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リスク情報を活用した原子力発電所運用の実用的な意思決定手法とその安全上の効果

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Academic year: 2021

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(1)日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2, p. 41-49(2021), doi:10.3327/taesj.J19.029. 論 文. リスク情報を活用した原子力発電所運用の実用的な意思決定手法と その安全上の効果 1,*. 爾見 豊. Practical Method of Risk-Informed Decision Making in Nuclear Power Plant Operation and Its Safety Effect Yutaka SHIKAMI1,* 1. Japan Power Engineering and Inspection Corporation, 2-10-12 Shibadaimon, Minato-ku, Tokyo 105-0012, Japan (Received March 16, 2020; accepted in revised form January 6, 2021; published online May 12, 2021). Before the Fukushima-Daiichi Accident, Japanese nuclear power plants(NPPs)were utilized with a capacity factor of around 70%, 20% lower than the US capacity factor of around 90%, which is a consequence of Japanese NPPs being operated with a shorter fuel cycle and longer outage period. One reason for this situation is that Japanese decision making is strongly focused on equipment reliability. In a typical pressurized-water reactor, however, core damage frequency(CDF)during refueling outage is higher than that during operation, that is, a short fuel cycle could possibly increase the total CDF of NPPs. In this paper, a decision-making rule using an index representing CDF par power generation is firstly proposed. Secondly, using this rule, a decision process is simulated to optimize the fuel cycle and refueling outage period while showing the effects on CDF reduction in each plant. Thirdly, by applying this decision process to all Japanese NPPs, the total CDF reduction in Japan is indicated. This simulation shows that the change of decision-making rule will bring about an 18% CDF reduction or 16% increase in power generation in total in Japan. At the same time, each NPP gains strong incentive to improve its own safety because this new rule permits a higher capacity factor operation only for the NPPs that are safer than the average. KEYWORDS: risk-informed decision making, core damage frequency, nuclear power plant, reactor safety, severe accident, reactor oversight process, capacity factor, maintenance. 与える影響が正確には推定できず,また,広く認められた. I. 緒  言. 明確な意思決定ルールも存在しないため,運用変更判断が. 米国と比較した日本の原子力発電所の運用の特徴の 1. されない状況が継続してきた。. つに連続運転期間の短さと燃料交換停止期間の長さがあ. このような例には,運転中機器を保守のために待機除外. る。 こ れ は 米 国 が 2000 年 以 降 継 続 的 に 実 現 し て い る. とする「保守を主目的とした待機除外」が認められておら. 90%前後の利用率1)に対し,福島第一発電所事故の影響で. ず停止期間中に多くの機器の分解点検が集中し,燃料停止. 利用率が極端に低下する前の 2001~2010 の 10 年間をみ. 期間が長い状態が継続していることがある。他の例として. ても日本の平均利用率が 69% であったという違いとして. は,連続運転期間の延長,すなわち燃料交換なしに連続運. 現れている。. 転する最長期間の延長について,2009.1 に 24 ヵ月までの. 2). 原子力発電所で行われる意思決定には,燃料交換停止中. 運転期間延長の申請・認可の法的枠組みができたものの最. にしか点検できない機器の点検周期の延長や保守作業全体. 長 13 ヵ月という従来の運転サイクルを見直したプラント. 量の削減といった機器の信頼性に影響を与えるものがあ. は 2020.11 末時点では存在しないことが挙げられる。 世界で運転されている商業用原子力発電所で最も多い加. る。過去に実績のない保守方法への変更は,機器信頼性に. 圧水型軽水炉(PWR)では燃料交換停止直後で原子炉容器 1. 内に燃料があり,崩壊熱が大きく保有水量が小さいために. (一財)発電設備技術検査協会 Corresponding author, E-mail: shikami-yutaka@japeic.or.jp. 炉心損傷頻度(CDF)が運転中よりも大幅に高くなる期間. *. Ⓒ 2021 Atomic Energy Society of Japan, All Rights Reserved.. 41.

