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プル型のセンサー情報収集によるリソースの利用効率最大化

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DEIM Forum 2016 F5-1

プル型のセンサー情報収集によるリソースの利用効率最大化

宮澤 慎一

松永 昌浩

† セコム株式会社 IS 研究所 〒 181–8528 東京都三鷹市下連雀 8-10-16 セコム SC センター

E-mail:

†{s-miyazawa,m-matsunaga}@secom.co.jp

あらまし

企業や家庭に取り付けたセンサーの情報を元にサービスを提供する場合,センサーの情報を収集するサー

バーのデータ受信量や負荷は,社会の活動と連動して大きく変化する.そのような変化に対し,最適なコストで IT リ

ソースを利用する手段としてクラウドが着目されている.一方,パフォーマンスやセキュリティの懸念から,クラウ

ドではなくオンプレミスな環境でサーバーを運用したいという要望もある.そこで本稿では,IT リソースを最適化す

る手法として,クラウドのように IT リソースを伸縮させるのではなく,収集するデータ量を伸縮させる手法を提案す

る.本手法では,サーバーが即座に受信すべきサービスの根幹に関わる情報はセンサーからプッシュする手法を用い,

サービスの質を向上させるために必要な平時の情報は,サーバーがセンサーへデータを問い合わせる手法(プル)を

用いる.このハイブリッドな手法は,IT リソースを最適なコストで利用できるだけでなく,サーバー側とセンサー側

の機器の性能の進化のずれの緩和や,サービスの目的や状況に応じたダイナミックな QoS の変更も可能となる.これ

らの有用性についてサービス事業者の視点から考察する.

キーワード

IoT, DMBS, QoS

1.

は じ め に

IoT [1]という言葉の登場以来,インターネットを介してセ ンサーのデータを収集するビジネスが話題になっている.セン サーからサーバーへデータを送信する手法(プッシュ型)が前 提とされていることが多く,その大量のデータを受信するため にクラウドを用いることが提案されている[2].一方,パフォー マンスやセキュリティの懸念[3]から,クラウドではなくオン プレミスな環境のサーバーで運用したいという要望も存在する. たとえば,機械警備業など,企業や家庭の状態の変化に応じ てサービスを提供するような事業形態では,企業や家庭に設置 されたセンサーが発生させたイベント情報を元にサービスを提 供している(図1).これらの情報は,オンプレミスな環境の サーバーで受信し管理されている. センサーなどの情報 サービス 提供者 お客様 図 1 センサー情報を収集するサービスの例 企業や家庭からのイベント情報は,人間の生活や社会の活動 のリズムと密接に関係しており,サーバーが受信するデータ量 は時間帯によってピークとオフピークが発生することとなる. イベント発生に対して迅速な対応が求められるので,サーバー の処理能力はあらかじめピークに合わせて準備する必要がある. オンプレミスのサーバーでピーク時とオフピーク時のデータ 量に極端に差がある場合,ITリソースの余剰が発生する.余剰 資産を保有することは企業にとって無駄なコストであるため, 余剰資産を有効活用することが課題となる. そこで本稿では,センサーがサーバー側へデータを送信する 手法(プッシュ型)だけではなくサーバーがセンサーへデータ を問い合わせる手法(プル型)も用いる,プッシュ型とプル型 を組合せた手法(ハイブリッド型)を提案する. また,ハイブリッド型データ収集手法がどのようなものなの か理解しやすくするためのシミュレーターも今回構築したので, 合わせて紹介する. 以降,第2節では,IoTを利用したサービスでサーバが受信 するデータ量にピークとオフピークが存在する例を説明する. そして第3節では,ピークとオフピークが存在してもITリソー スを無駄なく使う手段として知られている,クラウドの考え方 を紹介する.第4節で本稿の提案する,プッシュ型-プル型を組 み合わせたハイブリッド型の手法を提案する.第5節では,ハ イブリッド手法を用いるとITリソースを使い切れること以外 の利点があることを説明する.第6節ではデータ収集の様子を 可視化するシミュレーターを紹介し,最後に第7節で今後の課 題を述べ,第8節でまとめる.

2.

