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中学校国語科における文章を読み深めるための指導 ―文章を視覚的にとらえる図表化活動を通して―

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―文章を視覚的にとらえる図表化活動を通して―

岡 田 由 美・佐 藤 浩 一・武 井 英 昭

群馬大学教育実践研究 別刷

第32号 159∼171頁 2015

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中学校国語科における文章を読み深めるための指導

―文章を視覚的にとらえる図表化活動を通して―

岡 田 由 美

1)

・佐 藤 浩 一

2)

・武 井 英 昭

2)

1)沼田市立沼田東中学校

2)群馬大学大学院教育学研究科教職リーダー講座

Instruction

of

Japanese

language

in

a

junior

high

school

to

facilitate

effective

reading

of

texts

:

Through

diagram-making-activities

to

understand

texts

visually.

Yumi

OKADA

1)

,

Koichi

SATO

2)

,

Hideaki

TAKEI

3)

1)Numata-higashi Junior High School, Numata, Gunma

2)Program for Leadership in Education, Graduate School of Education, Gunma University

キーワード:中学校、国語、読み、図表

Keywords : Junior high school, Japanese language, Reading, Diagrams

(2014年10月31日受理) 1 問題 (1)はじめに  文章を読むという活動は、授業の中だけでなく、日 常のあらゆる場面にあふれている。新聞、取扱説明書、 小説、メールなど、様々な文章をわれわれは読んでい る。またその読み方も、丁寧に読んだり、必要なとこ ろだけを探して読んだりするなど、様々である。  このように日常的な活動だけに、国語の授業で「読 むこと」を教えるのには難しさが伴う。英語や数学で あれば、一目見て「何のことだかわからない」と感じ ることがある。しかし国語の場合、何となくであって も読めてしまい、わかったつもりになり、それ以上に 読みが深まらないということが起こるのである(西林, 2005)。  それでは、単に「読む」のではなく、「読んで理解を 深める(読み深める)」という場合、どのような読み方 を指すのだろうか。このことを、学習指導要領の指導 事項と、読解に関わる心理学的な研究の両面から検討 する。 (2)学習指導要領から「読み深める」をとらえる  本研究では、文章を「読み深める」ということを、 まず、叙述に即して意味を読み取る活動を行い、その うえで、読み取った内容に自分なりの意味づけを行う ことととらえる。すなわち、意味理解(語句の意味を 理解する)、解釈(書き手の意図を推測し解釈する)、 知識・意味形成(新しい知識や自分の考えを形づくる)、 という順に読み深める過程は進行していく。  この過程は、学習指導要領で「読むこと」の指導事 項としてあげられている、「語句の意味理解」、「文章の 解釈」、「自分の考えの形成」に対応している。以下、 指導事項を参考に、読み深める過程を説明する。  「意味理解」では、文章中の語句が表現する一般的な 内容を理解する。しかし人が語句の意味を理解すると きには、辞書的・一般的な意味の把握に止まるわけで

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はない。例えば、同じ「山」という言葉からでも、人 によってイメージするものが異なる。このように、既 有の知識や経験を用いて語句の意味を理解しようとし たり、自分の表現で言いかえたりすることも、意味理 解の一側面である。  自分の経験や知識だけに偏った読みをしていくので は、文章を読み深めることは出来ない。書き手の意図 を推測し文章を解釈することが必要である。これが「解 釈」である。そのためには、書き手がどういう意味で その表現を用いているのか考えながら文脈の中で語句 の意味を解釈したり、描写の効果を考えたりすること が必要である。また文章の構成や展開と書き手の意図 や意見との関連をとらえたりすることも必要である。  こうして書き手のものの見方や考え方を理解したう えで、自分のものの見方や考え方を広げたり深めたり していくのが、「知識・意味形成」である。このとき「何 となく∼∼と思う」という曖昧な姿勢ではなく、文章 の叙述、書き手の意図や考え方、そして自らの判断を 突き合わせて、根拠をもって自分の考えをもてること が望ましい。これは、書き手が表現した言葉から、今 までの自分の経験を破る新しい経験をし、その新しい 経験によって、自分の使い慣れた言葉の内容を豊かに すること(渡辺,1984)とも言える。 (3)心理学の研究から「読み深める」をとらえる  心理学では読解過程に関する研究が行われている。 その中でKintsch(1994)による検討は、読み深める過 程を明らかにしている。Kintschは人が文章を読んで構 成する表象として、「テキストベース」と「状況モデル」 の二つを区別をしている。  テキストベースとは、語句の一般的な意味が理解さ れたうえで、語句と語句、文と文との関係をはっきり させ、文章が理解できた状態を指す。状況モデルは、 テキストベースをもとに、読み手の既有知識や推論な どを加えて、精緻に理解し作り上げられた表象である。 文章に直接書かれている内容を理解したものがテキス トベース、それを既有知識や推論等と統合したものが 状況モデルである。状況モデルを構成することはテキ ストベースを構成するよりも、読みが深まっていると 言える。テキストベースのレベルでの理解を「テキス トの学習」、状況モデルのレベルでの理解を「テキスト からの学習」と呼ぶこともある(深谷,2007)。 2 読み深めるために (1)読解方略  それでは文章を読み深めていくには、どのような方 法が有効なのであろうか。学習者が読解時に行う思考 や認知的活動は「読解方略」と呼ばれ、どのような方 略があるか、それらが有効か、といった点について多 くの検討が行われている(犬塚,2013)。犬塚(2013) はNational Reading Panelによる検討をもとに、有効 性の確認されている読解方略として、次の7つをあげ ている。すなわち、①理解モニタリング、②協同学習、 ③図的表現の活用、④質問への応答、⑤質問の生成、 ⑥文章構造の利用、⑦要約の作成、である。  また市川(2014)の認知モデルでは、人間の情報処 理の特徴として、内的リソースと外的リソースの二つ を活用していることを指摘している。内的リソースと は学習者自身の既有知識である。これを用いることは 状況モデルの構築につながる。外的リソースとは、他 者や、思考の助けとなる様々な道具である。上にあげ た7つの読解方略のうち、②の協同学習と③の図的表 現の活用は、外的リソース活用の一つの方法である。  本実践では、図的表現の活用(以下「図表化」)を主 な読解方略として採用し、その効果を高めるために生 徒同士の協同学習的な活動も組み込む。上であげた7 つの方略のうち、②③以外の5つは学習者の内的リ ソースに強く依存しており、読解に課題のある生徒に は難しい。これに対して外的リソースを活用する方略 は、読解に課題のある生徒でも取り組みやすく、内的 リソースの不十分さを補うと考えられる。 3 図表化  実践に先立ち、図表化の種類と有効性、また、図表 化を授業に取り入れる際の留意点を検討する。 (1)図表化の種類  これまで、コンセプトマップ(福岡,2002)、意味マッ プ(塚田,2005)、マインドマップ(Farrand, Hus-sain, & Hennessy, 2002)、バタフライ・マップ(藤森, 2007)など、様々な図表化の手法が授業実践に取り入 れられている。また図表化を思考のためのツールとし て整理し、6年間の学習に体系的に取り入れている小 学校もある(田村・黒上,2013)。

