学位 論文 博士(薬 科学)
免 疫 異 常 を伴 う皮 膚 疾 患 の新 規 治 療 薬 開発 を 目的 と した ホ スホ ジエ ステ ラー ゼ7選 択 的 阻害 剤 の創 薬 研 究
平 成27年 度
遠藤 勇介
略号一覧
Ac acetyl
aq. aqueous
Asp aspartic acid
Boc tert-butoxycarbonyl
BSA bovine serum albumin
Bu butyl
cAMP cyclic adenosine monophosphate CD cluster of differentiation
cGMP cyclic guanosine monophosphate COPD chronic obstructive pulmonary disease dba dibenzylideneacetone
DCM dichloromethane
DMF N,N-dimethylformaldehyde DMSO dimethyl sulfoxide
dppf 1,1'-bis(diphenylphosphino)ferrocene DPPP 1,3-bis(diphenylphosphino)propane EDTA ethylenediaminetetraacetic acid ELISA enzyme-linked immunosorbent assay ESI electrospray ionization
Et ethyl
FAB fast atom bombardment
FBS fetal bovine serum
Gln glutamine
HEPES 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid HOBt 1-hydroxybenzotriazole
HPLC high performance liquid chromatography
i- iso-
IC50 half maximal inhibitory concentration
IL-2 interleukin-2
LAH lithium alminum hydride LDA lithium diisopropylamide
LE ligand efficiency
Leu leucine
LiHMDS lithium bis(trimethylsilyl)amide mCPBA meta-chloroperoxybenzoic acid
Me methyl
MS mass spectrometry
mw microwave
NASH non-alcoholic steatohepatitis
NIS N-iodosuccinimide
NMM N-methylmorpholine
NMR nuclear magnetic resonance
PDB protein data bank
PDE phosphodiesterase
Ph phenyl
Phe phenylalanine
Pin pinacol
POC proof of concept
rt room temperature
SAR structure activity relationship SPA scintillation proximity assay t- or tert tertiary
TBAF tetrabutylammonium fluoride
TEA triethylamine
TFA trifluoroacetic acid
THF tetrahydrofuran
TMS tetramethylsilane
Ts para-toluenesulfonyl
Tyr tyrosine
WSC water-soluble carbodiimide
X-Phos 2-(dicylclohexylphosphino)-2',4',6'-triisopropylbiphenyl
目次
緒論 1
本論
第一章 チエノピリミジノン構造を有するリード化合物の取得 5 第二章 水溶性を有し、強力なPDE7阻害剤である
2-(4-pyridylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one誘導体の創製とSAR研究
14
第三章 強力なin vivo薬効を示す選択的PDE7阻害剤である
2-(isopropylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one誘導体の創製
21
結論 30
実験の部 32
参考文献 59
謝辞 61
1
緒論
ホスホジエステラーゼ(PDE)はセカンドメッセンジャー分子である環状アデノシン一リン酸(cAMP)
と環状グアノシン一リン酸(cGMP)を加水分解する酵素である。現在までに、11種類のファミリーに分 類され、PDEファミリー全体として21種類の遺伝子が同定されている。cAMPを選択的に加水分解する PDE分子種(PDE4, PDE7, PDE8)及びcGMPを選択的に加水分解するPDE分子種(PDE5, PDE6, PDE9)
が知られており、残りの分子種はcAMPとcGMPの両方を加水分解することが知られている。この基質 選択性は、PDE分子中で、周辺の残基が形成する水素結合ネットワークによって、基質(cAMPとcGMP)
がグルタミンに固定化されることで、制御されている1(Figure 1)。
Figure 1. PDE分子中のグルタミンによるヌクレオチド選択性の制御。A) PDE4DにおけるcAMPの認識
に369位グルタミン(Gln369)が関与、B) PDE5AにおけるGMPの認識に817位グルタミン(Gln817)
が関与
PDEは、様々な病気に対する治療剤として期待できる標的分子である2,3。これまでに、PDE3、PDE4、
PDE5の阻害剤がそれぞれ、心疾患、COPD及び勃起障害の治療薬として臨床で用いられている。PDE7 阻害剤は、cAMPの加水分解を阻害することにより、体内におけるcAMPの濃度を上昇させる。さらに、
活性化T細胞やB細胞を上方制御する。したがって、PDE7阻害剤は、T細胞が関与する疾患に対する治 療剤として、広い応用が期待できる。実際に、PDE7は白血病4、中枢神経系障害5、呼吸器障害6を含む 様々な病気の治療剤における標的分子として考えられている。また、PDE7は表皮組織中でも多く発現し ていることがマウスで確認されている。PDE4に対する阻害剤は優れた抗炎症作用を示すことが知られて おり、既に多くの選択的PDE4阻害剤が種々の炎症性疾患治療剤として臨床評価されている(Table 1)が、
細胞種によって作用強度に大きな差があり、特に活性化した表皮角化細胞に対しては抑制作用を示さな いことが報告されている16。
Gln369
Gln817 Tyr406
Tyr329 Gln775
Asn321
Ala767
Trp853
2
Table 1. 皮膚疾患を対象とする臨床試験中のPDE阻害剤
化合物名 開発会社 化学構造 適応疾患 備考
Crisaborole Anacor Pharmaceuticals
アトピー性皮膚炎 (P3)、尋常性乾癬 (P2)
PDE4とPDE7を両方 阻害。
AN-2898 Anacor
Pharmaceuticals
アトピー性皮膚炎 (P2)、乾癬 (P1)
PDE4とPDE7を両方 阻害。
Crisaboroleより強い in vitro作用。
Roflumilast Takeda
COPD (発売済)、喘 息 (P3)、アトピー性 皮膚炎 (P2)、 NASH (P2)
選択的PDE4阻害 剤。
外用剤として乾癬で のP2試験を予定して いたが、中止。詳細 は不明。
GW-84247 0
biocrea/
GlaxoSmithKline
COPD (P2)、喘息 (P2)、アトピー性皮 膚炎 (P2)、アレルギ ー性鼻炎 (P2)
選択的PDE4阻害 剤。
アトピー性皮膚炎で P2試験に入ったが、
その後の更新無し。
E-6005 Eisai アトピー性皮膚炎
(P2)
PDE4阻害剤。アトピ ー性皮膚炎患者に おけるP1/2試験で症 状の改善傾向が認 められた。
MK-0873 Merck & Co.
