入門期における言語発達に関する臨床的研究(その 2)
4月から 9月にかけての児童の言語発達に着目して‑
河 野 順 子 *
Clinical Study to Language Development During the Introduction Period (Part 2)
‑ Focusing on Language Development in Children from April to September ‑ Junko KAWANO
Abstract
The purpose of this study was to determine the requirements that lead to language development in children, through observation of participants of the educational guidance (morning meeting and/or J apanese class) by Sumiko Ha‑
shimoto during the introductory period (April ? September of 1st grade) at Kumamoto City Honjo Elementary School.
As a result of observation of participants for 7 months, it was clear that the following approach of the teacher was important for the language development in children in the introductory period.
First, following matters were clearly identified through the comparison of morning meetings in April and September.
As generally known, children in the introduction period learn many things from what the teacher says. In the case of Ms. Hashimoto, she tried to draw out the life experiences, feelings, and impressions of the children, while building a relation‑ ship with them. Also, through this approach, she employed response‑related speech, such as asking the children questions and speaking to them with words of approval. These response‑related words became familiar to the children by September, and began to connect them with others. (Consideration 1)
Next, the following matter could be determined by the comparison of the J apanese class in April and September.
Ms Hashimoto devoted herself to the' cultivation of secondary‑order lan‑ guage", in other words, how much each child expressed him/herself to others in the class. In particular, she creatively internalized the viewpoint of others" to the learners, by introducing indirect dialogue" through direct dialogue". Also, when the children came in contact with such words, she helped them gain language physically and through realization, through the mutual discussion between learners, based on the life experiences of the children. In this way,secondary‑order lan‑ guage" began to emerge from the chi1dren. (Consideration 2)
1 .はじめに
筆者は,現在,日本の学校教育が「学級崩壊」
*熊本大学教育学部
などの深刻な現象を引き起こしている状況の中で,
個人の学習・発達におよぽす社会文化的環境要因 の究明を通して,今,学校教育において必要な学 習指導の原理を見出すことが必要だと考えている.
そこで,入門期における国語科の学習指導の原理
入門期における言語発達に関する臨床的研究(その2)
について社会文化的アプローチからの究明を進め ている.
筆者は,これまで入門期における先行実践(土 田茂範,小西健二郎,三上敏夫ら)の分析や熊本 大学附属小学校との共同研究 (2006)を通して,
入門期の学習指導を成り立たせている学習指導原.
理 の 究 明 を 行 っ て き た ( 河 野2005a,2005b, 2006).
さらに,本紀要23号では,現在進行中の実践現 場(教室)への参与観察を通して,入門期の学習 者の言語発達を促す実践原理の究明を試みた.
2004年度から熊本市立本荘小学校の異学年交流の 取 り 組 み (1年生中島尚子先生 2年生橋本須美 子先生)を継続的に観察するなかで,入門期にお ける児童の言語発達を促す実践原理を次のように 抽出したのである.
① 1年生が自由に物語ることのできる「感性的 コミュミケーションJの土台づくりが必要であ る.
② 2年生との異学年交流に見られるように,他 者とかかわり,自己内対話を生成できる言葉の 学びの開拓が必要である.
③人と関わることを基点とした言葉の学びの方 法として, rお手紙」を書くことが有効である.
本稿では,入門期の言語発達を, 4月""'9月と いう縦断的視点によってさらなる究明を進めたい.
研究方法として,以下のような方法をとる.
まず,毎週金曜日に橋本学級で行われる朝の会 に着目して, 6月と 9月において教師の発話機能 がどのように変化したか,また,その結果,児童 がどのように変容したかを明らかにする.
次に, 4月から 9月にかけての国語科授業に着 目して,そこで学習者の「一次的ことば」から
「二次的ことばJl)へと誘うために橋本教諭がど のような指導を行っているか,その特徴を明らか にする.
こうして,橋本学級における入門期の言語発達 のありょうを,言語環境としての教師の発話や指 導上の特徴から見出すこととする. (なお本稿の 児童名は全て仮名である.)
