Author(s)
当山, 昌直; 仲地, 明; 城間, 恒宏
Citation
沖縄史料編集紀要 = BULLETIN OF THE
HISTORIOGRAPHICAL INSTITUTE(37): 39-58
Issue Date
2014-03-20
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/17443
近代沖縄の新聞にみられるジュゴンの情報
当山 昌直・仲地 明・城間 恒宏
はじめに
ジュゴン Dugong dugon は海牛目ジュゴン科に属し、その主な分布は、紅海、インド洋、
太平洋の熱帯から亜熱帯海域に生息し、琉球がその北限にあたる。奄美・沖縄地域ではザン、
ザンヌイユ、アカングヮイユ、宮古地域ではヨナタマ、八重山地域ではザン、ザヌなどと
称していた。現在、確実に定着していると思われるのは沖縄島だけであり、奄美諸島、宮
古諸島、八重山諸島からの定着確認情報はない。
過去の記録をみると琉球の海、特に沖縄島周辺、宮古島周辺、石垣島と西表島およびそ
の間の海域には相当数のジュゴンが生息していたようである(盛本,2004,2005;沖縄県,
1880 ~ 1916)。中でも石垣島と西表島間の海域には数百頭以上がすんでいたと考えられ
ているが(宇仁,2003;当山,2011)、今ではその面影もない。その大きな原因は、乱
獲であり、乱獲によって絶滅または絶滅状態に追い込まれたものと考えられている(宇仁,
2003;当山,2011)。
今回、このようなジュゴンの絶滅または絶滅状態に追い込んだ乱獲の実態を、近代沖縄
の新聞について自然分野を対象とした『沖縄県史資料編 24 自然環境新聞資料』(以下県
史資料編と略す)
(1)を編集する過程において確認することができた。また他にもジュゴンに
関する情報が得られたのであわせて報告する。
1.方法
調査した近代沖縄の新聞は、県史資料編に掲載されているものを対象とした。次に収録
されている明治 31 年から昭和 20 年までの新聞
(2)の中から、
「ジュゴン」
「海馬」
「人魚」をキー
ワードにして検索を行い、ヒットした記事を抜き出した。また、ダイナマイト漁については、
直接間接的にジュゴンと関連していると思われたので、「ダイナマイト」「爆薬」でも検索
して抜き出しを行い、さらに県史資料編全文に目を通して関連する項目を抜き出した。
TOYAMA Masanao, NAKACHI Akira and SHIROMA Tsunehiro: Information on Dugong (Dugong dugon) in Pre-war
Okinawan Newspapers
(1) 沖縄県教育庁文化財課史料編集班編(2014)
2.結果
検索の結果を記事の掲載年月日順に表1に示す。次に表1に基づいて記事内容を示した。
記事は、整理番号、和暦、月日、新聞紙名、掲載面、みだし、記事内容の順で記した。なお、
記事内容を県史資料編から抜き出して転載する方法については、下記の要領により行った。
1.掲載方法は、基本的に県史資料編の凡例にしたがった(県史資料編より抜粋)。 ①旧漢字はなるべく新漢字に直した。ただし人名・固有名詞・漢数字については原則として原文のとおりとした。 ②送り仮名、仮名遣いは、原文のとおりとした。ただし、変体仮名は平仮名に書きかえ、「ゐ」「ゑ」はそれぞ れ「い」「え」に改めた。 ③誤字・脱字は基本的に原文のとおりとし、できるだけ行間に「ママ」を並記した。 ④新聞の活字が抜けているものや不鮮明で読めないものは□であらわした。なお、県史資料編では内容等から 判断されるものについては行間に「*」を付して文字を補ったが、本稿では「*」をとった。 ⑤編者による注記などは[ ]に入れて表記した。 ⑥振り仮名は原文に付されていても一般的な読み方である場合には省略し、必要最小限にとどめた。 ⑦省略箇所に適宜、[前略][中略][後略][略]を付した。使い分けは以下のとおりである。 [前略]抜き出し箇所より前の項目や段落を省略したことを示す [中略]抜き出し箇所内において、項目や段落を省略したことを示す [後略]抜き出し箇所より後の項目や段落を省略したことを示す [略]文章の一部を省略したことを示す ⑧みだしの副題については、「/」を付してみだしと並べた。 ⑨人物が関連する記事について、内容によっては住所番地は◇で示し、人名はイニシャルとした(読みは任意)。 事件・事故関係は内容によって住所氏名を省略した。 2.県史資料編で記されている圏点や文字飾りなどは省略した。 3.内容を変えない範囲で読みやすいようにレイアウト変更を行った。 4.ジュゴンとは関連しない部分については、略した。略の仕方については県史資料編の凡例の方 法で行った。 表1.県史資料編の検索により得られたジュゴンおよびダイナマイト漁の新聞みだし 番号 西暦(和暦)月/日 新聞紙名 面 みだし 1 1901(M34)04/11 琉球新報 2 国頭雑信 2 1901(M34)08/25 琉球新報 2 劇発火薬捕魚の禁止 3 1901(M34)09/17 琉球新報 3 はがき集 4 1902(M35)06/17 琉球新報 3 漁業法施行規則 5 1902(M35)06/23 琉球新報 2 漁業法施行規則 6 1903(M36)05/17 琉球新報 2 専用漁業免許出願書式の注意 7 1903(M36)08/27 琉球新報 2 ダイナマイト使用取締に就き 8 1903(M36)09/13 琉球新報 2 漁猟に爆裂弾使用 9 1904(M37)02/09 琉球新報 3 糸満人のダイナマイト使用 10 1905(M38)08/23 琉球新報 2 八重山群島(十) 水産(続) 11 1907(M40)03/06 琉球新報 3 博覧会出品用 人魚の捕獲/八重山近海にて捕獲 12 1907(M40)06/08 琉球新報 2 勧業博覧会水族館へ出品 13 1908(M41)10/05 琉球新報 2 漁人の狂暴 14 1908(M41)12/02 琉球新報 2 スルヽ漁の禁止番号 西暦(和暦)月/日 新聞紙名 面 みだし 15 1909(M42)05/06 