1.は じ め に 2017 年から 2018 年にかけて国内農機メーカによる無 人トラクタの販売が始まり,人手不足が深刻化する我が 国の農業において効率化省力化を実現する新技術として 普及が期待されている。現在販売されている無人トラク タは GNSS 測位情報を主とした各種センサ情報を統合 処理することで高精度な位置,姿勢,速度などを取得し 車両の自動運転を実現しており,走行負荷制御や作業負 荷制御など既往の車両制御技術にこの自動運転技術が加 わったことで,トラクタ作業の走行部分においては大き く自動化が進展した。一方,トラクタと作業機を利用し たほ場作業ではその時々で変化する作業方法,作業環境 や使用資材に合わせて作業前の機械設定や,作業の様子 を見ながらの設定調整など,オペレータの介入が必要な 部分はまだ多く残されている。今後,無人トラクタの普 及が進むにつれて,農作業に未習熟なオペレータによる 利用機会が増加すると予想される。また,ほ場間移動の 自動化や遠隔監視,複数台同時運用など無人トラクタの さらなる効率利用技術が実用化されると,車両周辺にオ ペレータが存在しない利用形態も想定される。これらよ り,今後は,機械設定の自動化や作業時の自動調節など 作業動作関連部分のさらなる自動化技術が求められるだ ろう。しかし,前述のようにほ場作業には用法,環境, 資材など膨大な適用条件の組み合わせがある一方で,作 業動作の自動化技術にかけられるコスト的な制約は大き い。そこで,無人トラクタの持つ高精度情報を作業機と 共有するデータ連携手法を用いることで,作業機側のコ スト増を抑えつつ作業動作の自動化を達成するアプロー チを試みた。具体的には,トラクタなどの車両と作業機, 管理システム間の通信連携に関する国際規格である ISO 11783 をベースに,自動作業に必要な実装仕様を選定し, 無人での可変施肥作業を実現するための技術開発を行っ た。開発は 2014 年から 5 か年で実施された SIP 事業の 研究課題として,ヤンマーアグリ,IHI アグリテックと 共同で実施した。本記事ではそのうち,データ連携手法 とそれを実装した試作機である無人トラクタとブロード キャスタについて紹介する。 2.試作機の構成 試作機は無人トラクタとそれに装着可能なブロード キャスタからなる(図 1)。無人トラクタは,外部入力に よる基本動作指示と車両状態出力を可能にするための ゲートウェイ ECU と,INS/GNSS 受信機やガイダンス ECU からなる航法装置を備える。ブロードキャスタは 散布量を調節するコントローラ等に加えてインプルメン ト ECU を備え,これら ECU は車両作業機間をつなぐ作 業機通信バス(Implement BUS)によって情報や動作指 農 業 食 料 工 学 会 誌 第 81 巻 第 6 号(2019) 346( 20 )
西川 純
(にしかわ じゅん) 1985 年 4 月生 2010 年農研機構生研センター入所,評 価試験部,農研機構革新工学センター 土地利用型システム研究領域を経て, 現在,同次世代コア技術研究領域 生産 システムユニット 主任研究員 農業食料工学会正会員 E-mail:[email protected]特 集
トラクタ作業機連携技術の開発と無人作業への適用
Data Linkage Technique between Driverless Tractor and Implement Takashi YAMASHITA, Jun NISHIKAWA
キーワード:トラクタ,ブロードキャスタ,無人作業,データ接続性,ISO
Keywords:tractor, broadcast spreader, unmanned operation, data connectivity, ISO
山下貴史
(やました たかし) 1980 年 12 月生 2007 年農研機構生研センター基礎技術 研究部,2016 年同革新工学センター土 地利用型システム研究領域を経て, 2018 年より,同高度作業支援システム 研究領域 主任研究員 農業食料工学会正会員 E-mail:[email protected] 図 1 無人トラクタとブロードキャスタ示を送受信できる(図 2)。INS/GNSS 受信機が ISO11783 (または NMEA2000)に対応する機種であれば,受信機 を作業機通信バスに直接接続可能であるが,本件で使用 した受信機は非対応だったため,航法装置内部バスに接 続している。ISO11783 では,このバス上の通信は各 ECU に実装される機能(Function)ごとに通信手順や メッセージ様式が定義されている。よって,ゲートウェ イ ECU がトラクタ車両を担う TECU,ガイダンス ECU が GNSS 情報と走行指示(ガイダンス),作業動作指示を 担う GNSS Guidance System と Task Controller(TC), 作業機 ECU が作業機を担う TC Client として実装した。 