• 検索結果がありません。

現代日本の経済と社会;景気,人口,格差,原発,田中史郎著[社会評論社,2018年]

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "現代日本の経済と社会;景気,人口,格差,原発,田中史郎著[社会評論社,2018年]"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

書評

現代日本の経済と社会

衽衲

景気,人口,格差,原発

田中史郎

著[社会評論社,2018年]

柴崎慎也

北陸大学 Ⅰ はじめに 「明治から70 年の一つの帰結が大戦であるとすると, 戦後 70 年の帰結は何なのか?」(11頁)衽衲との印象的 な問いかけをもってはじまる本書は,その表題どおり 『現代日本の経済と社会』を解読するうえで不可欠な テーマがふんだんに盛り込まれた,2018 年における会 心の一書である。サブタイトルに掲げられた「景気,人 口,格差,原発」をキーワードに,本書では自他ともに 認める「これまでの通説や常識とはやや異なった理論や 主張」(239頁)が展開されたうえで,著者独自の現代日 本の経済・社会像が描き出されている。戦後 70 年の現 代を生活する者にあって本書の示す「帰結」は,それが 如何なる内容のものであれ真摯に受け止める必要があ ろう。 もっとも,評者には本書で提示される「戦後 70 年の 帰結」および問題提起・政策提言を十分に論評する能 力は到底ない。したがって,紙幅の都合を言い訳に, ここでは本書の示す「帰結」の論評および各章の概要説 明は控え,可能な範囲で本書を読み解く際のポイントを 示すこととしたい。以下,各章の概要説明にかえ,本 書の簡略な目次のみをあらかじめ示しておく。 第 1 部 経済社会の史的展開 第 1 章 日本経済の軌跡 第 2 章 アメリカ発金融危機と日本経済 第 2 部 諸問題の構造的分析 A.景気循環とその構造 第 3 章 経済成長と景気循環 第 4 章 「いざなみ景気」と「アベノミクス景気」 B.少子高齢化と人口 第 5 章 高齢化社会論の批判的検討 第 6 章 少子高齢化社会論の実相 C.労働と格差 第 7 章 階層構造の実態と変容 第 8 章 労働と格差の現状と課題 D.エネルギーと原子力発電 第 9 章 脱原発とエネルギー 第10章 原子力発電の闇 Ⅱ 本書の視点 理論的視点 本書を読み解くうえで第1のポイントとなるのは,その 理論的な視点である。「若い時は経済理論を専攻し, 必ずしも日本経済論を専門としていたわけではない」 (239頁)とあるように,著者の研究は 1991 年に上梓され た『商品と貨幣の論理』(白順社)に代表される原理論研 究をもって始められている。したがって,本書の議論は 概ね現代をターゲットに展開されるものの,そこには 端々に鋭い理論家としての視点が見受けられる。 例えば,本書には 6 つの「補論」が付されているが, そのいくつかは理論的視点が前面に出されている。す なわち,「[補論]アベノミクスについて」(25-27頁)では, 「3 本の矢」のうち「大胆な金融政策」と「機動的な財政 政策」それぞれの背後にある「貨幣数量説」,「トリクル ダウン理論」ないし「シムズ理論」が,「ひどい俗説」ある いは「理論的にも,実証的にも根拠がない」と切り捨て られている。また,「[補論]シュンペーターとハンセン の複合循環論」(84-89頁)では,後述するように,戦後 日本における景気循環のあり方を解明するうえでの理 論的な準備作業がなされている。さらに,「[補論]階 級と収奪・搾取」(158-160頁)にあっては,現代の資本主 義における階級構造が経済理論の想定する資本家と労 働者の「二大階級」を基礎に分析されているほか(ただ し,土地所有者という階級を想定しないことはどのよう な意図かという疑問は残る),現代において階級が忘 れられる原因が「収奪と搾取」概念をもって説明されて いる。 なお,こうした理論的視点は当然「補論」にとどまるこ となく,本論においても貫かれている。すなわち,現代 の日本における雇用・労働問題を論じる際には,まず もって原理的な労働・生産過程論が確認されるうえ (166-167頁),90 年代以降の日本におけるデフレないし 季刊 経済理論 第55巻第4号 2019.1 094