琉球新報 1 漁業者へ注意 16 1909(M42)10/19 琉球新報 2 名護湾の釣遊㈢ 17 1910(M43)01/26 琉球新報 1 ダイナマイトで負傷 18 1910(M43)06/13 沖縄毎日新聞 3 沖縄みやげ(六) 毒蛇と自然界 19 1912(M45)04/05 琉球新報 2 運天の捕鯨観/今帰仁にて 20 1912(M45)07/04 琉球新報 2 ケイと漁業者 21 1914(T03)07/01 琉球新報 3 鱶に襲はる 22 1914(T03)07/02 琉球新報 3 鱶の被害者死す 23 1914(T03)07/03 琉球新報 3 疑問の鱶の害/爆薬負傷の説あり 24 1914(T03)07/05 琉球新報 3 鱶の害と爆薬負傷の区別/某氏の談 25 1914(T03)07/06 琉球新報 3 爆薬でしやう 糸満漁夫談 26 1914(T03)07/09 琉球新報 3 鱶の害とは思はれず/某漁夫談 27 1914(T03)07/12 琉球新報 3 K 医召喚さる/鱶の害事件につき 28 1921(T10)10/08 - - 動物保護/水産課宣伝 29 1928(S03)09/11 沖縄昭和新聞 3 一網打尽に逮捕されたダイナマイト密売/犯人等遂に自白す 30 1932(S07)11/07 沖縄日日新聞 - 動物分布に於ける沖縄の自然的位置(三) 31 1938(S13)06/04 琉球新報 3 ダイナマ密売買 一味捕る/渡久地署のお手柄 32 1938(S13)06/09 琉球新報 3 けいさつ裏表 33 1940(S15)01/24 沖縄日報 4 沖縄の人魚(一) 34 1940(S15)01/25 沖縄日報 4 沖縄の人魚(二) 35 1940(S15)01/26 沖縄日報 4 沖縄の人魚(三) 36 1940(S15)01/27 沖縄日報 4 沖縄の人魚(完) 37 1940(S15)03/26 沖縄日報 3 採集南北行/林農林技師対談会/林義三氏 岸田久吉氏対談会(11) 38 1940(S15)06/21 沖縄日報 2 市町村長会の注意事項(二) 39 1940(S15)08/21 琉球新報 3 ダイナマで密漁/慶良鉱業鉱夫五名捕る 40 1940(S15)11/29 琉球新報 3 スルヽ魚密漁で捕る 41 - - - 天然物に指定される本県下の人魚 -:不明を示す 1. 明治 34 年 4 月 11 日 琉球新報 2 面 国頭雑信 仝上[一二子] [前略] ダイナマイトで漁猟 名護宇茂佐村にて糸満人が漁猟を為すに爆裂弾を用ひ幾百種の得獲ありと申 候事なるが為めに多くの水族を無用に濫殺するの結果と相成候由如何にも相当の取締法を設けられ まほしき次第に御座候と去る人の話 [後略] 2. 明治 34 年 8 月 25 日 琉球新報 2 面 劇発火薬捕魚の禁止 従来本県に於て許可を受けダイナマイトの如き劇発火薬を以て魚族を捕獲来
りしか今般県令第二十号を以て鯨、海豚、海馬(方言ケーバ)を除く外劇発火薬を以て水族を漁𢭐 する事を禁せられたり是は劇発火薬を以て魚類を捕獲する時は其蕃殖を阻害するを以てなり 3. 明治 34 年 9 月 17 日 琉球新報 3 面 はがき集 県令を以て禁せるにも係らず糸満人漁夫等は尚ほ沖縄近海に於てダイナマイトの激発火薬を用ひて 漁族を捕獲しつゝあるやうだ当局者に御知らせ申す(龍馬生)[略] 4. 明治 35 年 6 月 17 日 琉球新報 3 面 漁業法施行規則 [前略] 第四章 養殖保護及ひ漁業取締 第五十一条 水産物を疲憊若は斃死せしむへき有毒物又は爆発物を使用して水産物動を採捕するこ とを得す但し捕鯨の為め爆発物を使用するは此の限に在らす [後略] 5. 明治 35 年 6 月 23 日 琉球新報 2 面 漁業法施行規則(承前) [前略] 附則 本令は明治三十五年七月一日より之を施行す 6. 明治 36 年 5 月 17 日 琉球新報 3 面 専用漁業免許出願書式の注意 [前略] 六、之れ前にも述へし如く主たる漁獲物一定せす且つ漁具を用ひさるものは方法に依てのみ定むへ し例へは爆発物漁業毒流漁業等の如し而して爆発物及毒流は漁具にあらさるなり [後略] 7. 明治 36 年 8 月 27 日 琉球新報 2 面 ダイナマイト使用取締に就き 近来警察の目を忍ひてダイナマイト(爆裂弾)を使用し魚類を捕獲するものあり其影響として魚類 の繁殖と漁業の発達を妨害するの結果を生し公益に害あること申すまてもなし左れは警察に於ては 其取締を厳重にしダイナマイトを使用して魚類を捕獲する者あるときは容赦なく漁業法及銃法火薬 取締法に照して之を処罰し以て犯法者を警め漁業を保護すへしとは漁業者一般の希望なるか如し 8. 明治 36 年 9 月 13 日 琉球新報 2 面 漁猟に爆裂弾使用 鯨を除くの外に漁猟中ダイナマイトを使用することを禁せられ居るにも拘らず
近来国頭郡今帰仁附近に於ては漁獲に之を使用する日に盛になり一日平均十発以上のダイナマイト を使用しガツン及ひ其他の漁族を殺獲しつゝあり若し今の内に其取締を厳重にしダイナマイト使用 者を制裁し其跡を絶つにあらされば久しからさる内に魚族の種を絶つに至らんなり当局者の注意を 促すと同地よりの通信に見ゆ 9. 明治 37 年 2 月 9 日 琉球新報 3 面 糸満人のダイナマイト使用 糸満の漁業者九名台湾よりダイナマイトを買求め来り八重山近海に於て密に之を使用し漁猟中発覚 して其筋の知る所となり直に取押へられ漁業法及火薬取締法違反者として八重山区裁判所検事局へ 送致せられたりといふ発覚の次第は大川尋常小学校崎山分教場生徒某が該糸満人よりダイマイトの 雷管を貰い来りて弄び爆発して手指を火傷したる為め遂に其所持人の誰たる事を知るに至りたりと いふ 10. 