• 検索結果がありません。

トルコ語を母語とする日本語学習者による撥音の前の/e/の発音の傾向

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "トルコ語を母語とする日本語学習者による撥音の前の/e/の発音の傾向"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

トルコ語を母語とする日本語学習者による撥音の前の/e/の発音の傾向

Analysis of Pronunciation of /e/ Preceding /N/ by Turkish Learners of Japanese

石山 友之

ISHIYAMA Tomoyuki

国際交流基金日本語国際センター

The Japan Foundation Japanese-Language Institute, Urawa [email protected]

Abstract: The present study investigated the tendency of the pronunciation of /e/ preceding the moraic nasal (/N/) by Turkish learners of Japanese (TL). We analyzed the transcriptions of Japanese speech of 50 TL and of 650 other learners of Japanese with different native languages in the International Corpus of Japanese as a Second Language. Results showed that although the frequency decreases with level of proficiency, /e/ preceding /N/ is sometimes transcribed as /a/ even in speech by advanced TL. Furthermore, this transcription was hardly seen in speech by other language speakers. These results suggest that TL tends to pronounce /e/ preceding /N/ as /a/, and this tendency, which seems to be caused by phonetic features of the Turkish language, is particularly unique to TL.

キーワード:トルコ語を母語とする日本語学習者、母音、撥音、母語の影響 1. はじめに トルコ語を母語とする日本語学習者(以下 TL)の発話を観察すると、しばしば/(C)eN/注1 という環境における撥音の前の/e/が「あ」に近 い音になることに気づく。 図 1 は学習歴 1 か月の TL による/seNseRdesu/ (先生です)という発話のスペクトログラムで ある。発話の中に現れる 3 つの/e/の平均第一フ ォルマント周波数は、それぞれ 829Hz、514Hz、 591Hz である。/seN/の/e/は、第一フォルマント が最も高く、聴覚上も他の/e/よりも開口度が広 いように聞こえる。以降、/(C)eN/の/e/が/a/のよ うになることを「e→a」と表記する。 図 1 TL による/seNseRdesu/のスペクトログラム TL による「e→a」は、/l, m, n, r/で終わる閉音 節 中 の /e/ は 開 口 度 が 広 く な る ( Göksel and Kerslake 2005, Demircan 2013, Taylan 2015 など) というトルコ語の影響である可能性がある。し かし、これまでに詳しい分析が行われておらず、 TL に特有なのかもしくは他の学習者にも見ら れるのか、そして習熟度との関係など不明な点 も多い。そこで本研究では、迫田他(2016)に よる『多言語母語の日本語学習者横断コーパ ス』モニター版(I-JAS)を用いて TL による撥 音の前の/e/について分析を行った。 2. データと分析方法 I-JAS 収録のデータのうち、海外の教室環境 学習者のデータ(TL50 名、その他計 650 名) を分析対象とした。コーパス検索アプリケーシ ョン『中納言』注2を使用して/(C)eN/という音環 境を抽出し、/(C)eN/に対して付与された「誤用」 タグの数を調べた。 「誤用」には様々なものがあるが、例えば「先 生」という発話の書き起こしが「さんせい」と なっていた場合、/(C)eN/の/e/が/a/だと判断され た、つまり、「e→a」の例であると言える。こ のように語彙素と発話の書き起こしを比較し て、「誤用」の中の「e→a」の数を計測した。 3. 結果 3.1 TL による「e→a」 I-JAS には発話と作文のそれぞれのタスクに よるデータが収録されている。「e→a」は発音 の傾向であり、発話で多く現れると予測される。 TL による/(C)eN/環境の頻度は、発話では 2578 例、作文では 398 例であり、そのうち発話の 229 例に、作文の 6 例に「誤用」タグが付与されて いた。「e→a」は発話の「誤用」の 81.2%(186 例)、作文の「誤用」の 16.7%(1 例)であっ た。予測した通り、「e→a」は発話で多く現れ る現象であると言える。そのため、以下では I-JAS の発話タスクによるデータに限定して分 析を進めることとする。 日本語教育方法研究会誌 Vol.26 No.2 -2-

(2)

