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〈研究ノート〉流通小売業の変化と経験的マーケティング手法の活用 : 丸岡商事(株)における婦人衣料品開発の事例

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(1)■研究ノート. 流通小売業の変化と経験的マーケティ ング手法の活用―丸岡商事㈱における 婦人衣料品開発の事例―. Changes of Retail Distribution Stores and Application of Experimental Marketing: Case study of SPA product development in Maruoka Business Company Yasuhiko NAKADA. President, Nakada Research Institute Ë. 中田研究室代表    中田安彦. Rikiya MATSUMOTO. 横浜国立大学大学院 環境情報学府. Post-graduate student, Graduate School of Environment and Information Sciences, Yokohama National University. 博士課程後期  松本力也 要旨. 本稿では、商品の個性化・差別化を追求する製造型小売業の商品開発において、どのように経験的マーケティン グ手法が寄与しているのかについて考察している。経験的マーケティング手法を明らかにすることは、商品の個性 化・差別化を追求する製造型小売業の商品開発において、人間の経験と勘が現実の消費者ニーズの収集・分析に有 効となるメカニズムを解明することができるからである。この本稿の目的を明らかにするために、岡田屋グループ 企業で専門店経営を行っている丸岡商事㈱において、現実の顧客ニーズをもとに新商品開発を行うマーケティング 手法に着目している。経験的マーケティング手法に着目することで、婦人衣料専門店が商品仕入制度の助けを得な い製造型小売業に変革し、顧客の支持を得る商品開発と小売環境の整備に取り組むことにより、結果的に粗利益拡 大につながることが明らかとなる。このように、顧客の支持を得る商品開発と小売環境の整備は、消費者と直接的 な接点を持つ製造型小売業の経験的マーケティング手法によって可能になることを指摘している。 SUMMARY This paper examines the contribution of experimental marketing method in the process of product development on Specialty store retailer of private label apparel (SPA), pursuing product individualization and differentiation. By clarifying the experimental marketing method, we are able to clear how human experience and his intuition is effectively to analyze consumer needs in pursuing individualized and differentiated SPA product development. With this purpose, we focus on the changes of marketing methods in Maruoka Business company, a specialty store of Okadaya Department Store Group. This case study alights that the change from being independent from retail purchasing system to basing on consumer satisfaction to develop new product development as well as fulfilling retail shop environment leads to increase margin profit of SPA. Thus, by focusing on customer support, the product development and the retail environment maintenance are able to accomplish experimental marketing method which SPA faced directly to customer. る努力は、顧客満足を目的としている。なぜなら、流. 1.問題意識. 通小売企業の努力は、顧客が求める良品の製造販売に 向けられているからである。流通小売業の顧客満足は、. 本稿は、商品の個性化・差別化を追求する製造型小. (1) 消費者動向を反映した商品開発と(2) 消費者の嗜好. 売業の商品開発において、どのように経験的マーケテ ィング手法が寄与しているかについて考察している。. を理解した売場の良さとの相互補完によって可能となる。. 経験的マーケティング手法の有効性について、中田. このような流通小売業の顧客満足は、古くは商品仕. (2002)は、「流通小売業界は『やったことしか答えが. 入形態によって支えられてきた。商品仕入形態は、流. 出ない』『やれば答えが出る』業界であり、良いと思. 通小売業がメーカー・問屋から商品と人材支援を得. った手法を積極的に実践していく(p.5)」と論じてい. て、店舗の大規模化・多店舗化を大きくバックアップ. る。すなわち、現実の流通小売企業の経営において大. していた。特にメーカー・卸売業が流通小売業に供給. きなサクセスストーリーを生み出すためには、常に時. していた商品は、製品ポジションが明確にし、ポジシ. 代に即したマーケティング手法を経営に取り入れ、継. ョンに応じた市場ニーズを確定させ、さらに、多様な. 続的に地道かつ堅実な企業努力が重要となる。. 市場セグメントから絞り込むマーケティングで選定さ れていた。このような川上企業のマーケティングによ. 時代に即したマーケティング手法を経営に取り入れ. 40. 流通小売業の変化と経験的マーケティング手法の活用 ―丸岡商事㈱における婦人衣料品開発の事例―.