明治 38 年 8 月 23 日 琉球新報 2 面 八重山群島(十ママ) 水産(続) 重要海産物概要(続) [前略] 七、ザンノイユ(海馬)は松原技師の予察報告に依れば学問上くじらいろかと目を同うする者なり といふ八重山列島近海到る処殆んど見ざるなし而して多くは沙浜にして幾分の湾形を為し且つ海 草類多く波濤静穏なる場所に棲息す常に二三十頭程連游すれども夏季に際しては殊に其数の多き を見る捕獲法は磯辺に近寄り来たるとき凡そ百余尋にして高さ一丈余に一尺計りの目を有する縄 網を以て其逃路を遮り漸次押し囲んで之を撲殺するに至る其皮は従来産婦の良薬として島民大に 之を貴び尚ほ旧藩時代に於ては支那貢品の一種として相当の価を有せしも近年に至りては需要者 少く従て其利益も多からざるか故に進んで捕獲せんとするものも亦少きが加し 11. 明治 40 年 3 月 6 日 琉球新報 3 面 博覧会出品用 人魚の捕獲/八重山近海にて捕獲 体は魚の形で顔は人間の髪をふり乱した女相しているのが即ち売薬などの商標にある人魚の形容な るが果して此の如き怪物が此生物界に存在するや否は世人一般の疑問とする所なるべきか其形は兎 もあれ角もあれ人魚なる一種の魚族があるのは争ふべからざる事実で上野教育水族館では近日開催 の東京博覧会へ出陳の為め予て全国各地方へ館員を出張せしめ魚族蒐集中の処南海方面の出張員よ り本県八重山近海に於て稀代の人魚を捕獲したる旨去月廿四日電報かあつたとの事であるか之に就 き教育水族館仮事務所員の説明がある左に之を紹介すれば「普通の魚族は相州松輪の臨海実験所で 漁つたのを集め其処に居らぬのは各府県に依頼して蒐集して貰ふ事とし特に珍奇な種族で此方から 人を遣つて漁らなくてはならぬと云ふに出張員を派する事として昨年の十二月中から着々歩を進め て居るが漁てから二三週間は何うしても生洲で馴らして置かねばならぬので未だ同館内へ輸送して 来たものは一つもないが開館前には其運びも全く成り実に人目を驚かす珍奇な種族が沢山来るとの
事である偖て人魚であるが之れは少しも不思議ではない一体が熱帯に生息する者で印度と我国の沖 縄に多くある沖縄に人魚が生息してると云ふも今始まつた話ではなく古昔支那では不老不死の薬と 称し屢々沖縄島魚王に人との人魚肉の貢献を命じた其取残された骨と云のが今も沖縄島の或処に積 れて有る人魚には二種あつて印度のはマナタス沖縄に生息してるのはジコンスと称る同館では教育 を主眼とするのであるから何かして珍しい人魚を手に入れ度いものだと昨年中から沖縄の近海に手 配りしてあると一月中首尾好しと云ふ通知があつたので早速高等師範学校博物科出身の本多厚仁氏 を同地に派出して捕獲に着手し遂に八重山島近海に押へたとの電報があつたのである而して人魚は 何方かと云ふと鯨に似た獣類で大きいので一丈二三尺の身長を有するものがあり其人魚の名称の出 たのは海面を泳ぐ際に子供を鰭で抱いて乳を哺ませつゝ半面をスツと水面に現はして彼方此方と泳 ぎ廻るのが恰も婦人の児を哺む姿に似てるからと云ふ獲つたと而已で詳細の報知がないから解らぬ が少なくも七八尺位の代物なる可く夫れを放す為めに三間幅一間半の水槽を作つてあるが何を云ふ にも熱帯の海獣であるから寒い時候の処へ連れて来るのは非常に困難だが何うしても開館には間に 合はせる云々 12. 明治 40 年 6 月 8 日 琉球新報 2 面 勧業博覧会水族館へ出品 八重山郡西表附近に於て這回体長丈余の海馬を捕獲せしを以て其胎児(長さ三尺余)と共に防腐済ママ を注射して目下開会中の東京勧業博覧会水族館へ出品したるが定めて観客の呼物たるべしと但し母 体は総て内臓を取り除きたりと 13. 明治 41 年 10 月 5 日 琉球新報 2 面 漁人の狂暴 島尻郡小禄若くは糸満等より慶良間近海に出漁するものゝ中禁制品たるダイナマイトを使用し海を 荒らすより其の筋にては之れか取締を厳重にしつゝあるか近頃はスルヽの漁季に入りて益々ダイナ モを濫用するものを増し嚮きに此の種漁船の那覇港に入り来たるもの一日に二十隻の多きに達した る程なるか、此等漁人の狂暴なるは警官もほとほと持て余ますことありと、彼等か慶良間近海にて ダイナマイトを使用するを認め警官出張して之れを取締まらん為め刳舟を漕ぎ寄すれは手もてさし まねき来い来いなどを為し冷笑の態度を示すのみならず、警官の舟か間近かくなれば日頃の手練を 以て一散に舟を漕ぎ逃げる愈々追ひもて行けば色々なる手真似や身振りを以て嘲笑するのみならず、 愈々かなわずと見れば携へたるダイナマイトを警官見掛けて抛げつけることもありと云ふ或は警官 の刳舟の擢手に雇はるゝもの及ひ其家族に対し人知れず意地悪るきことをして擢手に雇はるゝなか らしめ警官をして刳舟に乗り海上取締を為すを得ざらしめんとする悪手段を廻らし海上に不逞の所 業を恣まゝにせんとすると也、其の為め目下慶良間駐在の警官はダイナマイト使用者の取締上に一 方ならぬ苦心を費やせるとのことなるか、漁人にして禁制品を以て漁業なすことさへ甚だしき不都 合の所業なるに、警官に向つてダイナマイトを抛げ附けるなどゝは以ての外の乱暴なりと云はざる べからず、彼等は是に於て全たく漁人たる性質を一変し恰かも海賊同様の真似をなすに及べり、其 の狂暴なることもこゝに至りて極まれりと云ふべし去れば漁人等の此の心理上の悪傾向に対しては
深く注意せざるべからず糸満及び小禄あたりの漁人にして永く海上の生活をなすものは其の長老及 び部落の徳望あり信用あるものにより是等の悪漁人に対して精々云ひ聞かせおくこそ可ならん 因に記す目今県下漁人の使用するダイナマイトは県外より輸入せられたることは明なるか彼等は該 品を隠蔽し出漁にあたりて取出し此の狂暴の所行を敢てするなり而かも其の隠蔽の甚だ巧みなるに は手の附け様もなき有様なりと云ふ漁人の心理的傾向か斯様に悪しき方向を取りつゝあるは島国生 活をなし海上作業の範囲を益す益す拡張すべき県民としては甚だ憂ふべきの至りなり返す返すも反 省する所なかるべからず 14. 