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 しかし国語の教科書を検討すると、シンプルな「表」 が読解に用いられることが多い。吉川(2005)は、平 成17年度の各社の小学校国語教科書に掲載されてい る説明的文章教材について、「学習の手引き」における 図表化活動を調査した。すると5社全体で、1∼6年 生における説明的文章教材90教材のうち、33教材に図 表化に関わる内容が記されており、そのうちの約90% が表形式のものであった。 (2)図表化の有効性  図表化が国語科の学習を支援することは、様々な実 践で検討されている。例えば塚田(2005)は、国語の 「読むこと」と「書くこと」のいずれにおいても、意 味マップが有効な手立てとなること示している。  図表化の有効性を実証的に検証した研究も多い。大 学生を対象とした研究では、図表化により説明文の作 文(岩男,2001)、説明文の理解(綿井・岸,1994)、 説明文の記憶(Farrandら,2002)が促進されることが、 実証されている。  では図表化はなぜ有効なのだろうか。これまでの実 践や研究から図表の有効性として、学習意欲を高める (塚田,2005;関西大学初等部,2012)、情報間の関 係を明示的に表すことで状況モデルの構築を促進する (岩槻,1998)、自分が適切に読めているかというモニ タリングを容易にする(Rubman & Waters, 2000)、 情報を可視化することで協同学習を行いやすくする (石川,2013)、といった点が指摘されている。 (3)図表化の留意点  このように、図表化は読み深める過程を支援する手 立てとして有効である。しかし授業中の学習活動とし て図表化を取り入れ、それを読解方略として生かすに は、以下の二点に留意しなければならない。  第一に、図表化はあくまで読み深めるための手段で あり、図表化そのものが最終目的ではない。従って、 学習の目標を達成するのに適した図表化を考えたり、 図表化の前後も含めて学習活動の組織化を図ることが 重要である。吉川(2005)もこの点を強調し、図表を 完成させることが授業の中心となるのでは不十分であ るとしている。そして、書き込みなどの個人学習を充 実させたうえで図表化を行い、さらに作成された図表 を巡る話し合いを充実させたり、図表を参照しながら の説明活動や文章表現活動などを取り入れることで、 一連の学習活動を組織化することを重視している。  第二に、図表を読解のための道具として活用するに は、図表化そのものの負担を減らし、図表化に慣れる ことが必要である。犬塚(2013)は中学生の多くが読 解のための方略的活動(重要箇所に線を引くなど)を、 「方略」としてではなく、「先生が指示するからやって いるだけ」と受け止めていると指摘している。図表化 についても同じ問題が生じかねない。多種多様な図表 化を次々と導入すると、生徒は一つの図表化に慣れな いまま、「先生から与えられたワークシートをうめてい るだけ」という意識になりかねない。従って、授業で 使う図表化は、オーソドックスな表を中心として、種 類を絞ることが望ましい。また図表に書き込むだけで なく、付箋を活用して図表化の負担を減らすなどの配 慮も必要である。 4 実践  以下に紹介する実践は、平成25年度に群馬県内の公 立中学校の3年生(2学級、56名)を対象に、第一著 者が行ったものである。教科書は三省堂『中学生の国 語 三年』(平成23年検定済)を用いた。  平成25年4月に実施した全国標準診断的学力検査 (NRT)と全国学力・学習状況調査の結果から、実践 校の生徒たちは基礎的な読解力は身につけているもの の、「叙述に即した読み取り」、「詳細な読み取り」、「心 情の読み取り」、「展開の読み取り」、「文章の構成や表 現の特徴をとらえる」など、読み深めるという点で課 題があると判断された。  表1に、5月∼11月にかけて図表化活動を取り入れ た学習の概要を示す。紙幅の都合から、説明的文章と 文学的文章のそれぞれについて、一つずつの実践を紹 介 す る。他 の 実践 も 含 め た 詳細 に つ い て は、岡田 (2014)を参照されたい。 (1)説明的文章「冥王星が『準惑星』になったわけ」  本教材は、冥王星が準惑星になった経緯を、天文学 者である著者が技術革新の歴史を踏まえて説明した文 章である。筆者は冒頭で、「冥王星、降格」といった報 道がなされたことを紹介し、なぜこうしたことが起 こったのだろうかと、読者の関心を喚起する疑問を提

