大人は子どもの命を守るモデルになっているか
-交通場面での幼児の模倣学習の実際-
― 平成 30 年度(本報告) タカタ財団助成研究論文 ―
ISSN 2185-8950
研究実施メンバー
研究代表者
筑波大学
医学医療系
教授
徳田
克己
研究協力者
筑波大学
医学医療系
准教授
水野
智美
富山大学
人間発達科学部
准教授
西館
有沙
東京未来大学
こども心理学部
専任講師
西村
実穂
子ども支援研究所
専任相談員
大越
和美
報告書概要
本プロジェクトは,将来的に適切な交通行動を身につけ,交通社会人となるためには,幼児期からの家庭 および幼稚園,保育所における交通安全教育が必須である.その中でも,保護者が子ど もにどのような交通行動のモデルを示しているのかは,幼児期の子どもにとって非常に 大きな意味を持つ.そこで本研究は,幼児連れの保護者がどのような交通行動をしてい るのか,また子どもあるいは保護者の交通行動や保護者の交通行動を模倣することにつ いてどのように認識しているのか,子どもは保護者の不適切な交通行動についてどうと らえているのかについて,交通場面における定点観察調査,保護者に対する質問紙調査, 幼児に対する個別ヒアリング調査を通して明らかにすることを目的とした. 定点観察調査の結果より,幼児を連れた家族の中には信号無視をしたり,歩行者用信 号が点滅した後に横断をし始めたりするケースが少なくないことを明らかにした.ま た,子どもと一緒の際に、ながらスマホをしているケースも1割程度あった.なかには, 保護者と一緒に子どもがポケモン GO をしながら歩いているケースも見られた. 幼児を持つ保護者を対象にした質問紙調査の結果からは,保護者は子どもと一緒にい る場合には子どもに適切な行動を促し,自分もそのような行動を示そうとしていると答 えていた.ただし,子どもと一緒ではないときには,不適切な行動をする頻度が増える ことが確認できた. さらに,幼児に対するヒアリング調査の結果から,信号無視や信号が点滅した後に横 断することは不適切であると認識している子どもが多かったが,保護者が赤信号で渡ろ うとしていたり,信号が点滅した後に渡ろうとしていたことが子どもから指摘された. また,保護者がながらスマホやエスカレータ上を駆け上がることをしている様子が子ど もの発言から聞かれただけでなく,保護者が「走りながらスマホを操作する」「運転し ながらスマホを操作する」ことをあたかも自慢のように子どもが述べることすらあっ た.このように,保護者の不適切な行動を子どもが目撃しており,違和感をもったり, ルールとしては良くないけれども,大人はそのルールを破っても良いなどと考えるよう になっていた.
目 次
大人は子どもの命を守るモデルになっているか -交通場面での幼児の模倣学習の実際- 第1 章 問題の所在と目的 1.1 研究背景 1.2 目的 第2 章 交通場面における定点観察調査 2.1 目的 2.2 方法 2.3 結果と方法 第3 章 保護者に対する質問紙調査 3.1 目的 3.2 方法 3.3 結果と考察 第4 章 幼児に対するヒアリング調査 4.1 目的 4.2 方法 4.3 結果と考察 第5 章 まとめと今後の課題 参考文献第 1 章 問題の所在と目的
1.1 研究背景 交通ルールやマナーを守ることは,大人だけでなく,幼児においても同様に重要である. 交通ルールやマナーを守るための教育は,幼児期から生涯にわたって,家庭,学校,社会 などにおいて行われている.新井(2001)は,幼児期の交通安全教育の目標は①子どもを 交通事故の犠牲にしないこと,②現在および将来の良き交通社会人を育てることの 2 点を 掲げ,「自分の感情や認知・行動も含めて交通の場においてどのような危険があるかを認識 し,その発見や予測の仕方を学ぶ」ことを教育内容として挙げている. しかし,幼児期における家庭での指導は,「車に気をつけなさい」「車が来ないかを確か めなさい」「信号をよく見て渡りなさい」などの「決まり文句」がかけられるにすぎず(星, 1993;新井,1997),具体的に交通場面でどのように行動すればよいのかについて十分に 教えられていないことが指摘されている. また,幼児期の子どもは,親しい愛情関係にある人,自身にとってプラスになるような 支配する力を持つ人の言動をまねて言動,社会性などを身につけて行く(中島,1993)と 言われている.まさに,幼児期の子どもにとっては保護者や兄姉,祖父母がモデルの対象 となる.しかし,保護者自身が子どもに「~しなさい」あるいは「~してはいけない」と教 えていながらも,自身ができていないことは多い(Mizuno, Edano & Tokuda, 2015; 水 野・高見;2003).その上,子どもに指摘されると,言い訳をしたり,開き直ったりする ことがある.例えば,赤信号で横断しようとした(してしまった)場面を子どもに指摘さ れたときに,約4 割の保護者が「大人と一緒の時は大丈夫」「今は仕方がなかったから」な どと言い訳をしたり,開き直りをしていることが確認されている(Mizuno et al., 2015). これによって,子どもは保護者の言い訳を含めて,行動をまねていくことになる. なお,一般的に,交通場面における大人の行動は,命令的規範と記述的規範の 2 つの社 会的規範が関係していると言われている(Cialdini, Kallgren & Reno, 1991).命令的規範 とは,法律による罰則,社会的な報酬などによって,一義的に適切な行為であるのか不適 切な行為であるのかが認知されているものである.例えば,赤信号で横断してはならない ということは,道路交通法第7 条で示されており,一般的にも同様に認識されている.記 述的規範とは,周囲の人の行動を見て,その状況において何が適切あるいは不適切な行動 であるかを考え,行動する規範である.例えば,赤信号の際に周囲の人々の行動を見るこ とによって,自身の行動を決めること(止まるべきか,無視をしてしまうか)を指す.信 号無視については,自動車を運転しているドライバーよりも歩行者の方が悪質性の評価, 罪悪感,抵抗感が低いことが確認されている(小林・内山・松本,1977).大人は,赤信 号で渡ってはいけないという知識を持ち合わせながらも,周囲の行動に左右されるという, 命令的規範よりも記述的規範で行動していることによることに影響されているのであろう. さらに,大人であっても交通ルールを知らずに,命令的規範さえ持てない状況もある. その例が,歩行者用信号が点滅している場合の横断である.道路交通法施行令第2 条では,「歩行者は,道路の横断を始めてはならず,また,道路を横断している歩行者は,すみや かに,その横断を終わるか,または横断をやめて引き返さなければならない」と示されて いるにもかかわらず,そのことを知らない人が多い(矢野・森・齋藤,1998;関根・吉田・ 冨岡・井筒・本間,2003). また,「ながらスマホをしない」「エスカレータの上を駆け上がらない」などの交通マナ ーに関しては,企業や学校などにおいて様々な啓発活動が行われている(西館・水野・徳 田,2016)にもかかわらず,なかなか改善がみられない.Mizuno, Tokuda & Cho (2016) は,ながらスマホに関する啓発ポスターやテレビのニュースなどの視聴の有無とながらス マホの実施との関係性を比較したが,視聴している人としていない人では有意な差がなく, 啓発の効果がほとんどないことを明らかにした.つまり,交通マナーは知っているが,守 れない人が多いのである. 1.2 目的 幼児は自身が交通事故に遭わないためだけでなく,将来的に適切な交通行動をとること ができるように,交通ルールとマナーに関する知識と行動を身につけていかなくてはなら ない.幼児がそのような知識と行動を最も効果的に身につける方法として、近くにいる保 護者の行動を模倣することがある。そこで本研究では、保護者が子どもの前でどのような 交通行動をしているのか,子どもが保護者の交通行動をまねすることについてどのように 認識しているのか,子どもは不適切な交通行動を保護者が行うことをどのようにとらえて いるのかについて,交通場面における定点観察調査,保護者に対する質問紙調査,幼児に 対するヒアリング調査を通して明らかにする.