明治 41 年 12 月 2 日 琉球新報 2 面 スルヽ漁の禁止 先月廿九日県令第六十五号を以て漁業取締規則に改正を加へ鰹の餌料に供する目的の外一切スルヽ 魚の捕獲を禁ぜらるゝ事となりたり其目的は専ら「スルヽ」を保護して鰹の餌料を滅亡せざらしむ るにあり元来本県に於ては不良の漁民がダイナマイトを用ひて漁業に従事するもの少からざるに依 り当局者にありても其取締に就ては非常なる苦心を払ひ居れど猶ほ一部の漁業者は巧みに法網を潜 りて盛に之を使用し其弊害尠からざるものあり而して近年に至りては之等不良の漁民は「スルヽ」 魚にも矢張りダイナマイトを使用し為めに折角勃興し掛れる鰹漁業の発達を妨くるの結果を生じた るを以て去る卅七年の六月には県令を発して従来の「スルヽ」網漁業者並に鰹餌料用に供するの目 的を以てするの外一切「スルヽ」魚の捕獲販売を禁ずる事となりたるに拘らず其後も矢張り爆烈弾 を以て盛に捕獲を続け来りたり斯くては将来鰹の餌料に窮するに至る可く従つて折角有望の産業と して期待されたる鰹業の前途も甚だ心細き次第なれば今日に於て其前後策を講ずべしとて鰹漁者側 の建議もありたるより遂に件の県令を発し鰹の餌料以外には一切其捕獲を許さゞる事に決したり畢 竟鰹漁の為めに「スルヽ魚」を保護蕃殖せしめんとするものなり但し県下「スルヽ」漁業者は凡そ 三百人内外の多きに達し其中には一通りの資本を投じて真面目に就業せるものもあれば今俄かに其 営業を禁ぜらるゝは頗る迷惑なる事たるには相違なきも一般産業の為めには致し方なき所なれば此 際「スルヽ」漁を断念し夫れよりも遙かに有利なる鰹漁に転業する方得策なるべしと云へり 15. 明治 42 年 5 月 6 日 琉球新報 1 面 漁業者へ注意 漁業者にして爆発物タイナマイトを使用して漁業を営むは勅令を以て先きに禁止さ れ若□之れを犯すものは二十五日以下の禁錮又は二十五円以下の罰金に処せられたるが今般農商務 省令本年四月第六号を以て二十五日以下の禁錮を三ケ月以下二十五円以下の罰金を百円以下の罰金 に処すと改正されたり 16. 明治 42 年 10 月 19 日 琉球新報 2 面 名護湾の釣遊㈢ 天南漁夫 [前略] 名護湾の底質は一面珊瑚礁を敷詰められ東江、城、宇茂佐、屋部の辺には浜に近づけは細砂の所も あれども此辺にては糸満の漁師がしばしばダイナマイトを使用したる為魚族の群集すること少し(現
に余等が出漁中にも二回ダイナマイトを投するを見受けたり)[略] [後略] 17. 明治 43 年 1 月 26 日 琉球新報 1 面 ダイナマイトで負傷 糸満の人にして当時仲里村字謝名堂境内奥武島に居住して居るOT(三一)と云ふ男は去る十七日 の午後三時頃奥武島の東方一海里位の沖合にてダイナマイトを使つて漁業を試みんとしたる際如何 なる機会か轟然爆発して大負傷を為したる椿事あり負傷の状況は顔面全部及び頸部に火傷を為し両 眼瞼は腫張して眼球にも火傷を受け両耳は鼓膜破裂して聴覚を失へるのみならず右手は手首より先 きは爆発と共に切り取られ左手は五指とも第二列の関節より失ひ頗る悲惨の負傷なりと云ふ久米島 署に於て此事を聞き込むと共に署長自から其居宅に赴きて負傷の原因に就き訊問を試みしに本人は 前記の如き大負傷なれば一切応答する能はず家族は事実を隠蔽して本人が単身にて出漁し鱶に咬傷 されたるものなり□偽はり実情を白状せざる由にて目下事情精索中との事なるが負傷者は医師金城 德持氏の診断に依れば生命には差支なからんと云ふ 18. 明治 43 年6月 13 日 沖縄毎日新聞3面 沖縄みやげ(六)毒蛇と自然界 [前略] 元より沖縄は熱帯に近い地たから魚類は黒潮の影響で印度で見るやう珍魚が沢山ある鯨をはじめ人 魚といつて昨年の東京博覧会に出品された海牛その他玳瑁に盲目蛇、飯匙蛇よリ恐ろしい蜴(草鞋 虫の如き恰好)も少しはいる植物界では四時花を見ぬ時なく果物ではバナナ、パインアップル、パヽ ヤ、龍眼、糸瓜は長さ七尺もある名物の芋は素より蘇鉄も食用になる珈琲も出来る薬用、有毒、工 業用等の熱帯植物も沢山あるまた庭を飾る榕樹、福樹の美事なのや花美しき梯梧さては冬も野山を 飾る三十幾種の草花には内地で見られぬものが多い(羊公) 19. 明治 45 年4月5日 琉球新報2面 運天の捕鯨観 今帰仁にて 銀波生 [略]午前十時浜辺に喧しき声あり……ヒート……鯨……と大声に村民を呼ぶ男俄に村中騒き立ちそ れ油断あるべからずと皆な浜辺に立ち出づれは聞きしに違はず海浜三四町の沖辺而も水深三四尋の 浅瀬に巨鯨の出没を視る忽ち探出す三拾余隻の漁舟に三四名宛荒手の漁夫は乗込区漕き出したよと 見る間に逸くも巨鯨の退路たる沖側に三拾余隻の小舟は単縦陣を作りて是を逃かさじとさえぎり又 た更に八隻より成る□隊は巨鯨の行動に随伴して其の操縦の機敏なる其働振りの目暒ましきあたか も水雷艇にも似て巨鯨と進退を共にし投けつける爆弾は一発一発爆然たる轟音と共に狂乱する巨鯨 は白浪立ちて山の如く立ち登る水柱の中に巨影を表し海獣の王と呼ばれし巨鯨も茲に進退の畠を失 ひ遂に止めの一刀を以て運天海岸に巨体を横たへ[略] 20. 明治 45 年7月4日 琉球新報2面
ケイと漁業者 那覇と慶良間との中間にケイと称する小嶼あり魚族の寄場にて且つ那覇に近き故本県沿岸に於ける 好個の漁場たり同嶼は慶良間島渡嘉敷村の所有に属せるを以て昔時より垣の花、大嶺、糸満の漁民 が聯合して之を賃貸し目下此組合員は垣の花三十九人大嶺全部即ち八十人位ひ糸満五十人位ひの由 なるか数年以前ダイナマイトが漁業に使用さるゝことが流行してよりは組合外の漁民等の為に大に 此漁業を荒され組合員一同これが防止に百方力を尽したるも其効なく遂に四五年前警察に保護の儀 を願ひ出てたる処組合員に於て取押へて差し出せとの事に付三所の組合員聯合して二日目に刳舟二 艘に乗込める漁民八人を取押へて届け出てたれば警察にては船頭一人に付五円宛の科料即一艘に付 五円つゝの科料処分にて事済みたるよりダイナマイト使用の漁夫等は意見にも処罰の軽きを喜び漁 獲物を売つて科料を納め尚ほ余りある始末なれば爾来多寡を潜りてますます密漁するの有様となり たるも組合漁民等は尚ほこの害を防止せんとして十分に手を廻はし其後も一回は取押へて警察に引 渡したるも処分は矢張り以前の通りなれは密漁者はいよいよ図大くなり遂には組合員の目前には公 然ダイナマイトを使用して憚からざるに至りたるより組合員に於ても手の付け様なく為すがまゝに 放任し来りたるが近来は漁獲著しく減じたるより斯くて果てじと三所の組合員申し合せ左の意味の 契約書を取りかはしたりと云ふ 一 ダイナマイトを使用する者ある時は直に其筋に届け出づる事 一 組合員に於てダイナマイトを使用する時は其筋へ届け出て且つ漁業を差止むる事 一 組合員外の者か漁撈するを認めたる時は差止むる事 一 ダイナマイト使用者を見付けたる時は申合せの印を揚けて組合員を招く事 一 組合員にして前項の印を見たらば早速印しの場所に集る事之を見ても集らざる者は一円の違 約金を課す ダイナマイト伎用の為め漁場か荒されることは既に明白なる事実にて就中鰹餌料の如きこれが害を 受くること最も甚しき由なれば其筋に於ては海陸共に之か取締りを厳重にされたきもの也 21. 