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雑誌名 山梨学院大学経営情報学論集

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(1)

著者名(日) 森  幸也

雑誌名 山梨学院大学経営情報学論集

巻 15

ページ 99‑108

発行年 2009‑02‑08

URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000286/

(2)

1 .科学論争としての地球温暖化要因問題  地球温暖化の原因が、人間の活動由来のCO2 濃度の増大にある、という見解は、メディアや 政策決定の局面では半ば常識化し、通説とみな されている観がある。

 だが、科学史研究者の立場から、自然科学の 学説として、この 人為的CO2温暖化説 を吟 味してみると、現在は論争中のひとつの仮説、

と見るのが妥当と思われる。

 筆者は、自然科学の歴史における、過去の科 学論争の展開過程に強い関心があり、そのテー マとの関連から、地球温暖化要因問題に興味を 持ち、調べてきた( 1 )。そして、地球温暖化の 要因問題に関して、科学者集団内部では「現在 は論争中」と筆者は判断している。その判断の 理由は、以下の通りである。

 まず、通説に対する批判や異説を展開してい る懐疑派の科学者が、少なからず存在している こと。そしてそれらの批判点や異説は、科学 的吟味に値する十分な内容を持っていること。

また、2007年 3 月に日本物理学会において、

2008年 5 月には地球惑星科学連合大会におい て、このテーマに関するシンポジウムが開かれ ており、実際の論争や異説の提示がなされたこ と。さらにまた、 人為的CO2温暖化説 に対 するお墨付きを与えたと一般にはみなされがち なIPCCの2007年のレポート( 2 )も、懐疑派 に対する説得力のある議論になっているとは思 われないこと。

 こうした理由から、 人為的CO2温暖化説 を、現在論争中のひとつの仮説、と見てもおか

しくないであろう。

 さてこの小論では、地球温暖化の要因に関す る「CO2主原因説」の最大の根拠となっている、

コンピューター・シミュレーションの問題点を 検討する。

 「CO2主原因説」にはいくつかの根拠がある。

だが、そのいずれをとっても、必ずしも十分な 根拠とはなっていない。IPCCの2007年の レポートにおいては、人為的影響を考慮に入 れたコンピューター・シミュレーションによっ て、20世紀の地球の平均気温の変動をほぼ再 現できることが、「CO2主原因説」の最大の根 拠となっている。

 そのコンピューター・シミュレーションの問 題点を検討し、このシミュレーションによる再 現が十分な根拠とみなせるか否か、考察するの が、この小論の目的である。

 その本題に入る前に、次の第 2 節では、「CO2 主原因説」の主な根拠と、その根拠への批判点 を確認しておく。

2 . 人為的CO2主原因説の主な根拠と根 拠への批判

 「CO2主原因説」を支持している科学者も、

この学説が証明された学説ではなく、「仮説」

であることを認めている。ただし、いくつもの 状況証拠や、不十分ながらもいくつもの科学的 根拠が積み重ねられており、総合的に判断して

「CO2主原因説」はまず間違いなかろう、と考 えているようである( 3 )

 この通説支持派の研究者たちの議論や、IP

IPCCレポート(2007)におけるコンピューター予測の問題点

−人為的CO2温暖化説の根拠をめぐって−

森   幸 也

(3)

CCレポートの論点を、筆者なりに整理してみ ると、「CO2主原因説」の重要な根拠は、次の

3 点にまとめられる。

 A. CO2が温室効果ガスであることと、温室 効果理論

 B. 大気中のCO2濃度の増加と、地球の平均 気温の上昇との相関

 C. コ ン ピ ュー タ ー・シ ミ ュ レ ー シ ョ ン。

20世紀の温暖化を、CO2増加を中心とし た人為的強制力に自然的要因を加味した 気候モデルでほぼ再現できること。

 Aの根拠は、観測データに基づくものではな く、理論的推測である。温室効果理論は、理論 としては疑う余地はないであろう。だが、CO2

濃度の上昇に伴い、温室効果がどの程度増強さ れるかについては、推測の域を出ておらず、科 学的判断は困難である。さまざまな気候モデル による推測に相当のばらつきがあるし、気候モ デルの前提に問題がある可能性もある。

 Aの根拠に対しての、考察に値する以下のよ うな批判もある。

 まず、温室効果は実質的にほとんど水蒸気に よってなされており、CO2は温室効果の主役で はないこと。また、地上からの赤外線放射が素 通りしやすい波長帯域に相当する 大気の窓 は、CO2による吸収が有効な赤外線波長帯域