(2) 論  文(爾見 豊). 42. がある。例えば,2018.9 に公開された関西電力高浜 3 号. る換算係数設定の困難さから,リスクに影響する原子力発. 機の評価結果では,通常数ヵ月の燃料交換停止期間 1 回. 電所における意思決定に広く利用されるには至っていな. の合計 CDF は,1 年間出力運転を継続した場合の合計. い。. CDF と同程度と評価されている3)。短いサイクルでの保. 一方で,米国の原子力安全規制に目を向けると,規制検. 守点検の実施やリスクの高い停止中に集中した保守作業の. 査における指摘事項に対する追加的措置程度の決定や事業. 実施は機器信頼性を高めている可能性はあるものの,プラ. 者申請の認可の可否判断において,安全目標と関連付けら. ントライフにおける停止回数の増加により,逆に CDF や. れた性能目標としての CDF や格納容器からの放射能の大. 事故による死亡リスクを大きく増加させている可能性が高. 規模早期放出頻度(LERF)を用いた判断ルールが実際に機. い。. 能. 6,7). しており,原子力発電所における意思決定において. 本報では,原子力発電所のリスク抑制に必要な意思決定. も,これらが広く利用されている。適用対象を限定するこ. がより正確・迅速になされるように,リスクに影響を及ぼ. とで意思決定ルールの実用的な運用ができている例であ. す意思決定を対象にリスク情報を活用した実用的な意思決. る。本報では,原子力発電所による便益がリスクをより大. 定の仕組みを提案し,複数プラントのリスク総量が抑制で. きく上回る選択が複数プラントで行われるという用途に適. きることを PWR の運転・停止期間の変更判断への適用を. 用対象を限ることで,実用的で安全上の効果が見込める意. 例として検証する。さらにこの意思決定の仕組みが多くの. 思決定の仕組みを提案する。. 原子力発電所で実際に利用され効果を発揮するために必要. このため,まず,リスクに関しては,原子力発電所によ. となる関係者への動機付け,第三者からみた透明性確保に. る最も直接的なリスクである放射線による死亡リスクのう. 関する効果についても言及する。. ち,その主要因である炉心損傷事故による死亡リスクの抑. II. 適用対象の限定とリスク・便益尺度の選択 提案する意思決定の仕組みは,原子力発電所で日々行わ. 制に用途を限定している。 事故による死亡リスク(死亡確率)の算出には,CDF を 算出するレベル 1 の確率論的リスク評価(PRA)だけでな. れている保守内容や連続運転期間の決定,改造工事の採否. く,LERF や放出による死亡確率を算出するレベル 2,レ. などのリスクを増減させる意思決定を適用対象としてお. ベル 3 の PRA が必要となるが,現在,それぞれのプラン. り,その際に発電所要員が過度の負担なく複数プラントの. トについて規制当局の確認を経た実務に適用可能な PRA. 合計リスクの抑制につながる選択ができることを目的とし. モデルはレベル 1 のみである。レベル 1PRA で算出され. ている。当該プラント単体ではなく,複数プラントの合計. る CDF は死亡リスクそのものではないものの,リスク尺. リスクを抑制することを目的としている点が特徴である。. 度として CDF を用いてこれを抑制することで LERF も抑. さらに,リスク総量が抑制されるためには,この意思決定. 制可能であり,死亡リスクを抑制するという目的は達成す. の仕組みが対象となる複数のプラントで広く利用される必. ることができる。. 要があるため,その際に必要となる関係者への動機付けと. 既存プラントに追加的な規制要求を適用するバック. 外部からみた意思決定の仕組みの透明性の確保も同時に目. フィットの採否判断に対して,米国原子力規制委員会 (NRC)は過酷事故頻度に影響する意思決定に,事故当た. 的としている。 IAEA の安全原則 では原子力発電所の運用が正当性を. りの除染コストや代替発電コストを用いて事故回避の効果. 有するための条件として原子力発電所のもたらす便益がリ. を貨幣価値に換算したうえで,必要な改造等のコストと比. スクより大きいことを挙げている。この考え方をベースと. 較する方法を換算係数の例示とともに提供している 。過. すると,便益がリスクをより大きく上回るように運用変更. 酷事故頻度は CDF と類似の概念であるため,本報提案と. 判断を行うことが基本方針となることから,本報では一定. の主な違いは事故頻度をコストに換算するかどうかという. の便益を確保した上でリスクを抑制することを目的として. 点になる。最低限必要な安全性がすでに確保されている場. いる。. 合,バックフィット要求の妥当性は,要求によって社会が. 4). 8). 原子力発電所の運用に関する意思決定により増減するリ. 回避できるコストが改造等に必要なコストを上回ることで. スクの種類には,事故による死亡リスク,通常運転時の放. 保証されることからコスト等への換算が求められる。一方. 射能放出による発がんによる死亡リスク,健康への悪影. で本報ではリスク総量を抑制する意思決定ができればよく. 響,系統安定性の低下,エネルギーセキュリティーの低下. 必ずしもコスト等への換算は必要ではないことと,より高. 等があり,本来は,これらの合計がリスクとして扱われる. い実用性を確保するという目的とから CDF そのものをリ. べきである。ただしこれらを合計するためには個々のリス. スク尺度としている。. クを,貨幣価値等を用いて共通的な尺度に換算する必要が. また,日本では地震・津波という外的事象による CDF. あり,これまでにも集団線量の変化量を死亡リスクや貨幣. がリスクの大きな部分を占める可能性があり,現状ではこ. 価値に換算する手法が提案されてきた ものの,換算時の. の分野の PRA 結果の精度が十分でなく,算出された CDF. 仮定条件の複雑さや,関係者が共通的に認める透明性のあ. を用いた判断の結果が実際のリスクを増加させるケースも. 5). 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).

(3) リスク情報を活用した原子力発電所運用の実用的な意思決定手法とその安全上の効果. 43. 考えられる。しかし,発電所で行われる意思決定の中には. に示すように複数プラント全体のリスクを効果的に抑制で. 外部事象ではなく内部事象による CDF の増減の影響が支. きることから,評価指標として CDF と Q の比を用いるこ. 配的な判断が多く含まれており,このような種類の意思決. ととしている。以下に具体的手法を説明する。. 定には現状の PRA モデルは十分に実用的である。比較的. 便益当たりのリスクの大きさを表す指標 R を. 多く存在する適用可能な分野からの導入を進め,実際に. R=CDF/Q. (1). PRA の結果を利用した意思決定を行うことで,ニーズは. と定義する。R を使うことで,「便益がリスクをより大き. あるものの PRA の適用が困難な分野の課題である外部事. く上回る」状況は,「R がより小さい」状況に置き換える. 象による CDF が有する大きな不確実さや,他プラントと. ことができる。R は個別プラントに対しても複数プラント. のモデル差による意思決定結果の違いなどが具体的に認識. 全体に対しても定義可能である。. 可能となる。このようなニーズをきっかけとしてプラント. 以下では,複数プラントとして日本国内の全プラントを. ごとに異なる外部事象を含む PRA モデルや入力データの. 例として用いる。単純化のため,国内プラントの出力がす. 整備が進み,より広範囲の意思決定に本報の手法が適用可. べて 100 万 kW であると仮定し,当該発電所が 100%の. 能となることが期待できる。. 利用率で 1 年間運転した場合に 1 となるように規格化し. 次に,社会が原子力発電所から受ける便益の種類には電. た発電電力量 Q を用いる。Q は当該プラントの 1 年間の. 力供給,エネルギーセキュリティー,雇用,電力系統の安. 平均利用率に等しくなる。i 番目の個別プラントの CDF. 定度等がある。本来,これらの合計を便益とすべきである. を CDFi,発電電力量を Qi,指標 R を Ri とすると. が,合計に当たっては貨幣価値等を用いて個々のリスクを 共通的な尺度に換算する必要があり,その際には将来の電. Ri=CDFi/Qi. (2). となる。全国 N 基のプラントの合計 CDF を CDFa,発. 力価格,系統安定性等に多くの仮定が入る。その妥当性を. 電電力量の合計を Qa とすると,全プラントに対する R. 