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青い鳥成人寮での造形活動3

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Academic year: 2021

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青い鳥成人寮での造形活動3

―感じること、考えること、学ぶことについて―

伊 藤 美 輝

平成3年2月から山梨県甲府市にあります青い鳥成人寮というところで造形活動を 始め、現在に至るまでを1.2(第6号・第7号)において報告してきましたが、今 回は活動を援助していく「視点」の考え方と、青い鳥成人療での活動の展開、発展と いうことで報告します。

造形活動を始める前年の平成2年より身体表現活動を保育科の同僚が実施しており ます。

要請があったのが平成2年で、私とその同僚にありました。すでに述べましたが、

施設側から「造形活動をどのように指導してよいか分からない」「表現されていく過 程をどのようにとらえて良いのか分からない」「作品をどのようにとらえて良いのか 分からない」という具体的な課題がだされていました。それに対して養成校の教員の 思いとしては「表現される現場に関わりたい」造形作品がどんなふうに生まれてくる のか、「どのように表現されるのか」というところを見てみたいという欲求がありま した。それから「表現を積み重ねていくことによって、その表現はどのように変化し ていくのか」また、当時保育指針が改定されまして、領域表現の中に「感性」という 言葉が出てきました。あたりまえのように感性という、言葉を使っていますが、改め て考えてみると明確に説明できない自分自身がいました。言葉としては「感じ考え る」といっても、それが表現活動の過程でどのような位置にあるのか、その感性の部 分に関わりたいという思いでした。

「表現活動の意味」について考えますと、非常にとらえにくい状況があるといえま す。授業の中で学生から強く感じることなのですが、「上手とか下手」という意識が 強く存在しています。

保育科の学生は、卒業後に保育所・幼稚園で造形活動の指導援助をする立場になり ます。

図画工作や造形表現といった教科でその為の学習をしますが、そのとき「私は下手

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だから」というように、特に「下手」という意識が強く表れ、表現することに抵抗感 を持つ学生が少なくありません。それに対して、本質的な造形活動の意味から指導援 助の考え方を実際の表現活動によって伝えます。何故このような事をするのかといい ますと、自分が受けてきた教育をもとにして、学ぶ立場から教える立場に変わると、

「上手下手」「わかる、わからない」という視点で指導してしまう傾向があるからで す。それで立場が変わるときに、視点を切り替える必要を感じているからなのです。

これは、施設における指導員の造形指導の戸惑いに通じることでもあります。訪問 を始めた当初は、利用者が絵を描かないと「さあ描きなさい、早く描きなさい」と横 で言いつづける指導員がいるわけです。それから描いている横で「何描いているのか わからない」「何を描いているのだ」と職員がわかるもの、理解できるものを認め て、わからないと否定してしまうような言葉が聞かれました。これは、幼稚園や保育 園でも聞かれることではないかなと思います。わかるものが描かれると見る側が安心 する、安心するために絵を描かせてしまっている事があるのではないかと感じていま す。

次に指導援助方法と表現活動の過程及び評価という話に入りたいのですが、それを 考える視点として「画材」と「人との関わり方」ということで進めていきたいと思い ます。先にどのように指導をしようかと思案して手掛かりがなかったと述べました が、打合せに訪問した時に「今まで、ほとんど画材を使ったことがない」ということ を聴きました。そこで考えたことが幼児期の「もてあそび」です。ですから、幼児が もてあそびから表現が始まるように、青い鳥でも画材のもてあそびからはじめてみよ うと考えたわけです。

その結果、感じたことは、彼らが画材と関わる強い力を持っていることでした。活 動を始める前に、どのように教えようかと思案しましたが、結果として、その答えは 彼らの中にありました。

