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不動産と企業金融との連関に係る研究とデータの重要性

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Academic year: 2021

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 特集 不動産研究におけるデータ資源【論説】 で、担保不動産の価値が低くなると、企業が調達できる 資金額や投資は減少し、それが経済全体の活動水準を低 下させる結果、不動産価格が更に下落するといった フィードバックが生まれる。価値が変動する不動産が貸 出のための担保として用いられるために、不動産市場の 動向がマクロ経済における景気変動をもたらすという議 論 は、Bernanke and Gertler (1989)、Kiyotaki and Moore (1997)が提示した理論モデルによって経済学的 な裏付けを得ただけではなく、1980年代後半から1990年 代初頭にかけて急激な不動産価格の上昇と好況、その後 の長期にわたる不動産市場と経済の低迷を経験した日本 において、強い説得力を持った。1  問題は、本当にそうした不動産市場と実体経済との連 関が存在しているのかという点であり、データを用いた 実証分析が、理論モデルの当否を検証することになる。 理論モデルでの予想は、不動産市場から実体経済への波 及だけではなく、実体経済から不動産市場へのフィード バックも含んでいる。これら両方向の因果関係の有無を 実証分析で一度に検証できれば理想的である。しかしな がら、不動産価格を表す変数と実体経済を表す変数をそ のまま比較しても、両者の統計的な相関の有無が分かる だけで、因果関係が明らかになるわけではない。そこで、 経済学における実証研究では、いずれか一方向に焦点を 当てて因果関係を議論することが通常である。  本稿では、不動産市場が不動産価値の変動を通じて企

1 .はじめに

 不動産は、企業が活動する上で欠かすことのできない 要素である。建物や土地といった不動産は、企業が生産 や営業を行う際に必要となるだけではない。必要な資金 を調達する際にも、担保として重要な役割を果たす。中 小企業や創業間もない企業など、事業内容や将来の返済 可能性が分からない先への貸出を躊躇する銀行も、企業 が不動産担保を提供するのであれば、資金提供に前向き になる。借り手である企業が返済しなければ担保に提供 している不動産が貸し手である銀行にわたってしまうた め、それを避けようと企業は経営に努力する。貸出が焦 げ付いても差し押さえる担保物件に十分な価値があれば、 銀行の損失は少なくて済む。モラルハザードの抑制と保 全というこれら 2 つの理由により、銀行は不動産担保を 提供する企業には貸出を行いやすくなる。不動産は企業 金融に、担保としての働きを通じて大きな役割を果たす ことになる。  担保として提供される不動産の価値は、市場の動向に よって上下に変動する。同じ不動産物件であっても、そ れを担保にして借りることのできる金額は、その時々の 市場動向を反映して大きく変化する。担保になる不動産 の価値が高くなれば、資金調達額が増える企業は追加的 な投資を行い、それにより経済全体の活動が活発化して、 更に不動産価格が上昇するといった連鎖が生じる。一方

不動産と企業金融との連関に係る研究とデータの重要性

A review of studies on the relationship between real estate market and firm financing and a note on the relevance of data employed for these studies

植杉 威一郎

一橋大学経済研究所教授

Iichiro UESUGI Professor, Institute of Economic Research, Hitotsubashi University

This article reviews several studies that have examined the impact of collateral value of real estate on firms’ investment and financing and emphasizes the importance of firm-level data employed for analysis. It first reviews two seminal studies, Gan (2007) for Japan and Chaney et al. (2012) for the United States, to point out their contributions as well as potential identification problems. It then explains that Uesugi et al. (2018) address some of these identification issues by taking advantage of exogenous shocks to real estate values caused by a natural disaster. Lastly, the article provides a few suggestions of data sources for future research.