(15マイクロメートル前後)とずれていること。

さらに、その波長範囲の赤外線吸収に有効に働 くCO2濃度は,すでに飽和しているか,飽和に 近い状態にある可能性が高く、そのため、CO2 の濃度が増加しても、赤外線吸収量が比例して 増加するわけではないこと( 4 )

 これらのことを考慮に入れれば、温室効果ガ スCO2の増大による温室効果の増強程度を、疑 問視せざるを得ないと思われる。少なくとも、

トータルの温室効果がCO2濃度に比例して増大

するようなことはありそうにない。

 したがって、Aは、「CO2主原因説」の科学 的根拠としては不十分である。

 次に、Bの根拠についてだが、20世紀にお いて、大気中のCO2濃度の増加と、地球の平均 気温の上昇との間に、明確な相関関係を認める ことができる。これは各種の観測データからほ ぼ間違いないであろう。だが、これはあくまで

「相関関係」であって、これだけでは、どちら が原因でどちらが結果かを確定することはでき ない。

 「CO2主原因説」では、CO2濃度の上昇が原 因で、地球の平均気温の上昇が結果、と考えて いるが、因果関係が逆−地球の平均気温の上昇 が原因でCO2濃度の上昇が結果−であることを 示す実例が 2 種類存在する。

 まず、南極の氷床コアの分析より得られた、

過去10万年単位の気温変化とCO2濃度変化のデ ータに相関関係があり、フィッシャーの解析に よると、気温変化が先行し、CO2濃度変化が遅 れて追随していること( 5 )。さらに、20世紀後 半の地球の平均気温とCO2濃度との短期的変動 の相関関係においても、気温の変動がCO2濃度 の変動に先行していること( 6 )

 これらの解釈をめぐっては論争が継続中だ が、原因が気温の側にあり、CO2の濃度変化は その結果であるという本質的部分については、

確実であると筆者は判断している。そして、こ れらの 2 種の実例は、Bを「CO2主原因説」の 根拠とすることに対する強力な反証事例となっ ていると考える。

 したがって、Bを、「CO2主原因説」の科学 的根拠とみなすことはできない。

 続いてCの根拠について。この根拠は、IP CCのレポートにおいて、最も重視されている 根拠である。そのレポートで明示的には述べら れていないが、おそらくはAやBの根拠では不 十分であることをIPCCでは認識しており、

(4)

それに替わる説得力のある論拠として、Cを提 起しているように、筆者には感じられた。

 IPCCレポートにおける最大の主張点は、

「温室効果ガスの強制力が、観測された過去50 年間の地球温暖化の主原因であった可能性が非

常に高い( 7 )」というものである。その主要根

拠として、観測データの改善と範囲拡大、コン ピューター・シミュレーションの改善、観測デ ータとコンピューター・シミュレーションとの 対応・一致が挙げられている( 8 )

 それゆえ、20世紀の地球の平均気温の観測 データの変化が、CO2を中心とした人為起源の 強制力と、自然的要因とを共に取り入れたコン ピューター・シミュレーションによる気候モデ ルによって、ほぼ再現されていることが、その レポートの根拠の柱になっているといえる。

 IPCCレポートの第 9 章では、「人為起源 の強制力を考慮した気候モデルのみが、20世 紀を通じての観測された地球の平均気温の変 化を再現しうる( 9 )」と述べられ、このことを、

地球の気候への人類の影響の最大の証拠として 採用している。

 したがって、IPCCの2007年のレポート においては、コンピューター・シミュレーショ ンこそが、「CO2主原因説」の最大の根拠とみ なされているのである。

 このIPCCレポートにおけるコンピュータ ー・シミュレーションの問題点を、次節以降で 検討していく。

3 . コンピューター・シミュレーション による気候モデルとは

 気候モデルとは、地球の大気を水平・垂直方 向に区画化し、各格子点の気象要素−気温・湿 度・圧力・風など−を数量化して表現し、それ に対して物理化学の各種法則・方程式や、地球 の諸条件を組み込んだものである。

 各種法則・方程式とは、エネルギーや運動量 や質量などの保存則や、空気塊に対する各種の 運動方程式や、放射や熱力学の法則や、気体の 状態方程式などである。また、地球の諸条件と は、地球の大きさや自転・公転速度や、太陽と の位置関係の変化や、地形の分布や季節変化な どである。