表 1 は「e→a」が多かった上位 5 語である。 最も多かったのは「先生」で、/(C)eN/に対する 「誤用」77 例の全てが「e→a」であった。その 他にも「年」、「全然」も「誤用」の全てが「e →a」であった。発話の/(C)eN/環境で起きた「誤 用」の 81.2%が「e→a」であったことから、「e →a」は/(C)eN/という環境で起きる TL の「誤用」 の典型例であると言える。 表 1 TL による「e→a」上位 5 語 語 「誤用」 「e→a」 先生 77 77 ケン 44 34 年 22 22 全然 12 12 電気 6 5 次に、「e→a」と習熟度の関係について分析 を行う。表 2 は習熟度別に「e→a」頻度と「e →a」が生起していた話者を示したものである。 なお、習熟度は話者の SPOT(李他 2015)の得 点に基づく注3 表 2 「e→a」の習熟度による分類(括弧内は割合) 習熟度 「e→a」 / /(C)eN/頻度 生起話者数 / 総話者数 初級以下 78 / 541 (18.8) 14 / 17 (82.4) 中級 106 / 1895 (5.6) 17 / 31 (54.8) 上級 2 / 142 (1.4) 1 / 2 (50.0) 合計 186 / 2578 (7.2) 32 / 50 (64.0) 表から、習熟度が高くなると/(C)eN/環境にお ける「e→a」の生起率は低くなり、また、「e →a」が起きる話者の割合も減少することがわ かる。ただし、上級であっても「e→a」がなく なるわけではない。つまり、上級の TL であっ ても/e/のつもりで発音したものを聞き手が/a/ と誤って聞き取る可能性がある。そのため、撥 音の前の/e/は TL に対する音声教育を行う上で 注意が必要であると考えられる。 3.2 他言語話者の「e→a」 表 3 は TL の発話で「e→a」が最も多く起き ていた「先生」という語の、他言語話者も含め た「e→a」の頻度をまとめたものである。 表 3 日本語学習者による「先生」 話者の母語 語 頻度 「e→a」/ 「誤用」 生起話者数/ 総話者数 トルコ語 473 77/77 22/50 ハンガリー語 247 2/3 1/50 インドネシア語 708 1/1 1/50 その他 3927 0/26 0/550 表 3 の通り「先生」における「e→a」は、ハ ンガリー語、インドネシア語話者でも見られた。 しかし、それぞれ 2 例、1 例のみで、また、1 名の話者によるものであった。そのため、「e →a」はハンガリー語、インドネシア語話者に 広く見られる傾向なのではなく、特定の話者の 特徴であると考えられる。 以上のことから、「e→a」は他の話者と比較 して、特にトルコ語母語話者に起きやすい現象 であると言える。このように特に TL に起きや すいのは、「はじめに」でも触れたように、/l, m, n, r/で終わる閉音節中の/e/の開口度が広くなる というトルコ語の音声の影響による現象であ るからだと考えられる。 4. まとめと今後の課題 本研究で I-JAS をもとにした分析を行った結 果、「e→a」は他の話者と比較して特に TL の 発話で起きやすい現象であること、習熟度に従 って生起率は低くなるが、上級であっても現れ ることが明らかになった。そのため、/(C)eN/ という音環境は、TL に対する音声教育を行う 上で、注意が必要な音環境であると言える。 ただし、本研究で明らかになった TL に起き やすいという結果は、I-JAS に収録されている 学習者の中ではという点を付け加えておく必 要がある。つまり、コーパスに収録されていな い学習者の中にも、「e→a」が起きやすい学習 者がいる可能性がある。そのため、今後は I-JAS に収録されていない話者についても分析を行 う必要がある。 また、今回は発話の書き起こしの分析である ため、初級と上級の/e/の音声的な違いまではわ からなかった。今後は音声学的な特徴とその習 熟度による変容についても分析したい。 注 注 1 (C)は任意の子音、e は母音の/e/、N は撥音を示す。 注 2 https://chunagon.ninjal.ac.jp 注 3 SPOT の習熟度は「入門」、「初級」、「中級」、 「上級」に分類される(李他 2015)。しかし、I-JAS で「入門」に該当する TL は 1 名のみであったた め、「初級」と合わせて「初級以下」とした。 付記 本研究は国立国語研究所のプロジェクトによる成果『多 言語母語の日本語学習者の横断コーパス:I-JAS』(およ び検索システム)を利用して行われたものである。 参考文献 李在鎬・小林典子・今井新悟・酒井たか子・迫田久美子 (2015)「テスト分析に基づく『SPOT』と『J-CAT』 の比較」『第二言語としての日本語の習得研究』Vol.18, pp.53-69. 迫田久美子・小西円・佐々木藍子・須賀和香子・細井陽 子(2016)「多言語母語の日本語学習者横断コーパス International Corpus of Japanese as a Second Language」 『国語研プロジェクトレビュー』Vol.6, No.3, pp.93-110. Demircan, Ö. (2013) Türkçenin Sesdizimi (4. Basım). Istanbul:

Der Yayınları.

Göksel, A. and Kerslake, C. (2005) Turkish: a Comprehensive

Grammar. London and New York: Routledge.

Taylan, E. E. (2015) The Phonology and Morphology of

Turkish. Istanbul: Boğaziçi University Press.

日本語教育方法研究会誌 Vol.26 No.2

参照

関連したドキュメント

第 8

筆者は、教室活動を通して「必修」と「公開」の二つのタイプの講座をともに持続させ ることが FLSH

日本語教育に携わる中で、日本語学習者(以下、学習者)から「 A と B

高等教育機関の日本語教育に関しては、まず、その代表となる「ドイツ語圏大学日本語 教育研究会( Japanisch an Hochschulen :以下 JaH ) 」 2 を紹介する。

その結果、 「ことばの力」の付く場とは、実は外(日本語教室外)の世界なのではないだろ

日本語接触場面における参加者母語話者と非母語話者のインターアクション行動お

 さて,日本語として定着しつつある「ポスト真実」の原語は,英語の 'post- truth' である。この語が英語で市民権を得ることになったのは,2016年

1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における