受信するデータ量にピークがあるシステム

本節では,受信するデータ量にピークがあるシステムの例と して,建物に様々なセンサーをとりつけて,建物の状態の変化 や人の出入りを監視するサービスを例としてあげる. 建物の状態の変化や人の出入りは,社会の活動や人々の生活 と密接に結びついており,サービス提供者がセンサーから受信 するデータ量も社会の活動や人々の生活と連動している.

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00 06 12 18 24 時刻 データ量 図 2 データ受信量の例 図2は,上述したようなサービスにおいて,センサーから一 括してデータを受信するサーバーの受信データ量の変化を模擬 的に示したものである.横軸と縦軸はそれぞれ,時刻と単位時 間あたりに受信したデータ量をあらわしている.このグラフか ら,早朝に受信データ量のピークが生じ,また夕方から夜にか けてにゆるやかなデータ量増大が見てとれる.また,深夜から 明け方まではデータ量が少ない. 朝と夕方に受信データが増加する理由は,たとえば,建物が 会社や店舗であれば出勤/退社と連動しており,建物が自宅であ れば出社/帰宅と連動しているといえる.日中が深夜よりもデー タ量が多い理由は,日中のほうが社会の活動が活発になるため である.このような傾向は,24時間単位,一週間単位,月単位, などでパターンになる. センサーからのイベント情報は,サービスを提供するために 迅速に把握して対応する必要があるため,ITリソースの能力は ピーク時に必要な能力を事前に見積もり,準備することとなる. このようなシステムでは,ピーク時とオフピーク時のデータ量 に極端に差がある場合,ITリソースの余剰が発生する.余剰資 産を保有することは企業にとって無駄なコストであるため,余 剰資産を有効活用することが課題となる.

3.

IT

リソースを無駄なく手段としてのクラウド

ITリソースを無駄なく使う手段として,クラウドが騒がれは じめて以来,二つの選択肢が議論されることが多い[4].それは クラウド事業者になるかクラウド消費者になるかである. 3. 1 クラウド事業者になる選択肢 クラウド事業者になる選択肢とは,オフピーク時のITリソー スを第三者に提供するというものである(図3).

このようなビジネスの先駆けは,Amazon Web Serviceであ

る.よく話題になるのは,感謝祭直後のクリスマス商戦(サイ バーマンデー)時のアクセス数とオフピーク時の差である.11 月にはひと月に76パーセントの空リソースが発生していると いう[5]. 2014年の時点で,AWSではデータセンター1つあたり最低 でも5万台存在するという[6].つまり,単純計算で11月には データセンター1つあたり3.8万台分のリソースが無駄になる ということである.このような事情から,ITリソースの余剰分 を外販する必要が出てくるのも無理はない.しかし,アマゾン 00 06 12 18 24 時刻 データ量

販売

販売

図 3 クラウド事業者の発想 のような,売るほど余剰サーバーがあるという大規模なサービ スは非常に稀であり,クラウド事業者になるということは稀で ある. 3. 2 クラウド消費者になる選択肢 クラウド消費者になる選択肢とは,先に述べたクラウド事業 者の提供するITリソースを購入するというものである.この 選択肢では,必要な時間帯に必要な分だけITリソースをクラ ウド事業者から購入する(図4). 00 06 12 18 24 時刻 データ量 図 4 クラウド消費者の発想 これにより,サービスに必要なITリソースを最適化するこ とができる.その一方で,サービス提供者がサービスに利用す る場合は,顧客に対してサービス提供者自身の信用だけでなく クラウド事業者の信用も担保する必要が生じる. 3. 3 プライベートクラウド オンプレミスな環境に複数台のサーバーを準備して,その上 でITリソースを管理するプライベートクラウドがある.また, Xen, KVM, VMWareなどにより仮想PCを管理するもの[7]も あれば,Mesos [8]やKubernetes [9]などを利用することによっ て,複数台のサーバーで構築された分散環境をあたかも一つの マシンのようにコントロールする手段も登場している. 一台のサーバーの処理能力を越えるデータ量をさばく必要の あるサービス提供者にとっては,これらの技術は必要な技術で ある.本稿では,このような環境を活用する方法について述べ ている.

4.

