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未来社会をプロデュースするICT : 4.身体的遠隔コミュニケーション空間を実現する-メディアを介した多人数対話のメカニズムの解明-

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Academic year: 2021

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(1)特集. 未来社会をプロデュースする. 4. 【未来プロデューサ. ICT. 7】. 身体的遠隔コミュニケーション空間を実現する  ∼メディアを介した多人数対話のメカニズムの解明∼. 葛岡英明 ビデオコミュニケーションと身体性 ■. メディアスペース. 筑波大学. ないため,誰に対して発話をしているのかが明確に 2). なるのである .この,物理的な端末を遠隔地にい る対話者の代理として扱うという考え方は,その後.  1980 年代半ばに Xerox PARC でメディアスペース 1). と名付けられた研究が開始された .彼らはパロア. の研究に大きな影響を与えた. 【共有空間】. ルトの研究所とポートランドの研究所を 24 時間音.  メディアスペースでは,遠隔対話者自身の画像を. 声と画像でつなぎっぱなしにして,いつでもコミュ. 見ることと同様に,作業空間を共有することの重要. ニケーションができるようにし,これによって人々. 性にも注目していた.特に Tang は共同描画システ. の日常的なコミュニケーションを支援しようとした.. ムの研究において,描画結果を共有するだけではな. このようにして開始された研究は,音声,画像,情. く,対話しながら描画されていく過程を共有するこ. 報通信という技術的な側面とコミュニケーションを. とと,共有画面に対する手振りを相互に観察できる. 解明するという分析的な側面が相互的に影響し合い. ことの重要性を主張した.そして,描画画面に対し. ながら,さまざまな新しい技術や概念が提案される. てお互いの手振りをリアルタイムで重畳するシステ. ことになる基盤となった.まずは,それらについて. ム,VideoDraw を開発した .. 振り返ってみる..  さらに石井らは,共有画面に対して,手振りだ. 【視線】. 3). けではなく遠隔対話者の顔も重畳できるシステム.  人間同士のコミュニケーションでは,視線が重要. ClearBoard を開発した 4).このシステムでは撮影方. な役割を果たしている.ところが一般的なテレビ会. 法を工夫することによって,描画画面や対話者に対. 議システムを利用すると,ディスプレイの位置とテ. する視線を正しく伝えられるようにしたため,対話. レビカメラの位置が一致していないために,自分の. 者の理解や意図を正しく認識することができるよう. 視線方向が遠隔の対話者にうまく伝わらなくなり,. になったのである.石井らはこのような視線に対す. これが遠隔コミュニケーションを阻害する要因とな. る「気づき」のことを gaze awareness と名付けた.. る.特に多人数の会話の場合には,誰が誰に話をし. 【身体的コミュニケーション】. ているのか,誰に次の発話権を譲ろうとしているの.  これらの研究では固定された共有空間に対する視. かが分からなくなってしまうため,この問題の影響. 線や手振りを支援対象としていた.これに対してエ. は大きくなる.. スノグラフィ(現場におけるフィールドワークに基.  これに対して Sellen らが開発した Hydra では,小. づいた研究手法)的な研究では,人々がより広い実. 型のテレビ会議端末を遠隔対話者の人数分用意し,. 空間を共有しながら共同作業を行っている実際の場. 自分の前に配置することによって多人数間の視線一. 面を分析した.そして,人々の視線,手振り,身体. 致を可能にした.各テレビ会議端末を対話者の代理. の動作,発話,さらに共有されている環境が相互に. とすることによって,自分が視線を向けた端末とだ. 連携することによって,対話が構成されていること. け視線が一致し,それ以外の端末とは視線が一致し. を明らかにしていた.どれか 1 つだけを取り出して. 28 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011.

