〈研究ノート〉HARTプロジェクト新しい医療環境--Hospital Amenityの研究開発中間報告
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(2) HARTプ. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一 ト10spitalAmenityの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. 提案 病 院 な どの 医 療 機 関 を 単 機 能 で 構 築 す る の で は な く、 多 元 的 な 視 点 で 見 直 して 新 しい 医 療 施 設 の モ デ ル を 創 出 す る 。 怪 我 や 病 気 で 入 院 す る とい う 事 態 は 、 個 人 に と っ て 、 今 ま で 慣 れ 親 し ん で き た 生 活 を 中 断 し、 痛 み や 苦 痛 、 不 安 に 耐 え な が ら過 ご す 辛 い 経 験 で あ る 。 しか し 発 想 を 変 え る と、 入 院 ・通 院 と い う 機 会 に よ っ て 思 い が け ず 、 空 間 的 ・時 間 的 ・人 的 に 、 新 しい 体 験 を 手 に 入 れ る チ ャ ン ス と考 え る こ と もで き る 。 病 院 側 が 治 療 プ ロ グ ラ ム と平 行 に 幾 つ か の 新 しい プ ロ グ ラ ム を 用 意 す る 。 そ の こ と で 、 患 者 は 入 院 生 活 を 治 療+α. の 体 験 機 会 と し て 、 よ り積 極 的 な 時. 間 を 過 ご す こ とが で き る 。 +α の コ ン テ ン ツ は 、 大 学 の 総 合 的 な 知 的 、 人 材 的 ス ト ッ ク を 活 用 し て 提 供 す る。 プ ロ グ ラ ム の ア イ デ ア と し て: a.イ ・. ベ ン トプ ロ グ ラ ム 病 院 を ギ ャ ラ リ ー と見 立 て て 、 ア ー ト作 品 の 展 示 を 行 な う 。 卒 業 制 作 展 な ど を病 院 の 待 合 ス ペ ー ス や 廊 下 を 利 用 し て 行 な う。. ・. 劇 や 朗 読 会 、 フ ァ ッ シ ョ ン シ ョ ー な ど を 行 な う。. ・. ク ラ ブ や 同 好 会 の 学 生 に よ る 緩 和 イ ベ ン ト。(奇 術 部 、 音 楽 関 係 、 落 語 な ど). b.ス. ク ー リン グプ ロ グ ラム. (入 院 中 の 時 間 を 利 用 して 、 患 者 が 様 々 な 講 座 を 受 講 す る 。 教 授 や 学 生 が 講 師 を 務 め 、 日 ご ろ の 研 究 や 活 動 の 成 果 を 発 信 す る) ・. ア ー ト教 室(手. ・. 文学講座. ・. 英会話教室. ・. そ の他 教 養 講 座. 作 り体 験 、 ワ ー ク シ ョ ッ プ 、 絵 画 鑑 賞 法 な ど). 初 期 企 画 と し て 、 リエ ゾ ン セ ン タ ー に 提 案 し た 内 容 の 抜 粋 で あ る 。 こ の 段 階 は ま. (172). 一77一.
(3) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. だ ラ フ ス ケ ッチ 程 度 の ア イ デ ア で あ り、 最 終 目的 で あ る ビ ジ ネ ス モ デ ル と し て 完 成 させ る に は相 当 の シ ミュ レー シ ョ ンプ ロセ ス が 必 要 とな る。 そ こで まず 、 医 学 部 附 属 狭 山 病 院 を 研 究 対 象 施 設 に 、 い くつ か の 実 験 的 試 み か ら始 め て み る こ と に し た 。. 2.試. 行 段 階. その 第 一 弾 と して立 ち上 げ た のが 、 院内 展 覧 会 で あ っ た。 ま だ正 式 な共 同研 究 と し て で は な く、 あ く ま で も個 別 案 件 と して 、 リエ ゾ ン セ ン タ ー か ら病 院 側 へ 申 し入 れ を行 な っ た が 、 学 内 他 学 部 か らの この よ うな ア プ ロ ー チ は 前 例 が な か っ た た め か 、 病 院 側 は 当 初 、 受 け 入 れ に か な り慎 重 で あ っ た 。 患 者 プ ラ イ バ シ ー 保 護 の 観 点 か ら、 他 者 が 院 内 に 出 入 りす る こ と に ネ ガ テ ィ ブ な 見 解 を 示 し た 。 後 述 す る が 、 実 際 の 研 究 体 制 に 入 っ て 後 に 、 彼 らの 懸 念 の 核 と な っ て い る フ ァ ク タ ー を 知 り、 大 き な障 壁 の一 つ と して実 感 す る こ とに な る。 病 院 側 へ の 申 入 れ と前 後 し て 、 医 学 部 リエ ゾ ン セ ン タ ー 所 員 の 宮 澤 正 顯 教 授 と伴 に 塩 崎 均 医 学 部 長 と面 会 し、 我 々 の 試 み を 説 明 し た と こ ろ 、 全 面 的 な 賛 同 と協 力 の 意 向 を 得 た 。 そ の 折 に 塩 崎 医 学 部 長 か ら"HospitalAmenity"と. い う、 私 に とって. は 耳 新 しい 言 葉 が 提 起 さ れ た 。 そ れ は こ れ か ら 目指 そ う と して い る もの を 端 的 に 表 してい た。 先 行 プ ロ グ ラ ム と し て 考 え て い た 院 内 展 覧 会 は 、HospitalArtと 一つで. 呼 ばれ る活 動 の. 、 日本 で も各 地 の 医 療 施 設 で 実 施 さ れ て い る 。 病 院 内 に ア ー ト作 品 を 飾 っ た. り、 患 者 と い っ し ょ に ワ ー ク シ ョ ッ プ した り と い う試 み は 、 欧 米 で は 約30年. 前か. ら広 ま っ て い る の で 、 そ れ 自 体 何 ら新 しい もの で は な い 。 "H. ospitalAmenity"は. 、 そ れ よ り も上 位 概 念 と し て 、 広 く医 療 施 設 全 体 の 環 境. 快 適 性 を 考 え る 視 点 で あ る 。 こ の キ ー ワ ー ドを 後 の 共 同 研 究 課 題 と して 用 い た 。. 附 属 病 院 側 は 、 我 々 の 活 動 窓 口 と し て 、 院 内 サ ー ビ ス 向 上 ・業 務 改 善 委 員 会 を 充 て て くれ た。 こ の会 議 体 は、 神 経 内 科 の 三 井 良 之 准 教 授 が 委 員 長 を努 め 、 主 に患 者 の ク レ ー ム 把 握 や 、 そ れ に 対 応 す べ き業 務 改 善 を 取 り ま とめ る 役 割 を 担 っ て い る 。 因 み に ク レ ー ム の 内 容 は 月 毎 に 変 動 す る も の の 、 毎 月 集 計 して い る 患 者 ア ン ケ ー ト 調 査 に よ る と、 環 境 に 関 す る も の 一34%、. 一76一. 職 員 の 対 応 一24%、. 診 療 に 関 す る もの. (173).