第 2 章 交通場面における定点観察調査
2.1 目的 横断歩道,歩道上において幼児を連れた保護者が子どものモデルにならない行動をどの 程度行っているのかを定点観察調査によって明らかにしたい.具体的には,幼児を連れた 保護者が子どもと一緒に横断歩道上を信号無視して渡るケース,歩行者用信号が点滅した 後に子どもと一緒に横断を始めた(以下,点滅信号後の横断)ケース,子どもと一緒に歩 きながらスマートフォンをしているケースがどの程度いるのかを計測する.また幼児を連 れた保護者がその他にどのような不適切な行動を交通場面でしているのかを確認する. 2.2 方法 2.2.1 手続き 幼児連れの家族を 1 ユニットとして,横断歩道を渡ろうとする幼児連れ家族のうち,何 ユニットの家族が信号無視をしたか,点滅信号後に横断をしたかを計測した.また,調査 区間として定めた歩道(約10m)を通行する幼児連れ家族のうち,いくつの家族連れが歩 きながらスマートフォンの操作(以下,ながらスマホ)をしていたのかを計測した. 2.2.2 計数場所と日時 信号無視,点滅信号後の横断については表 2.1 に,ながらスマホに関しては表 2.2 に示 す場所と日時で定点観察調査をした.なお,計数場所の選定基準は,横断歩道に関しては, ①押しボタン式ではない(一定時間毎に信号が変わる)歩行者用信号機が設置されている こと,②歩行者用信号機に歩行者青残り時間秒数表示が設置されていないこと,③駅から 徒歩5 分以内であり,幼児を連れた家族が利用する施設が近隣にあることとした. ながらスマホに関しては,①神戸市内,大阪市内,東京23 区内にあること,②子どもを 連れた家族が遊びに行く場所に近いあるいはその場所に向かう途中である,または主要鉄 道駅であることとした. 2.3 結果と考察 ①信号無視,点滅信号後の横断 表 2.3 には信号無視,点滅信号後の横断をした家族の割合を,表 2.4 には計測中に観察 された横断歩道上での不適切な交通行動を示した.表 2.3 によると,計測場所全体を通して, 5%の幼児を連れた家族連れが信号無視をしていることが確認できた.特に,JR 神戸駅前,JR 天王寺駅前での信号無視が目立った. なお,JR 神戸駅前(写真 2.1)では,幼児を連れた家族連れを除いて,横断歩道を通行した 人数は 312 人であり,そのうちの 28%(88 名)が赤信号で横断していた.この場所は,赤信 号(約 1 分)の間に車が約 4~5 台しか往来せず,横断歩道の距離も短いことから,一般の人 も赤信号で渡る割合が高かった.赤信号で渡る割合が高い条件として,八木(2016)は,横断 歩道の距離が短く(5m~11m),車の往来が少ないことを挙げている.また,佐藤・大杉(2017)は,周囲に信号無視をする人が多いことを挙げている.この場所は,八木(2016),佐藤・大 杉(2017)が指摘する条件に合致しており,幼児を連れた家族であっても,周囲につられて信 号無視をしてしまったと思われる. 表 2.1 信号無視,点滅信号後の横断の計数場所と時間 場所 日時 横 断 歩 道 距離 JR 大正駅前・大正通交差点(京セラドーム 大阪,イオン大阪ドームシティ店への進行方 向)(大阪市) 2018 年 4 月 7 日(土) 10:40~11:40 ※調査日は14 時からプロ野球 の公式試合あり 21m JR 神戸駅前・神戸ガス燈通り(アンパンマン ミュージアム前)(神戸市) 2018 年 4 月 7 日(土) 14:00~15:00 9m 大阪市営地下鉄大阪港駅前・天保山への進行方 向(大阪市) 2018 年 4 月 29 日(日) 14:30~15:30 9m JR天王寺駅前・谷町筋・天王寺動物園への 進行方向(大阪市) 2018 年 4 月 30 日(月:振替 休日)10:30~11:30 7m JR小岩駅前・北口・イトーヨーカドー前(東 京都) 2018 年 5 月 20 日(日)14: 00~15:00 7m 表 2.2 ながらスマホの計数場所と時間 場所 日時 阪急神戸三宮駅前 阪急サンキタ通り (神戸市) 2018 年 4 月 8 日(日) 11:00~12:00 JR三ノ宮駅前 神戸丸井前(神戸市) 2018 年 4 月 8 日(日) 12:30~13:30 上野恩賜公園 動物園入場門前 (東京都) 2018 年 4 月 22 日(日) 10:00~11:00 JR 東京駅 コンコース(東京都) 2018 年 4 月 22 日(日) 11:45~12:45 新橋駅汐留口前(東京都) 2018 年 4 月 29 日(日) 10:10~11:10 なんば駅前 千日前通 ビックカメラ 前(大阪市) 2018 年 4 月 29 日(日) 14:05~14:05 難波駅前 戎橋付近(大阪市) 2018 年 4 月 29 日(日) 15:15~16:15 大阪市営地下鉄大阪港前 天保山マー ケットプレイス前(大阪市) 2018 年 4 月 30 日(月 振替休日)9:30~10:30 JR大阪駅 コンコース(大阪市) 2018 年 4 月 30 日(月 振替休日)12:00~13:00
