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第4章 タイにおける移民労働者受け入れ政策の現状と課題—メコン地域の中心として

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(1)

と課題 メコン地域の中心として

著者

山田 美和

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

シリーズタイトル

研究双書

シリーズ番号

611

雑誌名

東アジアにおける移民労働者の法制度 : 送出国と

受入国の共通基盤の構築に向けて

ページ

141-177

発行年

2014

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00011237

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タイにおける移民労働者受け入れ政策

の現状と課題

―メコン地域の中心として―

山 田 美 和

はじめに

 国際労働移動からみる東アジアにおけるタイの特徴は,移民労働者の受入 国であり,かつ送出国である点にある。タイは,ミャンマー,ラオスおよび カンボジアから数百万人の非熟練労働者を受け入れると同時に,やや熟練し た労働者を年間15万人程度海外へ送り出しており⑴,東アジア全体における 労働移動においてメコン地域のハブとして存在する(RTWG 2008)。公式な 数字で2012年12月末現在203万551人⑵,非公式にはその1.5倍とも 2 倍ともい われる数の隣国 3 カ国からの労働者を抱えるタイ政府の移民労働者に対する 政策は,その近隣諸国はもとよりアジア地域の労働市場全体に与える影響が 大きい⑶  本章では,タイにおける移民労働者の受け入れに焦点を当て,その政策と 制度の現状と課題を分析する。タイ政府は,陸続きで国境を接する近隣諸国 からの労働者をどのように積極的にまたは非積極的に受け入れてきたのか。 自国からの送り出し労働者数を圧倒的に凌駕して数多く流入する,近隣諸国 からの労働者に対して,どのような政策をとり,どのような問題をどのよう に解決し,いまだどのような課題を有しているのか⑷。同時にタイの自国民

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の送り出しにかかる政策やその課題にふれながら,送出国と受入国としての 共通の問題点を浮かび上がらせる。  結論を先取りすれば,タイが移民労働者の受入国として抱える問題は,二 国間合意,斡旋業者,労働者の搾取および非正規労働者に関する問題という, タイが移民労働者の送出国として直面している問題と類似している。その問 題の根底には,移民労働者を雇用サイドの需要に応じる暫定的な労働力とし てのみとらえる政策の前提にある。タイ政府は,ミャンマー,ラオスおよび カンボジアからタイへの移民労働者の流入という現状を形式として追認する 受け入れ政策をとっている。端的にいえば,それは長期的展望に欠ける,短 期的措置の繰り返しである。現状追認であるならば,すでに長期にわたりタ イに滞在する者に対して,その地位を安定させる政策や,家族統合も可能に させる政策が望まれる。  本章の構成は,第 1 節においてタイへの隣国ミャンマー,ラオスおよびカ ンボジアの 3 カ国からの移民労働者の概要を述べ,第 2 節でタイの移民労働 者の受け入れ政策の変遷をたどり,第 3 節でタイと隣国 3 カ国との労働者雇 用に関する覚書と移民労働者の国籍証明手続の関係について論じ,第 4 節で タイの移民労働者政策の問題と課題を論じる。

第 1 節 タイへの隣国 3 カ国からの労働者の概要

 タイにおける隣国 3 カ国からの労働者数の合計は,2012年12月末時点で, 203万551人である。その内訳は表 1 にあるように,後述する国籍証明を完了 し滞在・就労する者は133万1627人,タイ政府と出身国政府との二国間覚書 に基づき入国・就労する者は21万1789人,その合計154万3416人が「合法に」, 残り48万7135人が「半合法に」タイに滞在し就労している。  表 2 は,2009年12月時点における 3 カ国からの労働者数を業種別,男女別 に示している。多い順に,農業・畜産,建設,水産加工,家事労働,農産加

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工,漁業,食品販売,縫製業である。以下は卸売り・小売り・移動販売,プ ラスティック製品,リサイクル業,金属製品販売,建築資材,運輸,肉加工, 陶器製品製造販売,車両修理,石材加工,燃料・ガス,鉱山・採石,電気製 品,紙製品に分類されている。注意すべきは,業種類別「その他」として, 列挙された業種に分類されていないその他の製造・加工工場やサービス業 (レストラン,ホテルその他店舗における接客,清掃など)に従事している者が いることであり,その人数は最多業種の農業・畜産の人数を上回る。「その 他」の分類にさまざまな業種が大雑把に包含されているため,移民労働者が いかなる業種に従事しているかの実態が正確な数字に表れていない。  隣国 3 カ国からの労働者のうち,ミャンマー人は82.1%を占める⑸。ミャ ンマー人労働者はタイ全国におり,もっとも多いバンコクに19万5000人,次 にサムットサコーン県に15万8000人,チェンマイ県に 6 万6000人が続く⑹ ミャンマー人労働者の業種別就業人数からみると,その他に分類されている のが19.7%でもっとも多く,つぎに農業で16.6%,続いて建設業16.2%,水 産加工業12%,家事労働9.4%である。なお漁業労働者は3.6%しか占めてい ないが,漁業労働者の多くは船上で過ごすため,登録をせず労働許可をもた ずに就労している者が多く,実際には統計に表れないかなりの数のミャン 表 1  タイにおける隣国 3 カ国からの労働者数(2012年12月31日現在) (人) ミャンマー ラオス カンボジア 合計 国籍証明手続未了者合計 198,701 126,812 161,622 487,135   国籍証明手続未了者* 171,227 27,793 21,438 220,458   国籍証明手続未了者** 27,474 99,019 140,184 266,677 国籍証明手続完了者 1,179,341 34,999 117,287 1,331,627 二国間覚書による労働者数 36,326 37,507 137,956 211,789 合計 1,414,368 199,318 416,865 2,030,551 (出所) タイ労働省雇用局資料より筆者作成。 (注) * 2010年 2 月28日時点で労働許可を取得し2012年 2 月28日までに国籍証明手 続を完了すべきだった者。    ** 2011年夏に新規に登録・労働許可を取得し2012年 6 月14日までに国籍証明 手続を完了すべきだった者。

