中級日本語学習者の意見文における論理的表現
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(2) るために、言語形式面では接続詞とともに複文(接続節を持つ文)も必要であ. る。複文の研究において因果関係を表すものには、 「論理文」と呼ばれる. ものがあり、表1のような体系が論じられている。. 表1「論理文」の体系(前田1991庵2001をもとに作成) 順接的. 逆接的. 仮定的. 条件(と、ば、たら、なら等). 譲歩(ても等). 事実的. 原因・理由(から・ので等). 逆接(のに等). これらの接続節は、井上(1989)の挙げた内容を述べる上で重要な役割を果. たすと考えられるため、本稿ではこれらを中心に分析したい。 次に、接続詞については市川(1978)に従い、以下のように分類する。. ①順接(だから・それで・したがって・そこで・そのため・それなら・こ うして等). ②逆接(しかし・けれども・でも・それでも・それなのに・だからといっ て・ところが等) ③添加(それで・そして・それから・そのうえ・それに・さらに・しかも・ また等). ④対比(一方・それに対して・あるいは・または・もしくは・むしろ・ま して等). ⑤同列(つまり・ようするに・結局・いってみれば・たとえば・現に・事 実等) ⑥転換(ところで・さて・それでは・では等). ⑦補足(なぜなら・というのは・だって・ただし・ただ等). 本稿では上述の、複文における接続節と接続詞を、論理展開を担うもの と考え、分析の観点とする。. 一132一.
(3) 3.分析データ 本稿では国立国語研究所作成「日本語学習者による日本語作文とその母 語訳との対訳データベースver.2正式公開版」に収録されている中国語母語 話者(CN)、 JPによる日本語作文「たばこについてのあなたの意見」(喫煙規 制に賛成か反対か)を資料とした。作文数はCN33編(2)、 JP44編(3)である(4)。作. 文の長さは800宇程度という指示のもとに書かれている。. 4.結果と考察 4−1.作文全体の量的な分析 まず作文全体の量的な概要を把握するため、JP・CNの作文の長さ等の平 均を比較した。長さは文字数ではなく文節数で表したが、これは書き手に よって漢字表記・仮名表記の違いがあるため、これを単位とした。. 表21作文の長さ、1文の長さ、1文中の接続節の各平均 1文中の節数 1作文の長さ(総文節数). 文の数. 1文の長さ(文節数) i接続節+主節). JP. 183.02. 16.27. CN. 165.57**. 18.18. 11.68. 9.48**. 3.38. 2.57*. *p〈.05, **p〈.01. 1作文の長さ(総文節数)はCNがJPの平均より短く、t検定を行ったとこ ろ有意差があった。次に、各作文の総文節数をその文の数で割り、母語話 者別に出した平均を1文の長さ(文節数)としたが、CNはJPより短く有意差が. あった。さらに1文の複雑さを比較するために1文中の節数(接続節+主 節)の平均を算出したところ、CNはJPより有意に少なかった。これは田代 (1995)の結果と一致する。木下(1981)等では、1文の長さが長く、接続節が. 多いと文構造が複雑化して不適切な文が作られやすく、表現意図が伝わり にくくなる危険性が高まるとされている。しかし、この研究からは、CNは. 一133一.
(4) 文も短く、JPほど複雑ではない文で文章を書いているという特徴が明らか になった。. 4−2.論理関係を表す副詞節・並列節の分析 次に論理関係を表す副詞凹く 「原因・理由」 「条件」 「譲歩」 「逆接」. の1作文あたりの使用数(5)平均を表3に表し、平均の差についてt検定を行っ た。なお、4−2、4−3の数値はそれぞれ誤用と思われる例も含め、使用された. ものを全て計上した。これは、誤用とすべきかどうかの判断が難しい例が あるためである。. 表3論理的関係を表す副詞節の平均 原因・理由[原因・理由+「からである」 「のである」]. 条件. 譲歩. 逆接. JP. 1.77[2.36]. 3.09. 1.05. 0.41. CN. 1.58[1.61*]. 2.62. 0..50*. 0.07*. *P〈.05. 4−2−1.原因・理由を表す副詞節の分析 1作文中の原因・理由の使用平均は、CNとJPとの問に有意差はなかった。 これは「から」 「ので」 「ために」等の初級学習項目が「原因・理由」の. 表現として定着しているためと考えられる。しかし実際にはJPは原因・理 由の節だけでなく、(1)のように「一からである」 「一のである」等の文末. 表現を使用して、主張の理由を述べることも多かった。 (1)私は喫煙に反対派です。なぜなら喫煙の及ぼす影響は多大なもので あるからです。[JP]. そこで、原因・理由の節に「一からである」 「一のである」の使用数を 加えて平均したものを表3の原因・理由の欄の[]内に示した。その結果、 CNは文末表現使用が少なかったため、 JPより少なく有意差がみられた。こ. のほか、JPでは②のように「理由」等の名詞を使用して自分の意見の理由. 一134一.