 そして、コンピューター・シミュレーション によって、将来の地球温暖化の予測をしたり、

過去の気候変化の再現を試みたりする際には、

初期条件に対して、支配方程式群を適用し、時 間で積分する、という操作を繰り返し行うこと になる。

 IPCCでは、気候変動に影響を及ぼす諸 要因に対して、「気候に内在する要因」と「放 射強制力(人為的+自然的)」という二つの概 念区分を行って、シミュレーションに適用して いる(10)。これらの要因による影響を、既知の 支配方程式群に還元して読み替え、物理的過程 が不明な事柄や、格子点間隔サイズよりもスケ ールが小さい現象については、「パラメーター (11)」という操作を行って、モデルに導入し ている。

 「パラメーター化」とは、たとえば、ある気 温や湿度の数値のときに、どのような雲がどの 程度できているかを、経験を元に、数値化する 操作である。つまり、科学的に確立されている 方程式を経ずに、プログラムを組む研究者が妥 当と判断して作成した関数−ブラックボックス

−を通過する過程のことである。当然、この関 数の科学的妥当性は高いとはいえない。

 したがって、コンピューター・シミュレーシ ョンとは、骨格を取り出せば、離散化された格 子点における初期条件に、既知の支配方程式群 と、未知の物理的内容あるいは代用された関数 を適用して、将来予想や過去の気候の再現の数 値を得る操作、といえる。

(5)

4 − 1 . コンピューター・シミュレーション の問題点①−気候変動の要因−

 気候を長期的に変動させる要因は、おそらく 無数にあるであろう。それらを網羅的に取り上 げ、すべてを適切に数値化して気候モデルに組 み込むのは、原理的に不可能に近い。譲歩して、

大きく気候を左右する要因ならば有限個に限定 できるとしても、その主要因どうしの間に、気 温への貢献の重み付けを適切に行うのは困難で あろう。

 そして、IPCCも認めているように、放射 強制力の要因の中には、科学的確実性が低いも のもいくつかある。その代表が、水蒸気や雲の 影響力や、それらのフィードバックの推定であ (12)

 水蒸気や雲は、地球からの放熱を妨げる温室 効果に貢献する一方、雲の種類によっては太陽 からの放射を相当反射させ、気温低下に貢献す る。雲が高層雲か低層雲かの違い、雲の厚さの 違いなどにより、それらの貢献度は大きく変化 する。そして、どのような雲がいつどこにどの 程度できるかという推測は、現在の自然科学で は確実性が低いといわざるを得ない。

 また、地球の平均気温が上昇して大気中の水 蒸気量が増えた場合、温室効果による正のフィ ードバックが優勢になるのか、雲や雨や雪が増 えて気温が下がったり、雪氷面積の拡大に伴っ て太陽光の反射率が上がったりする、負のフィ ードバックが優勢になるのか、定量的に推定す るのは困難である。おそらく、地域ごと、季節 ごとに、優勢となるメカニズムやその度合いは 異なるであろう。

 それゆえ、気候モデルにこれらの要因の影響 力を数量的に導入する際には、「パラメーター 化」を行うことになる。科学的確実性の低い要 因も数値化されうるが、不確実であることに変 わりはない。むしろ、そこにはプログラムを組 む研究者の恣意性が入り込む余地があり、「パ

ラメーター化」の部分を調整弁として利用し て、研究者は最終結果を微修正できるため、シ ミュレーション全体の科学的妥当性・客観性を 損なっているともいえる。

 気候変動の要因として、決して軽視できない と思われる、水蒸気と雲の量の変動−研究者に よっては、地球上の低層雲の量の変動と平均気 温の変動とが相関していると見ている(13)−に 関して、物理的過程についての理解が十分でな く、モデルに取り込まれる際の確実性も低い。

このことは、気候モデルの信頼性が十分高いと はいえないことを物語っている。

 科学的確実性の低い要因は、それだけではな い。太陽放射の変動の影響力についても、科学 的理解度が低いことを、IPCCも認めてい (14)

 IPCCでは、太陽放射について、その変動 の物理的過程が不明なことを理由に、モデルに 十分には取り込んでいない。筆者には、この要 因を意図的に軽視しているように感じられた。

 20世紀の観測データを見る限り、太陽活動 の諸指標−黒点数の変化や周期長の変化や磁場 流束の変化−と、地球の平均気温の変動との 相関はかなりよい(15)。少なくとも、大気中の CO2の濃度変化と、地球の平均気温の変動との 相関よりも明らかによいのである。そして、太 陽活動の諸指標のグラフは、1940年ころの平 均気温上昇のピークとそれ以降の約30年間の 寒冷化にも対応している。