大正 3 年 7 月 1 日 琉球新報 3 面 鱶に襲はる 糸満町漁夫KK(三四)は一昨日小湾沖にて漁撈中鱶に襲はれ右手を噛まれて水中深く引き込まれ 憫あはれ餌にされんとする所を同僚のKJが身を踊らして海中に飛び込み足にて鱶□鼻梁を強く蹴り 鱶か咄と っ さ嗟の事に驚きてマゴつく所を奪ひ取りて逃げ去りKを九死の中より救ひ出し泊Y医院に運び 行きて治療中なるがKに手腕関節より鱶に噛み切れて不具者となり肋骨も挫くだかれて気息奄々として 打臥し居るが今暫く待たねば治療の見込みも立たずと云ふことなり 22. 大正 3 年 7 月 2 日 琉球新報 3 面 鱶の被害者死す 去る二十九日小湾沖にて鱶の害を受け泊K医院にて治療中なりし糸満町の漁夫KK(三四)は治療 の甲斐なく遂に死亡せりと云ふ 23. 大正 3 年 7 月 3 日 琉球新報 3 面
疑問の鱶の害/爆ダイナマイト薬負傷の説あり 糸満町の漁夫KK(三四)が去る二十九日小湾沖に於て漁撈中鱶に襲はれ右手腕関節部を噛まれて 海中深く引込れアワヤ一命を鱶の餌料に葬られんとする一刹那同伴KJが勇敢なる働きによりて危 急の中よりKの一命を救ひ上げたる事件は過日の紙上に報道したるが右に就き世上伝ふる所によれ ばKの負傷は決して鱶の害でなく糸満町漁夫に常に有り勝ちの爆薬使用の際受けたるものにして小 湾沖は糸満町民が漁撈に従事し居るもの甚だ多く而して天候悪しく所謂漁撈日和の外は密売の爆薬 を使用居ること常に小湾住民が目撃し居る所なり斯かる有様なれば糸満漁夫が爆薬の為負傷するも の今日迄一度や二度に止らざる次第なるが爆薬の不正使用を白昼公然と行ひ居るさへ法網を巧に潜 り居る彼等が爆薬の為軽傷を受けたればとて其筋の目を晦ますは何の雑作もなきことにして今日ま で彼等の不正行為は誰憚らず小湾の沖に演ぜられつゝあり、然るに今回KKが受けたる傷は嘗てな き重傷にして秘密の裡に葬る能はず戸板の上に担がれて泊K病院まで運ばれたる大袈裟の騒ぎに遂 に警官の出張となり負傷者の𢮦視を遂ぐることに至りしが素人の悲しさは僅かに医者の言責を信用 するの外術なくK医師が鱶の害なりと云ふ診断のまゝ警察署に於てもKKの負傷を既に鱶の害と見 倣し居る次第なり所が世上の噂さは益々喧すしく彼れKの負傷の状態より見る時は決して鱶の害に あらざるものと云ひ伝へ居れり K医師の談 世上の噂さを齎もたらして昨日泊なるK病院を訪ふ、院主S氏は少時にして出で来りさて 語るらく、爆薬にやられた傷なら一見して分る筈なり現に那覇署の巡査部長も手術台上の負傷者を 見て爆薬の傷でなきことを承知したり傷は右の前膊部手腕関節に近き所より噛み切られ頸部及左胸 部乳腺の所に深き傷ありて呼吸が漏て悲惨なる状態を呈し居るが致命傷は胸部の傷なりしと思ふ、 顔面及四肢には多くの微傷を受け傷口は埃が入り居り眼球は赤くなりたる丈にて他に異状なく何で も鱶に噛れて激しく左右に振れたる際岩石に当りて受たる傷と信ず若し之が爆薬で受けたる傷の疑 ひがあつたら自分は営業の人気上警察などに知らすことはせざりき自分は又爆薬の傷を之まで糸満 に於て何回も見た経験を有す爆薬の傷は火傷を起し居るが当然なり云々 24. 大正 3 年 7 月 5 日 琉球新報 3 面 鱶の害と爆ダイナマイト薬負傷の区別/某氏の談 過日君の新聞に糸満町民か小湾沖で負傷したることにつきK某の傷は果して鱶の為にやられたかと 大分喧やかましくなつたが、鱶の害と爆薬の負傷は必ずしも医者の診断を待たずして分ることゝ思ふ、 K医師が負傷の有様を発表して居るのを見ると鱶の害とは想像が附かないものがある、第一鱶は平 常遠い沖に居て岩石のある所には住んで居ない金城某の受けて居る傷か鱶に振り廻され岩石に突き 当つた為と云ふのは受取れない言分と思ふ、又左胸部の肺臓に達する傷と頸部の気管に達する傷は 岩石に突いて受けたものとは思はれぬ顔面や四肢の微傷には埃が入つて居たと云ふ所より見ると全 く爆発物の為に受けたるものと推察が出来る、二十九日は小嵐が吹いて海が吹いて海が荒れて居て 普通の網漁では中々取れないから此日小湾の沖は朝より爆薬の音が聞えて居たと云ふことだ、K医 師が警察官を欺き一個の利益の為糸満漁民を庇護したとすれば決して免して置けない人と思ふ、K 医師は糸満で爆薬負傷者の診断を何回もやつた経験を有すと云ひながら、どうも事実に違反する様 な評判を起さして居るのは遺憾の至りである、那覇署は此際充分の調査を要すべきである云々
25. 大正 3 年 7 月 6 日 琉球新報 3 面 爆 ダイナマイト 薬でしやう 糸満漁夫談 鱶に喰はれる馬鹿は居りません 新聞社もその御見当ですか大方違ひはないでしう吾々の方でも正常の漁業をやつてる者から見ると ダイナマ使用者は敵ですから同情は致しません当糸満でも正常にやつてる同業者と是等不正の同業 者と二派に別れて始終睨み合を致して居ります魚族を一時に獲つて根絶しにすることは将来吾々の 渡世に関することですから大に反対しなければなりませんけれども彼あ い つ ら奴等はまるで海賊ですからな 密売も巧みにやつてるし逃げるのも旨いもんですから滅多に捉りツこはありませんドンドンやつて る所へ巡査が逮捕に来と舟を引覆へして後白浪と消えて失なりますソレは近くにやつて来られた時 ですがさも無い時は舌をぺロリ出して漕いて逃げます舟は軽し漕ぎ手は早し全然飛鳥の飛ぶやうだ から仕末に終へませんだから現場を押へるつてことは全くないです伏兵でも置いて奴等か上陸する 所を取ツ捕まへて舟を改めると屹き っ と度証拠が上りますからな此の手で偶にやる時もありますけれど警 察の方はのろいから始終不漁です今度の奴もダイナマの疑かあると云ふのは今貴方の仰おっしゃ有る通りの 事実でも充分証拠立てられますが吾々の方から見ても其通りですアレを使用する時には綱で囲つて 