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青い鳥成人寮での造形活動2

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Academic year: 2021

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青い鳥成人寮での造形活動2

―感じること、考えること、学ぶことについて―

伊 藤 美 輝

青い鳥成人寮に通うようになって2年目の秋(平成四年)国際障害者年の最後の 年を記念して NHK が主催した作品展の公募がありました。私自身は、基本的に幼児 や学童の絵画コンクールにたいして慎重な態度をとっています。それは、造形作品で あれば当然かもしれませんが、描かれた作品、結果としての作品だけで子どもの作品 を評価することに疑問を持っているからです。子どもの思いをいかに汲み取り評価す るのか…。この考えに対して、造形作品は結果が全てだからとそこまで考える必要は 無いという考えもあります。しかし、大人或いは作家の作品であれば当然そのように 考えますが、子どもたちに何よりも実感として持っていてほしいことは「描く・創る 過程の楽しさ」です。したがって、その結果としての作品を評価するコンクールは、

子どもの造形活動とは別のものとなりやすいのです。

コンクールの話を伺った当初は、出品は考えませんでした。しかし「この作品がど のように受けとめられるか」言い換えれば「この作品を理解できる審査員がいるか」

という思いがその後生まれました。

そしてコンクールでは「彼らの作品は多くの人に語りかけた」といえる結果がでま した。

ただし、先に述べたコンクールへ参加することによる危惧は、前回の内容で触れま した社会実習としてガソリンスタンドに行っている Y さんに現れました。Y さん が、実習の体験の「暑さと忙しさで目が回ってしまうよ」と話してくれた後に描いた 作品。ガソリンスタンドの洗車機らしき機械を背に立つ本人と、その周りに描かれた ダリ風の時計。それはまさしく、彼女が話してくれた実習そのものが描かれていた作 品です。その作品が、評価されたことは Y さんや家族、成人寮のスタッフにとって、

また他の寮生にとっても大きな歓びであったわけですが、コンクール後の Y さんは 評価されたことを意識して描けなくなってしまったのです。これは、彼女の能力の高 さにもよるともいえます。他の入賞入選した人を考えてみると、その結果が大きな歓

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びになり、より意欲的に描くという様子がありました。

但し、Y さんと一緒にガソリンスタンドに実習に行っている T さんもなかなか描 くことが出来ない一人でした。今回のコンクールでは選ばれる事の無かった T さん ですが、成人寮に入寮する前の経験として、養護学校でのコンクール入賞暦を持って いました。「私は、こんなコンクールで選ばれて、私の作品のこんな所が良いと言わ れている。だから、あの時のように描けば、選ばれるのだけど…」という言葉がしば しば聞かれました。

Y さんについて考えてみると、描けなくなったと言うことは正確ではないかもしれ ません。次に描くテーマがなかなか見つからない状況だったといえます。その後

「花」「人物」等を描いているのですが、本人にとっては満足できるものではなかっ たようで、描きながら「私の絵はコンクールで賞をもらったよね」を口にしていまし た。新しい画材や技法を提供することで、新たな刺激をつくりましたが、徐々に描く 興味を失ってしまったようでした。後に事情により退寮し、家で両親の仕事を手伝う Y さんですが、2年程前に会う機会がありました。家での仕事の話、お父さんの話を 聞きましたが、絵を描くことは無いようでした。

青い鳥での造形教室には、常時30名から35名の参加者がそれぞれのペースで描いて いましたので、その様な雰囲気が描くことを可能にしていたともいえます。

T さんは、その後も以前の経験からなかなか思い通りの絵が描けずにいたのです が、数年後、独自の表現方法を見つけたようです。現在、T さんのお気に入りの画材 は、水性マーカーと水彩絵の具で、知的な面の高さにおいての満足を感じつつ表現を 楽しんでいます。

その技法は水性マーカーで描いてから、水で薄めた絵の具を筆にたっぷり染み込ま せて画用紙全面に塗ります。先に描いた水性マーカーが絵の具の水分で滲み、独特な 線と色が生まれます。絵の具が乾いた後に、再び水性マーカーで線描をして細部を描 き込みます。ウォッシング技法を体験して T さんが応用した技法です。

「コンクールの弊害」などと随分大げさな表現と思われるかもしれませんが、描か れた作品への期待は時として、期待に応えなければと大きなプレッシャーとなり、描 く楽しみを奪う存在になります。しかしながら、同時に描く喜びになり自信になるこ とを考えると、先ず必要なことは、コンクールをどのように位置付けるかということ になります。

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コンクールの事例として、二人の入賞経験者に触れましたが、入賞入選しなかった 場合はどうでしょうか。冒頭において、子どもたちに「描く・創る過程の楽しさ」を 実感として持ってほしいと書きました。表現活動を楽しんだ結果としての「作品」

を、評価するのがコンクールであるわけです。その評価は決して「上手・下手」とい う単純な評価ではないのですが、結果が出た後の捕らえ方はその単純なものになりが ちです。

ではここで必要なものは何かということですが、描く人、表現する人(子ども・障 害者等)の身近にいる人(保育士・指導員・親等)が、表現される過程の理解者であ ることです。その表現の源から、結果としての作品までの過程を見つめ受けとめる存 在であってほしいと考えています。