(2)

デフレ・スパイラルといわれる「明確な定義はない」現象 に切り込む際にも,抽象レベルの高い「企業と家計の2 部門モデル」を用いた理論的基礎づけが周到になされ ている(68-73頁)。また,高齢化や少子化を議論する段 にあっては,「経済原則と経済法則」という観点からそ のことの現代資本主義にとっての解釈がなされているほ か(138頁),現代の階層化の変容を捉える際にもそれに 先立って,しばしば原理論にあっても使用される2つの ファクターを縦軸と横軸に掛け合わせ4つの象限を摘出 する「思考実験」がなされている(154-156頁) さらに,この理論的視点は議論の展開にあってのみ ならず,そもそもの問いの立て方それ自体に看取される。 90 年代以降の高齢化社会をめぐる一連の議論に対し, 「今日は本当に高齢化社会なのだろうか」という「より根 源的な問い」を立てることはその象徴であろう(110頁) このことはまた少子化に関する一連の議論に対し,そも そもの議論の前提となっている合計特殊出生率に疑い の目が向けられる点でも通底している(125頁)。こうした 前提の洗い出しを含んだ「より根源的な問い」の立て方 は,理論的研鑽を積み重ねてきた著者にあって「必ず しも日本経済論を専門としていたわけではない」からこ そ可能となったオリジナリティの発露であるといえよう。 要するに,本書における「現代日本の経済と社会を 総体として解読し,展望を示す試み」(4頁)は,次にみ るそれを後押しする歴史的ないし段階論的視点と,裏 打ちとなる理論的視点とが兼備されることによって,徹 頭徹尾,経済学的ないし社会科学的補強を与えられて いる。こうした堅牢な学問的基盤をもつ本書の示す「戦 後 70 年の帰結」が,それをもたない凡百の経済書に示 される「現象記述」と,一線どころか十線も百線をも画 すものであることは言うまでもないであろう。 段階論的視点 本書における第 2のポイントは,その歴史的ないし段 階論的視点にある。本書では,第 2 部における人口や 格差,エネルギーといった現代日本の個々のテーマの 分析に先立って,江戸時代から現在までの日本経済の 歩みが通史的に描かれている。もっとも,ここでも著者 独自の観点が貫徹しているのであって,単なる通史に 終始しているわけではない。 本書において,日本経済の歴史像を切り出すうえで キーワードとなるのは,景気循環である。景気循環の 変質をもって歴史を段階的に区分する,いわゆる景気 循環アプローチはひろく知られているが(侘美[1994]など), 本書ではこのアプローチを戦後日本に適用する試みが なされていると捉えることができる(したがって,評者の みる限り,景気循環をキーワードに展開される第 3・4 章 は,第1部に括る方が適当と考えられる)。 すなわち,「景気基準日付」にしたがえば,戦後の景 気循環は,1951 年 6 月を山とする第 1 循環に始まり, 2012 年 11 月に開始され現在(2018年10月)まで続く第 16 循環まで観測されている。本書ではこれを下敷きに議 論を展開するものの,「これまでの 16 回の短期循環は 同じような循環が繰り返されたわけではな」いことから (97頁),「ほぼ 10 年を周期」(57頁)とする「第 0 期」〜「第 VII 期」の 8 つの類型化されたパターンが提示されてい る(96頁,図表4-2)。そのうえで,各期の循環の特徴およ びその変質のあり方が明示され,それを踏まえた戦後 日本に対する景気循環アプローチに基づく段階論的な 把握がなされている(第3・4章)。明治維新から敗戦まで の「戦争の時代」に対する「戦争のない時代」としての戦 後 70 年の歩みは,本書にあって,1970 年代の石油危 機までの第 I・II 期パターンから構成される「高度成長 期」,バブル景気の崩壊までの第III・IV期パターンから なる「中成長期(安定成長期)」,そして第 V 期パターン 以降の「ゼロ成長期」の3つの時期として切り出されるの である(4頁)。 このような戦後日本を捉えるうえでの段階論的な視点 は,当然第 2 部における個々のテーマを論じる際にも 効いている。評者の目にとくに象徴的に映ったのは, 本書の展開する,いわば資本主義の「変容」を織り込ん だ高齢化社会論である。そもそも資本主義経済を段階 的に捉える視角は,資本主義経済それ自体を時代と ともに「変容」(=部分ではなく全体が変わる)する対 象として捉える視角と結びついている。これを想起す れば,現代の資本主義を分析する際にも,それを変 わることのない固定された対象として前提することはで きない。 「通説的な高齢化社会論」および「通説的な高齢化社 会論批判」がともに前提とする生産的人口と非生産的 人口を切り分けるうえでの14 歳以下および 65 歳以上と いう「固定的な年齢基準は,ある国の時系列的な社会 的な問題を考える場合には基準として成立しない」(113 頁)との見方は,したがって,変容に資本主義の本質を みる段階論的な視点なくしては打ち出すことの困難な見 方であり,本書のオリジナリティを示すものとして捉える ことができよう。なお,詳説は断念するが,この他「少 子化社会論」(130-138頁)や「世襲化」(152-153頁)などを論 書評 095