COPD (P2)、関節炎 (P2)、尋常性乾癬 (P1)
選択的PDE4阻害 剤。
2010年から2%クリー ム剤を用いた乾癬 POC試験を実施。試 験は既に終了してい るが、結果未発表で その後の更新無し。
3
一方、これまでに選択的PDE7阻害剤の臨床試験は実施されていないが、近年、CSIC社7,8、Celtech社
9、Pfizer社10,11、Biocrea社12、BMS社13及びその他14-16の複数の研究機関から報告されており(Chart 1)、 免疫細胞だけで無く、表皮角化細胞に対しても抑制効果を発揮することが報告されている。
Chart 1. 選択的PDE7阻害剤の報告例
アスビオファーマ社のPDE7阻害剤(ASB16165)はマウスを用いた皮膚の炎症モデルにおいて、抗炎 症作用を示しており、PDE7は、炎症性疾患の治療に対する有用な標的分子であると考えられる16。また、
臨床で使用した際、他のPDE分子種の阻害は、望まない副作用を生じる可能性があることから、選択的 阻害剤が望ましいと考えられた。
以上の背景から、著者は、PDE7を強力に阻害することにより、抗炎症作用と表皮角化細胞の活性化抑 制作用を示す、薬効の高い外用剤を目標とした。さらに、選択的なPDE7阻害剤とすることで、望まない 副作用を回避することを目指した。本研究の適応疾患として、未だ治療方法に改善の余地がある乾癬を 選択した。現在、乾癬患者の8割は軽症に分類され、ビタミンD製剤やステロイドの外用剤による治療 を受けているが、ステロイド剤の長期使用は敬遠され、ビタミンD製剤には遅効性、皮膚刺激性等の問 題がある。これらの既存外用剤の問題点から、①優れた抗炎症作用を示し、ステロイド剤のような副作 用を発現しない、②表皮角化細胞の機能異常を改善し、即効性のある外用剤は、乾癬患者の治療満足度
TA-7906 Maruho 構造非開示 アトピー性皮膚炎
(P2)
田辺三菱製薬からマ ルホに導出された
PDE4阻害剤。
OPA-15406 Otsuka 構造非開示 アトピー性皮膚炎
(P2)
PDE4阻害剤。
軟膏でP2試験中。
DRM-02 Dermira 構造非開示
酒土性座瘡 (P2)、 アトピー性皮膚炎 (P2)、尋常性乾癬 (P2)
PDE4阻害剤。
ゲルで開発中。
4
を満たす新規の外用剤となりうると考えられる。また、症状の重い患者に対して用いられる抗体医薬は、
単剤で強い治療効果を示すことが明らかとなっているが、治療費が高価である。さらに、効果を示した 場合においても病変部位が残存するケースも多く報告されている。したがって、上記のコンセプトを満 たす安価な外用剤は、既存治療法からの代替や抗体医薬との併用により、さらに高い満足度を示す治療 方法となると考えられる。
選択的PDE7阻害剤を見出すためのPDE分子種選択性については、グルタミンとの相互作用をコント ロールすることで、cGMPを選択的に加水分解する分子種(PDE5, PDE6, PDE9)に対する選択性を理論 的に構築できる。一方で、cAMPを加水分解する他の分子種(PDE4やPDE8など)に対する選択性は、
構造が極めて近いものもあるため、理論的に導くことは困難であると考えられた。したがって、ライブ ラリー化合物から多様な母核構造を有する複数のヒット化合物を得て、合成展開することにより、選択 性を有するリード化合物を見出すことを目指した。今回、複数のヒット化合物の中から、チエノピリミ ジノン構造を有するヒット化合物に対し、コンピューターモデリングとリガンド効率を指標とすること で効率的にリード化合物を探索した。その結果、選択性を有するリード化合物28eを取得した17(Figure 2)。
Figure 2. 本研究の概要
続いて、得られたリード化合物の最適化を実施することで、in vivoで抗炎症作用を示す臨床候補化合 物の取得を目指した。2位置換基について芳香族アミンを検討することにより、2位に4-ピリジルアミノ 基を有する2-(4-pyridylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one誘導体18が、良好な溶解度、PDE7選択性及 び活性を示した。
さ ら に 、2 位 置 換 基 に つ い て 脂 肪 族 側 鎖 を 検 討 す る こ と に よ り 、 高 い 溶 解 性 を 示 す 2-(isopropylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one 誘導体の取得に成功した 19。得られた 3-ピロリジン体 97は、マウスTPA耳介浮腫モデルにおいて、強力な抑制作用を示した。本化合物は、炎症性疾患におけ る臨床候補化合物として、より詳細な研究を行うのに値するものであると言える。
5
本論
第一章 チエノピリミジノン構造を有するリード化合物の取得
始めに、PDE7阻害活性を指標に、自社化合物ライブラリーのスクリーニングを実施し、チエノピリミ ジノン構造を有する化合物5-7を得た(Figure 3)。
Figure 3. スクリーニングにより得られたヒット化合物
得られた5-7は、強力なPDE7阻害活性(IC50=160~1100 nM)を示し、既知のPDE7阻害剤とは異なる構 造を有していた。本研究では、化合物の有用性を評価する際の指標として、リガンド効率(ligand efficiency,
LE)20,21を用いた。リガンド効率(kcal・mol-1・HA-1)は、次式を用いて計算した。
LE = -RT[ln(IC50)](HA)-1
ここで、R = 1.987×10-3 kcal・mol-1・K-1、T = 298 K、HA = 重原子数の値を用いた。この値が高いほど、
分子が重原子数に対して効率よく活性を示していることとなり、良好なリード化合物であると言える。
Figure 3に示す3種のヒット化合物は、いずれもLE値が約0.30という良好な値を示した。本章では、こ
のリガンド効率を指標に、ヒット化合物をリード化合物へ導くことを目指した。
次に、PDE7に対するヒット化合物の結合様式を推定するため、コンピューターモデリングを実施した。
既知のPDE7共結晶情報(PDB ID 1ZKL22)をテンプレートとし、ソフトウェアとしてGlideとMaestro23 を用いることで、化合物5の推定結合様式を得た(Figure 4)。
