• 検索結果がありません。

小中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 小中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による 教育課程編成と社会科授業実践. Author(s). 鈴木, 義樹; 深谷, 久美; 安藤, 豊. Citation. へき地教育研究, 59: 101-114. Issue Date. 2004-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1224. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである。. Hokkaido University of Education.

(2) No.59. /ト中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践 2004.12. 小中併置校における「情報を駆使した学び」と 「体験的な学び」による教育課程編成と 鈴 木 義 樹. 安 藤. 深 谷 久 美. (幌延町立問寒別中学校教諭) (幌延町立問寒別中学校教諭) (北海道教育大学旭川校). OrganizationofACourseofStudyon‘‘LearningbyOperating InformationProcesslng’’andon‘‘LearningbyExperiehce’’ atSmall:ScalSchool,andAReportofanEducationalPractice on‘‘SocialScience’’ SUZUKIYOSIKI,FUKAYAKUMIandANDOYUTAKA. 小学校6学級(単式4と複式1と特殊学級1),児童41名, 中学校3学級(単式),生徒数28名の小中併置校(へき. 1 はじめに 「情報教育にへき地はない」といわれているが,情報. 地3級)である。. 沿革は,次の通りである。1869年(明治2年),明治 政府は蝦夷地を北海道と改称し,11国86郡とし天塩,遠 別,沙流各村が誕生。1905年(明治38年)早春,遠藤椛 太郎,玉井留三郎の二名が,名寄より天塩川を川船で下 り,現在の問寒別南(通称ふくろ)に移住し,開墾した。 これが幌延相聞寒別のはじまりといわれる。以後,入植. 教育がへき地教育全体を陵駕することはできない。へき. 地教育で大切なことは,その地域セしかできない教育, 地域の特色を生かした教育である。地域では,その地域 でしか体験できないことがある。それを活用し,学校教 育に取り組んでいくことが求められている。. 問寒別小中学校は,2002年(平成14年)度から「情報 を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編. 者が相次ぎ,1909年(明治42年)には48戸になり,就学. 成を作成した。新学習指導要領の改訂の趣旨である「主. 適齢児童も増加したので,地域の人達が相談して小学校. 体的に学ぶ子供の育成」「総合的な学習の時間の新設」. 設置を計画した。準の年には学校を作る木材を叫から切. の2つの考え方を基にした教育課程編成である。教育課. 程編成は,「教育課程編成の基底編」と「各領域の年間. り出して校舎をつくり,幌延第二教育所付属問寒別特別 教授所として開所された。、1911年(明治44年)に幌延第. 指導計画編」が作成されている。「教育課程編の基底編」. 三教育所として独立した。. 1919年(大正8年),2級町村制が施行され,沙流せ. では,教育課程の理論的なこと,また,「各領域の年間 指導計画編」では実務的なことを述べている。そこでは,. 併せて幌延村となった。この時の人口は936戸5247人で. 小中併置校の特性を生かし,9年間の発達段階む三応じた. あった。問寒別は,200戸を数えたとされる。1924年(大. 情報教育・体験学習の重要性が記述されている。理論と. 正14年)には,問寒別尋常小学校と改称され,1927年(昭. 実践が学校全体で取り組まれている。. 和2年)には高等科が設置された。1941年(昭和16年). には現在の地に新築され,問寒別国民学華と改称された。. 本論文では,小中併置校における「情報を駆使した学 び」と「体験的な学び」による教育課程編成とそれにも. 194享年(昭和18年)に校舎が全焼し消防番屋・寺院・人. とづく実践例として社会科授業の実際を報告する。. 家を借りて分散授業が行われたが,1946年(昭和21年) には校舎が再建された。 1947年(昭和22年)斯学制のもと問寒別中学校が新た. 2 問寒別小中学校の教育. に併置され,校名が幌延町立問寒別小中学校となった。. 1949年(昭和24年)当時の問寒別の人口は316戸1892人. 1)本校の沿革と地域の実態. であったとされる。. (1)沿革. 1960年(昭和35年)町制が施行され幌延町になった。. 本校は,留萌管内の最北に位置する幌延町に所在する。 −101−.

