当事者尋問および当事者聴取における自白の成否
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(2) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. 「当事者尋問における当事者の陳述には自白は成立しない J 。わが国では自明 とされるこの法理について,. ドイツではいかなる議論がなされてきたのか。そ. れを探ることによって,わが国における白白法理について,あるいは,同一当 事者による同一事件の事実関係についての陳述でありながら,当事者尋問にお ける陳述と口頭弁論における陳述を,一方は証拠であり他方は弁論であるとし て厳格に区別することの是非について,なにがしかの示唆を受けるものがある のではないか九このような関心から,本稿においては,当事者尋問における 自白の成否という問題について,わが国の判例と学説を一瞥したうえで,. ドイ. ツにおける判例の変選とこれらの判例をめぐる学説の見解を紹介しながら,若 干の検討を加えた後に,試論的に私見を提示したい。その上で,釈明処分とし て当事者本人の出頭が命じられた場合に(民訴法 1 5 1条 1項 1号),そこでなさ れた当事者の陳述にも自白は成立するのかという問題(以下では,. I 当事者聴. 取」における自白の成否と呼ぶ)についても言及したい。. 2 わが国における学説および判例の状況 ( 1)わが国における学説の状況 裁判上の自白が成立するためには,自白と評価されるべき陳述が、訴訟の口 頭弁論または弁論準備手続 5における「弁論としての陳述」でなければならな. 4 同じ当事者の事実に関する陳述を弁論と証拠に厳格に区別することは,理論上はともかく として,実際上は可能なのであろうか。筆者は,以前に,この点に関して口頭弁論における 陳述と証拠調べにおける陳述を峻別することに対する少なからぬ疑念を表明した。参照,拙 稿「釈明処分としての『当事者聴取』の証拠機能j 近大法学46巻 2 ・3号五 7頁以下。 5 弁論準備手続には,民訴法 1 7 0条 5項により,擬制自白を定める同法 1 5 9条などが準用され 7 3条に従って,口頭弁論において陳述されること ているし,弁論準備手続の結果は,同法 1 が予定されているので,弁論準備手続における当事者の主張については自白の成立を肯定で 2 0 0 5年,有斐閣) 307頁は, I 自白は きる。また,伊藤虞『民事訴訟法(第 3版補訂版)j ( 『裁判所において H179) するものであるから,口頭弁論のみではなく,弁論準備手続も合ま れる」と解している O. -66-.
(3) 法科大学院論集. 第 2号. ぃ o 証拠調べとしての当事者尋問において,当事者が白己に不利益な相手方 の主張と一致する供述をしても,これに対しては自白は成立せず,自由心証主 義に基づき,裁判所による自由な証拠評価がなされるべきである. o. この旨を. 直接的に規定する根拠条文はないが,こう解するのが学説における確固とした 不動の見解である. o. r 弁論」と「証拠」の峻別から導かれる当然の帰結という. わけである D しかし,それでは,なぜ同一当事者による同ーの事実関係に関する陳述が, それぞれ「弁論j と「証拠」として区別されなければならないのか。この区別 を厳格に貫くことの是非が問われなければならない。. ( 2 ) わが国における判例の状況 この問題を扱ったわが国における先例としては,大審院時代のものであるが, 大判昭和 6年(1931年) 4月23日9が,当事者尋問における当事者の供述には 自白は成立しない旨を判示した。本判決の事案は,その詳細については不明で あるが,動産返還請求事件において,賃料の支払いを怠ったとして動産の返還 を求められた被告(控訴人,上告人)が,原告(被控訴人,被上告人)の売買 代金の完済まで,本訴物件の引渡しを拒む旨の抗弁を提出した。そして,この. 6 裁判外の自白は,一般的に,その事実に関する徴愚(間接証拠)として,裁判所の自由心. 証に委ねられる。そして,誰もそれが真実であると確信することなくして自己に不利な事実 を認めることはないという経験則から,その事実は真実であるということの徴患となる 7 さらに,証拠調べにおいてこのような相手方と一致する不利益な供述をしたことが,弁論 4 7条)0 の全趣旨として,裁判所の自由心証に服することにもなろうか(民訴法 2 8 兼子一『民事訴訟法体系 j ( 19 5 4 年,酒井書庖) 2 4 7頁,三ヶ月章『民事訴訟法第 2版 J ( 19 85年,弘文堂) 4 3 2頁,新堂幸司『新民事訴訟法(第 3版補訂版)j( 2 0 0 5 年,弘文堂) 4 94 頁,中野貞一郎=松浦馨=鈴木正裕編『新民事訴訟法講義(第 2版 ) j ( 2 0 0 5 年,有斐閣) 2 7 8 頁(春日偉知郎執筆),上田徹一郎『民事訴訟法(第 4版)j ( 2 0 0 4 年,法学書院) 3 52頁,高 2 0 0 5 年,有斐閣) 424 頁,伊藤員『民事訴訟法(第 3版 橋宏『重点講義 民事訴訟法(上)j( 補訂版) j( 2 0 0 5年,有斐閣) 3 0 7頁,松本博之=上野泰男『民事訴訟法(第 4版)j (弘文堂, 2005年) 2 7 1頁,など。 9 法律新報256 号2 1頁 。 O. -67-.
(4) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. 抗弁を排斥するにあたって,裁判所は,以下のように判示した。. 「上告人ハ原審ニ於テ代金ノ支梯滞レルニ依リ之カ提供ヲ為迄本訴 物件ノ引渡ヲ拒ム旨抗争シ数多ノ誼擦ヲ援用セリ而シテ特ニ嘗事者双 方ニ共通ノ誰擦タルヘキ原審被控訴本人訊問ノ結果ニ依レハ責買代金 一千圏中尚約二十固足ラスノ残金アル旨自白セリ(控訴本人訊問調書 参照)然ルニ原判決ハ此ノ自白ヲ無視シ代金全部支梯ヲ了シタルモノ ト認メ上告人ノ抗競ヲ排斥シタルハ淘ニ違法ノ判決ナリト云フニ在リ 然レトモ本人訊問ニ於ケル嘗事者ノ供述ハ誼擦ニシテ詳論ニアラサ ルカ故ニ其ノ相手方ノ主張ト一致スルモノアルモ之ヲ自白ト為スヲ得 サルモノニシテ且被上告人本人ノ所論供述ハ原審カ措信セストシテ排 (下線 斥シタルモノニカカルコト明ナルヲ以テ本論旨ハ採ルニ足ラス J は筆者)。. このように,学説と同様,. r 弁 論Jと「証拠」を裁然と区別し,訴訟資料と. 証拠資料の混請を戒めるのである 100 なお,この問題を扱った最高裁判所の判 例は,瞥見の及ぶ限りみあたらない。. 3 ドイツにおける判例の変遷と学説の対立 ドイツの判例および学説の状況に日を移してみたい。まず,. ドイツ民訴法は,. わが国の民訴法とは異なり,裁判上の自白の成立要件について規定している。 すなわち,. 8 8条 1項は, ドイツ民訴法 2. r 当事者の一方の主張した事実は,訴訟. 1 0 また,この先例を受けて東京控判昭和 1 0年 6月24日(法学 5巻 1 2 0頁)も, I 当事者訊問ハ 謹擦調ノ一種ニ属シ此手績ニ於テ嘗事者ノ為シタル供述ハ U頭詩論ト匝別スヘキモノニシテ 般令之カ偶々相手方ノ主張ト一致スル点アルモ之ヲ日スルニ自白ヲ以テスルコトヲ得ス」と 判示した。. -68-.