(2) って、流通小売業は顧客ニーズを満たす商品販売が可. からである。このような事前確約型のマーケティング. 能となっていた。. 手法は、未来および潜在的なニーズ情報を収集・分析. しかし、メーカー・卸売業のマーケティングに基づ. する製造方小売業には不向きである。そこで、製造型. く商品仕入形態は、現実の市場ニーズを把握すること. 小売業が求めていたマーケティング手法は、メーカー. が難しくなってきた。なぜなら、現実の市場ニーズを. 型のマーケティングに加えて、マーケティングの失敗. 把握するためには、事前に市場ニーズを明確に把握す. を抑え正確にマーケット動向をつかむ手法が求められ. る必要があるからである。たとえば、社会の変化が早. た。. くなるにつれ、商品ライフサイクルが短縮化している. 正確に市場ニーズを把握するマーケティング手法. 点がある。流行のめまぐるしい変化は、商品の陳腐化. は、直接消費者と接する立場にある流通小売業の強み. を速める。このような市場ニーズの流動化は、流通小. を活用することになる。それは、人間の目で直接消費. 売業が個人の情報収集、クイック・レスポンス、ある. 者をウオッチングし、テストセールスを行い、さらに、. いは、個性化・多品種少量のような市場ニーズを十分. クイック・レスポンス(QR)生産方式の開発や海外. にとらえることが難しく、顧客ニーズの充足へ向けた. 情報のスピードキャッチに活用されている。人間の経. 流通小売企業の差別化も困難となる。. 験と勘は、マーケット動向と環境の良さを結びつけ、 流通小売業がトータル・マーケティングを実践してい. また、商品仕入形態による商品供給と人材支援は、 流通小売業の粗利益率を著しく低下させる要因でもあ. くことである。トータル・マーケティング活動は、例. った。たとえば、欧米流通小売業の粗利益率が40%か. えば美と健康への訴求や豊かな生活作りのように、消. ら60%であるのに対して、わが国のそれは20%から. 費者ニーズを反映した商品開発と売場作りに反映され. 30%と低迷している。粗利益率の低さは、流通小売業. る。このように、消費者とダイレクトな関係に位置す. が産業として成長する基礎体力を奪い、ひいては流通. る流通小売業は、店頭で顧客ニーズとともに消費者心. 小売業の強みであるはずの店頭におけるサービス提供. 理をも把握し小売経営に直接反映させることが可能と. やニーズ吸収をも難しくすることになった。. なる。. そこで、市場に最も近い位置にある流通小売業が主. それでは、製造機能を取り入れた流通小売業におけ. 体的に顧客ニーズを把握し、商品の製造段階へ参入し. るマーケティング手法は、どのような経緯で開発され. ていく必要がでてきた。いわゆる製造型小売業への転. てきたのであろうか。未来および潜在的なニーズ情報. 換である。製造型小売業は、顧客との安定的な関係の. については、人間による経験的なマーケティング手法. 上に、新しいモデルチェンジや新製品の対応をしてい. が現在多くの流通小売業で用いられている。そこで本. く(嶋口、1994)。このためには、仮説的ニーズ、す. 稿では、著者のひとり(中田)の約40年におよぶ流通. なわち、証明されていない暫定的なニーズを自社で設. 小売業での実務経験をもとに議論を展開する。. 定し充足していくマーケティング手法が必要となる (嶋口、2000)。. 2.先行研究のレビュー. 製造型小売業のマーケティング手法は、自社の市場 ニーズの把握が不可欠である。なぜなら、流通小売業. 本章では、流通小売業の商品仕入の中核的概念であ. が製造分野に進出するとより大きなリスクを負担しな. るマーチャンダイジングの先行研究をレビューする。. くてはならないからである。大きなリスク負担とは、. マーチャンダイジングの視点でレビューすることは、. 小売業がこれまで経験したことのなかった在庫リスク. 本稿の研究目的である製造型小売業の商品開発が従来. Ì. の負担、生産拠点の選択、そして、L/C決済 につい. のマーチャンダイジングでは不十分であり、経験的マ. て対応することである。このように、従来メーカーが. ーケティング手法が活用される経緯を明らかにできる. 負担していた製造段階のリスクを小売業が100%負担. からである。マーチャンダイジングは、大きく3つに. することは、小売業が販売する商品に責任を持つこと. 分けられる。それらは、 (1)メーカー志向型、(2)卸. になり、ひいてはひとつの産業としての自立を可能に. 志向型、(3)小売志向型である。 マーチャンダイジング(以下MD)とは、仕入計画、. する。 従って製造型小売業のマーケティング手法は、従来. 品揃計画、商品管理を含む商品に関する計画を策定す. メーカーが行っていた需要予測や売れ残りを無くす数. ることである(宮下、1996、p.95)。流通小売業の商. 値分析・在庫管理では市場ニーズに対応するには不十. 品化計画は、MDによって策定されている。MDの策. 分である。なぜなら、メーカー型のマーケティング手. 定は、戦後の流通小売業における商品仕入形態の変遷. 法は、事前に明確な需要予測を行うことができ、しか. とともに変化してきた。. も、確実に販売可能な小売業者の存在が前提であった. 研究ノート. 1960年当時の流通小売業は、メーカー・問屋の協力. 41.

(3) について、中田(2002)は以下のように分析した。. の上に成立していた。特に流通小売業のサービス業務 では、売場店員の人件費高騰が経営を圧迫していた中 で、川上から供給される商品と人材によって支えられ. 商品取引の基本は委託販売で、商品買い取りはほとんどな. てきた(林、1977)。人件費が高騰し十分なサービス. かった。さらに問屋派遣者と称するヘルパーが売場に立って. の提供が困難になっていた流通小売業では、川上との. 販売員を助けてくれた。極端に言えば、社員がいなくても売. 「契約」を結ぶことによって、円滑な店舗運営を行っ. ってくれた。(中略)とくに洋品雑貨関係の仕入れ担当者は、. ていた。契約には、建値制、リベート制、返品制、派. 各シーズンが始まる2、3ヶ月前から半年前に、問屋さんやメ. 遣店員制、委託販売制、小口多頻度納品がある(宮下、. ーカーさんが開催する展示会と称する約束会に招待され、先. 1996)。この川上との契約について、流通小売業とメ. 方の担当者と見て回った上で、売れそうなものを選んでいく. ーカーとでは異なる狙いがあった。. のである。来るべきシーズンに売れそうなものを問屋さんの. 流通小売業の狙いは、人件費の高騰を防ぎサービス. お勧めによって選ぶのだ。見本から選ぶ選択眼による商品の. 業務を円滑に進めることにあった。しかし、メーカー. 取り合わせである。しかしこのアソートメントの後、いよい. の狙いは、製造した商品が最終顧客に至るまでの流通. よ納品され、売りこなしていく段階、つまり、予約した量を. 経路を系列経路にすることにあった。この流通変革は、. 売りこなす力は、その商品を仕入れた問屋さんなりメーカー. メーカーが小売店を掌握し自社の系列の中に組織化す. さんが派遣してくる社員の腕に依存すること大であり、売れ. ることで、製品の販売政策を実現させた。