また,ブロードキャスタ単体での実用化を考慮して,作 業機 ECU にも TaskFile 読込機能を加えた。以上の構 成により,作業機側に GNSS 受信機を別途搭載する必要 がなく,また作業時に開始・終了などの動作指示のため のスイッチやタッチパネル等の物理インタフェースの操 作が不要になった。 3.作業指示データとデータ連携 ほ場内作業に必要な情報となる作業指示データとして は,ほ場内を効率的に走行するための車両走行指示デー タと,ほ場内の各位置での作業動作を示す作業機動作指 示データの 2 種類が必要である。ISO11783-10(以下, 同規格の-○部を Part ○と表現する)では,これらは TaskFile に記す情報として定義されており,1 つの電子 ファイルにまとめて表現できる(図 3)。よって,事前に 管理コンピュータ(FMIS)を用いて TaskFile を作成し 車両側へ送信することで,ほ場作業時点での経路設定や 基本的な作業動作設定は不要となる。 作業中には ECU 間でそれぞれの状態・動作情報や指 示情報を送受信することで作業動作を実現する。トラク タの動作は GNSS Guidance System から TECU へ,作 業機の動作は TC から TC Client へ指示される。GNSS Guidance System と TECU 間の通信は Part7,9 を参考に 実装した。TC と TC Client 間の通信は Part10 を参考に した。規格上では,作業機動作のための通信は Part10
に示される定義で実装可能であるが,本件では作業機 ECU 側での車両位置情報等の利用のために,GNSS Guidance System からの NMEA2000 メッセージ出力を 追加で実装した。 4.無人可変施肥作業への適用と考察 試作機の無人作業への適用を確認するため,可変施肥 作業(基肥散布)のためのデータを作成し,ほ場作業を 実施した。車両走行指示データについては,研究時の調 査では ISO に準拠した形式でのデータ出力機能を持つ 市販ソフトウェアが存在しなかったため,独自に開発し た経路生成プログラムに ISO 形式での出力機能を追加 し,これを利用した。また,作業機動作指示データにつ いては,市販ソフトウェアを用いて TaskFile を生成し, 作業機 ECU に読み込ませた。以上の準備ののち,農研 機構農業技術革新工学研究センター附属農場の 2.2 ha 水 田にて石灰散布作業を実施し,作業開始から終了まで特 段の手動操作を必要とせず作業可能なことを確認した (図 1)。 車両走行指示データの生成にあたっては,無人作業で は作業開始時にほ場外周を乗車走行するなどの手順でほ 場形状を取得できないため,事前に高精度なほ場外形情 報を用意する必要があった。また,Part10 に記載されて いる走行経路定義の種類が,隣接した往復経路や同心 円,うずまき状の経路パターンであるため,水田での枕 地行程(図 3 の点線部分にあたる)はこれらのパターン では簡易に表現できず,パターンを組み合わせるなどの 工夫が必要であった。往復行程では,行程端の枕地行程 と重複する部分を作業しない機能(セクションコント ロールなど)が必要であった。作業機動作指示データの 生成にあたっては,TaskFile に必須の情報ではないもの の,作業範囲を特定するためにほ場外形情報が必要で あった。また,グリッドをほ場形状に合わせて回転する 表現ができないため,指示精度を維持するために作業幅 よりもグリッドを小さくする等の工夫が必要であった。 5.お わ り に ISO をベースとした通信仕様を用いることでトラクタ 山下・西川:トラクタ作業機連携技術の開発と無人作業への適用 347( 21 ) 図 3 作業指示データ例(施肥作業)の図示 図 2 試作機の通信トポロジ
作業機間のデータ連携を実現し,無人作業が可能である ことを示した。今後より実用性を高めるためには,AEF (国際農業エレクトロニクス財団)の定める実装仕様や 関連する安全規格を考慮しつつ適用範囲を広げる必要が ある。 本研究で実施した開発のうち,TaskFile 読込機能など 可変散布技術を実装したガイダンスユニット「GPS ナビ ライナー EGL3100」を平成 30 年 9 月より IHI アグリ テックから販売している。 本研究は,内閣府戦略的イノベーション創造プログラ ム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」にて実施した。 農 業 食 料 工 学 会 誌 第 81 巻 第 6 号(2019) 348( 22 )