その2 非行予測から非行性のアセスメントへの接近
進 藤 眸
*Studies on Differentiating Delinquency (9th Report) Supplementary Report
Part 2 An Approach to the Assessment of Delinquency
based on Delinquency Prediction
Hitomi SHINDO
*しんどう ひとみ 文教大学人間科学部臨床心理学科
This report sought to apply findings obtained from research on delinquency prediction to differentiation of delinquency, if possible. Research concerning delinquency prediction, however, stagnated markedly after the 1950-60s, when Glueck’s and Stott, D. H. had taken an active part in this field. An urgent issue is to answer why such marked stagnation has occurred. A total of 42 sources on delinquency prediction that had been published since the 1930s were reviewed. Those consisting of only an introduction, review, or critique were excluded, after which the remaining 37 sources were analyzed in detail mainly in terms of methodological aspects. The main results of analyses were as follows: (1) Research conducting using a follow-up amounted to 13 studies (35.1 percent of the total). (2) Of these 13 studies, only 4 (30.8 percent) administered their first survey at preschool age. This number is extremely low. (3) Out of the 4 studies, furthermore, only 1 (25.0 percent) considered both environmental and personality factors as predictors. From the viewpoint of the utility of research on delinquency prediction, the most important aspect of survey design is predicting the possibility of delinquency in the early stages of one’s life. Second, predictors should consist of both environmental and personality factors. Third, a working hypothesis that can account for the occurrence of delinquent behaviors by means of a functional formula multiplying environment at preschool age, and especially one’s home environment, by personality should be constructed beforehand in order to end stagnancy in this field. Key words: delinquency prediction, predictor, delinquency, differentiation of delinquency, possibility of delinquency 非行予測、予測因子、非行性、非行性の識別、非行の可能性
1 問題の提起