(4) HARTプ. 一13%. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一 ト10spitalAmenltyの. 、 予 約 待 ち 時 間 な ど 一8%、. 2011年3月. そ の 他 一21%と. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. な っ て い る 。(2009年5月. 分∼. 分 集 計 結 果). 環 境 に 関 す る ク レー ムが 一 番 多 い の は、 狭 山 に あ る 医 学 部 附 属 病 院 の 建 物 自体 が 、 築40年. 以 上 と か な り古 く、 トイ レ数 不 足 や 浴 室 設 備 な ど の 根 本 的 な 問 題 を 抱. え て い る か らで あ ろ う。 次 に 多 い の は 人 的 要 素 と し て 、 医 師 や 看 護 師 の 患 者 に 対 す る 態 度 や 言 葉 の 問 題 が 挙 げ られ る 。 予 想 し て い た よ り少 な い の は 待 ち 時 間 へ の 不 満 で あ っ た。 医 療 施 設 は 、 単 に 医 師 が 治 療 行 為 だ け を 行 っ て い る 場 で は な く、 保 険 や 入 院 な ど の 事 務 手 続 き、 検 査 、 調 剤 投 薬 、 リハ ビ リ テ ー シ ョ ン、 介 護 的 作 業 、 緩 和 ケ ア 、 食 事 や 入 浴 、 理 髪 、 小 児 対 象 の 院 内 学 級 な ど種 々 の 行 為 が 総 合 的 に な さ れ る 。 病 院 を そ う い う 生 活 空 間 と し て 捉 え る 時 、 自 ず と患 者 へ の サ ー ビ ス とい う発 想 が 持 ち 上 が り、 環 境 向 上 は 重 要 課 題 と な っ て く る 。 加 え て 、 外 部 組 織 で あ る 日本 医 療 機 能 評 価 機 構 か ら5年. ご と に 受 け る 審 査 対 象 と して も、 院 内 環 境 の 問 題 は 必 然 性 を 帯 び て く. る 。 そ れ は 補 助 金 を 左 右 す る 要 素 で あ り、 病 院 経 営 に も 関 係 す る 問 題 で あ る 。 こ う い っ た 背 景 か ら も、 芸 術 が 医 療 に 関 わ り、 な ん らか の 形 で 寄 与 す る 意 義 が 病 院 側 に も理 解 さ れ 、 プ ロ ジ ェ ク トは 動 き始 め た 。. 3.HARTプ. ロ ジ ェ ク トへ. 2009年8月17日(月)∼9月5日(土)芸. 術 学 科 造 形 専 攻 学 生 に よ る第 一 回展. 覧 会 を 、 医 学 部 附 属 病 院 一文 芸 学 部 連 携 プ ロ ジ ェ ク ト主 催 、 院 内 サ ー ビス 向 上 ・業 務 改 善 委 員 会 共 催 の 形 で 、 開 催 し た 。 出 展 者 は4回 品 数 と し て は 約30点. を 院 内 の3箇. そ の 際 、HospitalArtか. を選 定 、 作. 所 に 展 示 し た 。(資 料1). ら も じ っ てHARTと. 医 療 環 境 向 上=HospitalAmenityが. 生 を 中 心 に 約25名. い う キ ャ ッチ コ ピ ー を 考 案 し た 。. 研 究 目的 で は あ る が 、 活 動 の 主 旨 を 、 患 者 や. 多 くの 病 院 関 係 者 に も理 解 し て も ら い 、 認 識 を 広 め る た め に は 、 分 か りや す い 愛 称 を 用 い る こ とが 効 果 的 と考 え た 。(資 料2) HARTは. 心(Heart)と. も通 じる音 韻 で 、 こ の研 究 活 動 の趣 旨に 適 った ネ ー ミ ン. グ で あ る 。 こ れ を 採 用 す る に あ た っ て 、 そ も そ もArtと. い う言 葉 は 医 学 の分 野 で. ど の よ う な 響 き を持 つ の か を 、 医 学 部 の 三 井 先 生 に 質 問 し た と こ ろ 、 例 え ば"The. (174). 一75一.
(5) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. ArtoftheSuture"(美. し い 縫 合 術)な. 第1号/2011.9. ど の よ う に 、Artは. 学 会 論 文 な どで も時 々. 使 う 言 葉 で あ り、 意 外 に も距 離 感 が な い とい う事 で あ っ た 。 人 体 を 直 接 扱 う医 学 に は 、 〈美 し い 技 術 〉 とい うArtの. 根 源 的 な 概 念(テ. ク ネ ー)が. 留 め られ て い るの か. も知 れ な い 。 ネ ー ミ ン グ に 加 え 、 ヴ ィ ジ ュ ア ル コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ゼ ミ の 協 力 で 、 学 生 か らHARTの. ロ ゴ マ ー ク を 公 募 し、 院 内 サ ー ビ ス 向 上 ・業 務 改 善 委 員 会 で デ. ザ イ ン を 選 定 し た 。 こ の ロ ゴ マ ー ク は 、 リエ ゾ ン セ ン タ ー を 通 じて 商 標 登 録 し て い る 。(資 料3) ま た 作 品 展 示 場 に ア ン ケ ー ト用 紙 を 置 き、 鑑 賞 者 の 意 見 な ど を 調 査 し た 結 果 、 様 々 な 声 が 寄 せ られ た 。 多 く は 賛 同 、 評 価 の 言 葉 で あ っ た 。 な か に は わ ざ わ ざ 感 想 を ワ ー プ ロ で 打 っ て 添 え ら れ た 方 も い た 。 そ の 一 方 、 否 定 的 な 意 見 も一 部 に 見 られ た 。 最 も印 象 的 で あ っ た も の は 、70∼79才. 男 性 の 感 想 で 「ゴ ミ とい う 感 じで あ る 。. ゆ っ た り と し た 創 造 性 の あ る 作 品 が な い 。 芸 術 性 に 欠 け る 。」 と、 一 刀 両 断 で あ っ た 。 通 常 の 展 覧 会 で は 、 こ こ ま で 厳 し い コ メ ン トは 出 て こ な い の で は な い だ ろ う か 。 