,IQ70 未満の子どもが8.1%(小・中・高校生),小中学校の特別支援学級在籍児が13.5%であった。

「02文科調査」に関しては,小中学校の通常学級に在籍しかつ IQ80以下を除くという作業を した上で,「学習面か行動面で著しい困難を示す」子どもの割合は36.9%という結果であっ た。さらに付き添いに関しては,「登下校の付き添い」「授業の付き添い」「学校とのカンファ レンス」の対象となった発達障害児の数, 1 か月で費やした時間が調査の対象とされ,小学 生の場合で全児童数の17.6%(中学生2.5%)が送迎,7.6%(中学生3.6%)が授業での付き添 いを求められ,7.3%(中学生7.9%)が学校でカンファレンスを行ったという結果であった。

 これらの調査は,対象施設,IQ による調査対象の制限,小中学生か高校生を含めるかとい う年齢の違いなどの点で異なるために,結果として得られた「学習上・行動上に困難を示す

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子どもの割合」を単純に比較することはできない。しかし,「02文科調査」において対象とさ れた学習や行動上の困難と類似した傾向をもつ子どもの割合が,児童養護施設等において,

きわめて高いことを共通して明らかにしている。「この種の児童が現在の施設に必ず存在する ということを,我々は重視しなければならない」という北海道調査の指摘はこの問題に取り 組むにあたっての出発点となる認識であろう。また,「児童養護施設は,普通に学校に通える 子どもが対象として想定されていて,登下校に職員が付き添うことなどは想定されていない はずである」(神奈川調査)が,現実はそうではない。このことが職員に負荷となり,ほかの 子どもへのしわ寄せにもなっていると神奈川調査は述べている。

2  本プロジェクト研究の成果と課題

 研究プロジェクトの構成員は,大竹智,村尾泰弘,堺正一,中村尚子の 4 名である。大竹 は社会的養護,村尾は臨床心理学,堺と中村は特別支援教育を専門の研究領域としている。

これら 4 名は,研究会において,上述したような関係する調査研究を検討し,児童養護施設 における障害のある子どもの実態を明らかにすること,特別支援学校,特別支援学級におけ る児童養護施設からの通学生の教育の実態を明らかにすること,児童養護施設と特別支援教 育機関の連携の課題を明らかにすること,これらを通じて社会福祉と学校教育の連携につい て検討することなどを研究の方向性として確認した。

 そして,下記のような 3 つの研究の柱をたてた。

 ①先行する諸調査を下敷きにして,埼玉県内の児童養護施設等における発達障害をもつ子 どもの実態調査を実施し,比較・検討する。

 ② 4 名の専門領域を生かし,発達障害をもつ子どもについて児童養護施設等と学校の連携 について,聴きとり調査を行い,検討する。

 ③発達障害をもつ子どもの支援にかかわって,心理臨床的手法の効果について検討する。

 ①については,埼玉県児童福祉施設協議会調査研究委員会と連携し,2011年度,県内全施 設の児童を対象とした調査を実施した。そのさい,調査内容に,特別支援教育等,学校教育 との連携に関する事項を組み入れた。調査の報告書は,『埼玉県内の児童養護施設で生活する 発達障がいが疑われる子どもに関する実態調査』(『平成23年度埼玉養護の実態 その17』埼 玉県児童福祉施設協議会発行,2012年 3 月)として公刊された。本プロジェクトでは,その 概要を示すとともに,報告書では分析対象としなかった,児童自立支援施設,情緒障害児短 期治療施設入所児を含めた結果を第 2 章(大竹)で,また,調査に組み込んだ職員の意見に ついての分析結果を第 5 章(中村)で報告する。

 ②については,2010年から11年にかけて,児童養護施設等から学校教育にたいする意見聴 取( 3 施設),通学する学校の見学と意見聴取( 4 校)を実施した。これらによって得た知見 にもとづいて,さらに知的障害特別支援学校高等部単独設置校に焦点をあてて調査し検討し た論考が第 3 章(堺)である。

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 ③については,子どもは問題行動が多発する児童養護施設において,対応に苦慮するケー スをたくさん抱えている職員との定期的な研究を重ね,ペアレント・トレーニングの手法を 職員に導入することによる効果と課題を検討した。その報告が第 4 章(村尾)である。

おわりに

 児童養護施設等における障害あるいは発達障害のある子どもに関する研究は,前述の調査 研究に限定されるものではなく,近年の施設内の被虐待児への対応を論じる論文の多くが,

発達障害に言及している(齋藤,2008)。また,児童養護施設で生活する発達障害児の事例に もとづいてていねいな研究も行われはじめている(木全他,2010)。しかし,研究をレビュー した山本(2010)が指摘しているように,発達障害のある子どもたちを支援をする上でより 具体的な課題の把握とその解決にむけた研究はまだ多くはない。本研究プロジェクトも,児 童養護施設における実際の支援や実践に関わる課題を検討するには不十分であった。本研究 同様,特別支援教育とのかかわりで研究をすすめようとする試みも始まったばかりである(横 谷他,2012)。今後,児童福祉を中心とする諸制度のあり方,特別支援教育・学校教育全般,

心理・発達研究と実践の手法などに関して,実態と実践にそくした研究を展開することが課 題である。

文 献

後藤武則・池本喜代正(2008)栃木県の児童養護施設における発達障害児の実態と処遇.宇 都宮大学教育学部教育実践総合センター紀要,31,357-363

伊藤則博ほか(2005)児童養護施設に入所する「学習上・行動上に困難をかかえる児童」の 実態調査.北海道のノーマライゼーション,17,71-83

神奈川県社会福祉協議会施設部会児童福祉施設協議会「発達障がい児についての調査研究委 員会」(2010)かながわの児童福祉施設でくらす発達障がいを疑われる子どもたちの調査.

木全和巳ほか編著(2010)児童養護施設でくらす「発達障害」の子どもたち―理解と支援へ の手掛かり.福村出版

厚生労働省雇用均等・児童家庭局「児童養護施設入所児童調査」2004年および2009年 齋藤知子(2008)要保護児童における発達障害の問題について.子どもの虐待とネグレクト,

8(1),39-50

山本佳代子(2011)児童養護施設における実践研究.山口県立大学学術情報,第 4 号,37-49 障害児に対するサービスの提供実態に関する調査研究検討委員会(2007)平成18年度障害児

に対するサービス提供の実態に関する調査報告書.財団法人 こども未来財団.

横谷祐輔ほか(2012)児童養護施設における発達障害児の実態と支援に関する調査研究.東 京学芸大学紀要 総合教育科学系Ⅱ,63, 1 -20.

(代表 中村尚子)

参照

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