(3) 鈴 木 義 樹・深 谷 久 美・安 藤. この時の人口は,1502戸7432人,1980年(昭和55年)と. (3)子供の実態. される。この年は,開校70周年にあたり,豊神小中学校,. 全校児童生徒数は1959年(昭和34年)の265人をピー. 中間案別小中学校を統合して現在の所に新校舎が建てら. クに,昭和44年116名,昭和55年には62名,1989年(平. れた。上聞寒,中間案地区の児童生徒はスクールバスで. 成元年)には,46名と減少してきたが,近年,酪農後継. 通学するようになった。. 者が多くなり児童生徒が増加している。2003年(平成15. 1990年(平成2年)に学校給食が始まり,翌年にはコ. 年)度は,小学校5・6年が複式学級であるが,他は,. ンビュー、夕が導入され,情報教育に力を入れるように. 単式学級であり,全便では,10学級である。. なった。そして,1995年(平成7年)にはTV会議シス. 児童生徒は,元気で明るく純朴で素直である。勤労意. テムが設置されマルチメディアを活用した交流授業が可. 欲が高く,責任をもって仕事をする。特に子供たち一人. 能になり,同じ町内の学校や,全国のTV会議システム. 一人がプランターに花を植え,花壇を整備するなど,学. 設置校と交流するようになった。1999年(平成11年)に. 校の周りは花いっぱいである。また,地域の老人クラブ. は教育実践成果論文(優秀賞受賞)で北海道教育長賞を. との交流会やリサイクル活動のボランティアなどに取り. している。2002年(平成14年)には全道へき地複式教育. 組んでいる。地域と・一体となった社会教育団体「ワラベ. 研究大会の会場校として授業を公開した。. ンチャークラブ」での自然散策・カヌー・つり大会・ス ノーモービルなどの体験活動を行っている。. 学習面では,まじめにものごとに取り組み,表現力が. (2)地域の実態. 豊かである。とくに,発表物やノートなどを構成する力 が高い。教育機器の活用により,メディアへの対応能力 と情報伝達能力が高まってきている。しかし,継続する 学習や反復学習が不足し,基礎・基本が十分定着してい ないなどの問題がある。自ら課題をもちそれを解決する 力を育てることが求められている。. 2)学校教育目標と教育課程の編成. 問寒別小中学校の教育全体構造図(2002年度《平成14 年度≫)は図2に示した通りである。これにもとづき, 〈学習指導要領〉 改訂の趣葛 教育課産編成の 配慮事項 教科等の目標・内宏. く拳銃教育日蒋〉. 強 い 身 体. 高 い 知 性. 豊 か な 心. 〈本年度の重点〉. 図1. く学衣・地親の特性〉 豊かな匂然環境 教育熱心な地域性 小中併置枚の特性 高度情報化に対鹿 できる教育環境. く研究主題〉. 由ら学び考えるカと 白卦の思いを伝え谷い, 豊かな感性と協調性, 互いち高め合う子供の育成 社会性の育成 −q年間を見通した情報教育の弛逸を通して− ★楢報を距便して学ぷカと林政を通して感じる心. ★生命や人権を尊ぷ心と自弁を律する心 ★健やかな身体と粘り強い心. 本校は周囲に北海道大学天塩研究林や町営牧場が広が. り,近くに天塩川が流れるなど豊かな自然環境に恵まれ. ている。校区は戸数169戸,人口481人(2003年≪平成15 年≫ 4月現在)の酪農地帯である。その市街地域を南端 として北方に伸びる牧草地帯が広がっている。山野は山 菜の宝庫で,春は竹の子,夏は天塩川の支流の問寒別川 では,ヤマベ・サクラマス,秋はきのこなどが採れる。. 保護者の職業も酪農業が多い。また,市街地域は主に 農協関係の職貞や土建関係者,公務貞,商店経営者など が居住している。酪農家は経営規模も大型化し,後継者 も定着しつつある。 図2 本校の全体構造図(2002年度≪平成14年度≫) −102−.

(4) No.59. 小中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践 2004.12●. 本校の学校教育目標,教育課程編成の基本方針,各領域. 弓重しヽ身体. 高しヽ矢口1性、. 健寮で明るく、たくましく. の編成方針,そして,社会科と総合的な学習の時間の実. 生きる実践力をもつ子供.. 豊カゝなノL. 自ら学び、考えを深め、. 問題を解決できる子供. 自然を愛し、豊かな感性と. 思いやりの心を持つ子供. 丈夫な体 たくましい心 学ぶ意欲 問題解決の力 摘や人権を尊重する心 自分を得ける心. 践を紹介し,考察していく。. 低 学. 安全に留意し、 元気に遊ぶ子供. 決めたことを、 最後までやり通. 楽しく学び、学 びを生活に生か. よく聞き、 よく 自然に親しみ、 約束を守り、稚 考え、はつきり 生き物を大切に とでも仲良くで. 牢. す子供 そうとする子供 話す子供 する子供 きる子供 進んで運動の楽 つらいことや失 進んで学び、学 解決の見通しを 自然の美しさや 過ちを素・直に認 中 しさに浸り’、身 敗にく じけず、 んだこ と を しつ 持ち、進■んで学 神秘を感じ、生 学 体を鍛える子供 最後までやりぬ かり身につけよ 習する子供 諒を大切にする ■ようとする子供. (1)学校教育目標. 本校の教育目標は1998年(平成10年)4月に制定され.. 年. く子供 うとする子供 子供 めあてをもって 困難を乗 り 越 意欲的に学び、. 課題をもち、工 自然や人々と進 互いの良さを認 高 運動に取 り 組 え、最後までが 納得するまで追 失し七解決に取 んで関わり、生. た。それは,図2のように①強い身体②高い知性③豊か. な心である。これは,日本国憲法,教育基本法,学校教. 学 年. 育法などの関係法令に規定された教育目的及び学習指導. 中. 要領に示された教育課程編成,北海道,留萌管内,幌延. 学 生. 町の教育方針を受けて地域や学校の実態に即し創られた. ものである。. 画的に体力や運. かって、最後ま. 動技能の向上に で全力をつくす 努ゃる子供 子供 供. 分で計画を立て. て学習をする子 供. ち、友達と交流. して高め合う子 る子供. (平成14年度). (2)教育課程編成の原理 ① 教育課程編成の基本方針. 