6
Figure 4. 化合物5とPDE7の推定結合様式
得られた推定結合様式において、チエノピリミジノン構造の縮環部位が、Phe384とCH-π相互作用及
びPhe416とπ-π相互作用しており、カルボニル基がGln413と水素結合していると考えられた。これら
3つの相互作用部位は、PDE7阻害活性を示すために重要な役割を示していると考えられた。したがって、
それらの相互作用を維持する構造を設計し、合成することで強力なPDE7阻害剤の取得を目指すこととし た。
そこで、本モデルを用いた効率的な構造活性相関情報(SAR)取得に向け、次の方針を立案した。
(1) PDE7阻害活性の発現に重要な最小構造を探索するため、分子サイズを小さくしていく。
(2) ライブラリー化合物のスクリーニング結果のみでは、情報が不十分である6位部分の置換基変換 を実施する。
(3) 結合ポケットにおいて、広い空間を有していると考えられた7位部分のSARを取得する。
上記の3つの方針に基づき、強力かつ選択的なPDE7阻害剤の探索を開始した。
始めに、方針(1)に従い、PDE7阻害活性を示す最小構造を明らかにするため、初期の構造活性相関 情報取得を実施した(Figure 5)。
Figure 5. 初期の構造活性相関情報
得られたヒット化合物の中で、共通構造である化合物8を設計し、合成した。その結果、ヒット化合 物と比較して活性が低下したもののリガンド効率としては、同程度の値を示した。さらに、6位のフェニ
7
ル基を削減した化合物9は、わずかに活性が向上し、リガンド効率が大きく向上した。化合物9は、モ デリングにより予測された3つの相互作用を有していると考えられ、PDE7阻害活性を示す最小構造であ ると言える。次に、Pfizer社のチアジアゾール化合物やASB16165に見られるシクロアルキル基を参考に、
アリルアミンをシクロアルキルアミンに変換した。その評価結果は、予想以上に良好であり、2位にシク ロペンチルアミノ基を有する化合物10が望ましい活性向上を示した。シクロヘキシル基を導入した化合 物11も合成し、活性の向上が見られたが、シクロペンチル基の方が良好であった。したがって、化合物 10を基に、更なる構造活性相関情報取得を行うこととした。
続いて、方針(2)に従い、様々な大きさの6位置換基を有する化合物を設計し、合成した(Scheme 1)。
Scheme 1. 6位に置換基を導入する反応条件: (a) ethyl isothiocyanate, pyridine, reflux, 76–84%; (b) NaH, MeI, DMF, 0 °C, 98%; (c) K2CO3, MeI, CH3CN, rt, 75%; (d) mCPBA, DCM, rt, 66-87%; (e) cyclopen- tylamine, THF, reflux, 74-89%; (f) PhNMe3·Br3, CaCO3, DCM, MeOH, rt, 48%; (g) LDA, DMF, THF, 0 °C, 71%; (h) MeMgBr, THF, 0 °C, 84%; (i) PdCl2, Et3SiH, EtOH, rt, 54%; (j) 3-aminopyridine, toluen- e, reflux, then NaBH4, MeOH, rt, 62%; (k) H2, Pd(OH)2, MeOH, rt, 47%; (l) LDA, CO2, THF, 0 °C, 100%; (m) 1-(5-aminopyridin-2-yl)piperidin-4-ol,24 WSC, HOBt, NMM, DMF, rt, 62% (n) H2, Pd/C, THF, rt, 5%.
アミン体12a, bにイソチオシアン酸エチルを反応させ、縮環体13a, bを得た。ヨードメタンを用いて
化合物13a, bをメチル化し、スルフィド基を酸化することでスルホン体14a, bを得た。得られた化合物
14a, bのメチルスルホニル部分をシクロペンチルアミンで置換することにより、アミン体10および15
をそれぞれ得た。続いて、6位置換基を官能基化するため、化合物10から次の4工程で誘導化した。ト リメチルフェニルアンモニウムトリブロミドを用いた化合物10の位置選択的なブロモ化により、臭化物 16を得た。化合物16から、LDAとDMFによってアルデヒド体17を得た。化合物17に対し、Grignard
8
反応を行った後、トリエチルシランと塩化パラジウムを用いた水素化25によって、エチル体18を得た。
なお、この還元により、2級水酸基とブロモ基の両方を除去した。続いて、中間体17の還元的アミノ化 後、ブロモ基を還元することでアミン体19を得た。また、LDAとCO2(ドライアイス)を化合物16に 作用させることでカルボキシル基の導入を行った後に縮合し、続いてブロモ基を還元することでアミド 体20を得た。
チエノピリミジノンの6位部分に関する構造活性相関情報をTable 2に示した。なお、PDE7と同様に cAMPを選択的に加水分解し、最も近い構造であるPDE4に対する活性も示した。
Table 2. 6位置換基の異なる化合物の構造活性相関情報
化合物 R1 IC50 (nM)
LEc PDE7Aa PDE4Ba
10 H 150 4900 0.52
15 Me 11000 NDb 0.36
18 Et 6500 3500 0.35
19 >1000 920 <0.31
20 2600 ND 0.22
a IC50値は、2試験以上の平均値。bND = 未測定。cPDE7Aに対するリガンド効率
予想に反して、メチル基やエチル基といった小さな置換基の導入が、43―73倍の活性低下を生じた。
それに伴いリガンド効率も低下した。より嵩高い置換基の導入はわずかな活性向上へと導いたが、その リガンド効率はさらに低下した。さらに、化合物18および19は、PDE7よりもPDE4に対する活性が高 い結果となり、望まない選択性を示した。リガンド効率及び選択性の低下という結果を受け、6位置換基 に関するこれ以上の検討は行わなかった。
これまでの構造活性相関情報から、6位及び7位に置換基を有さないチエノピリミジノン化合物(化合
物10)が、32倍のPDE4選択性を示すことが分かった。これは、本系統において、PDE分子種選択性を