このように. 残り責任を小売店が負うことは少なかった。このようなこと. 契約には、流通小売業務を支援する一方で、川上から. ができたのは、小売店と問屋との力関係であり、信用がある. の支援を構造的に確定化することになったのである. からいろいろ無理がきくと思っていた。(中略)この仕組み の最たるものが、都市百貨店の仕入れであった。商品リスク. (田村、1996) 。 流通小売業の契約による支援の取り付けは、メーカ. はほとんど取引先負担であったが、これら百貨店問屋は戦後. ーのみならず卸売業にも行われた。卸売業は、特定メ. 大きく成長した。万引きなどによる商品ロスですら問屋にし. ーカーと契約を結び代理店や特約店からの商品を受動. わ寄せされていた。だから、問屋なりメーカーなり、リスク. 的に受け入れてきた。卸売業者によるMDは、戦略的. をとるところに利益が集まり、本物の商品情報、ものづくり. にメーカー商品を取り揃えることが最も重要であっ. の技術などの蓄積もそこに集中していくのは当然の理であっ. た。なぜなら、卸売業の基本機能は集荷分散にあるか. た(pp.104-105) 。. らである。集荷分散機能を担う卸売業者のMD目標は、 一般的に商品回転率の大きいナショナル・ブランド商. 流通小売業がメーカー・問屋と交わしてきた契約. 品という有名メーカーの商品を取り揃えてきた。有力. は、流通取引慣行を根付かせ流通小売業の強みであっ. メーカーのナショナル・ブランド商品は、広告宣伝が. た売場での店員の提案力(小川、2001)や小売技術の. 活発に行われるので、消費者の認知が高く、消費者が. 蓄積(伊藤、1998)、さらに商品選択眼を喪失させる. 小売店頭で指名し、優先的に購入されるからである。. ことになった(松本、2002)。このような取引慣行に. 同時に卸売業の品揃えは、戦略的に商品回転率の他. おいて、流通小売業のMDは、川上から与えられた商. に粗利益率の大きい商品を取り揃えることも行ってき. 品と人材を受け入れることに終始し、コンセプトや方. た。粗利益率の大きい商品は、相対的に中小メーカー. 針の確立を蔑ろにしてきた。コンセプトや方針のない. 商品である。中小メーカーの商品は、卸売業にとって. MDは、多くの場合、流通小売業に売れない商品在庫. も得意先小売店にとってもライバル企業との商品差別. つまりデッドストックを多量に抱えさせ経営を圧迫さ. 化をするために重要となる。. せることになったのであった(宮下、1996、p.98) 。. このようにメーカー・問屋との契約によって行われ. 小売経営を圧迫した原因には、MDの弱体化がある。. てきた流通小売業との関係は、商品の大量仕入れを可. それは、流通取引慣行という川上からの支援の下、小. 能にしていた。商品の大量仕入は、流通小売業が店舗. 売業の商品化計画は川上のメーカー・問屋が販売して. の大規模化と多店舗化を行っていくために不可欠であ. 欲しい商品を受動的に受け入れてきた。その結果、商. った。しかし、1990年代まで大量仕入れが可能だった. 品化計画を策定するMD機能の担い手は、流通経路の. のは、購入した商品について流通小売業が売れ残りロ. 中で主導権を握る存在となる(原田、1997、p.263)。. スを心配することが少なかったからである。万一商品. それでは、デッドストックを抱え込まされた受身の小. が売れ残ったとしてもメーカーが引き取ってくれてい. 売経営は、どのようにしてMD機能を担うことになっ. た。いわゆる返品制度といわれる取引慣行のことであ. たのであろうか。それは、小売志向型のMDで説明さ. る(小川、2001) 。. れている。. 流通小売業における1990年代までの取引制度の実態. 小売業のMDには、本来的に業態目標の設定が必要. 42. 流通小売業の変化と経験的マーケティング手法の活用 ―丸岡商事㈱における婦人衣料品開発の事例―.

(4) くつかの問題点が指摘できる。. となる。業態目標の設定とは、どのような消費者のど. 第1に、POSシステムで市場動向を把握することは、. のような生活シーンを対象とし、どのような生活提案 を目標としたMD計画を策定するのかということであ. ただ単に店頭の作業・業務を合理化・効率化させただ. る。流通小売業が生活提案のMDを行うためには、消. けであり、アソートメントや生産・在庫の適正化とい. 費者ニーズの継続的把握がポイントとなる。継続的な. うことを実現させることは難しいことが挙げられる (原田、1997、p267) 。. 消費者ニーズの把握は、伝統的なマス・マーケティン グ手法が有効となる。しかし、自社がターゲットとし. 第2に、POSシステムの導入の条件は、企業規模や. て設定した消費者のニーズのように細分化したニーズ. 取扱品目数、取扱商品種類に限定され、情報の正確性. を把握する手法には、POSデータによる情報収集と分. を追及するためには情報量が多いことが挙げられる (藤澤、1991)。. 析が適している(宮下、1996、p.156)。. 第3に、多くの情報を収集できる大規模小売業では、. 小売店頭における消費者ニーズの収集・分析につい て、POSシステムの普及が小売業のMDを変化させる. POSシステムの利用によって営業利益、経営利益とも. きっかけとなった。1980年頃小売店頭へ導入された. 大幅増益を実現している(中野、1988、p.95)。しか. POSシステムは、商品別売り上げ動向を瞬時に把握し、. し、POSデータは、あくまでアソートメントの意思決. 売れ行きの良い売れ筋商品と売れ行きがほとんどない. 定を行う際のひとつの情報でしかなく、最終的な意思. 死に筋商品を識別できる。このような売れ筋商品と死. 決定は、多くの情報をもとにあくまで人間の意向を含. に筋商品の峻別は、流通小売業のアソートメントを決. めてなされるべきである(田島他、1997、pp.267-. 定し、仕入先のメーカーや卸売業者との交渉材料にな. 277)。. る。小売段階で収集されるデータが交渉材料になるの. 第4に、POSデータはあくまでも過去のデータであ. は、アソートメントに関する意思決定の仕方が大きく. り将来の市場予測には不向きであることが挙げられ. 変わることを意味する。意思決定の変化は、仕入先の. る。ひとつは、消費者の嗜好のような流行が変化した. 卸売業者の役割、メーカーの商品開発のあり方にまで. 時や新製品を開発する時、そして、価格や販売方法を. 大きな影響を及ぼした。つまり、流通取引制度を構成. 変更する時のように、過去において類似した状況や商. しているメーカー・卸売業者・小売業者の間での力関. 品についてはPOSデータからある程度の類推はできる. 係においてリーダーシップを握る主体を変えていく. かも知れないが、完全な予測はできない。ふたつは、 店舗から収集されたデータをすべて検討することはで. (原田、1997、p.263) 。. きない。