非行予測と言えば、非行の可能性がなんパーセ ントというように具体的な数値で表現されるかの ごとく誤解されているが、例えば、非行の可能性 が70パーセントと予測しても、その先、どのよう に対処してよいか分からず、ただ危機感をあおり、 レッテル張りに終わってしまう危険性がある。大 切なことは、選択された処遇のもとでパーソナリ ティや保護状況がどのように変化するか、きっち りとアセスメントすることである。少年に対する 処遇をブラック・ボックスに押し込み、結果だけ を予測するような非行予測であれば、まったく無 意味である。 少年審判において、裁判官が求めているもの は、パーソナリティ要因だけでも、また、環境要 因だけもなく、そのいずれでもあること、そして、 それらの要因は、固定した、変化しないものでな く、処遇によって変わるものであり、かつ、処遇 選択にあたって決め手になるものであらねばなら ない。 非行予測を考える上で重要な他の一つは、“予 測の簡便さ”ということである。これには、二つ の問題が絡んでいる。一つは、予測の作業が短時 間でできることであり、二つは、できれば、予測 因子が非行の種類に関係なく統一されたものであ ることである。かの有名なGlueckらの社会的予 測表(social prediction table)にしても、わが国 で法務総合研究所が追試した例をみると、調査員 が、少年と面接し、教師から情報を収集し、公式 記録等から資料を集め、その他質問紙法による調 査等の結果を個人ごとに整理カードに転記したの ち、専門家によるケース・カンファレンスを実施 し、最終的な判定を行っており、多くの時間をか け、多くの研究所および大学の専門家を動員して いる。これでは、実務に即さないことは、火を見 るよりも明らかである。 予測因子の統一については、実務的な利便性か ら言えば、非行の種類が異なっても、同一の予測 因子を使用すれば、簡便で、非行の種類間の比較 にも応用することができる。ところが、例えば、 傷害と道路交通法違反のように非行の種類が異な れば、非行の発生機制が異なるので、非行の種類 ごとに予測因子を換えていくという考え方も、成 立する。特に、さきの研究(進藤眸(2006))で 指摘したように、1990年以降のロールシャッハ・ テストでは、パーソナリティの偏りと攻撃性につ いての研究が、非行性のアセスメントの分野で重 要な役割を果たしてきている。非行性をパーソナ リティの偏りとの関連でとらえ、かつ、攻撃性と か衝動性に限定して分析していくことが、学会の 趨勢となりつつある。 そうした中で、簡便で、利用価値の高い非行予 測表を入手することができれば、非行性のアセス メントにも役立てることができ、便利である。と ころが、実を言うと、非行予測の分野における研 究は、1970年代以降、急速に停滞し、見るべき研 究がほとんどない状況にある。標題に掲げたよう に、非行予測から非行性のアセスメントに接近す るのに先駆け、見定めておかなければならないの は、非行予測に関する研究の停滞の原因と今後の 動向である。2 研究の目的
この研究は、“非行予測の研究は、なぜ、停滞 したか”を解明することを当面の目的とし、その ための作業として、諸外国およびわが国における 非行予測に関する研究を概観し、 (1) 非行予測の妥当性を高めるため、どのよ うな工夫が凝らされているか (2) 非行予測の利用価値を高めるため、どの ような工夫が凝らされているか を中心に分析し、考察する。3 研究の方法
(1) 概観する文献の準備 この研究において概観する文献は、文献検 索 機 能 を 利 用 し て、 英 語 の 文 献 はPsycINFO (EBSCOhost) で“delinqucy prediction”、 日 本 語 の文献はGogle Scholarおよび CiNiiで“非行予測”、 の条件を満たす文献を抽出する。抽出された文献数は、2007年8月1日現在、英語:52編、日本語: 10編である。 日本語の文献についてはGogle Scholarおよび CiNiiの機能に限界があるので、別個に、学会誌、 専門雑誌等を調べ、6編を追加する。 (2) 文献概観の手続 非行予測に関する文献は、(1)年代的特徴、(2) 方法論的特徴、(3)非行予測の妥当性、および(4) 非行予測の利用価値、から分析して概説する。 (1)の年代的特徴では、概観する文献を年代順 に並べ、その特徴を明らかにして概説する。 (2)の方法論的特徴では、概観する文献で扱わ れている非行予測の方法を調査、テスト、その他 に大別して、その特徴を明らかにして概説する。 (3)の非行予測の妥当性では、概観する文献に おいて、その妥当性を高めるため、どのような工 夫が凝らされているかを明らかにして概説する。 (4)の非行予測の利用価値では、概観する文献 において、その利用価値を高めるため、どのよう な工夫が凝らされているかを明らかにして概説す る。
4 結果と考察