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起する。そのうえで、技術革新によって多くの惑星が 発見され、太陽系の全体像が変化していったことを、 天文学の歴史を追いながら丁寧に記述する。そして最 後の段落では惑星を鶏に、準惑星をひよこに喩え、「天 文学の進歩が、冥王星を『鶏』から『ひよこ』へと位 置づけを変えただけで、むしろ貴重な化石としての重 要性は増した」と結んでいる。文章の展開や表現の工 夫から、筆者の意図をとらえることが、学習のねらい となる。  【第1時】まず、天文学の歴史に即して、語句や文 の意味を正確に理解すること(意味理解)が必要であ る。そこで、古代から現代までの時間軸にそって、「発 見」、「技術革新」、「もとになる法則」を対応づける年 表を作成した(図1)。  【第2時】教材文の後半、冥王星が準惑星になった 経緯に焦点を当て、本文中の「開発」、「発見」、「複雑 な問題」、「恐れていた事態」などのキーワードが何を 意味するのか、個人で考え表にまとめた(図2)。さら 表1 実践計画の概要 時期 教材名 (文章の種類) 読み取りの視点 図表化活動 ( )は「読み深める」過程のどこに関わるかを示す。 5月 「冥王星 が『準惑星』に なったわけ」 (説明的文章) 文章の構成や展開、表現の工夫 を探し、筆者の意図をとらえる。 〇天体図と組み合わせた年表。(意味理解) 〇「構成や表現の工夫」と「効果・筆者の意図」を対 応させた表。(解釈) 9月 「海馬」 (説明的文章) 説明と聞き方の工夫に着目しな がら、話の展開を読み取る。 〇説明と聞き方の工夫を分類した付箋を、対談の 展開にそって並べ替えた図表。(解釈) 9月 「高瀬舟」 (文学的文章) 文章を読んで人間、社会、自然 などについて考え、自分の意見 をもつ。 〇根拠を付箋に書いて自分の考えを表した2次元 座標軸。(知識・意味形成) 10月 「猫」 (文学的文章) 場面の展開にそって、登場人物 の気持ちの変化をとらえる。 〇猫の特徴を整理した付箋を場面展開に沿って並 べ替え、主人公の気持ちの変化と対応させた表。 (意味理解、解釈) 11月 「詩二編」 (文学的文章) 二編の詩それぞれの印象の根拠 を表現から探し、表現の効果に ついて考える。 〇詩の表現上の特徴を整理した付箋を並べ替え て、詩の印象と結びつけた図表。(意味理解、解 釈、知識・意味形成) 図1 生徒が作成した天文学の年表(授業で用いたものの模式図) ゴチック体はあらかじめワークシートに記載されていた。明朝体が生徒の記入。上部には教科書掲載の太陽系の 図が貼られていた。

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に二人ずつのペアになり、表中の矢印を接続詞に言い かえたり言葉を補ったりしながら、準惑星になった経 緯を説明することで、「意味理解」を確実なものとした。  【第3時】三つの新聞記事を読み比べ、準惑星になっ たことに対して、様々な意味づけがあることを読み 取った。  【第4時】筆者の意図をつかむために、「構成や表現 などの工夫」と「効果・筆者の意図」を対応させた表 を作成した。生徒はまず、「読者の興味をひく工夫」や 「わかりやすさを高める工夫」を本文から探し、付箋 に書き込んだ。続いてグループになり、ワークシート の上段に付箋を整理し、対応する下段に、その工夫が どういう効果をもたらしているのか、筆者はなぜそう いう工夫を凝らしたのかを記入させた(図3)。  こうした工夫の効果について、「興味をひく」、「わか りやすい」といった比較的表面的な解釈にとどまった 図2 冥王星が準惑星になった経緯をキーワードに即して整理した表(授業で用いたものの模式図) ゴチック体はあらかじめワークシートに記載されていた。明朝体が生徒の記入。 図3 筆者の工夫(上段)と、その効果や意図(下段)を対応付けて整理した表(授業で用いた ものの模式図) 上段には各自が書き込んだ付箋が貼られた。ゴチック体はあらかじめワークシートに記載されていた。明 朝体が生徒の記入。