1 住宅ローン市場の変調が原因となり2008年秋のリーマンショックを契機として深刻な景気後退を経験した米国では、住宅ローンを介して

不動産市場と実体経済とが連関を持っていた。これに対して日本では、企業向けの不動産担保貸出を介して不動産市場と実体経済とが連 関していた点が異なる。

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業行動に及ぼす影響に注目した研究を取り上げる。2  以下で紹介する研究は、不動産価値の変動により担保と して提供可能な資産価値が変化し、企業による投資・借 入が影響を受けたか否か、受けたとするとそれはどの程 度であったかという点を検証している。いずれも、企業 レベルのマイクロデータを用いて、因果関係を立証しよ うとした点に特徴がある。まず、日本と米国を扱った代 表的な研究を、次に、これら研究で残された課題を克服 することを目指した筆者たちによる研究の内容を説明す る。最後に、今後この分野の研究を発展させる上で必要 なデータについて述べる。

2 .日本における不動産価格と企業行動との

関係についての研究

 日本の1990年代前半における不動産価格の変化が担保 価値を通じて企業の設備投資や借入に及ぼす影響を明ら かにした重要な研究として、Gan(2007)が挙げられる。 この時期には、不動産バブルが崩壊し不動産価格が日本 各地で大幅に下落した。価格下落により、バブル崩壊前 に所有している不動産残高が大きい企業ほど、自らの所 有する不動産の価値が大きく減少し、それを担保にした 借入を得にくくなり、活動に制約が生じる。そこで、バ ブル崩壊前の1989年における企業の土地保有残高が外生 的に与えられているとみなし、残高が大きい企業ほど、 バブル崩壊後に設備投資や借入額が小さくなるかどうか を調べる(Table 2)。事前に企業が所有する土地の量と その企業の投資機会との間に相関がない限りにおいて、 推計により、土地価格の低下が担保価値の低下を通じて 設備投資や借入額の減少をもたらすかどうかという因果 関係を検証できる。  検証に際して留意しなければならないのは、企業は、 担保資産を提供して借入を行う際に、借入先の銀行がラ ンダムにではなく、企業自らの属性や銀行との関係に基 づいて決まる点である。もし、不動産担保貸出を積極的 に提供する銀行から不動産を多く持つ企業が借り入れを 行い、その銀行が後に財務危機に陥り銀行側の理由で貸 出を減らした場合には、不動産担保貸出を得ていた企業 ほど借入を得にくいという、間違った因果推論を行って しまう可能性がある。こうした間違いを防ぐために、上 場企業の銀行別借入残高情報を被説明変数にして、銀行 の属性を制御した上で、保有土地価値の低下がもたらす 影響を調べる(Table 5)。これにより、同じ銀行から借 りている企業の間で、事前の保有不動産の多寡が企業-銀行取引関係の存続や借入残高に影響するかどうかを明 らかにできる。また、設備投資についても、企業ごとに 最大額を貸している銀行を特定し、その銀行固定効果を 制御した推計を行っている(Table 6)。  日本は、他の国に比しても企業と銀行との関係が密接 であり、企業に負のショックが生じたとしても、銀行が 何らかの形で企業に資金繰り支援を行う可能性がある。 こうした状況下でもし、不動産価格の下落に起因する担 保価値の毀損が、銀行からの支援が可能であったにもか かわらず企業の借入や設備投資を減らすのであれば、担 保価値の毀損を通じて企業に生じる負の効果はかなり強 いものだと言える。  日本における製造業上場企業を対象にした分析の結果、 バブル後の不動産価格の下落の影響を大きく受ける企業 ほど、設備投資が小さいことが分かった。借入については、 影響の大きな企業ほど銀行との取引関係が途切れやすく なるだけでなく借入残高も小さいとの結果が得られた。  以上の分析で用いているのは、日本政策投資銀行が定 期的に刊行している上場企業に関する財務諸表と各上場 企業が取引銀行から借り入れる残高に関するデータであ る。特に重要な、バブル崩壊前における事前の土地保有 残高については、毎年の貸借対照表に含まれている土地 の簿価ベースの保有残高をHayashi and Inoue(1991)の 手法に従って時価換算した上で求めている。銀行-企業 ごとの借入残高も分析に用いているところは、この研究 のユニークな点である。  しかしながら、この研究では、用いているデータの制 約から、いくつかの課題が残されている。最も大きな課 題は、事前に企業が保有する土地残高だけを用い、不動 産市況が悪化した際の不動産価値の低下程度を企業ごと に計測していないことに伴う問題である。Gan(2007) は、1989年時点での企業が保有する土地の時価を一定の 仮定を置いて推計した上で、それを不動産価格が大幅に 下落した時期の設備投資率に回帰して、その係数が有意 に負であることを見出した。この結果をもってこの論文 は、保有土地価値の下落により担保価値が毀損し、企業 の設備投資や借入が負の影響をこうむったと論じている。  不動産価格が全国同じ割合で下落し、各企業の有する 保有土地の時価も同一の比率で低下しているとの前提を 置けば、この議論は正しい。しかし、バブル崩壊は日本 全国で生じた現象だったとは言え、不動産価格下落程度 には地域や用途による違いが相当程度存在していた。各 企業における保有土地価値の下落幅を計測せずに、事前 の価値に比例して一定率下落すると仮定することで、そ の下落の影響を正確に推定できていない可能性があ る。3  また、不動産保有と投資機会との間の相関も考慮する 必要がある。もし、不動産を多く保有する企業ほど地域