有する化合物が取得できる可能性を示している。また、6位置換基が、立体障害などにより、リガンドと PDE7の相互作用を阻害していると考えられた。さらに、PDE7触媒部位の推定結合様式から、7位周辺 に開かれた空間が存在すると推定できた。したがって、著者は、7位置換体の合成に着手した。
鍵中間体である化合物16を基に、7位を置換したチエノピリミジノン誘導体を設計し、合成した
(Scheme 2)。
9
Scheme 2. 7位に置換基を導入する反応条件: (a) trimethylboroxine, Pd(PPh3)4, K2CO3, H2O, 1,4-dioxane, 100 °C, 83%; (b) potassium vinyltrifluoroborate, PdCl2(dppf)·CH2Cl2, TEA, EtOH, 80 °C, 71%; (c) H2 (3 atm), 10% Pd/C, THF, rt, 85-99%; (d) ethynyltrimethylsilane, PdCl2(PPh3)2, CuI, TEA, CH3CN, 80 °C, 19%; (e) TBAF, THF, rt, 92%; (f) CuCN, DMF, 150 °C, 24%; (g) alkyne, PdCl2(PPh3)2, CuI, CH3CN, 80 °C, 38-49%; (h) Ar-B(OH)2, Pd(OAc)2, PPh3, saturated aq NaHCO3, DMF, EtOH, 80 °C, 77-99%; (i) Ar-BPin, Pd(PPh3)4, K3PO4, 1,4-dioxane, 90 °C or reflux, 28-64%. (j) tert-butyl 3-oxopiperazine-1-carboxy- late, CuI, N,N-dimethylethylenediamine, K3PO4, 1,4-dioxane, reflux, 59%.
ブロモ体16に対し、鈴木―宮浦反応や薗頭反応などのカップリングを行い、化合物21、22、24-26お
よび28-30を合成した。化合物22および26a,bに対してパラジウム触媒を用いた接触還元を行い、化合
物23および27a,bをそれぞれ得た。
得られた化合物21-30のPDE7及びPDE4の阻害活性を測定した(Table 3)。加えて、活性化されたマ ウスリンパ球におけるIL-2の産生抑制作用についても測定した。この試験系は、ヒト血中のT細胞の活 性化が、PDE7の誘導と関与していることが報告されており26、細胞における機能評価系として実施した。
なお、T細胞におけるサイトカイン産生において、PDE7よりもPDE4の寄与が大きいことが報告されて いる27一方で、他社のPDE7選択的阻害剤(ASB16165及びPF 0332040)が活性化T細胞におけるサイト カイン産生抑制を示すことが報告されている28,29。また、リガンド効率についても算出した。
10
Table 3. 7位置換基の異なる化合物の構造活性相関情報
化合物 R2 IC50 (nM)
LEc
PDE7Aa PDE4Ba IL-2b
10 H 150 4900 5400 0.52
21 Me 98 3800 >3000 0.50
23 Et 42 5900 2900 0.50
22 30 3700 980 0.51
24 45 3000 560 0.50
25 67 3200 890 0.49
26a 4.2 1400 1300 0.44
26b 19 820 1700 0.39
27a 7.3 1100 1000 0.43
27b 39 3400 2000 0.37
28a 5.6 720 1800 0.47
28b 380 3800 9100 0.31
28c 5.0 480 290 0.40
28d 4.9 1000 1300 0.40
28e 2.0 380 89 0.49
29a 2.3 640 1000 0.38
29b 1.0 520 77 0.41
30 12 3300 3000 0.21
aIC50値は、2試験以上の平均値。bIC50値は、4試験以上の平均値。cPDE7Aに対するリガンド効率
11
始めに、7位に脂肪族置換基を有する化合物を評価した(化合物21-24)。メチル基及びエチル基は、高 いリガンド効率を維持しつつPDE7阻害活性に良い効果を示した。6位置換体とは対照的に、PDE4に対 する良好な選択性を示した。ビニル基、エチニル基やシアノ基のような不飽和結合を含む置換基の導入 は、メチル基やエチル基を有する化合物と同程度の結果であった。一方で、より嵩高い置換基であるピ リジン環を有する化合物26aおよび27aは、極めて高い親和性を示した。この2化合物は、特に高いリ ガンド効率を示し、PDE4阻害活性に対して150倍の選択性を有していた。
株式会社創晶に依頼し、化合物24とPDEのX線共結晶構造解析を実施した(Figure 6a、PDB ID 4PM0)。 観測された相互作用を2次元図で表したFigure 6bにおいて、化合物24のカルボニル基の酸素がGln413 と水素結合していた。また、チエノピリミジノン環に対し、Phe384とのCH-π相互作用及びPhe416との π-π相互作用が観測された。さらに、化合物24のNHは、水分子と水素結合を形成していた。この水分 子は、Tyr211とAsp362の側鎖と水素結合することによって安定化していることが分かった。続いて、ヒ ット化合物5の推定結合様式における構造(緑色)を重ね合わせた(Figure 6c)。チエノピリミジノン環 の相互作用ポイント(上記のCH-π、π-π相互作用及び水素結合)はモデリングからの推測と一致した が、チオフェン環の位置がわずかに異なっていた。そのため、6位置換基が占める位置が予測と実測で異 なることが分かった。この共結晶構造解析の結果は、6位置換基と7位置換基の活性差をよく説明してい る。即ち、6位置換基の導入では、化合物とその周辺残基(Leu401など)の間に立体障害が生じて活性 を低下するのに対し、7位置換基導入については、その伸長方向に開かれた空間が存在するため、活性が 向上したと考えられる。
12
Figure 6. PDE7Aの触媒部位と化合物24の共結晶構造(PDB ID: 4PM0, 分解能2.1 Å)。a) 結合部位の残 基と24の複合体。水素結合を点線で表し、重要な水分子を表記している。b) Maestro 9.3で発生させた24 の2次元相互作用図。 c) 24と推定結合構造(ヒット化合物5、緑色)の重ね合わせ図