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グループが多かった。しかし、「最初にマイナスイメー ジを持たせて、最後にプラス思考の考え方を示す」、「準 惑星=ひよこという比喩表現によって、降格に落胆し た人々に対して、かすかな希望の光を与えた」等、筆 者の意図を適切につかみ、「意味理解」から「解釈」へ と読み深めることが出来たグループもあった。 (2)文学的文章「詩二編 初恋 うち知ってんねん」  島崎藤村の文語定型詩である『初恋』と、島田陽子 が大阪弁で書いた『うち 知ってんねん』である。いず れも初恋がテーマだが、独自の表現がそれぞれの詩の 雰囲気を醸し出している。二編の詩を比べることで表 現の特徴に気づき、表現がもたらす印象をとらえるこ とが、学習のねらいとなる。  【第1時】詩の学習は、「詩二編」と「書くこと」の 教材「詩の魅力を伝えよう」をつなげて、単元として 再構成した。「卒業記念になる詩のアンソロジーを制作 する。そのために、詩の魅力を感じとる学習をしよう」 と、第1時の冒頭に授業の全体像を提示した。続けて 生徒は二編の詩を読み、大まかな意味理解に基づいて 第一印象をとらえた。  【第2時】二編の詩を読み比べた。文字、言葉づか い・リズム、文末、舞台・具体物、自分のこと、相手 のこと、という視点が記載された表を用意し、それぞ れの視点ごとに二つの詩の表現を付箋に書き込んだ。 二編が対比しやすいように上下2段に構成された表 に、付箋を貼って整理した(図4)。例えば「相手のこ と」は、『初恋』では「君」、「恋いしけれ」などと表現 されているのに対して、『うち知ってんねん』では「あ の子」、「かなわんねん」などと表現されている。  生徒は続いて別のワークシート上に、詩の表現を抜 き書きした付箋を貼ったり並べ替えたりしながら、自 分が感じた第一印象が表現上のどういう特徴から引き 出されたものかを考えた。例えば『初恋』では「花あ る君」や「やさしく白き手」といった表現から「美し いイメージ」が引き出された、『うち知ってんねん』で は「そうじ」や「ノート」などから「身近な感じ」が 引き出された、といった具合である。  【第3時】4人でグループを構成し、第2時に用い た付箋をあわせて整理する中で、印象と表現との結び つきを吟味し、どういう表現がそれぞれの詩の世界を 作り上げているのかを考えた。最初に教師が4人の付 箋を集めて整理する方法を実演した。生徒たちは大き なワークシート上に、似ている表現(付箋)をまとめ て貼り付け一言で表すラベルを書き入れたり、複数の 印象の関係を示す線を書き込んだりしながら(図5)、 第1時に感じた印象を磨き上げた。各グループからは、 「初々しい」、「誠実な恋」、「素直になれない」などの 印象が、表現と結びつけて発表された。  以上のように第2∼3時では、詩の表現を付箋に抜 き書きして表に整理し、ワークシート上で自由に動か しながら整理するという図表化を行った。このことは、 表現の特徴を印象と結びつけて詩の世界をとらえる (「解釈」)のに、有効だった。  【第4時】第3時までの学習を踏まえて、「君」に対 する「われ」、「あの子」に対する「うち」の気持ちを 図4 二編の詩の表現の特徴を付箋に書き、整理した表(授業で用いたものの模式図) 二編のそれぞれで、付箋の色を変えている。ゴチック体はあらかじめワークシートに記載されて いた。明朝体が生徒の記入した付箋。