立場が異なる多様な関係者が共通に認めることは困難であ. である Ra は. り換算方法の複雑さと相まって,換算により求めた合計リ. Ra=CDFa/Qa=∑ i=1CDFi/∑Ni=1Qi N. (3). スクを共通尺度として用いる仕組みを多くの意思決定に適. となる。Ri を用いた運用変更判断により Ra を減少させ. 用することは実務上困難である。一方で原子力発電所の設. ることが便益当たりのリスク最小化のために実現すべき目. 置目的を考えれば電力供給が主要な便益であることはより. 標となる。. 一般的に認められると思われることから,便益の尺度とし. 個別プラントの特定の運用変更により CDFa と Qa が. て容易に算出可能な発電電力量(Q)を用いることとしてい. Fig. 1 の A 点から A’ 点へとそれぞれΔCDFi,ΔQi だけ. る。. 変化する場合の運用変更採否判断について考える。. 実用性の観点からリスクと便益の尺度として CDF と Q を採用することとしたことが,リスクの抑制という目的か. ΔRi=ΔCDFi/ΔQi. (4). とおくと,全国でこの運用変更だけが行われる場合,. らみて妥当であることについては,運転・停止期間に関す. Fig. 1 のようにΔRi<Ra ならば Ra は減少し,ΔRi>Ra. る意思決定を例として複数プラントの合計 CDF の低減が. ならば Ra は増加する。. 可能であることを確認することで検証する。. 過去のある時点の全国の Ra をあらかじめ算出してお. なお将来,レベル 3PRA の整備が進み死亡リスクがよ. き,自プラントの運用変更判断に当たっては運用変更によ. り容易・正確に算出可能となった場合や,死亡リスクやエ. るΔRi が Ra より小さい場合のみこれを選択するという. ネルギーセキュリティー,系統安定性等のリスクや便益を 貨幣価値等の共通価値に換算する方法が広く関係者に認め られた場合には,本報で使用している CDF や Q をこれら の尺度に置き換えることで,本報の手法はより広い範囲の 意思決定に適用することが可能となる。. III. 便益がリスクを上回ることの定量化 複数プラント全体の Q による便益が CDF によるリスク をより大きく上回る状況を実現するという目的のため, CDF と Q を用いた評価指標を設定する。指標として両者 の差または比を使うことが考えられるが,差を用いる方法 については比較のために貨幣価値等への換算が必要とな り,前述の理由で多くの意思決定に広く適用することは困 難である。一方,両者の比の算出は容易であり,比を用い た手法により個別ユニットの意思決定を行うことで,V 章. Fig. 1. Relation between Ra and ΔRi. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).

(4) 論  文(爾見 豊). 44. 10). 判断をすべてのプラントで同時に行うことで,Ra を減少. ルギー需給見通し では原子力発電はベース電源と位置付. させる変更のみが選択的に採用される。. けられ,2030 年時点で必要とされる総発電電力量 10,650. この Ra を減少させるという運用変更ルールは,リスク. 億 kWh の 20~22%を原子力で賄うとの電源構成の見通. の低減とともに利用率の上昇も誘導するため,仮に必要量. しが示されている。上限の 22%は 2,343 億 kWh に当た. 以上の原子力発電が行われる状態となると利用率の増加は 便益ではなくなり,Ra の最小化では必要量の電力供給を 最小の放射線リスクで達成することができなくなる。この. Table 1 Steps for nuclear power plant restart. ような状況の考慮が将来必要となるかどうかについて,必. ① ② ③ ④ ⑤. 要電力量の見通しと再稼動プラントの発電設備容量見通し から考察する。 2017.7.3 に閣議決定されたエネルギー基本計画9)と,こ れに基づいて 2017.7.16 に経済産業省が決定した長期エネ. Safety review application by operator Design basis earthquake approval Safety review approval Construction approval Nuclear power plant restart. Table 2 Required duration for restart Plant. MW. ①. ②. Shimane3 Ohma. 1,373 1,383. 1,808 1,412. 1,802. Tomari3 Shika2 Higashidohri1 Hamaoka5 Onagawa3. 912 1,206 1,100 1,380 825. 1,307 1,408 1,406. ③. ④. ⑤. 1,602. a. b. c. d. 29 23 23 31 7. 8. 9. 8. 5. 31. 1,708. Genkai4 Kashiwasaki7 Kashiwasaki6 Onagawa2 Ikata3 Kashiwasaki4 Genkai3. 1,180 1,356 1,356 825 890 1,100 1,180. 1,307 1,309 1,309 1,312 1,307. Hamaoka4 Kasiwazaki3 Shika1 Ohi4 Ohi3 Tomari1 Kashiwazaki2. 1,137 1,100 540 1,180 1,180 579 1,100. Kashiwazaki5 Tomari1 Shimane2 Hamaoka3 Tsuruga2 Sendai2 Kashiwazaki1. 1,100 579 820 1,100 1,160 890 1,100. 1,307 1,312 1,506 1,511 1,307. Takahama4 Takahama3 Sendai1 Tohkai-dai2 Mihama3 Takahama2 Takahama1. 870 870 890 1,100 826 826 826. 1,307 1,307 1,307 1,405 1,503 1,503 1,503. 1,307 1,402. 1,307 1,307 1,307. 1,408 1,601 1,601 1,708 1,412 1,601 1,408. 1,701 1,712 1,712 2,002 1,507. 1,709. 1,806. 1,603. 1,608. 13 28 28 44 17. 1,701. 1,708. 1,803. 13. 29. 7. 7. 1,705 1,705. 1,708 1,708. 1,805 1,803. 15 15 31. 31 31. 3 3. 9 7. 1,601 1,410 1,410 1,602 1,601 1,601 1,602 1,802. 31 51. 1,403 1,601. 1,409. 1,505. 1,510. 8. 6. 8. 5. 1,405 1,405 1,403 1,611 1,508 1,512 1,512. 1,502 1,502 1,409 1,809 1,610 1,604 1,604. 1,510 1,508 1,503 1,810 1,610 1,606 1,606. 1,602 1,601 1,508. 10 10 8 30 5. 9 9 6 22 14 4 4. 8 6 6 1 0 2 2. 4 5 5. 22. 17. 5. 6. Average ①~⑤: last 2 digits of year and month a, b, c, d number of months from ① to ② , ② to ③ , ③ to ④ , ④ to ⑤. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).