(5) を述べた文を含む作文数が全体の34.1%あった。一方、CNで「理由」とい う語を使用した作文数は、全体の13.3%と少なかった。. ②私は規制に賛成である。私自身、以前喘息を患らっていたために、. 他人の副血煙を吸い込むと非常に体調が悪くなるというのが主な理 由である。[JP]. このようにCNは因果関係を表すのにJPと同程度、原因・理由の節を使うが、. JPはそれ以外にも文末表現「一からである」等や「理由」といった多様な 表現が用いられ、結果的にはCNより多い。これはCNの作文に、(3)のような 自分の意見から中立的な導入等の部分があり、その分、意見の主張、理由、 反駁部分が少ないことが一因と考えられる。. (3)タバコの問題は日本だけではない。世界の各国ではたばこのことが 問題になっている。各国にはたばこのことに対して、規則を作った。 (6)[CN]. CNでは(3)のような導入が3文以上ある作文数が全体の54.5%あるが、 JPは. 4.5%である。CNの導入部分は課題の文を長く引用した作文もいくつか見ら. れた。こうした部分より主張の理由・反駁部分の割合を増やす方がより説 得力を増すと思われる。. 4−2−2.条件を表す副詞節の分析 次に表3の条件節の使用平均をみると、CNの使用はJPより少ないものの、. 有意差はなかった。しかし、条件節の「と・ば・たら・なら」を中心とす るそれぞれの形式には、多様な用法がある。そこで文の前件と後件の内容 から用法を判断し、条件節をさらに分類することにした。. まず、条件節を慣用表現・前置き表現・条件文に分けた。慣用表現とは 蓮沼他(2001)の言う「一ばいい」「一たらどうか」等である。前置き表現は 堀(2003)にならい、「一から言えば」「一を見てみると」等、前置き的機能 を持つものとした。これらを除いたものが条件文で、庵(2001)にならい、仮 定条件(典型的条件で、前件の真偽が不明な場合)、反事実的条件(前件は偽. であることがわかっている)、確定条件(前件が真になることがわかってい. る)、恒常的条件(PのときはいつもQになる、PのときはQであることが多 いという関係条件)、事実的条件(前件がすでに実現している)に分け、表4. 一135一.
(6) に示した。. 表4条件節の用法別分類’ 慣用. 前置き. ¥現. ¥現. JP. 2.9%. CN. 5.1%. 条件文. 仮定条件. 反事実的条件. 確定条件. 恒常的条件. 事実的条件. 14.7%. 47.1%. 6.6%. 1.5%. 22.8%. 4.4%. 12.7%. 27.8%. 0.0%. 0.0%. 45.6%. 8.9%. 表4の条件節の各用法について、CNの割合をJPと比較したところ、カイ ニ乗検定で有意差があった(κ≧21.71,df=6, p<.01)。ここで特徴的なのは、 JP. では仮定条件が全体の47.1%とほぼ半数を占めているのに対し、CNでは 27.8%とその割合が低いことである。反事実的条件の使用はCNに全く見ら れなかった。これはニャンジャローンスック(2001)のOPIデータの結果とも. 一致し、中級の学習者には反事実的条件の産出が困難であると考えられる。 JPは仮定条件や(4)のような反事実的条件を用いて仮定を表現し、対する 意見への反駁を展開することが多い。. (4)もし喫煙が、本人以外に対して完全に無害であったならば、私は規 制どころか奨励するであろう。[JP] これに対し、CNは仮定条件より(5)のような恒常的条件の用法を多く使い、. 恒常的条件の事実を主張の根拠として論理展開することが多かった。 (5)たばこを吸うと、まわりの人に迷惑をかけるから、やめるべきと思 う。[CN]. このように同じ条件節でも、JPとCNでは使用している用法が異なること が明らかになった。この相違に関しては、4−3表7の考察で合わせて述べたい。. 4−2−3.譲歩・逆接を表す副詞節の分析 譲歩(「ても」等)はCNの使用数がJPより少なく、差が有意であった。 (6)のように自分の反対意見が実現したとしても結果は変わらないという反 駁の理由や、主張の制限の文脈で使用される例がJPで全使用例の63.0%(29 例)あったが、CNは33.3%(5例)で、残りの66.7%は理由やその他の文脈であ った。. 一136一.