まず、画材を提供して、彼らが画材と関わる様子をジックリ見て、それを受け入れ ていくこと、すなわち「導入」と「受容」の観点を設定しました。それから、その観 点を職員・指導員の方々にも理解していただくために、研修会をおこない「描くこと を強制しないで、このような観点で見守ってほしい」と説明をしました。また、保護 者を対象に「彼らの表現の意味とすばらしさの理解者になってほしい」と研修会を実 施しました。そして描く彼らの内面には「自己の発見と表現の喜び」が生まれてくれ

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たらと思いつつ、造形活動が手探りで進められました。

造形活動の結果として作品が生まれます。そして、その作品を発表する機会を設定 しました(この経緯については報告1、2参照)「描くパラダイス展」という名称の 作品展を毎年3月行っています。作品を展示することによってまた、自分自身を肯定 し、そしてまた作品を描いていくという流れができました。ただこれは、作品のため に描くのではなくて、人との関わりや、自分の思い(言語表現が出来ない方もいま す)を絵を描くことで出していくという背景があります。作品展につきまして現在の 状況に触れますと、3月に「描くパラダイス展」を、8月に八ヶ岳ふれあいセンター での作品展の2回の作品展を実施しています。

描いて、発表してという流れで造形活動を積み重ねていく過程で、養成校側の私と 施設側の指導員と、不定期ですが情報交換をします。特に私は月2回しか訪問しませ んから、どうしても見えないものがあります。描かれたものを並べてみると作品が 徐々に変化してくるのですが、その変化の背景に何があったのかということを、その 中から推測してみるのです。また、造形表現活動をきっかけにした日常生活での変化 についても推測してみます。

ここで事例をあげたいと思います。手当たり次第にはさみで切る男性 H さんにつ いてお話しします。事務室や指導員室などに入り込み、書類、新聞などなんでも切る ために、彼にはさみを持たせてはいけないということがありました。そこで、この切 るという行為を考えると、造形活動においては物作りの基本的な行為ですから「切 る」という行為は肯定しましょう。そして、切ることはいいけれど「切っていいもの とだめなもの」というように切るルールを決めました。結果として H さんは、切る ことは認められ、切ってもいいよと言うものについてはルールどおり切ることを楽し み、現在はさかんにコラージュの作品をつくっています。それは、造形の時間だけで なく日常の生活の中でもおこなわれ、土曜日の訪問時にいろいろ作品を見せてくれま す。

様々な行為が解決すると言うことではなく、問題とされていた行為を違う視点でと らえること、すなわち、思いの表れとしての表現としてとらえることにより、まず行 為を肯定する。そのことによりルールが守れるようになった例です。

また、言語表現ができない A さん(女性)。思いが強いのですが、言葉によって自 分の思いが伝えられないことから、対人関係でトラブルが頻繁に起きました。造形活

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動においても自分だけ一人用の机で描いているのですが、非常に豊かな色彩感覚を持 ち、顔を画面に大きく描きます。描くパラダイス展の会場当番では、彼女は受付の横 に立っていて、来場者が来ると手を引いて自分の作品の前に連れて行きます。そして 自分と作品を交互に指差します。そして作品についての感想を聞くと微笑み満足しま す。それは、作品展の会場だけでなく、毎回の造形活動でも表れます。自分の作品、

すなわち自分の思い、存在を見てくれと言わんばかりに作品を重ねていると、自分の 作品を下から抜き出し一番上に載せます。三年程前から、一年間山梨県内を巡回させ る個展を実施していますが、23年は A さんの個展を開催しています。22年は自 分の個展でなかった事から、いろいろな所で不満が爆発していたようですが、今年は 人との関わりの中で「受容」の様子が見受けられるようになりました。新人の面倒を 見る、大きな机で皆と並んで描く、などの変化が現れています。

ここで、個展について説明します。造形活動が始まってから十年ほど経過した2 年から、彼らの作品を年代別に並べて展示する個展形式の発表を始めました。パラダ イス展では、前年の作品を一人一点選び展示するグループ展の形式を取っています が、個展の形式にすることにより、時間の流れの中で作品がどのように変わったのか を見つめる機会にしました。約一年かけて、山梨県内の複数の場所を巡回する方法を とりました。