2 反対方向の因果関係に関する検証、すなわち、一般の経済活動が不動産市場に及ぼす分析も多く行われている。Favara and Imbs(2015)、

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の需要ショックに敏感に反応する傾向があると、企業の 保有不動産の価値が投資の及ぼす影響が過大評価される ことになる。Gan(2007)は、これらの点に対処するた めに、事前の投資率を説明変数に加える、需要に関係し そうな売上高伸び率などの変数を説明変数に加える、と いった追加的な検証を行っている(Table 3)。しかしな がら、観察することのできない企業固有効果を制御する ことができていないために、これらの対応では十分では ないとの指摘があり得る。

3 .米国における不動産価格と企業行動との

関係についての研究

 米国の1990年代から2000年代半ばにかけての不動産価 格の変化が、担保価値の変化を通じて企業の設備投資や 借入に及ぼす影響を明らかにした重要な研究として、 Chaney, Sraer, and Thesmar(2012)がある。Gan(2007) が不動産価格の下落期に焦点を当てていたのに対して、 反対方向、つまり不動産価値が上昇する局面における効 果を調べている。この研究は、バブル崩壊のような大き なショックに注目してその影響を計測するのではなく、 平時の不動産保有時価の変化に注目して、担保価値が企 業の設備投資や借入額に及ぼす影響を明らかにする。  分析で最も重要な説明変数が、企業ごとの保有不動産 価値である。彼らは、保有不動産価値を企業・年ごとに 推計し、説明変数の一つとして用いている。不動産のう ち建物については、分析期間の最初である1993年の段階 で分かっている累計減価償却額と簿価から当時の建物年 齢を計算した上で、州レベルもしくはMSA(Metropolitan Statistical Area)レベルの住宅用不動産の価格変化率な どを用いて、各企業の保有不動産の市場価値を算出する。 この計算過程で問題になるのが、保有不動産の所在地で ある。本社住所はすべての対象企業について分かる。そ こでこの研究では、企業は本社不動産を賃貸ではなく所 有している、本社周辺に保有不動産は集中しているとの やや強い仮定を置いて、本社が所在する州やMSAにお ける不動産価格情報を用いている。4  こうした操作により、Chaney et al.(2012)は、保有 不動産の価値の時間を通じた変化を把握し、変化が企業 活動に及ぼす影響を、Gan(2007)より正確に計測して いる。米国の1993年から2007年にかけての上場企業を対 象にした分析の結果、保有不動産の価値の増加により企 業の設備投資は増加することが分かった(Table 5)。 1 ドルの保有不動産の価値増加に伴い、0.06ドル分の設備 投資増加が生じており、経済的にも十分大きな影響を 持っていると言える。  一方で、不動産価格を明示的に考慮することで、新た な課題が生じる。すなわち、不動産価格が投資機会と相 関を持つ場合に、推計結果にバイアスが生じるという問 題である。これは、次の 2 つの理由から起きる可能性が ある。第一は、逆方向の因果である。投資機会が増加し た企業では、自らが立地する地域で、設備投資に加えて 雇用や中間投入への需要を増やして生産活動を拡大する。 