 1940年ころの平均気温のピークについては、

大気中のCO2の濃度変化のグラフはもちろん対 応していないし、コンピューター・シミュレー ションによる再現グラフも十分対応していると はいえない(16)

 それにもかかわらず、IPCCでは太陽活動 の変動をモデルに取り込む際に、放射強制力の 程度を相当低く見積もっている。つまり、太陽 活動の変動の影響力を過小評価している。

(6)

 それゆえ、気候変動の自然的要因のうちで最 大の要因かもしれない太陽放射の変動に対する 軽視には、筆者は、意図的なものを感じざるを 得ない。この要因を正当に評価したならば、お そらく「CO2主原因説」が崩壊してしまうから であろう。

 このように、気候変動の要因をめぐって、科 学的確実性の低い水蒸気量や雲の量の変動に対 する「パラメーター化」と、太陽放射の変動の 軽視の 2 点を考慮すると、コンピューター・シ ミュレーションによる気候モデルでは、気候変 動の主な自然的要因が適切にモデル化されてい るかどうか疑わざるを得ない。そもそも、現在 の自然科学の水準では、科学的確実性を有する 気候モデルは望み得ないように思われる。

 したがって、IPCCがコンピューター・シ ミュレーションの結果を重視し、「CO2主原因 説」の最大の論拠としていることに対しては、

懐疑的にならざるを得ない。

4 − 2 . コンピューター・シミュレーション の問題点②−反証可能性−

 コンピューター・シミュレーションで人為的 強制力を考慮する際の気候モデルにおいて、必 ず用いられる概念として、「気候感度(17)」があ る。「気候感度」とは、大気中のCO2濃度が 2 倍に増加した場合、世界の年平均気温がどの程 度上昇するか、という感度のことである。これ については、経験的実測データは当然存在しな いため、理論的推測のレベルの内容となってい る。気候感度がどの程度かは、各種の気候モデ ルで推測されている。

 ここで注意すべきことは、この概念において は、{CO2濃度増加が平均気温上昇をもたらす}

という仮説〈仮説Dとする〉が前提となってお り、この仮説自体は気候モデルによる評価の対 象にはなっていない、あるいはなり得ない、と いうことである。この仮説は、真鍋らが初期の

気候モデルを開発した1960年代頃から、当然 の大前提となっており(18)、いわば幾何学にお ける 公理 のごとき位置づけとなっている。

 もし、過去の観測データとある気候モデルに よる再現とが一致しなかったとしても、〈仮説 D〉を疑うことなく、気候を左右する他の不確 実な要因の影響力をパラメーター調整して、結 果のわかっている観測データに近づけること は可能であろう。また、未来の気温変化をある 気候モデルが予測し、その後の観測データが予 測値と一致しなかった場合でも、予測時点では 未知であった他の要因を新たに考慮に入れて、

〈仮説D〉を守って説明することは可能であろ う。天気予報が外れた場合に言い繕われるパタ ーンと同様である。

 したがって、〈仮説D〉は、コンピューター

・シミュレーションによる気候モデルの枠内に おいては、科学哲学者ポパーの言う「反証可 能性」が排除された構造になっている。言い換 えれば、コンピューター・シミュレーションと 観測データとの比較という準拠枠の内部では、

〈仮説D〉は否定されないと同時に、その妥当 性を確認することもできないのである。

 「反証可能性」とは、科学理論と、疑似科学 や非科学の理論との境界線を引く判断基準とな りうるものとして、ポパーが提起した概念であ (19)

 科学理論とほかの理論との決定的相違は、実 験・観測データなどによる「検証可能性」では なく、実験などの経験的方法によって反証され る余地が残されていること、即ち「反証可能性」

を有することである、とポパーは主張した。

 たとえば、ポパーは次のような例を挙げてい る。一般相対性理論は、太陽の近くを通る光の 屈曲を定量的に予言した。もし観測値がそれに 合致しないならば、その理論は反証され、否定 される。それに対し、マルクス主義の社会理論

(7)

や精神分析におけるフロイトやアドラーの学説 は、実際に起こった事柄に対してさまざまに言 い繕うことが可能であり、反証することが原理 的に不可能である。したがってこれらは科学理 論とはいえない。

 帰納法の限界などの理由から、「検証」によ っては科学理論が「真」であることを断言でき ない。だが、「反証」によって「偽」であるこ とを示すことはできる。この点で、否定と証明 とは、論理的に非対称である。新しい理論は、