当初得られた推定結合様式とX線結晶構造は、相補的な役割をしていると考えられる。推定結合様式 は、ヒット化合物を同定する段階で迅速に用いることができ、7位置換基の導入という戦略を導いた。こ の予測は正しく、7位置換基の探索は、活性と選択性向上という結果を得た。一方で、推定結合様式の限 界も明らかとなった。それは、6位及び7位置換基間のSARを説明することが困難であったことである。
しかしながら、既に述べたように、リード探索段階でX線結晶構造を用いることにより、SARをよく説 明できたと言える。
7位置換基による影響を調べるため、さらに最適化を実施した。ベンゼン環(28a-d, 29a)及びピリジ ン環(28e, 29b)を有する化合物を合成し、評価した。ベンゼン環の導入(28a)は、極めて強いPDE7 阻害活性を示し、無置換の10と比較して、活性が27倍向上していた。メチルエステルをメタ位及びパ ラ位にそれぞれ有する化合物(28c, d)についても適した活性を示した。オルト位にメチルエステルを導 入した場合(28b)、68倍の活性低下を示した。これら安息香酸エステルの中で、28cが、強力なPDE7 阻害活性及び細胞活性を示し、PDE4に対する96倍の選択性を示した。また、オキソピペラジン30は、
PDE7に対して良好な活性を示し、PDE4に対する275倍の選択性を示した。
b)
c)
Phe416 Gln413 Leu401
Phe384
Tyr211 Asp362
Gln413 Leu401
Phe416 Phe384 a)
H2O Mg
Zn
13
続いて、ピリジン環を導入した化合物は、28eがナノモルオーダーの活性を示し、モルホリンを有する
29bはTable 2, 3に示した化合物の中で最も強い活性であった(IC50 = 1.0 nM)。加えて、28eは良好なリ
ガンド効率も示していた。この結果から、芳香環の導入は、脂肪族の導入よりも高いPDE7阻害活性を示 すと言える。ピリジン環を有する化合物28eは、PDE4に対する選択性が190倍であった。著者は、PDE3、
PDE4及びPDE5に対する選択性が、望まない副作用を避けるために必要であると考えており、他のPDE 分子種に対する選択性も測定した。その結果、PDE3に対して800倍、PDE5に対して1650倍という高い 選択性であった。化合物28eは、細胞活性についてもIC50 = 89 nMと強力であり、強力なPDE7阻害活性 が寄与していると考えられた。
PDE3、PDE4、PDE5及びPDE7のIC50値を自社で測定していたが、Caliper Disocovery Alliance & Services 社に依頼し、Caliper LabChip 3000を用いて化合物30の各PDE分子種に対する選択性を明らかにした
(Figure 7)。ここでは、化合物28eの低水溶性(第二章に記述)を考慮し、化合物30を選択した。
Figure 7. 化合物30の選択性プロフィール。化合物濃度は120 nMで実施。
その結果、化合物30はその他のPDE分子種に対しても良好な選択性を示していることが分かった。リ ード化合物とした28eの選択性評価は実施していないが、類似の構造を有しており、同様の選択性プロ フィールを有すると考えられる。
以上、著者は、新規かつ強力なPDE7阻害剤として、2-(cyclopentylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one 誘導体を見出した。化合物ライブラリーのスクリーニングによって見出されたヒット化合物を基に、構 造活性相関情報の取得とコンピューターモデリングを行った。得られた情報を用いて、新規かつ強力な PDE7阻害剤である7位置換体へ導いた。その結果、極めて強力なPDE7阻害活性とIL-2産生抑制作用を 有し、他の分子種に対して高い選択性を示す化合物28eをリード化合物として得た。
-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
PDE1A PDE1B PDE2A PDE3A PDE3B PDE4A1A PDE4B1 PDE4D3 PDE5A1 PDE6C PDE7A PDE8A1 PDE9A2 PDE10A2 PDE11A
% inhibition
14
第二章 水溶性を有し、強力なPDE7
阻害剤である2-(4-pyridylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one
誘導体の創製とSAR
研究第一章で著者は、PDE7阻害活性、PDE分子種選択性及び細胞活性が良好なリード化合物である28eの 取得を達成した。しかしながら、化合物28eとその誘導体は、合成展開中に得られたフラグメントサイ ズの化合物10よりも水溶性が低いことが分かった(Figure 8)。
a50 mMリン酸緩衝液を用いて測定(pH 6.8、室温)
Figure 8. 2-(Cyclopentylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one誘導体のPDE7阻害活性および溶解度。
この結果は、7位置換基の導入によるものであると考えた。そこで、良好な活性を示し、かつ水溶性に ついても良好である7位置換基を探索することで、臨床候補化合物を見出す必要があった。さらに、2位 置換基についても水溶性と活性に大きく寄与していると考えた。したがって、合成展開の容易さも考慮 し、2位置換基の最適化後に7位置換基の変換を実施する方針とした。第一章の研究において、
2-(cyclopentylamino)thieno[3,2-d]-pyrimidin-4(3H)-oneの2位のシクロペンチル基がPDE7の疎水性結合ポケ ットに適合し、良好な活性を示したと考えた。そこで、Scheme 3に示す条件で、2位への芳香環導入を 試みた。すなわち、化合物14aのメチルスルホン部分を各種アミンで置換し、化合物37-47を得た。
Scheme 3. 2位に芳香族アミノ基を導入する反応条件: (a) R1-NH2, LiHMDS, DMSO, rt or 60 oC, 3-58%; (b) R1-NH2, THF, 120 °C, 6%.