2 .朝の会を通しての児童の変容 朝の会における教師の発話を,く表1>のよう な機能カテゴリー2)に分類し, 6月と 9月の変化 を見ることにしたい.
この発話機能のカテゴリーについて, 6月と 9 月とを比較したのが<表2>である.
橋本学級の朝の会は,係りの挨拶→日直の紹介
〈表1>
カテゴリ
一
説明
指示
促し
代行
繰り返し
修復
精般化
質問
注意
賞賛
呼 び か け・語り かけ 確認
その他
く表2>
発話 説明 京訴 促し 代行 繰り返し 修復 精轍化 質問 注意 賞賛 呼びかけ 確認 その他
‑92‑
基準
内容や意味をよくわかるよ うに話す。
次に行うべき児童の発言や 行動を、直謝句に示す。
次に行うべき児童の発言や 行動を直接的な指示をせず に間樹切こ示す。
児童が発言すべきことを代 わりに発言する。
児童の発言をそのまま繰り 返すユ
児童の発言を、文法的にE確 な形に直したり、内容を補う 形で繰り宏九
児童の発言について、内舗句 により深める。
質問形になっている発言を 全て勧。
児童の発言キ行動について 気をつけるように言う。
児童の行動や発言をほめる。.
子どもに語りかけ・子どもの 言葉を受け止めるという応 答関係、の発話
子どもの発言を受け、その真 意を確かめるように言う。
郡市制虫り言キ指名
一
6月13日 11.8% (45回 1.8 (7) 6 (1 9) 2.4 (9)
2.9 (11) 7.6 (29) 6.6 (25) 22.6 (86) 0.8 (3) 4.7 (18) 16.6 (63) 17.2 (60) 1.3 (5)
発話例
まさとさんのおかあさんは 文化委員なんです。 6.13
日直さん、前に出て。 6.13
さあ、日直さんどうそ九6.13
無言の児童のかわりに「よ うすけにいさんですね。 J 6.13
児童が「ありがとうござい ます‑;'Jといったあとに閉じ 言葉を繰り返すユ 6.13
「サッカーJ と児童が言つ たあとに、「サッカーをしま
しむ J6.13
『ゲームオーノ〈ーJの児童 の発言の後に、「一人では使 えないってことでしよ。j
9.29
『どこにやりましたか ?J 6.13
「それはだめです。 J6.23
「すこ九、で付;)"J6. 13
「さあ、しっかり聞きまし ょう。J6.13
「っかまえることはしなか ったのね J9.29
9月29日 12.1% (7回
O (0) 19 (11) O (0) 6.9 (4) 3.4 (2) 10.3 (6) 17.2 (10) O (0) 1.7 (1) 13.8 (8) 13.8 (8)
1.7
→日直の一言→健康観察という流れで進行する.
子どもたちが次の人へつないでいくというスタイ ルが基本である.それに先生の特別な話が加えら れたり,子どもたちの特別な発言が加わったりす る形で進行することが多い.例えば,最後の健康 観察では,子どもたちが自らの健康状態について 報告し,一言感想を言う.それに他の子どもが関 わって自然な発言が生み出されている.
6月と 9月とで,発話数が大きく異なっている のは次の理由による.橋本教諭は入門期のクラス づくりの中心的な目標を「人と関わることJに置 いており,その関わりの中で子ども側からの言葉 が生み出されることが重要だと考えている.つま り 4月 5月 6月中句くらいまでは,朝の会 がどの子にとっても自分の居場所を見出すための 子ども相互の関わり合いの場であり,どの子ども も表現できる場を保障していった.その結果,朝 の会の時間を長くとることになって,発話の数も 多くなっている.
く表2>から橋本教諭の発話の特徴としてあげ られる点,及び, 6月と 9月の比較の結果,変化 が顕著にみられる以下の点に着目して考察を行う.
①発話に見られる多用される「質問Jの意味
② 発 話 に 見 ら れ る 「 促 しJの増加の意味
③ 発 話 に 見 ら れ る 「 修 復 」 の 減 少 と 「 精 微 化Jの増加の意味
2.1. 発話において多用される「質問Jの意味 4月の段階では,橋本教諭が子どもたちの名前 を呼んで,一人ひとりに関わっていくという時間 が多く設けられていた.前述のような朝の会のス タイルが形式化されていったのは, 5月末くらい からである.