(5) 法科大学院論集. の進行中,. 第 2号. L J頭弁論において又は受命裁判官若しくは受託裁判官の調書に対し. て,相手方が自白した限りにおいて,その証明を必要としない J l lと定めている。 そして,当事者尋問における陳述にも自白が成立するかという問題は,右の文 言の解釈をめぐる争いとなる O この問題に関するドイツの判例の立場は,冒頭で述べたように興味深い変遷 を示している口以下では,このような判例の変遺を,それぞれの判例に対する 評釈等を参照しながら辿っていきたい。. ( 1)ライヒ最高裁判所 1 9 3 5 年判決. i)ライヒ最高裁判所は,その 1935年 1 2月 2日判決によって,弁護士訴訟で は当事者尋問における当事者の陳述には自白が成立しない旨を,以下のように 判示した九. < 事 案 > 団体の理事会役員の改選に際して,被告は以下のような 発言をした。すなわち,原告は理事長の候補者たりえない。なぜなら, 彼については「非常に悪しき情報」が存在するからである,と. D. この. 主張の取消しを求める訴えにおいて,被告は,第一審では,信頼のお け る 通 報 者 (G ewahrsmann) を明らかにせず,また原告の申請にか かる被告本人の当事者尋問に際しでも,それを明らかにしなかった。 第一審裁判所は,右の当事者尋問に基づいて,被告が「充分な根拠な しにそのような発言をした」ことを認め,原告の請求を認容した。 控訴審において,被告は,その信頼のおける通報者の名前を明らか にした。そこで,控訴審裁判所は,原告の請求を棄却した。上告審に. 1 1 訳出は,法務大臣官房司法法制調査部[ドイツ民事訴訟法典(法務資料450 号 )H 平成 4年 , 法務大臣官房司法法制調査部)によった。 1 2R G .Urt . v . 2. l2 . l9 3 5 .JW1 9 3 6,1 7 7 8 .. -69-.
(6) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. おいて,自白の撤回が問題となった。 く判旨>. I 民訴法 290条(自白の撤回一一筆者)が違背されている. という責聞には,理由がない。撤回を必要とするような裁判上の自白 (民訴法 288条)は存在していなかった。弁護士訴訟において,裁判上 の自白は,当事者の訴訟代理人によってのみなされうるのである。と ころが,被告の訴訟代理人は,被告が原告に関する非常に悪しき情報 を実際に得ていたということに固執していた。被告の当事者尋問は, 民訴法445条によれば,証明に利用されるのであり,そこでは裁判上 の自白に関する問題は生じない。右の当事者尋問において,もし被告 が,その情報の真実性について留保しながらも,自分が発言した以上 のことは知らないと述べたならば,それは,確かに原告の請求を認容 することを正当化する証拠資料とはなろうが,しかし決して裁判上の 自白ではない J(下線は筆者)。. i)このように,ライヒ最高裁判所は,当事者尋問における陳述に自白が成 立することを否定し,その理由として以下のことを示した。すなわち,①当事 者尋問は証明に利用されるものであること,②弁護士訴訟においては,当事者 は弁論能力を有さないので,自白は当事者の訴訟代理人によってのみなされう ることが,それである。 ライヒ最高裁判所は,その 1938年 2月 9日判決 13において,当事者尋問にお ける陳述に自白の成立を否定する理由として,さらに,③ドイツ民訴法 453条. 1項 14が,裁判所による当事者の供述の自由な評価について規定している旨を 指摘している。 1 3 RG, Ur . t v,9,2 . 1938, ]W1 9 3 8,1 2 7 2, 1 4 ドイツ民訴法4 5 3条 1項は, I 裁判所は当事者の陳述を第 2 8 6条により自由に評価しなれけ ればならない J と規定する(前掲,法務大臣官房司法法制調査部『ドイツ民事訴訟法典 j )。 8 6条 1項については,注2 6を参照。 また, ドイツ民訴訟2. -70-.
(7) 法科大学院論集. 第 2号. i i i) し か し こ の ラ イ ヒ 最 高 裁 判 所 1 9 3 5年 1 2月 2f::/判決の判決に対して, Herringerはヘ以ドのような理由から判旨に反対する旨を表明し,当事者尋 問においても自白の成立を認めるべきだと結論づける。すなわち, Herringer によれば,④弁護士訴訟においても,当事者が訴訟の主 ( H e r r ) であり,弁 護士は当事者の代理人でしかない口ドイツ民訴法 1 3 7条 4項 16によれば,当事者 は,申立てにより,弁護士と並んで主張することが許されるのである 170 また,. Herringerは,②当事者尋問における事実の陳述に対して,口頭弁論でなされ た事実の陳述よりも,手続法的に少ない重要性しか与えないことには正当な理 由がなく,むしろ,当事者尋問における陳述にも自白の効力を認めることが相 応しいという。なぜなら,当事者尋問における陳述に関しては,真実であるべ き旨の警告が法律によって詳細に規定されているのであり,場合によれば,そ れは宣誓の圧力の下でなされるからである 180. ( 2 ) 連邦通常裁判所 1 9 5 2年判決. i)ライヒ最高裁判所 1935年 1 2月 2日判決の判決に対しては,前述したよう に Herringerによって反対意見が表明されたが,彼の見解に呼応するかのよう に ,. ドイツ連邦通常裁判所は,その判例を変更し,正反対の結論を導いた。す. なわち,連邦通常裁判所 1 9 5 2年 1 2月1 7日の判決は,弁護士訴訟にあっても,当 事者尋問における陳述に自白が成立する旨を判示したヘ. く 事 案 > 被告の飲食庖の客であった原告は, 2 3時から 2 4時の間に, 1 5 H e r r i g e r,JW1936,1778. f 1 6 ドイツ民訴法 1 3 7条 4項は, I 弁護士訴訟では,弁護士のほか,当事者本人も申立てにより 発言が許されなければならない」と規定する(前掲,法務大臣官房司法法制調査部『ドイツ ) o 民事訴訟法典 j 1 7 H e r r i g e r ,a . a . O .,S . 1 7 7 9 . e r r i g e r,a . a . O ., S . l7 7 9 . 1 8 H ] 9 BGH, Ur. tv .] 7 .1 2 .1 9 5 2 , BGHZ8, 2 3 5= NJW1 9 5 3, 621 . -Ei. i 月.
(8) 当事者尋問および当事者聴取における白白の成否. 酒席を離れてトイレに向かった。その途中の通路で,原告は転倒し右 足に重傷を負った。 その通路は,滑り止めの溝がきざまれたコンクリートの床であった。 原告は,床が湿って滑りやすく,また通路には不十分な照明しかな かったがゆえに,自分は転倒したのだと主張した。第一審裁判所は, この転倒原因を認め,原告の請求の半額を認容した。 控訴審における当事者尋問の中で,被告は次のように陳述した。す なわち,. I 広い通路も脇の通路も,概しでかなり滑りやすく ( z i e m l i c h. g l a t t ),それは,相当に古くなったコンクリートの床の性質に原因が ある。その床は,いずれの通路も常にいくらか湿っており,通行する には危険 (zumL aufeng e f a h r l i c h ) であった。特に通行人が靴底に 鋲の打つである靴を履いている場合は尚更である. O. 凍結や雪は,その. ,と。この当事者尋問の後に,被告は,通 通路にはみられなかった J 路の床に客観的な危険性が存在するか否か,検証によって確定するよ う申し出た。しかし,控訴審裁判所は,不必要であるとして,この被 告の申出に応じなかった。なぜなら,被告が当事者尋問においてなし. e r k e r h s w i d r i g ) と特徴 た陳述のうち,通行するには不適切である(v づけた床の性質に関する部分に,自白(民訴法 288条)の成立が認め られたからである D そして,控訴審裁判所は,床の性質が原告の転倒 の原因であるとして,原告の請求を全部認容した。 被告が上告。上告審では,この白白の成否が問題となったが,連邦 通常裁判所は,以下のように判示し,上告を棄却した。. く判旨>. I 確かに,ライヒ最高裁判所は,民訴法 455条以下による. 当事者尋問においてなされた当事者の陳述は,民訴法 288条の意味で の白白と評価されるべきでないことを 7 2. 繰り返して判示してきた。.
(9) 法科大学院論集. 第 2号. ・・・・・・しかしながら,当法廷はこれに与しない。ライヒ最高裁判所の 立場がその論拠とするところは,弁護上訴訟において,裁判上の自白 は訴訟代理人によってのみなされうるのであり,当事者本人がなすこ とはできないというものであった口しかし. この論拠には反論の余地. がある。なぜなら,弁護士訴訟においても,当事者は訴訟の主. ( H e r r ) でありつづけるからである。訴訟代理人に選任された弁護上 は単に当事者の代理人にすぎず,当事者は,弁護士とならんで,申立 てにより発言が許されなければならない(民訴法 1 3 7条 4項)。まさに この規定は,弁護士訴訟においても,自分自身の事実に関する当事者 の陳述は,たとえ訴訟代理人がそれを援用しなくても,考慮されなく てはならないことを示している. O. 自白を含む当事者の新たな陳述が民. 訴法 4 5 5条以下による当事者尋問においてなされたならば,. とJl. わけ真実にかなった陳述をなす義務を特に必要なものとして迫る状況 のもとでは一一一,この陳述に対して,他の口頭弁論においてなされた 当事者やその訴訟代理人の陳述と比較して,手続法的にわずかな意義 しか与えない理由は存在しない。それゆえに,当事者尋問における当 事者の陳述も, ・・・・・・・・裁判上の白白と評価されうることが首宵され よう J(下線は筆者)。. ただし,連邦通常裁判所は,このように当事者尋問における陳述にも自白が 成立することを認めたが,本件事案の具体的な解決としては,自白の成立を否 定した。すなわち,その床が「かなり i 骨りやすい J( z i e m l i c hg l a t t ),あるいは 「通行するのに危険である J(zumLaufen g e f a h r l i c h ) といった被告の陳述は, 事実に関する陳述ではなく,事実に対ーする「評価」の表明にすぎず,これにつ いては自白の成立する余地はなし被告はこの評価に拘束されないと判示した のである. O. J 門. っd.
