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釈明処分としての当事者聴取における自白の成否

( 1  )問題の提起

当事者本人が訴訟において自ら陳述する場合として,口頭弁論,弁論準備手 続または当事者尋問の他に,民訴法

1 5 1

1

号による釈明処分としての「当事 者聴取」がある。釈明処分としての当事者聴取は,訴訟関係を明瞭にするため に,裁判所によってなされるもので,争いのある事実に関して実施される証拠 調べとしての当事者尋問とは明確に区別されるへただし,この当事者聴取の 結果は,

I

弁論の全趣旨

J

(民訴法247条)を構成する一内容として,裁判官の 心証形成に利用されることになる610 そこで,当事者聴取において,当事者が 相手方の主張と一致する自己に不利益な陳述をなした場合にも,その陳述は,

あくまでも弁論の全趣旨として裁判官の自由心証のもとに置かれるのか,ある いは白白として裁判所を拘束することになるのか。つまり当事者聴取における 陳述にも自白は成立するのかが問題となるC

60  中野貞‑自1)=松浦馨=鈴木正裕編『新民事訴訟法講義(第2版)

(2005年,有斐閣)201 (鈴木正裕執筆),伊藤員[民事訴訟法(第3版補訂版)

(2005年,有斐閣)275頁,松本博之

=上野泰男『民事訴訟法(第4版)

(弘文堂, 2005年)51頁など。

61  弁論の全趣旨は,証拠調べの結果と並ぶ裁判官の心証形成の材料(証拠原因)なのであっ て,証拠調べの結果を補完するものではない。したがって,証拠調べの結果よりも弁論の全 趣旨を重視しでもかまわない。また,場合によれば,弁論の全趣旨から心証形成が可能であ るときには,裁判所は証拠調べをしなくとも事実認定が可能であると解されている。このこ とを認めた判例として,たとえば,文書の成立の真正に関して,最判昭和2710月21日民集 69号41頁や,自白撤回の要件としての錯誤の存在に関して,大判昭和31020日民集 7815頁などがある。

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(2) ドイツにおける判例および学説の状況

わが国とは異なり, ドイツにおいては,民訴法

1 4 1

条勺こよる釈明処分として の当事者聴取が積極的に利用されているようであるヘ釈明処分たる当事者聴 取における自白の成否は,当事者尋問における自白の成否と密接に関連する。

そこで,以下では,前述した当事者尋問における自白の成否をめぐる判例の変 遷を指標としながら,当事者聴取におけるに自白の成否に関するドイツの判例 や学説の対立状況を探ってみたい。

i )ライヒ最高裁判所の時代にあっては,前述したように,その1935年判決 は,当事者尋問における陳述に自白の成立することを否定したが,判旨に反対 する

H e r r i n g e r

は,その評釈においてへ当事者尋問だけではなく,釈明処分 としての当事者聴取における│陳述にも白白が成立する旨を,以下のように明言 していた。すなわち,彼によれば, ドイツ民訴法

1 4 1

1

項によって,事実関 係の解明のために当事者本人の出頭が命じられた場合には,当事者の事実に関 する陳述は,訴訟代理人がそれを援用するか否かにかかわらず,考慮されなけ ればならない。したがって,当事者聴取における事実に関する陳述には自白が 成立する。このことは, ドイツ民訴法85条 1項 2

65からも導かれる,とO

H e r r i n g e r

は,弁護士訴訟における当事者の弁論能力を問題にしそれを訂定

62  ドイツ民訴法1411項は,

I

裁判所は,事実関係の解明に必要であると思われるときは,

両当事者本人の出頭を命じなければならない。両当事者が遠隔地にいるため込はその他の重 大な事由から,期日における本人の出頭が期待できないときは,裁判所はその出頭を命じる ことを要しない

J

,と規定する(前掲,法務大臣官房司法法制調査部『ドイツ民事訴訟法典j 参照)。

63  たとえば,木川統一郎「ラウンドテーブル方式の主眼整理

J r

民事手続法学の革新(中). 1 (主ケ月古稀)325頁以卜¥司法研修所編『ドイツにおける簡素化法施行後の民事訴訟の運 .176頁以下,三村量一「ドイツ民事訴訟の実際(三)J判時141311 16頁以下を参照。

64  Herriger, a.a.O., ]W 1936, 1779. 

65  ドイツ民訴法85 1項は 「代理人のなした訴訟行為は当事者に対して当事者本人がなし たのと同 の義務を負わしめるO 自由及びその他の事実上の陳述については,その代理人と ともに出頭した当事者が直ちにこれを取り消し又は更正しないときに限り同ーの扱いを受け

J

,と規定する(前掲,法務大臣官房司法法制調査部『ドイツ民事訴訟法典.1)。

ph d 

Qd  

することによって,当事者尋問においても,また当事者聴取においても,当事 者の陳述に自白の成立を肯定したのであるO

ii)  ドイツ連邦通常裁判所1952年判決は,当事者尋問における陳述に自白の 成立することを肯定したが,これを受けて,釈明処分としての当事者聴取にお ける陳述にも白白の成立を肯定した判決がある口ドイツ連邦通常裁判所1966年 1