実験・観測データによりテストされる。その理 論がテストにより支持されれば、その理論は暫 定的に受け容れられる。テストにより否定され れば、その理論は棄却され、改善された理論が 提案される。このようにして、科学は進んでい く、というのが、ポパーの反証主義的科学観で ある。

 この概念に対してはさまざまな批判もあ (20)が、筆者は、ポパーの「反証可能性」は、

その時点での科学理論の合理性の評価基準とな りうる、と考えている。

 さて、コンピューター・シミュレーションに よる気候モデルの枠内に限定するならば、〈仮 説D〉は、前述のとおり、原理的に反証不可能 である。

 この構造は、ポパーが指摘した、マルクス主 義やフロイト理論の根幹となる前提の理論構造 と同様である。したがって、コンピューター・

シミュレーションの枠組から引き出された〈仮 説D〉に関連する言明は、科学的判断の対象外 となるため、科学的な意味が不明と言わざるを 得ない。

 つまり、{CO2濃度増加が平均気温上昇をも たらす}という仮説を前提にして引き出された

「CO2主原因説」を支持する結論には、科学的 な意味を見出せない。

 IPCCレポートの論理構成を再確認してお

こう。

 〈仮説D〉を前提としたコンピューター・シ ミュレーションに基づき、{20世紀の温暖化を、

CO2増加を中心とした人為的強制力に自然的要 因を加味した気候モデルでほぼ再現できる}と いう根拠〈根拠C〉が得られ、その根拠に基づ いて「温室効果ガスの強制力が、観測された過 去50年間の地球温暖化の主原因であった可能 性が非常に高い」という結論〈結論E〉が導か れている。IPCCのレポートはこのような論 理構成、つまり、仮説D(前提)→根拠C→結 論E、となっているのである。

 ところが、〈仮説D〉はコンピューター・シ ミュレーションの枠内においては「反証可能 性」を持たないため、科学的妥当性が不明であ る。

 したがって、〈結論E〉の信頼性には疑問を 呈せざるを得ない。

4 − 3 . コンピューター・シミュレーション の問題点③−気象予報との比較−

 気象予報においても、地球の将来の気候変動 予測と同様に、コンピューター・シミュレーシ ョンによる気象モデルが用いられている。そし て、気象予報の場合、時間スケールがはるかに 短いため、気候変動に用いられるモデルよりも 細かく区画化された、より緻密なモデルとなっ ている。

 ところが、気象予報の精度といえば、2 日後 程度までなら比較的良好ではあるが、週間予報 の後半ともなると、明らかに的中率が落ちる。

1 週間以上先の気象については、晴・曇・雨と いった、具体的な予測は実際上かなり困難なよ うである。つまり、週単位、月単位程度の時間 スケールですでに、気象モデルを用いたコンピ ューター予測の限界が現れているのである。

 気候変動の将来予想や、過去の気候の再現の 場合、時間スケールは十年単位、数十年単位で

(8)

あり、気象予報の場合よりはるかに長期であ る。さらに、気候モデルはより粗い区画化とな っている。それゆえ、気象予報の信頼性が十分 でないのに、10年以上先の地球の気候の予想 などできるのだろうか、という批判が、当然の ことながら出てくることになる。

 このような批判に対して、IPCCは次のよ うな趣旨の反論をしている。

 気象予報は、具体的・個別的な予報であるが、

気候変動の予測は、長い期間における平均的気 候に対する予測のため、信頼できる、と主張し ている(21)

 そして、気候モデルが信頼できる根拠とし て、広く受容されている物理法則に基づいてい ることと、現在や過去の気候変化の観測結果を モデルが再現できること、を挙げている(22) だが、これらはすでに議論してきたように、根 拠になっていない。気候現象がすべて、既存の 物理法則で理解されているわけではなく、科学 的理解が不十分な現象がかなりあるし、観測結 果に合致するようにモデルを調整することが可 能であるからである。さらに、観測結果を説明 する仮説は原理的に複数考えられ、決定性に欠 ける−観測結果と合致したからといってその仮 説が正しいとは限らない−点も考慮に入れねば ならない。

 IPCCは、平均的気候の予測ならば信頼で きるというが、相対的には短期的な平均的気候 予測である、気象庁の 3 ヵ月予報の的中率が芳 しくないことを考慮すれば、より長期の平均的 気候予測を信頼できるとは言えそうにない。