次に,本校教育課程編成の基本方針を説明する。. これは,図2に示されているように「情報を駆使した. 学び」と「体験的な学び」を両輪とするとしている。そ して,それら二つが互いに響きあいながら,下段に記述 されている「基礎・基本の確実な定着」と「生きる力」. の完成を目指すとしている。. 図5は,これらの関係を構造的に示したものである。 「情報を駆使した学び」「実感のある体験的な学び」が「調. そして,これらの3つの目標をより具体的に示したの. 和的響き合い」によって,「基礎・基本の確実な定着」. が,図3の各目標の下段に善かれている文言である。「強. を目指し,身に付いたその力が,本当の意味での「生き. い身体」は「健康で明るく,たくましく生きる実践力を もつ子供」,「高い知性」は「自ら学び,考えを深め,問 題解決できる子供」,「豊かな心」は「自然を愛し,豊か. る力」となると考えられている。情報と体験による多角 的な見方,学び方を身に付けることによって,「生きる力」 である「自ら学び考える力の育成」と「豊かな感性や協. な感性と思いやりの心をもっ子供」とされている。それ. 調性,社会性の育成」が図られるとされている。また,. を子供に理解できるように,校歌の歌詞から,「子供の姿」. 基礎・基本の定着は,「9年間の一貫した指導」「時間的・. として「花」「星」「夢」を,「教師の支え」として「意気」 「知恵」「愛」といいかえて示している。これは,子供. 空間的・精神的ゆとり」「学校・家庭・地域の境目のな ノい教育」といった,恵まれた学習環境によって育まれる. と教師が様々な教育活動の時に目指す姿をイメージしや. としている。. すくするために,キーワードとして設定されたものであ る。. 図4は1998年(平成10年)に制定された学校教育目標. をより具体的に押し進めるために,2002年(平成14年) に作成された具体目標である。これは,各学年の発達段 階に応じた教育目標である。「強い身体」を「丈夫な体」 と「たくましい心」の二つの観点にわけている。同じよ. うに,「高い知性」を「学ぶ意欲」と「問題解決の力」 にわけ,情意面での発達と思考技能面での発達目標を設. 定している。「豊かな心」を「生命や人権を尊重する心」 と「自分を律する心」にわけ,心の外面と内面の発達目 標を設定している。. 図5 「情報を駆使した学び」「実感のある体験的学び」と「生 きる力」の関係. −103−. 重し合い、生命. や人格を尊重す 子供. 図4 発達段階に応じた教育目標の具体的な子供の姿. 図3 問寒別小中学校の教育目標. め、協力し合い、. み、身体を鋸え んばり抜く子供 求する子供 り組む子供 命や人権を大切 自分を高めよう る子供 にする子供 とする子供 目標を持ち、計 自分の目標に向 日横を決め、自 自分の考えをも 互いの人格を尊 自分を律しつ. つ、集団. 高めようとする.

(5) 鈴 木 義 樹・深 谷 久 美・安 藤. 断力を学ぶ必要性が重視されている。. (彰 基本方針設定の理由. この基本方針は,『平成14年度幌延町立問寒別小中学 校教育課程編成基底編』(以下『基底編』)によれば次の. 四つの原則にもとづくとされている。それは第一に「学. 校・地域の豊かな教育資源を見つめ直して」,第二に「情 報括県能力の重要性から」,第三に「体験活動の重要性 から」,第四に「情報数育と体験活動の関連から」であ. る1)。 第一の原則は,学校・地域の特性を生かす必要である。. 図6は,前出『基底編』による「問寒別小中学校とその. 地域の特性」である。これは,教育資源を,自然,地域, 学校,情報の四点に分けて,その特性を整理している。 それによれば,自然を,「山あいのおだやかな酪農地帯」 とて「豊かな自然環境」「生活の知恵が受け継がれる世. 帯構成」と見ている。次に地域を「教育熱心な地域性」 とて「豊かな人材」「ワラベンチャーなどの地域活動」. から見ている。そして,学校を「小中併置校という特性」 から「9年間にわたる一貫性のある教育ができる特性」. 図7 「体験活動の重要性」. をあげている。最後に,情報を「高度情報化に対応でき る教育環境」をマルチメディアシステムに関して蓄積さ. 第三の原則は,「豊かな体験活動」による「豊かな人. れた,指導技術などソフト機材などのハード」とし,少. 間性」育成の重視である。図7に示されているように,. 人数ながら,全国の子供達と交流できるTV会議システ. 全教育活動にわたる「豊かな体験活動」を通して「実感. ムなどの情報機器の恵まれた環境にあるとしている。こ. のある理解」を深ゆる,これによって心の大きい「豊か. のような「豊かな教育資源」を最大限有効に活用し,問. な人間性」の育成を目指すのである。『基底編』によれば,. 「物質的に豊かでありながら,少子化や核家族化,人間. 寒別の子供たちの「生きる力」を育成する教育課程の編. 関係の希薄にともない,心の成長に大切な生活体験・社. 成が求められている考えられている。. 会体験・自然体験ができなくなってきている」「豊かな 体験を得ることが困難な今の子供たちに必要なのは,『実 感をともなった理解』であり,これを実現するためには, 豊かな体験を全教育活動において位置付けていかなけれ. 図6 問寒別小中学校とその地域の特性 第二の原則は高度情報化社会を生き抜いていく力とし て,情報機器のリテラシー. と情報活用能力の基礎・基本. を身に付けていくことの重要性である。これについて, 『基底編』は,次のように説明している。「高度情報化. 社会を生き抜いていく力として,コンピュータやイン ターネットなど情報機器リテラシーの獲得は重要な課題 である」「身近な環境や社会を情報社会へ足を踏み出す. ホームポジションと捉え,普段の学習や生活で使われる 情報活用能力の基礎・基本を高めていくことも等しく大. 切なこと」。すなわち,情報機器の基本的な操作技術を 磨き,子供自身が情報をどう選び活用するか,などの判. 図81情報数育と体験的学習の「調和的響き合い. ー104一.