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一言で表現する台詞を考えた。同時に、そう考えた理 由も記述させた。ある生徒は『初恋』について、第1 時には「ぽかぽかしたあたたかい」印象を受けていた。 それが第3時には「大人の初恋」という印象に変わり、 第4時には「われ」の台詞として「りんごが赤く染ま るように、われの心も君に染まりはじめたよ」と書き、 その理由を「『人こひ初めしはじめなり』と『薄紅の秋 の実』から大人っぽく」としていた。このように前時 までの学習を踏まえて、表現と印象の結びつきをとら え、それを自分の台詞に生かすことが出来た生徒が多 かった。「解釈」を経て、「知識・意味形成」へと読み 深めることが出来たと言えるだろう。  【第5∼7時】生徒は「詩二編」で、表現に着目し て詩を読むことを学んだ。続けて生徒は、卒業記念に なる「詩のアンソロジー」の一頁を各自が製作すると いう課題に取り組んだ。生徒は国語の資料集や学校図 書館の詩集などから一編の詩を選び、語句や表現に着 目 し て そ の 魅力 を と ら え た。そ し て 魅力 を 伝 え る キャッチコピーを考え、A4判の用紙一枚に書き込ん だ。教師からは「はっとした表現」、「心に響いた言葉」 などの視点を与えるとともに、「反復、比喩、体言止め などの表現技法にも注目しよう」と言葉をかけた。  読む力に課題のあった一人の生徒が、次の詩を選択 した。 「虫」 八木重吉   虫が鳴いている   いま ないておかなければ   もう駄目だというふうに 鳴いている   しぜんと   涙をさそわれる  この生徒は、「いま ないておかなければ もう駄目 だ」という表現から「自分(作者)と虫との共通点」 を見出したり、「しぜんと 涙をさそわれる」という表現 から「自分自身の『死』を予感している」、「もっと生 きたいという作者のメッセージが伝わる」と「解釈」 して、「なんでもない虫の鳴き声が自分の『死』を予感 させる」というキャッチコピーを作成した。表現とそ の効果の結びつきをしっかりとらえて、「知識・意味形 成」の段階まで読み深められた例である。  このように、「詩二編」は協同で読み深めたが、アン ソロジーではその学習を生かし、一人で読み深めるこ とにつながった。 5 質問紙調査  前節では実践の中で生徒の読みが深まったか、学習 のねらいと照らして検討した。授業での評価とは別に、 実践の効果を検証するために、説明的な文章と文学的 な文章のそれぞれについて、生徒がどのような読み方 をしているか、質問紙調査を実施した。 (1)質問紙の作成  質問紙は、説明的文章と文学的文章のそれぞれにつ いて作成した。質問項目は表2・3に含めている。  「問題」で論じたように、読み深める過程は意味理解 (語句の意味を理解する)、解釈(書き手の意図を推測 し解釈する)、知識・意味形成(新しい知識や自分の考 えを形づくる)、という順に進行していく。そこで『中 学校学習指導要領解説 国語編』(文部科学省,2008) における「C読むこと」の指導事項や、読解方略に関 する先行研究(犬塚,2002)を参考に、意味理解、解 図5 表現を抜き書きした付箋をグループで整理し、そこから感じられる印象を書き 込んだワークシート

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釈、知識・意味形成のそれぞれに関わる質問項目を計 15項目作成した。大半の項目は説明的文章と文学的文 章に共通であるが、解釈に関わっては、それぞれの文 章に独自の項目も含んでいる。  また、市川(2014)の認知モデルからは、意味理解、 解釈、知識・意味形成のどの過程においても、内的リ ソースとしての自分の知識や経験を活用することが、 読み深めることにつながると考えられる。また自分の 読みのプロセスをモニタリングすることも、読み深め るには必要である(岸,2014)。そこで、知識の活用と モニタリングに関する2項目を加えた。  生徒には「説明的文章(文学的文章)を読むときに 次のことをどのくらいしていますか」と問うた。生徒 は17の項目に、1(まったくしない)、2(あまりしな い)、3(ときどきする)、4(よくする)の4件法で 回答した。  最後に、学習に対する「好き嫌い」を問う1項目を 加えた。生徒は「とても好き」、「やや好き」、「あまり 好きではない」、「嫌い」から選択した。  調査は5月中旬に、説明的文章・文学的文章の両方 について実施し、べースラインとした。その後は、表 1に示した計画に従って、説明的文章と文学的文章を 学習するたびに、学習後に実施した。 (2)調査結果―生徒全体の変化  表2に説明的文章について、3回(5月、5月、9 月)の調査結果の平均評定値を示す。3回の調査で有 意な差が見られたか分散分析で検討した結果をあわせ て示している。特に解釈に関わる多くの項目で、年度 当初に比べると5月の実践の後で評定値が上がり、9 月でもその水準が維持されていた。しかしその他の項 目では、ほとんど改善が認められず、課題が残された ままであった。  表3に文学的文章について、4回(5月、9月、10 月、11月)の調査結果の平均評定値を示す。分散分析 の結果、意味理解、解釈、知識・意味形成という読み の過程全般にわたって、また知識の活用において、年 度当初に比べると改善が認められた。ただし、5月か ら実践を重ねるにつれて次第に評定値が上がっていっ たわけではなく、特定の実践の後で評定値が上がり、 その後は低下したり(項目7、14、15、16)、11月の 実践の後でだけ評定値が上がったりするなど(項目2、 3)、不安定な結果も認められた。例えば項目14(読ん だ内容を手がかりに、人間、社会、自然などについて 考える)は、「高瀬舟」を学習した後に評定が高まって、 その後は低下している。これらは、質問項目にあげた 読み方を生徒が身につけたというより、直前の授業で の読み方の影響が一時的に反映された結果と考えるこ とが出来る。 (3)調査結果―読解力に課題のあった生徒の変化  年度当初の時点で読解力に課題があるとみられた生 徒を各クラスから5人ずつ計10人抽出し、その変化を 検討した。18項目のそれぞれについて、1回目の評定 値とその後の平均値を比較し、後者の評定平均が高く なっていた場合に「改善」とした。表4には生徒ごと の改善項目数を整理した結果を示している。説明的文 章では生徒によるばらつきが大きかった。これに対し て文学的文章では、ほとんどの生徒が12項目以上で改 善しており、成果が顕著であった。 表4 抽出生徒の変化 改善された項目数と人数 改善された項目数 0∼5 6∼11 12∼18 説明的文章 3 6 1 文学的文章 1 1 8 6 考察  説明的文章、文学的文章の授業に図表化を取り入れ、 文章を読み深めることにつながるか検討した。以下に、 成果と課題、また本実践から引き出される授業改善の ヒントを述べる。 (1)成果と課題  実践で紹介した生徒の読みや、生徒が書いた内容か ら判断すると、図表化活動は文章を読み深めるために 有効であった。このことは質問紙調査の結果からも支 持される。学年全体でも抽出生徒でも、年度当初に比 べると実践後の方が改善されていた。  しかしながら、次の課題が残った。第一に、説明的 文章では、「解釈」の改善にとどまっていた。第二に、 文学的文章では、読みの過程全般にわたって改善が認 められたものの、直前の授業の影響で評定値が上がっ