表 2.3 信号無視,点滅信号後の横断をした家族の割合 場所 横断した家族数 信号無視 点滅信号開始後 の横断 JR 大正駅前 210 1%(2) 3%(6) JR 神戸駅前 44 14%(6) 5%(2) 大阪市営地下鉄大阪港駅前 211 2%(4) 18%(37) JR 天王寺駅前 237 8%(18) 11%(27) JR 小岩駅前 96 1%(9) 21%(20) 計 798 5%(39) 12%(92) 表2.4 横断歩道上での保護者の不適切な交通行動 【信号無視】 ・赤信号で保護者が子どもを先導して渡らせていた(JR 大正駅前). ・幼児を連れて横断歩道を赤信号で渡っており,左折してきた車に轢かれそうになった(JR 天王寺駅前). 【点滅信号後の横断】 ・横断歩道を渡り始める前に信号が点滅していたにもかかわらず,保護者が先導して走っ て子どもを渡らせていた(JR 神戸駅前). ・点滅信号後に家族で渡り始め,途中で信号が赤になった.車が走行してきたため,一番 後ろを歩いていた幼児だけが中央分離帯に取り残されてしまった(JR 天王寺駅前). 【その他】 ・横断歩道を渡る際に立ち止まって左右を確認している親子連れはいなかった (JR 大正駅前). ・横断歩道を渡る際に手を挙げていた幼児は1 名のみであった(JR 大正駅前). ・横断歩道ではない場所(ショッピングモールの出入り口前道路)から道路に侵入して横 断歩道を渡る(いわゆる斜め横断をする)家族が多かった(JR 小岩駅前). ・保護者が幼児を連れて,ながらスマホをしながら横断歩道を渡っていた(JR 小岩駅前). 一方,大正駅前(写真2.2)では,横断歩道の距離が長い上に,調査時に通行した一般人(幼 児を連れた家族連れを除く)2190 人のうち,赤信号で渡った人も 4%(86 人)であった.そ のため,幼児を連れた家族連れが信号無視をする割合は1%にとどまった. 点滅信号後の横断については,全体では12%もの幼児を連れた家族連れがしていたこと が確認できた.特に多かったのは,JR 小岩駅前(21%),大阪市営地下鉄大阪港駅前(18%) であった.どちらの横断歩道も,距離は短いが,赤信号の際には車の往来が連続してあっ た.そのため,幼児を連れて赤信号で横断することは危険であると判断したのであろうが, 点滅信号で横断を開始することについては,危険であると認識しなかったと推測される.
また,表 2.4 によると,赤信号での横断も点滅信号後の横断も保護者が子どもを先導し ている様子が観察された.さらに,点滅信号後に横断し始めた家族の中で,子どもを中央 分離帯に残して,大人だけ先に渡ってしまったケースがあり,交通行動として保護者が子 どものモデルにならないばかりではなく,子どもに大きな危険が及ぶケースがあった. その他として,JR 大正駅前では,横断歩道を渡る際に立ち止まって左右を確認している親 子連れはなく,手を挙げて横断した幼児は1 名のみであった.調査時は,プロ野球の公式試合 の開始前であり,多くの人通りがあった.そのため,通行する人は周囲の流れに添って歩いて おり,横断歩道前で左右を確認する人はいなかった.このような周囲の行動によって,幼児を 連れた家族も危険の認知が低まり,周囲と同様に子どもに左右の確認をさせなかったり,子ど もに手を挙げるように促したりすることがなかったと思われる. さらに,JR 小岩駅前では,斜め横断をする親子連れが多くみられた.保護者が平然と斜め 横断をしていたことから,子どもも疑問を持たずに保護者と一緒に斜め横断をしているように 感じられた. 写真2.1 JR 神戸駅前の計測場所 写真 2.2 JR大正駅前の計測場所 ②ながらスマホ 表2.5 に幼児連れの家族のうちで保護者がながらスマホをしながら歩いていた割合を,表 2.6 にながらスマホをしていた家族の例を示した.表2.5 によると,全体で約 1 割の家族連れが幼 児と歩く際にながらスマホをしていることを確認した.また,表 2.6 に示したように,保護者 も子どももそれぞれがながらスマホをしているケース,両親がそれぞれながらスマホをしてい るケースもあった.そのなかには,ポケモンGO をしている親子もおり,他の歩行者と明らか に歩行速度が違い,ゆっくり歩いたり急に立ち止まったりしている様子がみられた.なかには, 保護者がながらスマホをしているため,子どもと手をつながずに歩いているだけでなく,子ど もが安全に歩いているかどうかに注意を払うこともできず,子どもが他の歩行者とぶつかりそ うになっている(保護者は,その状況を認識していない)ことがあった.
表 2.5 ながらスマホの割合 場所 通過した家族数 ながらスマホ 阪急神戸三宮駅前 阪急サンキタ通り 110 11%(12) JR 三ノ宮駅前 神戸丸井前 156 9%(14) 上野恩賜公園 605 4%(24) JR 東京駅 189 3%(6) 新橋駅 201 16%(32) なんば駅前 千日前通 167 11%(19) なんば駅前 戎橋付近 233 15%(34) 大阪市営地下鉄大阪港前 198 16%(32) JR大阪駅 137 12%(16) 計 1996 9%(189) 表2.6 ながらスマホをしていた家族の例 ・父親と子どもの二人連れのそれぞれがポケモンGO をしており,歩きながら操作したり, 突然に立ち止まったりしていた(阪急神戸三ノ宮駅前). ・母親がながらスマホをしていたところ,子どもがそれをのぞき込み,二人で画面を見な がら歩いていた(阪急神戸三ノ宮駅前). ・子どもの手を引きながら母親がスマホの画面を見て歩いているため,子どもが前から来 た人にぶつかりそうになっていたが,母親はそのことに気付いていない様子であった (JR 三ノ宮駅前). ・父親が子どもを肩車しながらながらスマホをしていた(上野恩賜公園). ・保護者は子ども(3~4 歳ぐらい)と手をつながず,ながらスマホをして歩いているため, 子どもが保護者の元から 40~50m 離れて,初めて追いかける.その間,子どもは他の 通行者にぶつかりそうになっていた(上野恩賜公園). ・父親がポケモン GO をしており,突然,立ち止まる.それに合わせて,母親と子どもも 父親の操作が終わるまで待っている.他の通行人は迷惑そうな様子で,その家族連れを 避けていた(大阪市営地下鉄大阪港前). ・子どもは保護者の前を歩いており,後ろにいる両親はともに歩きスマホをしていた(JR 大阪駅).