 そもそも、気象予報が外れることがある、と いうことは、気象モデルが完全ではなく、至る 所に不備がある証拠であろう。

 現時点での気象を左右する要因をすべて初期 条件として網羅でき、変動のメカニズムがすべ て解明されたと仮定すれば、未来の気象が確実 に予測できる、という決定論が成り立つかどう

か、自信を持って答えられる研究者はおそらく いないであろう。

 気象・気候現象において、決定論が成立する か否かは、不明である。どれほど観測や知識や 理論が進歩しても、将来予想の精度が100パー セントとなる保証はない。

 その上、現状では、気象に影響を及ぼす要因 を網羅的に把握し切れているわけではなく、主 な要因間の影響度の重み付けも、適切にできて いるとは言えないであろう。

 気象予報の的中率は、気象・気候モデルの 信頼性を査定する重要な指針と見てよいのであ る。

 したがって、IPCCによる反論には根拠が なく、気候変動の長期予測を信頼できるとは言 えない。むしろ、気象予報の精度に基づいた、

長期予測の信頼性が低いと見る批判の方が、妥 当である。

5 .結 論

  4 − 1 、4 − 2 、4 − 3 節で示したように、

IPCCが採用しているコンピューター・シミ ュレーションによる気候モデルは、十分信頼で きるとはいえない。

 気候変動の要因に関しては、自然的要因の中 でも重要と考えられる、水蒸気や雲の量の変動 や太陽放射の変動について、科学的理解度が低 いことに加えて、「パラメーター化」という操 作により、データの科学的妥当性・客観性が損 なわれている。また、太陽放射の変動の影響力 については、不当に軽視されている可能性があ る。

 また、コンピューター・シミュレーションに よる気候モデルの枠内では、{CO2濃度増加が 平均気温上昇をもたらす}という仮説について

「反証可能性」が排除されているため、この仮 説の科学的妥当性は不明であり、この仮説を前

(9)

提として得られる結論についても、信頼性に疑 問を呈せざるを得ない。つまり、コンピュータ ー・シミュレーションは、「CO2主原因説」の 科学的根拠としては認められない。

 さらに、気象予報の精度を考慮すれば、長期 的な気候変動の予測に用いられる気候モデは信 頼の置けるものではない、と判断できる。

 したがって、コンピューター・シミュレーシ ョンによる予測とは、ある一連の仮定のもとで の将来予想のひとつであって、信頼度の高いも のではない。また、コンピューター・シミュレ ーションによる過去の気候の再現についても、

ある一連の仮定のもとで観測データに近づくよ うに数値を調整したもので、観測データを説明 する複数の仮説のうちのひとつを提示したに過 ぎない。

 確かに、この仮説のもとではこのような気候 の将来像が得られる、という予想は、あくまで ひとつの「仮説」であることを念頭に置いた上 でならば、参考になる資料となるであろう。

 だが、コンピューター・シミュレーションに よって得られた結果を、「CO2主原因説」とい う科学的仮説の正当性を裏付ける根拠として利 用するのは不当である。コンピューター・シミ ュレーションによる結果を科学的根拠とはみな し得ないからである。

 すでに 2 節で述べたように、「CO2主原因説」

には主な根拠が 3 つあった。その根拠のうちの 2 つまでが科学的根拠としては十分とはいえ ず、「CO2主原因説」の最後の砦が、コンピュ ーター・シミュレーションによる〈根拠C〉で あった。

 この小論では、その〈根拠C〉が、科学的根 拠として通用する代物ではないことを示した。

 それゆえ、「CO2主原因説」には十分な科学 的根拠があるとはいえず、通説として世間では 流通しているものの、科学的には定説として認

定できる学説とはいえない。

 「CO2主原因説」は、あくまで「仮説」にす ぎず、なおかつ、当初考えられていた根拠がほ ぼ否定されてしまった学説なのである。地球温 暖化の要因に関しては、科学的には論争中であ るが、この論争において、「CO2主原因説」が 勝利するとは、筆者にはまったく考えられな い。

( 1 ) 森幸也「科学史の視点から見た地球温暖化要 因論争の構図−過去の科学論争との類似性」

『山梨学院生涯学習センター紀要 大学改革 と生涯学習 第12号』(2008年)、21−35。

( 2 ) IPCC Fourth Assessment Report, Working  Group I Report Climate Change 2007-The  Physical Science Basis (http://www.ipcc.

ch/ipccreports/ar4-wg1.htm)

( 3 ) 明日香壽川他「地球温暖化問題懐疑論へのコ メント Ver. 2.4」(2008, http://www.cir.

tohoku.ac.jp/˜asuka/)p.5。

( 4 ) 近藤邦明『温暖化は憂うべきことだろうか−

CO2地球温暖化脅威説の虚構−』(不知火書 房、2006年)、pp.60−65。

( 5 ) H. Fischer, et al., Ice Core Records of  Atomospheric CO2 Around the Last Three  Glacial Terminations, Science 283(1999):

1712−1714.