し か し何 故 か 、 私 は こ れ を 読 ん だ と き シ ョ ッ ク も不 愉 快 な 感 じ も 起 き な か っ た。 む しろ 、 感 情 とい うエ ネ ル ギ ーが 、 そ の 人 な りの姿 で 定 着 され て い る 筆 跡 に、 好 感 さ え覚 え た。 全 て の コ メ ン トを 読 ん で み て 、 賞 賛 の こ と ば に せ よ 、 批 評 の こ と ば に せ よ 、 全 般 的 に感 受 性 が 鋭 敏 に な っ て い る傾 向 を感 じた。 病 状 や 年 齢 層 、 通 院 や 入 院の 違 い に よ っ て 一 括 り に は で き な い が 、 ア ン ケ ー ト自 由 記 述 欄 に 、 こ れ ほ ど真 摯 な コ メ ン ト が 寄 せ られ る こ と は あ ま り例 を み な い 。 少 な く と も作 品 を 正 面 か ら見 て く れ て い る こ と は 確 か な よ う だ 。(資 料4). 今 回 の 展 覧 会 は 、 造 形 芸 術 専 攻4回 開 催 し た 。4回. 生 前 期 に 行 わ れ る 課 題 作 品 展 の 巡 回 展 と して. 生 作 品 展 は 、 で き る だ け 多 く の 人 に 見 て も ら う よ うKUDOSを. 会場. と し て い る が 、 他 学 部 の 学 生 は 、 展 示 に あ ま り興 味 を 示 し て い な い 。 各 々 が 置 い た コ メ ン トノ ー トに は 、 知 人 や 友 人 を 除 い て 、 ほ と ん ど意 見 が 寄 せ られ て い な い の が 通 例 で あ る 。 展 示 終 了 後 、 期 待 と不 安 を 合 わ せ 持 っ て ノ ー トを 開 く もの の 、 書 き込 み の 少 な さ に ま ず 落 胆 す る 。 そ の 僅 か な 書 き 込 み も大 抵 は 、 「可 愛 か っ た 」 と か . . 「す ご い と 思 う 」 と い う 、 身 内 に よ る 社 交 辞 令 に 近 い も の ば か り で 、 作 品 制 作 に 有. 一74一. (175).
(6) HARTプ. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一 ト10spitalAmenltyの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. 効 な参 考 意 見 を見 出す の は難 しい 。 な に よ り も問 題 なの は、 学 生 が こ うい う経 験 を繰 り返 す う ち、 結 局 作 品 を作 って . . . . み て も、 普 通 の 人(そ. の 集 合 体 と し て の 社 会)は. 少 し も 関 心 を 持 っ て くれ ず 、 芸 術. とい う もの は 外 部 に さ し た る 影 響 を 及 ぼ さ な い とい う 、 ア ー トへ の ニ ヒ リズ ム に 至 る こ と で あ る 。 そ の 結 果 、 ま す ま す 表 現 が 内 向 き と な り、 自 分 の 好 き な 世 界 、 今 知 っ て い る 世 界 だ け を 自 己 完 結 さ せ る 創 作 姿 勢 と な る 。 そ れ を 、 個 性 とか オ リ ジ ナ リ テ ィ と い う 言 葉 に 置 き替 え る こ と で 、 か ろ う じ て 作 品 制 作 の 意 味 を 捉 え る 。 ま た 、 現 に そ うで も し な け れ ば 、 モ チ ベ ー シ ョ ン は 継 続 し な い 。 か く して ま す ま す 芸 術 の内 向性 に拍 車 が か か っ てい る。 そ う い う問 題 点 に お い て も、 こ の プ ロ ジ ェ ク トは 、 今 ま で と違 っ た 社 会 空 間 に 作 品 を 置 くこ とで 、 自分 達 の 作 っ た もの が 他 人 にい か な る影 響 を与 え る か を再 確 認 し、 制 作 の 目的 を 再 考 す る に は 絶 好 の 機 会 で あ る 。 ア ン ケ ー ト結 果 は 、 刺 激 剤 と し て 学 生 に フ ィ ー ドバ ッ ク し た 。 こ の よ う に 、 第 一 回 院 内 展 示 は 、 患 者 の 方 々 よ り多 く の 反 響 を い た だ き、 日本 医 療 衛 生 新 聞 、 日経 新 聞 に も取 り上 げ られ た 。. 4.医. 療 機 関 の 持 つ 難 題 と特 性. 引 き続 きHARTプ. ロ ジ ェ ク ト企 画 第2弾. と して 、 舞 台 芸 術 の ドラマ コ ミュ ニ. ケ ー シ ョ ン主 催 で、 小 児 患 者 向 けの 演 劇 公 演 を計 画 したが 、 折 し も新 型 イ ンフ ルエ ンザ の ピ ー ク時 と重 な り中止 に な っ た。 ま た イ ンフ ルエ ンザ とは別 に、 病 児 との 濃 厚 接 触 に関 す る感 染 予 防 策 と して、 演 者 に対 して、 風 疹 、 麻 疹 、 水 痘 、 ム ンプス の 抗 体 価 を測 定 し、 結 果 に応 じて予 防 接 種 をす る必 要 が あ る こ とが 病 院側 か ら指 摘 さ れ た。 医 学 部 及 び附 属 看 護 専 門学 校 の学 生 に は予 防 対 策 を義 務 付 け てい るが 、 我 々 文 芸 学 部 の 学 生 に まで それ を強 制 す る こ とはで きな い。 乗 り越 えが たい1つ のハ ー ドル と な っ た 。 免 疫 力 の 弱 い小 児 が 難 しい と なれ ば 、今 度 は 成 人 の入 院 患 者 向 け に、 デ イ ル ー ム の活 用 企 画 と して、 ミニ講 座 を提 起 したが 、 これ もイ ンフ ルエ ンザ 感 染 の 影 響 上 、 病 棟 関 係 者 の総 合 判 断 を踏 ま え て 中止 に至 った 。 こ こ に来 て、 院 内感 染 とい う大 きな問 題 が 立 ち は だか っ た。 狭 山病 院 は、 全 医 局 に対 して指 導 権 を持 つ 感 染 対 策 室 を設 置 し、 院 内で の感 染 予 防 に多 大 な注 意 を払 っ てい る。 も し病 院 内で の感 染 に よ る医 療 事 故 が 起 こ れ ば、 病 院 運 営 、 経 営 の 根 幹 に. (176). 一73一.