得られた化合物について、PDE7、PDE4阻害活性及び水への溶解度を評価した(Table 4)。
15
Table 4. 2位置換基の異なる化合物のPDE7、PDE4阻害活性および水への溶解度
化合物 R1 IC50 (nM) 溶解度
c
PDE7Aa PDE4Ba (µg/mL)
10 150 4900 12
37 290 7400 20
38 88 4300 10
39 >1000 NDb 66
40 >1000 NDb 84
41 >1000 NDb 1.9
42 2300 NDb 0.4
43 61 2700 26
44 41 3000 6.3
45 >1000 NDb 42
46 630 30000 110
47 60 5300 120
aIC50値は、2試験以上の平均値。bND; 未測定。c50 mMリン酸緩衝液を用いて測定(pH 6.8、室温)。
始めに、シクロペンチルアミノ基をフェニルアミノ基へ置換した。フェニル基を有する化合物37は、
活性がわずかに低下したが、化合物10に比べて溶解度が向上していた。この結果により、2位置換基に ついて、詳細な構造活性相関研究を実施することが望ましいと考えた。次に、芳香環における置換基の 効果について調べるため、化合物38-40を合成した。オルト位へメチル基を導入した化合物38は、PDE7 阻害活性を向上させたが、メタ位及びパラ位への導入(化合物39と40)は許容されず、大きな活性低下
16
となった。化合物38は、溶解度についても良好であったことから、オルト位への置換基導入が望ましい と考えられた。より大きな置換基であるエチル基(化合物41)および電子吸引基であるシアノ基(化合
物42)は低い活性であり、フルオロ基およびクロロ基(化合物43と44)は化合物37よりも高い活性を
示した。さらに、化合物43は、溶解度が向上した。これらの結果から、PDE7阻害活性については、オ ルト位への比較的小さな置換基のみが許容され、フルオロ基がPDE7阻害活性と溶解度の両方で最も良好 な置換基であることが分かった。
続いて、フェニル基をより高極性のピリジル基へと変換した結果(化合物45と46)、大幅な溶解度の 向上が見られたが、PDE7阻害活性の低下が生じた。化合物37に比較して約2倍の活性低下であった4- ピリジン体46に対して、フルオロ基の導入を試みた。その結果、溶解度を維持しながら、大きく活性が 向上した。フェニル基と同様に、ピリジル基においても、オルト位へのフルオロ基導入は活性向上に適 していたと言える。このように、2位置換基の変換により、3-フルオロ-4-ピリジルアミノ基がPDE7阻害 活性及び溶解度を向上することが分かった。PDE4阻害活性に対する選択性については、オルト位置換体
38、43、44及び47でわずかに向上した。
第一章の研究において、7位芳香環の導入は、PDE7阻害活性の向上を導いた。しかしながら、水への 溶解性を大幅に低下させることが分かっている。したがって、チエノピリミジノンの7位には、より好 ましい置換基を探索する必要があった。そこで、PDE7阻害活性と溶解度を両立して向上する置換基を探 索するため、化合物47の7位に様々な置換基を導入した(Scheme 4)。
17
Scheme 4. 7位に置換基を導入する反応条件: (a) NIS, AcOH, DCM, 40 °C, 57%; (b) 4-amino-3-fluorop- yridine, LiHMDS, THF, rt, 93%; (c) CuCN, DMF, 100 °C, 57%; (d) ethylene glycol monovinyl ether, Pd(OAc)2, DPPP, TEA, iPrOH, 100 °C; 6 mol/L HCl aq., rt, 73%; (e) NaBH4, MeOH, rt; (f) MeMgBr, THF, rt, 18%; (g) 2-hydroxyethyl acrylate, PdCl2(PPh3)2, TEA, CH3CN, 80 °C, 26%; (h) H2 (4 atm), 10%
Pd/C, THF, rt, 77%; (i) LAH, THF, rt, 82%.
スルホン体14a をヨウ素化した後、メチルスルホニル基を4-アミノ-3-フルオロピリジンに置換するこ とでヨウ化物48を得た。ヨウ素を置換することでシアノ体49を得た。また、ヨウ化物48に対し、エチ レングリコールモノビニルエーテルによるHeck反応を行った後、ケト化することで、ケトン体50を得 た。得られた化合物50に対し、還元もしくはGrignard反応を行い、化合物51および52をそれぞれ得た。
ヨウ化物48に対し、Heck反応及び還元を行うことで、アルコールとした後、LAHによる還元を行い、
アルコール体54を得た。
得られた化合物49、51-52、54に関し、PDE7、PDE4及びマウス活性化リンパ球におけるIL-2産生の 阻害活性、溶解度を測定し、Table 5にまとめた。
18
Table 5. 7位置換基の異なる化合物のIn vitro活性と水に対する溶解度
aIC50値は、2試験以上の平均値。b IC50値は、4試験以上の平均値。cND; 未測定。d50 mMリン酸緩衝液を用いて測定(pH 6.8、室温)。
シアノ基を有する化合物49は、7位無置換の化合物47と比較して高い活性と予想外の低溶解度を示し た。そこで、水溶性を向上するために、親水性置換基として水酸基の導入を試みた。その結果、強力か つ溶解性のある化合物52および54を導いた。
続いて、望ましい水溶性を示すには、分子の平面性と対称性を崩すことが適していると考えた30,31。そ こで、飽和環であるピペリジンを有する化合物57、60-62を設計し、合成した(Scheme 5)。
化合物 R2 IC50 (nM) 溶解度d
PDE7Aa PDE4Ba IL-2b (µg/mL)
49 25 670 NDc 3.5
51 8.7 610 1700 5.4
52 2.1 56 260 18
54 3.9 180 480 31
57 1.1 310 NDc 0.9
60 0.68 280 160 49
61 1.2 180 130 23
62 0.32 20 < 100 28
19
Scheme 5. 7位にピペリジル基を導入する反応条件: (a) 55, Pd(OAc)2, PPh3, sat. NaHCO3 aq., DMF, EtOH, 90 °C, 64%; (b) H2, 10% Pd(OH)2, THF, EtOH, rt; (c) TFA, toluene, rt, 62% (2 steps); (d) MeOCOCl, TEA, DMF, rt, 83%; (e) 5832, Pd(OAc)2, PPh3, sat. NaHCO3 aq., DMF, EtOH, 90 °C; (f) Et3SiH, TFA, DCM, 0 oC; 4 mol/L NaOH aq., rt, 26% (2 steps); (g) MeOCOCl, NMM, DCM, rt, 24%; (h) R-CO2H WSC, HOBt, NMM, DMF, rt, 49-85%.