( 6 ) この相関関係をめぐる議論については、筆者 の知る限りでは、論争が 3 段階進行した。筆 者は、理論的内容に関して、CO2温暖化説の 重要な論拠のひとつが否定されたと判断して いる。そこで、この論争の 3 つのステップを 紹介しておく。

     前提:20世紀において、CO2濃度の増加と、

地球の平均気温の上昇には、相関関係が認め られる。

     ステップ 1:キーリングが提示した、CO2 度と地球の平均気温の短期的変動(数年周 期の不規則変動)のグラフ(C. D. Keeling, 

(10)

et al., Aspects of Climate Variability in  the Pacific and Western Americas  Geophys. 

Monogr. 55(1989):165−236)−気温の変 動がCO2濃度の変動に先行する対応関係のグ ラフ−に対して、根本氏や槌田氏は、原因は 気温変動の側にあり、CO2の濃度変化はその 結果である、と解釈した(根本順吉『超異常 気象』(中央公論社、1994)p.213、215、槌 田敦「CO2温暖化脅威説は世紀の暴論」環境 経済・政策学会編『地球温暖化への挑戦』(東 洋経済新報社、1999)、pp.230−244、251−

255)。理論的考察としては、地球の気温も海 水温も上がると、海水中のCO2溶解度が低下 し、大気中に放出され、大気中のCO2濃度が 結果的に上昇する、という因果連鎖が提起さ れた。

     ステップ 2:その解釈に対し、河宮氏や阿部 氏らが反論を提起(河宮未知生「気温の変化 が二酸化炭素の変化に先行するのはなぜ?」

『気象学会誌 天気』52(2005)、No.6:507

−508、阿部修治「CO2増加は自然現象だろ うか」『日本物理学会誌』62(2007)No.7:

563)。批判論点の中心は、キーリングのグラ フではCO2濃度の長期的変動傾向が除かれて いること、気温変化が原因とするならば、実 際のCO2濃度増がはるかに大きいこと、気温 変化がない年でもCO2濃度が上昇しているこ と、であった。ただし、この反論が仮に有効 だとしても、CO2が原因で気温の上昇が結果 という通説の結論が導かれるわけではない。

     ステップ 3:ステップ 2 の反論への再反論 が、槌田氏と近藤氏によってなされている。

     槌田氏は、気温変化がない年でもCO2濃度が 上昇している点について、その時期の気温の 平均が、陸海とCO2の出入りのない基準温度 に対して0.3度程度高温状態にあるため、と 推論している(槌田敦 2007「CO2温暖化説 は正しいのか?」ウェブサイト 「環境問題」

を考える http://env01.cool.ne.jp/)。槌田氏 は、因果関係を、気温の〈変化〉→CO2濃度

〈変化〉ではなく、〈気温〉→CO2濃度〈変化〉

と捉えることにより、理論上、ステップ 2 の 批判点をクリアしている。気温が変化しなく ても、高温状態が続けば、CO2濃度が上昇し ていく、という仮説である。この仮説にデー タ的裏づけを与えたのが近藤氏である。

     近藤氏は、1968年以降のデータを、CO2濃度 の長期的変動傾向を除かずに観測データを処 理し、キーリングのグラフと同様な対応関 係のグラフを提示した。さらに、世界平均気 温〈偏差〉と大気中のCO2濃度〈変化率〉が、

位相のずれなく直接同期するグラフを示し た。気温が高くなると、CO2濃度が速く増加 し、気温が低くなると、CO2濃度の増加速度 が遅くなる。近藤氏はこの同期現象を、大気 中へCO2を放出するという過程の反応速度が 環境温度[正確には基準温度からの偏差]に 比例することを示す、と解釈している(近藤 邦明 2008「新版 Keelingのグラフ解釈に 対する考察」ウェブサイト 「環境問題」を 考える http://env01.cool.ne.jp/)。筆者も、