(10) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. i i ) このように,ライヒ最高裁判所は,当事者尋問における陳述にも自白が e r r i n g e rとほぼ同様の 成立することを肯定した。そして,その論拠として, H ものをあげていることが確認できょう。すなわち,①弁護士訴訟においても, 当事者が訴訟の主 ( H e r r ) であり,事実に関する当事者の陳述は,たとえ訴 訟代理人がそれを援用しなくても,考慮されなくてはならないこと,②当事者 尋問における陳述に対しては,真実にかなった陳述をなすことを迫る状況が存 在するので,むしろ自白の成立を認、めるのに相応しいことが,それである O. i i i)この判決に対しては, Johannsenが,判旨に賛成をし,当事者尋問にお ける陳述にも自白が成立することを認めた 200 その際,これと反対の見解を採 るライヒ最高裁判所の 1935年判決が示した二つの論拠,すなわち,①当事者尋 問は証明にのみ奉仕するものであること,②弁護士訴訟において自白はその訴 訟代理人によってのみなされうるという論拠は,いずれも形式主義的な法思考 であると論難した。そして,本件連邦通常裁判所の判決に賛成して,弁護士訴 訟においても,当事者は訴訟の主であること,それゆえに,. 3 7 ドイツ民訴法 1. 条 4項は,当事者の事実に関する陳述が,たとえ訴訟代理人によって援用され なくとも,訴訟において考慮されなければならないことを示している旨を,彼 は強調したのであるヘ さらに, Johannsenによれば,訴訟代理人が当事者の陳述を援用しなければ, 自白が成立しないと解することも,形式主義に過ぎるという。その理由として, 彼は,以下のように主張する。すなわち,訴訟代理人は,この陳述を援用すべ き義務を有しているのである O さもなければ,当事者は事実関係に関する陳述 を完全かっ真実にかなって陳述しなければならないという真実義務・完全陳述 義務(ドイツ民訴法 138条)に違反するへと。. 2 0J o h a n n s e n,Am.z uL i n d e n m a i e r M o h r i n g,N a c h s c h l a g w e r kd e sB n d e s g e r i c h t s h o f s,¥ 32 8 8 . 1( LM1 9 5 4,B L 1 2 3 f ) ZPO,Nr ,a ,0 ;,S J 2 3 . 2 1J o h a n n s e n,a 2 2J o h a n n s e n,a .a .0 .,S . 12 4 . i. 月. A斗 A.
(11) 法科大学院論集. 第 2号. i v ) 他方で,この本件連邦裁判所の判決に反対するのは, Lentで あ る ヘ 彼 は,当事者尋問における陳述に自白の成立を否定する理由として,まず,当事 者尋問における当事者の陳述は証拠資料であり,口頭弁論における当事者の陳 述は訴訟資料であって,両者を明確に区別しなければならないことをあげる O なぜならば,後者は,訴訟の素材 ( S t r e i t s t o f f ) と証拠調べの範囲を決定する 主張 (Behauptungen) であり,前者は,この主張の真実性につき裁判官の確 信の形成に役立つものだからであるへつづいて,自白の成立を否定するライ ヒ裁判所の見解に関し本件連邦裁判所がなした批判に対して, Lentは,以下 のような反批判を試みる. O. すなわち,弁護士訴訟における当事者の弁論能力の. 欠如ゆえに自白は当事者によってなしえないとするライヒ最高裁判所の論拠に 反対して,連邦通常裁判所がドイツ民訴法 1 3 7条 4項(弁護士訴訟にあっても, 申立てにより当事者に発言が許される旨の定め)を指摘することは,有効な論 駁とはなりえていないという口なぜなら,この規定は,口頭弁論に関するもの 峻別されるべき当事者尋問のような証拠調べには適用されない であり,これと l からである 250 さらに, Lentは,裁判所による自由な証拠評価を卜全のものと. 5 3条 1項は,当事者尋問 するために,以下のように主張する。ドイツ民訴法4 における陳述が,自由心証主義を定める同法 286条 1項おに従い,裁判所によっ て自由に評価されるべき旨を規定しているが,このことは,当事者尋問におけ る全ての陳述に妥当する,と。それゆえに,当事者尋問における当事者による 統一的な陳述を,白白として裁判所を拘束する部分と,裁判所の白山な評価に 服する部分に区分することは許されないと,彼は主張するのであるヘ 2 3 Lent,N]W1 9 5 3,6 2 1f. 2 4 Lent , a . a , . o S.621 . 2 5 Lent,a . a . O .,S . 6 21 . 2 6 ドイツ民訴訟 2 8 6条 1項は, I 裁判所は,弁論の全趣旨と,なされた証拠調べの結果を掛酌 して,自由な心証によって,事実の主張を真実と評価すべきか真実ではないと評価すべきか を判断しなければならない。判決において裁判官の心証を導いた理由を示すことを要する J , )。 と規定する(前掲,法務大臣官房司法法制調査部『ドイツ民事訴訟法典 j 2 7 Lεnt .a . a . O . .S . 6 2 2 . h 円 d. 巧 i.
(12) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. v) O r f a n i d e sも,以下に掲げる理由から,本件連邦通常裁判所の判決に反 対して,当事者尋問における陳述に自白の成立を否定した施。 まず, O r f a n i d e sは,弁護士訴訟においては当事者の弁論能力が欠如するゆ えに当事者による自白の可能性を否定する見解に関して, J ohannsenと同様に, それを形式主義的な法思考であるとして斥ける。また,他方で,当事者は訴訟 の主 ( H e r r ) であるという指摘も,当事者が当事者尋問において自白ができ ることまで意味するものではないという。確かに,当事者の陳述は直接に裁判 資料を形成するが,しかし,その裁判資料に対する手続上の詳価は,手続の各 局面に応じて当然に区々であってよいと解するのである 290 そして,当事者尋問における陳述に自白の成立を否定する理由として,. O r f a n i d e sは,自白に関する諸要件と当事者尋問に関する諸要件で,その法的 規整が相違することをあげている。たとえば,訴訟無能力者の当事者尋問の許 容性を定めるドイツ民訴法 4 5 5条 2項測が,このような相違の典型である。彼は, 以下のように敷約する O すなわち,この規定の前提には,当事者尋問について は,証人尋問と同様に,尋問される者の「知りえたこと J ( W i s s e n ) こそ重要 である. O. それゆえに. 訴訟無能力者に対しても当事者尋問が可能となる。しか. し自白の有効性が問題となる場合には,自白の拘束力ゆえに,その主体にか かわる訴訟能力 ( P r o z e s s f a h i g k e it)や処分能力 ( D i s p o s it i o n s f a h i g k e i t ) の存 在が必要とされる。そこで,このような相違から,当事者尋問に関する法規整 に,自白に関する諸規定を重ねることはできないと,彼は主張するのであるヘ. 28 O r f a n i d e s, Problemedesg e r i c h t l i c h e nG e s t a n d n i s s e s, N]W1 9 9 0, 3 1 7 4 f 29 O r f a n i d e s,a . a . O .,S . 3 1 7 4 . 30 ドイツ民訴法455条 2項は, I 裁判所が事件の状況からみて相当と認める場合には,裁判所 は,満1 6歳に達した未成年に,彼ら自身の行為よりなる事実あるいは知覚の対象であった事 実について尋問し,また第452条によって宣誓させることもできる O 訴訟において看護人 ( B e t r e u e r ) 又は保佐人 ( P f l e g e r ) によって代理される訴訟能力者についても同様である J と規定する(前掲,法務大臣官房司法法制調査部「ドイツ民事訴訟法典 j )。 3 1 O r f a n i d e s,a . a . O .,S . 3 1 7 5 .. -76-.