(6) No.59. 小中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践 2004.12. ばならない」と意義付けられている。そして「実感のあ. 教育から,自ら学び自ら考える力を育成すろ教育への転. 恵理解」を保証することで「豊かな人間性」が育成され. 換を図り,社会の変化に対し主体的に対応できる力を育. る考えている。. 成するとともに,豊かな心やたくましさを育む教育のへ. 第四の原則は,情報数育と体験的学習がお互いに補完. し合↓、,好ましく影響しあうことの必要性である。図8. 転換を意味していよう。焦点化させている一つ目の重点 である,「情報を駆使して学ぶ心と体験を通して感じる. は情報教育と体験的学習の「調和的響き. 心」は,情報と体験に焦点化し,図2の教師の支えであ. 合い」を示した. 関係構造図である。「体験的活動を推進」することによ. る「知恵」,子供の姿である「星」に対応した目標といえる。. り「体験でゆさぶられた心の動きは,さらなる学びを求. 二つ目の重点「生命や人権を尊ぶ心と自分を律する心は,. める」とし,「情報教育の推進」により「体験すること,. 教師の支えである「愛」,子供の姿である「夢」を,三. あるいは体験を想起することで,学びは『実感をともなっ. つ目の重点「健やかな身体と粘り強い心」は,図3の「意 気」と「花」に対応しているといえる。. た理解』となる」としている。この二つの「調和的響き. 合い」が,基礎・基本の確実な定着,ひいては,「生き. 次に,学校経営の基本方針である。一つ目の「小中9. る力」の育成につながるとしている。. 年間の一貫した教育活動の推進」は,小中併置校の利点 を生かし,9年間を見通し,発達段階に応じた情報活用. これは『基底編』によれば,「直接体験から得られた 感動は,子供たちに『もっと知りたい』『もっとやって. 能力の系統的な指導などを進めろとしている。二つ日の. みたい』という意欲を喚起させる。そしてその意欲は,. 「教職員が心を一つにして創意工夫する教育活動の推進」. イ、ンクーネット等を活用した自分の興味関心の追及へと. は,教師の専門性を生かした指導組織や学習形態などを. 高まっていく」,「また,子供たちが得るバー. 工夫し,研究授業や学校行事(学芸会・運動会)など教. チャルな学. びを,日常からの豊かな体験活動が『実感のある理解』. 職員が一つになって取り組むこととしている。三つ目の. へと高めていく」としている。. 「教師一人一人の持ち味を生かした校内研究の推進」で. すなわち,「体験的学習の推進」と「情報教育の推進」. は,外部講師を招碑や研修講座への積極的参加など開か. による相乗的な教育効果が生まれる。そして,子供達の. れた研究を進めるとしている。4つ目の「父母や祖父母,. 実態にあった体験的学習と情報教育より「生きる力」の. 地域の人たちと共に創る教育活動の推進」では,ワラベ. 育成につながる教育活動の推進が行われていくと考えて. ンチャー活動や社会教育との学社融合(マラソン大会・. いる。. スキー大会などへの参加)の教育活動を推進するとして いる。. (j)教育重点目標と研究主題. ② 研究主題. 次に教育重点目標と研究主題について説明する。. 次に研究主題について説明する。この研究主題は,2001. ① 2002年度(平成14年度)教育重点目標. 年度(平成13年度)から3年間にわたって研究が進めら. 図9は,2002年度(平成1年年度)の「教育重点目標及. れているものである。それは,「自分の点いを伝え合い,. び学校経営の基本方針」である。これは,図2の本年度. 互いに高め合う子供の育成∼9年間を見通した情報教育. の重点の焦点化とそれを達成するための学校経営の方針. を示したものである。以下これを説明する。. <研究計画>. まず,〈本年度の重点〉である。これは,図9では,〈本 年度の教育重点目標〉 とし,ここには,「自ら学び自ら. ○研究主題、仮説、研究内容の策定を行い、研究計画を樹立する。. 第1年次. (平成13年度) ・仮説検証のために授業実践を行う。 研究計画の樹立. 考える力と豊かな感性や協調性,社会性の育成」として. 内コンピュータ教育研究大会)を開催し、1年次の成果と課題 を明らかにする。 ・1年次の研究を見直し、2年次の研究の方向性を胡らかにする。. いる。これは,これまでの知識を教え込みがちであった. ○仮説検証のための授業の日常化を図る。 (平成14年度) ・1年次に作成した『発達段階に応じた情報活用能力』に基づき、 授業実践を行い、研究の充実を図る。 研究の実践化 ・全道へき地複式教育研究大会由萌大会を開催し、2年次までの 成果と課傍を明らかにし、研究発表を行う。 ・2年次の研究を見直し、3年次の研究の方向性を明らかにする。 第2年次. 第3年次. (平成15年度). 研究の深化. とまとめ. ○検証授業を積み重ね、成果と課題を明らかにするとともに、さ ・『発達段階に応じた情報活用能力』の見直しを進め、・発達段階 に基づいた情報活用能力の明確化を図る。. ・3年間の研究の成果と課題を明らかにし、研究のまとめをする。. 【出典 平成14年度 第51回全道へき地複式教育研究大会留萌大会第1分科会 『研究紀要』 幌延町立問寒別小中学校 P.8 平成14年コ. 図9 2002年度(平成14年度)の教育重点目標及び学校経営 図10 研究計画. の基本方針. −105−.