(1) 年代的特徴 収集された非行予測に関する文献、42編(英 語:32編、日本語:10編)を発表年代別に見ると、 表1に示したように1950-60年代に集中してい ることが、分かる。これは、1950年に、Glueck, S. & Glueck, E. が『少年非行の解明(Unraveling Juvenile Delinquency)』を出版し、少年非行の予 測が世界的なブームになったことによるもので ある。ちなみに、わが国で発行された関係文献 10編のすべてがこの年代に集中しており、うち、 8編の文献がGlueckらの非行予測表に関するも のである。したがって、ここでは、前Glueck年 代(1930-49)、Glueck年 代(1950-69) お よ び 後 Glueck年代(1970-2007)に3区分して、非行予 測の年代的特徴を概観する。 なお、以下の分析では、3の(1)によって抽出し、 入手した、1930年代以降に発表された非行予測に 関する文献、42編のうち、紹介、概観および批評 のみを内容とするもの、5編(英語:3編、日本 語:2編)を除いたものを対象とする。 ア 前Glueck年代 Casselberry,W. S.(1932)は、非行少年と非非 行少年のグループを、24の異なったテストと個別 質問紙に基づき比較し、グループ間で最大の差を 表し、したがって、非行を予測するにあたって最 も価値のある12の道具を選定した。 Weeks, H. A.(1943)は、非行少年と非非行少 年の高校生を社会背景に関する質問紙法を用いて 比較し、有意差のあった14項目を用いて得点化し、 両群を識別することに成功した。 Morlock, J. E.(1947)は、前青年期の少年を対 象に、入手可能で、弱点の要素または非行危険性 の因子として知られている11項目の設問に対する 得点(弱点得点)と、これからの成行きで、この 弱点と関係があることが観察されている12個の反 応または設問項目に対する得点(予後得点)との 関係を分析した。 このように初期の文献では、テストと質問紙を 組み合わせ、非行群と非非行群を有意に識別する 設問項目、下位検査等を利用し、非行予測に貢献 しようとしたものが、多く見られる。 イ Glueck年代 Glueckらの非行予測に関する研究を踏襲した ものが相対的に多く、英語では16編のうち、4 編(Glueck, E. T.(1952)、Whelan, R. W.(1954)、 Tompson, R. E.(1957)、Glueck, E. T.(1958))、 日本語では8編のうち、6編(遠藤辰雄(1960)、 橋本重三郎・佐藤寧子(1960)、樋口幸吉ら(1960)、 市村潤(1965a, 1965b)、白佐俊憲(1967))、となっ ている。 このほか、研究の一部にGlueckらの非行予測 の考え方を導入した研究が1編(Kelly, F. J., et al.(1964))、Glueckらの非行予測の一部を批判し、 表1 発表年代別収集された文献数 言 語 1940年代以前 60年代1950・ 80年代1970・ 1990年代以後 英 語 5 18 6 3 日本語 10別の予測法を導入した研究が2編(Lively, E. L., et. al(1962)、Lowe, J.(1966))ある。 わが国では、ほぼ10年遅れて1960年代に、Glueck らの非行予測の追試が、集中的に実施された。 Glueckらの非行予測のブームが去ると、Bristol 社 会 的 適 応 指 針(Bristol Social Adjustment Guides)が、非行予測の道具として使用され始め た(Stott, D. H.(1960,1964)、Stott, D. H. & Wilson, D. M.(1967)、Marsh, R. W.(1969))。 なぜ、Glueckらの非行予測が、急速に停滞した のであろうか。Stott, D. H.(1960)は、Walters、A. A.(1955-56)のGlueckらに対する批判、すなわ ち、非非行少年が50に対して施設に収容された非 行少年は1という自然な母集団を無視して、半分 は施設に収容された非行少年、半分は非非行少年 から成る母集団にテストを適用するという統計的 な錯誤を犯しているという批判にこたえるべきで ある、と主張する。彼は、さらに、Glueckらの技 法そのものの本質にかかわる問題、すなわち、社 会的予測表(表2)において、ソーシャルワーカー が家庭を訪問し、父・母の愛情およびしつけ、な らびに“家族の結合”を査定することになっている が、これらの査定には客観的な基準は与えられな かった、と指摘する。とりわけ、彼が危惧したの は、正常とされる愛情やしつけのタイプが、家族 が属している文化的グループによって非常に異な るであろうということである。 要するに、Glueckらの接近法は、非行の予測 のための技術的な道具を厳密に構成しておらず、 その実施にあたって多くの専門家を投入したにも かかわらず、妥当性を担保し得なかったことが、 その後の非行予測を停滞せしめた、と考えられる。 一方、この時代には、心理検査による非行予測 の研究も、盛んに実施された。MMPI(Hathaway, S. R. & Monachesi, E. D.(1951)、Kanun, C.