(13) 法科大学院論集. 第 2号. さらに, O r f a n i d e sは , Lentと同様に,当事者尋問における陳述を,自白と して裁判所を拘束する部分と,裁判所による自由な評価がなされる部分に分離 するのを認めることにも反対する 320 その上で, O r f a n i d e sは,当事者宣誓の制度に替えて当事者尋問の制度を導 入した立法の沿革によって,自己の見解をさらに補強する. O. すなわち,以前の. 当事者宣誓による法律効果は,宣誓された事実を証明されたもの,あるいは自 白されたものと看倣されることにあった。しかし,実体的真実の発見という要. 9 3 3年の改正法で当事者宣誓を当事者尋問に替えることによって,当 請から, 1 事者の「知りえたこと」を裁判官が自由に評価するよう強く望まれたのである。 そこで,当事者尋問における陳述に白白の成立を認めることは,この立法の発 展に逆行することになると,彼は敷桁する 330 最後に, O r f a n i d e sは,当事者尋問における自白の成否と真実義務・完全陳述 義務との関係につき,次のように主張する. D. すなわち,本件連邦通常裁判所の. 判決が,当事者尋問における陳述に自白の成立を肯定するにあたり,そこでは 真実にかなった陳述をなすように迫る状況が存在するとした指摘は,説得力を 有していないという。なぜなら,真実義務のもとで陳述をなすことによって, その陳述に拘束力のある性質が生じるわけではないからである. O. さもなければ,. 当事者尋問におけるその者に有利な陳述に対しても,不利な陳述に対するのと 同様の結果を導かねばならないであろうと,彼は論難する 340. ( 3 ) 連邦通常裁判所 1 9 9 5 年判決. i)当事者尋問における陳述に自白の成立を肯定した前述の連邦通常裁判所 1 9 5 2年判決に対しては,一部の学説から反対の見解が表明されてはいたが,実. 3 2 O r f a n i d e s .a . a . O . .S . 3 1 7 4 . . a . O .,S . 3 1 7 5 . 3 3 O r f a n i d e s,a . a . O .,S . 3 1 7 6 . 3 4 O r f a n i d e s,a. 77.
(14) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. 務においては,柔軟で適切なものとして受け入れられていたようである 350 ところが近時,連邦通常裁判所は,再び判例を変更し,ライヒ最高裁判所の. 9 9 5年 3月1 4日の判決は, 見解に回帰するに至った。すなわち,連邦通常裁判所 1 当事者尋問における陳述には自白は成立しない旨を表明したのである 360 これ は,本稿における焦点となる判例であるため,やや詳細に紹介したい。. く 事 案 > 原告は,コーヒー庖を経営している被告の応の事務所内 にコーヒー抽出機を搬入する際に,事務所の入口にある踏み段で転倒 し,右上腕頭部の複雑骨折等の負傷をした。そこで,原告は,損害賠 償責任保険に加入している被告に対して,慰謝料と休業補償などを訴 求した。. 0分前,被告は,湿った雑巾でこの踏み段の拭 原告の転倒のおよそ 1 き掃除をしていた。客がそこでコーラーの瓶を割ったからである O 原 告は,その踏み段の表面が,氷のように滑りやすい状態 ( E i s g l at t e ) にあり,この滑りやすさ ( G l a t t e ) ゆえに転倒したと主張した。 第一審裁判所は,原告の請求を一部認容した。原告と被告の双方か ら控訴。 控訴審において,被告の当事者尋問がなされた。その際の被告の陳 述によれば,事故の後に,被告は,踏み段の表面に氷があったか否か を「自分自身で十分に吟味した」が,その際, こと Jを確認したという. O. r 滑りやすかった ( g l a t t ). しかし,控訴審裁判所は,連邦通常裁判所. 1 9 5 2年判決に反して,その被告の陳述を白白として評価することなく, 民訴法 286条(自由心証主義. 筆者)に基づいて裁判所の自由な評. 価に委ねた。そして,控訴審裁判所は,被告のその陳述は措信できな. 門 i. 。 。. 3 5 Wax. LM S 2 8 8 ZPO Nr.11 . Anm. 3 6 BGH.Ur t .v .1 4 . 3 . 1 9 9 5 . LM S2 8 8ZPO N r .1 1 .= N]W1 9 9 5 .1 4 3 2 .= MDR1 9 9 5 . 5 1 8 ..
(15) 法科大学院論集. いという心証を抱くに至った。なぜなら,被告も原告も. 第 2号. 6年を超え. る訴訟の間,被告が原告のかつての賃借入であったことを,裁判所に 打ち明けなかったからであるという。そこで,結論として,踏み段の 表面が氷のように滑りやすい状態にあったことや,その滑りやすい状 態ゆえに自分が転倒したことについては,原告が証明責任を負担する が,原告はそれを果たしていないという理由から,原告の請求は全部 棄却された。 原告より上告。上告審では,当事者尋問における陳述に自白が成立 するかが問題となったが,連邦通常裁判所は,これを否定し上告を棄 却した。. く判旨>. I 当法廷は 連邦通常裁判所 1952年 1 1月1 7日の判決におい. て表明され,学説の一部も支持する見解を採用しない。 a) 民訴法 445条が規定する当事者尋問は.証拠方法である. O. この. 証拠方法は,控訴審裁判所が適切に指摘したように,民訴法 453条 (証拠の自由評価一一筆者)に基づいて,裁判所によって民訴法 286条 (自由心証主義一一筆者)により自由に評価されなければならない。 このことは,そこでの陳述全体に対して妥当するのであり,相手方の 主張と一致しない陳述にのみ妥当するというわけではない。すなわち, 裁判所の心証が問題となるときは,陳述の一部であっても裁判所を拘 束するものではない。もしこの部分が自白として評価されるとすれば, 裁判所を拘束することになる O 当事者の陳述の分裂,すなわち.当事 者の陳述が自由心証に委ねられるべき部分もあれば,白白として評価 されるべき部分もあるといった分裂を,法律は予定していない。さら に当事者の陳述を自白と評価することに反対する論拠として,且且よ 当事者尋問に関する諸要件が異なった規整に服していることもあげら 門. nud. i.
(16) 当事者尋問および当事者聴取における白白の成否. れうる. O. それゆえに,上告理由に示された見解とは異なり,民訴法. 2 8 6条に規定された自由心証の原則は,民訴法 2 8 8条以下(裁判上の自 白一一筆者〉と重なりあうものではない。白白と証拠調べは,民訴法. 2 8 8条 1項によれば,互いに対立する. O. 当事者尋問は,あらゆる証拠. 調べと同様に,証拠調べが終了するまで,その性格を失うものではな く,またそのようなものとして裁判所による自由な心証に委ねられる べきである O. b) これと異なる結果が,連邦通常裁判所により BGHZ8, 235= 621=LM N]W1 9 5 3,. S288ZPO Nr. l (邦通常裁判所 1 9 5 2年判決一一一. 筆者)において示されたような以下の理由から導かれるわけではない。 すなわち,たとえ弁護士訴訟にあっても,民訴法 1 3 7条 4項(弁護士 訴訟における当事者の発言権一一筆者)にしたがって,弁護士のほか, 当事者にも申立てにより発言が許されなければならない。つまり当主 者は.弁護士訴訟においても.依然として手続の主 (Herr)である ということがそれである O 上告答弁書が適切に主張しているように, この規定は,当事者尋問にかかわるものではなく,口頭弁論にのみ関 連するものである. O. しかし,民事訴訟において.この口頭弁論はー当. 事者尋問の属する証拠調べと,厳格かっ根本的に区別されなければな らないのである. O. c) 民訴法 1 3 8条 1項は,当事者が事実関係に関する陳述を,完全. かっ真実にかなってなさなければならない旨を規定するが,同条項に おけるこの規整も,当事者が当事者尋問においてなした陳述を,それ が相手方当事者の主張と一致する限り白白として評価すべきであると する論拠とはならない。自白の拘束力は,真実義務とは無関係である O 故意になした真実に反する白白も,原則として有効である. O. d) 上述のすべての理由から,連邦通常裁判所によって BGHZ8,. -80-.