(5) リスク情報を活用した原子力発電所運用の実用的な意思決定手法とその安全上の効果. 45. る。2030 年時点で原子力による発電電力量がこの目標発. のため本報では機器故障率への影響を無視し,運転・停止. 電電力量を大きく超えなければ,利用率の増加は社会に. 期間中の CDF は変化しないとした場合に,期間変更によ. とっての便益であり続けると考えることができる。. る R の変化の結果からどのような運用が選択されるかに. 2030 年時点で運転している原子力発電所の設備容量. ついて検討を行う。. を,再稼働のために必要な 2013.7 に施行された新規制基. 運用変更判断において( 4 )式のΔRi と比較するために. 準への適合審査の状況から推定する。2020.11 までの 7 年. ( 3 )式の変更前の Ra を算出するためには,全国すべての. 余 り の 間 に 安 全 審 査 の 申 請 を 行 っ た プ ラ ン ト は 27 基. プラントごとの CDFi と Qi とが必要となる。このうち Qi. 2,759 万 kW であり審査を終了したプラントが 13 基,運. については明らかに各プラントの運転・停止期間の実績か. 転を再開したプラントが 9 基である。再稼動までには. ら計算可能である。. Table 1 の①~⑤の 5 つのステップがあり,これまでに. CDFi に関しては 2013 年に改正原子炉等規制法が施行. すでに終了した個別プラントの各ステップについて終了に. され,施行後に開始された施設定期検査の終了 6 ヵ月後. 要した期間の平均は Table 2 のとおり,①→②:22 ヵ. までに安全性向上評価届出書を提出することが義務付けら. 月,②→③:17 ヵ月,③→④:5 ヵ月,④→⑤:6 ヵ月と. れており,届出書に記載されるプラント運転中と停止中の. なっている。比較的安全審査が早く進んだプラントの,こ. CDF の評価値から算出が可能である。2020.11 末までに. れら 4 つの期間を合計すると申請から再稼動までは平均. 川 内 1,2 号 機, 高 浜 3,4 号 機, 伊 方 3 号 機, 玄 海 3,4 号. 50 ヵ月を要することになる。. 機,大飯 3,4 号機の 9 ユニットの届出書が公表されてお. 今後は,審査に長期間を要する案件が存在するプラント の審査が中心となり,これらのプラントの安全審査にはす. り,今後,運転を再開するプラントについても順次 CDF の値が公開されると思われる。. でに約 7 年が費やされていることから,現段階で安全審. 前述の高浜 3 号機の届出書を例に取ると運転中の CDF. 査の申請をしていないプラントが 10 年後の 2030 年まで. は 1 年当たり 7.2×10-7,停止中 CDF は 1 回の停止当た. に再稼働する可能性は低いと思われる。つまり,多く見積. り 6.8×10-7 となっている。停止期間中の CDF の合計値. もっても 2030 年時点では,現在までに安全審査を終了,. が停止期間の長短の影響を受けないのは,停止直後と起動. または現在安全審査中の全プラント 27 基・2,759 万 kW. 直前の原子炉内に燃料が存在する一定の期間に限定して炉. が再稼動するのみとみるのが妥当であり,これらが平均利. 心損傷リスクが存在するためである。通常,停止期間は 1. 用率 90%で運転していたとしても発電電力量は 2,175 億. 年よりも短いため,停止期間中の合計 CDF が出力運転 1. kWh に留まり,前述の 2030 年の目標発電電力量 2,343. 年間の合計 CDF と同程度であることは停止期間中の方が. 億 kWh は確保できない。このため,2030 年までの期間. 平均的に CDF が大きいことを意味している。この 1 年分. に限定すれば,原子力による発電電力量が必要量に対して. の出力運転と 1 回の停止期間中のそれぞれの CDF の合計. 過剰となり,発電電力量の増加が便益ではなくなる状況を. 値が等しいとみなし,その値が 1 となるように規格化し,. 考慮する必要はない。. さらに 1 運転サイクル当たりの運転期間と停止期間をそ. 以上より 2030 年までの期間に限れば,各プラントが. れぞれ Doi,Dsi[年]とすると,当該プラントの運転期間. 個々の運用変更による CDF と発電電力量の変化量から求. と停止期間とを平均した 1 年当たりの CDF である CDFi. められるΔRi と変更前の全国の Ra とを比較し,運用変. と,発電電力量 Qi 当たりの CDFi である Ri は. 更判断を行うことで,Ra を減少させる運用のみを選択的 に採用することが可能であり,このような判断を繰り返す. CDFi=(Doi+1)/(Doi+Dsi). (5). Ri=CDFi/Qi=(Doi+1)/Doi. (6). ことで必要発電電力量をより小さなリスクで確保する運用. となる。前述のように停止期間 Dsi は通常 1 年より短い. が可能となる。. ので,( 5 )式より CDFi は運転期間や停止期間が長いほ. IV. PWR の運転・停止期間変更判断への適用 による効果. けず,運転期間が長いほど小さくなる。. ここでは指標 R を用いた運用変更判断の具体的な手法 を示すため,運転・停止期間の変更判断への適用例を説明. ど小さくなる。また( 6 )式より Ri は停止期間の影響を受 以下では特定のプラント i において Table 3 のように 設定した Case1 から Case2 へ,さらに Case3 への運用変 更判断を指標 R を用いて行う。. する。運転期間や停止期間の変更は,点検時期,方法,周. Case1 で は 日 本 の 現 状 の 最 長 運 転 サ イ ク ル 長 で あ る. 期の変更に伴う機器信頼性の変化を通して CDF に影響を. 13 ヵ月の運転の元で,2001~2010 年の日本の平均利用. 与え得るが,米国で 1996 年に保守規則が適用され,運転. 率である 69%に近くなるように停止期間を設定している。. 中保全(OLM)への移行等保守方法が見直された以降も機. Case3 では米国の PWR で多く採用されている 18 ヵ月運. 器故障によるトラブル報告が増加しなかった実例から,保. 転 の 元 で 利 用 率 が 米 国 の 2001~2010 年 の 平 均 に 近 い. 守方法変更に伴う機器信頼性の低下による CDF への影響. 90%になるように停止期間を設定している。Case2 では. を十分小さく抑えることは可能であったと考えられる。こ. Case1 の運転期間長のみを Case3 と同じ 18 ヵ月に延長し 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).

