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編集後記にかえて−日本の臨床科学基盤を憂う

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Clin Eval 35(3)2008 − 711 −

編集後記にかえて─日本の臨床科学基盤を憂う

 日本では,有効性が実証されず,欧米では使用されていない─米国では一旦承認された が約 1 年後に使用が停止になり欧州では承認申請が取り下げられた─この薬は,ゲフィチ ニブ.分子標的薬として華々しく前宣伝されたが,日本での試験を含む世界で行われた比 較臨床試験の全てにおいて有効性は実証されず,日本では奏効割合は20%に達したが延命 効果にはつながらなかった.この事実は,改めて,奏効割合の surrogacy に関して生物学 的,臨床試験上,医薬品の開発上の現代科学の限界を,我々の前に提示した.欧米に先駆 けて承認され,米国で使用が停止されてからも,日本では使用され続け,そのため副作用 による死亡数は企業が認めているだけで 2007 年 3 月末の時点で 706 名に達している.第一 の副作用は間質性肺炎(IP)である.極めて重篤で,患者は非常に苦しむ,副作用の中で 最悪のものと言ってよい.日本でIPによる死亡が報告された承認・市販直後より,リスク・ ベネフィットが何度も問題になったが,ゲフィチニブでは,単剤で IP が数%の患者に起こ り,その半分が死亡するのである.延命効果の証拠がないままに,日本で市場に今も残り, 使われ続けているという異常さは,理解不能である.欧米における有効性に関する科学常 識が日本では当局はもとより,専門家,臨床腫瘍学会という ASCO に追随する集団におい てさえも通用しない.これは,日本においては,科学が正しく実践されていない一つの典 型的な証拠であろう.  あまつさえ,わが国で行われたゲフィチニブとドセタキセルを比較した非劣性試験の結 果,非劣性が証明されなかったにもかかわらず,某私立大学の教授を務める生物統計家は 科学の統合性に反する後解析をして公の場でリスク・ベネフィット評価をミスリードした のである.これは科学に対する冒涜であり,国家的恥辱といってよい.私は,一科学者・ 医師として,イレッサ(ゲフィチニブ)薬害裁判の大阪・東京の法廷で主尋問・反対尋問 を受け,「この薬害は,有効性が実証されていないばかりか,承認前にすでにわかっていた 重大な副作用を無視して市場に出した結果起こった,人類史上前代未聞の人為的被害であ り,もともと防ぐことができたものであって,わが国において薬害の起こる原因のすべて がここに詰まっている.二度とこのようなことが起こらないように,この裁判ですべてを 明らかにしてほしい.」と訴えたのであった.  かつて日本では,クレスチン,ピシバニールという有効性が実証されていない薬に国民 は 1 兆円を超すお金をたかだか 10 年間のあいだにドブに棄てたが,今回,ゲフィチニブに おいては,金額では及ばないものの,企業が認める 706 名の副作用死亡数をもってすれば, 国民的被害はクレスチン,ピシバニールの比ではない.クレスチン,ピシバニールにおい て副作用死亡はほとんど報告されていないし,しかも,この薬は国産であった.約 19 年前 にNature誌で日本における科学の実践の問題を指摘したが(Fukushima M.Nature.1989; 342:850-1,Fukushima M.Nat Med.1995;1:12-3),いっこうに科学が正しく実践さ れず,余命が限られた多数の患者に副作用死亡という薬害をもたらしたのである.日本に おけるこのような poor practice of science は,あたかも科学技術立国を標榜する我が国の シンボルのようである.

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