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表 2   隣 国 3 カ 国 か ら の 職 業 別 労 働 者 数 ( 20 09 年 12 月 現 在 ) ( 単 位 : 人 ) 職 種 3 カ 国 合 計 ミ ャ ン マ ー ラ オ ス カ ン ボ ジ ア 男 女 合 計 男 女 合 計 男 女 合 計 合 計 1 ,3 14 ,3 82 59 1 ,3 70 48 7 ,3 97 1 ,0 78 ,7 67 52 ,9 80 57 ,8 74 11 0 ,8 54 78 ,9 45 45 ,8 16 12 4 ,7 61 漁 業 56 ,5 78 34 ,4 96 5 ,3 13 39 ,8 09 1 ,1 53 64 7 1 ,8 00 13 ,2 08 1 ,7 61 14 ,9 69 水 産 加 工 13 6 ,9 73 60 ,4 77 69 ,2 96 12 9 ,7 73 62 9 55 1 1 ,1 80 3 ,0 44 2 ,9 76 6 ,0 20 農 業 ・ 畜 産 22 1 ,7 03 11 0 ,4 41 69 ,1 42 17 9 ,5 83 11 ,3 55 6 ,6 80 18 ,0 35 15 ,1 41 8 ,9 44 24 ,0 85 建 設 22 0 ,2 36 11 2 ,2 04 62 ,9 32 17 5 ,1 36 8 ,4 69 4 ,1 66 12 ,6 35 21 ,5 02 10 ,9 63 32 ,4 65 農 産 加 工 65 ,3 05 35 ,4 08 19 ,5 85 54 ,9 93 2 ,2 09 1 ,4 68 3 ,6 77 3 ,9 30 2 ,7 05 6 ,6 35 肉 加 工 8 ,8 52 4 ,8 77 2 ,7 41 7 ,6 18 47 8 31 4 79 2 29 6 14 6 44 2 リ サ イ ク ル 業 13 ,1 72 6 ,0 07 3 ,5 90 9 ,5 97 90 6 45 4 1 ,3 60 1 ,3 65 85 0 2 ,2 15 鉱 山 ・ 採 石 1 ,8 43 1 ,2 10 53 7 1 ,7 47 20 15 35 40 21 61 金 属 製 品 販 売 12 ,5 56 6 ,6 17 2 ,7 53 9 ,3 70 1 ,4 79 71 2 2 ,1 91 73 8 25 7 99 5 食 品 販 売 54 ,2 25 19 ,3 78 17 ,2 90 36 ,6 68 4 ,8 33 8 ,2 41 13 ,0 74 2 ,2 62 2 ,2 21 4 ,4 83 陶 器 製 品 製 造 販 売 5 ,8 79 2 ,8 71 1 ,9 97 4 ,8 68 21 2 11 0 32 2 43 2 25 7 68 9 建 築 資 材 11 ,4 41 6 ,3 37 2 ,8 05 9 ,1 42 87 1 42 5 1 ,2 96 67 3 33 0 1 ,0 03 石 材 加 工 3 ,5 43 2 ,0 21 1 ,0 30 3 ,0 51 18 8 75 26 3 15 3 76 22 9 縫 製 49 ,5 01 16 ,9 93 24 ,6 48 41 ,6 41 2 ,7 38 3 ,3 83 6 ,1 21 67 3 1 ,0 66 1 ,7 39 プ ラ ス テ ィ ッ ク 製 品 16 ,9 54 8 ,0 64 4 ,8 76 12 ,9 40 1 ,5 34 1 ,1 39 2 ,6 73 78 2 55 9 1 ,3 41 紙 製 品 2 ,5 69 1 ,2 56 77 5 2 ,0 31 23 9 16 0 39 9 81 58 13 9 電 気 製 品 2 ,5 95 1 ,3 58 74 3 2 ,1 01 19 8 14 4 34 2 93 59 15 2 運 輸 9 ,5 96 4 ,4 31 2 ,0 62 6 ,4 93 39 3 20 8 60 1 1 ,7 26 77 6 2 ,5 02 卸 売 り ・ 小 売 り ・ 移 動 販 売 42 ,8 14 18 ,6 04 11 ,8 67 30 ,4 71 3 ,9 94 3 ,5 71 7 ,5 65 2 ,8 95 1 ,8 83 4 ,7 78 車 両 修 理 5 ,6 31 2 ,8 39 1 ,1 40 3 ,9 79 86 5 41 1 1 ,2 76 26 1 11 5 37 6 燃 料 ・ ガ ス 3 ,4 39 1 ,5 54 82 7 2 ,3 81 51 8 25 9 77 7 17 0 11 1 28 1 教 育 ・ 財 団 83 7 32 0 41 4 73 4 26 41 67 20 16 36 家 事 労 働 12 9 ,7 90 16 ,9 77 84 ,9 68 10 1 ,9 45 3 ,2 27 18 ,0 40 21 ,2 67 1 ,4 22 5 ,1 56 6 ,5 78 そ の 他 23 8 ,3 50 11 6 ,6 30 96 ,0 66 21 2 ,6 96 6 ,4 46 6 ,6 60 13 ,1 06 8 ,0 38 4 ,5 10 12 ,5 48 ( 出 所 )  H ug ue t a nd C ha m ra tr ith ir on g ed s. ( 20 11 )。 ( 注 )  本 表 は 20 09 年 12 月 現 在 の 数 字 で は あ る が , 業 種 別 労 働 者 数 と し て 公 式 に 把 握 さ れ た 数 字 が 最 多 で あ り ( 実 際 の 労 働 者 数 が 最 多 で あ っ た わ け で は な い ), こ の 数 字 が 移 民 労 働 者 の 就 業 職 種 の 分 布 を み る に は 現 在 の と こ ろ 最 も 有 効 で あ る 。 こ れ ら の 数 字 は 「 ミ ャ ン マ ー , ラ オ ス お よ び カ ン ボ ジ ア 国 籍 の 違 法 入 国 外 国 人 労 働 者 の 就 業 許 可 証 交 付 申 請 結 果 」 と し て タ イ 労 働 省 雇 用 局 に よ っ て 記 録 さ れ て い る 。

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マー人漁業労働者がいると推量される⑺。ラオス人やカンボジア人に比して ミャンマー人の割合が多いのは,水産加工,建築資材および縫製業である。  ラオス人は 3 カ国からの労働者合計の約8.4%を占める。女性が男性より も5000人ほど上回り,その31%が家事労働であることが特徴である。男女合 わせて多い職種は,家事労働19.1%,農業16.2%,食品販売11.7%であり, その他が11.8%を占める。ミャンマー人やカンボジア人に比して,家事労働 者が圧倒的に多く,それはタイ語とラオス語の近しさゆえである。また食品 販売や流通に占める割合も多い。ラオス人の約 3 割は,バンコクに住み,つ ぎに中部タイのノンタブリー県,パトゥムターニー県や東部のチョンブリー 県に多い。  カンボジア人は 3 カ国からの労働者合計の約9.5%を占める。カンボジア 人が従事する職種は建設業が26%でもっとも多い。次に農業19.3%,漁業 11.9%となり,その他10%と続く。ミャンマー人およびラオス人に比してカ ンボジア人の割合が多いのは,漁業,農業および建設業である。また男女比 で男性が 6 割強を占めるのもカンボジア人の特徴である。就労地域としては, バンコクに約 2 万人おり,チョンブリー県,ラヨーン県,トラート県などの 東部タイに約半数が居住する。

第 2 節 移民労働者の受け入れ政策の変遷

 タイにおける隣国からの移民労働者の問題は,その経済的社会的インパク トの大きさにもかかわらず,タイ政府が 5 年ごとに策定する国家経済社会開 発計画に明記されたことはなかった⑻。直近の2012~2016年第11次計画にお いて初めて移民労働者に言及しているが,その流入をリスクとしてとらえ政 策としては管理方法の改善とデータベースの作成が挙げられているだけで中 長期的指針はない。1990年初頭から20年間にわたり,タイ政府は,実態を後 追いし肯定する対策を短期的スパンで繰り返してきた。

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1 .移民労働者の登録・労働許可制度の始まり  1990年代初頭国際政治における冷戦の終焉によってチャートチャーイ政権 は,インドシナ半島を戦場から市場へと政策転換し,閉鎖していた国境を開 放し貿易を振興した。タイ経済はすでに輸出志向型にシフトしており,地方 からバンコクや工業地帯への労働移動,さらには海外への労働移動,さらに は中等および高等教育の普及によって農業,漁業,食品加工業,家内労働な どの産業への就労が減少した。いわゆる非熟練労働者が不足し,その穴を埋 めるように近隣諸国から労働者がタイ国内へ流入してきた。タイ政府は,非 熟練の外国人労働者を公式に容認する政策はとっていなかったが,制度設計 よりも実態が先行した。労働者の雇用を望む経済界の要請をうけ,1992年に タイ政府は,国内ですでに雇われているミャンマー人労働者を登録し労働許 可を発給する制度を開始した。当初の対象はミャンマー国境に接する10県お よび限定した業種であったが,1993年には沿海部の22県および漁業,1996年 には39県および 7 つの業種に,さらに対象者にラオス人およびカンボジア人

労働者を加え,2002年には全県に適用された(Huguet and Punpuing 2005, 34)。

1992年にはミャンマー人706人が登録されたにすぎなかったが,1996年には ミャンマー,ラオスおよびカンボジアからの労働者合計37万2000人が登録さ れ,タイ労働省は当時すでに約90万人の登録していない外国人労働者がいる

と概算していた(Scioritino and Punpuing 2009, 56)。タイの経済成長にともな

って,隣国からの労働者数は右上がりに増加した(Chantavanich, Vungsiriphisal

and Laodumrongchai 2007; Huguet and Punpuing 2005; Sciortino and Punpuing 2009)。

 その制度は,非熟練の外国人労働者を受け入れるという新たな立法による ことなく,時々の閣議決定によって,労働者を登録させ労働許可を与え管理 しようするものであった。旅券や査証もなく入国手続を経ずにタイにいる近 隣諸国からの労働者は,タイの1979年(仏暦2522年)入国管理法第12条に照 らせば強制退去の対象であるが⑼,同法第17条による内務大臣権限によって, 登録をすればタイでの滞在を認められるとした⑽。また1978年(仏暦2521年)