(7) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. ま で 影 響 す る 。 そ の リス ク を い か に 回 避 す る か に 神 経 を 尖 らせ て い る 。 当 初 、 院 内 展 覧 会 を 申 し入 れ た と き、 病 院 側 が 消 極 的 な 姿 勢 を 見 せ た 理 由 が 、 こ こ に き て 理 解 で きた。 ま た 、 こち らの 認 識 を改 め るべ くガ イ ダ ン ス を受 け た の は、 近 年 の 医療 機 関 は、 入 院患 者 を極 力 早 期 に退 院 させ る方 針 とな って い る点 で あ る。 これ は厚 生 労 働 省 の ポ イ ン ト制 と リ ン ク し て い て 、 長 く て も2週 て の よ う に 、 半 年 も1年. 間が 区切 り とな っ てい る。 従 っ てか つ. も 入 院 し て い る と い う患 者 は 少 な く な っ て い る 。2週 間 程. 度 で 退 院 す る と な れ ば 、 毎 日検 査 や 治 療 で 予 定 が 詰 ま っ て い て 、 現 実 は 、 患 者 が 暇 を も て あ ま す よ う な 状 況 で は な い 、 とい う こ とで あ っ た 。 当 初 な ん と な く イ メ ー ジ し て い た 、 老 人 が 毎 日ベ ッ ドの 上 で ぼ ん や り天 井 を 見 つ め て い る一 とい う よ う な 光 景 は 、 過 去 の も の と な りつ つ あ る 。 そ れ に 加 え て 、 今 回 対 象 と し て い る の が 、 病 床 数 数 百 も あ る 総 合 病 院 で あ り、 し か も大 学 医 学 部 附 属 病 院 で あ る とい う特 性 も考 慮 し な け れ ば な ら な い 。 そ れ は 、 地 域 密 着 型 医 療 とい う側 面 に もま して、 基 本 的 に は、 高 度 の先 端 医 療 を研 究 開発 す る 目的 の 、 大 学 に 附 属 し た 研 究 機 関 で あ る 。(平 成6年 には高度医療の特定機能病院 として認定 されてい る)そ こ に お け るHospitalAmenityの. あ り方 、 考 え 方 もお の ず と形 成 さ れ. る。 以 上 の よ うに、 医 療 施 設 が 持 つ 宿 命 的 特 性 、 現 代 医 療 現 場 の 実 態 、 さ らに は大 学 病 院 と い う側 面 を 研 究 の 基 本 条 件 と し て プ ロ グ ラ ミ ン グ し た 上 で 、HARTプ. ロジェ. ク ト企 画 を 構想 す る 必 要 が あ る 。. 5.学. 内 共 同 研 究 へ. ほ ぼ 半 年 間 の 試 行 期 間 後 、 更 にHARTプ. ロ ジ ェ ク トを 継 続 さ せ る た め に は 、 研. 究 資 金 と協 力 体 制 強 化 が 必 要 と な る 。 そ の 目 的 で 、 平 成22年 応 募 し た 。 結 果 、 申 請 が 通 過 し、3年. 度学内研究助 成金 に. 間 に渡 っ て助 成 金 交 付 を受 け る こ と に な っ. た 。 こ こ で の 研 究 題 目 は 、 医 学 部 一文 芸 学 部 連 携 プ ロ ジ ェ ク ト、 『新 し い 医 療 環 境 一HospitalAmenityの. 研 究 開 発 』 と して い る 。 個 人 的 な 発 想 段 階 を 超 え て 、 正 式. な グ ル ー プ 研 究 と位 置 づ け る た め に 、 改 め て 企 画 内 容 を 以 下 の よ う に 整 理 し た 。. 一72一. (177).
(8) HARTプ. 1)研. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一 ト10spitalAmenltyの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. 究 目的 ・意 義. ① 研 究 の背 景 高 齢 化 社 会 にお い て、 更 な る医 療 施 設 の 充 実 は必 須 課 題 で あ るが 、 医 療 現 場 で は医 師 不 足 や 患 者 ・医 師 間 の コ ミュニ ケ ー シ ョ ン、 病 院経 営 の 問 題 等 、 厳 しい 現 実 に直 面 してい る。 高 度 な 治療 技 術 や 医療 機 器 を追 求 す る 一 方 、 施 設 環 境(医 療 空 間 の快 適 性) の問 題 は なお ざ りに され てい て、 多 くの 病 院 で 患 者 に対 す る環 境 や サ ー ビス の重 要 性 を認 識 しなが ら、 そ こ まで 手 が 廻 らず に悩 んで い る現 状 が あ る。 それ らを乗 り越 え る に は従 来 的 な医 学 や 医 療 業 界 の視 座 だ けで は 限界 が あ る と思 われ る。 来 た る 時代 を見 据 え た新 しい 発 想 ・ 企 画 を もっ て 、真 に患 者 サ イ ドの視 点 に 立 っ た医 療 環 境 を築 き上 げ る必 要 が あ る。. ② 研 究 の 目的 総 合 大 学 な らで は の 利 点 を 活 か し て 、 医 学 部 と文 芸 学 部 が 連 携 し 、 「新 しい 医 療 環 境 」 と は 一 体 ど う い う もの か を 具 体 性 の あ る プ ロ グ ラ ム と して 共 同 開 発 す る。 "医 療 の 場 に お け る 芸 術 の 可 能 性"と HospitalAmenityを. い う視 点 か ら 共 同 研 究 を 行 な い. キ ー ワ ー ドに 、"良 好 な 医 療 環 境"を. 、. 追 求 す る。. 同 時 に ア ー ト側 か ら見 て も、 専 門 領 域 に 閉 塞 しが ち な 状 況 を 打 破 し、 芸 術 が 社 会 に 与 え る 影 響 力 を 追 求 す る こ とで 、 人 間 に と っ て の 必 然 性 を 検 証 す る 絶 好 の 機 会 と な り、 両 学 部 に と っ て 双 方 向 性 の あ る 共 同 研 究 と な る 。. ③ 研 究 の 特 色 ・独 創 性 及 び 結 果 と意 義 医 学 と芸 術 一 そ れ ら は 対 極 に 位 置 す る か の よ う に 見 え る 両 分 野 で あ る が 、 実 は 根 幹 に 大 き な 共 通 点 が あ る 。 ア プ ロ ー チ は 異 な る が 、 ど ち ら も生 身 の 人 間 そ の もの に 真 正 面 か ら対 峙 し、 生 命 の 根 源 に 深 く 関 わ る 世 界 で あ る 。 そ も そ も ア ー トの 語 源 は ギ リ シ ャ 語 の 「テ ク ネ ー 」 で 、 こ れ は 農 業 、 政 治 、 ス ポ ー ッ そ して 医 学 ま で 含 ま れ て い た 。 そ の 事 実 は レ オ ナ ル ド ・ダ ・ヴ ィ ン. (178). 一71一.