データの検討は、データを縮約する必要が生. POSシステムの有効性について中田(2002)は、実. じてくるが、そのまとめ方や縮約の方法によって、結. 務経験を通して以下のように分析した。. 果と解釈が変わってしまうかもしれないという危惧が 流通小売業が合理化を行う以前の一般レジでは、たとえば. ある(田島他、1997、p.277)。. 商品分類表示を「ヨ、キ、ミ、セ、サ、カ、エ、ル」という. このように先行研究の分析から流通小売業の商品化. ように、8分類から多くて12分類が限界であった。しかし、. 計画を策定するMDには、流通小売業が自社の業務を. POSレジは「絶対単品」を読み取ることができ、それがまた. 円滑に進めていくためにメーカー・問屋に契約を結び. 自動発注制度を支える力ともなっていたのである。POSレジ. 商品・人材を全面的に依存していたことが明らかとな. は、会計を行う瞬間ごとに、ポイントカードを使うお客様に. った。このような川上からの支援は、大規模小売店舗. ついて、どのお客様が何を購買したか、個々の商品を正確に. の展開を行っていた流通小売業にとって不可欠の要因. 購買情報の中へ入力していく。売れたものがはっきり分かる. であった。しかし、流通小売業は支援を求めるあまり、. ということは、リピート発注、追加注文を支え、在庫管理に. メーカー・問屋と契約を結ぶことになった。. も役立つことになった(pp.129-130) 。. メーカー・問屋と交わした契約は、特定メーカーや 代理店からの商品を小売店頭に供給する流通取引慣行 を構築し、主体的に商品選択を行う必要が無い商品取. 流通小売業におけるPOSシステムの浸透は、リアル タイムで大量の市場情報を低コストで収集・分析でき. 引形態を根付かせることになった。このようなMDの. るメリットがあった(原田、1997、p.275)。その結果、. 形骸化は、小売店側のデッドストックを発生させるこ. 流通小売業にとってより市場動向を反映した販売活動. とになった。そこで、デッドストックを防ぐために、. が可能となり、在庫管理における過剰・過少という個. 流通小売業では1980年ごろからPOSシステムによる情. 別企業にとっての損失だけではなく、社会的にもロス. 報収集・分析を行うようになった。小売起点の情報は、. である事態の発生を最小限に抑えられるようになっ. メーカー・問屋との交渉材料になり流通経路の主導権. た。しかし、POSシステムの活用には以下のようにい. を小売業が持つことに役立った。しかし、POSデータ. 研究ノート. 43.

(5) の活用は、店頭の業務を効率化しているにすぎないこ. ミに情報に大きく左右される。この情報の中で婦人衣. と、多くの情報が収集可能な大規模小売業しか活用で. 料専門店が注目しているのはパリコレクションとミラ. きないこと、さらに過去のデータであり未来予測に不. ノコレクションである。特に1990年代までパリコレク. 向きであるというデメリットが指摘されている。. ションの影響は、1シーズン遅れて日本に伝わってい. たしかに、現実の流通小売業の経営において商品仕. た。しかし、現在ではその影響はほぼ同時に日本に及. 入を支えているのは、POSデータの活用がある。しか. ぶようになっているÏ。つまり、製造型小売業の商品. し、現実の小売業の商品開発や商品仕入れでは、未来. 開発の現場ではスピードを追求する商品開発が無視で. および潜在的なニーズ情報の分析・活用が行われてい. きなくなってきた。スピードを追求するマーケティン. る。特に、製造型小売業では、人間による経験的マー. グの目標は、いかにデットストックを防ぎ流行に合致. ケティングを活用する事例が見られるようになってき. する商品を作るかということにある。. た。このような実践事例があるにもかかわらず、小売. 中田(2002)は、婦人衣料専門店経営の経験から商. 業が生の情報を持つ意味や製造機能を取り入れた流通. 品開発時における注意点を以下のように分析した。. 小売業のマーケティング手法がどのような経緯で開発 され活用されているのかについては、分析・評価され. オリジナル商品を開発する上で、「粗利を取ること」にこ. ることが少なかった。そこで、次節では個性化・差別. だわりすぎると失敗する。商品開発の目的は、あくまでも. 化を追求する丸岡商事㈱のマーケティング手法の事例. 「自分で作ったほうがより素敵なものができる」ということ であり、「お客様の求めるものを作る」「この世の中に無いか. を分析していく。. ら作る」ということが大切である。粗利拡大を狙って人真似 をしたり、安全を求めてベーシックなもののみに走ったりす. 3.事例研究:丸岡商事㈱. ると、成功の確率は少ない(pp.109-110)。. 丸岡商事㈱は、1958年に設立された婦人衣料専門店 である。同社は、岡田屋グループの中で婦人服の製造. 商品コンセプトの開発と自社販売を目的としたマー. 販売および専門店の店舗展開を担っている企業である。. ケティングは、市場調査のデータではなく顧客ニーズ. 2003年現在の店舗数は横浜、川崎、東京都内を中心に. の汲み取り方がポイントとなる。ニーズの汲み取りは. 30店あり、 「Pattern」 「Épice」というストアブランドで. 商品開発担当者を現場へ向かせることになった。丸岡. Í. プライベートブランド商品を製造販売している 。こ. 商事㈱の岡田衛社長は、3ヶ月から4ヶ月先に流行する. のケースの目的は、どのように婦人服専門店の商品開. 商品のアイディアを得るために、横浜元町店の店頭や. 発担当者が「経験」と「勘」による商品開発を行って. ラッシュアワーのJR川崎駅で2時間ほど乗降客や街行. いるのかについて考察することにある。. く人のファッションを観察している。観察しているの は、自分の店の客層である20歳代のOLの服装である。. 以下の事例は、2003年4月25日に5時間行った丸岡商 事㈱社長岡田衛氏へのインタビュー調査および元岡田. 岡田氏のモットーは「見ることは信ずることÐ」であ. 屋グループ代表取締役会長中田安彦氏への検証インタ. る。商品開発者が自分の目で顧客層の姿を観察し続け. ビュー調査をもとに、当該企業の店舗調査と既存資料. ることは、開発した商品をどれぐらい品揃えすればよ. の分析を加えて論じている。. いのか自信を持って決定することにつながる。. 1980年頃までの丸岡商事㈱の商品取引は、委託販売. 顧客層の観察は3つの視点から行われる。第1に週1. 制度と派遣店員制度Îに依存していた。この問屋・メ. 回ぐらいの頻度でマークすべき他店の店頭に並んでい. ーカーに依存した商品取引は、売れると思って仕入れ. る商品と店頭で販売されている商品が調査される。第. た商品が売れ残るという事態が発生するようになっ. 