(3)

じる際にあっても,こうした視点が明確に活かされてい ることを付記しておく。 現状分析 以上のような理論的および段階論的視点を踏まえ提 示される「現代日本の経済と社会」に対する現状分析お よび問題提起が,本書を読み解くうえでの第 3のポイン トとなる。本書において提示される「戦後 70 年の帰結」 を一言でいえば,「実体経済の疲弊が進んでいる」(28 頁)ということになろう。言うまでもなく,本書で対象とさ れる現状分析のテーマは多岐にわたる。したがってここ では,主だった本書の提起を箇条書き的に示すにとど めておく。 亜「経済成長の問題」について。高度成長の要因が 存在しない今日においては,「いたずらに成長を求める ことは必ずしも有意義」ではなく(24頁),「堅調な内需拡 大」を基礎とする「アンバランスな経済成長に依存しない 社会の形成」が必要とされている(51頁)。 娃「雇用・労働問題」について。「一方でいわゆる正 規労働者の超長時間労働があり,他方で新規卒業者 にとってあい変わらず就活が求められるという構造が 存在する」現在の「異常」な状況を立て直すには(24頁), 「ワークシェアリングが実行されなければならない」(184 頁)。また,労働者派遣法の制定以来,急速に進展す る雇用の不安定化等に対しては,「セーフティネットの強 化(広義の社会保障)」,「派遣労働の禁止」,「パート 労働の自給アップ」,「疾病保険の整備」,「年金制度 の立て直し」,「ベーシックインカム」の考察などが提起 されている(51-52,184-185頁)。 阿「少子高齢化の問題」について。盛んに論じられて いる通説的な高齢化および少子化の議論に対しては, 「冷静な現状認識」と「高校・大学といった高等教育問 題」(「高校教育の義務化」を含む)および「高齢者の雇 用・就労問題」への「政策的対応」が求められるとされる (120,122頁)。また「子育て支援」は「少子化か否かとは 無関係に,社会保障の問題として位置づける」必要が 示されている(142頁) 哀「階層化の問題」について。低成長かつ政治的・ 社会的な安定化にある今日にあっては,「世襲化」によ る階層化が進展しており,かつての「努力すればナント カなる」社会は「努力してもしかたない」社会に変容した (156-157頁)。これに対しては,「社会的な長期安定から 生ずる副作用を最小化する」こと,「そこから発生する弊 害をいかに除去するかが問われる」とされる(157頁)。 愛「環境・エネルギー・軍事問題」について。「成長の 限界を自覚し,他方でこれまでの環境破壊型のエネル ギーとは異なる自然エネルギーを確立する」ことが必要 とされる(25頁)。また,原発と軍事との密接な関係に細 心の注意が払われている(第9・10章)(なお,資本主義と 軍事の関連については,田中[2018]を参照されたい。 そこでは「過剰商品化」という著者の問題意識にかかわ る,本書の続編と位置づけることのできる議論が展開さ れている)。 挨「金融化の問題」について。変動相場制への移行 によって,外国為替や住宅ローンの債権など需要が見 込まれるものは如何なる対象であれ商品化され投機の 対象とされてきた。しかし,こうした「実体経済から遊 離した金融経済の肥大化は経済混乱の一因」となるた め,「金融のルールを確立し,これらを何らかコントロー ルすることが必要」とされる(25頁)。