橋本教諭の発話の一つの特徴として,
r
質問」が多用されることを挙げることができる.特に橋 本教諭の場合,教師から子どもへ向けての一方向 的,機械的な質問ではなく,子どもに語りかけて いくような問いかけ,そとに子どもの応答を期待 し,実際応答が促されていくような質問であると いうことである.
例えば 4月19日の朝の会では,
r
今日はおうちの方たちがみなさんの授業を見に来られます.
楽しみですか.Jというふうに,子どもに語りか けている.
こうした発話は次第に子どものものとなり 6 月13日には,<事例1>の傍線①に示すように,
「今日は天気が良くてよかったですね.Jという発 話が子どもの方から発せられている.子どもたち
の言葉を橋本教諭が受け止め,その子どもの言葉 から教師が質問し,話題を子どもたちに投げかけ,
子どもたちの言葉が生成される契機を開いている のである.
こうした教師主導の取り組みのあとに,朝の会 が子どもの司会によって進行するスタイルがとら .れているが,まだまだ子どもたちは十分に自分の 力で進行することはできない.そういうとき,橋 本教諭は次のsように子どもと子どもを教師がつな ぐ役目をしながら朝の会を子どもの側に次第にゆ だねていこうとしている. 6月13日を例に述べる.
〈事例1>
T 今日は3,4で行きます.はいじゃあ.あやのき ん,朝の会をお願いします.
T はい,じゃあ,一番は陽子さん
あやの 陽子さん…え? 陽子さん,今日の反省を話 してください.
陽 子 は い .
T さあ日直の陽子さんどうぞ.
陽 子 今 日 は6月13日の火曜日です.日直はあやのさ んです.みんなでいいましょう.…中略…
C 今日は…
G 6月
T r今日はjから,さんはい.
C 今日は, 6月13日火曜日です.日直はあやのさん です.
T がんばってください C か め は め は
陽子今日は,てん,今日は忍者ごっこがありますよ ね.今日は天気が良くてよかったですね.① T はい.楽しみです.今日は,忍者ごっこ,何に挑
戦したいですか.②昼休み.
ここでも, 4月の頃から橋本教諭が貫いてきた 姿勢が見られる.傍線①の子どもの言葉を②のよ うに受け止めて,さらに,子どもに質問の形で返 している.
このように橋本学級の言語発達は教師が子ども の言葉を受け入れ,それを質問の形で子どもたち に返し,それに子どもたちそれぞれの反応が話し 言葉で返ってくるという往還的な取り組みの中で 行われている.
さらに,く表2>から窺えるように,橋本教諭 の発話で特徴的なことは,指示や注意という教師 側からの一方向の発言行為が少なく,呼びかけや 語りかけ,受け止める発話が多発している点にあ
る.
次のく事例2>をみてみよう.
く事例2>
│洋輔陽子さんどうぞ.
入門期における言語発達に関する臨床的研究(その2)
陽子やる気まんまんです.だって,今日,洋輔さん と同じで幸子さんとサッカーをしたからです.
T あーサッカーしたんですね.①昨日サッカーの試 合があったの,皆さんは見ていないよね.
C 見てません.みよ子さんが見たって言ってます.
みよ子 お兄ちゃんが見てた.
T お兄ちゃんが見てたの.残念ながら負けちゃった んですよね.
C あっそれ,お父さんから聞きました.
C ママから聞きました.ママから.日本負けたって.
C 1‑3だって.
T そうなんですよ.②でも,一回ぐらい負けてもそ こであきらめちゃいけないよね.まさとさんね.
く事例2>の傍線①②のように,橋本教諭は必 ず子どもの発言を受け入れ,呼びかけ,語りかげ,
そして,受け止めているのである.
以上,橋本教諭の発話の特徴として,
r
質問」を多発し,返ってきた子どもの言葉を受け入れて いる様子を見ることができる.