(17) 法科大学院論集. 2 3 5=N]W1 9 5 3, 6 2 1=LM 判決. 第 2号. S288ZPO NrJ (連邦通常裁判所 1952: 年. 筆者)において示された見解に従うことはできない。 J(下線. は筆者). i)以上のように,連邦通常裁判所の本件判決は,ライヒ最高裁判所の見解 に回帰し,当事者尋問における陳述には自白が成立しない旨を判示したが,そ の理由付けについては,ライヒ最高裁判所の見解とはいささか趣を異にする。 本判決が説示する理由は以下の三つに要約されよう口 ①当事者尋問は,証拠方法である。ここでは,裁判所の自由心証にもとづい て自由な証拠評価がなされなければならない。このことは,当事者尋問におけ る陳述全体に対して妥当する。. 9 5 2年判決が論拠として示したドイツ民訴法 1 3 7条 4項 ②連邦通常裁判所 1 (弁護訴訟における当事者の発言権)からは,当事者尋問においても白白が成 能性を導くことはできない。なぜなら,この規定は,口頭弁論にのみ 立するロJ 関連するもので,これと峻別されるべき当事者尋問には妥当しないからである。. 3 8条 1項(真実義務・完全陳述義務)も,当事者尋問におけ ③ドイツ民訴法 1 る白白の成立の可能性を認める根拠とはならない。なぜなら,自白の拘束力と 真実義務とは無関係だからである。. i i i)本判決の判旨に全面的に賛成を表明したのは, Vollkommer/Schwaiger であるヘその│祭に, Vollkommer /Schwaigerは,当事者尋問の証拠としての法 的性質を強調する。すなわち,彼らによれば,当事者尋問は裁判所による自由 な証拠評価に服しているが,当事者尋問における陳述を,裁判所を拘束する部 分と裁判所により自由に評価される部分とに分離することは,民訴法において は予定されていないという叱さらに,当事者尋問は当事者宣誓 ( P a r t e i e i d )に 替わるものとして導入されたが,これによって追求される真実発見の目的は, 3 7 VollkommerundSchwaiger,E n t s c h e i d u n g e nzumW i r t s c h a f t r e c h , t1 9 9 5,6 2 l f . . a . O .,S . 6 21 . 3 8 VollkommerundSchwaiger,a. -81-.
(18) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. そのような陳述の分離を認めることに矛盾すると, Vollkommer/Schwaigerは 主張する 390. Vollkommer/Schwaigerによれば,この判例の変更は,裁判所による自由な 心証形成のために弁論主義を制限することを意味し,その結果,裁判所の権限 強化をもたらすものであるという 400 i v ) 本判決に反対して, Waxは,当事者尋問における陳述にも自白の成立. を認めるへそして,本判決が示した以下の二つの理由に対して,すなわち, ①口頭弁論と証拠調べの峻別,②当事者尋問における陳述を,裁判所による自 由に評価される部分と白白として裁判所を拘束する部分に分けるのは,自由心 証に対する許すべからざる制限であるとする理由に対して,それらは形式主義 的な法思考にすぎず,ほとんど説得力がないと批判する 420 ところで,本件は,損害賠償請求訴訟において,保険契約を締結している加 害者たる被告が,真実義務に反して,保険会社の不利益に,被害者たる原告の 主張する事実を認めたことが問題となった事案である O そこで, Waxによれ ば,本件事案の妥当な解決のためには,連邦通常裁判所は,従来の判例を変更 する必要はなく,単に自白当事者の白白意思(Gestandniswille) の存在を調査 することで十分であったという. O. 彼は,この自白意思が明白に確定できないか. ぎり,自白は成立しないと解するのである。そして,自白当事者にとって,そ の陳述の真実性を度外視して,明らかに第三者の犠牲でもって他人を利するこ とが専らの関心事となっている場合には ると指摘する。さらに. この自白意思は否定されるべきであ. もし真実でない陳述に白白が成立するとしても,通説. によれば,馴れ合って (kollusiv) 成立させた白白はその効力を有しない 430 3 9 VollkommerundSchwaiger,a . a . O .,S .6 2 2 . a . O .,S . 6 2 2 . 4 0 VollkommerundSchwaiger,a 4 1 Wax,Am .zuL i n d e n m a i e r M a h r i n g,Nachschlagwerkd e sB u n d e s g e r i c h t s h o f s,S2 8 8ZPO . l l .S . 1 5 2 6 f . Nr 4 2 Wax,a . a . O .,S . 1 5 2 7 . . a . O .,S . 1 5 2 8 . 4 3 Wax,a 00. ワ 臼.
(19) 法科大学院論集. 第 2号. Waxはこのように主張して,自白意思の存紅を自白の成立に要求している。 本件事案の妥当な解決にあたっては,この方法によるべきであったと,彼は主 張するのである。. 4 (準)自白の成立. 一試論として一一. ( 1)ドイツにおける判例の変遷の総括. これまで,当事者尋問における陳述にも自白が成立するかという問題をめ ぐって,. ドイツにおける最上級裁判所の判例の変遷をみてきた。そして,この. 変遷は次のように総括できょう. O. i)当初は,ライヒ最高裁判所の 1935年判決にみられるように,弁論と証拠 の峻別(論点①)や,弁護士訴訟において当事者は弁論能力を有さないこと (論点②)を理由として,この問題に関してはきっぱりと否定的に解していた。 まさに,形式主義的な法思考に強く導かれていたといえよう。 i i ) しかしこの問題を肯定的に解する連邦通常裁判所の 1 9 5 2年判決によっ. て,その形式主義的な法思考が批判された。すなわち,前記の論点④である弁 論と証拠の峻別に対しては,同じ当事者による同じ事件の事実に関する陳述で あるにもかかわらず,その提出された段階によって,それに与えられる効果が 大きく異なることの合理性が間われたのである。そして,そもそも自白に拘束 力が生じる根拠として,その自白された事実の真実性も看過できないとすれば, 当事者尋問における陳述に対しては,真実にかなった陳述を迫る状況が存在す るので,むしろ,そのような陳述に対して自白の成立を認めるべきであるとさ れた。また,前記の論点②である弁護士訴訟における当事者の弁論能力の欠如 に関しては,弁護士はあくまでも当事者の代理人にすぎず,当事者の事実に関 する陳述については. 訴訟代理人たる弁護士がそれを援用しなくても,考慮さ. れなければならないはずだと批判された。その際,実定法上の根拠として,弁 OAU. qJ.
(20) 当事者尋問および当事者聴取における白白の成否. 護士訴訟における当事者の発言権を定めるドイツ民訴法 1 3 7条 4項が指摘され た口これらの批判の他にも,学説においては,真実義務・完全陳述義務(論点 ③)を理由に,当事者尋問における自白を肯定する見解がみられる。つまり, 当事者は真実義務・完全陳述義務を有しているので,訴訟代理人は当事者の陳 述を援用しなければならないと主張されるのである。 このような当事者尋問における自白の成立を宵定する見解には,具体的に妥 当な解決を目指そうとする柔軟な法思考が,形式主義的な法理論の有する実践 的効果をも考慮しながら,そうした法理論を実質化しようとする試みを看取す ることカ王できる O. i i)こうした中で,連邦通常裁判所 1995年判決は,法理論の実質化をはかっ た上で,この問題に関するライヒ最高裁判所による否定的な結論を支持した。 そして,この判決による否定的な立場の基底には,自由心証主義に基づく裁判 所の自由な証拠評価を,弁論主義に優先させようとする利益考量の結果が窺え る。すなわち,当該判決は,ライヒ最高裁判所の見解を批判する連邦通常裁判 所1 9 5 2年判決の見解に対する反批判として,前記の論点④である弁論と証拠の 峻別に関しては,当事者尋問は証拠方法であることから,これに対する裁判所 による自由な証拠評価を強調し,当事者尋問における陳述に対して,その一白日 であってもこれに自白の成立を認めることは. 裁判所の自由な証拠評価を阻害. するものと解したのである。これに関連して,学説においては,当事者尋問に おける陳述に自白を認めることは,当事者宣誓の制度に替えて当事者尋問の制 度が導入された際の立法趣旨,すなわち,裁判所の自由心証による真実発見を 推進するという立法趣旨に矛盾するとの主張もなされている 440 また,前記の 論点②の当事者の弁論能力の欠如に関しでも,弁護士訴訟における当事者の発. 3 7条 4項は,口頭弁論にかかわる規定であり,当 言権を定めるドイツ民訴法 1 4 4 当事者宣誓制度については,野村秀敏「ローマ法における当事者宣誓制度一一一当事者尋問 民事手続法学の草新(中)j C 三ヶ月古稀)4 5 1頁以下などを参照。 制度の系譜(その一 )-Jr. -84-.