その結果として、その地域での不動産価格が上昇する可 能性がある。この研究では、地域経済に大きな影響力を 持つ大企業が分析対象であり、こうした逆因果が生じや すい。第二は、不動産価格の変化が地域需要へのショッ クを表しており、不動産を多く持つ企業が地域需要への ショックに敏感に反応するというものである。  この研究は、不動産価格の内生性には、操作変数、具 体的には、MSAごとに算出される不動産供給の価格弾 力性と金利との交差項を不動産価格に用いることで対処 している(Table 3)。金利は不動産への需要に影響する 変数である。それがどの程度価格に反映されるかは、地 域ごとの供給の価格弾力性に依存する。供給の価格弾力 性が高い地域であれば、需要が増えても新たな不動産が 供給されるために不動産価格はあまり上昇しない一方で、 供給の価格弾力性が低い地域では、供給余力が小さいた めに需要の増加は不動産価格上昇につながりやすい。  なお、Gan(2007)に対しても指摘されていた不動産 保有と投資機会との間の相関は、この研究でも考慮する 必要がある。両者の相関によるバイアスの可能性に対し ては、企業の事前の属性と不動産価格の交差項をコント ロール変数に加えること(Table 5など)、投資の不動産 価格に対する弾力性を不動産購入前後で比較すること (Table 9)を通じて対処を試みている。  以上の分析で用いているのは、米国上場企業に関する 財務諸表を集積したCOMPUSTATと、州もしくはMSA毎 にOffice of Federal Housing Enterprise Oversight (OFHEO)から公表されているHome Price Index (HPI)、

限られたMSAについて公表されているオフィス・商業 不動産価格指数である。対象は、金融、保険、不動産、 建設、鉱業を除く業種に属する企業であり、最大約 2 万 7 千企業・年からなるパネルデータセットに基づいて推 計を行っている。パネルデータであるために、企業固定 効果をコントロールすることができる。  また、不動産価格の内生性に対処するために金利と交 差させて用いられる、不動産供給の価格弾力性も重要な データである。これは、Chaney et al.(2012)が作成し たものではなく、Saiz(2010)が米国のMSAを単位とし 3 この論文では、47都道府県の地価水準を説明変数に加えても推計結果に変化がなかったとしている(4.3.2節)。推定式や結果が示されてい ないので正確な内容は把握できないが、初期時点における都道府県の地価水準やその後の変化を、企業が保有する不動産価値を測る変数 に何らかの形で反映させることが必要だと思われる。 4 この仮定の妥当性に係る検証結果をTable 2 で示している。

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て推計したものを用いている。Saizは、MSAを単位と して、不動産価格を被説明変数に、住宅ストックの量、 水域や急傾斜地などの地理的な制約で利用できない土地 の割合、不動産開発に係る規制の強さに関するインデッ クスなどを説明変数に用いて推計を行うことにより、時 間を通じて変化しない供給の価格弾力性を求めている。