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表2 説明的文章の調査結果 読みの過程 項目 1回目 2回目 3回目 F 多重比較 (Ryan法) の結果 意味理解 1 意味がわからない言葉を調べる。 2.68 2.48 2.73 3.47* ②<③ 0.71 0.63 0.72 2 難しい言葉を自分の言葉で言い直す。 2.68 2.59 2.77 1.28 0.93 0.82 0.94 3 文章に書かれている内容を具体的に思い浮かべる。 3.11 3.09 3.20 0.62 0.79 0.74 0.74 解釈 4 文章の題名が何を表しているのかを考える。 2.75 2.95 2.91 1.33 0.85 0.81 0.87 5 その言葉を作者はどういう意味で使っているのか考 えながら読む。 2.38 2.66 2.82 9.19** ①<②=③ 0.72 0.79 0.68 6 内容を大まかにとらえながら読む。 3.20 3.30 3.36 1.55 0.72 0.78 0.67 7 線を引いたり書き抜いたりしながら読む。 2.29 2.89 2.93 15.45** ①<②=③ 0.92 1.01 0.94 8 作者が最も伝えたいことは何かを考える。 2.59 2.93 2.93 6.62** ①<②=③ 0.86 0.80 0.84 9「事実と意見」、「意見と根拠」など、内容どうしの関 係を考えながら読む。 2.43 2.52 2.52 0.51 0.70 0.68 0.68 10 文章の組み立て(結論が先にくる、例をいくつも並べ ていくなど)を考えながら読む。 2.32 2.54 2.68 6.85** ①<②=③ 0.85 0.80 0.76 11 具体例を使ったり順序立てて述べるなどの、説明表 現の効果を考えながら読む。 2.43 2.70 3.02 13.11** ①<②<③ 0.78 0.80 0.88 知識・意味 形成 12 読んだ内容の中で、疑問に思ったことについて考え る。 2.79 2.75 2.91 0.94 0.82 0.87 0.89 13 自分の経験や生活と結びつけながら読む。 2.70 2.50 2.66 1.48 0.78 0.85 0.97 14 読んだ内容を手がかりに、人間、社会、自然などに ついて考える。 2.59 2.46 2.70 1.61 0.88 0.80 0.90 15「なんとなく」ではなく、文章中の表現や説明にもと づいて、自分の意見や感想を持つ。 2.45 2.55 2.79 5.06** ①<③ 0.80 0.73 0.75 知識の活用 16 自分が知っていることと文章の内容を、比べたり結び付けたりしながら読む。 2.88 2.63 2.76 1.67 0.83 0.79 0.76 モニタリング 17 わからないところに印を付けたり、もう一度読み直したりする。 2.96 3.00 2.96 0.06 0.80 0.82 0.94 好き嫌い 18 説明的文章を読む学習が好き。 2.54 2.57 2.58 0.12 0.68 0.59 0.59 上段は平均値、下段は標準偏差。 自由度は(2, 110)、ただし項目16と18は欠損データにより(2, 108)。 * p<.05 ** p<.01 多重比較の①②③は、1回目、2回目、3回目を示す。