(2) 4. 身体的遠隔コミュニケーション空間を実現する ∼メディアを介した多人数対話のメカニズムの解明∼. ︻未来プロデューサ  ︼. 7. 図 -1 SharedView. 図 -2 GestureCam. 観察しても,その意図を正しく理解することは困難 である.  そこで筆者は,作業者に頭部搭載型のカメラ−デ. ■. メディアスペース以降. ィスプレイシステムを装着させ,自分の目の前の実.  メディアスペースに関連した一連の研究は,1980. 空間の映像に遠隔指示者の手振りを重畳させられる. 年後半から 1990 年代半ばにかけて盛んに行われた. ウェアラブルなシステム,SharedView を開発した. が,1990 年代後半には下火になってしまった.こ. (図 -1) .これによって,目で見ることができるあ. れは,実画像通信が簡単にできるような環境が一般. らゆる場所を手振り付きの共有空間にできるように. に整備されていなかったことや,WWW の登場に. なった.. よって,研究者の関心が Web ブラウザベースのグ.  やがてこのような実空間におけるコミュニケーシ. ループウェアに向かったことなどが原因であると考. ョンの身体性を支援する手段として,ロボットをコ. えられる.. ミュニケーションのメディアとして利用しようとす.  こうした中でも,さまざまな研究者によって,物. る試みが発表されるようになった.たとえば筆者ら. 理的作業に対する遠隔指示の研究が続けられていた.. が開発した GestureCam は,3 自由度の小型マニピ. それらの研究は機器の組立てのような作業に対する. ュレータにカメラとレーザポインタを搭載したシス. 情報提示の効果や,手振りの重畳の効果を心理学的. テムである(図 -2) .このシステムは遠隔作業指示の. な手法で分析する研究であり,身体的なインタラク. 支援を目的としたもので,遠隔指示者はマニピュレ. ションの理解に貢献し,その後さまざまな研究者に. ータを操作して対象物を視認し,レーザを照射して. よって発表されたシステムにおける概念的な基盤と. 遠隔ポインティングをする.遠隔指示者が対象物を. なった.. 見ようとすれば,ロボットは自然にその対象物の方.  その一方で,21 世紀に入ると,遠隔コミュニケ. 向を向くことになる.対話者はその動きを見ること. ーションのための技術的な基盤が大きく変化するこ. によって,次に何を参照しようとしているのかが予. とになる.まず,高速の通信回線が一般に普及し,. 測可能となるため,その先に照射されたレーザポイ. USB 接続のテレビカメラが小型で安価になり,さ. ンタの小さな点を容易に見つけることができるので. らには無料でテレビ会議ができるソフトウェアが普. ある.. 及したことによって,音声・動画像通信に対する技 術的,意識的な敷居が急激に下がることとなった.. 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011. 29.

(3) 特集. 未来社会をプロデュースする. ICT 研究者であっても,安価で容易に小型のロボットを. 新たな展開. 作ることができるようになってきた.これに伴って,. ■. 映像技術. ロボットを遠隔地の人間の代理として利用しようと.   こ う し た 中 で,2007 年 に Nguyen ら が, 再 帰. する研究が増加している.. 性反射スクリーンを利用することによって多人数.  たとえば Adalgeirsson らが開発した MeBot は,デ. の対話における視線一致を可能にしたシステム,. ィスプレイと 2 本の腕を持った,卓上サイズの小型. 5). 7). MultiView を発表した .従来は,gaze awareness を. のロボットである .ディスプレイには遠隔対話者. 保つためには正面からスクリーンを見なければなら. の顔が表示され,その頭の動きに連動して上下左右. なかったため,1 地点では 1 人の参加者しか支援す. に動くように制御される.これに類したシステムの. ることができなかった.これに対して MultiView で. 研究はいくつか進められているが,ディスプレイの. は再帰性反射スクリーンを利用することによって,. 向きを適切に制御することによって,複数の対話者. 見る場所に応じて異なる映像を提示できるようにし. に対する視線が直感的に理解できるようにすること. た.つまり,スクリーンに表示されている対話者の. を目指している例が多い.. 顔の向きを,見る位置に応じて変化させられるので ある.これによって,1 地点に複数人いる場合でも. ■. モバイル技術. 多人数対話における視線を正しく伝達できるように.  高速の無線通信基盤の普及,小型カメラを搭載し. なった.この研究によって,多人数に対する視線の. たモバイル端末の普及などによって,いつでもどこ. 支援が注目され,これに触発された研究が増えるこ. でも音声・実画像通信ができるようになっている.. とになった.. これらの端末では,ディスプレイ側とその反対側の.  一方,21 世紀に入って,テーブルトップ型のイ. 両方にカメラがついているため,お互いの顔を見合. ンタフェースに関する研究が盛んになっている.テ. わせるだけでなくて,実空間のあらゆる場所の映像. ーブルは多人数が情報を共有しながらインタラクシ. を共有しながら会話ができる.SharedView と同等. ョンをするのに適したデバイスであるため,これを. の機能が,非常に小型で安価な装置で実現できるよ. 利用して遠隔の多人数コミュニケーションを支援し. うになったのである.. 6). ようとする研究が開始されている .  以上のように,多人数が,自由な配置をとりなが ら遠隔コミュニケーションができる技術が注目され. 今後 10 年のコミュニケーション支援技術. る傾向がある.ただし多人数のコミュニケーション.  まず申し上げておきたいのは,コミュニケーショ. は,技術的支援もさることながら分析も難しく,エ. ンを支援するシステムを開発するためには,支援対. スノグラフィや,心理学的な手法を利用したさまざ. 象となる人をよく理解しなければならないというこ. まな分析が試みられている.. とである.人々の日常的な行動様式を理解しなけれ. ■. ロボット技術. ば,効果的な支援システムの設計は難しい.そのた めには,分析・評価をおろそかにすべきではない..  ロボット技術の発達によって,人型のロボットを. たとえば理想的な手法の 1 つとしてよく言及される. 比較的容易に製作したり購入したりできるようにな. のは,実験・観察,分析・評価,システムの試作・. ってきた.また,ラジコン用サーボモータの普及や,. 開発を繰り返すことによって徐々にシステムを改善. センサとモータを簡単に組み合わせて制御すること. する繰り返し手法である(図 -3) .しかるに,人々. のできる小型 CPU,あるいはそれを利用したツー. の理解が十分ではない現時点において,10 年後に. ルキットの登場によって,ロボットを専門としない. こういうシステムを開発するということを宣言する. 30 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011. 3).