この解釈は無理がなく、妥当であると判断す る。

     大気中のCO2濃度は変化率を積分した値のた め、位相に遅れが生じ、結果として気温偏差 の変動に1年程度遅れてCO2濃度が変動する。

したがって、通説とは逆に、気温が原因とな って大気中のCO2濃度が変動する、と結論づ けられる。一般に流布しているCO2温暖化説 の重要な論拠のひとつが、このステップ 3 で 崩された、と筆者は理解している。

     ステップ 3 の考察に対して、更なる反論は当 然予想されるが、当該期間のデータに関する 限り、CO2濃度変化は原因ではなく結果であ る、という本質的部分については、もはや疑 いの余地はないであろう。

( 7 ) IPCC, op. cit., p.704.同様な内容の主張は、

繰り返し随所に見られる。たとえば、「20世 紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇 のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増 大によってもたらされた可能性が非常に高い

(Ibid., p.10)」など。

(11)

( 8 )Ibid., ch.3, ch.9.

( 9 )Ibid., p.684.

(10)Ibid., ch.2.

(11)Ibid., p.602.

(12)Ibid., pp.633-638.

(13) H. Svensmark & E. Friis-Christensen, Variation of Cosmic Ray Flux and Global  Cloud Coverage-A Missing Link in Solar- Climate Relationships, J. Atmos. Sol. Terr. 

Phys. 59(1997):1225−1232.

     伊藤公紀『地球温暖化−埋まってきたジグソ ーパズル−』(日本評論社、2003年)、第 3 章。

     丸 山 茂 徳『科 学 者 の 9 割 は「地 球 温 暖 化」

CO2犯人説はウソだと知っている』(宝島社、

2008年)、pp.27−37。

(14)IPCC, op. cit., p.193.

(15)伊藤公紀、前掲書、p.95、p.108、p.124、参照。

(16)IPCC, op. cit., p.703.

(17)Ibid., p.943.

(18) S. R. ワート、増田耕一・熊井ひろ美訳『温 暖 化 の〈発 見〉と は 何 か』(み す ず 書 房、

2005年)、p.143。

(19) K .ポパー、大内義一・森博訳『科学的発見 の論理』(恒星社厚生閣、1972年)。

(20) ラカトシュの歴史的合理性の観点からの批判 や、クーンやエディンバラ学派の相対主義の 立場からの批判が代表的。ポパー派とクー ン派との論争の記録に、I .ラカトシュ・A . マスグレーブ編、森博監訳『批判と知識の成 長』(木鐸社、1985年)、がある。

     ポパーへの批判点は、次の 2 点に集約される。

     まず、この反証主義の見方は、実際の科学者 の行動様式・思考様式と合致しない、という 点。反証例が示されても、たいていの科学者 は、そうやすやすとは自分の仮説を放棄した りしないものである。次に、歴史上の経験則 とも合致しない点。反証例自体が誤りである と後に判明した事例が、科学史上には相当あ る。また、補助的な仮説の追加により、観察 や実験と合うようにしてその理論を守る事例 も、歴史上こと欠かない。言い抜けができな

いように、観察や実験によって決定的に理論 を反証するのは、実際には困難である。さら に、時が経過した後、反証され、否定された かに見えた理論が復活した例もある。

     だが、これらの批判を認めても、ポパーの〈反 証可能性〉は、条件付きで、適用範囲を限定 すれば、依然として有効な概念である、と筆 者は考えている。科学者ではなく、科学「理 論」を適用対象と限定し、かつ、歴史的時間 経過を待たずに即時的な理論評価の基準とし て適用する。このように条件付ければ、〈反 証可能性〉はその時点での科学理論の合理性 の評価基準となりうる。

     反証事例が出現した理論も、すぐさま否定さ れるわけではなく、時の経過とともに理論的 価値が持ち直すかもしれない。しかし、少な くとも反証例が出た時点では、その科学理論 の評価は下がる、とみなしてよいのではない か。将来の評価がどうなるかはわからないが、

現時点での科学理論の評価を暫定的に、反証 主義の観点から下すのは不適切でない、と筆 者は考える。すなわち、理論(または理論群)

が〈反証可能性〉を有し、なおかつ反証事例 が見つかっていない(または少ない)理論ほ ど、科学理論として評価が高い。それに対し、

〈反証可能性〉の程度が低そうな理論−多義 的で複数の解釈の余地を残したり、論理的内 容の乏しい理論−や、反証事例が多数存在す る理論は、評価が低く、少なくともその時点 で合理的理論または定説とみなすわけにはい かない。

(21)IPCC, op. cit., p.104.

(22)Ibid., p.600.

参照

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