(9) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. チ の 例 をみ て も明 らか で あ る。 そ して これ が 後 の 大 学 教 育 の 幹 に な る リベ ラ ル ・ア ー ツへ と発 展 した。 ジ ャ ンル を有 機 的 に横 断 す る医 学 部 一文 芸 学 部 連 携 プ ロ ジ ェ ク トは、 多 くの 学 生 の参 加 も促 し、 「 新 しい 医 療 環 境 」 の 研 究 と同 時 に、 総 合 大 学 の 本 質 的 な価 値 と可 能 性 を問 い 直 す 試 み で もあ り、 こ の先 駆 的 な活 動 に よ って 、 次 世 代 に 向 け て の独 創 的 な教 育 シス テ ム作 りに も繋 げ る こ とが で きる。. ④ 国内 外 の 関連 研 究 欧 米 で は す で に 多 く の 病 院 で 最 前 線 の 医 療 技 術 と平 行 に 、 医 療 現 場 に ア ー ト を 取 り入 れ て 、 人 間 の 五 感 に や さ しい 刺 激 を 与 え る こ とで 、 生 き る こ とへ の 前 向 き な 姿 勢 を 促 す よ う な 環 境 作 りが な さ れ て い る 。 こ れ は. 「ホ ス ピ タ ル. ァ ー ト』 と 呼 ば れ る 活 動 で あ る 。 「ホ ス ピ タ ル ア ー ト』 は す で に 日本 の 病 院 で も広 が りつ つ あ る が 、 壁 面 の 装 飾 や 小 児 患 者 向 け ワ ー ク シ ョ ッ プ と い う 部 分 的 な活 動 に と どま っ て い る。 ま た 、 最 近 の 医 学 の 現 場 に お い て 、EBM(EvidenceBasedMedicine)も こ と な が ら、NBM(NarrativeBasedMedicine)の. さる. 重 要 性 が 注 目され て い る。. こ れ は 、 科 学 的 デ ー タ の み で は な く、 対 話 を 重 視 し た 臨 床 医 療 へ の 流 れ で あ り、 ま さ に 医 学 に お け る 文 学 性 が 問 わ れ る 時 代 性 を 示 唆 す る 。. 以 上 よ り、 医 学 と芸 術 ・文 学 が 連 動 す る こ と に よ っ て 、 次 世 代 型 医 療 環 境 を 開 発 し、 医 療 施 設 の パ ラ ダ イ ム シ フ トに つ な が る 先 駆 的 研 究 を 目指 す 。. 2)研. 究 計 画 ・方 法. 環 境 を 、 空 間 ・時 間 ・人 とい う3つ. の要 素 に分 け る。. 最 先 端 の 医 療 行 為 を 支 え る 技 術 や 設 備 だ け で は な く、 こ の3要 合 っ て 始 め て 良 好 な 医 療 環 境 一Hospitalamenityが. 素が連 動 し. 実 現 され る 。 実践 的活 動. を ベ ー ス と し た 研 究 で あ り、 医 学 部 附 属 狭 山 病 院 を研 究 活 動 の 拠 点 とす る 。. 一70一. (179).
(10) HARTプ. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一 ト10spitalAmenltyの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. ①空 間 医 療 施 設 の 空 間環 境 を考 え る に あ た っ て 、 ホス ピタ ル ・ア ー トの実 践 的 研 究 を行 な う。 芸 術 学 科 に よ る病 院 内で の展 覧 会 や 絵 画 教 室 、 演 劇 発 表 な ど多 彩 な活 動 が 考 え られ る。 (す で に 昨 年8月 に第1回 院 内 展 覧 会 を試 行 した結 果 、患 者 か らの 反響 は大 きか っ た) 一 方 で心 理 学 や 人 間工 学 、視 覚 デザ イ ンの 見 地 か らホ ス ピ タ ル ・イ ンテ リ ア の研 究 開発 を行 な う。 入 院棟 各 階 に設 け られ てい る デ イ ル ー ムや 、 小 児 治 療 室 の 空 間 デザ イ ンな ど も研 究 対 象 とす る。. ②時 間 受 動 的 な入 院生 活 の 時 間 を、 情 報 吸 収 の 機 会 と と らえ る こ とに よ って 、 患 者 の 自発 的 な ケ ア を促 す 。 一 案 と して. 、 大 学 の 様 々 な 講 座 を 病 床 に 開 放 す る シ ス テ ム が 考 え られ る 。 い. わ ば ベ ッ ドサ イ ドユ ニ バ ー シ テ ィ構 想 で あ る 。 文 芸 学 部 に は 芸 術 以 外 に 文 学 、 文 化 とい っ た 多 彩 な 学 科 専 攻 が あ り、 入 院 し な が ら教 養 を 身 に つ け る こ とが で き る 。 さ ら に 様 々 な 学 部 へ の 展 開 も可 能 で あ る 。 総 合 大 学 な らで は の 、 知 の 情 報 ネ ッ トワ ー ク を 活 か した 企 画 案 で あ る 。. ③人 附 属 病 院 で 働 くす べ て の 人 に 、HospitalAmenityの. 概 念 を浸 透 させ る。 そ. の た めの 啓 蒙 活 動 も当研 究 の 大 切 な役 割 で あ る。 シ ンポ ジ ウ ムや 研 究 会 を重 ね て 到 達 目標 を 探 る 。 他 方 、 教 育 の 視 点 と し て 、 人 材 育 成 の 研 究 が あ る 。 医 学 や 芸 術 は と りわ け専 門性 の高 い 領 域 で あ る。 教 育 現 場 で あ る医 学 部 、 文 芸 学 部 と も に 専 門 知 識 、 特 殊 技 術 の 習 得 に 特 化 し て お り、 と もす れ ば 視 野 の 狭 窄 を 招 く。 専 門 性 に 加 え た 広 い 視 点 と教 養 を 身 に つ け る こ と こ そ 、 次 世 代 の ス ペ シ ャ リ ス ト育 成 に 不 可 欠 な 姿 勢 で あ る 。 ホ ス ピ タ ル ・ア メ ニ テ ィ 研 究 を 通 じ、 医 学 部 、 文 芸 学 部 の 教 員 や 学 生 が プ ロ ジ ェ ク トに 参 加 し、 実 践 を 通. (180). 一69一.