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表3 文学的文章の調査結果 読みの過程 項目 1回目 2回目 3回目 4回目 F 多重比較 (Ryan法) の結果 意味理解 1 意味がわからない言葉を調べる。 2.84 3.09 3.02 3.02 1.57 0.84 0.76 0.83 0.72 2 難しい言葉を自分の言葉で言い直す。 2.71 2.98 2.98 3.20 6.59** ①<④ 0.86 0.81 0.92 0.79 3 文章に書かれている内容を具体的に思い浮 かべる。 3.36 3.55 3.55 3.68 3.50* ①<④ 0.83 0.68 0.68 0.60 解釈 4 文章の題名が何を表しているのかを考え る。 3.02 3.02 2.88 3.25 3.22* ③<④ 0.86 0.88 0.71 0.63 5 その言葉を作者はどういう意味で使ってい るのか考えながら読む。 2.63 2.88 2.88 3.13 6.81** ①<④ 0.86 0.80 0.78 0.71 6 内容を大まかにとらえながら読む。 3.32 3.32 3.41 3.48 1.11 0.78 0.71 0.75 0.65 7 線を引いたり書き抜いたりしながら読む。 2.14 3.21 3.23 2.63 31.39** ①<④<②=③ 0.93 0.88 0.87 0.88 8 作者が最も伝えたいことは何かを考える。 2.63 2.84 2.88 2.84 2.33 0.77 0.82 0.83 0.73 9 場面の移り変わりに気をつけて読む。 3.02 3.16 3.30 3.18 2.51 0.61 0.77 0.80 0.76 10 登場人物の気持ちや言動の意味を考えなが ら読む。 3.25 3.46 3.54 3.45 2.90* ①<③ 0.81 0.73 0.71 0.68 11 描写や表現(比ゆや倒置法、体言止めなど) の効果を考えながら読む。 2.57 2.68 2.95 3.18 8.94** ①=②<④ ①<③ 0.94 0.80 0.93 0.76 知識・意味形成 12 読んだ内容の中で、疑問に思ったことにつ いて考える。 2.68 2.75 2.80 2.70 0.50 0.80 0.76 0.87 0.75 13 自分の経験や生活と結びつけながら読む。 2.82 2.61 2.61 2.66 1.50 0.87 0.79 0.84 0.89 14 読んだ内容を手がかりに、人間、社会、自 然などについて考える。 2.50 3.00 2.73 2.59 5.51** ①=④<② 0.89 0.82 0.79 0.80 15「なんとなく」ではなく、文章中の表現や説 明にもとづいて、自分の意見や感想を持つ。 2.61 3.18 2.89 3.05 11.13** ①<③<② ①<④ 0.79 0.78 0.86 0.79 知識の活用 16 自分が知っていることと文章の内容を、比べたり結び付けたりしながら読む。 2.71 3.04 2.88 2.68 4.41** ①=④<② 0.84 0.82 0.83 0.71 モニタリング 17 わからないところに印を付けたり、もう一度読み直したりする。 2.86 3.04 3.09 2.77 2.94* ④<③ 0.91 0.82 0.81 0.76 好き嫌い 18 物語や詩歌を読む学習が好き。 3.21 3.23 3.29 3.18 0.61 0.65 0.57 0.56 0.54 上段は平均値、下段は標準偏差。 自由度は(2, 110)。 * p<.05 ** p<.01 多重比較の①②③④は、1回目、2回目、3回目、4回目を示す。

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たことをうかがわせる結果も見られた。第三に、認知 心理学の知見から重要と考えられる「知識の活用」と 「モニタリング」についても、改善が不十分であった。  第一の課題は、説明的文章を授業で扱う難しさを象 徴している。文学的文章に比べると説明的文章は、生 徒にとって難解な語句が多く、論理展開を把握しなけ ればならず、そのため意味理解と解釈までで読みが止 まってしまうことが多い。また授業も、段落ごとの要 約をして展開を掴むという解釈の段階で止まることが 多い。その文章で話題にしている内容を自分の生活や 考え方などと結びつけるような指導が必要だろう。例 えば、「冥王星、降格」は7年前であり、生徒は小学校 中学年であったことから、当時さほどの関心を持った とは思えない。そこで「降格」から受けた印象を家族に 尋ねておくという活動も考えられる。そのうえで、第 3時に複数の記事を読み比べた際、家族や自分の印象 がどの記事に近いか考えるという課題が考えられる。  第二の課題は、ある学習を通して読み深める経験を しても、それが一時的なものに終わり、読解方略とし ては定着しないことを意味している。このことは学習 方略研究 で も 指摘 さ れ て い る こ と で あ る(植木, 2004)。授業では発問や課題を契機に読み深めていく わけだが、生徒の中では「発問に答えている」、「課題 に取り組んでいる」という認識で終わっているのかも しれない。学習が深まったことを振り返ることで、「こ ういう読み方をすると、読みが深まり、面白い」とい う意識が持てることが必要だろう。そのうえで、そう した方略を使って様々な文章を読むことで、方略が定 着することが望ましい。  第三の課題は、生徒が自分の知識を読みに生かした り、自分の読みをモニタリングすることが不十分であ ることを示している。ここから、自分の認知をモニタ リングあるいはコントロールする働きである「メタ認 知」に課題があると言える。授業の導入の段階で教材 文の内容に関わる各自の知識や経験を思い出させ、そ れを授業に生かすことが出来れば、生徒も自分の知識 を活用することの面白さと大切さに気づくだろう。ま た他者との協同学習的な活動を通して自分の読みを振 り返り、再度本文にもどって読み直すといったことが 行われれば、モニタリングやコントロールの力の育成 につながるだろう。 (2)授業改善に向けて  本実践の手立ての中には、有効に働いたものもあれ ば、検討を要するものもある。そこから他の単元や他 の教科にも生かせる知見が得られる。このことを「問 題」で記述した「図表化の留意点」ならびに「協同学 習的な活動」に即して検討したい。 (2)−1 道具としての図表  図表化はあくまで読み深めるための道具・手段であ り、図表化が最終目標ではない。このことを本実践で は、次の形で取り入れた。  第一に、学習のねらいに即した課題を設定し、課題 に即した適切な図表をデザインした。例えば二編の詩 の表現の違いに気づくことがねらいであれば、違いに 気づきやすくなるように「文字」、「文末」、「舞台・具 体物」などの視点を明示し、二編の詩を上下2段で比 べやすいデザインの表を用いた(図4)。  第二に、図表化で終わりにせず、図表化を踏まえた 言語活動で読みを深めた。例えば冥王星が準惑星なっ た経緯を整理したうえで(図2)、図を見ながらペアで 口頭で説明し合った。また詩の表現と印象の結びつき を図表化でとらえたうえで(図5)、それに基づいて台 詞を考えた。  第三に、単元を再構成し、「詩二編」の学習をアンソ ロジー制作につなげた。一つの教材を越えて、読み深 めた成果が次の学習に生かされた。  しかし本実践の手立ての中には、特に第一の点に関 連して不適切なものもあった。本文では紹介しなかっ たが、小説「高瀬舟」の授業で、二人の主人公それぞ れの気持ちをとらえるために2次元座標軸を用意し た。生徒は自分の解釈が座標軸のどこに位置するかを 考えて、その理由を付箋に書き込み、座標に貼り付け た。生徒たちの付箋は一つとして同じ位置に貼られた ものはなかった。しかしその後の授業では教師は、全 員の付箋を4つの座標に大別して進めた。個人の考え の細かな違いを捨象するのであれば、最初から軸を設 定する必要はなかった。図表の利用が目的化してし まったと言える。 (2)−2 図表の使いやすさ  読み深めるための道具として、図表は使いやすいも のでなければならない。そのために本実践では次の配 慮をした。  第一に、付箋に書き込んでそれを動かすことで、自