(7) 鈴 木 義 樹・深 谷 久 美・安 藤. 特徴的なことをあげると,指導の重点を焦点化した指導. の推進を通して∼」とするものである。. 計画の立案である。これは,後ほど教科の実践で紹介す. この研究主題は,これまで推進してきたマルチメディ. ア活用研究の成果を生かすとともに,小中併置校の特性 を踏まえ,9年間を見通した情報教育の推進を図ること を目指すとしている。また,校内における小中の連携を 密にし,情報教育における指導内容のズレや重複をなく すとともに,子供一人一人の実態を明確に把捉し,発達. るが,情報数育と体験的活動を指導計画に位置づけるこ とである。. ①「教科」「選択教科」の鶴戌方針. 【確かな学び 実感の. 段階に応じた効果的な支援を行うことによって,子供た. 教科の指導計虐=よ、基礎・基本の確実な定着を目指し編成していく。. ちの情事即舌用能力を高めていくとしている。. 本校では基礎基本を、「社余生活を営む上で鼻に必婁な学習内容」と、生涯学習 社会に生きていくための「基礎となるカ」と捉えている。言常を換えれば、その 後の学習や生活に「生きて働く如哉」と、自分から「学びを求め解決していくカ」 ともいえるだろう。これらは、生活に密着した形で身につけていくこ・とが生まれ るとともに、学ぶことで生活の広がりが実感できるよう育まれていくべきものと. そして,研究の視点を「『情報活用能力を高める4つ のSTEP』を取り入れた単元づくり,授業づくり」と「発 達段階に基づいた情報活用能力の明確化」とし,3年間. 考える。. 本校では、「実感をともなった理解」をし、学びを生活に生かせる子供を育むた め、各教科で日常生活と密着した休験的な学習を取り入れていく。また、社会の. にわたる研究計画が次の通りに作成されている。. 変化に主体的に対応し由ら行動できるカを育むため、枚内研究と関連させたST EP学習を取り入れるとともに、情報楓器を頒極的に活用した指導計晶を仲裁し. (4)教育課程の具体的編成方針∼各領域の編成方針∼. ていく。. I l. 以上を踏まえ,次に教育課程の具体的編成方針につい. て説明する。これは,教育課程編成の基本方針である「情 報を駆使した学び」と「実感のある体験的な学び」をう. けて,図2にあるように,①「教科」の編成方針を「確 かな学び 実感のある理解」,②「道徳」を「自分発見 生き方の自覚」,③「特別活動」を「たっぷり体験 たっ ぷり感動」,④「総合的な学習の時間」を「ふるさと再 発見 自分さがし」をキーワードとして,「基礎・基本 の確実な定着」を図り,「生きる力」の育成を目指とす 図11「教科」「選択教科」の編成方針. るものである。 以下『基底編』にもとづき説明する。. ① 「教科」「選択教科」の編成方針「確かな学び. ② 「道徳」の編成方針「自分発見 生き方の自覚」. 図12は,「道徳」の編成方針である。基本観点に「自. 実感のある理解」. 図11は①「教科」「選択教科」の編成方針である。そ こでは,基本観点を「確かな学び 実感のある理解」と. 分の発見 生き方の自覚」と示し,「豊かな人間性や社 会性を育てること」を目標とし,「他人を思いやる心」「互. している。「確かな学び」とは,基礎・基本の確実な定 着を意味し,それは,「社会生活を営む上で真に必要な 学習内容」と,生涯学習社会を生きていくための「基礎 となる力」とし,その後の学習や生活に「生きて働く知. いを認め合い共に生きていく態度」と「自らを律する心」. 識」と,自分から「学びを求め解決していく力」と説明. 域の人材や教職員の活用と特別活動や総合的な学習の時. している。「実感のある理解」では,各教科に体験的な 学習を取り入れ,学びを生活に生かせる子供の育成をめ ざし,STEP学習により「学びを求め解決していく力」. 間で行われる体験活動との関連をあげているぁが特徴で. 「規範意識・公徳心」を育てることを目指すとしている。. 具体的な方策として,4項目示されている。指導計画 に,個に応じた指導を図るためのチームテーテングや地. ある。 ③ 「特別活動」を「たっぷり体験 たっぷり感動」. がつくとしている。ここで,STEP学習とは,問寒別小. 次に「特別活動」の編成方針を図13に基づき説明する。. 基本観点を「たっぷり体験 たっぷり感動」と示し,「豊 かな社会性と自主性の伸長である」を目標とし,「学級. 中学校では,子供たちに求められている情報活用能力を 高めるための指導過程としている。STEPのSはSeach. 情報を探す力,TはThink情報から考える力,Eは Expr占ss情報を伝える力,PはProgress得た情報をか ら考えを深める力の4つと考え,指導過程の各段階で4. 活動」「「児童・生徒会活動」を「人間性を磨き合い社会. 性・自主性を高める」有益な場としていくとしている。. そして,編成の具体的な方策として,小中併置校の特性. つの能力を高める工夫をすることで,総合的に情報活用. を生かした行事の取り組みやボアランティア精神を養う. 能力を高めるとしている。. 活動を指導計画として示している。. そして,具体的な方策として,6項目が示されている。. −106一.