第 3 章 保護者に対する質問紙調査
3.1 目的 幼児を持つ保護者は,子どもと一緒の時および子どもがいない時にどのような交通行動をと っているのか,子どもに不適切な交通行動をまねされた経験があるのかなどについて明らかに する. 3.2 方法 ①調査対象者 東京都内,北海道内,茨城県内,千葉県内,沖縄県内の幼稚園,保育所,こども園に子 どもを通わせている保護者 1150 名を対象とし,794 名(69%)から回答を得た.そのうち, 回答に不備がある人を除き,766 名の回答を分析対象とした.回答者の属性を表 3.1 に示 した. 表 3.1 回答者の属性 % 人数 子どもから見た属性 母親 父親 95% 5% 727 名 39 名 年齢 20 代 30 代 40 代 50 代 9% 63% 27% 1% 69 名 485 名 209 名 3 名 子どもの人数 1 名 2 名 3 名 4 名以上 無回答 21% 60% 16% 2% 1% 164 名 458 名 122 名 21 名 1 名 ②調査手続き 東京都内,北海道内,茨城県内,千葉県内,沖縄県内の 11 の幼稚園,保育所,認定こども 園の管理者に調査を依頼し,承諾を得た施設の保護者に質問紙を配布し,留置法によって回収 した.なお,無記名,自記式の質問紙を用いた.調査時期は2018 年 7~8 月であった. ③倫理的配慮 本研究は,筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:1318).3.3 結果と考察 幼児期の子どもと一緒の場合の交通行動および自分一人の場合の交通行動を「非常によ くする(5 点)」から「全くしない(1 点)」までの 5 段階のリッカート尺度で尋ねた(前 から表 3.2,表 3.3).また,子どもと一緒の場合と自分一人の場合の交通行動の比較を表 3.4 に示した. 表3.2 によると,子どもと一緒の場合には,「横断歩道を渡る時に子どもに手を挙げさせる」 「横断歩道を渡る時に自分が手を挙げる」行動は,それぞれ平均値が3.52(SD=1.37),1.93 (SD=1.22)と他の行動に比べて行われていない傾向がみられた.このことから,子ども に手を挙げて横断歩道を渡るように保護者はあまり促していなく,かつ自分自身も子ども にその行動を見せることをしていないと言える.しかし,その他の交通行動については, 調査対象者自身の認識では,概ね適切な交通行動をしており,子どもにも同様にさせよう としている傾向が確認できた.つまり,子どもと一緒にいる場合には,保護者は子どもに 適切な交通行動を行うように促し,自分自身もそのような行動をモデルとして示そうとし ている. ただし,表 3.3,表 3.4 によると,「自動車の助手席に乗る時にシートベルトを着用する」 こと以外は,自分一人の場合には,不適切な行動をする頻度が有意に高くなることを確認 した(例えば,「信号がある横断歩道を渡る時に自分が左右の確認をする」については,子ど もが一緒の場合には平均値が4.67 であるにもかかわらず,自分一人の場合には 4.17 に下がる). つまり,「自動車の助手席に乗る時にシートベルトを着用する」ことは,道路交通法第71 条 3 に示され,違反した場合には罰則が設けられていることから,子どもがいてもいなくても,習 慣としてその行動が身についているのであろう.しかし,その他の交通行動については,子ど もと一緒の場合であれば,「我が子を事故に合わせたくない」という思いや「子どもの前では 適切な行動をしなくてはならない」という規範意識が働き,我が子の前だけでは適切な行動を とろうとするが,我が子がいなければ,その思いや規範意識が薄れるということである.なお, 子どもと一緒の場合においても,保護者が自分一人でいる場合においても,「信号のない横断 歩道を渡る時に左右の確認をする」「信号のある横断歩道を渡る時に左右の確認をする」と言 う行動についての得点が 5.0 にならないのは,周囲の人の動きを見て渡ってしまうことがある 人が存在するためであろう. 自分が赤信号を渡る姿を子どもに見られた経験の有無を尋ねたところ,35%(271 名)があ ると答えた.子どもに見られた経験のある人を対象に,子どもがまねをして赤信号で渡ろうと した経験の有無を「非常によくある」から「全くない」までの4 件法で尋ねた(表 3.5).その 結果,「非常によくある」「時々ある」と答えた人を併せると16%となり,割合としては多くは ないが,子どもが不適切な行動を模倣している家庭があることが確認できた. また,子どもにエスカレータを歩く姿を見られた経験の有無を尋ねたところ,52%(399 名) があると答えた.子どもに見られた経験のある人を対象に,子どもがまねをしてエスカレータ を歩こうとした経験の有無を「非常によくある」から「全くない」までの4 件法で尋ねた(表 3.6).その結果,「非常によくある」「時々ある」と答えた人を併せると 46%となり,約半数を 占めた.赤信号で渡ってはいけないことは幼稚園や保育所等でも教えられているため,保護者
が赤信号で渡っている姿を見ても,多くの子どもはいけないことであると認識できるが,エス カレータを歩いてはいけないことについては幼稚園や保育所で教えられる機会がないため,保 護者が歩いていれば,子どもも当然,自分もしてよいことであると考えるであろう. 