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外国人就労法は,農業,建設などを含む単純労働への外国人の就労を禁止し ているが,同法第12条による内務大臣権限によって,隣国 3 カ国からの労働 者の雇用を特定の業種において一時的に認めるという運用がなされた。この ように入国管理法上は不法入国でありながら,「半合法」の移民労働者の雇 用が常態化された。ミャンマー,ラオスおよびカンボジアから不法入国した 移民労働者について1996年に確立された登録・労働許可の手続きは,次のと おりである。労働者は,①内務省地方事務所で外国人登録をし,②指定病院 で健康診断を受け,保険料を支払い,そして③労働省雇用局地方事務所で労 働許可を申請し取得をする。  この制度はアドホックな閣議決定によるものであったため,手続きの実施 時期が不定期であり,新規の登録者を受け付けたり,既存の登録者の更新し か認めなかったり,労働許可の有効期間は半年であったり 2 年であったりな ど,雇用主はもとより労働者が適宜対応することが困難であった⑾。そのた め登録者数は,2004年の128万4924人をピークとした後,手続きの複雑さ, 費用の高さや制度と運用実態の乖離のため年々減少し,2008年の登録者数は ピーク時の 3 分の 1 であった。隣国 3 カ国からの労働者は,登録をさせ労働 許可を付与しているが,タイの公式統計上は違法入国外国人労働者であった。 2 .移民労働者受け入れ政策の転換―「半合法」から「合法化」へ―  タイ政府は,国内にいる近隣 3 カ国からの労働者に対する不定期の登録と 労働許可の発給を繰り返してきたが,タクシン政権下の2003年国家安全保障 評議会における外国人労働者政策指示によって,それまでの「半合法」労働 者ではなく,「合法」労働者を受け入れる政策を打ち出した。政府が把握で きない外国人労働者は国家安全保障,保健衛生,社会保障上などタイ社会に 悪影響を及ぼすとして排除し,「合法」にミャンマー,ラオスおよびカンボ ジアから労働者を受け入れる政策である。複数の省庁からなる違法外国人管 理委員会を執行機関とし,その具体策は,①労働省を窓口とする新規の合法

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移民労働者の斡旋・雇用,②「半合法」移民労働者の「合法化」,すなわち 出身国政府による国籍証明の取得の義務化,そして③不法移民労働者の取り 締り強化からなる。  この政策の第 1 項目としてタイ政府は,政府間の手続きによる労働者の雇 用に関する覚書をラオスと2002年に,カンボジアおよびミャンマーと2003年 に締結した⑿。隣国 3 カ国からの労働者は,覚書にしたがって各国の労働省 同士を窓口として斡旋・雇用され,出身国政府発行の旅券をもちタイ政府か ら査証の発給を受け,タイの入国管理法上も合法に入国し,滞在し,就労す る。  政策の第 2 項目である「半合法」移民労働者の「合法化」は,すでにタイ に不法入国,不法滞在,不法就労している労働者に対する措置である。これ まで1979年入国管理法および1978年外国人就労法にある大臣裁量による時々 の閣議決定で登録させ労働許可を与えてきた者に対して,出身国政府が発行 する国籍証明・渡航文書の取得を義務化した。登録・労働許可手続では,外 国人労働者は出身国政府発行の旅券や身分証を必要とせず,たとえば自らが カンボジア人と名乗ればそれで足りた。それを改めタイ政府は,「合法化」 手続として,隣国 3 カ国との合意に基づき,タイにすでに滞在し就労してい る労働者に,出身国政府から国籍の証明を受け,旅券(タイ国だけで通用す る)を受給し,タイ政府から査証を受けるよう求めた。合法化手続からもれ た者は,政策の第 3 項目にあるように不法移民労働者として強制退去とする 政策意図であった。 3 .2008年外国人就労法  タイ政府は,1978年外国人就労法を廃止し,2008年 2 月28日に2008年外国 人就労法を公布した⒀。表 3 は本法の概要を示す。本法は,外国人の就労を 禁止する業種を特定していた旧法と異なり,外国人が就労できる業種を省令 で定める(第 7 条)。旧法にはなかった規定としては,非熟練労働者の雇用

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に対する手数料の設定(第 8 条),外国人労働者のタイ国から出身国への送 還費用基金の設置(第29条)やかかる基金を管理する委員会の設置(第32条), 外国人の就労に関する政策を内閣に提言し,本法の運用に関する監督を行う 外国人就労委員会の設置(第41条),就労許可に関する労働者からの不服を 審査する外国人就労不服審査委員会の設置(第45条)などが盛り込まれた。  本法はすべての外国人労働者を対象としているが,本章が対象とするミャ ンマー,ラオスおよびカンボジアからの非熟練労働者を想定する規定と,タ イ国内への投資企業の労働者を対象とする規定は明確に分かれている⒁。同 法第 7 条は,外国人が就労できる業種について,一般の外国人とそうでない 者(第13条および第14条に規定される外国人)を区別する。ミャンマー,ラオ スおよびカンボジアからの非熟練労働者は,国名の明記はないが第13条と第 14条に相当する。第13条は,国外退去対象であるが国外退去まで就労を許可 されている者,入国管理法に違反して入国したが国外退去まで在留を許可さ れている者を対象とし,これらはミャンマー,ラオスおよびカンボジアから の「半合法」の労働者を指している⒂。第14条は,隣接する国の国籍保有者 で入国管理法に基づき,旅券の代わりとなる文書をもって入国する者は,国 境地域およびそれに隣接する地域において季節労働者として特定の業種また は特定の性質を有する業種に就労する許可を得ることができると定める。労 働許可期間は最長 2 年間であるが(第21条),第13条に規定される者(すなわ ちミャンマー,ラオスおよびカンボジアからの労働者)の更新は 1 回に限られ 最長 4 年間と規定されている(第23条)。本法に違反して,許可を有しない 外国人労働者を雇用した場合,雇用主に対しその非合法の被雇用者ひとりに つき 1 万バーツ以上10万バーツ以下の罰金が科されるのに対し(第54条), 非合法の被雇用者には最長 5 年間の禁固もしくは2000バーツ以上10万バーツ 以下の罰金もしくは両方が科される(第51条)。本法は公布日から 2 年後の 2010年 2 月28日に施行された。

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表 3  タイ2008年外国人就労法(抄訳) 第 1 条 本法の名称 第 2 条 本法の発効日 第 3 条 2521年外国人就労法および2544年法を廃止 第 4 条 本法の適用除外(外交使節団など) 第 5 条 用語の定義 第 6 条 労働省は省令によって登録料を定める。 第I章 外国人の就労  第1節 総則 第 7 条 外国人が就労可能な業種は,国家安全保障,タイ人の就労機会,国家発展の ために必要な外国人労働力の需要を勘案して省令によって定める。 これは一般の外国人と第13条および第14条に定める外国人を区別して定める ことができる。 第 8 条 特定の業種に就労するために入国する非熟練や専門を有しない者を制限する ために,大臣は内閣の承認に基づき,かかる者の雇用に対し手数料を定める ことができる。  第 2 節 就労許可 第 9 条 第 7 条に定める業種でかつ許可を得た者以外の外国人の就労を禁止する。 就労許可手続は省令によって定める。 第10条 第 9 条に定める就労許可申請を行う外国人は,タイ国内に在留する者もしく は入国許可を得た者であること。 第11条 タイ国外にいる外国人の雇用申請 第12条 投資奨励法などに基づく外国人の就労許可 第13条 第 9 条に定める申請をできない下記の外国人は,国家安全保障および社会的 影響に関する委員会の勧告に基づき内閣が定める業種に就労する許可を申請 することができる。 ①国外退去対象であるが国外退去まで就労を許可されている者 ②入国管理法に違反して入国したが国外退去まで在留を許可されている者 ③1972年12月13日付け革命団布告第337号に基づき国籍を取り消された者 ④タイ王国内で出生したが国籍法に基づき国籍を取得していない者 第14条 タイと国境を接する国の国籍保有者の国境地域における季節労働者に関する 規定 第15条 第 9 条,第11条,第13条①および②ならびに第14条によって就労許可を得た 者は送還のための費用を基金に納付する。雇用主は被雇用者の賃金からかか る納付金を控除して納付する義務を負う。 第16条 納付金の領収書の発行 第17条 納付金を未納付の場合雇用主は月利 2 %の遅延金を負う。 第18条 自己の費用で帰国した被雇用者は納付金の返還を求めることができる。

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返還は申請から30日以内に行う。それを超える場合は年利7.5%を付して返 還する。 第19条 自己の費用で帰国した被雇用者はタイ王国を出国して 2 年以内に納付金の返 還を申請する。それを超えた場合は返還されない。 かかる被雇用者がタイ王国から出国して 2 年以内に再びタイ王国で有効な就 労許可を得て就労する場合は賃金から納付金は控除されない。 第20条 被雇用者をタイから退去させなければならない場合,基金からかかる費用が 支出される。 第21条 本法に基づく許可は 2 年間有効である。ただし第12条の規定による許可は本 法に基づき許可された期間有効である。 ここに定める許可の有効期間は入国管理法上の在留許可期間を延長するもの ではない。 第22条 第12条の規定による許可の延長 第23条 さらなる就労継続を望む者は,許可の有効期限前に更新を申請する。 許可の更新は 2 年とし外国人の定住を防止するため必要な場合のみとする。 第13条①および②に規定する外国人の就労許可期間は,内閣による別途の定 めがある場合を除き,継続して 4 年を超えない。 許可の更新の申請手続は省令に定める規則による。 第24条 許可証の携帯義務 第25条 許可証を損傷または紛失した場合は15日以内に申請すること。 第26条 許可証保持者は許可された業種,雇用者,地域,場所および条件に従って就 労する。 これらの変更を望む者は省令に定める規則に従って申請すること。 第27条 何人も,外国人をその許可証に特定されている業種,地域および場所以外で 雇用してはならない。 第28条 許可証保持者がその許可の条件に違反した場合,当局は許可証を取り消すこ とができる。 第 II 章 外国人送還基金 第29条 本法,入国管理法および国外退去に関する法律のいずれかに基づき,外国人 を送還する費用のために「外国人送還基金」を設置する。 第30条 本基金の構成 第31条 本基金の使用目的 第32条 外国人送還基金委員会の設置 委員長は労働省次官,副委員長は労働省雇用局長とし,入国管理局長,外務 省,検察庁,予算局,内務省県行政局,財務省中央会計局および社会開発人 間安全保障省社会開発局からの各代表ならびに内閣の承認をもって大臣が任 命する 7 名を超えない有識者によって構成される。 第33条 委員の任期 第34条 委員の退任事項