来て魚が一団に集つてもうこれで良いと云ふ時手で合図をすると他の奴は退きます火をつけてポン と投げると水煙が立つて二間四方の魚はすつかり獲れてしまうソレが異変のある時は風立かあつた りなんかしてダイナマが人間の方へ流れて来て爆発するから耐りません今度の奴も多分ソレだらう と思ひます第一鱶の場所も極まつていますからな那覇港は措いて八重山沖本部沖津堅沖などは居処 ですソレも海岸近くは来ません小湾などに鱶とは滑稽です又鱶に襲はれる人は刃物で斬つた様に肉 を喰ひ切られるのであつて穴に喰へ込まれるの振られて岩にブツ付けられるのと云ふことはありま せん(目張ならそうですけれども)御承知の通り鱶の口は下の方にありますから真向からは喰ひつ きません必ず腹を反して下から喰ひつくのです又糸満漁夫として馬鹿か狂人でない限り鱶にやられ ますものか良い加減に遇あしらつて威しつけて逃かします其れ位の智ち え慧のない奴が糸満漁夫として海か らのさばつて歩かれますかソレか近頃よく鱶にやられると云ふのはダイナマを使つてからの事です お話によりますと鱶たと診断したお医者は糸満にも居られて経験がおありのさうですが今申上ける 通り糸満人の鱶害は怪しいものですからお咄はなしになりません糸満人が鱶に喰はれるとは大ダ イ ナ マ馬鹿さる者 で無ければ大ダイジンブンムチ智慧者でありますハヽヽヽ 26. 大正 3 年 7 月 9 日 琉球新報 3 面 鱶の害とは思はれず/某漁夫談 糸満町漁夫K某が鱶に喰はれたと云ふことで某医者までが鱶の傷害だと診断を下だして居るのは如 何にも怪しい鱶が人間を餌物と思ふて喰ふとすれば必ず手を撰んでバク附くのであらうか不審議な ことではないかラママイナマイトを使用するものに限りて必す右手を負傷するラママイナマイトは右手に持 ち左手に線香を持ちて魚の群集するを目掛けて海面に投け込む際爆発して右手を負傷するのが常で ある、K某の傷が右手其他の部分に微傷を受け一時人事不省となつたのより考へると彼か鱶に喰は れたとはどうしても考へられない貴紙糸満漁業者の談の如く鱶は人を咬むものでないよく人を恐
るゝ若し咬むとすれば剃刀で切り取りたる様になる今現にラママイナマイトを使用して居るのは各漁業 地に流行して居る或る鰹漁業者は曰く鰹餌の欠乏を告け当業者に打撃を蒙らしむるは皆ラママイナマイ ト使用者の為めなりと苦情を鳴らして居る目下中頭郡読谷山村には鰹時期の際糸満人がラママイナマイ トを使用して其餌料なるスルヽを刳舟一杯捕獲するから鰹餌料は大に欠乏して誠に困まると云ふて 居た伝々 27. 大正 3 年 7 月 12 日 琉球新報 3 面 K医師召喚さる/鱶の害事件につき 各漁業者及K某負傷状態を新聞紙上で見た幾多の人々は鱶の害とは全く医師の誤診で従来糸満漁夫 に有り勝ちの爆ダイナマイト薬の負傷なりと云ふ評判専もっぱらなるに其筋に於ては更に調査を初め出口部長及一刑事 は数日来現場たる小湾方面に赴き内偵をなしつゝありしが那覇警察署に於ては昨日K医師及負傷者 の同伴たりし糸満漁夫某を召喚し久場警部の手によりて数時間の訊問を受けたり 28. 大正 10 年 10 月8日 [紙名不明]□面 動物保護/水産課宣伝 本県の沿海及び河川には水産動殖ママ物の種類多きこと他に比類を見ない程で之が採捕及び増殖は将来 頗る有望である唯古来濫獲酷捕の弊に陥つた為め有用動殖ママ物中往々生産の減退を来たしたものがあ る例へば夜光介、高瀬介、黒蝶介、海鼠タイマイ、儒艮、海人草等は夫れで近来著しく其の生産を 減じた斯くの如きは産業進展上甚だ遺憾に堪えないから左記事項により取締の励行と共に大に其の 蕃殖保護に努め之が増殖を企図せねばならぬ(一)燥ママ発物を使用して漁業を為す事は魚類の蕃殖保 存に甚大なる損害を与ふるもので既に法律を以て禁止せられて居るから違犯せざる様注意すべし(漁 業法第三十六条)[略] [後略] 29. 昭和 3 年 9 月 11 日 沖縄昭和新聞 3 面 一網打尽に逮捕されたダイナマイト密売/犯人等遂に自白す [前略] 両人は共謀して昨年十二月頃より本年八月九日までの間にダイナマイト八十箱(一箱五十本入)を 鹿児島より密移入しN及びAT方に隠匿し置き之を数回に亘りAK(農)に譲渡しAは之を更□数 回に及んでYM(漁)並にJS□に譲渡した。Y□之を島尻、中頭方面□漁夫に売渡し漁夫Jは其 の妻Mと共謀して中城湾内に於て該ダイナマイトを使用して盛ん□密漁し私腹を肥した。かくして 密移入された八十箱のダイナマは転々として人から人に渡り糸満、西原、平安座、中城、各方聞ママに 散布されて私腹を肥さんとする悪漁夫等の手にも渡り近事頻々として密漁が行はれたのである[略] 30. 昭和7年 11 月[7日] 沖縄日日新聞□面 動物分布に於ける沖縄の自然的位置(三) 兼城校 玻座眞忠直 [前略]
次ぎに沖縄特産の動物を紹介するが、順序として高等の哺乳類から記す
[中略]
(六)海牛=哺乳類=ザンノイヲ=人魚と言はれている。 子に乳を呑ます時前肢で子を抱える様が人に似ている。 31. 昭和 13 年 6 月 5 日 琉球新報 3 面 ダイナマ密売買 一味捕る/渡久地署のお手柄 渡久地署では去月二十日頃より管下にダイナマイト密売買事件を検挙取調べ中のところ昨日重砲火 薬類取締法違反並漁業法違反事件として一件記録及身柄は検事局へ送致したが被疑者は [中略] [略]これを用ひて羽地村屋我地島近海で十回に亘り密漁をなし漁類百斤位を採捕したことを自供し た 32. 昭和 13 年 6 月 9 日 琉球新報 3 面 けいさつ裏表 [前略] 西表のダイナマ犯 [略]Sは昨年六月初め頃宇多良坑石炭採堀用のダイナマイト二本雷管二個導火 線一尺を盗んでFに一円で売却、Fは之を以て同年六月中旬頃字上原海岸で密漁をなしたものであ る [後略] 33. 昭和 15 年 1 月 24 日 沖縄日報 4 面 沖縄の人魚(一) 小西海南 数年間も遭はなかつた知友に、久々振りで出遭ふた場合、その人は私に向つて「君は相変らず若 いではないか」と問はれることが多い。これに対して私は「人魚を喰ふたのだから、若いのが当然 である」と答へている。 沖縄県巡遊の途次、船の南西に航行するに連れて、気候の変化が著しく、秋の央ばも尚ほ夏のや うであるのは、流石に南陬なる哉との感を禁じ得なかつた。