ハイブリッド型データ収集

本節では,サービス提供者の観点から発想した,センサー側

(3)

常時取得データ (傾向分析の元ネタ。サービス向上に利用) 例: 温度、振動、日照、脈 常時取得データ (傾向分析の元ネタとなる) (サービス向上に利用) 例: 温度、振動、日照、脈 データ量 時刻 0時 12時 24時 データ量 時刻 0時 12時 24時 データ量 時刻 0時 12時 24時 (a) (b) (c) 図 5 データの収集タイミングを変化させる からサーバー側へデータをプッシュする方式と,サーバー側か らクライアント側のデータをプルする手法を組み合わせたハイ ブリッド型のデータ収集手法を提案する. 4. 1 イベント発生時の情報を扱ってきた過去 従来,機械警備業など,企業や家庭にセンサーを取り付けそ のセンサーの情報を元にサービスを提供するような事業形態で は,顧客とサービス提供者との間を取り持つ通信網としてイン ターネットよりも制約のある,電話やFAXに利用する一般公 衆回線を使用してきた. 一般公衆回線における制約(例:通信のたびに発生する通信 料,通信帯域/レイテンシー/通信データ量などの制約など)の もとで,リアルタイムな最適のサービスを提供するために,顧 客の建物に設置したセンサーやアクチュエーター(電子錠など) とそのコントローラーでできる限りの処理を実行し,サービス 提供者に伝えなければならない必要なデータのみを,サーバー へプッシュしてきた(図5(a))(注1) 4. 2 平時の情報を扱う未来 インターネットが普及して以来,通信インフラの通信遅延, 通信帯域,通信データ量が一般公衆回線よりも飛躍的に向上 し,通信料も定額となっていった.このため,前述したような 形態のサービス提供者も,一般公衆回線からインターネットへ 切り替えてきている.通信インフラが一般公衆回線だった時は, サービスに必要なイベント情報を受信していたが,今後はイン ターネット回線の優位性を利用して,イベント発生時ではなく 平時のデータを常に取得し,サービスを向上させることが鍵と なっている. たとえば,温度,振動,日照,脈などを常時取得して,お客 様の状態などの傾向を分析し,サービス向上やリスクの未然防 止に利用することができると考えられる.このようなデータも サーバーへプッシュする方法で収集する場合,図5(b)のように 受信するデータがかさ上げされることになる. 4. 3 ハイブリッド型データ収集 ところで,このような傾向分析に必要なデータは緊急性は高 くなく,即時にサーバーが受信できなくとも1日単位でデータ を取得できれば良いことが多い.また,近年では,組み込み機 器やモバイル端末にもデータベースを実装することが可能に なっており,即座に必要ないデータを貯めておくことが可能に (注1):近年,このようなアーキテクチャはエッジ・ヘビー・データ [10] という 言葉により再注目されている. なっている[11]. そこで,サーバーのリソースに余剰が出たときに,サーバー 側のタイミングでデータを取得する手法を本稿では提案する. これまで通り,緊急性の高い情報はサーバー側で遅滞なく受信 して処理する一方で,ITリソースに余剰がある際は,平時の データを収集するというものである(図6). 緊急性の高い情報は、 今まで通り、 即時に受け付ける。 平時のデータは、 ITリソースが暇なとき サーバーが収集する 全体としてコンピュータの リソースを使い切り続ける サービス 提供者 サービス 提供者 図 6 緊急時と平時のデータを別々に受信 刻々と変化するサーバーのITリソースの余剰分に合わせて, データ収集スケジュールを生成し,決められた単位時間以内 (deadline)で全クライアントからデータを収集できるようにダ イナミックにデータのQoSを変更するというものである. この手法により,図5(c)のようにピーク時性能に合わせたコ ンピューターリソースを,有効に活用できることができるので はないかと考えた. 4. 4 プル型が適用できるシステムの特徴 サーバー側からクライアント側の情報をプルしてデータを収 集するシステムの特徴は,そのシステムで実施するサービスの 観点から,以下に説明する2つの特徴が上げられる. 一つ目は,センサーの情報を使って365日24時間サービス をするという特徴である.これらのクライアント側も365日24 時間通電された状態である.このため,サーバー側からクライ アント側へアクセスすることを前提条件として考えることがで きる. 二つ目は,センサーの情報を使ってサービスを提供する場合, サーバーだけでなくクライアント側の機器やアプリケーション もサービス提供者のものであることが多いことである.このと き,一般的なWebアプリケーションの場合と異なり,サーバー とクライアントが協調したシステムとなることができ,通信を セキュアにしたり通信内容をサーバー側クライアント側双方の 都合で変更することができる.(図7).