(7) (6)(喫煙規制反対者)規制したことで、喫煙しない人々への影響は多少. あるかも知れませんが、規制されていようとなかろうと、規則を破る 人は破ってしまうレ・[JP]. 逆接(「のに」等)はJPの使用も多くないが、 CNはさらに少なく有意差 があった。(7)のように実際に起きた、相反する出来事を述べるのに使われ、. その後の部分に事実や主張を導くことが多い。 (7)私の大学でも、学食での喫煙は禁止となっており、禁煙マークもと. ころどころにはってあるにもかかわらず、学生たちは喫煙している。 〔中略〕このようなささいな決まり事をも軽視しているのだから、法 律化しても何の意味もなさないであろう。[IP] CNの作文には、(8)(喫煙規制反対)のように自分の主張に関して下線部の. ような理由の表明だけで終わっている例が見られる。 (8)みんなの権利を守るため、〔中略〕公共の場所ではたばこを吸わな. いべきですが、規則を作るのはちょっとやりすぎじゃないかと思いま す。私はみんなの権利はみんなで守らなければなりません。たばこを 吸わない人は吸う権利をたばこを吸う人にあげる、反対に、たばこを 吸う人も吸わない権利を吸わない人にあげるはずです。[CN] 井上(1989)の指摘のように、ここに譲歩・逆接を用いた主張の反証、制限、. それらへの反駁等が加わるほうが、論がより強固になると思われる。. 4−2−4.並列節の分析 ここでは論理展開に関わると考えられる並列節の1作文あたりの使 用数平均を表5に示し、t検定を行った。 表5並列節の使用の平均 順接的並列. 逆接的並列. 総記の並列. 累加の並列. JP. 4.68. 0.89. 1.82. CN. 4.23. 0.24*. 1.00*. *P〈.05. 一137一.
(8) あえて順接的並列のうちの総記の並列、つまりテ形接続や連用中止形接 続等を示したのは、こうした節がそれ自体は論理関係を明示的には表さな いものであり、使用数が多いと逆に論理展開が伝わりにくくなる可能性が あることが戸田山(2002)等で指摘されているためである。田代(1995)のスト. ーリー説明文では日本語学習者のテ形接続の多用が見られたが、本調査の 意見文では逆にJPより少ないという結果であった。従って総記の並列の多 用をCNの文章の特徴とはみなせない。 しかし、(9)のような累加の並列(接続助詞「し」等)は、CNが少なく有 意差があった。. (9)私自身、タバコは吸わないので、すぐ側で吸われることは、煙を自. 分も吸ってしまう上、臭いもあって嫌です。[JP] 「し」は並列節の累加に分類されるが、理由を表す用法もある(グループ ジャマシイ2000等)。本研究の作文でも、JPは「し」39例中、理由を表す22 例が見られたが、CNでは4例中1例であった。すなわち、並列節(累加の並列). においてもJPは理由を表す例が多く見られたが、 CNでは少ないことが明ら かになった。逆接的並列(接続助詞「が」等)の使用もCNは少なく有意差が あった。これについては4−3表7の考察で合わせて述べる。. 4−3.接続詞の使用 接続詞について、表6に1作文中の使用数の平均と類型別使用の割合を 示した。. 表61作文中の接続詞の使用数平均と類型別使用の割合 接続詞の数. 順i接. 逆接. 添加. 対比. 同列. 転換. 補足. JP. 4.18. 12.0%. 32.6%. 28.8%. 4.3%. 12.5%. 1.6%. 8.2%. CN. 6.03*. 25.0%. 23.3%. 25.6%. 6.3%. 13.6%. 4.0%. 2.3%. *P〈.05. 接続詞使用数の平均はCNの方がJPより多く、t検定で有意差があった。 JP. より文の数が多く1文中の接続節の数が少ないCNが、論理関係を接続詞で. 一138一.