(21) 法科大学院論集. 第 2号. 事者尋問には関係を有さない旨の反批判がなされた。さらに,論点③の真実義 務・完全陳述義務に関しては,これらの義務と自白の拘束力とは無関係である ことが指摘されたのである。. ( 2 ) ドイツにおける今日の学説の対立状況. 9 9 5年 ところで,当事者尋問における白白の成立を否定した連邦通常裁判所 1 判決によって,この問題に関して長く続いた学説の対立に果たして決着をつけ たのであろうか。. Vollkommer/Schwaigerは,これを肯定する 450. しかし,. Hulsmannは,この判決によっても,この問題をめぐる激しい議論の対立は終. 結をみることなく,それどころか,その対立は一層激しさを増していると主張 する 460 瞥見の及ぶ限りで,. ドイツの代表的な教科書やコンメンタ}ルでこの問題に. 言及しているものに関してみれば,連邦通常裁判所 1 9 9 5年判決を契機にして, 当事者尋問における陳述に白白の成立を肯定する見解は,かなり少なくなった ようである。たとえば,かつては, Rosenberg/Schwab/Gottwaldの教科書, Munchnerの注釈書 (Prutting執筆),. Zoller/Gregerの注釈書および、 Thomas/. Putzoの注釈書なども,その自白の成立を肯定していたがぺこの連邦通常裁. 判所 1 9 9 5年判決を契機に,見解を変更し自白の成立を否定している仇。そして, 今日でも依然として当事者尋問における自白の成立を肯定するのは,たとえば,. 4 5 VollkommerundundSchwaiger,a . a . O .,S . 6 21 . 4 6 Hulsmann,K e i n eG e s t詰n d n i sw孟hrendd e rParteivernehmung?Zure r n e u t e nKehrwende 13 .1 9 9 5, N]W1 9 7 9,6 1 7( 6 2 1 ) . d e sBGHimU r t e i lvom1 4. 4 7 Rosenberg/Schwab/Gottwald,Z i v i l p r o z e s o r e c h t,1 5 .A u f l .( 19 9 3 ),~ 1 2 4 13;P r u t t i n g,i n 8 8R d n r .2 6;Z o l l e r / G r e g e r, MunchnerKommentarfurZ i v i l p r o z e s o r d n u n g( 1 9 9 2 ), ~ 2 Z i v i l p r o z e s o r d n u n g,1 9 .A u f l .( 1 9 9 5 ),~ 2 8 8R d n r .5 ;Thomas/Putzo,Z i v i l p r o z e s o r d n u n g,1 8 . A u f l .,~ 2 8 8Anm.2 c . a O .,1 6 .Au 孔 ( 2 0 0 4 ), ~ 1 1 113;Prut t i n g,aaO,2 .Au 乱 4 7 aRosenberg/Schwab/Gottwald,a ( 2 0 0 0 ),~ 2 8 8R d n r .2 6 ;Zりl l e r / G r e g e r,aaO,21 .Au 臼 .( 19 9 9 ),~ 2 8 8R d n r .3 b ;Thomas/Putzo, aaO,2 5 .Au 乱 ( 2 0 0 3 ),~ 2 8 8Anm.2 c . , h 戸u. o o.
(22) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. Zimmermannの注釈書や Baumbach/Laut e rbach/Albers/Hartmannの注釈書. である 480 また,当該判決以前から一貫してその自白の成立を否定していたの は , Blomeyerの教科書, Brunsの教科書, Stein/]onas/Leipoldの注釈書, Wieczorekの注釈書, Wassermannの注釈書 (AK-ZPO,Rusmann執筆)など. である蜘。. ( 3 ) ドイツにおける論争に関する検討と試論としての準自白の成立の肯定. i)前述したように,わが国においては, I 弁論」と「証拠」を厳格に区別 することから,自明の理として,当事者尋問における自白の成立は否定されて いる る. O. O. この形式主義的な法思考は,全く揺るぎのないものとして貫徹されてい. しかし,同じ当事者による同じ事件についての事実に関する陳述であるに. もかかわらず,それが口頭弁論でなされた場合には,弁論段階における訴訟資 料の提出として,またそれが当事者尋問においてなされた場合には,立証段階 における証拠資料の提出として,全く異なった意味が与えられる実益は果たし てどこにあるのだろうか。たとえば,当事者尋問における陳述に自白が成立す るかという問題とは全く逆の局面ではあるが,口頭弁論における当事者の陳述 は,決して証拠資料とはならないが,. I 弁論の全趣旨」を構成する一内容とし. て,裁判所の心証形成に利用されることが許されるという意味で,証拠機能を も有しているはずである(民訴法 247条)0 そこで,訴訟における当事者の陳述 は,こうした「主張」と「証拠Jの二面性を常に有しており,口頭弁論または 当事者尋問においては,その一方の面が強調されるといった相違しかないので はないか。当事者の陳述における「主張」と「証拠」の二而性を容認しこれ 4 8 Zimmermann.ZPO.6 .A u f l . S2 8 8R d n r .1;Baumbach/Lauterbach/A l b e r s / H a r t m a n n . Z i v i l p r o z e s o r d n u n g .6 2 .Au 且 ( 2 0 0 4 ) .S2 8 8R d n r .4 . 4 8 aB l o m e y e r .ZP , R2 .A u f l . . S6 8I ;B r u n s .ZP , R2 .A u f l . .R d n r .1 9 9 a;S t e i n / ] o n a s / L e i p o l d . ZPO.21 .A u f l . .2 8 8R d n r .1 2;W i e c z o r e k .ZPO. 3 .A u f l .( 2 0 0 4 ) .S2 8 8R d n r .Bm a;Rusmann. i nAK-ZPO.V o r b .S4 4 5ZPOR d n r .6 .. -86-.
(23) 法科大学院論集. 第 2号. を直視した法的な規整ができないであろうかぺ以下では,そのような途を模 索し,当事者尋問における白白の成否に関して,これを可能とするような法規 整を試論的に提示したい。 i i ) ドイツの判例・学説を参照しながら,当事者尋問における自白の成存の. 問題を検討するにあたって,まず情意すべきは,わが国が弁護士強制制度を採 用していないことである。ドイツにおいては,弁護士訴訟における当事者の弁 論能力の欠如も大きな問題となった。しかしわが国では,この点は等閑に付 してよいへしたがって,. ドイツの判例・学説の状況を参照するとき,われわれ. の関心は,主として「弁論」と「証拠」の峻別という問題に集中することにな る 。 ところで,. ドイツ連邦通常裁判所 1 9 9 5年判決は,第三者である保険会社の犠. 牲において相手方当事者に利益を与えるといった訴訟詐欺的な行為が問題とな る事案にかかるものであった。そして,もしこうした事案における具体的に 妥当な解決のために,. ドイツ連邦通常裁判所が,それまでの判例を変更し,当. 事者尋問に自白の成立を認めなかったとすれば,それは不十分な解決でしかな かったと評することができる。なぜなら,. I その踏み段が滑りやすかった」と. いう当事者尋問での陳述を,その陳述をした被告が「口頭弁論」において援用 すれば,それについて自白が成立するからである。訴訟詐欺的な被告の行為は, 49 平成八年の民訴法改正に際して,訴訟促進と審理の充実に関する座談会が開催されたが, そこでなされた東京弁護士会の「試案Jの説明のなかで,岡村勲弁護士が, I 私たちは,審 理期日という概念を設けて,弁論,証拠調べ,和解となんでもできる期日を設定したのです。 ・・審理期日は,弁論も,証拠調べもできる日なのです。当事者が述べることは,主張で あり,証拠である,と素直に考えてよいのではないか,むりに分ける実益はないのではない か , と思います 0 ・・・・・・借地非訟事件の当事者の陳述でも,主張と陳述の二面性を持つとさ れています J ,といった問題提起がなされている。参照,岡村ほか「審理の促進・審理の充実 問題の展開方向」ジュリ 914 号 4頁 ( 2 5頁 ) 。 50 たしかに,弁護士強制制度をとらないわが国においては,この意味での当事者の弁論能力 は問題とならない。しかし,弁論準備手続などにおいて,弁護士たる訴訟代理人の頭越しに, 裁判官が当事者から事情を聴取することの是非といった問題として,より縮減された形では あるが,考察の対象にはなろう O こうした場合には,このドイツの議論は参考になる。. 87.