2に場所では、ファッションの先端地区である渋谷・. た。このような事態を克服するために、製造型小売業. 池袋・新宿、そして最近では代官山・西恵比寿・中目. へ移行することになった。製造型小売業への移行は、. 黒という地域の選定が行われる。地域の選定基準は、. 商品の仕入・販売について専門店が100%のリスクを. 自店のある場所と将来出店を予定している場所であ. 負うデメリットがあった。しかし、メリットには、自. る。マークすべき店は、単に店を見るのではなく、そ. 社商品開発のノウハウの蓄積が可能になること、マー. の店がある街全体を見る必要がある。つまり、どんな. チャンダイザーが育成できること、そして、利益率を. 雰囲気の場でどんな商品を販売しているのかという街. 高められることがあった(松本、2002)。このような. と店舗のマッチングも考慮しなくてはならない。そし. 婦人衣料専門店のメリット発揮は、消費者を熟知した. て、第3に女性バイヤーの活用がある。女性バイヤー. マーケティング手法が不可欠であった。. は、顧客と同性・同世代の人物を登用している。商品 開発担当者だけではなく、バイヤーも連れて行って同. 近年の婦人衣料商品は、テレビや雑誌などのマスコ. 44. 流通小売業の変化と経験的マーケティング手法の活用 ―丸岡商事㈱における婦人衣料品開発の事例―.

(6) じものを見ることが重要となる。丸岡商事㈱では、最. あるかどうか見抜けなかったときがある。例えば、マ. 近MDで感性の優れた女性2名をバイヤーに加えた。. ークすべき店舗へ観察に行ってたまたま目の前で目を. 若い彼女達の視点は顧客と同じアイディアが出るので. つけていた商品が売れていく現場を見てしまったとき. 商品開発の参考になる。このように商品開発担当者は、. がある。また売り場の応援に行き、店舗内を巡回して. 街・店舗・顧客の様子を肌で感じる観察によって、売. いたときお客様が次々とある商品を買っていくときが. れ始めや流行になりそうな気配を現場の中から見出さ. ある。このように実際に商品が売れていく現場を見て. なくてはならない。. しまうとその印象が強烈になり冷静な判断を失うとき がある。従って、商品開発担当者は「売れる」という. 商品開発担当者とバイヤーはその場で次のトレンデ. 思い込みを極力排除することが重要である。. ィー商品について議論する。議論だけではなく、メー カーへの「指示書」を作成してしまうこともある。指. 第2に、見極めには、商品がライフサイクルのどの. 示書には、フリルをつけたりボタンを加えたりという. 時点にあるのか判断することが挙げられる。たとえば、. ように、現実の流行に工夫を加えた内容に修正する。. 成長期に差し掛かり売れることが期待できるのか、そ. 指示書に記されたものは新柄としてスピードをもって. れとも衰退期に差し掛かり陳腐化する段階にきている. 作る。試作品としてワンアクション置くときもあるが. のかということである。同じ売れているという現象で. 自信があるものは直接生産する。特にスピード生産可. も、商品開発担当者は、必ず商品ライフサイクルの増. 能な韓国で生産し販売に間に合わせることが多くなっ. 減をイメージして現場で判断を下していくことが重要. てきた。韓国でスピード生産すると、従来よりもさら. となる。 第3にこの見極めは、自社だけではなく同業他社の. に早く流行に対応するトレンディー商品の販売が可能. 動きについても行う必要がある。たとえば、同業他社. になる。 トレンディー商品の競争の焦点は、「流行るもの」. が一斉に売れている商品に気がつき、製造を急いで大. と「流行っているもの」を見極めるスピードにある。. 量に市場に投入してしまうことがある。このとき市場. 自社商品が対象とする顧客層が集まる街に店を作っ. は商品供給過多になる。しかも、値崩れまで引き起こ. て、流行する商品と流行しそうな商品をすばやく製. すこともある。つまり、同業他社が行っている見極め. 造・販売すること。この商品開発から販売までのスピ. に注意を払うことは、他社の勘や多くの取引先を持つ. ードが商品開発者の体験に裏打ちされる。また、選り. メーカー・問屋情報の収集によって、より正確に自社. すぐられた店から見て学ぶことが売上増大につなが. の決定を行うことにつながる。 第4に見極めは、前シーズンの終わり方にも及ぶ。. る。つまり、「早く作ることの努力は確実に利益に結 びつくÑ」ということは、実体験に裏打ちされたマー. 例えば、商品が不足している状態で前シーズンが終わ. ケターの経験が為せる業なのである。. るときは、次のシーズンも似たような商品からスター. たしかに丸岡商事㈱のファッションアイテム開発は、. トする。また、商品が充足している状態でシーズンが. 市場分析による統計データを参考にしている。しかし、. 終わるときは、次のシーズンは前の流行が参考になら. 実際には統計データよりも商品開発担当者の経験や勘. ないことが多い。例えば現在の不況期では、黒と白の. が次の商品や次の季節新製品を決定していることが多. 色柄物を多く作ることがファッションアイテム企画の. い。だからこそ商品開発担当者にとって店頭調査は重. 常識となっている。しかし、2003年では、ピンク色の. 要となる。街の様子・店の様子・顧客の様子を見るこ. 売れ行きが良くなっている。流通小売業で商品をあて. とではじめて肌で感じる部分がでてくる。このように. るということは、他の色より10倍・20倍売れることを. 徹底的に感性に磨きをかけていくことこそデットスト. 指す。そこで流行色が突然変わるときは、自社でピン. ックが発生しないファッションアイテムを生む。. ク色の製品を販売していないことが問題となる。消費. 岡田衛社長は、「確かにこの10年間、自分の経営す. 者は色に敏感である。万一流行色を取り扱っていない. る婦人衣料専門店をSPA(製造型小売業)にすればす. ならば、消費者から不勉強な店だと烙印を押されてし. るほど粗利益率を高めることができた。しかし、利益. まう。. の拡大は小売店が製品の製造まで責任を持つことにも. 第5にファッションアイテムを当てるのは、時とし. なった。また、自分で製造した製品はすべて買い取り. て市場の動向とは逆の読みを行うときがある。流行の. になる。従って過去失敗したこともあった。失敗の原. 逆を読んでヒットする場合は、商品の「型」を変えて. Ò. 販売するときがある。たとえば、2001年には白色の襟. 因はマーケティングだった 」と論じている。 マーケティングの失敗とは、商品の見極めを誤るこ. 付きセーターがあった。襟付きのセーターは、白いシ. とである。見極めの誤りには5つのパターンがある。. ャツを着てその上にセーターを着たように見える。セ. 第1に、商品開発担当者が見た商品がたまたま本物で. ーターの内側に襟だけつけたものが大ヒットした。. 研究ノート. 45.