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第35条 行政手続法の準用 第36条 小委員会の設置 第37条 委員会の権限 第38条 労働省雇用局による基金の口座の管理 第39条 会計監査官による口座の監査 第40条 会計監査官による内閣への報告 第 III 章 外国人就労委員会 第41条 外国人就労委員会の設置 委員長は労働省次官とし,国家経済社会開発委員会事務局長,国家安全保障 評議会事務局長,国家情報局長,検事総長ならびに国防省,外務省,農業協 同組合省,内務省,保健省,工業省,警察庁からの各代表ならびに雇用者団 体および被雇用者団体からのそれぞれ 3 名を超えない代表,内閣の承認をも って大臣が任命する 4 名を超えない有識者によって構成される。 労働省雇用局長は当該委員会委員であり事務局長である。 有識者委員の任期および退任事項は内閣の承認をもって大臣が規定する規則 に定める。 第42条 委員会の権限 第43条 委員会の定数 委員会の採決 第44条 小委員会の設置 第 IV 章 外国人就労不服審査委員会 第45条 外国人就労不服審査委員会の設置 委員長は労働省次官とし,外務省,国家経済社会開発委員会事務局,検察庁, 商務省事業開発局,投資委員会,警察庁からの各代表ならびに雇用者団体お よび被雇用者団体からのそれぞれ 1 名,大臣によって任命された 3 名を超え ない有識者から構成される。 労働省雇用局長は同局職員を委員として任命し当該委員会の事務局とする。 有識者委員の任期および退任事項は内閣の承認をもって大臣が規定する規則 に定める。 第46条 第 9 条,第11条,第13条,第14条および第26条に規定される許可を付与され なかった場合,第23条に規定される更新が許可されなかった場合,第28条の 規定によって許可が取り消された場合,申請者もしくは許可証保持者(場合 による)は,かかる通知受領から30日以内に書面をもって当該委員会に不服 を申し立てることができる。 当局はかかる不服申し立てを受けてから 7 日以内にかかる処分の理由を委員 会に提出する。委員会は不服申し立てを受けてから30日以内に決定する。 委員会の決定は最終である。 第47条 行政手続法の準用

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第 V 章 監督 第48条 労働省雇用局長および局長に任命された局員による尋問,労働現場の立ち入 りと捜査の権限 第49条 局員の身分証の携帯と呈示 第50条 かかる職務の遂行において上記局員は刑法上の職務遂行権限を有する。 就労許可を得ずに就労をしていることを発見された外国人が警察への同行を 拒否した場合もしくは逃亡を企てた場合,逮捕令状なしに逮捕できる。 刑事訴訟法第81条,第81/1条,第82条,第83条,第84条,第85条および第86 条を準用する。 第 VI 章 罰則 第51条 許可なく就労する外国人は最長 5 年の禁固もしくは2,000バーツ以上100,000 バーツ以下の罰金または両方が科される。 第52条 許可保持者が第 9 条,第13条,第14条または第26条の規定に違反した場合, 最高20,000バーツの罰金が科される。 第53条 許可保持者が第22条または第24条の規定に違反した場合,最高10,000バーツ の罰金が科される。 第54条 第27条の規定に違反して外国人を雇用した者は,最高10,000バーツの罰金が 科される。 許可証をもたない外国人を雇用した場合,被雇用者一人につき10,000バーツ 以上100,000バーツ以下の罰金が科される。 第55条 第48条に規定される権限の行使に対し,それに従わない者は最高10,000バー ツの罰金が科される。 第56条 本法の違反については,第51条の違反を除き,大臣が任命する委員会が罰金 を科すことができる。 かかる委員会は 3 名で構成され,うち 1 人は刑事訴訟法に規定される捜査官 でなければならない。 第57条 第 7 条の規定により外国人が就労できる業種を定める省令は本法施行日から 2 年以内に公布される。 それまでは旧法第 7 条によって規定される業種以外の就労を認めることがで きる。 第58条 本法公布日に旧法の規定によって就労を許可されている者は本法下で許可さ れているものとみなす。 第59条 本法発効日より前に旧法の規定によって提出された申請および不服は本法下 で提出されたものとみなす。 第60条 旧法下で出された勅令,省令,告知,閣議決定,大臣もしくは局長令は,本 法に反しない限り本法発効日まで有効であり本法下に発布されたものとみな す。 (出所) 筆者作成。

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第 3 節 二国間覚書と国籍証明手続

その表裏関係とジレンマ

―  タイ政府は2007年12月の閣議決定によって,国籍証明手続の期限を2008年 外国人就労法の施行日となる2010年 2 月28日と定めた。その日までに,タイ 国内に滞在し就労している「半合法」移民人労働者に旅券をもった合法入国 という法的形式を整えさせ,それまで行ってきた登録・労働許可制度を終了 する算段であった。しかし,国内にすでにいる数百万人の隣国 3 カ国からの 労働者を「合法化」するための国籍証明手続は,当初予定されていた2010年 2 月28日に完了されることはなく,その期限は五月雨式に延期され現在に至 っている。タイ政府が2000年代半ばまで近隣諸国からの労働者の国籍を確認 することなく,彼らのタイでの就労を認めてきたのは,それだけ既成事実と して移民労働者がタイの経済構造のなかに組み込まれ常態化してきたといえ よう。それゆえに長期にわたりタイに滞在してきた移民労働者にとって,ま た雇用主にとっても,国籍証明手続の導入は困惑と混乱をもたらしている。 一方,移民労働者に対する新規の需要を満たすために結ばれた,ミャンマー, ラオスおよびカンボジアとの二国間覚書に基づく労働者斡旋手続によって斡 旋・雇用される労働者数は,その需要を満たすに至っていない。本節では, 国籍証明手続と二国間覚書について詳述し,それらの問題点の関連性を論じ る。 1 .国籍証明手続の概要および進捗状況  国籍証明による合法化の手続きは,カンボジアとラオス出身者については 2006年から開始された。その手続きは,①自国政府へ申請書を提出し,②自 国政府が自国民であることを確認し発行する渡航文書を受け取り,③タイ入 国管理局で査証を取得し,④タイ労働省で労働許可を取得する。カンボジア

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およびラオス政府は,タイ政府との合意に基づき,タイ国内にそれぞれ係官 を派遣し,自国出身者が帰国せずとも,自国政府発行の文書を受け取れるよ うにした。一方ミャンマー人の場合は,ミャンマー政府がタイ国内への係官 の派遣に合意せず,自国民に一時帰国を求めたため手続きは複雑になり,ま た政府間交渉の難航ゆえに,国籍証明手続が実際に開始されたのは2009年 7 月であった。その手続きは,①ミャンマー人労働者は,国籍証明申請書を雇 用主経由でタイ労働省に提出し,外交ルートで申請書がミャンマー政府に送 られ,②ミャンマー政府は申請事項について国内で照会をとり,国籍を確認 できた者の名前を外交ルートでタイ政府に伝え,タイ労働省から雇用主経由 で労働者が通知を受け,③通知を受けた労働者は指定されたメーサイ,メー ソットまたはラノーンの国境センターへ出頭し,④タイからミャンマーへ越 境し,⑤タチレク,ミャワディまたはコータンの暫定旅券発行事務所で旅券 (タイへの入国のためだけのもの)を取得し,⑥ミャンマーからタイへ再び越 境し,⑦メーサイ,メーソットまたはラノーンの国境センターで査証を取得 し,⑧就労地の県の労働省地方事務所で労働許可を取得するという流れであ る。  当初タイ政府が企図していた国籍証明手続の対象者は,すでに登録をし有 効な労働許可を有する者だけであった。しかし,既述したように,これまで の不定期な閣議決定による手続きに対応できず,登録や労働許可の取得・更 新をしていない者が多数いた。現実としてそのような労働者を雇用している 産業界からの強い要請があり,タイ政府は,潜在するこれらの移民労働者を 顕在化させ「合法化」をさせようと,2009年 5 月の閣議決定をもって,未登 録や労働許可をもたない者についても「合法化」への最後の機会とのふれこ みで,新規の登録と労働許可取得の申請を受け付けた。その結果2009年11月 時点で労働許可取得者数は過去最多の131万5932人となった⒃。彼らもすべ て2010年 2 月28日までに国籍証明手続を完了することが求められた。  移民労働者とくにミャンマー人にとっては数カ月後に迫る期日までの手続 完了は非現実的であった⒄。ミャンマー人の国籍証明手続が進まない理由は