(9) 示そうとしたためと考えられる。. 次に、類型別に見た接続詞の割合についてカイニ乗検定を行ったところ、 JPとCNの間には有意差があった(κ2=19.86, df」6, p<.01)。ここでまず注目し. たいのは、逆接(「しかし」等)と順接(「だから」等)の接続詞である。 逆接の接続詞の使用はJPで最も使用頻度が高いが、CNは3番目である。一方、. 順接の接続詞の使用はCNで高く、JPでは4番目である。この結果をさらに詳. しく分析するため、順接の接続詞とそれと同じ意味関係を持つ原因理由節 (表3参照)の合計平均、逆接の接続詞とそれと同じ意味関係を持つ並列節の 逆接的並列(表5参照)の合計平均を表7に示し、t検定を行った。 表7 順接的接続と逆接的接続の使用数平均 順接接続詞+. 逆接接続詞+. エ因,理由節の平均. タ列節(逆接的並列)の平均. JP. 2.25. 3.18. CN. 3.06*. 2.39*. *P〈.05. 順接接続詞+原因・理由節の平均はJPよりC:Nが有意に高く、逆接接続詞. +逆接的並列節の平均は、CNが有意に低い。逆接の展開はこの結果と表3 で明らかになった逆接節や譲歩節の使用平均の低さも加味すると、CNはさ らに少ないと言える。条件節ではCNは恒常的条件を使用し、恒常的条件の 事実を主張の根拠として順接的に展開している例が多かった。従ってCNは 原因・理由を表現する部分がJPより少ないが、論理展開の仕方は順接の接 続節や接続詞を用いた「理由一意見」が中心的であり、逆接の展開は少ない と言える。それに対しJPは「理由一意見」の順接的展開がCNより少なく、逆 接の展開が多い。ただし、原因・理由部分に関しては4−2−1で見た文末表現. を用いていることから、JPは接続詞や接続節での順接的展開がCNより少な いものの、 「意見一理由」も用いた多様な述べ方をしていると言えよう。. 逆接の接続詞で最も多いのはJP、 CNとも「しかし・でも」であった。浜 田(1995)では、 「PしかしQ」はある事実の別の面を見せることによって、. 相手に反論したり、話題を転換したりするとされている。⑩のように逆接. 一139一.
(10) の接続詞を用いることにより、書き手は自分と対立する意見に反論したり、 内容の正当性に制限を加えるという議論の精緻:化を行い、自分の意見をよ り強いものとしようとしている。. ⑩私はタバコ嫌いですから、規制には基本的に賛成です。しかし、た だ単に禁止一点張りでは、その規制は功を奏すことはないでしょう。 [JP]. また「だからといって・そうだとしても」はJPの使用が6例あるが、 CN は0例である。 「だからといって」は㈲のように、 「前の事柄を一応認め. るが、そういう理由があっても、後の事柄を受け入ればしないと述べるの に使われる」(グループジャマシイ1998)とされており、反対意見を一応認め. ながらもそれに反駁する、制限を加える際に多く使用されていた。. ㈲タバコを謡う言わない以前に、他人の健康を害する権利は誰にもな いと思います。しかし、だからといってタバコのコマーシャル規制な ど、喫煙者の権利まで侵害するのはやりすぎだと思います。[JP]. これらの展開はJPに多く、CNは使用語彙に至っていなかったためか少なか った。. 一方、CNは反駁が少ないか、主に順接で論を展開する吻のような例が多 い。. ⑫古代から、タバコはずっと人間の生命安全を脅威してきています。 〔中略〕ですから、タバコを吸えないよう規則を作るべきだと思いま. す。〔中略〕健康な身体がなければ、何もできません。もちろん国家 の繁栄も実現できません。ですから、ごタバコをやめるように願って います。[CN] α幻は順接展開以外に、例えば「確かに喫煙者には喫煙の権利がある。」 と反論を示し、それに対して4−2−3で挙げた「ても」 「ようとなかろうと」. 「にもかかわらず」や「しかし」 「だからといって」等を用いれば、より. 説得力が増すと思われる。JPは条件節でも仮定条件・反事実的条件を用い て、対する意見への反駁をしていることを4−2−2で述べたが、これらのよう. な反駁をしたほうが、主張に防衛力を持たせることができるのではないだ ろうか。. 次に注目したいのは、同列(「つまり」等)と補足(「なぜなら」等)の接続. 詞である。これらは甲田(1996)では注釈・補充の接続詞とされ、「前の表現. 一140一.