11日の判決がそれである660

く 事 案 > 道路の反対側に停車しているパスに乗ろうとして,その 道路の横断歩道を渡っているときに車にはねられて負傷した

X

が,そ の車を運転していたYに対して,不法行為に基づく損害賠償を請求し た。被告の過失の有無が主たる争点となり,

x

が道路を渡る途中でY

の車に追突されるまでに,道路のどのあたりまで来ていたかが問題と なった。

原告 Xは,以下のように主張した。すなわち,道路を

i

度る直前に左 側を見て,およそ200メートル離れたところにYの車を確認した。そ して,自分がYの車にはねられたのは,すでに道路の半分ほど来たと ころであった。 Yは,道路の右側を走行しておらず(ドイツは右側走 行 筆者),余りにもスピードを出し過ぎていたのであろう,と。

これに対して,被告 Yは,次のように反論した。すなわち,事故の責 任は XのみにあるO 自分が横断歩道のすぐ手前まで来たときに,予期 することもできず,また明確な理由もなく,

x

が道路に走り込んでき た。自分は急ブレーキをかけたが,間に合わなかった,と。

第一審裁判所は,過失相殺を認め, Xの請求額の 3分の 2を認容し た。控訴審裁判所は,さらに

X

の過失割合を大きく算定し,

X

の請求 認容額を

3

分の

1

に減じた口

X

が上告したが,上告審において,釈明 66  BG

H .  

Urt. v. 11.1.1966VersR 1966, 269. 

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処分としての当事者聴取における被告の陳述に自白が成立するか否か が問題となった。連邦通常裁判所は,控訴審判決を取り消し,事件を 原審に差し戻した。

く 判 旨 >

I

控訴審における

S

証人の尋問の結果,控訴審裁判所は,

X

Y

の走行する車線の右側ではねられたことを確認した。しかし,

第一審における当事者尋問において

y

は,原告 Xを「道路の中央に おいて

J

左側のヘッドライトで確認した旨の陳述をしていた。控訴審 裁判所は,この陳述によって前記の確認が妨げられるものではないと 考えた。なぜなら,被告の訴訟代理人が援用しないかぎり,当事者尋 問における陳述には自白が成立しないとの見解に立ったからであるO

このことから,原告

X

の過失割合が大きく算定される結果となった。

この控訴審判決には従うことができない。当連邦通常裁判所が

1 9 5 2

1 2

1 7

日の判決で示したのと同様に,当事者聴取における陳述には,

それを訴訟代理人が援用していない場合でも,民事訴訟法288条の意 味での自白は成立するからである。

J

(下線は筆者)

このように,連邦通常裁判所は,当事者聴取における陳述に自白の成立を肯 定するに際して,その理由を詳論することなく,ただ,当事者尋問に関する前 述の連邦通常裁判所

1 9 5 2

年判決を指摘するのみであったぺ

また,当時の学説において,

J o h a n n s e n

は,当事者尋問における自白の成立 を宵定した連邦通常裁判所

1 9 5 2

年判決に賛成する評釈の中で,釈明処分として の当事者聴取においても自白が成立することを認めた。

J o h a n n s e n

は,弁護士

67  さらに, BGH, Urt.v.22.10.1968, VersR 196958  (59)は,弁護士訴訟においても,当事者 の事実に関する陳述に優先性が認められるゆえに,当事者聴取における陳述に自白の成立を 肯定するO

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訴訟においても,当事者は訴訟の主

( H e r r )

であり,それゆえに,当事者の 事実に関する陳述が,たとえ訴訟代理人によって援用されなくとも,訴訟にお いて考慮されなければならないことを指摘するO そして,彼によれば,このこ とは,訴訟のいかなる段階において陳述されたかを問わず,当事者が裁判所に 対してなした総ての陳述に妥当するという O すなわち ドイツ民訴法

1 4 1

1

項によって,裁判所が,事実関係の解明のために,当事者本人の出頭を命じて その聴取をなした場合であれ,同法

1 3 7

4

項によって,当事者に対して自己 の主張を説明するために発言を許した場合であれ,当事者の陳述であるかぎり 区別されないのであるぺ

さらに,

O r f a n i d e s

は,当事者尋問における陳述に自白の成立を否定したが,

しかし,釈明処分としての当事者聴取における陳述には自白の成立を肯定したc

O r f a n i d e s

によれば,当事者聴取の目的は,争いのある事実と争いのない事実 とを区別することにあるというO そして,この区別は, ドイツ民訴法

1 3 8

3

項(擬制自白)と同法

2 8 8

条(自白)に基づいてなされるとし,その際,弁護 士訴訟と本人訴訟との相違は,ここでの問題に関しては重要性を有さないとい

うのである690 i

ii)当事者尋問における白白の成否に関して, ドイツ連邦通常裁判所の

1 9 9 5

年判決は,それまでの判例を変更をして自白の成立を否定したが,この判決以 後に,釈明処分としての当事者聴取における自白の成否の問題を扱った連邦通 常裁判所の判決は存在しない。ただし,下級審判例には,この連邦通常裁判所 の

1 9 9 5

年判決に依拠しながら,当事者聴取における陳述に自白が成立すること

を否定するものが現れた。

Hamm

高等裁判所

1 9 9 5

1 2

2 8

日判決70がそれであ る。同判決は,証券の信託管理契約上の債務不履行による損害賠償請求を扱っ

68  Johannsen, a.a.O., S.123.  69  Orfanides, a.a.O., S. 3177. 

70  OLG Hamm, Urt. v. 28. 12. 1995, W M  1995, 669. 

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