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第一に,手続き自体の複雑さと要するコストである。ミャンマー人は自国領 内まで戻らなければならないので,たとえばタイの県別で最大のミャンマー 人移民労働者を擁するバンコクや同 2 位のサムットサコーン県で働く者にと って上記の 3 カ所の国境ポイントへの往復は,時間とコストがかかる。また 雇用主にとって,労働者が数日間でも職場を離れることは好ましくなく,ま た職場を離れた者が戻ってこない可能性もあり,手続きに協力しない雇用主 も多い。第二の理由は,ミャンマー政府の措置が不透明であったという点で ある。当時のミャンマー軍政下では,自国民の海外就労を支援する政策はな く,身元が判明することによりタイでの就労が発覚し,本人や出身地に残る 家族に裁量的な課税が課されたり,不法出国罪で逮捕されたり,係官から金 銭を要求されたりするという懸念があった。なかでもミャンマー政府と対立 する少数民族にとっては自国政府係官に対面する手続きは難しい。逆に国籍 証明を申請したが自国政府から証明を拒否された者は無国籍者となる。第三 に,時間,コストそして手続きの複雑さ,不透明さから,斡旋業者が暗躍す る余地が大きいことが当該手続の最大の問題点であった。タイ政府は斡旋業 者の手数料の最高額を規制しようとしたが,その実効性は乏しかった。国籍 証明手続にかかる費用は労働者の借金として累積され,借金さえできない者 は手続きに進めなかった⒅ 2 .繰り返される期限延長と新規登録  国籍証明手続による「合法化」政策の成否は,その対象者の 8 割を占める ミャンマー人の国籍証明手続の進捗状況による。ミャンマー人の国籍証明手 続が進まない現状を受けて,タイ政府は2010年 2 月28日を目前にして,期限 を 2 年後の2012年 2 月28日に延長すると決定した⒆。その期限直前,タイ政 府は再び閣議決定で2012年 6 月14日に期限を延期した。滞っていたミャン マー人の手続きを加速化するために,同年 4 月には既存の 3 カ所の国境ポイ ントに加え,ミャンマー人労働者が多く就労するバンコクを含む 5 カ所に国

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籍証明手続の事務所が設置された。この時点で,ミャンマー人の国籍証明手 続完了者は56万5000人を超えたが,約80万人が手続未了であった。2012年 6 月14日の期限が迫る直前に,再び閣議決定によって期限は同年12月14日に延 期された。  国籍証明手続の期限の延期とともに繰り返されたのが,労働者の新規の登 録受付である。本来ならばすでに登録し労働許可を有する者のみが国籍証明 手続に進むことができる制度であったが,前述のとおり2009年夏に新規の登 録受付が行われ,再び2011年夏に同様の受付が行われた。2011年夏には,新 たに102万6403人が登録され⒇,そのうち85万1830人が労働許可を取得し 2012年 6 月14日までに国籍証明手続を完了することが求められた。上記のと おりその期限は同年12月14日に延期された。  タイ政府は2012年12月14日の期限を最後に,国籍証明手続を完了できなか った不法移民労働者に対する取り締り,摘発,退去強制を強化する予定であ った。タイ政府は 2 年以上にわたり 3 度も期限の延期を繰り返してきた国籍 証明手続のさらなる延長はしない方針であったが,テインセインミャンマー 大統領からインラックタイ首相への直接の働きかけにより,手続きが再開さ れた。タイ政府としては期限の延長ではなくあくまで新たな手続きという立 場をとった。2013年 1 月15日の閣議決定によって,タイ政府は2013年 2 月 15日から同年 4 月13日までにミャンマー人,ラオス人およびカンボジア人す べてに対して新規の手続申請を受け付けた。申請者は,120日間の滞在許 可を与えられ,同年 8 月11日までに旅券もしくはそれに代わる身分証を取得 するよう求められた。大方の予測どおり,過去と同様に,期日までに申請 者の多くは旅券もしくはそれに代わる身分証を取得できず,その期限はさら に 1 年後の2014年 8 月11日に延期された。好調な経済成長が続き,過去最 低の失業率を記録するタイ経済社会において,現実の雇用サイドの需要に応 えるために,現状を後追いし肯定する措置が続いている。

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3 .新規労働者の雇用に関する二国間覚書  タイにすでに入国し滞在し就労している隣国 3 カ国からの「半合法」労働 者の国籍証明手続による「合法化」が行われる一方,新規の需要を満たすべ きミャンマー,ラオス,カンボジアとの二国間覚書に基づく労働者斡旋手続 が開始された。覚書に則して新規の労働者の雇用が開始されたのは,ラオス 人とカンボジア人については2005年,需要が最も多いミャンマー人について は政府間交渉が難航し,2010年 7 月であった。  タイと隣国 3 カ国との二国間覚書は,表 4 に示すように,その構造や条文 番号が一致している。規定されている手続きの概要はおおむね共通で,次の とおりである。①タイ側雇用主からの労働者需要に基づきタイ労働省が,募 集する労働者の人数,期間,資格要件,雇用条件,報酬などについて相手国 労働省に通知し,②かかる求人リストを受け取った相手国労働省は,それに 適う自国の候補者を選定し,その年齢,住所,保証人,学歴や職歴などを記 載したリストをタイ側に提供し,③タイ側雇用主がそのリストから被雇用者 を選定し,④選定された候補者について,両政府の関係省庁が,査証,労働 許可,健康保険,送還基金への拠出,税金,雇用契約など必要な手続きのた めに協力する。雇用期間は,2008年外国人就労法の規定と整合性がとれてお り, 2 年間で一回の更新が可能で最長 4 年間就労できる。その後は労働者は 一度帰国し,次の雇用の応募まで 3 年間待たなければならない。   3 つの覚書を比較すると,先に結ばれたタイ/ラオス覚書には,第 7 条に 定める両国が協力して行う必要な手続きとして雇用契約が明記されておらず, タイ/カンボジア覚書およびタイ/ミャンマー覚書にある「雇用契約は雇用主 と労働者双方によって署名されその写しが両国の管轄機関に提出される」と いう規定がない。またタイ/ラオス覚書には労働者の権利について言及はな い。それに対して,タイ/カンボジア覚書およびタイ/ミャンマー覚書では, 覚書の目的や労働監督の項において労働者の権利保護が明記され(第 1 条お よび第17条),覚書が終了される場合の雇用契約の扱いまで言及されている