那覇の風物は游子の目を惹き、その片 言もまた異様に聞こえることが尠なからぬ。しかし何といつても此の旅行中の圧巻は、人魚□御馳 走に預つたことである。[後略] 34. 昭和 15 年 1 月 25 日 沖縄日報 4 面 沖縄の人魚(二) 小西海南 この島においては毎年晩春のころ朔望の満潮時を窺ひ、人魚を捕獲して来たものである。 先づ漁船三隻を出して、人魚の嗜む海草の叢□せ□近海□浅瀬を捜索し□見当り次第に網を張つ て逃路□遮断する。既に人魚を囲ふたからには、漸次の網をしめて□り寄せ、終に縄を縛□上げ□ 二隻の船に架けて海岸に送致する。人魚は極度に憤怒□激昂して跳躍する兎も角も陸上に引揚ぐれば□多勢が群がつて竹木の乱打を与へ、難なく彼の息の根を断つといふ次第である。なほ此の外に も鉾を用ふるなど種々捕獲の方法かあることは、勿論の話。 人魚を捕獲すれば□直ちに其の皮を剝いで藩王に献ずべく保存する。肉は頗る淡白で何等の臭さ みなく、珍味なものとして古来、上流社会に賞美されている。また其の脂肪は乾燥して食用に供せ られるが、脂肪や内臓から採つた油は品質が優良で□灯油に用ひられたものであるが□近ごろは主 として肝油の代用に使はれるとのことである。 然らば人魚なるものゝ正体は、果して如何といふに されば疑ひもなく儒良である。人魚に就て は支那をはじめ、東洋や南洋の方面のみに止らず、欧洲諸国に在つてもまた口碑や□古典などに伝 へられている。即ち前者に在つては人魚を以て、特殊な神仙的存在とし絵画の材料に用ひられ、或 は薬品の商標に使はれ、甚しきに至つては社寺の宝物となつて、奇妙不思議な乾物を見せられる。 南洋土民の間にも、人魚に関する説話□頗る多く、或は守に用ひられ、或は神として崇められる ことすら珍しからぬ。殊に面白いことは、人魚の粘液か惚れ薬に妙といふ、一種の奇怪な迷信なの である。即ちセレベス島南部一帯に住むブギス族はアルフール族の一類でにあつて、馬来系の海洋 民族に外ならぬ。我が沖縄県民と等しく平常、海岸に出て漁業に従事し遠くはボルネオから新嘉坡 あたりまて、小さいパンカの刳舟に帆を張り、風に従つて航行し、貿易風に乗つて帰還する程□勇 者である このブギス族をはじめマカッサー族などは人魚の粘液□恋□薬になるといふので、男または女か 相手に恋するも、一向に応酬のない場合、人魚の膚から分泌する粘液を採つて、相手の気付かぬ間に、 紅茶または珈琲の中に、混入して置く、これを飲用させる方法は馬来族、惚れ薬を珈琲の中に入れ て相手に飲ませるのと同様である。飲まされた方は無意識の間に引付けられて、茲に恋愛が成立つ といふ。果して百発百中の効能ありや否やは素より疑はしいと云はねばならぬ。たゞ併□心理的に また迷信的に、飲ませた方が必成を期して接近し、相手に向ひ熱烈をこめて要求する為め、相手も 自ら引付けられるのであらう。 35. 昭和 15 年 1 月 26 日 沖縄日報 4 面 沖縄の人魚(三) 小西海南 欧州に於ては古来オデイセイロやローレライに在るものなどが、能く人口に膾炙されている。そ れにはサイレン又はシレネと□ふ美声によつて舟□を迷はせ、危難に陥らせるとの伝説□伴つてい る。もつともこれは人魚□幾ら異なるものと考へられる。兎に角マーメー□即ち海女といふものは、 仏国をはじめ欧洲あたりで、諸種の童話その他に現はれ、多大の趣味を惹き、感興を与ふ材料とな つている。 或る傀儡師は鮭の胴体と猿の頭を附けて□種珍奇□動物を作りこれを人魚と詐て公衆の観覧に供 しつつ、金持ちになつたといふ昔話にあるが、南阿には更に大仕掛けのものを見るのは、誠に可笑 しい話である。即ちケープタウンの博物館には、人魚を人間の姿に変形したロボットが一体、陳列 されて観覧させていることである。それは人魚を人間と同様に立たせて□頭には帽子を被らせ□頸 には襟と襟飾布□□、身体には洋服を着せ、立派な紳士に擬してある。人魚の形態は大抵□美しい 女に擬し、黒髪高く垂れて、海中を游泳しているのが普通である中、独りこの博物館の人魚のみが、
男体の洋服紳士に出来ているとは、真に比類のない珍奇ではないか。
儒良の英名 Dugong の出所は馬来語であるらしい。また古来、地中海を横行した海賊フエニキアー 神話 Cagon は人魚に相当するのであらう。儒良は動物学上の Sirenia 即ち海牛目に属する一種の海棲 哺乳類で、学名を Halicore dugong Hrxlrben といふその体躯は鯨よりも寧ろ□兎や海馬に類し、身長 は一丈内外。全身黄褐色を帯び、稍々黄金のやうな光輝がある。尤も前者は肉食動物だけれど、独 り人魚は全くの草食動物である。 人魚の皮膚を観測して裸体ではあるけれど、僅少□毛が散在している。胴と頭との区別が付かぬ 鯨とは違ひ、聊か判明を欠くが、頭部と胴部との間には、立派に頸部が存在している。それから体 の後端は鯨と同様、水平に偏たくなつているけれど、前肢は鰭状をこそ呈しているが、鯨のやうに 游泳の他には皆目役に立たぬものとは、大いに趣を異にしている。即ち其の屈曲が自由で□手と同 じ役目を働き、食物を口に運び、或は幼児を抱くなど、種々の動作が出来る 36. 昭和 15 年 1 月 27 日 沖縄日報 4 面 沖縄の人魚(完) 小西海南 人魚の形態は昔の絵図で見るやうに美しいものでなく、素より人面魚体でもなければ、房々とし た黒髪の持主であらう筈もない。併し哺乳動物とて□子供に□する愛情が極めて濃厚、唯に子供を 連れて遊泳するのみに止らず。半身を水面から出し仔を抱いて□哺乳させることすら稀でない。況 んや人魚の啼声は人の児が啼くやうに聞へ、人と同じく涙をさへ流すとのことである。 其の分布は八重山列島の外、沖縄本島から奄美大島に及んでいるらしい。それも今は殆んど絶滅 に近い状態であるが、西表島の如き比較的に人煙稀薄□未開の島嶼には尚ほ多少の出没を見る模様 である。 台湾に人魚□棲息する記録はないらしいが恒春方面に於ては先年これを捕獲した事実もあつて、 棲息に適応する地理的条件さへ具備すれば、台湾にも随所に分布の境域があると考へられる。 