(11) を受けてそのレベルを変更し、一段階上の(あるいは別の)把握・解釈と. して捉え直し、後件として関連づけるもの」とされている。同列と補足の 使用数合計を平均すると、JPが0.86、 CNが0.85であるが、 CNは「たとえば」. の使用が多い。これを差し引くと、JPの使用平均0.73に対し、 CNは0.36と少. なくなる。同列・補足の接続詞は、側のように談話の意図を確認する機能 がある。. α3>主流煙が体に悪いということは当り前ですが、副流煙も体に悪影響. を及ぼします。つまりタバコを吸わない人でも、〔中略〕不健康にな っていくのです。[JPl. CNは確認、補強の部分が少ない。たとえば以下のω(喫煙規制賛成者) は、他人を考えない喫煙の権利は「私利をはかる」ことであると述べた後、. 下線部の理由だけ述べて次の話題に移っているが、これだけでは理由の述 べ方が不十分な印象を与える。. ⑬次に、たばこは人に有害するのは化学の域で確定しましたが、公共 の場所ではたばこを禁止するのは勿論です。[CN]. ここでは「たばこは人に有害するのは化学の域で確定しました。」で文 を終わらせ、その後、q3)の「つまり」のような接続詞を加えて、周囲の人. 間に害があることが科学的に証明されていることを、別の角度から述べて 確認したほうが非喫煙者への害が明確になり、読み手を納得させやすいと ’ 思われる。. 5.まとめと今後の課題 中級CNとJPの意見文を比較分析したところ、 CNは主に原因・理由節や順. 接の接続詞で原因・理由を述べていたが、JPはそれ以外にも多様な表現を 用いて述べていた。JPは仮定条件の条件節や逆接表現で主張のサポート、 反駁を行う部分がCNより多いという結果が出た。 CNは順接のi接続詞や恒常. 的条件の条件節で根拠を示す使用が多く、順接的展開が中心で逆接的展開 が少ないため、主張の制限、反駁等の論理展開がJPほど多くないことが明 らかになった。. 本研究のCNの文章に見られた傾向は中国語の論理展開の反映という可能 性もあるが、それよりも、習得途上の中級レベルにおいて、塵出しやすい. 一141一.
(12) 表現が限られるために表れたものとみなすほうが妥当ではないだろうか。 意見を主張する際、井上(1989)にあるように理由を多く述べる、強化する、. 反論や他の可能性をあげて反駁することは、どの言語の文章においても必 要であると考えられるのである。. 作文・文法指導への提言としては、意見を述べる際にその理由のみなら ず主張の反証、制限、例外への反駁・対策を加えるという展開も必要とさ れるため、それらの表現を文脈上で自在に運用できるようにすることが求 められよう。具体的には、反駁の表現を支える仮定条件、譲歩・逆接の節、 「からです」等の文末表現、接続詞(「だからといって」等の逆接、 「つ. まり」等の同列・「なぜなら」等の補足)等である。. 今後は表現意図が伝わりにくいと読み手に評価された文章を対象とし、. 本稿で明らかになった特徴が見られるかについて検証し、質的な分析を深 めたい。日本語学習者の書いた表現意図が伝わりにくい文章は、言語面に 問題があることによるのか、それとも内容面により大きな問題があるのか がそれによって明らかになると思われる。学習者の論理的作文の内容に関 しては、石橋(2002)等から、第二言語の作文産出時には言語の表層部分が最. 留意点となり、内容や構成面に十分に注意を払わないことが指摘されてい る。さらに、言語の処理が自動化されっっある上級学習者の文章を中級学 習者の文章と比較することも課題としたい。. 注 (1)本稿の節の分類は益岡・田窪(1992)に基づく。複文は「主節」と「接続節」. で構成され、接続節は従属節(述語を補う働きをする補足節・述語の修飾 語として働く副詞節・名詞を修飾する働きを持つ連体節)」と並列節に分 類される。並列節は順接的並列(総記の並列(連用形・テ形等)や累加の並列 (接続助詞「し」等))と逆接的並列(接続助詞「が」等)に分類される。. (2)CNは大学生である。学習時間が日本語能力試験1級レベル(約900時間)未. 満と考えられる学習者の作文を資料とした。 (3)JPは大学生・大学院生である。. (4)作文は意見が反対か賛成かによって、一部の表現の使用数に相違があっ. 一142一.