ヨウ化物48と市販のボロン酸エステル体55をカップリングした後、水素添加及びBoc基の脱保護を 順次行うことで、ピペリジン体56を得た。56をメトキシカルボニル化することでカーバメート体57を 得た。ヨウ化物48とボロン酸エステル体5832をカップリングした後、脱保護することでピペリジン体59 を得た。得られた化合物59に対し、クロロギ酸メチルもしくはカルボン酸を縮合することで、カーバメ ート体60およびアミド体61、62をそれぞれ得た。
化合物57と60-62のin vitro活性及び水への溶解度をTable 5にまとめた。ピペリジン誘導体である化 合物57と60はPDE7阻害活性を著しく向上した。4-ピペリジン体57は低い溶解度を示す一方で、3-ピ ペリジン体60は高い溶解度を示した。したがって、他の3-ピペリジン体である化合物61と62を評価し たところ、両化合物とも良好な阻害活性と望ましい溶解度を示した。化合物60と62は1 nMを切るPDE7 阻害活性を示し、良好なIL-2産生抑制作用を示した。光学活性体の検討のため、キラルHPLCを用いた 光学分割により、化合物62の光学活性体を取得した。その結果、片方のエナンチオマーは、もう一方の エナンチオマーと比較して、良好なPDE7、PDE4、IL-2に対する活性を示した。また、ピペリジン誘導
体(60-62)のPDE4阻害活性は、ピペリジンの置換基によって変化しており、その置換基がPDE4に対
する選択性に重要な役割を担っていると考えられる。
他のPDE分子種選択性を明らかにするため、化合物60-62のPDE3及びPDE5に対する阻害活性を測 定した(Table 6)。
20
Table 6. 化合物60-62のPDE4, PDE3およびPDE5に対する選択性プロフィール
aIC50値は、2試験以上の平均値。
測定した化合物のすべてが選択性を示し、中でも化合物62は、PDE4に対して60倍、PDE3に対して 50倍、PDE5に対して9000倍の良好な選択性を示した。
以上、著者は、水溶性が向上した臨床候補化合物の取得を目的として、チエノピリミジノンにおける2 位及び7位の置換基を探索した。2位の展開によって4-ピリジルアミノ基を見出した後、7位の展開によ って良好な溶解度、高い活性及びPDE7選択性を示す3-ピペリジン体を取得した。中でも、化合物62は 最も良好なPDE7阻害活性を示した。
化合物 R2 IC50 (nM)
PDE7Aa PDE4Ba PDE3Aa PDE5Aa
60 0.68 280 29 520
61 1.2 180 37 > 10000
62 0.32 20 17 2900
21
第三章 強力な
in vivo
薬効を示す選択的PDE7
阻害剤である2-(isopropylamino)thieno[3,2-d]pyrimidin-4(3H)-one
誘導体の創製第二章において、2位に芳香族アミンを導入することで、2位に4-ピリジルアミノ基を有するチエノピ リミジノン誘導体を見出した。次の最適化の方針として、別系統となる強力かつ選択的なPDE7阻害剤の 取得を目指し、2位に脂肪族アミンの導入を試みることとした。その後にin vivo試験を実施し、4-ピリジ ルアミノ体と取得した脂肪族アミノ体を比較することで、最も強力なin vivo薬効を示す臨床候補化合物 の取得を目指した。
2位に脂肪族ユニットを有する化合物63-73を設計し、合成した(Scheme 6)。スルホン体14aに対し、
種々のアミンやGrignard試薬を作用させ、化合物63-72を得た。化合物72のメチルエステルを加水分解 することで、カルボン酸体73を得た。
Scheme 6. 2位に各種置換基を導入する反応条件: (a) R1-H, THF, 100 °C-130 °C, 1-66%; (b) i-BuMgBr, THF, rt, 50%; (c) 4 mol/L NaOH aq, THF, MeOH, 60 °C, 19%.
化合物63-73および初期SAR取得の際に合成した化合物10と11のアッセイ結果をTable 7にまとめた。
22
Table 7. 2位置換基が異なる化合物のin vitro活性と水に対する溶解度
aIC50値は、2試験以上の平均値。bND; 未測定。c50 mMリン酸緩衝液を用いて測定(pH 6.8、室温)。
最初の試みとして、化合物47の3-フルオロピリジル-4-アミノ基を変換した。エチルアミノ基やn-プロ ピルアミノ基のような小さい置換基の導入は、PDE7阻害活性を20倍以上低下させる一方で、良好な水
化合物 R1 IC50 (nM) 溶解度c
PDE7Aa PDE4Ba (µg/mL)
47 60 5300 120
63 2900 NDb 240
64 1400 NDb 69
65 370 11000 190
66 4700 NDb NDb
67 1500 NDb 3.7
68 2600 NDb 430
69 300 4800 6.3
10 150 4900 12
11 740 5300 4.1
70 430 12000 37
71 2300 24000 74
72 2100 NDb 13
73 1300 NDb 450
23
溶性を示した。続いて、立体的な嵩高さによる影響を調べるために分枝アルキルアミン体(65と67)を 合成した。その結果、化合物63と比較して活性が向上した。特に、イソプロピルアミン体65は、溶解 度を低下させることなく、約8倍の活性向上を示した。さらに、リガンド効率についても調べたところ、
化合物47よりも高い値(65:LE = 0.55、47:LE = 0.49)であることが分かった。続いて、NH基(化合 物65)をCH2基(化合物66)に置き換えたが、PDE7阻害活性が低下した。これは、このNH基がPDE7 阻害活性を示すのに重要であると考えられた。したがって、2位のNH基を保持した側鎖の導入をさらに 検討した。シクロプロピルアミンの導入(化合物68)が活性と溶解度を低下させる一方で、4から6員 環のシクロアルキルアミン体69、10および11は、中程度の活性と低い溶解度を示した。極性の向上を 目的としてシクロヘキサン環をテトラヒドロピラン環へ置換した結果、活性と溶解度が向上した。溶解 度向上のため、シクロヘキサン環へ極性基を導入した化合物71-73は、活性が低下した。この2位の変換 で合成したチエノピリミジノン誘導体は、PDE4阻害に対する選択性を有していた。2位置換基の検討の 結果、イソプロピルアミノ基(化合物65)が、溶解度、リガンド効率、PDE7阻害活性及び選択性の面で、
最適化検討に適していると判断した。
第一章の結果から、7位への芳香環の導入が活性の向上に適していることが分かっている。したがって、
化合物65の7位に芳香環を有する誘導体を設計し、合成した。トリメチルフェニルアンモニウムトリブ ロミド化合物65の選択的ブロモ化により、臭化物74を得た。得られた化合物74と種々のボロン酸をカ ップリングすることにより、ヘテロアリールを有する化合物75-79を得た(Scheme 7)。
Scheme 7. 7位に芳香環を導入する反応条件: (a) PhNMe3·Br3, CaCO3, DCM, MeOH, rt, 79%; (b) R2-B(OH)2, Pd(OAc)2, PPh3, sat. NaHCO3 aq, DMF, EtOH, 80 °C, 50-99%; (c) R2-B(OH)2, Pd(PPh3)4, K3PO4, 1,4-dioxane, water, 130 oC (mw), 6%.