(1959))、 ロールシャッハ・テスト(遠藤辰雄(1960)、市 表2 Glueckらの社会的予測表 社 会 的 因 子 加重失点 1 父による少年のしつけ 厳格すぎる、または気まぐれ 71.8 ゆるやか 59.8 確固であるが親切 9.3 2 母による少年の監督 不適切な 83.2 普 通 57.5 適 切 な 9.9 3 少年に対する父の愛情 冷淡な、または敵対的 75.9 温かい(過保護を含む) 33.8 4 少年に対する母の愛情 冷淡な、または敵対的 86.2 温かい(過保護を含む) 43.1 5 家族の結合 結びついていない 96.9 少し結びついている 61.3 結びついている 20.6 注 Glueck, E. T.(1952)による。 表3 予測のための評定尺度 項 目 + - AvRT1>35" 1 T/R1(AvC)-T/R1(AvA)<10" 2 P≧3 4 C-P≧4 4 Rej≧1 1 F%=41~80% 1 M=0 4 FM=0 1 CF≠0 2 C'≠0 2 Fc=0 2 (A)=0 1 H≠0 2 Fl=0 1 Fire+Blood≠0 2 N≠0 1 Ls+Geo=0 2 Mt≠0 1 哺乳類の A>1/2A 1 虫の A>1/3A 1 Content Range≦2 1 H+A≦Hd+Ad 3 M=0, SumC≧3 2 (Ⅷ-Ⅹ)%<35% 3 FC:CF 共貧型 2 Sum C=0.5~4.0 2 ΣC≦c+C' 2 注 1 市村潤(1965a)のTable 6 による。 2 +は非非行少年傾向、-は非行少年傾向、をそれぞれ表す。
村 潤(1965a, 1965b)、Ichimura, J.(1966))。 特 に、 わ が 国 で は、 遠 藤 辰 雄(1960) が、 初 め て、Glueck, S. & Glueck, E.(1950) が 取 り 上 げ たロールシャッハ・テストの5因子を使用し、 Schachtel, E. G. & Schachtel, A. H.のめくら分析を 利用して追試したほか、Ichimura, J.(1966)(市 村潤(1965a, 1965b)を英文でまとめたもの)が、 就学前の児童にロールシャッハ・テストを実施し、 およそ10年間、追跡調査を実施し、予測のための 評定尺度(表3)を作成して、就学前の児童から 得られたロールシャッハ・プロトコールによって 10年後の非行の出現を予測することができると報 告している。 ウ 後Glueck年代 1970年 代 以 降 の 非 行 予 測 に 関 す る 研 究 は、 Walters, A. A.(1955-56)のGlueckらに対する批 判が影響したこともあって、方法論的に手の込ん だものが多くなっている。 Hampton, A. C.(1970)は、600項目の客観的 な人格目録で、査定される児童の母親が回答す る児童用人格目録(PIC)を使用するとともに、 1960年から1962年まで公立学校に在籍した10歳か ら12歳までの191人のうち、1968年1月までの追 跡期間中に警察記録および/または交通記録を もつ30人を非行群、残りの161人を非非行群とし て、中間相関(interim correlation)を利用する Darlingtonによって提唱された項目−分析法に基 づいて経験的に構成された非行予測尺度を構成し た。 Viemerö, V. (1996)は、7歳と9歳(児童期) であった対象者を原サンプルとして、15−17歳(青 年期)および25−27歳(若い成人期)まで追跡し、 予測因子として選定された、(1) 親の子どもに対 する攻撃、罰および拒否の態度、(2) 対象者によ る以前の攻撃行為、(3) 子ども時代にテレビで暴 力を視聴すること、(4) 青年期における攻撃的で、 冷淡な、非行的な行動、について調査し、または 自己報告させて、回帰分析をするなど工夫した。 この二つの研究に代表されるように、長期間に わたって研究対象者を追跡調査しているほか、調 査方法の中に母親の回答や自己報告を加え、統計 的技法もより高度なものを活用するなど、創意工 夫の跡がうかがわれる。 (2) 方法論的特徴 非行予測の方法としては、大別して、(1) 調査、 (2) テスト、(3) その他、の三つがある。 調査による方法は、Glueckらの社会的予測表に 代表されるように、教師、ケースワーカーなどが、 あらかじめ準備された予測因子について調査およ び/または評定を実施するものである。Glueckら の社会的予測表(これに類似したものを含む)以 外の予測法としては、Lively, E. L., et al.(1962) の 教 師 指 名 法(teacher nomination technique) がある。これらの予測表または予測尺度による研 究は、いずれも追跡調査を実施しているところに 特色がある。 テストによる方法は、さらに、(1) ロールシャッ ハ・テスト、(2) MMPI、(3) その他の人格目録、(4) その他、に細区分される。 ロールシャッハ・テストには、遠藤辰雄(1960)、 市村潤(1965a, 1965b)およびIchimura, J.(1966) がある。 MMPI には、Hathaway, S. R. & Monachesi, E. D.(1951)およびKanun, C.(1959)がある。 その他の人格目録には、Hampton, A. C.