こうして 6月の段階では,子ども→教師→子ど もというように,子どもたちの聞に言葉が生成す るように教師がその橋渡しをするような発話が多 く行われていたが 9月になるとく事例3>のよ うに子ども同士の発話のつながりが多く見られる ようになった.
〈事例3>
C みよ子さんどうぞ.
み よ 子 今 日 は9月 29日金曜日日直は幸子きんです.
がんばってください.
みよ子今日は晴れです. (次に何を言おうか考えて いるらしくしばらく沈黙が続く.橋本先生はその 様子をじっと見守っている)①
洋輔 自分で考えたことを言ったらいいよ.② みよ子 いっぱいあせをかいて元気に遊びましょう.
T 汗がでるまで遊びましょう.今日,体操をした人.
C はあい.
T 乙のごろ先生が一番遅いくらいにみんな早くなり ましたね.
幸子今から健康観察をします.陽子さんお願いしま す.
C はあい.
陽子今日の体の調子はどうですか.
C ペリーベリーベリー 陽子心の調子はどうですか.
C ペリーベリーベリー 陽子みちさんからどうぞ,
みち はい.スーパースーパーやる気満々です.だっ て昨日の話でもいいですか.③
C 1主主ミ4盈
T はい,いいですよ.どうぞ.⑤
みち 昨日.・・に行ってすいとうを忘れたとき,・
.に帰るとき蛍を見たからです. (園は聞き取れ ない部分)
T えっ? 光っていましたか.
みち (無言でいいえ)
T 蛍ほんものをみたことある人.
C はあい.
T きのうは二回も見ましたか.よかったですね.
C 本物見たことある.
T 見ましたか.つかまえることはしなかったのね.
では,まだそのへんにいるかもしれませんね.で は蛍さんに一言どうぞ.
く事例3>の①でみよ子が次に何を言おうかと 迷っているとき,②のように洋輔が促す言葉を発
している.
さらに, 9月になると,③のように子どもの方 からみんなに問いかけ,それに④のように他の児 童が応じ,話が進展している.こうした子どもと 子どもの関わりが,く事例4>の①②③④⑤⑥の ような子ども同士の言葉の連鎖へとコミュニケー ションとしての言葉が形成されていっているとと が窺われる.
〈事例4>
みよ子幸子さんどうぞ.
幸子 はい.スーパーやる気満々です.理由は二つあ ります.言ってもいいですか.①
C はい.どうぞ.②
幸子今日みよ子さんとじゃんけんをしながら来たか ちです.③
C 何回勝ちましたか.④ 幸子 7回.⑤
先生 ああ.数えたんですか.楽しかったですね.
C 楽しかったですね.⑥
幸子二つ目は,昨日のことでもいいですか.
C はい.
幸子 昨日は, まびこで洋輔さんや隼人さんとかる たをしたからです.
C よかったですね.
先生何のかるたをしたんですか.
幸子 ひらがなが出るの 先生 ひらがなが出るの.
C ひらがなができるのは面白いですよね.
2.2. 発話に見られる「促しJの増加の意味 また, 6月と 9月の違いとして「促し」が6月 よりも 9月の方がずいぶん増えていることがわか る.
これは,く事例3>の⑤の「はい,いいですよ.
どうぞ.Jのように,子どもの次なる言葉を誘っ ていくうえで効果的に働いており, 6月よりも 9 月の方が,教師が子どもの言葉を待つという姿勢
‑94‑
このように,教師の促しの言葉によって,子ど もたちに, 1こ次的ことば」としての説明の言葉 が 9月までに浸透していった.それだけ教師の言 葉は入門期の子どもにとって,信頼し得る,内面 化されやすい言葉であると考えられる.
こうした朝の会の日常的な言葉の生成の場とと もに,実は国語の授業における教師の誘いが子ど もたちの言語発達に関して重要な働きをしていた.
それについて,次に見ていくことにしよう.
が見られる.
3 .国語科の学びを通した子どもの言語発 違
3.1. r二次的ニとぱ」を誘う 4月, 段階の取組
4月, 5月と橋本教諭の国語科授業では,絵を 見て,あるいは言葉遊びを通して,あるいは,詩 との出会いを通した身体を通した読みによって,
実感として言葉に出会うという工夫が行われてい た.そして,子どもと言葉との出会いに,子ども の表現活動が随所に取り入れられていた.