具体的には,「株式 自己保有の禁止,持株会社の禁止,株式の短期売買 への規制」などが提起されている(55頁)。また同時に, 「金融工学の問題点も明確にすべき」との指摘もなされ ている(49頁) 以上,本書の現状分析に基づいた提起をあまねく網 羅できたわけではないが,ここで概観しただけでも本書 の射程範囲の遠大さを見て取れよう。 Ⅲ 若干 の考察 ここまでみてきて分かるように,本書は理論,段階論, 現状分析の,いわば経済学ないし社会科学における三 種の神器を兼ね備えた力作である。もっとも,これに 対し,評者は本書の「帰結」および提言を論評するだけ の能力を兼ね備えていない。したがって,ここでは最 後に,著者もかつて専攻し,また評者の現在の専攻で もある経済理論の今後の課題を若干,本書の議論に 照らし摘出しておきたい。 亜景気循環論について。従来からの好況→恐慌→ 不況の時系列的な景気循環論に対し,近年では不況 論に着目し,時系列を排した新たな景気循環論が提起 されている(江原[2018])。どのような構成をもって景気循 環論はつくられるべきか,段階論および現状分析を見 据え一から再考する必要があるうえ,近年の市場組織 論などの理論的成果を組み込んでいく必要がある。 娃金融化について。2008 年危機で問題となった最 終消費者に対する信用については,正面から理論化す る必要があると考える。また同時に,労働者の消費者 季刊 経済理論 第55巻第4号 2019.1 096

(4)

としての側面を高い抽象次元をもって理論的に明らか にする必要がある。 阿再生産について。社会的な再生産の視点から, 再生産できないさらに外側の環境ないしエネルギーの 問題についても理論的枠組みが必要と考える。また, 労働力に対する再生産概念の適用についても,労働 市場論を踏まえた再考が必要である。 参照文献 •江原慶[2018]『資本主義的市場と恐慌の理論』日本経済評論社。 •侘美光彦[1994]「段階論とは何か衽衲最近の段階論修正説につい て」『経済学論集』東京大学,第60巻第3号。 •田中史郎[2018]「技術,軍事,そして資本主義衽衲デュアルユースと 戦争ビジネスをどうとらえるか」『季刊 経済理論』経済理論学会編,第 55巻第3号。 書評 097

参照

関連したドキュメント

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

睡眠を十分とらないと身体にこたえる 社会的な人とのつき合いは大切にしている

地方創生を成し遂げるため,人口,経済,地域社会 の課題に一体的に取り組むこと,また,そのために

このような状況のもと、昨年改正された社会福祉法においては、全て

関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化

析の視角について付言しておくことが必要であろう︒各国の状況に対する比較法的視点からの分析は︑直ちに国際法

本稿で取り上げる関西社会経済研究所の自治 体評価では、 以上のような観点を踏まえて評価 を試みている。 関西社会経済研究所は、 年

社会的に排除されがちな人であっても共に働くことのできる事業体である WISE