(1970) の児童用人格目録(PIC)、Lowe, J. (1966)のカ リフォルニア人格目録およびPutnins, A. L.(1982) のEysenck人格質問用紙(EPQs) がある。 その他には、Follman, J.(1972)の二つの予 測尺度(KD傾性尺度とNye非行性尺度)および Salts, C. J., et al.(1995)の非行を予測する要因に 関する自己報告形式の質問紙がある。 その他による方法には、Jacques, O. M.(1958) のBettsとCasselの生活経験目録、Stott, D. H.(1960, 1964)、Stott, D. H. & Wilson, D. M.(1967)およ びMarsh, R. W.(1969)のBristol社会的適応指針、 Kelly, F. J., et al.(1964)の精神運動のパーフォー マ ン ス の 測 度 お よ びGibson, H. B. & Hanson, R.(1969)の仲間評定法がある。 (3) 非行予測の妥当性 非行予測の妥当性は、予測因子が、(1) 非行群 と非非行群を有意に識別するか、(2) その加重得
点の加算による予測得点(失点)が識別力を有す るか、を検定することによって確認される。 非行群と非非行群の有意差を検定した研究は、 分析の対象とした37編のうち、19編(56.8パーセ ント)であり、いずれも有意差が認められた。こ れは、両群に有意な差が出ると見込まれる予測因 子をあらかじめ意図的に取り込んでいるので、む しろ当然の結果であると言えよう。 複数の予測因子について予測得点(失点)を算 出して識別力を検定する研究は、37編のうち、21 編(54.1パーセント)で、それらのうち、識別力が、 認められたものは17編(80.9パーセント)、疑わ しかったものは2編(9.5パーセント)、認められ なかったものは2編(9.5パーセント)であった。 識別力が疑わしかった研究について見ると、 Feldhusen, et al.(1976)は、非行の有意な予測 因子を決定することを第一の目的として掲げ、面 接の項目に加えて、三つの心理検査、Kvaraceus (KD)傾性テスト、物語と文章完成法、Glueckら の社会的予測因子など多数の予測因子を投入した が、Glueckらの尺度、物語と文章完成法、四つの KDの下位尺度のうちの三つ、学力検査および四 つの面接の項目のうちの三つは、予測因子として ほとんどかまったく価値を有しないことを見いだ した。 樋口幸吉ら(1960)は、グリュックの予測表 における“精神医学的な面接から得られたパーソ ナリティ5因子”の妥当性を検討することを目的 とし、5因子による失点分布では非行性との間で かなり高い相関係数が求められたが、パーソナリ ティ特性の判定が、この面接が原法がねらいとす る5、6歳時ではなく、14歳の時点で行われ、し かも、非行少年では既に明らかな非行歴をもって いるという事実の上に立ってなされているなど、 いくつかの問題点があるとして、グリュック方式 が有効であると結論するのは早計であると結論し ている。 識別力が認められなかった研究について見る と、白佐俊憲(1967)は、館沢徳弘がGlueckらの 研究を追試して作成した“累非行予測表”を取り上 げ、児童相談所で取り扱った児童に追試したが、 的中率が58.5パーセントと相当に低い結果しか得 られず、その原因として、館沢のサンプルとの間 でいくつかの個人的、環境的条件の相違があった と考察している。 米倉育男(1962)は、非行少年の再非行に及ぼ す要因の選定には生物的、社会的、心理的総合の 立場における考察が必要であるという立場から、 主として本人に関する諸要因と主として環境に関 する諸要因から22項目を選定し、有意差の見られ た項目から予測表を作成したが、保護観察中に再 犯し少年院に送致された者とそうでない者を有意 に識別することができず、このような対象者の経 過の判定はダイナミックなケース・スタディによ る以外はないと結論している。 上の結果から、非行予測における妥当性を確保 するためには、特に、次のような方法論上の問題 点を改善する必要があると考えられる。 (1) 非行の発生機制を説明できる作業仮説を あらかじめ準備しておき、それに沿って意 図的かつ体系的な予測因子を選定すること。 (2) 非行群の設定にあたっては、対照群との 対応(マッチング)に留意し、家族構成、 居住地区、社会的階層などを統制すること。 (3) 標本抽出にあたっては、犯罪多発地帯の少 年や非行性の著しく進んだ少年を人為的に 選択することを避け、自然に近づけること。 (4) 非行予測の利用価値 非行予測の妥当性が確保されても、予測表が少 年処遇の現場において利用価値が高いかという と、必ずしもそうではない。われわれに必要なこ とは、ある少年が将来、どの程度の確率で非行に 陥るかではなく、その少年のどのような長所を伸 長し、どのような短所を改善すればよいか、その ために、どのような関係資料を入手すればよいか、 を知ることである。 そのために、追跡調査を早期に、できれば就学 前に実施するとともに、予測因子として環境要因 とパーソナリティ要因を均等に取り込むことが、 なによりも大切である。 いま、分析の対象にした文献について、追跡調 査の、(1) 有無、(2) 開始時期、(3) 内容、を調査 すると、次のとおりである。