(6) 論  文(爾見 豊). 46 Table 3 Operation and outage duration Case 1 Case 2 Case 3. また,この運用変更ルールにより,平均よりも安全なプ. Operation [months]. Outage [months]. ラントだけに利用率や経済性がより高まる Case3 への変. 13 18 18. 5 5 2. 更が適用されることから,平均以上の安全性を確保すると いう強いインセンティブがすべてのプラントに対して付与 される点も重要な要素である。 一方で,上記の検討では無視したが,停止期間の短縮や 運転サイクルの延長に伴う保守方法の変更は,事前には想. Table 4 CDF, Q and R of each Case Case 1 Case 2 Case 3. 定できなかった機器の信頼性低下等を通して CDF を増加. CDFi. Qi. Ri. させる可能性がある。このため,このような運用変更ルー. 1.389 1.304 1.500. 0.722 0.783 0.900. 1.923 1.667 1.667. ルの適用に当たっては,当該プラントの運用変更前後の CDF の変化がチェックできることが望ましい。2020 年 4 月から導入される原子力規制検査の指摘に関する公開情報 を用いることで,このようなチェックが可能となる。この 方法については VI 章で述べる。. ており,これは日米の中間的な運用に相当する。 これら 3 ケースそれぞれにおける運転期間と停止期間 とを平均した 1 年当たりの CDF である CDFi,発電電力 量 Qi,これらから求めた指標 Ri は( 5 )式,( 6 )式より. V. 安全性の異なる複数プラントへの適用によ る効果 R を用いた運用変更判断を行うことで,日本全体の R, すなわち発電電力量当たりの CDF である Ra が減少する. Table 4 のとおりとなる。 Case1 から Case2 への運用変更では当該プラントの Ri. ことを示したが,この効果を定量的に把握するため,. は 1.923 から 1.667 へと 13%減少する。Table 3, Table 4. 2030 年に日本で稼働しているであろう安全レベルの異な る 2 つのプラント群を想定し,R を用いた運用変更ルー. と( 4 )式より / 0.783-0.722)=-1.393 ΔRi=(1.304-1.389)( (7). ルを適用した場合に全国の合計 CDF がどのように変化す るかを確認する。以下に仮定条件を示す。. とΔRi は負となり Ra を減少させるため,運転期間 Doi. ⑴. 全国のプラントは 100 万 kW×30 基である. の延長は採用される。さらに,この運用変更では,便益を. ⑵. 当初の運用ではすべて Table 3 の Case1 の運転・. 考慮せずリスクのみをみても CDFi が 1.389 から 1.304 へ と 6%減少する。つまり運転期間のみを延長する場合は,. 停止期間を採用している ⑶. 運転中・停止中の CDF がそれぞれ全国平均の 0.8. 設備の信頼性の低下により CDF が増加しても,その増加. 倍,1.2 倍のグループ 1 とグループ 2 に属するプラ. が 6%以下ならばプラントの CDF は全体としては減少す. ントがそれぞれ 15 基ずつ存在する. る。. グループ 1 運 転 中 CDF は 0.8/ 年 停 止 中 CDF は 0.8/ 回 CDFi は 1.389×0.8=. Case2 から Case3 への運用変更は,例えば,保守間隔. 1.111. の延長や OLM の実施によって停止期間中の保守量を削減 し停止期間を短縮することに相当する。この運用変更では. グループ 2 運転中 CDF は 1.2/ 年 停止中 CDF. 当該プラントの運転期間 Doi が変化しないため ( 6 )式よ. は 1.2/ 回 CDFi は 1.389×1.2=. り Ri は変化せず,ΔRi は運用変更前の Ri と等しくなる。. 1.667. このため,当該プラントの Ri が Ra より小さく平均より. ⑷. 全プラントが同時に R を用いた運用変更を行う. 安全性が高い場合は Ra が減少するため変更は採用され,. III 章で述べた運用変更判断の結果,安全性が高いグ. Ri が Ra より大きく平均より安全性が低い場合は Ra が増. ループ 1 は Case3 に,安全性が低いグループ 2 は Case2. 加するため変更は不採用と判断される。. へと運用が変更され,Table 3, Table 4 より運用変更前後. 以上より,個別プラントの運転期間・停止期間の選択に. のグループごとの 1 ユニット平均の CDF, Q と各グルー. 当たってΔRi と Ra を比較する手法を用いることで,全. プの R は Table 5 のとおりとなる。グループ 1,グルー. プラントについて Case1 から Case2 への運用変更が選択. プ 2 ともグループの R が 13%減少する。もともと R が小. され Ri が 13%,CDF が 6%改善される。さらに平均よ. さいグループ 1 の利用率がグループ 2 よりも上昇するこ. り安全性が高いプラントでは,Ri は変わらないものの. とが加わって全国の Ra は 1.923 から 1.643 へと 16%減. CDFi や Qi が増加する Case2 から Case3 への変更が選択. 少する。. され,当該プラントの Ri が変更前の Ra よりも小さいこ. CDF の合計は 0.5%減とほぼ横ばいで,発電電力量は. とにより変更後の Ra はさらに減少する。その定量的な効. 0.722 から 0.841 へと 5 基の新規プラント追加に相当する. 果については V 章に述べる。. 16%増加する。発電電力量を増加させない条件ならば. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).