以上が約十二年間の活動での展開の状況ですが、次にこの活動から発展した新たな 活動について触れたいと思います。

活動(造形活動・作品展)を重ねていく過程で、施設の企画とか参加する研究大会 のパネルディスカッションのパネラーとかの講演に引っ張り出されるなど、いろいろ な所で話をさせていただく機会が増えてきました。また、作品展を開催することで他 の施設、美術関係者、一般の方々に関心を持ってもらい、徐々にコミュニケーション が生まれ、その中で平成10年に山梨大学教育人間科学部の養護学校において造形につ いての研究大会が実施されました。

その年3月の描くパラダイス展を見た方から、4月から始まる新年度の研究活動へ の参加の要請があり、一年ほど養護学校での造形活動に参加しました。また、研究大 会に付随する講演と研究大会においての助言者の役目をいただき、そのことで養護学 校以外の小中学校の先生方とのつながりが徐々に作られてきました。

そして、その積み重ねの中で平成12年4月「障害者の芸術活動への支援団体」の発

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足ということになりました。そのメンバーとしては養護学校教員、ギャラリー経営 者、施設指導員、養成校教員、ボランティア活動をされている主婦など、15名位が集 まりました。参加者の共通テーマとしては「造形表現を含めた表現をどのようにとら えるか」で「障害者の表現活動を支援すると共に、全ての人が人としての豊かさを求 めることに関わり、支援することを目的とする」が研究会の目的と明記しました。

研究会の名称を「人ねっこ・アート−ワーク」といいますが、当初「人ネット・アー トワーク」と決めたのですが、ある方が聞き違いをして「人ネット」を「人ねっこ」

と言いましたら、そっちのほうがいいということになり、変更した経緯があります。

活動としては、制作活動への支援、芸術理念の研究、表現技法の研究等の活動への 援助それから作品発表する際の展示支援、芸術活動支援についての情報提供、会場提 供(特に無料又は低予算で使用できる会場の提供)、関連催し物情報の提供、活動へ の人材支援、マネージメント支援等をおこなっています。ただし、マネージメント支 援すなわち経済支援については、当研究会自身が支援を受けることを苦手としていま すのでその実績はありませんが、制作活動支援及び人材支援に関しては、造形作家の 紹介をこれまで3施設にしてまいりました。

また、発足から毎年おこなっていることに芸術理念の研究と活動の普及があります が、具体的には、フォーラムの開催とワークショップの開催です。今年度は表現活動 の映像記録と、各施設への出前講座の準備をしています。これらの運営については、

エイブル・アートジャパンとトヨタ自動車の支援を受けております。

展示支援に関して、メンバーの中にギャラリー経営者がいることにつきましては触 れましたが、甲府市内においても自由に使用できるギャラリーが必要だと思っていま した。そして運良くと言いましょうか、そのチャンスがありギャラリーを作る事がで きました。それは、その様なことを思っていた時期に偶然別の仕事で、ユニバーサル デザインのショールームをデザインする依頼がありました。早速ギャラリーを併設す るプランを提案しました。そしてそのプランについて快諾していただき、設計そして 建築と進んだのですが、その後におまけがありまして、ギャラリーについては展示企 画をお願いしたいという依頼がありましたので、ほぼ自由に使用できる状況になった わけです。したがいまして、メンバーの経営するギャラリーと甲府市内のギャラリー の二ヶ所がほぼ自由に使用できるようになりました。造形活動を中心にして話をして きましたが、それぞれでコンサート、講演会等も開催されています。

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その様に、支援団体として活動をしていく過程でさらに新たな広がりが生まれてき ましたので、そのことについて触れたいと思います。