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表 4   タ イ /ラ オ ス , タ イ /カ ン ボ ジ ア , タ イ /ミ ャ ン マ ー の 労 働 者 の 雇 用 に 関 す る 二 国 間 覚 書 対 照 表 タ イ /ラ オ ス ( 20 02 ) タ イ /カ ン ボ ジ ア ( 20 03 ) タ イ /ミ ャ ン マ ー ( 20 03 ) 前 文 地 域 の 人 身 取 引 問 題 の 社 会 経 済 へ の 負 の イ ン パ ク ト に 言 及 , 不 法 雇 用 が 原 因 と 明 記 不 法 な 雇 用 を 原 因 と す る 社 会 経 済 へ の 負 の イ ン パ ク ト に 言 及 左 記 に 同 じ 「 19 99 年 不 法 移 民 に か ん す る バ ン コ ク 宣 言 」 に 言 及 左 記 に 同 じ 「 バ ン コ ク 宣 言 」 へ の 言 及 な し 目 的 お よ び 範 囲 第 1条 両 国 は 下 記 の 必 要 な 措 置 を と る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 1) 適 切 な 雇 用 手 続 1) 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 2) 雇 用 契 約 終 了 後 の 労 働 者 お よ び 雇 用 期 間 終 了 前 に 関 連 当 局 に よ っ て 退 去 強 制 さ せ ら れ る 労 働 者 の 送 還 2) 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 3) 両 国 に よ る 適 切 な 労 働 監 督 3) 労 働 者 の 権 利 が 損 な わ れ る こ と が な い よ う 労 働 者 に 対 す る 適 正 な 保 護 左 記 に 同 じ 4) 不 法 移 民 , 人 身 取 引 お よ び 不 法 雇 用 の 防 止 と 取 り 締 ま り 4) 不 法 越 境 , 不 法 労 働 者 の 人 身 取 引 お よ び 不 法 な 雇 用 の 防 止 と 効 果 的 対 策 左 記 に 同 じ 本 覚 書 は 両 国 の 法 律 に 則 っ た そ の 他 の 既 存 の 雇 用 に は 適 用 さ れ な い 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 覚 書 の 管 轄 省 庁 第 2条 ラ オ ス は 労 働 ・ 社 会 福 祉 省 カ ン ボ ジ ア は 社 会 福 祉 ・ 労 働 ・ 職 業 訓 練 ・ 青 少 年 更 正 省 ミ ャ ン マ ー は 労 働 省 タ イ は 労 働 省 タ イ は 労 働 省 タ イ は 労 働 省 第 3条 本 覚 書 の 運 用 に 関 し て 少 な く と も 年 に 1回 上 級 官 僚 会 合 を 行 い ,開 催 地 は 交 互 と す る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 両 国 の 管 轄 機 関 は 本 覚 書 発 効 前 に 既 に 相 手 国 に い る 不 法 労 働 者 を 本 覚 書 に 合 致 さ せ る よ う 手 続 き を 行 う よ う 協 力 す る 左 記 に 同 じ

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タ イ /ラ オ ス ( 20 02 ) タ イ /カ ン ボ ジ ア ( 20 03 ) タ イ /ミ ャ ン マ ー ( 20 03 ) 権 限 お よ び 手 続 き 第 4条 両 国 は 労 働 者 の 雇 用 の た め の 適 切 な 手 続 き が 行 わ れ る よ う 必 要 な す べ て の 措 置 を と る 左 記 に 同 じ 雇 用 は 両 国 の 権 限 を 有 す る 機 関 の 事 前 の 許 可 を 要 す る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ か か る 許 可 は 両 国 の 法 律 お よ び 規 則 に 則 っ た 手 続 き に 従 う 場 合 の み 付 与 さ れ る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 管 轄 機 関 は 上 記 の 許 可 を 両 国 の 法 律 お よ び 規 則 の 適 切 な 執 行 の た め に 取 り 消 し も し く は 撤 回 す る こ と が で き る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ か か る 取 り 消 し や 撤 回 は 取 り 消 し や 撤 回 前 に す で に 完 了 し た 事 項 に 影 響 し な い 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 第 5条 管 轄 機 関 は 相 手 方 機 関 に , 雇 用 の 内 容 , 機 関 , 資 格 , 条 件 な ど 雇 用 者 か ら 提 示 さ れ た 雇 用 の 需 要 を 通 知 す る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 第 6条 管 轄 機 関 は 相 手 方 機 関 に 就 労 志 願 者 の 年 齢 , 住 所 , 推 薦 者 , 学 歴 そ の ほ か の 経 験 な ど 雇 用 者 が 考 慮 す る に 必 要 な 情 報 を 提 供 す る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 第 7条 選 抜 さ れ か つ 第 4条 に 定 め る 許 可 を 得 た 候 補 者 が 下 記 の 手 続 き を で き る よ う に , 両 国 の 管 轄 機 関 は 入 国 管 理 機 関 と 協 力 す る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 1) 査 証 お よ び 入 国 書 類 1) 左 記 に 同 じ 1) 左 記 に 同 じ 2) 就 労 許 可 の 取 得 2) 左 記 に 同 じ 2) 左 記 に 同 じ 3) 健 康 保 険 も し く は 保 健 サ ー ビ ス 3) 左 記 に 同 じ 3) 左 記 に 同 じ 表 4   つ づ き

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タ イ /ラ オ ス ( 20 02 ) タ イ /カ ン ボ ジ ア ( 20 03 ) タ イ /ミ ャ ン マ ー ( 20 03 ) 4) 送 還 の た め の 基 金 へ の 入 金 4) 各 国 の 管 轄 機 関 か ら 求 め ら れ る 貯 蓄 基 金 へ の 入 金 4) 左 記 に 同 じ 5) 税 お よ び そ の 他 の 手 続 き 5) 税 お よ び そ の 他 の 手 続 き 5) 左 記 に 同 じ 6) 雇 用 契 約 6) 左 記 に 同 じ 雇 用 契 約 は 雇 用 者 と 労 働 者 に よ っ て 署 名 さ れ そ の 写 し を 両 国 の 管 轄 機 関 に 提 出 す る 左 記 に 同 じ 第 8条 管 轄 機 関 は 本 覚 書 に 基 づ き 就 労 許 可 を 得 た 者 の 記 録 を か か る 者 の 帰 還 も し く は 雇 用 機 関 の 終 了 か ら 少 な く と も 4年 間 保 管 す る 管 轄 機 関 は 本 覚 書 に 基 づ き 許 可 さ れ た 労 働 者 の リ ス ト を 管 理 す る 雇 用 期 間 終 了 後 報 告 を し た 者 ま た は 永 住 地 へ の 帰 還 が 文 書 か ら 確 認 さ れ た 者 の リ ス ト を か か る 報 告 ま た は 確 認 か ら 4年 間 保 管 す る 左 記 に 同 じ 帰 還 お よ び 送 還 の 手 配 第 9条 別 途 の 定 め の な い 限 り , 雇 用 期 間 は 2年 を 超 え な い , 必 要 な 場 合 は 2年 間 の 延 長 が 許 可 さ れ , 最 長 4年 と す る 雇 用 期 間 満 了 前 に 雇 用 の 終 了 も あ り う る 左 記 に 同 じ そ の 後 は 終 了 と み な さ れ る 左 記 に 同 じ 雇 用 終 了 か ら 3年 後 に は 労 働 者 は 再 び 就 労 を 志 願 で き る , た だ し 先 の 雇 用 が 被 雇 用 者 に よ る 雇 用 契 約 の 違 反 に よ っ て 終 了 さ れ た 場 合 を 除 く 雇 用 期 間 が 終 了 し た 者 が 再 び 就 労 を 志 願 す る に は 3 年 間 を 経 な け れ ば な ら な い 第 10 条 両 国 は 雇 用 期 間 終 了 後 労 働 者 を 母 国 に 帰 還 さ せ る よ う 協 力 す る 両 国 は 雇 用 期 間 を 満 了 し た 善 意 の 労 働 者 の 永 住 地 へ の 帰 還 を 確 保 す る よ う 最 大 限 協 力 す る 左 記 に 同 じ 第 11 条 管 轄 機 関 は 労 働 者 を 公 式 に 送 還 す る 費 用 の た め に , 労 働 者 の 毎 月 の 賃 金 の 15 % 相 当 額 を 集 め 基 金 を 設 雇 用 す る 国 の 管 轄 機 関 は 貯 蓄 基 金 を 設 置 し 管 理 す る 労 働 者 は 毎 月 の 賃 金 の 15 % 相 当 額 を 基 金 に 積 み 立 て 左 記 に 同 じ 置 す る る 表 4   つ づ き