(7) リスク情報を活用した原子力発電所運用の実用的な意思決定手法とその安全上の効果. 47. Table 5 Average CDF, Q and R before and after operation change. CDF Q R. Group 1. Group 2. Group 1 & 2. Case 1 Case 3. Case 1 Case 2. Case 1 Case 3 & 2. 1.111 0.722 1.538. 1.200 0.900 1.333. 1.667 0.722 2.308. 1.565 0.783 2.000. 1.389 0.722 1.923. 1.383 0.841 1.643. CDF が大きいグループ 2 の運転プラント数を 4.6 基相当 減らすことにより CDF が 18%減少する。 発電電力量の増加は利用率の上昇を意味しており発電コ ストにも影響する。利用率が発電コストに与える影響に関. Fig. 2. Capacity factor performance vs. risk level. する情報は投資家向けに公開されている場合があり,例え ば関西電力が公表している 2018 年度の原子力発電所の利. 国においても本報に示した適用例を含めリスク情報を活用. 用率の増減による火力代替燃料費の増減は,美浜 3 号機,. した意思決定を行うことで,より正当性の高い運転が選択. 高 浜 1,2,3,4 号 機, 大 飯 3,4 号 機 の 7 基, 合 計 661.8 万. され,安全上も経済的にも大きな成果が期待できることを. kW の設備容量に対し 1%当たり 41 億円11)となっている。. 示唆していると思われる。. これを仮定条件である 30 基 3,000 万 kW に換算すると 1%は約 186 億円に相当するため,0.722 から 0.841 への 利用率上昇は年間約 2,200 億円の経済メリットを発生させ. VI. 運用変更後のリスク監視による運用変更 ルールの受容性向上 IV 章や V 章での検討では保守方法の変更による機器故. る。 以上をまとめると,CDF の大きさが全国平均の 1.2 倍,. 障率への影響等は無視できるとしたが,運用変更により故. 0.8 倍と安全性が異なるプラントが 15 基ずつある場合に. 障率が上昇し実際には Ra が増加する場合など,本来採用. R を用いて運転・停止期間に関する運用変更判断を行う. すべきでない運用が選択されてしまう可能性が否定でき. と,CDF を若干減少させた上で発電電力量を 16%増加さ. ず,この点が R を用いた運用変更ルールの実適用の阻害. せるか,発電電力量を維持した上で CDF を 18%減少さ. 要因となり得る。このような誤った運用変更を事前評価に. せることができ,さらに発電に必要な費用を年間 2,000 億. より完全に排除することは困難であるため,本章では,事. 円オーダーで減少させることができる。また,安全性の高. 後であっても誤った運用変更を検知・排除することで運用. いプラントにのみ,より高い利用率での運用が許容され経. 変更ルールの受容性を高める手法を提案する。. 済的に優位となるため,安全性の低いプラントには安全性. 前述のように運用変更判断は変更前に推定したΔCDFi. 向上の強いインセンティブが与えられ,安全向上への積極. とΔQi とを用いて求めたΔRi と,運用変更前の全国の. 的な取り組みを誘導することができる。. Ra との比較で行われるため,運用変更後のΔCDFi と ΔQi. 手法は異なるものの,このようなリスク情報を活用した. の実績値が推定どおりでない場合にこれを検知できればよ. 判断ルールによる安全性や利用率の改善は,実際に米国で. い。ΔQi は運転実績から明らかに算出可能であるため,. 過去に経験された現象でもある。Fig. 2 は 2008 年に発行. 残るΔCDFi が変更の採否判断が覆る程度まで事前の想定. 12). された米国の電力研究所(EPRI)の白書 からの引用であ. から増加した場合に検知できれば,これをきっかけとして. る。白書では,当時すでに導入済みだった保守規則,Re-. 運用をもとに戻すなどの必要な是正を行う仕組みが実現可. actor Oversight Process(ROP)や当時まだ検討中だった. 能となる。この検知は事業者によっても可能だが,運用変. ものを含め,リスク情報を活用した 14 の活動を挙げて,. 更ルールの透明性や社会からの受容性を高めるため,. それらが安全性や利用率の向上に与えた影響について述べ. 2020.4 から始まった原子力規制検査で公開される検査指. ている。CDF は内部事象のみを対象としているものの. 摘情報を用いて第三者が監視する手法を示す。. 1992~2005 年の間で約 80%減少している。特に保守規. 原子力規制検査では米国 ROP と同じく,許容可能な状. 則が導入された 1996 年からの 5 年間は,OLM の導入等. 態や守るべき手順をあらかじめ定めた事業者ルールからの. による停止期間の短縮により全米の平均利用率は 75%か. 逸脱状態をパフォーマンス欠陥と呼び,CDF 増加をもた. ら 89%へと上昇し同時に CDF も半減しており,安全性. らすパフォーマンス欠陥は検査指摘とされ,増加量に対応. と経済性の改善が顕著である。. した重要度に区分される。重要度は重要度決定プロセス. 原子力発電プラントの設計や運用は日米で類似している. (SDP) や PRA を用いて決定され,実際のΔCDF と高い. 点が多い。米国での安全性や利用率の向上の実例は,我が. 相関を有する。もし運用変更の結果,ΔCDFi が事前評価. 13). 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).