5月になると,教科書の絵を見ながら語棄を増 やす学習が始まった.教科書では, 1あおいJ1う
えJ1えJ1あうJ1あいうえおjという文字が書 かれ,その背景に,青い空に飛行機が飛ぴ,その 下には女の子が家の窓から外を見ている.そして,
外では男の子と女の子が行き交っている.
橋本教諭は,その絵をもとに,子どもたちの語 棄を増やす学習を進めた.まず,クラスの中で言 語発達が上位であり,他者へ向けてもの怖じせず に説明することもできる子ども(洋輔)を指名し た.
このころになると,橋本教諭の国語科授業では,
子どもたちが他の子どもたちに向かつて説明する という「二次的ことばJを誘う手だてをとるよう になった.
4月まで,子どもたちは席についたままで,橋 本教諭に誘われるように発言をしていた.ともす れば教師と子どもとの対話になりがちな実態を捉 えて,橋本教諭は,子どもたちが発言する際にマ イクを活用し,他者へ向けて言葉を引き出そうと いう状況づくりを行っていた.子どもたちはマイ クを差し向けられると,自然に大きな声で説明す るという言語行為が引き出されていった.しかし,
そこでは,単語の羅列や,子どもたちの生活言葉
(1一次的乙とばJ)による表現が多かった. 4月 の段階では,橋本教諭は,まずは子どもたちが自 分の声を発することのできる状況づくりに努力し ていたのである.
6月 5月, 幸子ふたつめは,ふたつめは朝からポテトサラダを
食べてきたからです.
T おいしそうですね.おいしかったですか.
洋輔前ぽくポテトサラダを食べたいって言った.
豊 ぽ く も
幸子 にんじん入ってる.
T にんじん入ってますか.にんじん.
幸 子 は い . 正人きゅうりも.① T きゅうりも入ってた.② C ポテトも入っていた.
2.3. 発話に見られる「修復j の減少と「精徹 化Jの増加の意味
さらに, 1修復jが6月よりも 9月が滅り, 1精 紋化Jが6月よりも 9月が増えているのは,児童 の言語発達が進行していることを示していると考 えられる.
例えば, 6月では,<事例5>の①のように子 どもたちが単語で物事を指し示し,それに対して 教師が②のように文として補足するという発話状 況が見られた.
く事例5>
こうした発話状況だったのが, 9月になるとく 事例6>のような発話が見られるようになった.
〈事例6>
二つ目は.
二つ目は.
二つ目は,遊びゲームを思いつきました.
説明できますか.
(前に出ながら)あのね フルーツバスケット.
フルーツバスケット.
そう?
うん.
わかる人./C はあい.c 知ってる.
椅子を.① /T椅子を一個?②
残りがなくなったらゲームオーパーです.③ ゲームオーバー.一人では使えないってことで しょ.④
そうです.
寛T寛T寛
C T
寛T
寛 寛
T
C
ここでは,フルーツバスケットについて説明し ている寛の①③について,教師が④のように教師 なりの解釈を加え,説明を精鰍化している.
寛は, 4月に韓国から来たばかりでまだ日本語 が十分ではない.したがって,①のように寛の発 言は単語で終わりがちであった.こうした寛の発 話状況のもと,教師が思わず②のように促しの言 葉を入れている.
入門期における言語発達に関する臨床的研究(その2)
は「単語jから「文」へと広がっている.さらに,
洋輔のあとに,言語発達にまだ問題を抱えている 紘子を指名し,洋輔と同じように「名人の席」へ
と誘っている.
「名人の席」という場所.まだまだみんなへ向 けての言葉が十分に発達しきれてはいない未熟な 言語行為者ではあるが,どの子も発言したい,表 現したいという意欲にあふれでいる一年生.その どの子にも表現する機会を安心した場,学習者が 自分の存在感を確かめられる場の中で達成させよ うとしている配慮は,言語発達をもたらす場の工 夫として注目したい.しかも,その「名人の席」
は,みんなの前に用意されており,そこに座って 話すということは,自然に他の人たちに説明する
という行為を促すことになる.