(8) No.59. /ト中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践 2004.12. ③「特別活動」の編成方針. ②「遺徳」の編成方針. 【たっぷり体験 たっぷり感動】. 【自分発見 生きオの自覚】. 特別活動のねらいは、「豊かな社会性と自主性の伸長」である。 豊かな社会性とは、言う王でもなく豊かな人間性に支えられる。したがって,す べての特別活動は,ノ集団での活動のすばらしさや難しさ,さらには困難を乗り観 えた感動を味わえるものであることが重婁となる。このように計晶された活動を 経て、子供たちは人間性を磨き、よりよ一く社会生活を営む資質を高めていくであ. 本校「遺徳」の指導封牒皿、豊かな人間性や社会性を育てることを目標として 編成していく。 どのように時代が変わっても,社食生活を営んでいく上で変わらぬ価値を持つ ものがある。それは「他人を思いやる心」や「互いを認め合い共に生きていく態 度」なと∴ 人と人との結びつきをより深く,美しくする心情である。個性重視の 時代にあって軽視されがちな「自らを律する心」「規軋意哉・公徳心 を大切にし, 人と人との明和の中でたくましく生きる人間性を育てていく。. ろう。. 自主性を育む場は,主に「学級活動」と「児童・生徒会活動」であろ(小学枚は クラブ活動も加わる)。学校数育における自主性は,その活動の目指すところが明 確でなければ,ただあゎがままにもなりかねない危険性をも併せ椅つ。したがっ て,特別活動では、諸活動のねらいや目的を明確にし,その中で子供たちが最大 限の自主性を発揮できるようにしていかなくてはならない。 本枚では、特別活動を、「人間性を磨き合い社会性・自主性を高める」有益な場 とするため.小中併置枚である本校の特性を最大限生カ、していく。具体的にほ, 活動内容やねらいに応じた多琉な活動集団を編成し;洛逢段階に応じた活動がで きるよう計晶していく。また,地域環境や人材を有効に活用し、人に相対すると きの礼儀やマナーを知るとともに、人と人との結びつきのすばらしさや尊さを感. じられるように計画していく。 「「. 図12′「道徳」の編成方針 図13 「特別活動」の編成方針 ④′ 「総合的な学習の時間」の編成方針. 次に「総合的な学習の時間」の編成方針について説明. する。基本観点を「ふるさと再発見 自分探し」とし,「学. ④「総合的な学習の時間」の編成方針. 【ふるさと再斧見 向分さがし】. び続ける意欲」「学ぶ力」「伝え合う力」を総合的な学習. 本枚「総合的な学習の時間」で高めたいカ. の時間で「高めたい力」としている。. 具体的な方策として,4項目が示されている。発達段. 向上する喜びを味わうための 「学乙ド轟乾」ナ る 意欲」. 階ごとの高めたい力を明確にした単元づくり,地域の人. 主体的・意欲的に解決するための 「学_;ごカ」. 材や環境を活用した活動の工夫などの点が特徴としてあ げあられる。. 考えを深め、高め合うための 「伝 えノ会ト う カ」. 以上のように,問寒別小中学校の地域と学校の特色, 学校教育目標,教育課程編成の具体的方針をみてきた。. (1)では,学校教育目標「強い身体」「高い知性」「豊か な心」?制定及び学校教育目標に対応した「子供の姿」, 「花」「星J「夢」や「教師の支え」とした「意気」「知恵」. 「愛」を説明してきた。また,発達段階に応じた教育目 標の具体的な子供の姿を記述した。 (2)では,教育課程の原理として,①教育課程の基本方 針を「情報を駆使した学び」「実感のある体験的な学び」. 図14 「総合的な学習の時間」の編成方針. と「生きる力」の関係で説明していることを説明した。 そこでは,「情報を駆使した学び」「実感のある体験的な. 身に付ける重要性」「豊かな体験活動による,豊かな人. 学び」が互いに調和的響き合いをしながら,基礎・基本. 間性の育成」「情報数育と体験的学習の関係」の四点を. の確実な定着が図られ,「生きる力」が育まれるとして. 説明してきた。. (3)では,教育重点目標と研究主題について説明してき. いた。②基本方針設定の理由として,「学校と地域の特性」 「情報機器のリテラシー. た。2002年教育重点目標は,「自ら学び自ら考える力と. と情報活用能力の基礎・基本を. −107−.