(11) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. した 共 通 体 験 をす る こ とに よ っ て 、 総 合 的視 野 を も っ た 人 材 育 成 に つ な げ る。 両 学 部 の共 同 ワ ー ク シ ョ ップ等 に よ っ て、 ダ イ ナ ミ ック な学 部 横 断 型 人 材 交 流 を行 う。 (学 内研 究 助 成 金 交 付 申請 書 書 式 よ り). 6.一. 年 間 の 研 究 活 動 を通 じて. プ ロ ジ ェ ク ト開 始 に 先 だ っ て 、 空 間 、 時 間 、 人 の カ テ ゴ リ ー ご と に 、3年. 間 に渡. る 年 次 計 画 目標 を 設 定 し た 。. 平 成22年 度. 医 学 部一 文 芸 学 部 連 携 プ ロ ジ ェ ク ト 年 次 計 画 案. 太 字:既 に試 行 済 み 2010年 度. 2011年 度. 2012年 度. ホ ス ピ タ ル ア ー ト1 ホ ス ピ タ ル ア ー ト2 ホ ス ピ タ ル ア ー ト3 (4回 生 展) (4回 生 展) (4回 生 展) ホ ス ピ タ ル ア ー ト2 ホ ス ピ タ ル ア ー ト3 岩岡教授個展. 空間. (9月20日. (企画展). ∼10月16 日). 空 間 デ ザ イ ン2. 小児処置室. 空 間 デ ザ イ ン1 :小 児 処 置室(年 度 持越). (企画展) 空 間 デ ザ イ ン3. リハ ビ リセ ン ター. 病 室 イ ンテ リア (色 彩 、 家 具 、 照 明). デ イ ル ー ム(未) 院 内 サ イ ン計 画 ベ ッ ド サ イ ドユ ニ バ ー ベ ッ ド サ イ ドユ ニ バ ー ベ ッ ドサ イ ドユ ニ バ ー シ テ ィ3 シ テ ィ第二 回 絵画鑑 賞教 室/井 面 先生 歌 舞 伎 のル ーツ/林 先生 子 供 の た め の絵 画 教 室3 シ テ ィ第一 回. (12月24日)Web講. 時間. 座. 文芸 講座1(未) ワ ー ク シ ョ ッ プ1. (6月7日)Web講. 座. 子供 の た め の絵 画 教 室2 文芸 講 座3 ワー クシ ョッ 文芸 講座2. プ3. マグカ ップ作 り/石 田先 生 ワ ー ク シ ョ ッ プ2 (院内 感染 の問 題 で 中止). 人. 演 劇 公演1/盛 先生 演 劇公 演2 (院内感染 の問題で中止) SP(模 擬 患 者) 公開講座 (技術 的 問 題 で 中 断) (特 別 プ ロ グ ラ ム). 学 内 シ ンポ ジウム1 研究成果 中 間 報 告1 報告. デ ッ サ ン+解. 演 劇 公 演3 ワー クシ ョッ プ. (学 生 ・教 員 合 同 企 画). 剖学. 学 内 シ ン ポ ジ ウ ム2. 公 開 シ ン ポ ジ ウ ム3. 中 間報 告2. 中 間報 告3 学 会 発 表 、報 告 書 刊 行. 一68一. (181).
(12) HARTプ. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一 ト10spitalAmenityの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. とこ ろが 初 年 度 の研 究 を終 え てみ れ ば、 当初 計 画 通 りに遂 行 され た もの は数 が 限 ら れ た 。 そ の 最 も大 き な 要 因 は 、 先 述 し た よ う に 院 内 感 染 の リス ク 回 避 で あ っ た 。 こ ち らか ら様 々 な 企 画 を 提 案 す る が 、 現 実 は な か な か 受 け 入 れ られ な か っ た 。 感 染 管 理 の 観 点 か ら言 え ば 、 不 特 定 多 数 の 直 接 接 触 を 避 け た い 。 従 っ て 作 品 展 示 や イ ン テ リ ア 計 画 な ど、 空 間 カ テ ゴ リ ー の 項 目 は 比 較 的 問 題 が な い 。 一 方 、 人 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 核 とす る 、 時 間 ・人 カ テ ゴ リ ー に 関 し て は 、 大 小 様 々 な リス ク が 生 じ る 。 院 内 感 染 リス ク と環 境 向 上 メ リ ッ トを 天 秤 に か け て み れ ば 、 医 療 機 関 の 基 本 姿 勢 と し て 、 リ ス ク 回 避 の 方 を 選 択 す る の は 当 然 で あ ろ う 。 しか し、 そ れ だ け で は 従 来 の ホ ス ピ タ ル ア ー トの 域 を 出 ず 、Hospitalamenityと. い う課 題 領 域 に は 及. ば な い 。 む し ろ 今 回 の 研 究 で 注 目 し た い の は 、 時 間 ・人 カ テ ゴ リ ー に お い て の 可 能 性 で あ る 。 中 で も、 大 学 の 様 々 な 講 座 を 病 床 に 開 放 す る 、 ベ ッ ドサ イ ドユ ニ バ ー シ テ ィ 構 想 は 、 こ の 研 究 の 主 軸 と捉 え て い た だ け に 、 行 き詰 っ て し ま っ た 。. 窮 す れ ば通 ず で は ない が 、 苦 肉の 策 で 思 い つ い た のが 、 パ ソ コ ンを通 じた遠 隔 操 作 で あ る 。 入 試 セ ン タ ー 高 大 連 携 課 が 管 轄 し、E-cubeか 配 信 し て い るWebexと た 。Webexを. ら協 定 高 校 に遠 隔授 業 を. い うシ ス テ ム を使 っ て 、病 院 に講 義 を発 信 す る こ と を考 え. 管 理 構築 し て い るKUDOS総. グ を 行 い 、 狭 山 病 院 とKUDOSス. 合 情 報 シス テ ム部 の協 力 で セ ッテ ィ ン. タ ジ オ を 結 ん だWeb講. 座 を 開 講 した。 第 一 回. は、 当研 究 代 表 者 で もあ る井 面 先 生 に講 師 を務 め て い た だい た 。 本 来 は、 小 児 患 者 に 向 け て 「子 供 の た め の 絵 画 鑑 賞 教 室 」 を 講 義 す る 計 画 で あ っ た が 、 感 染 対 策 上 、 直 接 出 向い ての 授 業 形 式 を断 念 した経 緯 が あ る。 ク リス マ ス イ ブ の 週 末 と い う こ と も あ り、 参 加 患 者 数 は20名 か っ た が 、 約1時 会 っ た)Web講. 弱 と予 想 よ り少 な. 間 の 講 義 を 熱 心 に 聴 講 さ れ て い た 。(筆 者 も 現 地 で 一 緒 に 立 ち 義 が 、TVや. ビ デ オ 等 を 使 っ た 通 信 講 座 と全 く異 な る 点 は 、 双 方. 向 性 で あ る こ と。 前 者 は 、 一 方 的 な 情 報 発 信 で あ る の に 比 べ て 、 こ の シ ス テ ム は 両 会 場 に モ ニ タ ー と カ メ ラ を 設 置 し、 お 互 い の 様 子 が ラ イ ブ で 映 し だ さ れ 、 随 時 会 話 が で き る 。 第 一 回 の 講 座 は 、 「日 常 礼 賛 一 ヨ ハ ネ ス ・フ ェ ル メ ー ル の 魅 力 」 と い う 内 容 で 、 講 義 の 合 間 に 三 択 ク イズ を 出 す な ど、 ま さ に 全 員 参 加 型 の ラ イ ブ講 義 で あ っ た 。 最 後 の 質 疑 コ ー ナ ー で も積 極 的 に 挙 手 さ れ て い て 、 こ う 言 っ て は 何 だ が 、. (182). 一67一.