表3.2 幼児期の子どもと一緒の場合の行動 M SD 信号のない横断歩道を渡る時に自分が左右の確認をする 4.90 0.39 自動車の助手席に乗る時にシートベルトを着用する 4.90 0.48 信号がある横断歩道を渡る時に自分が左右の確認をする 4.67 0.68 横断歩道前で子どもに道路に飛び出さないように言う 4.65 0.71 横断歩道を渡る時には,子どもと手をつなぐ 4.63 0.68 自動車に乗る時には,6 歳未満の子どもをチャイルドシートに 座らせる 4.61 0.86 信号のない横断歩道を渡る時に子どもに左右の確認をさせる 4.46 0.90 道を歩く時には,子どもと手をつなぐ 4.28 0.83 子どもが自転車に乗る時にはヘルメットを着用させる 4.27 1.23 信号がある横断歩道を渡る時に子どもに左右の確認をさせる 4.18 1.01 自動車の後部座席に乗る時にシートベルトを着用する 3.83 1.35 横断歩道を渡る時に子どもに手を挙げさせる 3.52 1.37 横断歩道を渡る時に自分が手を挙げる 1.93 1.22 渡り始める前に歩行者用信号が点滅していても,渡ってしまう 1.85 0.95 横断歩道が近くにあるにもかかわらず,横断歩道ではないところを 横断してしまう 1.79 0.92 道を歩いていて歩きスマホをしてしまう 1.59 0.88 車が来ていなければ,赤信号で横断歩道を渡ってしまう 1.22 0.58 横断歩道を渡っている時に歩きスマホをしてしまう 1.17 0.55 歩行者用信号が青に変わる前に渡り始めてしまう 1.14 0.50
表3.3 自分一人の(子どもと一緒にいない)場合の行動 M SD 自動車の助手席に乗る時にシートベルトを着用する 4.92 0.41 信号のない横断歩道を渡る時に左右の確認をする 4.78 0.64 信号がある横断歩道を渡る時に左右の確認をする 4.17 1.18 自動車の後部座席に乗る時にシートベルトを着用する 3.22 1.56 渡り始める前に歩行者用信号が点滅していても,渡ってしまう 2.95 1.30 横断歩道が近くにあるにもかかわらず,横断歩道ではないところを 横断してしまう 2.68 1.30 道を歩いていて歩きスマホをしてしまう 2.06 1.16 車が来ていなければ,赤信号で横断歩道を渡ってしまう 1.83 1.15 歩行者用信号が青に変わる前に渡り始めてしまう 1.45 0.88 横断歩道を渡っている時に歩きスマホをしてしまう 1.43 0.84 横断歩道を渡る時に手を挙げる 1.23 0.72 表3.4 子どもと一緒の場合と自分一人の場合の行動の比較 子どもと 一緒 一人 t 値 (df) 自動車の助手席に乗る時にシートベルトを着用する 4.90 4.92 1.14 (753) 信号のない横断歩道を渡る時に自分が左右の確認を する 4.90 4.78 5.15** (758) 信号がある横断歩道を渡る時に自分が左右の確認を する 4.67 4.17 13.05** (761) 自動車の後部座席に乗る時にシートベルトを着用する 3.83 3.22 13.68** (755) 横断歩道を渡る時に自分が手を挙げる 1.93 1.23 17.51** (759) 渡り始める前に歩行者用信号が点滅していても,渡って しまう 1.85 2.95 24.50** (758) 横断歩道が近くにあるにもかかわらず,横断歩道ではな いところを横断してしまう 1.79 2.68 21.97** (758) 道を歩いていて歩きスマホをしてしまう 1.59 2.06 13.84** (754)
車が来ていなければ,赤信号で横断歩道を渡ってしまう 1.22 1.83 15.95** (755) 横断歩道を渡っている時に歩きスマホをしてしまう 1.17 1.43 9.15** (759) 歩行者用信号が青に変わる前に渡り始めてしまう 1.14 1.45 9.97** (734) 表3.5 自分が赤信号を渡る姿を子どもが見て,まねをしようとした経験(n=271) 非常によくある 3% 7 名 時々ある 13% 36 名 あまりない 67% 180 名 全くない 7% 20 名 無回答 10% 28 名 表3.6 自分がエスカレータを歩く姿を子どもが見て,真似をしようとした経験(n=399) 非常によくある 6% 23 名 時々ある 40% 160 名 あまりない 47% 187 名 全くない 1% 2 名 無回答 6% 27 名
16%
46%
第 4 章 幼児に対するヒアリング調査
4.1 目的 具体的な交通場面において,どのような行動をすることが適切あるいは不適切であると 幼児が認識しているのかを明らかにする. 4.2 方法 ①調査対象者 東京都内の A 幼稚園に通っており,調査をするにあたり保護者の同意を得られた 51 名を 調査対象とした.内訳は,年中男児 14 名(27%),年中女児 14 名(27%),年長男児 10 名 (20%),年長女児 13 名(26%)であった. ②調査手続き 調査対象となる子どもに対して,半構造化による個別のヒアリング調査を行った(写真4.1). 1 人ずつの子どもに対して,交通場面で不適切な行動をしている人が描かれたイラストを見せ て,不適切な行動をしている人は誰か,その理由は何か,その場面でどのように行動をしたら よいか,自分はこのようなことをしたことがあるかなどを尋ねた.なお,はじめに,練習とし て,図 4.1 を用いた.なお,練習用のイラストに対しての質問は,①「この中で良くないこと をしている人はいますか」,②「どうしてそう思いましたか」,③「その人はどうしたら良かっ たと思いますか」,④「あなたは,こういうことをしたことがありますか」などであり,その中 で子どもが自由に語った発言を記録した.練習をした後,5 枚の交通場面を示したイラストを 用いてそれぞれに尋ねた.調査は,幼稚園の空き教室で行った.調査時間は 1 人につき約 20 ~30 分であった.調査時期は,2018 年 10 月であった. ③倫理的配慮 ラポートを形成するために,自由遊びの時間に子どもと遊んだり,調査前に会話をしたりした. 筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:1318). 写真4.1 ヒアリング調査の様子図4.1 練習用のイラスト 4.3 結果と考察 ①信号無視 図 4.2 のイラストを示し,良くない行動をしている人とその理由を尋ね,男の子が赤信号で 渡っていることを指摘した場合を正解とし,その結果を表 4.1 に示した.表によると,全体の 9 割以上が赤信号で渡っている子どもが不適切であると回答した.なお,不正解の子どもは,3 名とも赤信号であることに気がつかず,「男の子が横断歩道を渡るときに手を挙げていない」と 答えた.正解を答えた子どもに対して,この男の子はどうすべきであったのかを尋ねたところ (表4.2),ほとんどの子どもが「信号が青になるまで横断歩道で待ってから渡る」と答えるこ とができた. 図4.2 赤信号で渡っている男の子のイラスト 表4.1 赤信号で渡っている男の子のイラストの正解率 全体(n=51) 年中児(n=28) 年長児(n=23) 正解 94% 48 名 100% 28 名 87% 20 名 不正解 6% 3 名 0 0 13% 3 名