4 .これまでの問題点の解決を試みている研究

 しかし、これらの研究でも依然として残るのは、企業 が保有する不動産価値の外生的な変動を計測することの 難しさである。第一に、不動産市場の上昇局面でも下降 局面でも、不動産価格の変化程度の差異が、投資需要の 差異と相関を持っている可能性が高い。Chaney et al. (2012)では、米国のMSAや州の不動産価格に操作変数 を適用して、その問題に対処している一方で、日本では、 まだこうした不動産供給の価格弾力性指標が開発されて いない。第二に、企業が保有する不動産価値の変遷を推 定している米国における研究でも、不動産価値をMSA 単位もしくは州単位で計測しており、企業ごとに保有す る不動産の場所や属性、価格が異なるという個別性を正 確に把握することができていない。  そこで、これらの課題に対応し、企業が保有する不動 産価値の外生的な変化をより正確に把握した上で、それ が企業の資金調達や設備投資にもたらす影響を検証した、 Uesugi et al.(2018)を紹介する。  本研究の特徴は、東日本大震災によって企業が被る不 動産などの有形固定資産の被害に注目する点にある。 2011年 3 月11日に発生した東日本大震災は、津波と原子 力発電所事故を伴う形で東北地方に甚大な被害をもたら し、被災地には保有資産の価値を毀損した企業が多く存 在する。こうした被害に伴う保有資産価値の変化は、企 業における投資や資金需要とは関係しない外生的ショッ クとみなすことができる。このショックが企業のその後 の資金調達に与えた影響を見ることで、企業が保有する 担保資産価値の変化の効果を計測することができる。  用いるデータは、東北地方に立地する企業を対象とし て震災後の2012年 7 月以降に 4 回にわたるアンケート調 査「震災復興企業実態調査」(以下復興実態調査)から得 られたものである。東北地方の 3 県 1 市(岩手県、宮城 県、福島県と青森県八戸市)に所在して調査に回答した 企業が分析対象である。このアンケート調査は、企業に 震災による保有有形固定資産の被害額を直接尋ねており、 土地の被害額として評価損額、土地を除く有形固定資産 の被害額として同等のものを再購入あるいは補修するの に必要な額を知ることができる。これは、震災という非 常時における事象に注目しており一般性に欠ける一方で、 企業ごとに有形固定資産の価値の変化を正確に測ること ができる点で、Chaney et al.(2012)のように、企業保 有の不動産価値の変化をMSAや州ごとに算出された不 動産価格指数で把握する手法よりも優れていると言える。 また、分析対象のほとんどが中小企業である点でも、上 場企業を対象としたGanやChaney et al.とは異なる。中 小企業は、銀行からの借入、中でも不動産担保借入に資 金調達の多くを頼っており、不動産価値の毀損は企業経 営により深刻な影響を及ぼす可能性がある。  得られた結果をみると、震災による有形固定資産の価 値毀損額が大きい企業ほど、十分な借入を行えない確率 が増加する。この効果は、土地の評価額が減少する場合 でも、土地以外の有形固定資産価値が毀損する場合でも 共通して見られており、企業保有資産の減少が借入に負 の影響をもたらすことを示す。もっとも、設備投資には 有意な負の影響は見られない。これは、企業の保有資産 価値の変化が設備投資に有意な影響を及ぼすとしたGan やChaney et al.の結果とは異なっている。先行研究との 差異の原因については、今後の検討課題である。

5 .データに関する今後の課題

 企業が保有する不動産価値の変化は、企業自身の活動 に影響するだけではなく、経済活動全体の変動にも大き な影響を及ぼすことが理論的に指摘されてきた。大企業 の資金調達は、不動産を担保とする借入によってはもは や行われていないのではないかと主張する研究も最近現 れてきた。5 しかしながら、貸し手と借り手の間での 非対称情報の度合いが著しい中小企業向け金融では、不 動産を担保に銀行が提供する貸出は、依然として重要な 資金調達手段である。  しかしながら、その検証結果は、いくつかの仮定に基 づいて行われており、変数の正確性、外生性の点でいく つかの課題があることを、本稿では 3 つの研究成果に触 れつつ示してきた。企業が保有する不動産の価値をより 正確に把握する、もしくは外生的な保有不動産の価値の 変化を把握するためには、データ面では今後何が求めら れるだろうか。日本におけるデータ整備という点では、 以下の 2 点を挙げることができる。  第一に、企業レベルでの不動産保有データベースの整 備を進めるとともに、データベース間での接続可能性を 高めることが挙げられる。日本や米国における先行研究 では、上場企業の財務諸表データに基づき一定の仮定に 基づいて保有不動産の時価を求めている。しかしながら、 保有不動産の場所や面積といった属性情報が存在してお らず、その価値の変化を正確に把握することができてい ない。日本では、国土交通省により、「法人土地・建物