(13) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. 学 生 を 対 象 に し た 日頃 の 授 業 よ り も、 よ ほ ど充 実 し た 感 が あ っ た 。 個 人 差 は あ れ 、 そ れ で も多 く の 患 者 が 共 通 し て 抱 え る 精 神 状 態 とい う もの を 想 像 す れ ば 、 不 足 感 や 欠 乏 感 の 心 理 が 日 々 を 覆 い 、 逆 に そ れ か ら来 る 何 か へ の 欲 求 や 渇 望 が 行 き場 を 失 っ て 、 深 い 部 分 に 沈 殿 して い る よ う に 思 う 。(自 ら の 体 験 も踏 ま え) そ う い う 欲 求 の マ グ マ こ そ 、 ほ ん の 少 しの き っ か け で 、 人 間 が 本 来 的 に 携 え て い る 知 的 好 奇 心 を 目覚 め さ せ る 可 能 性 が あ る 。 お そ ら く芸 術 は 、 そ の 深 み に 届 く光 の 役 割 を な す も の だ と思 う。 印 象 的 な フ ェ ル メ ー ル の 青 は 、 モ ノ トー ンの 入 院 生 活 を 一 瞬 鮮 や か に彩 っ たか に思 え た。 とま れ、 私 は こ こ に学 び の本 来 の 姿 を垣 間見 た。 そ し て 芸 術 の 新 た な 可 能 性 も予 感 し た 。(資 料6) Web講. 座 に お い て も 、 ア ン ケ ー ト調 査 を 行 な っ た が 、 参 考 ま で に 一 人 の 感 想 を. 紹 介 す る。 「病 気 に な り、 始 め て 人 間 生 活 ・環 境 ・心 理 の 本 当 の 大 切 さ を 知 る こ と が で き ま し た 。 そ し て 退 院 後 、 療 よ う 生 活 が 必 要 と な り、 ほ ぼ ふ つ う の 生 活 が で き る ま で2 ∼6年. く らい は ス テ ロ イ ド薬 を 飲 む こ と に な り ま す が 、 井 面 先 生 の 文 芸 学 部 の 人 間. の い の ち の 尊 厳 を 基 礎 と す る 、(美 学 → 人 間 の 感 性 を 研 究 す る と い う)目 へ ん 共 感 し、 い つ か ま た 入 学 し て 学 べ る こ と を 目標 に して い ま す 。』 入 院 中女 性. 標 にた い. 〈20∼29才. 原 文 の ま ま〉. い み じ く も こ の 方 が 述 べ て い る よ う に 、 人 は 日常 の 慌 た だ し さ に 、 ゆ っ く り考 え 、 深 く見 る こ と を 忘 れ て し ま っ て い る 感 が あ る 。 病 と い う 状 態 に 置 か れ 、 日常 生 活 か ら一 旦 離 脱 せ ざ る を え な い の は 大 変 不 幸 で は あ る が 、 そ うい う状 況 に な っ て 初 め て 、 普 段 見 え な い も の が 見 え 、 気 付 か な い も の が 心 中 に 去 来 す る こ とが あ る と思 う。 不 安 や 苦 痛 を 抱 き な が ら も、 い や 逆 に そ うで あ る か ら こ そ 、 個 と し て い ろ い ろ に 考 え 、 思 い 、 知 る 。 そ う な ら ば 、 病 院 と は 医 療 機 関 で あ る と と も に 、 学 び(教 育)の. 場 と も捉 え る こ とが で き る の で は な い だ ろ うか 。. こ れ か ら の 大 学 を 考 え る と き、 講 義 や キ ャ ンパ ス の 概 念 を も っ と拡 大 視 し て 、 次 世 代 社 会 に お け る 存 在 価 値 を 創 出 す る 必 要 が あ る と思 う。. 一66一. (183).
(14) HARTプ. 7.ま. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一 ト10spitalAmenltyの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. とめ. 今 研 究 は2年 標 課 題 の1つ. 目 に 入 り、 あ と1年. を 経 て 成 果 を ま とめ る 予 定 で あ る 。 今 年 度 の 目. は 、 小 児 処 置 室 の 改 良 とい う空 間 デ ザ イ ン を 完 成 さ せ る こ とで あ る 。. 昨 年 度 に 終 了 予 定 だ っ た が 、 資 金 計 画 や 院 内 の 合 意 形 成 な ど様 々 な 理 由 で 繰 越 し さ れ た。 私 の 専 門領 域 だが 、 こ こで は単 純 に イ ンテ リア デザ イ ンを改 修 す るの で は な く、 〈恐 怖 緩 和 〉 と い う視 点 で 多 角 的 開 発 を 行 っ て い る 。 デ ザ イ ン の 力 に よ っ て 、 い か に 色 や 形 を 越 え た イ ノ ベ ー シ ョ ン を 可 能 に す る か と い う 課 題 で あ り、 成 果 報 告 は次 の 機 会 に譲 る。 そ れ に 加 え 、 舞 台 芸 術 ドラ マ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン系 学 生 の 公 演 を 実 現 す る こ と。 あ ま り近 い 距 離 で の直 接 接 触 を しな い等 、 感 染 対 策 の フ ィル タ ー を通 した 条 件 で 、 一 般 患 者 対 象 に 実 施 す る 予 定 で あ る 。 盛 ゼ ミが 中 心 と な っ て 取 り ま と め て い る が 、 た だ 単 に 学 外 で 公 演 を す る と か 、 慰 問 的 な 活 動 と か で は な く、 演 者(学 メ ッセ ー ジ を 伝 え る 対 象(観. 客 とい う 一 種 の 社 会)を. 生)が. 、. 認 識 し、 把 握 す る た め 、 公 演. に 先 立 っ て ワ ー ク シ ョ ッ プ を 行 っ た 。 医 療 そ の もの を 考 え る 機 会 と して 、 医 師 を 初 め 、 看 護 師 、 薬 剤 師 、 検 査 技 師 、 事 務 職 員 な ど、 多 方 面 の 病 院 ス タ ッ フ か ら の 講 義 や 討 論 会 を 踏 ま え て 、 感 じ取 っ た も の や 、 気 付 い た こ と を ド ラ マ 制 作 に フ ィ ー ド バ ッ ク し よ う と い う 試 み で あ る 。 研 究 カ テ ゴ リ ー の う ち 、 時 間 ・人 に 関 わ る 企 画 と し て 、 興 味 深 い 研 究 成 果 に 繋 が る こ と を 期 待 し て い る 。(執 筆 時 点) ベ ッ ドサ イ ドユ ニ バ ー シ テ ィ は 遠 隔 講 義 型 式 を 採 っ た た め 、 感 染 対 策 の 問 題 も解 消 し、 講 師 が 遠 方 へ 出 向 く とい う 手 間 も省 け る た め に 、 水 平 展 開 可 能 な プ ロ トタ イ プ と な る で あ ろ う。 病 院 側 か ら、 今 年 は3回. ほ ど講 座 を 開 い て 欲 しい とい う リ ク エ. ス トが 出 て い る 。 芸 術 学 科 の み な らず 、 多 士 済 々 の 講 師 陣 が 揃 う 、 文 芸 学 部 全 体 に 広 が り を 持 た せ て ゆ き た い と考 え て い る が 、 ま ず は こ の 研 究 活 動 の 意 義 や 効 果 を 少 しず つ 実 証 し、 広 報 し て ゆ か ね ば な ら な い 。. ま た 、HospitalAmenity構. 想 は対 患 者 だ けで は な く、対 職 員 や 医療 従 事 者 に 向 け. て も 考 え ら れ る べ き で あ ろ う 。 頻 繁 に 病 院 側 と 接 触 す る 機 会 を 経 て 強 く感 じ た の が 、 医 師 を 初 め とす る 医 療 側 の 労 働 条 件 が 過 酷 な 実 情 で あ る 。 打 ち 合 わ せ 中 も度 々 PHSが. (184). 鳴 り、 休 息 も ま ま な ら な い ス ケ ジ ュ ー ル に 加 え 、 宿 直 や 医 学 部 教 員 と して. 一65一.