表4.2 赤信号で渡っている男の子はどうすべきか 全体(n=48) 年中児(n=28) 年長児(n=20) 正解 98% 47 名 100% 28 名 95% 19 名 不正解 2% 1 名 0 0 5% 1 名 赤信号で横断した経験があるかどうかを尋ねたところ(表4.3),全体の 2 割以上の子どもが あると答え,年中児よりも年長児の方がその割合が高かった.また,子どもが自発的に述べた 発言の中で,保護者について述べていた一部を表4.4 に示した.これによると,回答A~Eの ように保護者が赤信号で子どもを連れて渡り,子どもに赤信号の言い訳をしている様子が垣間 見られた.子ども自身は,赤信号で渡ってはいけないことを学習しているが,実際に保護者が 子どもの手を引いて赤信号で渡っていることから,「車が来ていなければ,渡っても良い」「大 人と一緒であれば,渡っても良い」と考えたと思われる.加えて,回答F の「赤でも手を挙げ れば,渡って良い」と発言した子どもは,赤信号で渡った際に,大人からその場しのぎで言わ れた言葉を受け取り,不適切な認識を形成してしまったと推測される. 表4.3 赤信号で横断した経験の有無 全体(N=48) 年中児(n=28) 年長児(n=20) 経験あり 21% 10 名 14% 4 名 30% 6 名 経験なし 79% 38 名 86% 24 名 70% 14 名 表4.4 赤信号で横断することに関する子どもからの発言 A 赤信号でも車が来ないときは渡っていいとママが言っていた. B ママと一緒に赤信号のときに渡った.車が来たけれど,止まってくれたから大丈 夫だった. C ママと一緒のときには,信号が赤でも「早く早く」と言いながら渡っている. D パパが大丈夫だといったから赤でも渡った. E 赤信号のときに,横断歩道じゃないところを渡ったことがある. F 赤でも手を挙げれば,渡って良い(不正解の子どもの回答).
②点滅信号での横断 図4.3 のイラストを示し,「この絵のように,横断歩道の信号がチカチカしているところ(手 でジェスチャーをして,点滅していることを併せて示す)をみたことがありますか」と尋ね, 信号が点滅した状態での横断であることを意識させた上で,良くない行動をしている人とその 理由を尋ねた.このイラストでは,男の子が点滅信号で走って渡ろうとしていることを指摘し た場合を正解とし,その結果を表4.5 に示した. 表によると,全体の8 割の子どもが正解し,年長児の方が年中児よりも正解する割合が高か った.また,赤信号での横断場面と比べて,正解した子どもの割合が低かった.不正解の子ど もの回答(表4.6)を見ると,回答Gのように,信号が点滅している時に渡ろうとしない人(男 子高校生)が良くない行動をしていると回答した子どもがいた.この子どもは,横断歩道を渡 ろうとした時に信号が点滅していたら,走って渡るように保護者に言われていると述べており, 保護者の言動で誤った認識を形成したと思われる.正解を答えた子どもに対して,この男の子 はどうすべきであったのかを尋ねたところ(表4.7),ほとんどの子どもは「渡らずに待つ」「戻 って青になるまで待つ」と答えており,点滅信号では渡らずに待つ,あるいは横断歩道手前ま で戻ることを学習していた. 図4.3 点滅信号での渡ろうとしている男の子のイラスト 表4.5 点滅信号で渡ろうとしている男の子のイラストの正解率 全体(n=51) 年中児(n=28) 年長児(n=23) % 名 % 名 % 名 正解 80% 41 名 75% 21 87% 20 不正解 20% 10 名 25% 7 13% 3
表4.6 点滅信号で渡ろうとしている男の子のイラストにおける不正解の回答 G 信号がチカチカしているのに,男の人が急いで渡ろうとしない. H 子どもがひとりで横断歩道を渡っている. I 女の子が道草をしている. J 男の子が大人と手をつながずにわたっている. K 横断歩道を走って渡っている. 表4.7 点滅信号で渡ろうとしている男の子はどうすべきか 全体(n=41) 年中児(n=21) 年長児(n=20) 正解 98% 40 名 95% 20 名 100% 20 名 不正解 2% 1 名 5% 1 名 0 0 信号が点滅している時に横断歩道を渡った経験があるかを尋ねたところ(表4.8),半数の子 ども「ある」と答えた.また,点滅信号で横断することに関して子どもから自発的に出た発言 の一部を表4.9 に示した.回答 L のように,母親や父親から信号が点滅している際に横断する 場合には走って渡るように言われていた子どもが目立った.また,回答例 M,N,O,P のよ うに,信号が点滅している状態で保護者や兄姉が渡ろうとしている姿を見ていたことを発言す る子どもも多かった.さらに, 表4.8 点滅信号で横断した経験の有無 全体(n=41) 年中児(n=21) 年長児(n=20) 経験あり 51% 21 名 52% 11 名 50% 10 名 経験なし 49% 20 名 48% 10 名 50% 10 名 表4.9 点滅信号で横断することに関する子どもからの発言 L 信号がチカチカしていたら,走って渡るとママが言った. M 渡ろうとしている時に信号がチカチカしていると,ママはダッシュする. N ママは,信号がチカチカしても歩いて渡っていく. O お姉ちゃん(小2)は,信号がチカチカしていても渡る. P 自分はしないけれど,お兄ちゃん(小3)はチカチカしていても渡っていく.