(7) 2001年は、重ね着スタイルが流行していた。さらに、. 還元される(図1)。これらのデータをいち早くとり分. 女性ができるだけ薄着を好む傾向があり、インナーの. 析して次の流行を読む。ここで注意すべき点は、市場. 上に一枚はおれる襟付きセーターが一番のヒット商品. の形成と商品投入のタイミングである。販売価格と色. となった。つまり、商品開発担当者は、逆も真なりと. 幅が密集してくる成熟市場は、顧客ニーズが充足され. いう発想をも理解する必要がある。. 製品化に向いていない。しかし、ある程度ドットが集. このような見極めに関する留意事項を理解した後. まりはじめ新規市場形成の兆候が見られたときは、ま. に、経験と勘によるファッションアイテムの商品開発. だニーズが充足される前であり製品化に向いている。. は、販売価格と色幅、そして、商品ドットの3次元に. 図1:アパレル商品の市場モデル例 出典:丸岡商事㈱社長岡田衛氏へのインタビューをもとに作成 流行を読む作業は、人間の経験と勘によるところが. だが、テストセールスによる自信と確信だけではま. 大きい。大手アパレルメーカーでは、システム構築し. だ多様化した顧客ニーズに十分応える物作りはならな. て先を読む作業を行っている。しかし、同じSPAとは. い。丸岡商事㈱の商品化計画では、「小売環境」へ配. いえ、丸岡商事㈱のような婦人衣料専門店では、情報. 慮するマーケティングも行われている。小売環境とは、. システムから得られない情報に着目してきた。その情. 清潔・新鮮な売場づくり・店員の言葉遣い・商品の置. 報とは、消費者が商品購買に付随して求めている売場. かれている環境のように、消費者が良品に加えて商品. 環境の良さである。中堅メーカーが少ない情報量のな. の販売方法を購入することであるÓ。このようなサー. かで次の流行を読み込むことは、情報の過不足によっ. ビスの購入は、「消費者がその商品が育ち置かれてい. て失敗を招くことがある。しかし、それは次の成功を. る環境、扱われる環境にも十分お金を払うようになっ. もたらす力になる。このような失敗成功の繰り返しが. てきた Ô」ことを表している。たとえば、「上場流通. 「経験」となり、流行の読み込み作業を洗練させ成功. 企業の環境報告書を見ても、安心・安全・健康のよう. の確度を高めていくことができる。. に、環境関連要素が食品を中心にプライベートブラン. 販売価格と色幅に還元したデータで商品投入市場を. ド作りにも大きく反映されている。これは衣料・ホー. 見つけた後に、テストセールスを行う。テストセール. ム関連商品でも同じことです Õ」。つまり、商品開発. スの目的は売れ筋商品をつかむことにある。テストセ. 担当者の経験と勘は、生の消費者の姿を吸収すること. ールスは、30店舗ある店の中でも基幹店数店を選び1. であり、それは、現代の高齢化社会、複雑化社会の中. 週間以内の期間で行われる。この1週間という期間は、. で生きる生活者が求める安心・安全そして健康志向を. 次シーズンの流行に敏感なオピニオンリーダが知覚す. 含むことである。. る限界時間である。1週間以内に反応を見極めるため. このように丸岡商事㈱が実践している人間的マーケ. に、テストセールスに投入される商品は基幹店舗で最. ティング手法のポイントは、商品開発担当者の経験と. もよく人目に触れる場所が割り当てられる。また、売. 感性で顧客の姿から断片的な情報をキャッチし、顧客. れ筋をつかむために敢えて12色程度の色幅の商品を用. 満足を得る商品開発にある。たしかに流通取引制度に. 意する。これは捨て色を利用することで確実に流行色. 依存した商品化計画では小売業のリスクは少ない。し. をつかむ狙いがある。テストセールスは、時間的制約. かし、商品の個性化・差別化を追求する製造型小売業. と色の広さによって行われる。この頃には、経験と勘. では、商品開発担当者の「経験」と「勘」から商品開. 頼りの商品開発も自信と確信へと変わっている。. 発へつながる情報の意味を引き出すことが不可欠とな. 46. 流通小売業の変化と経験的マーケティング手法の活用 ―丸岡商事㈱における婦人衣料品開発の事例―.