(24) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否 この援用を重ねるだけで,その目的を達するのである。そうであるすれば,同 一の当事者による同一の事実に関する陳述に対して,それが証拠調べでなされ た場合にまたは口頭弁論でなされた場合とで,全く異なる効果を与える必要 性は実際にはさほど大きくないことが窺える。逆に当事者尋問における陳述に 自白の成立を認めたとしても,上述の Waxの主張にみられるように九詐欺的 な白白には自白意思を認めるべきではないと解することによって,あるいは, 事実の評価に関する陳述には自白は認められないと解することによって,当該 事案における具体的に妥当な解決を得ることができたはずである. O. そこで,本稿では当事者の陳述に関して,形式主義的な法思考である弁論と 証拠の峻別をいささかでも緩和することを前提にし,当事者尋問における陳述 にも自白が成立する可能性を肯定する方向で,実質的な利益の衡量をはかり妥 当な解決を目指したい。ただし,その際に,看過できない障害となるのは,. O r f a n i d e sが主張するような白白と当事者尋問に関する実定法による法規整の 相違であろう 520 すなわち,たとえば,当事者尋問においても自白の成立を認 める見解を支持した場合に,訴訟無能力者に対しても当事者尋問が可能である 1 1条 1項但書, 2 1 0条 , 2 0 1条,なお, こと(民訴法 2. ドイツ民訴法 4 5 5条 2項参. 照)や,当事者尋問には擬制自白は成立せず,当事者が陳述をしない場合や当 事者が出頭しない場合も,裁判所による自由な評価に服すること(民訴法 2 0 8 条 ,. ドイツ民訴法446条 , 454条参照)に対して,どのように合理的な説明を与. えることができるのか。以下では,自白の拘束力の根拠に立ち返りつつ,この 問題について考察してみたい。. ii)まず,証拠調べにおける自白の成否を検討するにあたり,自白の性質や その訴訟における機能について必要な限りで考察を加えたい。 自白の性質論としては,周知のとおり,自白を「観念の通知」と解する見解 5 1 Wax.a . a . O . .S . 1 5 2 8 . 5 2 O r f a n i d e s .a . a . O . .S . 3 1 7 5 .. -88-.
(25) 法科大学院論集. (観念の表示説)日と,. 第 2号. I 事実を認めて争わない宵の志思の表示」と解する見解. (意思の表示説)54とが対立する. D. そして,この対:立の根底には,理念的に類型. 化していえば,以下のような異なった法思考を看取することが許されよう。す なわち,前者の観念の表示説では,両主当事者の一致した事実に対する認識の表 明・報告に(ことに自白当事者による不利な事実の報告に),その事実が真実で. 7 9条),迅 あることの蓋然性をみて,その事実を不要証とすることで(民訴法 1 速・能率的に真実にかなった訴訟の運営を図ろうとする(自白の迅速・能率的 な真実の探求機能)。他方の意思の表示説では,自白された事実を争点から排 除する当事者の意思(争点排除意思)に即して,その事実は不要証となり,迅 速・能率的な審理が可能となるのである(白白の争点排除機能)。そして,後者 の見解の下では,理念型でいえば,その事実の真実性と自白の成立とは一応関 係がないものとされる。 観念の表示説が通説的な見解といえよう。しかし,近時,ますます重要性が 高唱される民事訴訟における争点整理との関係で,自白の重要性が強く意識さ れるなかで,意思の表示説が有力になりつつある目。私見は,近時の有力説と 同様に,上述の自白の争点排除機能を重視し,自白の意思的な要素を強調する 説に賛成したい。そして,いわゆる自白の有する審判排除効も,この当事者の 争点排除意思に根拠を置くべきものと考える 560 た だ し 実 際 に は 相 手 方 の 事 53 兼子一『民事訴訟法体系 j ( 1954年,酒井書庖) 245頁,上回徹一郎『民事訴訟法(第 4 版)j ( 2 0 0 4 年,法学書院) 352頁,斎藤秀夫ほか編 第三版)注解民事訴訟法 7j ( 1993年 , 第一法規) 253頁(小室直人・古野孝義執筆)など。なお,自白の法的性質について,詳しく は,松本博之「一九世紀ドイツ普通訴訟法における民事白白法理J 民事自白法 j217頁以下 を参照。 54 新堂幸司『新民事訴訟法(第 3版補訂版)j( 2 0 0 5年,弘文堂) 492頁,高橋宏『重点講義民 事訴訟法(上)j( 2 0 0 5年,有斐閣) 419頁,谷口安平・福永有利編『注釈民事訴訟法 6j( 1995 年,有斐閣) 93頁(佐上善和執筆)などは,意,思の表示説に立つことを明言する。 55 この傾向をさらに推し進めて,裁判上の自白を,自白対象事項を訴訟における争点から排 除する当事者の明確な意思表示とする見解も主張されている。山本和彦「裁判上の自白 民 5 1頁 。 事訴訟法の基本問題 j 1 56 松本博之「裁判上の白白法理の再検討 J 民事自白法 j40頁以下,山本和彦・前掲 158 頁を 参照。. n. r. J r. r. -89-.
(26) 当事者尋問および当事者聴取における白白の成否. 実に関する主張を真実と認めることから自白がなされるのが通常であり,相手 方の主張が自己の認識とは異なるにもかかわらず,その事実の存否を争点とし ないという場合は少ないであろう。そうであれば,通常の場合に,訴訟におい て現実に存在する自白は,観念の表示という現象形態をとってあらわれ,そこ から自白当事者による事実を認めて争わない意思が推認できることになる(自 白の争点排除機能)。さらに,この通常の場合には,当事者の争点排除意思に 即しながら審理を進めていくことは,迅速・能率的で,しかも真実にかなった 裁判をすることに奉仕する(自白の迅速・能率的真実探求機能)口いずれにせよ, 自白の制度趣旨としては,それが迅速で能率的な裁判に資するという機能が中 心となるものといえよう。 ところで,弁論主義の対象となる主要事実に関しては,自白の効力を承認す る根拠となるべき当事者の争点排除意思は,なんら制限されることなく認めら れよう。しかし,このような当事者の争点排除意思が,無制限には認められな い場合もある. O. それは,自由心証主義による制約が考慮されなければならない. 場合,すなわち,間接事実および補助事実についての陳述とへ本稿で扱う当 事者尋問における陳述の場合がそれである。しかし,こうした場合においても, 当事者の争点排除意思をもっぱらの根拠にするものではないとしても,観念の 通知としての相手方の主張と一致した陳述にその真実性の推定ができることを 根拠に,その限りにおいて当事者の争点排除意思が「容認」できるものとして, 自白が成立すると考えたい。つまり,自由心証の支配する領域であるとして, 当事者の争点排除意思を一律に排斥するのではなく,裁判所の自由心証に基づ く真実の探求に反しない限りにおいて,当事者の争点排除意思を容認し自白 57 弁論主義の対象とならない間接事実や補助事実については,弁論主義は妥当しないため, その自白の基礎は観念の通知に置かれるべきであろう O すなわち,相手方の主張と一致する 事実を陳述することによって,その事実の陳述の真実性が推測されるのである。この限りに おいて,裁判所は,その事実をさらなる証拠調べなくして裁判の基礎にすることができると いえよう。. -90-.