(15) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. の 教 育 研 究 業 務 も あ る 。 本 当 に ケ ア し な け れ ば い け な い の は 、 む し ろ 彼 らの 方 で は な い だ ろ うか 。 病 院 とい う環 境 は 、 彼 らが 人 を ケ ア す る 場 で あ り、 彼 ら を ケ ア す る 立 場 の 人 間 は 配 備 さ れ て い な い 。 現 在 の 日本 の 医 療 施 設 は 、 ま だ そ こ ま で の 発 想 も 必 要 性 も充 分 持 ち 合 わ し て い な い と思 う 。 他 方 に お い て 、 医 療 に お け る4つ 従 来 の 医 療 概 念 はCure(治 Communication(対. のCと. 療)+Care(看. 話)+Creativity(創. い う考 え も出て きて い る。 護 、 介 護)で 造)が. あ る が 、 そ れ に加 え て. 求 め られ る 。. (ア メ リ カ の 大 学 で 医 学 一 芸 術 共 同 プ ロ ジ ェ ク トを 推 進 さ れ て い た 高 橋 悟 氏:現 京都市立芸術大学准教授 HospitalAmenityと. 在. 談). は そ れ ら の 総 合 体 と も考 え ら れ る が 、4つ の 要 素 は 単 純 に 機. 能 分 担 を す る の で は な く、 有 機 的 な 関 連 性 と多 様 性 シ ス テ ム と して 構 築 す べ きで あ ろ う 。 多 種 多 様 な 専 門 領 域 の 人 間 が 主 体 と な る 患 者 を 取 り囲 む 、 あ る い は 輪 に な っ て 肩 を 組 む よ う な 関 係 性 で 、 全 員 に よ る 共 同 作 業 を 行 う環 境 の こ とか も知 れ な い 。 日 本 の 病 院 と し て は 初 め て ア メ リ カ の 国 際 医 療 機 関 評 価 委 員 会(Joint CommissionInternational(JCI))の. 認 証 を受 け た、 亀 田総 合 病 院 の 亀 田信 介 院 長. の 表 現 に よ れ ば 、 医 療 は 医 師 だ け で は な く、 様 々 な 専 門 家 に よ っ て 構 成 さ れ る オ ー ケ ス トラ で あ る が 、 患 者 も そ の 家 族 も客 席 で な く、 ス テ ー ジ に い て 一 緒 に 演 奏 に 加 わ っ て い る一 と い う こ と に な る 。 ス テ ー ジ の 一 員 と し て 、 芸 術 が い か な る パ ー トを 受 け 持 ち 、 ど の よ う な 音 を 奏 で 、 い か に交 響 させ る のか 、 研 究 を継 続 しなが らさ らに確 か め てい きたい 。.
(16) HARTプ. 資 料1矛. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一HospitalAmenityの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. 一 回 院内 展 の 会 場 風 景 各 々右 の写 真 は普 段 の 状 態 。 ア ー ト作 品が 並 ぶ こ とで 、 色 や 形 の 刺 激 が 加 わ り、 空 間 に活 気 が あ ふ れ て動 きが で る こ とが よ くわか る。. 展示風景. 展示風景. 平時. 平時.
(17) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. 展示風景. 平時. 展示風景. 平時.
(18) HARTプ. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境HospitalAmenityの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. 資料2 コ ン セ プ トパ ネ ル. 院 内展 の ポ ス ター デ ザ イ ンは前 田大 介 氏(2006年. 卒 業 生). こ こ で 初 め てHARTプ. ロ ジ ェ ク ト とい う. #^コ 止'.たkΣ. 資 料3 ロ ゴマ ー ク とそ の展 開例. 安 先 生 監修. ロ ゴ マ ー ク の デ ザ イ ン は ビ ジ ュ ア ル ・コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ゼ ミ2回 の案 が採 用 され た 。. 生(当. 時)角. 麻 梨子 さん.
(19) 文学 ・芸 術 ・文 化/第23巻. 第1号/2011.9. 資 料4 ア ン ケ ー ト用 紙 の フ ォ ー マ ッ ト. 自由 記 述欄 に書 か れ た コメ ン ト例 多 くの 意 見 が 寄 せ られ た 。.
(20) HARTプ. ロ ジ ェ ク ト 新 しい 医療 環 境 一HospitalAmenityの. 研 究 開 発 中 間報 告. 岡本. 資 料6 ポス タ ー デザ イ ン. 会場風景. 前 田 大 介 氏(2006年. 卒 業 生). 車 い す や 点 滴 を 受 け な が ら の 参 加 者 もい た 。 画 面 の 左 に パ ワ ー ポ イ ン ト、 右 に 講 師 の 姿 が 映 し 出 さ れ て い る 。.
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