(4)

Webのサーバーは、不特定多数の コンピュータ(クライアント)から一方的に アクセスされることが多い。 IoTのシステムにおいてサーバーと クライアントは既知の関係であり、サーバーは クライアントを制御可能であることが多い。 図 7 サービス提供者のサーバーにとってクライアントは既知

5.

IT

リソースの有効活用以外の利点

本稿で提案するハイブリッド手法によるメリットは,ITリ ソースの余剰を有効に使い切ることだけがメリットではない. 本節では,サーバー側がクライアント側のデータを収集すると きにサーバー側の都合でQoSを変更できるメリットと,アド ホックな情報収集ができるメリットを説明する. 5. 1 サーバーとクライアントの進化のずれを緩和する 近年,低価格帯の組み込み機器においても,その性能は格段 に向上してきている.これらをセンサーの情報を収集するクラ イアント側として使い,その能力を使い切ってデータを取得す ると,ミリ秒オーダーの非常に細かい粒度のデータを取得する ことができる.そのデータをクライアントからサーバーへ送信 すると,クライアント数が膨大な場合はサーバー側に求められ る能力が甚大となってしまう.このため,クライアント側で統 計処理など事前に処理して送信するデータ量を調節する必要が ある(図8の2015年の例).

2015年

2025年

100ms 100ms 100ms 100ms 100ms 100ms 1Gbps 100Gbps 10s間隔 100ms間隔 サービス 提供者 サービス 提供者 図 8 サーバー側の都合でデータの QoS を変更する ところで,企業や家庭に設置するような設備は,何年も交換 せずに使用することが多い.その理由は,クライアントの機器 の性能が十分であること,クライアントの機器が方々に点在す ること,一度設置すると変更工事が難しいことなどである.一 方,サーバー側は,ネットワーク帯域や処理能力などを徐々に 向上させることができ,クライアント側の全体の能力に,後か ら徐々に追い付くことが可能である(図8の2025年の例). このとき,クライアント側とサーバー側との通信の頻度や データの精度(データ量)を変更する方法として,2つ考えら れる.もし,クライアント側からデータをプッシュするアーキ テクチャであれば,クライアント側のアプリケーションやパラ メータを遠隔から更新する方法が考えられる.もう一つは,本 稿で提案しているサーバー側からクライアント側のデータを問 い合わせるプル型のアーキテクチャも準備しておき,サーバー 側で問い合わせのタイミングや内容を随時変更する方法が考え られる. 以降で説明するが,本稿では,データ収集のタイミングや データの精度など,データ収集戦略の変更をよりダイナミック により柔軟にできる方法は,クライアント側のアプリケーショ ンやパラメータを遠隔から更新する方法よりも,サーバー側で 問い合わせのタイミングや内容を随時変更する方法だと考えた. 5. 2 アドホックな情報収集 災害発生時などでは,あるエリアの最新の状態を頻繁に取得 したいということが発生する.このようなとき,イベント発生 時にデータを上げるだけの仕組みだと,任意のタイミングで任 意の精度のデータを収集することは難しい.しかし,サーバー から情報を収集する仕組みになっていれば,任意の場所の情報 を任意のタイミングで取得することができる(図9). 【災害時など】 ○○県××村の 物件の現状を今すぐ収集したい! ○○県××村 サービス 提供者 図 9 場所を指定して取得することができる 5. 3 状況や目的に応じたQoS 前述したようなアドホックな情報収集をしたとしても,その 負荷によってサーバーがクライアントからデータを取得できな くなるということがあってはならない.このため,状況に応じ てQoSをダイナミックに変化させる機構は重要である. また,この手法によって,用途ごとに必要なQoSの基準で データを収集することができる.常時取得データを統計分析の ためだけに使うなら,サーバーがクライアント側のデータを全 て取得する必要はなく,クライアント側で統計処理を実施した 状態でサーバーが収集しても問題ない.一方,証跡として平時 のデータを残す必要がある場合,できるだけ粒度の細かい状態 で平時のデータを保管しておくことが望ましくなる.