まず、フォーラム、ワークショップの運営には、メンバーだけでは人手が足りませ んので、主に同僚となりますが、メンバーそれぞれのかかわりのある方々に手伝って いただきました。また、21年3月に実施しましたフォーラムは、山梨県立美術館を 会場にしておこないましたので、学芸員との関わりが強くなりました。広がりを考え ると、その前提には、活動を理解していただくことがありますが、言葉とか文字だけ の理解ではなく、直接運営に関わることにより、活動をより明確に理解していただけ たと思っています。フォーラムでの美術館の活動は次の展開につながったのですが、

もう少し広がりについて触れます。私の活動が保育士養成にどのように関わるのかと いうことを述べたいと思います。先に触れましたフォーラム、22年2月のワーク ショップの運営にボランティアとして学生に参加してもらいました。特にワーク ショップでは造形体験をサポートする傍ら、直接表現活動に参加できました。これ は、授業でも実習でもない学びの経験になったようです。これも次の展開へのヒント となりました。

さて、美術館でおこなったフォーラムの結果は、学芸員の障害者アートにたいする 理解のきっかけになり、また、メンバーの一人で養護学校教員が長年積み重ねてきま した作品展「詩と絵のコラボレーション展」という作品展が、22年から山梨県立美 術館の企画展になりました。新たに「みなび展」という名称となり、幼児から作家、

障害・健常に関係なく作品を展示し、期間中は毎日ワークショップをおこなう作品展 です。

この企画にも学生のボランティアを募りますが、もう少し積極的に学生が運営に関 われ保育士養成の学習とならないかと考えたところに、先に述べました22年2月の ワークショップでのヒントがありました。そこで、美術館を子どもたちの造形活動の 場とする活動が、企画展の中に設定され、学生が造形援助を体験する機会を得ること ができました。

さて、いろいろな活動について話をさせていただきましたが、ここまで活動を続け てきて、当初の問題は、課題は、解決したのかということになりますが、結局造形に 対する考え方が色々な世代であいまいであります。これはこうだと絞り込む必要もな いかもしれませんが、色々な解釈が壁を作っているともいえます。

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次に「造形活動の過程及び結果の評価」の理解についてですが、これは絶えずおこ なって行かなくてはいけないだろうと思います。例えば施設の職員が移動、退職、新 採用があるというと、その都度その理解についての機会を持つ必要があるでしょう し、実感として理解していただくことが大切となります。

それから福祉制度が「措置」から「契約」に変わったことにより、造形表現は施設 でやらなくていいという声があがることがあります。誰からあがるかといいますと、

利用者の親等、関係者から「そういうものにお金を払うなら、少しでも仕事をさせて ください。絵を描いたり物を作ったりすることは意味がないのだから、成果としてお 金になることをさせてください」という声があるそうです。

そこで16年度は「出前講座」という名称の企画を準備しており、山梨県内の五カ所 の地域・施設に出かけていって、指導員だけでなく利用者の関係者の皆さんにも理解 をしていただこうと、3月26日の第一回出前講座(そだち園)の準備を行っておりま す。

また、養成校の学生が「表現」に出会う場が教室の中だけというのでは非常に限ら れてしまいますので、施設とか美術館、ギャラリーでの造形活動運営に参加する機会 をつくって行くことが益々重要だと考えられます。

それからアートセンターネットワーク構想があるのですが、山梨県立美術館を中心 として山梨県内に5ヶ所くらいのアートセンターを設置し、誰もが造形活動に関わる ことが出来ればと考えています。学校での造形活動といいますと「評価」がついてき ますが、そこではいっさいの評価を無くして、描くこと、造ることを主体的に楽しむ 場所を造りたいと思っています。

以上、発展ということで述べましたが、青い鳥成人寮での造形活動についての報告 は今回までとします。次号からは「アートセンターネットワーク構想」について報告 を掲載させていただきます。

※2003年9月全国保育士養成セミナー全国大会自主シンポジウムで発表した内容を一部修正し て掲載しました。

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参照

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