(13) たため、賛成・反対・不明の比率をJPとCNで比較したところ、カイニ乗検 定で有意差はみられなかった(κ2=2.98,df』2, p>.Ol)。従ってJPとCNは賛成・. 反対の比率が同じとみなす。 (5)CNとJPは文章の長さの平均が異なったため、その割合に応じて4−2以下の. CNの数値は換算した。 (6)引用したCN・JPの文章は全て誤用・脱字など原文のままである。. 参考文献 浅井美恵子(2002)「日本語作文における文の構造の分析 一日本語母語話. 者と中国語母語の上級日本語学習者の作文比較一」『日本語教育』115 号 日本語教育学会 庵功雄(2001)『新しい日本語学入門 ことばのしくみを考える』スリーエ. ーネットワーク. 石橋玲子(2002)『第2言語習得における第1言語の関与一日本語学習者の 作文産出から一』風間書房 市川孝(1978)『国語教育のための文章論概説』教育出版 井上尚美(1989)『言語論理教育入門』明治図書 木戸光子(2001)「作文教育のための留学生と日本人学生の意見文の比較」 『日本語教育学会春季大会予稿集』pp.97−102 木下是雄(1981)『理科系の作文技術』中公新書624 中央公論社 グループ・ジャマシイ編(1998)『教師と学習者のための日本語文型辞典』. くろしお出版 甲田直美(1996)「接続詞とメタ言語」『日本語学』15−10pp.28−34. スニーラット・ニャンジャローンスック(2001)「OPIデータにおける『条 件表現』の習得研究 一中国語、韓国語、英語母語話者の自然発話から一」. 『日本語教育』111号 日本語教育学会pp.26−35 田代ひとみ(1995)「中上級日本語学習者の文章表現の問題点一不自然さ・. わかりにくさの原因をさぐる一」『目本語教育』85号 日本語教育学会 pp.25−37. 一143一.
(14) 戸田山和久(2002)『論文の教室 レポートから卒論まで』NHKブックス954. 日本放送協会 蓮沼昭子・有田節子・前田直子(2001)『日本語文法 セルフマスターシリ. ーズ7条件表現』くろしお出版 浜田麻里(1995)「トコロガとシカシ・デモなど 一逆接接続詞の談話にお ける機能一」 『日本語類義表現の文法(下)』くろしお出版. 板東正子(1997)「日本語学習者の文章における文脈展開」『日本語・日 本文化研究』第7号 大阪外国語大学日本語講座pp.213−224 堀恵子(2003)「学会口頭発表コーパスにおける条件表現の用いられかた」. 『日本語教育学会秋季大会予稿集』日本語教育学会pp.89−94 前田直子(1991)「『論理文』の体系性一条件文・理由文・逆条件文をめ ぐって一」 『日本学報』10 大阪大学pp.29−42. 益岡隆志・田窪行則(1992)『基礎日本語文法一改訂版一』くろしお出版. 要旨 本研究では目本語学習者の論理的文章の問題を探るため、中級中国語母 語話者(CN)の意見文の論理展開を日本語母語話者(JP)の意見文と比較し、.. 特徴を探った。その結果、CNの原因・理由節の使用数はJPと殆ど差がなか った。しかしJPは文末表現や並列節の「し」等、多様な表現を用いて主張 の理由を表すことが多いのに対し、CNはそれらの使用が少ない上、自分の 意見から中立的な記述がJPより多く、理由部分は少なかった。条件節では、. JPは仮定条件で反論する例が多く見られたが、 CNは恒常的条件で根拠を示. す例が多かった。さらにCNは逆接的接続、同列・補足の接続詞の使用がJP より少ないため、主張の制限、反駁等の論理展開が足りず、意見の説得力 が弱くなると思われる。論を強固にするには理由以外に主張の反証、制限、. それらへの反駁、対策を述べることも必要であるため、内容面の充実に重 点を置く指導が言語面の指導とともに示唆された。. 一144一.
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