得られた化合物のアッセイ結果をTable 8にまとめた。
24
Table 8. 7位置換基が異なる化合物のin vitro活性と水に対する溶解度
aIC50値は、2試験以上の平均値。b50 mMリン酸緩衝液を用いて測定(pH 6.8、室温)。
3-ピリジン環を導入した化合物75は、ナノモルオーダーの強力なPDE7阻害活性を示した。しかしな
がら、これ以上の最適化を実施するには、溶解度が不十分であった。他のヘテロ環への置換やピリジン 環への置換基導入を試みたが、溶解度は向上しなかった。この結果は、分子の平面性や疎水性によるも のであると考えられる31。
ここで、本系統の結合様式を確定するため、株式会社創晶に依頼し、得られた化合物75を用いて、PDE7 の共結晶構造(PDB ID 4Y2B, 分解能2.2 Å)を取得した(Figure 9)。
化合物 R2 IC50 (nM) 溶解度b
PDE7Aa PDE4Ba (µg/mL)
65 370 11000 190
75 4.4 520 5.8
76 12 550 0.1
77 6.4 200 4.5
78 4.6 420 2.4
79 7.6 1100 18
25
Figure 9. 化合物75とPDE7A触媒部位の共結晶構造 (PDB ID 4Y2B, 2.2 Å resolution)。a) 結合領域にお ける化合物75(緑色)の複合体。水素結合を点線で表し、重要な水分子を記載。b) Maestro 9.8で生成し た2次元相互作用図。c) チエノピリミジノン7位周辺におけるPDE7結合ポケットの分子表面図。
本系統がPDE7に対する高い親和性を示すのに重要な相互作用を確認した。1つ目に、2-イソプロピル アミノチエノピリミジノンが、Gln413及び水分子に対して水素結合を形成していた。この水分子は、
Tyr211及びAsp362と水素結合することにより、安定化されていると考えられた。この水分子との水素結
合が存在するため、2位NH基が重要であったと言える。2つ目に、チオフェン環は、Phe416のベンゼン 環とπ-π相互作用を有し、Phe384のベンゼン環とCH-π相互作用を示した。7位のピリジン環は、Leu401
とLeu420の側鎖に挟まれているが、飽和環の導入を許容できるスペースが存在していた(Figure 9c)。し
たがって、飽和環として7位ピペリジン体および7位ピロリジン体の合成を検討した(Scheme 8)。臭化 物74とボロン酸エステル体80をカップリングした後、水素添加による還元、Boc基の除去により、ピペ リジン体82を得た。化合物82のピペリジン環を修飾することにより、4-ピペリジン誘導体83-85を得た。
また、臭化物74とケトン体86および87から系内で生成したトシルヒドラジンをカップリング33するこ a
)
b)
c)
Gln413 Leu401
Tyr211 Asp362
Phe416 Phe384
H2O
Leu401 Leu420
c)
26
とにより、ジヒドロピロール体90とテトラヒドロピリジン体91をそれぞれ得た。水素添加とBoc基の 除去の後、アミド化することで、3-ピロリジンおよび3-ピペリジン誘導体92-97を得た。
Scheme 8. 7位ピペリジン体および7位ピロリジン体の合成の反応条件: (a) 80, Pd(OAc)2, PPh3, sat. NaHCO3
aq., DMF, EtOH, 90 °C, 98%, (b) H2 (3 atm), Pd(OH)2, MeOH, rt, 25-84%, (c) 4 mol/L HCl in EtOAc, rt, 46-97%, (d) acetone, NaBH(OAc)3, DCM, rt, 14%; (e) 2-fluoropyridine, K2CO3, DMF, 100 °C, 11%; (f) Ac2O, Et3N, DCM or DMF, rt, 55-66%, (g) 86 or 87, Pd2(dba)3, X-Phos, TsNHNH2, LiOt-Bu, 1,4-dioxane, 110 °C, 25-39%; (h) R-COCl, Et3N, DCM, rt, 61-63%; (i) R-CO2H, WSC, HOBt, Et3N, DMF, rt, 47-56%.
7位ピペリジン及び7位ピロリジン誘導体のプロフィールをTable 9に記した。
27
Table 9. 7位ピペリジンおよび7位ピロリジン誘導体のin vitro活性と水に対する溶解度
aIC50値は、2試験以上の平均値。bIC50値は、4試験以上の平均値。cND; 未測定。d50 mMリン酸緩衝液を用いて測定(pH 6.8、室温)。
化合物 R2 IC50 (nM) 溶解度d
PDE7Aa PDE4Ba IL-2b (µg/mL)
82 190 14000 NDc 1100
83 170 25000 > 3000 350
84 6.8 440 > 3000 0.0
85 20 1500 2000 74
92 5.1 560 750 230
93 15 1900 NDc 470
94 1.5 380 760 21
95 2.7 200 290 38
96 1.4 140 270 64
97 3.3 46 150 150