(8) めである。それらは、流行の気配、生産のタイミング、. っているのである。. そして、「流行るもの」と「流行っているもの」とを 見定めるスピードである。このような流行を峻別して. 4.まとめと今後の課題. いくスピードを実現するには、消費者の行動に迫り断 本稿は、商品の個性化・差別化を追求する製造型小. 片的な情報の中から「意味」を徹底的に引き出してい. 売業の商品開発において、どのように経験的マーケテ. く必要がある(Sherry, 2001)。つまり、消費者が欲し. ィング手法が寄与しているかについて考察した。その. ている流行を探り当てるには、商品開発担当者が自社. 理由は、先行研究で指摘したようにこれまでの流通小. の顧客層についてどれだけ熟知し解釈していけるかが. 売業の経営は、メーカー・問屋からもたらされる商品. 重要となる(Minami, 2001)。 そしてもうひとつは、誤った判断を防ぐ見極めであ. と人材によって支援されており、事実上MD機能が形. る。時として冷静な判断ができなくなるのは、たまた. 骸化していたからである。. ま商品が売れていくシーンを見て確信を抱いてしまう. 流通小売業におけるMD機能の形骸化は、小売店頭 のデッドストックを発生させることになり、小売経営. 時、製品ライフサイクル上の位置を見誤ってしまう時、. を圧迫する要因であった。このような経営の圧迫を改. 同業他社の商品投入のタイミングを見誤ってしまう. 善していくために、流通小売業はPOSシステムによる. 時、前シーズンの終わり方を見誤ってしまう時、そし. 小売起点のデータ収集・分析を行い、MDの主導権を. て、市場の動向と逆の動きを取る時である。このよう. 取り戻してきた。しかし、POSシステムのように小売. に、誤った判断を防ぐ見極めは、提供する商品やサー. 起点の情報を活用するにはいくつかの問題点があっ. ビスを決定するために、商品開発担当者と消費者の間. た。その問題点とは、大規模小売業のように多くの情. でニーズやウォンツを形成していくことが欠かせな. 報収集が条件となり中小小売業には不向きであるこ. い。つまり、消費者を観察し続けている商品開発担当. と、情報収集しても単に業務の効率化にしかならない. 者の経験と勘によって、どのような商品やサービスを. こと、そして、そもそもPOSシステムで集められたデ. 消費者へ提供するかという見極めが大切になる (Sherry, 2001) 。. ータは過去の情報であり先々の流行を読むには困難で. 中田は、婦人衣料専門店経営の経験を踏まえて人間. あることが指摘できる。 先行研究からは、MD機能の担い手を変える方法に. 的マーケティング手法について周佐喜和助教授Öに説. ついて検討することができた。しかし、本稿が問題に. 明した際に、その手法が「科学に加えてアート的なセ. している製造型小売業が自社商品開発を行うマーケテ. ンスが必要だ」と整理していたことを回顧している。. ィングについて言及するには不十分である。. 中田は、 「周佐助教授の理解は、科学的な裏付けのある. このような先行研究で指摘された問題点を明らかに. 実務のマーケティング手法に、創造的なアートと芸術. するために、本稿では、丸岡商事㈱を事例に取り上げ、. 的なセンスを用いることの重要性について、実務家で. 当該企業の婦人衣料商品開発における人間的マーケテ. も十分説得できる内容である」と位置付けているÔÍ。す. ィング手法に着目した。本事例から導き出されるポイ. なわち、現実の婦人衣料品商品開発において、科学的. ントは、商品開発のスピードを追求するために商品開. な市場調査データに加えて、データを解釈し活用する. 発担当者の経験と勘によって流行を見極める作業が不. 人間の経験と勘が意味を持つことは、実務家の理解を. 可欠ということである。. 深めている。. 人間の経験と勘に頼るマーケティングは、製造型小. このように製造型小売業の商品開発において、人間. 売業における自社商品開発のように、マーケティン. の経験と勘による流行の見極めがデッドストックを防. グ・リサーチのデータが消費者のニーズとウォンツを. ぎ、結果として小売業のMDに役立つことが分かった。. 満たしているかどうか判断がつかない場合に有効とな. なぜなら、不要な在庫を抱えないで済むのは、顧客の. る(Wallendorf他、2001)。特に、アパレル商品のよ. 経験と勘を支持する商品開発と販売を小売店が行って. うにスピードを追求する商品開発では、主観的・感覚. いるからである。また、多品種少量・差別化・個性化. 的な手法によって属性データから浮かび上がることの. という顧客ニーズの多様化に小売店が応えていけるの. ない消費者の行動に迫っていく必要がある(Belk,. は、POSシステムのような情報システムから得られな. 2001)。そして、属性データから得られない消費者の. い情報について人間が意味を引き出し判断を加えてい. ニーズやウォンツ探索するためには、過去ではなく現. く側面が大きいからである(加護野、1999)。. 在に焦点を合わせる必要がある(Wallendorf他、2001)。. しかし、人間が引き出した情報について判断を加え. 現在に焦点を合わせて商品開発するには、2つの見極. ることは、何も商品開発に限らない。丸岡商事㈱の事. めが重要となる。ひとつはデッドストックを防ぐ見極. 例で指摘したように、それは、小売業者が高齢化社会. 研究ノート. 47.