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分(たち)の思考を外化して見える状態にした。また 付箋を使うことで、書き直したりする負担が減った。  第二に、複数の考えを整理して図表化する活動では、 白紙の大きな模造紙を与え、そのうえで自由に付箋を 移動させて図表化をさせた。  第三に、表現と印象、考えと根拠のように異なる内 容を付箋に書き込むときは、付箋の色や方向(縦書き・ 横書き)、大きさなどを変え、必要な情報が十分書き込 め、かつ、違いが一目でわかるようにした。  第四に、事前にいくつかの図表を教師自身が作成し、 そのうえに書き込んだり付箋を操作するなどのシミュ レーションを行い、扱いやすい図表を授業に取り入れ た。  第五に、図表化や付箋の操作に先立って、教師がモ デルを提示し、その方法を端的に示した。  こうした配慮はおおむね有効に働いたが、なお検討 すべき課題も残った。  第一に、「詩二編」では生徒たちが自由に付箋を操作 しやすいよう白紙の模造紙を与えた。しかしそれと同 時に、付箋の整理の仕方を教師がモデルとして示すこ とで、その方法をそのまま真似るグループがあった。 モデルの提示は支援と同時に、生徒の思考に枠をはめ すぎることにもつながる。  第二に、付箋に書き込みそれを個人やグループで整 理する場合、付箋の数が増えすぎて、整理しにくくな ることがあった。この点は上の第四で述べたシミュ レーションを丁寧に行うことで、解決できるだろう。 また(2)−1の第一で述べたように視点を与えるの であれば、視点を精選することで解決できるだろう。  第三に、グループで図表化したものをクラス全体に 向けて発表するには、通常のワークシートや付箋では 小さすぎて見えにくい。本実践では用いなかったが、 書画カメラ(OHC)などの機器の活用も考えられる。 (2)−3 協同  本実践では、市川(2014)の認知モデルを参考に、「図 表化」と同時に「他者」も個人の思考を支援するリソー スとして位置づけ、ペアやグループでの協同学習的な 活動を積極的に取り入れた。図表によってメンバーの 思考が可視化されたことは、他者との学習活動を進め るのに有益であった。その結果として読みが深まった ことは、これまで述べた通りである。  しかし図表化と同様、協同もまた、授業の中で生か すには、留意しなければならないことがある。  第一に、ペアやグループでの活動を具体的に指示し なければならない。例えば他者との交流を通して考え を深めて欲しいと教師が思っていても、そのことを具 体的に伝えなければ、意見交流は単に意見の見せ合い や答え合わせで終わってしまう。  第二に、協同を通して個人の学習が深まらなければ ならない。そのためには、協同学習的な活動の後で再 び個人の考えを書いたり、あるいは他者との交流前後 で自分の考えがどう変化したか(あるいは変わらな かったか)を振り返らせることなどが必要である。  第三に教師は協同を通しての個人の学習を評価しな ければならない。本実践では、図表化に続けて個人で の言語活動を設定したり、付箋に個人名を書き加えさ せて考えの変容を見取ることで、個人を評価した。  本実践は図表化を通して生徒の読みを深める手立て を探った。いくつもの課題は残ったが、図表という外 的リソースが、生徒の思考を促す道具として有効であ ることが検証できた。課題となった点をさらに改善し、 今後の実践に生かしたい。 引用文献

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参照

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