紘子は発言を始めた.もちろん,洋輔のように はいかない.言つては口ごもり,沈黙の時聞が来 る.しかし,橋本教諭はけっしてあせらせない.
その待ちの姿勢が,子どもたちに友だちの言葉を じっくりと待ち浸る時間の大切さを体を通して味 わわせていく.それでも,紘子の口から言葉が出 てこないと,傍に寄り添うように座っている橋本 教諭が紘子に,く事例8>の傍線①のように,
「直接的対話」で尋ねる.紘子は教室の中でも一 番安心して受け入れてくれる存在である橋本教諭 の問いかけに思わず答えていく その言葉が他の 子どもたちに伝わっていく.
その様子をく事例8>に示す.
〈事例8>
それが, 5月を迎える頃には,子どもたちの発 言が教室という場を共にしている他の子どもたち への説明行為として成立するように仕向けていた.
他者とのかかわりを通して言語発達を具現化しよ うとしていたのである.
洋輔を指名した橋本教諭は,
r
今日は名人席で 発表してもらいましょうか.Jと前の椅子の席に 彼を誘った.洋輔はその席に座るなり,他の子ど もたちへ向かつて, <事例7>のように発言を始 めた.く事例7>
あおいそら /C あおいそら やねのうえ /C やねのうえ
えんとつのえ /C えんとつのえ りんごのえ /C りんごのえ 家が建つ /C 家が建つ
ともだちとあう /C ともだちとあう 輔
輔 輔 輔 輔 輔 洋 洋 洋 洋 洋 洋
紘 子 空 の 上
T 空の上には何があるんでしょうか?① C ひこうき
紘 子 上 を 見 る .
T いいこと言いますね.
紘 子 家 に 入 る .
C あっ,えんとつ.
紘子 えんとつからけむりが出る.
紘子歩いているときに,人に会う.
T 紘子先生,たくさんでましたね.
紘子 りんごのえがかぎられている.
紘子 あおいそらからみるひこうき② T 青いのは空かな? ひこうきですか?③ C 主主盆
T じゃ.ひとうきからみるあおいそらって言ったほ うがよさそうよ.⑤
紘子 ひとうきからみるあおいそら.⑥
まだ言語発達が十分ではない紘子は,②のよう に構文上の誤りをおかす.それを橋本教諭は③の ように,紘子と他の子どもたちに尋ねる.すると,
‑ q民 一
洋輔の発言の後に,く事例7>のように,他の 子どもたちの発言が続いていったのである.
それまで他の子どもたちの発言は単語にとど まっていたのだが,洋輔は文を発表し始めた.そ の様子を見て,橋本教諭はすぐに次のような聞い で子どもたちへと返していく.
「どんなところがすごかったか,わかった ?J
この橋本教諭の問いかけに,愛子が「友だちと 会うといったのがすごかったです.Jと答える.
「ただ会うというのではなくて,友だちに会うと いうふうに文にして答えたのよね.すごいね.こ んなふうに答えることができるようになってきま した.では,次は紘子さんどうぞ.Jと述べて,
今度は,まだ他者意識も言語行為も心もとない紘 子を指名し,洋輔と同じように名人の席に誘った.
橋本教諭のこうした行為は,何気ない行為のよ うに見える.しかし,それは,橋本教諭の子ども 理解の確かさと,どの子どもも教室の中で自分の 存在感を持たせ,自信をもって自己表現できるよ
うにするための教師としての力量がなせる業であ ると思われる.
どの子どもも表現することを望んでいる.しか し,どのように表現すればよいのかという術を知 らないこと,あるいは自信のなさが表現する機会 を失わせ,その結果として豊かな言語発達を阻害 していることがある.橋本教諭が洋輔をまず指名 したのは,洋輔がこれから始まる学習においてみ んなを先導してくれる存在であると捉えたからで あろう.そして,洋輔の発言をみんなへ広げてい くような考える場が設定され,子どもたちの表現