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タ イ /ラ オ ス ( 20 02 ) タ イ /カ ン ボ ジ ア ( 20 03 ) タ イ /ミ ャ ン マ ー ( 20 03 ) 第 12 条 労 働 者 は 帰 国 よ り 3カ 月 前 に 書 面 に よ っ て か か る 基 金 に 積 み 立 て た 金 額 に 利 子 を 付 し た 返 金 を 求 め る 権 利 を 有 す る か か る 返 金 は 雇 用 期 間 終 了 後 45 日 以 内 に な さ れ る 労 働 者 は 雇 用 期 間 終 了 後 予 定 す る 帰 国 日 3カ 月 前 に 書 面 に よ っ て 基 金 に 積 み 立 て た 金 額 に 利 子 を 付 し た 返 金 を 求 め る 権 利 を 有 す る か か る 返 金 は 雇 用 期 間 終 了 後 45 日 以 内 に な さ れ る 労 働 者 は 雇 用 期 間 終 了 後 予 定 す る 帰 国 日 3カ 月 前 に 書 面 に よ っ て 基 金 に 積 み 立 て た 金 額 に 利 子 を 付 し た 返 金 を 求 め る 権 利 を 有 す る か か る 返 金 は 雇 用 期 間 終 了 後 7日 以 内 に な さ れ る 労 働 者 が 雇 用 期 間 満 了 前 に 就 労 を や め た 場 合 は , 基 金 か ら の 返 金 は 雇 用 終 了 後 45 日 以 内 に な さ れ る 労 働 者 が 雇 用 期 間 満 了 前 に 就 労 を や め た 場 合 は , 基 金 か ら の 返 金 は 雇 用 終 了 後 7日 以 内 に な さ れ る 第 13 条 労 働 者 が 雇 用 期 間 中 に 管 轄 機 関 の 定 め る 手 続 き に 則 っ て 越 境 し た 場 合 , 第 4条 に 規 定 す る 雇 用 の 取 り 消 し と は み な さ れ な い 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 第 14 条 管 轄 機 関 は 第 12 条 に 規 定 す る 申 請 手 続 お よ び 必 要 文 書 を 規 定 す る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 第 15 条 労 働 者 が 雇 用 期 間 終 了 後 に 母 国 の 管 轄 機 関 に 出 頭 し な け れ ば 基 金 か ら の 返 金 を 求 め る 権 利 は 無 効 に な る 労 働 者 が 雇 用 期 間 満 了 後 に 永 住 地 に 帰 還 し な け れ ば 基 金 か ら の 返 金 を 求 め る 権 利 は 無 効 に な る 左 記 に 同 じ 第 16 条 雇 用 す る 国 の 管 轄 機 関 は 労 働 者 を 母 国 に 送 還 さ せ る た め に 基 金 か ら 費 用 を 引 き 出 す こ と が で き る 雇 用 す る 国 の 管 轄 機 関 は 基 金 の 管 理 費 お よ び 労 働 者 を 母 国 に 退 去 さ せ る た め に 基 金 か ら 費 用 を 引 き 出 す こ と が で き る 左 記 に 同 じ 第 17 条 両 国 は そ れ ぞ れ の 関 連 法 に 従 っ て 労 働 を 監 督 す る 両 国 は そ れ ぞ れ の 国 内 法 に 従 っ て 労 働 者 の 権 利 が 保 護 さ れ る こ と を 確 保 す る 左 記 に 同 じ 労 働 監 督 ・ 保 護 第 18 条 両 国 の 労 働 者 は , 性 別 , 人 種 , 宗 教 に か か わ ら ず , 雇 用 地 の 賃 金 レ ー ト に 従 い 賃 金 お よ び そ の 他 の 手 当 を う け る 両 国 の 労 働 者 は , 無 差 別 原 則 に 基 づ き , 性 別 , 人 種 , 宗 教 に か か わ ら ず , 雇 用 地 の 賃 金 お よ び そ の 他 の 手 当 を う け る 左 記 に 同 じ 第 19 条 労 働 者 お よ び 雇 用 者 間 の 雇 用 に 関 す る 争 い は 雇 用 す る 国 の 法 律 お よ び 規 則 に 従 っ て 管 轄 機 関 に よ 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 表 4   つ づ き

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タ イ /ラ オ ス ( 20 02 ) タ イ /カ ン ボ ジ ア ( 20 03 ) タ イ /ミ ャ ン マ ー ( 20 03 ) り 解 決 さ れ る 不 法 雇 用 に 対 す る 措 置 第 20 条 両 国 は そ れ ぞ れ の 領 内 に お い て 不 法 な 越 境 , 人 身 取 引 , 不 法 な 雇 用 を 防 止 し 取 り 締 ま る た め に 必 要 な 措 置 を と る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 第 21 条 両 国 は 人 身 取 引 , 不 法 入 国 , 不 法 な 雇 用 に 関 す る 情 報 を 交 換 す る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 修 正 第 22 条 本 覚 書 の 修 正 お よ び 付 加 は 双 方 の 合 意 に よ る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 紛 争 解 決 第 23 条 本 覚 書 か ら 生 じ る 紛 争 は 友 好 的 に 双 方 の 協 議 に よ っ て 解 決 さ れ る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 覚 書 の 発 効 お よ び 終 了 第 24 条 本 覚 書 は 署 名 日 に 発 効 す る 一 方 の 当 事 者 は 相 手 方 へ の 3 か 月 前 の 書 面 に よ る 通 知 に よ っ て 本 覚 書 を 終 了 す る こ と が で き る 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 左 記 に 同 じ 本 覚 書 を 終 了 す る 場 合 , 両 国 は 労 働 者 の 利 益 の た め に , 終 了 時 に 有 効 な 雇 用 契 約 を ど の よ う に あ つ か う か 協 議 す る 左 記 に 同 じ 署 名 日 20 02 年 10 月 18 日   ラ オ ス 人 民 民 主 共 和 国 ビ エ ン チ ャ ン に て 20 03 年 5月 31 日   タ イ 王 国 ウ ド ン ラ チ ャ タ ニ に て 20 03 年 6月 21 日   タ イ 王 国 チ ェ ン マ イ に て 正 本 ラ オ 語 お よ び タ イ 語 英 語 タ イ 語 , ミ ャ ン マ ー 語 , 英 語 解 釈 の 齟 齬 は 英 語 が 優 先 す る 署 名 者 ラ オ ス は 労 働 ・ 社 会 福 祉 大 臣   カ ン ボ ジ ア は 社 会 福 祉 ・ 労 働 ・ 職 業 訓 練 ・ 青 少 年 更 正 大 臣 ミ ャ ン マ ー は 外 務 大 臣 タ イ は 労 働 大 臣 タ イ は 労 働 大 臣 タ イ は 外 務 大 臣 ( 出 所 )  筆 者 作 成 。 表 4   つ づ き

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(第24条)。   3 つの覚書に共通して,労働者に毎月の賃金の15%を強制的に積立させる 基金が設置されている(第11条)。労働者からの積立金は,雇用主が徴収を 肩代わりするしくみとなっており労働者の賃金から控除される。タイ政府 は当該基金から労働者を強制退去させるための費用を引き出すことができる (第16条)。雇用期間を満了した者には積み立てた金額に利子を上乗せした額 を受領できる(第12条)。基金からの返金時期は,タイ/ラオス覚書およびタ イ/カンボジア覚書では,雇用期間終了から45日以内と規定されているが, タイ/ミャンマー覚書では 7 日以内と規定されており,前者ふたつの覚書を 比較すると際立つ相違である  付言すると,覚書の前文においてタイ/ラオス覚書およびタイ/カンボジア 覚書が「1999年非正規移民に関するバンコク宣言」に言及しているのに対し, タイ/ミャンマー覚書では言及されていない。  図 1 にみるように,2012年12月末時点において,二国間覚書に基づく労働 者数は合計21万1789人で,うちミャンマー人 3 万6326人,ラオス人 3 万7507 人,カンボジア人13万7956人であり,前年末から倍増,とくにミャンマー人 労働者数の伸びが観察される。しかし,労働者数全体に占める覚書に基づく 労働者数の割合は10%強にとどまる。とくに雇用主からの需要がもっとも多 いミャンマー人労働者のうち覚書による者はおよそ2.6%にすぎない。需要 に対する供給が追いついていない理由としては,ミャンマー政府による労働 者の送り出しリストの決定に時間がかかっているといわれていた。ところ が2012年になり同政府はタイへの労働者斡旋の許可を民間業者に与えるよう になり,ミャンマー側の労働者の募集や選定は加速化されており,遅延の 原因は逆にタイ側の手続きにあると指摘されている  政府間手続による労働者の雇用制度は,労働者を両国の法律に基づき管理 するという趣旨であり,この手続きによって雇用される新規の労働者数が, 将来的には「半合法」から国籍証明によって「合法化」された既存の労働者 数を上回りそれにとって代わることがタイ政府の政策意図であった。しかし,

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図 1   3 カ 国 か ら の 労 働 者 数 の 推 移  ( 20 10 ~ 20 12 年 )  ( 人 ) 国籍証明手続完了者 国籍証明手続未了者 二国間覚書 (カンボジア ) 13 7, 95 6 (カンボジア ) 117 ,28 7 (カンボジア) 16 1, 62 2 1, 179 ,34 1 (ミャンマー ) (ラオス ) 36 ,32 6 7, 280 1, 513 23 37,507 ,98 5 25 ,20 7 69 ,82 9 51 ,96 6 56 5, 66 9 34 ,99 9 11 ,06 2 27 ,79 3 34 ,999 34 ,99 9 30 8, 09 0 31 ,10 5 45 ,41 7 2012年 2011年 2010年 (ミャンマー ) (ラオス ) (ラオス ) 計 1 ,01 0, 94 1 計 1 ,885 ,17 9 2 ,030 ,55 1 0 500 ,00 0 1, 000 ,00 0 1, 500 ,00 0 2, 000 ,00 0 2, 500 ,00 0 50 4, 89 4 79 0, 85 0 12 1, 21 4 24 0, 24 8 19 8, 70 1 (ミャンマー ) 12 6, 81 2 ( 出 所 )  タ イ 労 働 省 雇 用 局 資 料 よ り 筆 者 作 成 。