(8) 論  文(爾見 豊). 48. で想定した値よりも有意に増加していた場合,事業者が定. のように,指摘のもつΔCDF が 1 桁小さくなるごとに指. めたルールでは許容されていないなんらかのパフォーマン. 摘数が 10 倍に増加する分布,すなわち( 8 )式の重要度 x. ス欠陥が発生しているはずであり,この状態は原子力規制. の関数である指摘数 n(x)が( 9 )式で表されるという分布. 検査の指摘として公表される。このため,運用変更が原因. を仮定して,色ごとの 1 指摘の平均的なΔCDF を算出す. と な っ て 検 査 指 摘 と な る 状 態 が 発 生 し, こ れ に よ り. る。. ΔCDF が増加したことを確認することで,正当でない運. x=log10(ΔCDF). (8). 用が選択されたことを確認できる。実際には運用変更が原. n (x)=a×10-x ただし a は定数. (9). 因となっている指摘だけを分別することは第三者では困難. 黄,白,緑の色ごとに,指摘合計数を Ny, Nw, Ng,指. であるため,ΔCDF の総量の増加を監視し,増加があっ. 摘の有するΔCDF の合計値を CDsmy, CDsmw, CDsmg,. た場合には事業者がより詳細な評価を行うことで運用変更. 指摘 1 つの平均的なΔCDF を CDavy, CDavw, CDavg と. ルールによる判断結果の透明性を高める方法が現実的だと. すると 5 4 4 Ny=∫-4 (x)dx=(10 -10 )a/ln10=3.9×10 a -5 n. 思われる。 ΔCDF の総量の算出では 1 指摘ごとのΔCDF を指摘す. (10). べてについて合計する必要があるが,緑色の指摘の中で. CDsmy=∫ {n(x)×10 }dx=a. も ΔCDF が 小 さ く 重 要 度 が 低 い 指 摘 に つ い て は 個 別. CDavy=CDsmy/Ny=2.6×10-5. -4 -5. x. の ΔCDF 値は算出・公表されないため,その値を推定す. となり,黄色の指摘の平均的なΔCDF は 2.6×10. る必要がある。指摘 1 つが発生させたΔCDF の値が,赤. る。同様に白色の指摘の平均的なΔCDF は,. が 10-4 を 超 え る 場 合, 黄 が 10-4~10-5, 白 が 10-5~ 10 ,緑が 10 -6. -6. 14). CDavw=CDsmw/Nw=2.6×10-6. (11) (12) -5. とな. (13). 以下と規定されている ことを利用し,. となる。明示されていない緑色の指摘のΔCDF の下限を. 過去に公開されている米国 ROP の重要度ごとの検査指摘. 10αとすると,緑色の指摘の数 Ng が白色の指摘数 Nw の. 数を用いて重要度に対する指摘数の分布を想定する方法. 70 倍であることから. で,色ごとに 1 指摘の平均的なΔCDF を概算する。 Table 6 は全米の約 100 基,2014~2017 の 4 年間,約 400 炉・年に発生したセキュリティー関連を除く指摘の色 ごとの数を NRC が集計した結果 である。 15). Ng=(10α-106)a/ln 10=70Nw. (14). これを解いて. α=-7.8. (15). となる。このα の値を用いて,緑色の指摘の平均的な. 指摘数は黄:白:緑でおよそ 1:10:700 となってお り,黄色,白色の指摘数はΔCDF が 1 桁小さくなると指 摘数が 10 倍になる関係となっている。ここでは,Fig. 3. ΔCDF を求めると CDavg=CDsmg/Ng=6.6×10-8. (16). となる。運用変更が行われたプラントの変更前後の指摘の 色ごとの数の公表値と(12)式,(13)式,(16)式で求めた 色ごとの指摘 1 つが有するΔCDF の平均値とを用いて, 当該プラントの運用変更前後のΔCDF の総量の変化を監. Table 6 Number of ROP findings Color. 2014. 2015. 2016. 2017. Total. Green White Yellow Red. 785 16 2 0. 778 12 2 0. 679 4 0 0. 545 11 0 0. 2,787 43 4 0. 視することができる。 運 用 変 更 に よ るΔCDF の 増 加 と 同 時 に 他 の 要 因 で ΔCDF が減少し,全体としてΔCDF が増加しなかった場 合には正当でない運用変更の検知ができないが,このよう な状況は稀であり,また,全体としてΔCDF は減少して いるため第三者の監視結果をきっかけとして事業者が是正 を行う安全上の必要性も低い。このような稀で重要度の低 い例外を除けば,上記のような検査指摘によるΔCDF の 総量を監視することで,当該運用変更の取りやめ等の是正 が必要な状況を第三者でも検知できる。この監視の効果は 以下の 3 点である。 第 1 に想定しなかった故障率増加等により変更後に Ra が増加したとしても,これを検出し是正することができ, 最終的には Ra を減少させる正当性が高い運用のみを個々 のプラントが選択する状態を誘導できる。 第 2 に運用変更によるリスク増加が第三者からも確認 可能となることで,このようなルールを実装する際に必要. Fig. 3. Number of ROP findings vs. significance. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021). となる社会の受容性を高めることができる。.