③ながらスマホ,縁石上の歩行 図 4.4 のイラストを示し,良くない行動をしている人とその理由を尋ねた.このイラストに は,ながらスマホと縁石の上を歩く行為の 2 つの不適切な行動が描かれているため,1 つの回 答が出た後に,「他にはありませんか」と誘導した.ながらスマホをしている人と縁石の上を歩 く女の子について正解した割合を表4.10 に示した.表によると,ながらスマホをしている人と 縁石の上を歩く子どもの両方を正解した子どもの割合は全体で55%であった.それに縁石の上 を歩く子どものみを正解した子どもの割合(31%)を併せると,8 割以上が縁石の上を歩く子 どもの行為を不適切であると認識していたことが確認できた.おそらく,普段から大人に縁石 の上を歩くことの危険性を伝えられているためであると思われる.一方で,両方の正解をした 割合とながらスマホをしている人のみを正解した割合(8%)を併せると,63%であり,なが らスマホをしている人の方が縁石の上を歩く子どもよりも正解する割合が低かった. ながらスマホをしている人について正解した子どもに対して,この人はどうすべきであった のかを尋ねたところ(表4.11),ほとんどの子どもが「スマホの操作をしない」「立ち止まって 操作をする」「端によって操作する」といった適切な内容を答えた.また,不正解の回答には, 「スマホをするときは,前をよく見ながらする」という回答があった. 図4.4 ながらスマホをする人,縁石上を歩く女の子のイラスト 表4.10 ながらスマホをする人,縁石上を歩く女の子のイラストの正解率 全体(n=51) 年中児(n=28) 年長児(n=23) ながらスマホ,縁石を歩く 子どもともに正解 55% 28 名 46% 13 名 66% 15 名 縁石を歩く子どものみ正解 31% 16 名 43% 12 名 17% 4 名 ながらスマホのみ正解 8% 4 名 4% 1 名 13% 3 名 不正解 6% 3 名 7% 2 名 4% 1 名
表4.11 ながらスマホをしている人はどうすべきか 全体(n=32) 年中児(n=14) 年長児(n=18) スマホの操作をしない 57% 18 名 58% 8 名 56% 10 名 立ち止まって操作する 31% 10 名 35% 5 名 28% 5 名 端によって操作する 6% 2 名 0 0 11% 2 名 不正解 6% 2 名 7% 1 名 5% 1 名 子ども自身がながらスマホをした経験があるかどうかを尋ねたところ(表4 .12),ほとんどの子どもがしていなかった.ただし,子どもから自発的に出た発言(表 4.13 か ら,保護者や兄姉がながらスマホをしている様子がうかがえた.特に回答 R「パパは走りなが らもスマホを見られるんだよ.すごいでしょう」,回答 W「パパは,車を運転しながらポケモ ン GO をできるよ」と述べた子どもは,ながらスマホが不適切な行為であると思っておらず, むしろ父親が走りながら,あるいは運転しながらスマホを操作できることを自慢であるかのよ うに伝えてきた.ながらスマホをするのが良くないことであると思いながら,保護者がしてい る姿を見せることは,子どもの規範意識を低下させることにつながる.また,不適切であると 思っていない子どもにとっては,その行為が憧れのものとなり,自分ができる状況になったら, 模倣をしてしまうことにつながると思われる. 表4.12 ながらスマホをした経験の有無 全体(n=32) 年中児(n=14) 年長児(n=18) 経験あり 6% 2 名 7% 1 名 6% 1 名 経験なし 94% 30 名 93% 13 名 94% 17 名 表4.13 ながらスマホに関する子どもからの発言 Q パパはスマホをするときは,ベンチに座ってやる. R パパは走りながらもスマホを見られるんだよ.すごいでしょう. S パパは歩きながらスマホを見ている. T お父さんが歩きスマホをするから,ぼくが注意する.でもやめない. U パパもママも歩きながらスマホをみる. V お兄ちゃんは,iPad を見ながら歩く. W パパは,車を運転しながらポケモンGO をできるよ. X 僕がポケモンGO をしながら歩いたときは,パパが周りを見てくれた.
縁石の上を歩く女の子はどうすべきであったのかを尋ねたところ(表 4.14),ほとんどの子 どもが「歩道の上を歩く(縁石の上を歩かない)」と答えた.ただし,不正解の回答は,「ここ (縁石の上)を歩く時は,大人と手をつなぐ」であった.縁石の上を歩いた経験を尋ねたとこ ろ(表4.15),全体で 4 割が「経験がある」と答えた. 表4.14 縁石上を歩く女の子はどうすべきか 全体(n=44) 年中児(n=25) 年長児(n=19) 正解 91% 40 名 96% 24 名 84% 16 名 不正解 2% 1 名 4% 1 名 0 0 無回答 7% 3 名 0 0 16% 3 名 表4.15 縁石の上を歩いた経験の有無 全体(n=44) 年中児(n=25) 年長児(n=19) 経験あり 41% 18 名 44% 11 名 37% 7 名 経験なし 55% 24 名 56% 14 名 53% 10 名 無回答 4% 2 名 0 0 10% 2 名 ④エスカレータ上の駆け上がり 図4.5 のエスカレータ上を駆け上がる男の子のイラストを示し,良くない行動をしている人 とその理由を尋ねた(表4.16).このイラストでは,男の子が駆け上がっていることを指摘し た場合を正解とした. 図4.5 エスカレータ上を駆け上がる男の子のイラスト
表によると,年中児も年長児も7 割以上が正解であった.不正解の多くが,右側の男の子が 手すりを持っていないことを挙げた.日ごろ,保護者などから手すりを持つように言われてい たのだろう.また,不正解の子どもの中には,「急いでいる時は走ってもいいとママがいったか ら,良くない人はいない」と答えた子どもがいた.つまり,その回答をした子どもは,右側を 駆け上がる男の子に違和感をもちながらも,母親から言われた言葉で,エスカレータ上を駆け 上がることを一概に悪いことと言えないと考えたと思われる. 正解した子どもに対して,エスカレータ上を駆け上がってはいけない理由を尋ねたところ(表 4.17),「駆け上がってはいけないルールがあるから」と答えた子どもが年中児,年長児ともに 多く,なぜ駆け上がってはいけないのかを答えられず,単に守るべきルールとして覚えている 子どもが多いことが確認できた.幼児期の発達段階では,他者の立場になって考えることは苦 手であるが,それを考慮しても「人にぶつかるから」と答えられた子どもは2 割に満たなかっ た. また,エスカレータ上を駆け上がる男の子はどうすべきであったのかを尋ねたところ(表 4.18),全体の 8 割の子どもは「立ち止まって乗る」と答えたが,「走らずに歩く」と答えた子 どもが15%(6 名)いた.このように答えた子どもは,「エスカレータ上を走るのは良くないこ とであるが,歩くのは問題ない」と考えているということである. エスカレータ上を駆け上がった経験があるかどうかを尋ねたところ(表 4.19),約 3 割の子 どもがあると答えた.