(27)

図 1 が示すように,二国間覚書によって雇用された労働者よりも,すでにタ イ国内で就労しており「合法化」手続に進む者が圧倒的に多い。2010年と 2011年を比べると2011年夏に新規の登録受付をしたために,国籍証明手続未 完了者は54万3749人(うちミャンマー人50万4894人 , ラオス人 2 万7793人 , カン ボジア人 1 万1062人)から115万2312人(うちミャンマー人79万850人 , ラオス人 12万1214人 , カンボジア人24万248人)に倍加した。また新たに2013年 2 月から 4 月に受け付けた人数は65万1143人であり,ゆえに国籍証明手続未完了者は 引き続き増加している。本来ならば二国間覚書による手続きで満たされるべ き労働需要は満たされず,産業界からの要請を受けて,タイにいる既存の隣 国 3 カ国からの労働者の登録を受け付け,国籍証明手続の期限を延期するこ とが繰り返されている。つまり,二国間覚書に基づいて隣国 3 カ国から労働 者を新たに入国させるよりも,すでにタイ国内にいる(もしくは違法に入国 し続ける)これら 3 カ国からの労働者を雇用する(もしくは雇用し続ける)方 が手っ取り早いからである。また政府間手続の時間とコストを回避しようと する雇用主による非合法の雇用が却って増えているともいわれている。  好調な景気が続き,2011年から過去最低の 1 %を下回る失業率を記録する タイ経済社会において,労働者を二国間覚書によって雇用する仕組みは,現 実の切迫した需要を満たしきれず,デファクトを追認する「合法化」措置が 断続的に続けられるという悪循環を生んでいる。タイと隣国 3 カ国と合意し た二国間覚書に基づく政府による労働者雇用の制度は,雇用主,労働者双方 に当該手続に基づく雇用・就労にインセンティヴを与え,現実の労働需要と 供給に合致した機能を果たさなければ,形骸化するおそれがある。

第 4 節 問題と課題

 タイにおいては,2008年外国人就労法の制定を機に,それまで不規則な方 法でその存在を認め管理してきたミャンマー,ラオスおよびカンボジアから

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の「半合法」労働者を国籍証明によって「合法化」し,新規の労働者は二国 間覚書による手続きにしたがって斡旋され入国し雇用される制度がつくられ た。制度上は隣国 3 カ国からの労働者の法的地位を明確にすることが試みら れている。しかし,制度の運用について以下の問題点と課題が指摘される。  第一の問題点は,手続き自体の構造および複雑さにある。労働者の登録・ 労働許可取得や国籍証明手続は,労働者ではなく雇用主主導によるものであ るがゆえに,雇用主によって,また手続きの複雑さゆえに行政官によって制 度的搾取の手段として歪曲,悪用,濫用される傾向が強い。登録・労働許 可取得や国籍証明手続は,タイの労働省雇用局と内務省間,バンコクの本省 と地方事務所間,タイ政府と相手国政府間で書類を往復させる。手続きの複 雑さは,二国間覚書による労働者の斡旋・雇用手続でも同様である。複雑な 手続きは格好のブローカービジネスを生む。タイ語を理解できない労働者は, 登録や労働許可取得手続について正確な情報を得ることはできず,斡旋業者 の甘言に騙され不当な額を要求されたり,保証金を借金させられたりしてい る。この問題はミャンマー人の国籍証明手続ではもっとも深刻であることは 既述した。手続きの開始や変更は,タイ政府から雇用主に対する情報伝達で あり,タイ政府から直接労働者に情報通知される制度ではない。それを逆 手にとる雇用主が定められた金額以上の申請手続費用を労働者に負担させる 例がある。雇用主次第であるため,時間とコストのかかる手続きを回避し て労働者に労働許可証を取得させない雇用主もいる。2008年外国人就労法に ある労働許可証をもたない労働者の雇用に対する罰則規定は,雇用主にとっ て,被雇用者の労働許可を取得させるインセンティヴとはなっていない 労働許可を取得させないことによる強制労働もある  第二の問題点は,労働許可証の付与が移民労働者の労働者としての権利保 護にはつながっていない点である。登録をさせ労働許可を付与し,国籍証明 手続を課して「合法化」することは法的形式を整えるための手続きであり, 法的地位を確定させた労働者の権利を保護する施策は十分ではない。労働許 可証を有しても「半合法」という不安定な地位にあり,健全な労使関係が構

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築されず,タイ労働基準法上の権利が現実として保障されることはなく,労 働災害補償からも排除されていた。タイ政府は国籍証明手続を完了した 「合法」労働者や二国間覚書によって雇用された労働者については健康保険 や失業保険などを含む包括的社会保障スキームに組み込み,労働災害補償も 享受できるようにした。しかし同スキームの保険料の負担は労使折半である ため,当該手続を行わない雇用主が少なくない。労働者の権利保護が不十 分であることは,国籍証明手続を完了した「合法」労働者や二国間覚書によ って雇用された労働者についても同様である。雇用主名が記載された労働 許可が在留許可と結びついているので,労働者は望まぬ労働条件や環境を甘 受せざるを得ず,また雇用主は労働者を搾取する傾向にあり,これが昂じれ ば強制労働や人身取引に相当する。タイ政府による移民労働者に対する作 為・不作為の政策は,2011年 8 月にタイを視察した国連人身取引に関する特 別報告者ジョイ・ヌゴシ・エゼイロ氏による報告書においても厳しく問題視 されている  これらの問題点の根底には,タイ政府が移民労働者をあくまで暫定的な存 在として処遇し,タイ国内に長期にとどまることを想定しないことにある 近隣諸国からの労働者は,国内の労働集約産業の廉価な労働力に対する一時 的需要を満たす柔軟な労働力としかみなされていない。それゆえに,手続き は雇用主主導であり,労働者の権利の保護や強化を政策目標とするものでは ない。タイの移民労働者受け入れ政策は,いずれの国から労働者をどのよう に受け入れるかという制度設計以前に,もはやタイ経済に不可欠となった隣 国 3 カ国からの労働者をいかに合法的存在とするかという対症療法の連続と いえよう。  タイ政府が長期的ビジョンに欠け,現状追認の後手の対策を繰り返してい ることは,2013年夏に再び露呈した。2009年夏に国籍証明を経て「合法化」 されたミャンマー人労働者の労働許可が,2008年外国人就労法の規定どおり, 1 回の更新を経て 4 年経ち2013年夏に失効した。二国間覚書によれば,労働 者は帰国し 3 年間を待たないと再びタイで就労できない。タイの逼迫した労

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働市場において,雇用主はミャンマー人労働者を手放したくはなく,一方タ イで長年働くミャンマー人労働者にとっても帰国後の生活は見通せずタイに おける現在の収入機会を失いたくはなく,労使双方にとって労働者の帰国お よび 3 年間の待機は非現実的である。タイ政府はミャンマー政府との交渉に より,この待機期間を極端に短縮したが,長期的展望に欠ける後手の措置は, 雇用主および労働者双方を混乱させている。

むすびにかえて

 本章は移民労働者の受入国であるタイの制度と課題を詳述したが,ここで 抽出した移民労働者が抱えている問題,制度の問題点や課題は,海外へ就労 に出るタイ人移民労働者が直面する問題,その斡旋制度の問題点や課題と酷 似している。送出国は,受入国の政策や方針やその実施に受身になりがち であり,送り出す自国民労働者が技術の高度ではなく賃金の安さで競うとす れば,労働者の労働条件や労働環境の確保や改善には積極的に受入国に要求 しない。受入国はそれを利用する。タイにおいては,近隣諸国からの労働者 の流入によって労働集約産業は豊富な人手を低コストで雇用でき,農産品な どの国内価格を低めに抑えインフレ抑止になってきたこと,タイ人がより高 度な技術を要する産業へシフトすることができたことが指摘されている

(Yongyuth and Prugsamatz 2009)。2013年10月現在失業率 1 %を切るタイは,労

働力不足に直面しており,この需要過多はしばらく続く(ILO 2013, 47)  一方タイへのおもな労働者の送出国であるミャンマーの変化に目を転じる と,これまで一方的にタイへ流入し続けてきたミャンマー人口,すなわちタ イ経済が前提としていた廉価な労働力の流入という現象の変化を予兆させ, タイとミャンマー両政府間の労働者に関する交渉に変化をもたらしている これまでの両国の関係は雇用主側であるタイ政府が交渉を主導しミャンマー 政府は受動的であったが,体制転換後のミャンマー政府は,在外の自国民労

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