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基本調査」が 5 年おきに、「企業の土地取得状況等に関 する調査」が毎年行われており、企業が取得・保有する 土地の属性に係る情報を得ることが可能である。また、 登記簿情報を企業ごとに集約すれば、より網羅的な企業 ごとの不動産保有状況の把握が可能となる。もしこれら の情報を、投資や資金調達などの企業活動に関する様々 な情報を有する他のデータベース、例えば、財務省の法 人企業統計調査や上場企業の財務情報と接続することが できれば、企業が保有する不動産の価値を今までよりも 正確に把握した上で、その変化が企業行動に及ぼす影響 を、定量的に検証することができる。  第二に、不動産供給の価格弾力性に関する指標の整備 が挙げられる。米国ではSaiz(2010)、英国ではHilber and Vermeulen(2016)がそれぞれ、地域レベルでの不 動産供給の価格弾力性に係る指標を提供しており、不動 産市場と実体経済との連関を明らかにしようとする様々 な研究に利用されている。日本でも中島等(2018)が同 様の指標を作成中であるが、不動産の開発規制などに関 する指標を作成して推計に含めるなどの改善が必要であ る。早期の完成が待たれる。 参考文献

Bernanke, B. and Gertler, M. (1989) “Agency Costs, Net Worth, and Business Fluctuations” American Economic Review, 79 (1), pp.14-31

Chaney, T., Sraer, D., and Thesmar, D. (2012) “The Collateral Channel: How Real Estate Shocks Affect Corporate Investment” American Economic Review, 102(6), pp.2381-2409

Favara, G. and Imbs, J. (2015) “Credit Supply and the Price of Housing” American Economic Review, 105(3), pp.958-92 Gan, J. (2007) “Collateral, Debt Capacity, and Corporate

Investment: Evidence from a Natural Experiment” Journal of Financial Economics, 85, pp.709-734

Hayashi, F. and Inoue, T. (1991) “The Relation Between Firm Growth and Q with Multiple Capital Goods: Theory and E v i d e n c e f r o m P a n e l D a t a o n J a p a n e s e F i r m s ” Econometrica, 59(3), pp. 731-753

Hilber, C.A.L. and Vermeulen, W. (2016) “The Impact of Supply Constraints on House Prices in England” Economic Journal, 126(591), pp. 358-405

Kiyotaki, N. and Moore, J. (1997) “Credit Cycles” Journal of Political Economy, 105(2), pp. 211-248

Kurashima, D., Mizunaga, M., Odaki, K., and Watanabe, W. (2013) “Is Leverage a Determinant of Asset Price ? Evidence from Realestate Transaction Data” RIETI Discussion Paper Series, E13-082

Lian, C. and Ma, Y. (2018) “Anatomy of Corporate Borrowing Constraints” Working Paper

Saiz, A. (2010) “The Geographic Determinants of Housing Supply” Quarterly Journal of Economics, 125(3), pp.1253-1296

Uesugi, I., Miyakawa, D., Hosono, K., Ono, A., and Uchida, H. (2018) “The Collateral Channel versus the Bank Lending Channel: Evidence from a Massive Earthquake” HIT-REFINED Working Paper Series No.79

中島賢太郎、植杉威一郎、細野薫、水田岳志(2018)「都市雇用圏 別不動産供給価格弾力性(ベータ版)推定値について」 http://www.ier.hit-u.ac.jp/hit-refined/Japanese/database/elas.

参照

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