(9) リスク情報を活用した原子力発電所運用の実用的な意思決定手法とその安全上の効果. 第 3 に運用変更時の検討不足により生じる安全劣化は 事後ではあるが第三者からも指摘される状況となるため, 安全劣化要因の注意深い評価や,機器故障率の監視プログ ラムの追加などの安全劣化防止の取り組みへのインセン ティブを事業者に付与できる。 運用変更後に予期しないリスク増加が起こっていないか を第三者が監視する上記のような仕組みを組み合わせるこ とで,R を用いた運用変更ルールの透明性,ひいては導入 の実現性を高めることができる。. VII. 結. 論. 原子力発電所の正当性は発電電力量という便益が CDF 等に代表される放射線リスクを上回ることで確保される。 現状の保守重視の判断によって日本で採用されている短い 運転サイクルは,結果として便益当たりのリスクを増大さ せ運用の正当性を低下させている。 CDF の大きさが全国平均の 0.8 倍,1.2 倍と安全レベル の異なる 100 万 kW の PWR プラントが全国に 15 基ずつ 存在するとした場合,便益当たりのリスクを表す指標 R の最小化というルールを,一例として運転・停止期間の変 更判断に適用することで,一定の発電電力量を確保すると いう条件であれば全国の CDF の合計値を 18%減少する ことができる。また,安全性の高いプラントほど経済的に 有利な運用が可能となり,安全向上活動に対し強いインセ ンティブを付与することができる。さらに,安全性の高い プラントの利用率向上は全国で年間 2,000 億円オーダーの 経済的メリットをもたらす。 また,運用変更により生じた安全性の変化を,事後では あるが第三者によって公開データから概算する仕組みを併 用することで,運用変更ルールに対する社会からの受容性 の向上も期待できる。 以上のようなリスク指標を用いた運用変更ルールを採用 することで,発電という便益をより小さいリスクにより実 現できる望ましい運用への移行を促す仕組みが,一定の透 明性をもって運用可能となる。 原子力発電所の安全の中で大きな割合を占める事故リス クの低減,そして,事故リスクと高い相関がある CDF の 低減にはリスク情報を活用した活動が有効である。本報で 紹介したリスク情報を活用した意思決定の仕組みが,多様 な意思決定に実際に適用され,リスクの低減に寄与するこ とを期待する。. 49. ̶参考文献̶ 1)Nuclear Generation, Capacity Summary Data, U.S. Energy Information Administration, Oct. 26, 2018, https://www. eia.gov/totalenergy/data/monthly/pdf/sec8_3.pdf. 2)Annual Report on the Operational Management of Nuclear Facilities, 運転管理年報,Japan Nuclear Energy Safety Organization, 2012, p36,[in Japanese]. 3)Takahama Nuclear Power Station Safety Analysis Report, 高浜発電所 3 号機第 1 回安全性向上評価届出書,p3.1.3.1.1– 147, p3.1.3.1.2–44, Kansai Electric Power Co. Inc. 2018.9.26, [In Japanese], https://www.kepco.co.jp/ energy_supply/energy/nuclear_power/info/review/pdf_ t3_01/t03_01_18.pdf. 4)Fundamental Safety Principles, IAEA Safety Standards Series No. SF–1. 5)S. Takahara, T. Kato, T. Homma, “Monetary values of unit collective dose in optimization of radiation protection,” Jpn. J. Health Phys., 48[4], 180–192(2013). 6)K. Ito, “Risk and maintenance application to nuclear power plants in foreign countries,” Jpn. Soc. Maintenology 7th. Annual Academic Lecture, 日本保全学会 第 7 回学術講演 会,[In Japanese]. 7)Hossein P. Nourbakhsh, George Apostolakis, Dana A Powers, “The evolution of the U.S. nuclear regulatory process,” Prog. Nucl. Energy (2017), http://dx.doi.org/ 10.1016/j.pnucene.2017.05.020. 8)U.S. Nuclear Regulatory Commission(NRC). 1983a. Regulatory Analysis Guidelines of the U.S. Nuclear Regulatory Commission, p5–31 Table 5–2, NUREG/BR–0058 Revision 5, https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/nuregs/ brochures/br0058/. 9)Strategic Energy Plan, エネルギー基本計画,Cabinet approval on 2018.7.3[in Japanese]. 10)Long Term Energy Supply and Demand Perspective,  長期 エネルギー需給見通し,Ministry of Economy, Trade and Industry, 2018.7.28 p7,[in Japanese]. 11)FACT BOOK 2019 Year Ended March 31,2019, Kansai Electric Power Co., Inc., p26, https://www.kepco.co.jp/ corporate/report/factbook/2019/pdf/factbk19.pdf.. 12) Safety and Operational Benefits of Risk-Informed Initiatives, An EPRI White Paper Feb. 2008, http://mydocs.epri. com/docs/CorporateDocuments/SectorPages/Portfolio/ Nuclear/Safety_and_Operational_Benefits_1016308.pdf. 13)Inspection Manual Chapter 609: Significance Determination Process, U.S. Nuclear Regulatory Commission, https:// www.nrc.gov/docs/ML1818/ML18187A187.pdf. 14)Inspection Manual Chapter 308: Reactor Oversight Process Basis Document, Exhibit12, U.S. Nuclear Regulatory Commission, https://www.nrc.gov/docs/ML1630/ML16306A386. pdf. 15)Status Report on the Licensing Activities and Regulatory Duties of the U.S. Nuclear Regulatory Commission, U.S. Nuclear Regulatory Commission, Dec2017, p20, https:// www.nrc.gov/docs/ML1732/ML17324B146.pdf.. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).

(10)

Fig. 1 のように Δ Ri<Ra ならば Ra は減少し, Δ Ri>Ra ならば Ra は増加する。
Table 2 Required duration for restart
Table 4 CDF, Q and R of each Case
Fig. 2  Capacity factor performance vs. risk level
+2

参照

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