また,エスカレータ上を駆け上がることについて,子どもから自発的に 発せられた言葉を表 4.20 にまとめた.表 4.20 によると,急いでいる時は歩いても良いことを 保護者が子どもに伝えている家庭があることが確認できた.一方で,幼児を対象にした教育番 組の DVD の中で,エスカレータ上を歩いてはいけないことが盛り込まれていたことを覚えて いて,それを語ってくれた子どももいた. 表4.16 エスカレータ上を駆け上がる男の子イラストの正解率 全体(n=51) 年中児(n=28) 年長児(n=23) 正解 76% 39 名 75% 21 名 78% 18 名 不正解 24% 12 名 25% 7 名 22% 5 名 表4.17 エスカレータ上を駆け上がってはいけない理由 全体(n=39) 年中児(n=21) 年長児(n=18) 駆け上がってはいけない ルールがあるから 44% 17 名 38% 8 名 50% 9 名 (自分が)転ぶから 33% 13 名 33% 7 名 33% 6 名 人にぶつかるから 18% 7 名 19% 4 名 17% 3 名 その他 5% 2 名 10% 2 名 0 0
表4.18 エスカレータ上を駆け上がる男の子はどうすべきか 全体(n=39) 年中児(n=21) 年長児(n=18) 立ち止まって乗る 80% 31 名 76% 16 名 83% 15 名 走らずに歩く 15% 6 名 19% 4 名 11% 2 名 無回答 5% 2 名 5% 1 名 6% 1 名 表4.19 エスカレータ上を駆け上がった経験の有無 全体(n=39) 年中児(n=21) 年長児(n=18) 経験あり 31% 12 名 29% 6 名 33% 6 名 経験なし 67% 26 名 71% 15 名 61% 11 名 無回答 2% 1 名 0 0 6% 1 名 表4.20 エスカレータ上を駆け上がる行為に関する子どもからの発言 Y 急いでいるときに,走ったことがある.「急いでいる人は,右側を通る,急いでい ないときは左側に立つ」とパパが言っていた. Z 「急いでいる人が右側を早歩きで歩いて,急いでいない人は,左側に立つ」とマ マに教えてもらった. a 「右側は歩いたり走ったりしていいところ」とパパとママが言っていた b 「走るのはいけないけれど,急いでいる時は右側を歩くのはいい」とママが言っ ていた. c 急いでいるときは,右側を歩くとママが言っていた.走ってもいい. d エスカレータで歩いてはいけないと,しまじろうのDVD で言っていた.
第 5 章 まとめと今後の課題
定点観察調査より,幼児を連れた家族の中には信号無視をしたり,歩行者用信号が点滅 した後に横断をし始めたりするケースが少なくないことが明らかになった.観察をしてい ると,子どもが赤信号で渡ろうとしたところを保護者が注意するケースがある一方で,保 護者が子どもを先導していたケースも少なからずあった.また,子どもと一緒に歩きなが ら,保護者がながらスマホをしているケースもあった.なかには,保護者と一緒に子ども がポケモン GO をしながら歩いているケースも見られた.このように,信号無視をする, 歩行者用信号が点滅した後に横断する,ながらスマホをするケースは,それぞれ 1 割程度 であり,多いとは言えないが,交通ルールやマナーを守っていない姿を子どもに見せてい るケースは子どもが交通事故に遭う危険性を高め,ルールやマナーを守る「良き交通社会 人」を育てる教育を阻害する行為であると言える. 幼児を持つ保護者を対象にした質問紙調査からは,保護者は子どもと一緒にいる場合に は子どもに適切な行動をうながし,自分もそのような行動を示そうとしているが,子ども と一緒ではないときには,不適切な行動をする頻度が増えることが確認できた. さらに,幼児に対するヒアリング調査からは,信号無視や信号が点滅した後に横断する ことは不適切であると認識している子どもは多いが,保護者が赤信号で渡ろうとしていた り,信号が点滅した後に渡ろうとしていたと少数の子どもは語った.また,保護者がなが らスマホやエスカレータ上を駆け上がることをしている様子が子どもの発言から聞かれた だけでなく,保護者が「走りながらスマホを操作する」「運転しながらスマホを操作する」 ことをあたかも自慢のように子どもが述べることすらあった.このように,保護者の不適 切な行動を子どもが目撃しており,違和感をもったり,ルールとしては良くないけれども, 大人はそのルールを破っても良いなどと考えるようになっていた. 3 つの調査を総合的に考えると,保護者は子どもの前ではある程度,交通ルールやマナ ーを守って生活していると自身では認識していると思われる.しかし現実には,子どもか ら保護者がルールやマナーを守っていない行動が語られ,実際にもその姿が観察された. 交通ルールやマナーを守らない保護者は少数であったり,その保護者もいつもは守ってい るところを偶然に破っただけかもしれない.しかし,偶然にしろ,非常にわずかな確率で あったにしろ,子どもの前で不適切な交通行動を見せている保護者がいることは事実であ り,子どもにとってはその記憶が非常に鮮明に記憶される.自分にとって重要な存在であ る保護者が不適切な交通行動をとれば,子どもがそれを模倣し,モデルにすることは間違 いない.子どもは家庭や幼稚園,保育所で,ある程度の交通ルールやマナーを教えられて きたことから,赤信号で渡ってはいけないことなどの知識は持ち合わせていた.しかし, 大人が守らない姿を見て育てば,交通ルールやマナーの知識はあっても,交通ルールやマ ナーを守れない大人に成長することは容易に推測できる. 水野・徳田(2002)は,大学生を対象に,保護者の手本にならない行動を見て,子ども の頃にどのように感じていたのかを尋ねたところ,「大人はずるい」「大人になれば守らな くてもいい」などと感じている割合が高いことを明らかにしている.子どもの頃に保護者から交通ルールやマナーを守るように言われていながら,保護者が守っていなければ「大 人は守らなくてもいい」と認識し,大人になることへのあこがれや大人への反発から大人 の見ていないところで不適切な行動が出現することも考えられる.保護者がモデルになら ない交通行動をとっていることを改善していかなければ,その子どもが大人になった時に も不適切な交通行動が繰り返されることになると言わざるを得ない. 今回,実施した 3 つの調査は対象者が異なっており,保護者の交通行動が子どもの交通 行動にどのように影響しているのかを明確化することはできなかった.今後,保護者の交 通行動と子どもの交通行動がどのように関係しているのか,また保護者の不適切な交通行 動を目にしてきた幼児は小学校以降に交通行動がどのように変化していくのかを明らかに していきたい. 参考文献 新井邦二郎(1997)我が国の子どもの交通安全教育の問題点,IATSS Review, 22(3),16-24. 新井邦二郎(2001)交通安全教育の評価,IATSS Review, 27(1),54-61
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