南洋方面は実に人魚棲息の、本場とも云ひ得る程なので、比律賓セレベス、ボルネオ、ニユーギニア、 瓜哇、馬来半島、濠洲の北部など到る処として、分布せざるなしと見て善い。尚ほ印度洋の側に在 つても古倫母方面や阿弗利加東海岸の中部一帯から、阿刺比亜の南岸及び紅海の一部に掛け分布し ている。また大西洋の側においてもブラヂルの中部以北から、西印度諸島にわたつて相当に分布せ ることは疑ひなしといふて善い。尤も東洋から南洋に掛けての人魚と西洋に棲息せるものとは全く 同一の種類とみるべきではない。後者は海牛□唱へられ、人魚とは似而非なる動物である。 人魚は如何なる方面からみても世界的に珍らしく、また大切なる存在であらねばならぬ。殊に学 術上極めて珍重すべき動物であるに拘ず□人文の発達□濫獲の厄難□によつて□驚くべき状勢□漸 滅の一途を辿つているのは、真に遺憾千万である。論より証拠□人魚博士といはるゝ平坂恭介教授 すら、人魚を実際に目撃したことが頗る稀、其の肉を味ふに至つては、殆んど絶望□さへ喞つてい る程ではないか。 詰り人魚は過去に於て、相当の広い区域に亘り分布蕃殖していたものに違ひあるまい。然して現 今は頭数が甚しく減少し、分布もまた極めて狭□局限せるのみならず尚ほ□漸減□縮少との捗武を 辿つている。それは人魚の習性か頗る温和である上に、廻游性かなくして、定住性である為め、濫
獲その他の危難を蒙り易いからである。かゝる始末で我が日本に於ける、唯一の棲息場たる琉球の 人魚は、既に荒廃を極め今や将に絶滅に帰せんとする惨状を呈している。台湾の人魚は最近、その 存在が判明した位であるが、放任して置けは矢張り遠からずして荒廃に陥るであらう。 沖縄県においても、また台湾総督府に在りても、共に人魚を天然記念物に指定し、これが捕獲は 勿論棲息場の攪乱を禁止したのは、遅かりしとは云へ、誠に適切な処置たるを失わぬ。 かかる次第であるから、石垣島で私の味□た人魚□珍重なものたるや勿論にして、さてこれを捕 獲したことは、疑ひもなく禁制を犯して□密猟□手段を執つたものに相違あるまい。主人側が「話 そうが如何しやうか」などと語り合ふたのは、無理からぬことも亦た自ら首肯し得るではないか。 私は既に人魚を味ふて若返つたから申す訳ではないが、人魚の保護蕃殖を謀るべく、この上ながら 捕獲□禁止□徹底的に励行するは勿論、その棲息場□も天然のまゝ保存して飽くまで之を攪乱せし めざるやう要請して止まぬものである。 終に臨みて拙作の悪詩一篇を録し敢て一粲に供し、併せて叱正を乞ふ次第である。 人 魚 非人素非魚。 憐看被愛□。 曲肢抱幼児。 慈母乃哺乳。 居常在海州。 天賦楽命数。 時□泛姿体。 稀聞□異声。 安舒游□恥。 南方蒼海明。 ―筆者 立憲民政党顧問瀬戸内海論者著― 37. 昭和 15 年3月 26 日 沖縄日報3面 採集南北行/林農林技師対談会/林義三氏 岸田久吉氏対談会(11) [前略] 佐久川 沖縄で儒艮、人魚を御覧でしたか 林 さういふものは見ませんですよ、あれは海豹だと云ふのでありませんか 佐久川 さういふやうに申しますけれども実は大島正満さすママの所に参りまして、見せて戴いたので すけれども、さう大きくはないものですね 岸田 せいぜい三米位のものですね、沖縄では糸満部落でとつたのですね、今その方にはあるかな いか知りませんがね、近頃人がどうも書かないために一向様がわからんのです [後略] 38. 昭和 15 年6月 21 日 沖縄日報2面 市町村長会の注意事項(二) [前略] 〝海の物〟保護 水産動植物蕃殖保護 近時「ダイナマイト」又は青酸加里等を使用して魚族を濫獲する事あるやに聞くも右は海底を破
壊し魚族及海藻類を死滅せしめ直ちに不漁の原因となり漁家の生活を脅威するに至るを以て法令 の厳禁する所なり□時局下特に資源愛護の大切なる秋斯の如きは誠に遺憾とする所なるを以て各 位は管□漁家の覚醒を促し自ら漁場の保護監視に任ぜしめ警察官吏とも協力の上不法監ママ獲の根絶 を期するやう留意を望む [後略] 39. 昭和 15 年 8 月 21 日 琉球新報 3 面 ダイナマで密漁/慶良鉱業鉱夫五名捕る 座間味村字屋嘉比島慶良鉱業所の鉱夫たちがダイナマイトを使用して密漁をなしていることを探知 した同島駐在當山巡査が内偵捜査の結果確証を得たので容疑者として鉱夫[略]の両人を検挙取調 べた結果 両人は坑内でダイナマイトを使用して鉱石採取業務中本年七月十三日ごろダイナマ、導火線□管 を盗み出し本月十三日ごろ屋嘉比島東海岸で魚類ミヅンをダイナマ投じて密漁 更に両人の外鉱夫[略]の三名も共謀しダイナマを盗んで同島海岸で密漁発覚五名とも身柄は那覇 署へ送られて来た 40. 昭和 15 年 11 月 29 日 琉球新報 3 面 スルヽ魚 密漁で捕る 伊是名村字伊是名[略]の五名は本月十二日午后四時ごろ伊是名字内を□□のスルル魚を行商して いるのを同字駐在大城巡査に検挙され取調べた結果同人らは同村同字伊是名[略]から斤十銭で買 入れ販売したことを供述直ちにAを取調べた結果同人は十二日朝[略]の三名共謀で字伊是名と字 勢理客間の近海でダイナマイトを使つて密猟したことを自白した 41. □年□月□日 [紙名不明]□面 天然物に指定される本県下の人魚/近海で勃々見受けるが近来捕獲は殆んど皆無 史跡天然記念物保存物調査の為め曩に本県下の調査に来県した農商務省技師田子勝彌氏は本県を 去るに臨み各郡市長に向つて儒艮俗名ザンの魚の現況調査を依頼したが郡市に於て調査の結果本県 には現在該魚生産は殆んど無く只だ所々に於て随時これを見受ける程度のもので詳細は大略左の如 くであると △来遊の時期 自四月至七月 △現在の状況 四五年に一回位捕獲することありたるも近年は至つて少し △捕穫高 目下捕獲殆んどなし稀に回游するを見ることがあるのみである △昔との比較 首ママは捕獲高多かり□し由なるも漸次減少しつゝある 儒艮は我邦では独り本県に産する特殊の魚類で一名も人魚と称されている水産専問家の談によれ ば該魚は世界的に珍奇なもので世界中これが棲息する所は殆んど稀である本県近海は往昔数多の人 魚が棲息せしも近年濫獲した為め今や其跡を絶たんとするのは寔に遺憾なことである政府はこれが 絶滅を防止せんが為め特に天然記念物に指定するものである