(1) 追跡調査を導入している研究は、13編で、 全体の35.1パーセントを占める。 (2) これらの13編のうち、最初の調査が就学 前に行われたものは、4編(30.8パーセント) にすぎず、極めて低い値である。 (3) さらに、これらの4編のうち、予測因子 として環境要因とパーソナリティ要因のい ずれも取り込んだ研究は、1編(25.5パー セント)にとどまっている。 こ の 最 後 の 1 編 に 残 っ た の は、 意 外 に も、 Glueck, E. T. (1952)の文献である。これは、最 初に発表した研究(Glueck, S. & Glueck, E.(1950)) を敷衍したもので、500人の非行少年とそれに対 応させた非非行少年のグループについての長期研 究に沿って、三つの予測表、すなわち、ロール シャッハ・テストの調査結果に基づくもの、パー ソナリティ特性に基づくもの、および社会的な背 景に基づくものについて報告したものである。周 知のように、Glueckらの業績については、多くの 批判があり、わが国でも、宮崎昇(1957)、樋口 幸吉(1959)、松浦孝作(1959)、橋本重三郎(1959, 1960)、遠藤辰雄(1966)、浜井浩一(1993)らが、 それぞれ専門の分野から論評ないし批判を試みて いる。 いずれにせよ、半世紀を過ぎても、Glueckらを 超えることができないところに、非行予測の難し さがあると言っても、差し支えなかろう。
5 総括と今後の課題
この研究は、“非行予測の研究は、なぜ、急速 に停滞したか”を解明することを当面の目的とし、 そのための作業として、諸外国およびわが国にお ける非行予測に関する文献、37編を分析したもの である。その主要な結果は、次のとおりである。 (1) 追跡調査を導入している研究は、13編で、 全体の35.1パーセントを占める。 (2) これらの13編のうち、最初の調査が就学 前に行われたものは、4編(30.8パーセント) にすぎず、極めて低い値である。 (3) さらに、これらの4編のうち、予測因子 として環境要因とパーソナリティ要因のい ずれも取り込んだ研究は、1編(25.5パー セント)にとどまっている。 非行予測に関する研究の利用価値から見れば、 第一に、人生の早期において非行の可能性を予測 する研究を企画することが、なによりも重要であ る。第二に、少年非行の予測因子は、環境要因と パーソナリティ要因を共に包含していなければな らない。 第三に、この分野における研究の行き詰まりを 打開するためには、非行の発現を就学前における 環境、特に家庭環境、とパーソナリティの関数関 係によって説明することができる作業仮説をあら かじめ準備しておかなければならない。 浜井浩一(1993)は、これまでの研究では、な んらかの理論的な背景あるいは非行原因に対する なんらかのモデルに基づいて、非行予測を試みて いる研究が少ない、といみじくも喝破しているが、 まさに頂門の一針である。 非行予測に関する研究は、方法論的に手詰まり の状態にある。これを改善するための手当として は、少なくとも、安易に、犯罪多発地帯の少年や 非行性の著しく進んだ少年をサンプルとして採取 することを避け、自然な母集団を使うよう心掛け る必要がある。 また、これまで予測上の誤差とされてきた、将 来、非行化する危険性が高いと評価されながらも 非行化しなかった少年たち(いわゆるフォルス・ ポジティブ(false positive))に積極的に焦点を あて、彼らが、なぜ、非行化しなかったかを分析 して、非行を抑制する要因を積極的に想定するこ と(Marsh, R. W.(1969)、浜井浩一(1993))も、 忘れてはならない。引用文献
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Tompson, R. E. 1957 Further validation of the Glueck Social Prediction Table for identifying potential delinquents. Journal of Criminal Law, and Criminology, 48, 175-184.
Venezia, P. S. 1971 Delinquency prediction: A critique and a suggestion. Journal of Research in Crime and Delinquency, 8 (1), 108-117. Viemerö, V. 1996 Factors in childhood that
predict later criminal behavior. Aggressive Behavior, 22, 87-97.