(27) 法科大学院論集. の効力として審判排除効を認めることによって,. 第 2号. I 迅速・能率的に」かつ「真実. にかなった裁判をする」ことが可能となる。このような訴訟政策は,一応の合 理性を有するものと評価できょう 580 そして,このような場合には,自由心証 主義による制約を受けるために,相手方の主張と-致した陳述にその真実性を 推定できる限りにおいて,当事者の争点排除意思を「容認」するという修正を 施した自白を,口頭弁論における主要事実に対する通常の白白と明確に区別す る意味で,一応,本稿では「準自白」と呼ぶことにしたい。 そして,間接事実や補助事実について相手方の主張と一致する陳述をした場 合,あるいは当事者尋問において相手方の主張と一致する陳述をした場合には, その陳述に真実牲が推定される結果,自白の成立が認められ,裁判所はとりあ えずそれ以上の証拠を要せずに自白された事実を裁判の基礎にすることが詐さ れると解したい。ただしこの準自白に関しては,①裁判所は,他の証拠等を 自由に評価することによって,自白された事実に関する陳述が真実に反すると 認める場合には,迅速・能率的な真実の探求という制度趣旨に背馳するため, この自白に拘束されない 590 また,②自白をした当事者も,白白とされた陳述 が真実に反することを証明した場合には,錯誤の証明なくして,自白の撤回が 許されることになる(これは,裁判所が自白当事者の事実に関する陳述を真実 に反すると確信を抱くことによる当然の帰結である)。 58 酒井ム「自白 J法教267 号20頁は,理念型として,自白を二つに分類し,ー-方を「両当事 者の陳述の一致 J ,他方を「争点を排除する意思の表示」と定義する。そして,前者の白白 については,判決段階における白白の機能を念頭におき,真実発見に重きを置きやすく,後 者の自白については,審理過程における白白の機能が重視され,当事者の意思が重要性を帯 びるとする。自白の分類として卓見である O しかし,本稿においては,判決段階における白 白と審理段階における自白の区別は採用しない。区別されるべきは,本文中でみたように, 弁論主義が完全に妥当する場合と,自由心証主義により制約される場合であると考えたい 0 5 9 三ヶ月章『判例民事訴訟法Jl 2 5 1頁は、間接事実の白白を認め、自由心証主義と衝突する 場合のみ、裁判所に対する拘束力だけが排除されるとする O また、新堂幸司・前掲 495頁によ れば,間接事実について白白の成立を認め,①自白された間接事実から主要事実への推論が 別の間接事実の認定により妨げられる場合や,②自白された間接事実を打ち消すにたる別の 間接事実が認定できる場合には,裁判所はその自白に拘束されないとする。こうした見解は、 本稿の問題の解決においても大いに参考になる。. -91-.
(28) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. このように口頭弁論や弁論準備手続といった弁論段階における白白と,証拠 調べ段階における自白は,その根拠を異にする. O. すなわち,前者の自白は,当. 事者の争点排除意思をもっぱらの根拠として,訴訟の迅速・能率的な運営を図 る手段となるのに対して,後者の自白は,当事者の陳述の真実性が推定される 限りにおいて,当事者の争点排除意思が容認されることを根拠にして,訴訟に おける迅速・能率的な真実の探求に役立つのである. O. i v ) さて,以上のように,当事者尋問における陳述に(準)自白の成立を肯 定したとしても,前述したように,看過できない障害として,白白と当事者尋 訴訟無能力者 問に関する実定法による法規整の相違が存在する。すなわち,① i に対しても当事者尋問が可能であること(民訴法 2 1 1条 1項但書, 2 1 0条 , 2 0 1 条)や,②当事者尋問には擬制自白は成立せず,当事者が陳述をしない場合や 当事者が出頭しない場合でも,裁判所による自由な評価に服すること(民訴法. 2 0 8条)が,それである。以下では,当事者尋問における陳述に(準)自白の 成立を肯定する立場から,このような法規整について,その合理的な説明の可 能性を検討する. C. まず,①の訴訟無能力者に対しでも当事者尋問が可能であることについては, 次のように説明をすることができる. O. すなわち,当事者尋問における(準)白. 白といえども,自由心証主義から制約を受けながらも,あくまでも当事者の争 点排除意思をその根底に置くのであるから,完全な処分意思の認められない訴 訟無能力者の陳述には,自白は成立しないと解すべきことになる. O. 次に,②の民訴法 2 0 8条による法規整について検討する O 同条によれば,. I 当. 事者が,正当な理由なく,出頭せず,又は宣誓若しくは陳述を拒んだときは, 裁判所は,尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる」と規 定されており,この場合には自由心証主義の例外であるとされる。そして,同 条は,出頭義務・宣誓義務・陳述義務に違反する場合に「制裁Jとして不利益 を課する規定であると解されている. O. しかしながら,この不利益を課すること ny. つ -.
(29) 法科大学院論集. の基礎には,. 第 2号. I 当事者の一定の態度に依存しながら,迅速・能率的に真実の探. 求を目指す」といった自白法理と共通する法思考が潜んでいると考えるべきで ある口そうすると,同条は,むしろ当事者尋問における陳述に自白を肯定する 端緒を与える規定と解することもロJ 能となる. O. すなわち,なるほど当事者尋問. における「沈黙」または「欠席」といった当事者の態度に対しては,直ちには 尋問事項に関する真実性を推定することはできず,その結果,常には当事者の 争点排除の処分意思を認めることはできないので,口頭弁論におけるような擬 制白白という効果を付与することはできない。そこで,このような当事者の態 度に対しては,同条は,裁判所による自由な評価のもとで,他の証拠によって, 義務違反者の主張を真実と認めることもできるし,反対に相手方の主張を真実 と認めることもできるとし,さらには,それ以上証拠調べをしないで,自由心 証主義の例外として,相手方の主張を真実と認めることも許されているのであ る。そして,この最後の証拠調べをしないで相手方の主張を真実と認めること の許容性こそは,同条が,当事者の沈黙という態度に対して,自由心証主義に 反しない限りにおいてではあるが,口頭弁論における擬制自白に対するのと同 様に,当事者による争点排除の処分意思を認める可能性を表明したものといえ る。このように考えれば,当事者尋問において,当事者が「沈黙J (または「欠 席J ) するのではなく,積極的に相手方の主張と一致する陳述をした場合には, 迅速・能率的な真理の探究という観点から,前述のような修正された形での自 白の成立を肯定することは,この規定の趣旨の延長娘上にあるといっても過言 ではない。 v) 最後に,弁護上訴訟において,当事者尋問の際に当事者が相手方の主張. と一致した陳述をしたが,それは訴訟代理人たる弁護士が口頭弁論において主 張した事実と相反しているものであった場合には,自白の成否についてどのよ うな取り扱いがなされるべきか。このことは,弁護士強制制度を採用しないわ が国においても,重要な問題となろう。この場合には,訴訟代理人の主張と離 qJ. n吋υ.
(30) 当事者尋問および当事者聴取における自白の成否. 離のある当事者尋問における陳述は,その真実牲が推定されるに至らない場合 が多いであろうから,通常は白白の成立が認められないと解すべきである。ま た,たとえその真実性が推定されるような場合であっても,裁判所は,当事者 に対して,その争点排除の意思を明示的に確認すべきであるといえる. O. 5 釈明処分としての当事者聴取における自白の成否 ( 1)問題の提起 当事者本人が訴訟において自ら陳述する場合として,口頭弁論,弁論準備手. 5 1条 1号による釈明処分としての「当事 続または当事者尋問の他に,民訴法 1 者聴取」がある。釈明処分としての当事者聴取は,訴訟関係を明瞭にするため に,裁判所によってなされるもので,争いのある事実に関して実施される証拠 調べとしての当事者尋問とは明確に区別されるへただし,この当事者聴取の 結果は,. I 弁論の全趣旨 J(民訴法 247条)を構成する一内容として,裁判官の. 心証形成に利用されることになる 610 そこで,当事者聴取において,当事者が 相手方の主張と一致する自己に不利益な陳述をなした場合にも,その陳述は, あくまでも弁論の全趣旨として裁判官の自由心証のもとに置かれるのか,ある いは白白として裁判所を拘束することになるのか。つまり当事者聴取における 陳述にも自白は成立するのかが問題となる C 60 中野貞-自) 1=松浦馨=鈴木正裕編『新民事訴訟法講義(第 2版)J ( 2 0 0 5年,有斐閣) 2 0 1頁 (鈴木正裕執筆),伊藤員[民事訴訟法(第 3版補訂版)J ( 2 0 0 5年,有斐閣) 275頁,松本博之 =上野泰男『民事訴訟法(第 4版)J(弘文堂, 2005年) 5 1頁など。 6 1 弁論の全趣旨は,証拠調べの結果と並ぶ裁判官の心証形成の材料(証拠原因)なのであっ て,証拠調べの結果を補完するものではない。したがって,証拠調べの結果よりも弁論の全 趣旨を重視しでもかまわない。また,場合によれば,弁論の全趣旨から心証形成が可能であ るときには,裁判所は証拠調べをしなくとも事実認定が可能であると解されている。このこ とを認めた判例として,たとえば,文書の成立の真正に関して,最判昭和 27年1 0月2 1日民集 6巻 9号4 1頁や,自白撤回の要件としての錯誤の存在に関して,大判昭和 3年1 0月20日民集 7巻815頁などがある。. -94-.
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