(4) 4. 身体的遠隔コミュニケーション空間を実現する ∼メディアを介した多人数対話のメカニズムの解明∼. ︻未来プロデューサ . は,分析・評価をおろそかにすべきではない.技術 開発的研究と分析的な研究がバランス良く進められ. 実験・観察. ることによって,初めて有効性の高いシステムが開 発できるし,他の研究にとって意義のある知見を残 分 析・評 価. 7. すことができると考えている.10 年後のマニフェ. ︼. 試 作・開 発. ストは,なんらかのシステム開発ではなく,「メデ ィアを介した多人数対話のメカニズムの解明」と言. 図 -3 繰り返し手法による開発過程. ってもよいであろう.. ことはできない.そこで,今後 10 年の研究の方向. 参考文献 1) Harrison, S. : Media Space 20+ Years of Mediated Life, SpringerVerlag, London(2009). 2) Sellen, A. and Buxton, B. : Using Spatial Cues to Improve Videoconferencing, Proc. CHI 92, pp.651-652(1992). 3) Tang, J. C. and Minneman, S. L. : VideoDraw : A Video Interface. 性に関して筆者の考えを述べさせていただく.  前章までに述べた動向をふまえると,今後は映像 技術,ロボット技術,モバイル技術を活用して,多 人数遠隔コミュニケーションを支援する技術の研究 を進めるべきである.現在のネットワーク環境を考 えれば,大規模な没入型システム,モバイル端末, テーブル型端末,ロボット端末などが相互に接続さ れたシステムを開発できるであろう.ここで注意し なければならないのは,単に映像や音声を相互通信 するだけでは,効果的なシステムを生み出せないと. for Collaborative Drawing, Proc. CHI 90, Vol.9, No.2, pp.313320(1990). 4) Ishii, H. and Kobayashi, M. : ClearBoard : A Seamless Medium for Shared Drawing and Conversation with Eye Contact, Proc. CHI 92, pp.525-532(1992). 5) Nguyen, D. and Canny, J. : MultiView : Improving Trust in Group Video Conferencing Through Spatial Faithfulness, Proc. CHI 07, pp.1465-1474(2007). 6) 山下直美,平田圭二,青柳滋巳,葛岡英明,梶 克彦,原田 康則 : 身体の動きを伴う遠隔協調作業における上半身映像の 効果,情報処理学会論文誌,Vol.51, No.4, pp.1152-1162(Apr. 2010). 7) Adalgeirsson, S. and Breazeal, C. : MeBot : A Robotic Platform for Socially Embodied Presence, Proc. HRI 10, pp.15-22(2010). (平成 22 年 11 月 3 日受付). いうことである.視線,手振り,そしてさまざまな 身体動作などの,コミュニケーションにおける身体 的な資源(resource)を,いかにシステムに融合させ るかということを,常に意識する必要がある.  繰り返しになるが,今後のシステム開発において. 葛岡英明(正会員)[email protected]  1992 年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学) . 同年筑波大学講師.現在,筑波大学教授.CSCW,HRI の研究に従事. 特に実環境におけるインタラクションに取り組んでいる.. 情報処理 Vol.52 No.1 Jan. 2011. 31.

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