Weeks, H. A. 1943 Predicting juvenile delin-quency. American Sociological Review, 8, 40-46. Whelan, R. W. 1954 An experiment in predicting
delinquency. Journal of Criminal Law, and Criminology, 45, 432-441. Zakolski, F. C. 1949 Studies in delinquency. :Ⅱ. Prediction of delinquency in boys. Journal of Genetic Psychology, 74, 119-123. (2) 収集した関係文献(日本語) 遠藤辰雄・橋本重三郎・安香宏・樋口幸吉 1960 少年非行早期予測に関する研究 第一報 ―グ リュク予測表の適用に関する研究― 法務総合 研究所研究部紀要(第2分冊) 1-31 遠藤辰雄 1960 ロールシャッハ・テストによる グリュック予測表の検討 法務総合研究所研究 部紀要(第2分冊) 49-63 橋 本 重 三 郎 1959 Glueckの 非 行 予 測 ―One Thousand Juvenile Delinquents の follow-up を 中心として― 矯正医学 8 (3) 147-164 橋本重三郎・佐藤寧子 1960 社会的因子による グリュック予測表の検討 法務総合研究所研究 部紀要(第2分冊) 33-63 樋口幸吉・武村信義・坪井孝幸・中村一夫・逸見 武光・栗原徹郎・佐藤寧子 1960 精神医学面 接によるグリュック予測表の検討 法務総合研 究所研究部紀要(第2分冊) 65-70 市村潤 1960 集団ロールシャッハ・テストによ る非行予測 家庭裁判月報 12 (5) 97-110 市村潤 1965a ロールシャッハ・テストによる 早期非行予測の研究(Ⅰ) 犯罪心理学研究 2 (1) 9-16 市村潤 1965b ロールシャッハ・テストによる 早期非行予測の研究(Ⅱ) 犯罪心理学研究 3 (1) 9-19 白佐俊憲 1967 舘沢累非行予測表の妥当性の研 究 犯罪心理学研究 4 (1) 9-18 米倉育男 1962 再非行予測の標準化の研究 矯 正医学 9(特別号) 116-119 (3) そ の 他 遠藤辰雄 1966 グリュックの社会的非行予測表 の予測力をめぐる諸問題の考察 九州大学教 育学部紀要(教育心理学部門) 11 (1) 11-24 浜井浩一 1993 非行は予測できるか(非行予測 研究の動向:アメリカの研究動向を中心にして) 犯罪と非行 97 89-112 橋本重三郎 1960 日本における非行予測研究の 展望と問題点 教育社会学研究 19 56-73 樋口幸吉 1959 非行予測理論における精神医学 の寄与―予測ブームを診断する 法律のひろば 12 (8) 24-28 Glueck, S. and Glueck, E. 1950 Unraveling Juvenile Delinquency. New York: The Commonwealth Fund. 中央青少年問題協議会訳 1953 少年 非行の解明 大蔵省印刷局 進藤眸 2006 非行性の認定(Ⅷ) 補遺 その 1 心理検査による非行性のアセスメント (2):ロールシャッハ・テストおよびTAT 文教大学人間科学部 人間科学研究 第28号 35-45 Stott, D. H., and Sykes, E. G. 1959 Bristol Social Adjustment Guides Nos. 1 and 2. The Child in School (boy and girl). London: University of London Press. 松浦孝作 1959 グリュックの非行予測表につい て―とくに社会的五因子をめぐって 法律のひ ろば 12 (9) 24-28 宮崎昇 1957 非行予測表に関する若干の問題 家庭裁判月報 9 (6) 71-92
[要旨] この報告は、非行予測の研究から得られた知見を、可能な限り非行性の認定に役立てることを意図し たものである。ところが、非行予測に関する研究活動は、グリュック夫妻およびストット、D. H.がこ の分野で活躍した1950−60年代以降、急速に停滞してきている。なぜ、そのような急速な停滞が生じ たのか。その問いに答えることが、この研究の差し当たっての課題である。 1930年代以降に発行された非行予測に関する文献、合計42編を収集する。紹介、概観および評論の みから構成された文献を除いたのち、残りの37編を、主として方法論の側面から詳細に分析する。主 な分析の結果は、次のとおりである。 (1) 追跡調査を導入している研究は、13編、全体の35.1パーセントを占める。 (2) これらの13編のうち、最初の調査が就学前に行われたものは、4編(30.8パーセント)にすぎず、 極めて低い値である。 (3) さらに、これらの4編のうち、予測因子として環境要因とパーソナリティ要因のいずれも取り 込んだ研究は、1編(25.5パーセント)にとどまっている。 非行予測に関する研究の利用価値から見れば、第一に、人生の早期において非行の可能性を予測する 研究を企画することが、なによりも重要である。第二に、予測因子は、環境要因とパーソナリティ要因 を共に包含していなければならない。 第三に、この分野における研究の行き詰まりを打開するためには、非行の発現を就学前における環境、 特に家庭環境、とパーソナリティの関数関係によって説明することができる作業仮説を、あらかじめ準 備しておく必要がある。 Journal of Delinquency, 6, 297. [謝辞] この研究は、平成11年度から9年の長期にわた り文教大学個人研究費に基づき継続して実施した ものである。ここに記し、改めて深甚なる謝意を 表する。