6.

シミュレーター

6. 1 概 観 本稿で提案した「データを受信しつつオフピーク時にデータ を回収する手法」を理解しやすくするために,シミュレーター を構築して可視化した(図10). 可視化に際して,サーバーを空中に浮かぶ球として表現し, クライアントを日本地図上に配置された透明の点として表現し た.クライアントからサーバーに対してデータを送信すると, データを表す点がクライアントの座標からサーバーに向けて移

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図 10 シミュレーション可視化の概観 動する.その点の色は,データがイベントデータの場合には赤 く,平時のデータの場合には黄色い. また,平時のデータをサーバーからクライアントに対して問 い合わせることもできる.サーバーからクライアントへの問い 合わせを,サーバーからクライアントの座標に対して伸縮する 緑の直線によって表現した. なお,右上にはシミュレーション上での時刻を表示した. 6. 2 シミュレータのアーキテクチャ シミュレーターは,可視化ツール部とシミュレーター部の2 つに分けて構築した(図11). WebServer WebSocket クライアント (物件シミュレータ) ・・・ 4万 ・・・ UDP 受信プロセス スケジューラー 収集プロセス サーバー シミュレーター 可視化ツール Webブラウザ (WebGL) 図 11 シミュレーターのアーキテクチャ概要 可視化ツール部は,Go [12]で書かれたWebサーバとWebブ ラウザで構成される.WebブラウザはWebGL [13]に対応して いれば,どのWebブラウザでも問題ない.Webサーバーは, シミュレーターからUDPで描画メッセージを受信し,それを Websocket [14]経由でWebブラウザに表示している. シミュレーター部では,各クライアントとサーバーを Er-lang [15]のプロセスで実装しており並行に動作している.図中 の青い四角形はクライアントをあらわしており,各クライアン トは24秒間に一度サーバーに対してイベントデータを送信し ている.送信するタイミングは,各クライアントにあらかじめ 割り当てられた確率分布を元に,24秒おきに各クライアント内 部で決定される. シミュレーターのサーバーは3つのErlangプロセスで実装 されいる.一つは受信プロセスである.受信プロセスは,クラ イアントから随時信号を受信しつづける.スケジューラープロ セスは受信プロセスのデータ受信状況を定期的に観測し,スケ ジュールを決定し,24秒ごとに収集プロセスにスケジュール を転送する.スケジューラープロセスは,転送されてきたスケ ジュールを元にクライアントから情報を収集する. クライアントもサーバーも,描画が必要な処理の内部で,描 画メッセージをUDPで可視化ツールのWebサーバに送信して いる. 6. 3 スケジューリング方法 今回構築したシミュレーターのサーバーは,24秒間に受信し たイベントデータの受信パターンから,翌日の平時のデータ収 集スケジュールを決定している.ここでは,サーバー側がどの ように収集スケジュールを決定しているかを説明する. サーバーは24秒ごとに過去24秒間でどの程度イベントデー タを取得したのかをヒストグラムとして算出する(図12-a). そのヒストグラムから,ピーク時の負荷を求めて,平時のデー タに使えるITリソースを算出する(図12-b).そのデータを 元に,翌日の収集する際のヒストグラムを求めて,収集スケ ジュールとしている(図12-c,d). 今回はdeadlineを守るためにQoSを変化させる手法は検討 しなかったが,たとえば,統計的な手法を用いてdeadlineまで に情報を収集する方法[16], [17]や,ウェブクローリングのスケ ジューリングアルゴリズム[18]の研究が役に立つ可能性がある. データ量 時刻 0時 12時 24時 データ量 時刻 0時 12時 24時 データ量 時刻 0時 12時 24時 データ量 時刻 0時 12時 24時 (a) (b) (c) (d) 図 12 スケジューリングの手法 6. 4 評 価 サーバーのデータ受信状況がデータ収集手法によってどのよ うに変化するのか,シミュレーターを用いて3とおりのシナリ オで評価した.共通の条件とシナリオは以下のとおりである. シナリオ共通条件 • 1日を24時間ではなく24秒とする • クライアント数:40000 • サーバー数:1 • クライアントは,24秒に1回,イベントデータをサー バーへ送信 • クライアントのイベントデータの発生時刻は,ラプラス 分布とガウス分布に従う. – ラプラス分布:µ = 8, σ = 0.5 – ガウス分布:µ = 18, σ = 2.0 – 分布生成にノイズは入れない シナリオ(a): イベントデータが即時に送信される場合