さて、青い鳥での造形活動に話を戻します。既に書いたように、造形教室を始めた 当初は、作品を公開することはまったく考えていませんでしたが、コンクールに出品 した後には、多くの人に彼らの作品を見ていただきたい、これらの作品がどのように 理解されるのか、これらの作品がどのような感想を生み出すかを知りたいと強く思う ようになったのです。作品が生まれる過程を見つめている立場にいると、描かれた作 品の奥にあるものを見てきたような感覚になります。はたして、そうではない人が見 た場合、これらの作品は何を語りかけるのだろうかと知りたくなりました。

コンクールが行なわれた翌平成五年の三月に、青い鳥成人寮「第一回描くパラダイ ス展」を、甲府駅ビルエクランのギャラリーを会場にして開催しました。

この作品展開催が、新たな表現を生み出すきっかけとなりました。作品展直後の造 形教室において、今まで遠巻きに見ていて描くことの無かった寮生さんが机に向かっ ていました。T 子さんはパラダイス展の会場で母親から、作品が展示されていないこ とから「絵を描きなさい」と叱られたということでした。しきりに「今まで描かなく てごめんなさい」と私に向かって謝ってきます。彼女が謝る必要は無いわけで、私も 困ってしまい彼女の前に画用紙とクレヨンを置き、彼女が差し出す手を握って「さ あ、楽しく書こうか」という言葉しかかけられませんでした。

しかしながら、描くきっかけはともかく、それ以来彼女はクレヨンと絵の具と格闘 しています。

親の一言が大きな影響を与えることは、他にもありました。Y 子さんはいつも「花 嫁さん」を描いています。テーマは「花嫁」ですがウェディングドレスであったり和

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装であったりと、その表現は色彩豊かで単調なものではありません。ところが、ある 日の造形教室で画用紙を見つめるままで描こうとしない Y 子さんの姿がありまし た。「どうしたの」と浮かない様子の Y 子さんに声をかけると「お母さんに、花嫁さ んばかり描いていないで違うものを描きなさいて言われたの」と教えてくれました。

私は「そう、僕は、Y 子さんの花嫁さんは素敵だと思うよ。でもお母さんは、別の絵 も見たいのだね」「Y 子さんが一番描きたいものを描いたら」といってその場を離れ ました。結局その日に描かれたものは、親子旅行でお母さんと一緒に温泉に入った場 面の絵でした。次回の絵はいつものテーマに戻っていましたが、以後時々別のものを 描くようになりました。「あんまり花嫁さんばかりじゃ飽きるよ」といいながら少し ずつ表現の範囲が広がっています。

絶えず横にいて描く指示をすることは、望ましい事ではありません。描く環境は、

そのきっかけと集中できる雰囲気、適度な刺激が必要ですが、支配的な存在は、描く 上で大きな障害となります。結果への影響以上に、その描く過程の重要な要素が潰さ れることにもなります。但し、T 子さん Y 子さんともに、きっかけにはマイナスの 因子があったものの、その過程においては表現の広がりとなりプラスの要因に変わっ た事例だと考えられます。

ここで現在使用している画材に触れます。版画技法の後に色彩を取り入れる目的 で、クレヨン・クレパスと水彩絵の具(以下絵の具)を使用しています。この画材を 基本にしてマジックインク、色紙等を自由に使用できる環境を設定しています。クレ ヨン・クレパスは手にしたらすぐ描ける利便性、また、手に伝わる抵抗感等の感触を 楽しむことが出来る事から、また、絵の具は道具を使用する要素と広い面を彩色でき ることから、画材としてのもっとも基本的なものを使用しています。絵の具を使用し 始めた当初は、白・黒を含んだ12色を使用していましたが、6年程前から白と三原色 だけをパレットの上に並べ、それらを混色することにより色を創りだしています。

ただし、基本的には混色の方法は教えていません。彼らはパレットの上に生まれて くる色を思うままに着色するのですが、描かれた作品を見ると見事に色彩学の理論と 一致することに気付きます。また、三原色を全て混ぜ合わせると無彩色になり、発色 も落ちてくるのですが、彼らの作品からは濁るという印象より鮮やかな印象が強く感 じられます。

描く上で意識して行なったことがあります。絵は何処まで描けるのか、または、何

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処まで描いたら終わるのかという事を、意識的に何週にもわたっておこないました。

描き始めはクレヨン・クレパスの棒状の画材により線画で表現をし、次に絵の具で 面を着色します。「バチック」(はじき絵)の技法ですが、絵の具を着色した上から、

再びクレヨン・クレパス、マジックインク、色紙を重ね、再び別の画材で描いていき ます。

画用紙の上では、その都度いろいろな色が線となり面を塗りつぶしていきます。同 時にその画面は、描く人に向かっていろいろな刺激を与える窓の役割を担っていま す。その刺激が、次の表現として描かれることになります。

このような作品を描いていく行為(過程)を見ていると、あたかも自分に問い掛け ているようだと思うのです。画材を使って自らと会話することが、描く(創る)こと であり、それは、自己を発見する行為であるといえます。

現在では、過去に提供した技法・画材をそれぞれが自由に必要に応じて使用してい ます。

技法としては「バチック」「コラージュ」「ウォッシング」等ですが、それぞれが自 分の表現を楽しんでいる中で、互いに影響を与えながら作風が変わってくるケースも 見られます。当初は真似ることから始まり、描くことを繰り返すことにより自分の作 風に消化していく様子などを見ることが出来ます。

さて、最近では造形教室開始のスイッチと絵の具をパレットに出す仕事が主な役割 となってしまった私ではありますが、新たな試みを始めましたのでその報告を次回に 行ないたいと思います。

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参照

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