(9) や複雑化社会において消費者が求めている安心・安. June pp.64-73.. 全・健康へのニーズを吸収していくことでもある. Chun, C.Y. and TAMURA A. (1997)“ Thermal. (Kotler他, 1989)。「ニーズを吸収するためには、消費. Environment and Human Response in Underground. 者が求めているものを直接理解できる立場にある製造. Shopping Malls vs Department Stores in Japan”. 型小売業が生の消費者の声や現物の姿を効率的にウオ. Building and Environment Vol.33, No.2-3. pp.151-158.. ッチすることが重要となる。そして、消費者の生の声. Fuat, A.F. (2001)“Defining Postmodern Consumer. と現物の姿を実感することが、部下への説明と取引相. Behavior: A Macroscopic View”Harvard Business. 手との交渉において有効となり、今日の製造型小売業. Review June pp.115-117.. ÔÎ. において多くのサクセスストーリーを生み出している 。. 藤澤史郎(1991) 「卸売商業の情報ネットワーク」『名. つまり、引き出した情報の中から消費者が求めている. 城商学』41巻3号pp. 69-91.. 環境ニーズを引き出し、その情報を小売経営に反映さ. 伊藤元重(1998) 『百貨店の未来』日本経済新聞社. せていくことは、経験と勘に磨きをかけた人間の役割. 林周二(1977)『流通革命:増訂版』中央公論社. となるのだ。. 加護野忠男(1999)『競争優位のシステム:事業戦略. グ手法は、企業が直面する環境と利害関係者への反応. の静かな革命』PHP研究所 Kotler, P. (1974)“Atmospherics as a Marketing Tool”. を同時に満たしていくことである(Banarjee, 2001)。. Journal of Retailing Vol.49. No.4. Winter pp.48-64.. 実際に、消費者の購買は、消費者動向を反映した商品. Kotler, P. and Eduard L. Robert (1989) Social Marketing. 開発と消費者の嗜好を理解した売場環境の整備のよう. The Free Press. に、良品に加えて商品の販売方法にまで及んでいる。. Kuwahara, T. (2001)“A Guide for Postmodern. 商品の販売方法には、小売店舗における清潔な売場づ. Marketing”Harvard Business Review June pp.118-122.. くりや売場にあわせた什器の設定、店員の言葉遣い、. 松本力也(2002)「アパレル専門店のMDと流通取引. 商品配置の方法、そして、店舗内の空調管理を含む (Kotler, 1974; Chun他、1997)。このような売場づく. 慣行」『技術マネジメント研究』 第1号pp.17-25. Minami, C. (2001)“Literacy-leader: Activates a. りは、サービス機能を含めた店舗環境と売場環境を開. Community”Harvard Business Review June pp.128-. 発することである(鈴木、1992)。要するに小売環境. 131.. の創造とは、小売業におけるハードとソフトの融合に. 宮下正房(1996) 『現代の流通戦略』中央経済社. よって顧客の快適性を創造し、小売業が主体的に環境. 中田安彦(2002)『商いは飽きない:実践的流通小売. 満足を追求していくことなのである。この環境満足の. 経営論』プレジデント社. 追及は、人間の経験と勘を活用した商品開発と売場環. 中野安(1988)「流通情報ネットワークと企業間関係」. 社会ニーズを吸収する製造型小売業のマーケティン. 『情報化時代の産業体制』東京大学出版会. 境の創出であり、結果的に小売業の継続的な成長を可. 小川進(2001)「フルセット型流通革新モデル」『一橋. 能にするのである。 も十分に議論の余地があると考える。著者らは、現在. ビジネスレビュー』49巻2号pp.45-57. Sherry, J.F.,Jr (2001)“Postmodern Marketing: A Primer. も流通小売業の経営について研究を続けており、この. for Managers”Harvard Business Review June pp.98-. 点については今後の研究課題としたい。. 105.. 商品販売に不可欠な小売環境の創造については今後. 嶋口充輝(1994) 『顧客満足型マーケティングの構図』 謝辞. 有斐閣 嶋口充輝(2000)『マーケティング・パラダイム』有. 本稿を執筆するにあたり貴重なコメントを頂戴しま した丸岡商事㈱社長岡田衛氏へ感謝申し上げます。ま. 斐閣. た、貴重なアドバイスをいただきました指導教官の周. 鈴木妙子(1992)「環境とMDの最新ノウハウを駆使. 佐喜和先生ならびに鈴木邦雄先生に感謝申し上げます。. し『コミュニティ百貨店』創造した三越松山店」『ス トアーズレポート』Vol. 278. pp.106-112.. 参考文献 Banarjee, A. B. (2001)“Corporate environmentalism:. 田島義博・原田英生編著(1997)『流通入門』日本経 済新聞社. The construct and its measurement”Jour nal of. 田村正紀(1996) 『マーケティング力』千倉書房 Wallendorf,M. and Evgenia Apostolova-Blossom (2001). Business Research Vol.55. pp.177-191. Belk, R.W. (2001)“Postmodern Marketing Research:. “Postmodern Expressions of Relationships between. Implications for Business”Harvard Business Review. Consumers and Culture: Thoughts on the Production. 48. 流通小売業の変化と経験的マーケティング手法の活用 ―丸岡商事㈱における婦人衣料品開発の事例―.

(10) of Art Through Marketing Research”Harvard Business Review June pp.138-140. 注釈 Ë第一銀行、㈱岡田屋常務、㈱サンコー(現㈱マルエ ツ)代表取締役社長、㈱ダイエーローソン(現㈱ロ ーソン)社長、㈱ダイエー取締役東京企画室長、岡 田屋グループ(基幹企業㈱岡田屋・㈱横浜岡田屋・ 丸岡商事㈱)3社の代表取締役会長を経て中田研究 室代表に就任。 Ì信用状(Letter of CreditまたはL/C)決済とは、一定 の条件が満たされた場合には、小売業の代わりに信 用状を開設する銀行がメーカーに対して支払いを保 証する決済方法のこと。 Í“http://www.pattern.co.jp/を参照”(2003年7月1日 現在)。 Î委託販売制度とは、小売店が問屋・メーカーが品揃 えする商品について在庫リスクを負うことなく店頭 販売することである。また、派遣店員制度とは、委 託販売を受けた商品について問屋・メーカーが人材 を小売店頭へ派遣し小売店の販売活動を支援するこ とである(松本、2002、p.17)。 Ï岡田衛氏インタビューにより確認。 Ð岡田衛氏インタビューにより確認。 Ñ岡田衛氏インタビューにより確認。 Ò岡田衛氏インタビューにより確認。 Ó横浜国立大学大学院環境情報学府ワークショップ講 演における中田安彦氏のコメント(2002年7月10 日) 。 Ô岡田衛氏インタビューによる。 Õ横浜国立大学大学院環境情報学府ワークショップ講 演における中田安彦氏のコメント(2002年7月10 日) 。 Ö横浜国立大学大学院環境情報研究院 ÔÍ中田研究室会議における中田安彦氏のコメント (2002年5月22日)。 ÔÎ横浜国立大学大学院環境情報学府ワークショップ 講演における中田安彦氏のコメント(2002年7月10 日) 。. 研究ノート. 49.

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参照

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