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0 1000 2000 3000 4000 0: 11 2: 07 4: 03 5: 59 7: 55 9: 51 11 :4 7 13 :4 3 15 :3 9 17 :3 6 19 :3 2 21 :2 8 23 :2 3 0 1000 2000 3000 4000 0: 14 2: 09 4: 05 6: 01 7: 56 9: 52 11 :4 8 13 :4 3 15 :3 9 17 :3 5 19 :3 1 21 :2 8 23 :2 3 0 1000 2000 3000 4000 0: 10 2: 06 4: 02 5: 58 7: 54 9: 50 11 :4 6 13 :4 2 15 :3 8 17 :3 3 19 :3 0 21 :2 5 23 :2 1 (a) (b) (c) サーバーの受信信号数 時刻 イベントデータ 平時データ 図 13 スケジューリングの有無の比較 • クライアントは,イベントデータのみ送信する.平時の データは発生しない. シナリオ(b): イベントデータと平時のデータが即時に送信 される場合 • クライアントは,24秒に12回,平時のデータをサーバー へ送信 • クライアントの平時のデータの送信時刻は,一様分布に 従う. シナリオ(c): イベントデータは即時に送信される一方で,平 時のデータはクライアントに蓄積され,サーバーからの問い合 わせに応答する場合 • サーバーは,平時のデータを24秒以内に全クライアン トから12回ずつ収集 • 翌日の収集スケジュールは24秒経過時点で再作成 図13のグラフはそれぞれ,上記シナリオでのサーバーのデー タ受信回数を示している.イベントデータも平時のデータも即 時に送信する場合は,サーバーの信号受信量のピークが4000弱 になっている.その一方で,サーバーからクライアントへ問い 合わせをする場合は,ピークが約半分の2000強で済んでいる.

7.

今後の課題

本稿では,クライアントの情報を収集するスケジューリング の戦略として24秒(時間)単位のものをシミュレーションで利 用した.実際には時間のパターン,曜日によるパターン,年間 を通じたパターンにあわせたスケジューリングや,パターンで はなく分単位などより細かい粒度でダイナミックにスケジュー リングを実施する機構が必要である.このようなスケジューリ ングは,スマートグリッドの電力需要予測の研究[19]などが参 考になると考えている. また,サービスを向上させるために必要な平時の情報を実際 に取得するには,本稿で上げた課題以外にも,プライバシーに ついての課題がある.どの情報を顧客からプルしても問題ない のか,プルしてきたデータをサーバーでどのように扱うかとい う課題である.

8.

ま と

本稿では,時間帯によって負荷が大きく変動するような,セ ンサー情報を収集するサーバーのITリソースの余剰分を有効 活用する手法を提案した. 企業や家庭にセンサーなどを設置して,そのデータによって サービスを提供する事業者には,即時に受信し処理することが 必要な情報(サービスの根幹に関わる情報)と,統計情報など で必要な情報(サービスを向上させるために必要な平時の情報) とがある.本稿で紹介した手法は,これらの情報の特性を踏ま えて,サービスの根幹に関わる情報に合わせて,ITリソースの ピーク時性能を見積り,余剰分はサービスを向上させるために 必要な平時の情報の処理に利用するというものである. この手法は,ITリソースの余剰分を有効利用できるだけな く,サーバーとクライアントの性能の進化のずれを緩和したり, アドホックにサーバー側の都合でクライアント側の情報を取得 できるようになったり,状況や目的に応じてQoSをダイナミッ クに変更させることができる. また,このような手法を理解しやすくするために,シミュー レションし可視化するアプリケーションを構築した. 文 献

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図 10 シミュレーション可視化の概観 動する.その点の色は,データがイベントデータの場合には赤 く,平時のデータの場合には黄色い. また,平時のデータをサーバーからクライアントに対して問 い合わせることもできる.サーバーからクライアントへの問い 合わせを,サーバーからクライアントの座標に対して伸縮する 緑の直線によって表現した. なお,右上にはシミュレーション上での時刻を表示した. 6

参照

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