(9) 鈴 木 義 樹・深 谷 久 美・安 藤. 豊かな感性や協調性,社会性の育成」としていた。また,. 科の授業である。図2の研究主題「自分の思いを伝え合. 研究主題は2001年度(平成13年度)から3年間にわたっ. い,互いに高め合う子供の育成∼9年間を見通した情報. て「自分の思いを伝え合い,互いに高め合う子供の育成. 教育の推進を通して・−・・■」に基づき,学習指導案を作成し. ∼9年間を見通した情報教育の推進を通して∼」とされ. た。. 研究が進められていることを記述した。. 単元を構想するに当たって,地域素材の教材化を念頭. (4)では,教育課程の具体的編成方針として,①「教科」. においた。地域素材として,酪農を扱うこととした。生. の編成方針を「確かな学び 実感のある理解」,②「道徳」. 徒は,問寒別地域が,現在酪農が盛んなのは\,当たり前. を「自分発見 生き方の自覚」,③「特別活動」を「たっ. に感じている。しかし,先人たちが,その昔,畑作に取. ぷり体験 たっぷり感動」,④「総合的な学習の時間」. 組,冷害・水害という自然災害と闘って開拓してきたこ. を「ふるさと再発見 自分さがし」をキーワードとして,. とはあまり知らない。先人たちの工夫と努力の戟いの中. 「基礎・基本の確実な定着」を図り,「生きる力」の育. から,酪農を取り組んだことを教えていきたい。そして,. 成を目指していることを説明してきた。. 生徒たちとこれからの酪農経営のあり方を語り合い,未. 以上,天塩川流域に位置する小規模な小中併置校が,. 来の問寒別の酪農の姿を考えていきたいと考えた。. 「情報教育」と「体験的な学び」を核にしながら,教育 課程を編成していくことを示してきた。そこには恵まれ. 1)実践授業. た自然環境と現代日本が失いつつある3世代4世代にわ. 才旨導計画と指導案は以下の通りである。. たる家族と地域がひとまとめになった社会がある。少な 社会科学習指導案 日時 平成13年7月10日 (火)3校時(10:45∼11:35) 生徒 幌貴重町立問寒別中学校 第1学年男子2名女子7名計9名 指尊者 幌延町立問寒別中学校 教諭 鈴木義樹. し∫一人数で知恵を出し合って生きる大人たちとその姿を見 ながら育つ子供たちである。地域の大人たちが地域の子 供たちをみんなで育て学校が共に手を取り合った姿がそ. 1単元名「身近な地域」く地理的分野). こにはある。学校は,地域の教育力に甘えるだけではな. 2 単元について. 新学習指導要領では、中学校社会科[地理的分野]「1目標一中略−(4)地域調査な ど具体的な活動を通して地理的郭象に対する関心を高め、様々な資料を適切に選択、活用 して地理的事象を多面的・多角的に考察し公正に判断するとともに適切に表現する能力や 態度を育てる」とある。これを受けて、「2内容一中略−(2)地域の規模の応じた調査 ア身近な地域」では、「身近な地域における諸事象を取り上げ、観察や調査などの活動 を行い、生徒が生活している土地に対する、理解と関心を深めさせるとともに、市町村規 模の地域的特色をとらえる視点や方法、地理的なまとめ方や発表方法の基礎を身につけるJ としている。 そiで、身近な地域を問寒別地区(幌延町)と捉える。問寒別地域の地域的特色は、第 一次産業である酪農が基盤産菓として定着している。なぜ問寒別では酪農がさかんなのか を、気候・土壌などの条件、歴史的な経過などを考えさせ調べ学習を組織する。調べ学習 の視点や方法地理的なまとめ方や発表方法を身に付けさせたいと考えている。また、生徒 が幌延の酪農がさかんなった理由を調べ、今後の問寒別地区(幌延町)の酪農のあり方を 探りたいと考えている。. く,それに応えることが大切である。. 3 社会科の実践 先に述べたように,「教科」「選択教科」の編成方針は, 基本観点を「確かな学び 実感のある理解」としていた。 そこでは,一指導計画は,「基礎・基本の定着を目指す」. 3 単元の目標. ○ 幌延町(問寒別)地域に関心を持ち、自分なりに考え調査しようとする。. としていた。①「社会生活を営む上で真に必要な学習内. (社会的事象への関心・意欲・態度). ○ 幌延町(問寒別)の産業構造の変化からその間題点を考えることができる。. 容」,②生涯学習社会を生きていくための「基礎となる力」. (社会的な思考・判断). ○ 幌延町(問寒別)の産業榔造の変化を統計資料などからまとめ、表現することがで. と捉え,さらに,その後の学習や生活に『生きて働く知. きる。(資料活用の技能・表現). ○ 産業構造の変化と酪農の立地条件・成立条件を理解することができる。. 識』と,自分から『学びを求め解決していく力』と具体. (社会的事象についての知織・理解). 化されていた。. 4 生徒の実態. ○ 一般的な実態 生徒は明るく元気で活動的である。9人の仲間がよく見える反面、やや自己中心的な言 動や行動がみられる。しかし、目標や目的が見つかると、協力しあい団結して物事に取り 組むことができる。 ○ 学習の実態 社会科の基礎学力は低いが、調べ学習などは、意欲的に取り組んでいる.都道府県カル タ作成の班活動では、作業が早く終了した班が、他の班の作業の手伝いなど協力的な姿 がみられた。 ○ 情報活用能力の実態 情報活用能力については、昨年度(平成12年度)の文部省指定へき地学校高度情報設 備活用方法研究開発事業(マルチメディア)研究大会の「総合的な学習の時間」で、ビデ オ属集作業を行うなど、マルチメディア活用能力は高い。社会科の「都道府県調べ」の学 習でもインターネットのYAHOOなどの検索エンジンを使った調べ学習も容易にできでい た。今後は、「調べた情報を相手にわかりやすくまとめる力」や「発表した情報をお互い に話し合うカ」の育成が求められている。. そして,「実感のある理解」を図るため,各教科に体 験的な学習を取り入れるとしていた。また,社会の変化 に主体的に対応し自ら行動できる力を育成するために,. ①校内研究と関連したSTEP学習,②情報機器を活用 した指導計画を作成するとしていた。 そこで,社会科においては,いわゆる「課題解決的な 学習」を導入し,「生きて働く知識」の定着と「学びを 求め解決していく力」を統一的に育成するとともに,身 近な地域の社会事象をとりあげ,生徒が地域の特色を実 感的に理解できるよう体験的な学習を組織することを構. 想した。その際,学習過程として,STEP学習や情報機 器を活用すること,また方法として,「課題解決的な学習」 を導入し,学習指導の工夫をすることとした。. 以下に紹介するのは,平成13年7月の校内研究の社会. −108一.

(10) No.59. 小中併置校におけ・る「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践 2004.12. 7 本時の指導 (1)本時の目標 ① 各班の発表に関心をもち、意欲的に発言したり聞くことができる。 (社会事象への関心・意欲・態度) ② 酪農がさかんな理由と今後必要な取り組みについて多面的・多角的に判断すること ができる。 (社会的な思考・判断) ③ 酪農がさかんな理由を相手にわかりやすく発表できる。(資料活用の技能・表現). 5 研究内容に関わって. 研究主題 自分の思いを伝え合い、互いに高め合う子供の育成 ∼9年間を見通した情報教育を通して∼. Serdl(情報を探す) 人材バンクの活用 公的機関への取材 図書室、インターネット パソコンソフトの活用. (2)本時の展開(8/8) 段 階 課. 校内研究?. 本時の課題確認する。 問寒別の酪農がさかんな理由を. 贋. Progress(得た情報から さらに考えを深める) ワークシニトの活用 班活動による相互評価 得た情報かち再考. 教師の主な支援. 生徒の学習活動. 課題を確認 「問寒別はなぜ酪農がさ. 設 相手にわかりやすく発表し、こ. 疋. 前時までの調査活動の方. 5. ○(情報を探す) ◇情報を収集する力 闘寒別地区は、現在酪農が基盤産業として定着している。なぜ問寒別では酪農がさか んなのか、生徒に予想させる。開拓入植などの歴史的経過などは簡単に教師の方で説明 し、生徒が課題設定をできるように支援する.ウニビィングなどを利用し生徒の発想を 引き出し、課題解決のために気侯・土壌の面・開拓の歴史などの調べ学習を進めていく。 ○(情報から考える) ◇情報を選択する力 ◇情報を理解する力 予想した答えが、正しいかどうか身近な家族に聞き調査項目を決定する。課題解決の \ ために自分なりに調査し相手にわかりやすくまとめる。情報メモの活周。情報を自分な りの言葉にして理解していく 0(情報を伝える) ◇情報を創作するカ ◇情報を発情するカ 各種のメディアの表現特性を理解して、換作・活用ができる。意見や伝達したいこと を論理的に構成し、自分らしい表現する力。パソコンソフト理科年表 CI)− ROM2000 年度を活用しグラフの作成や人材や公的機関の活用によるオリジナル発表法を目指す。 ○(得た情報からさらに考えを深める)◇情報の修正・補完する力◇自己評価、相互評価 相手の考えのよさを見いだして成就感を味わい、意欲を務めるカ。互いの意見を尊重 しあい結論を導き合うことにより、一人ひとりのコミュニケ」ション能力が身に付くこ とを目指す。. 分 きまがら7’リントをみて確認する。 (D役場に聞く ②地域の詳しい人に聞く ③図書室やイγクーネッ トで調べる 追 ・酪農がさかんな理由を発表する 求 01班の発表 解 決 02班の発表 ・デンプン工場に関わっ んになった。 20. <でんぷん工場の資料提示>. 分 03班の発声 ・気候について補足説明 気候がにていたから。. Expressiom. 協 ディスカッション1. 教師の主な支援. 校内研究の 「4つのSTEP」. 1 問寒別(幌延町)は、どうし ・教師が問寒別の農業 Seadl. て酪昂さかんなのかを予想する。 の二歴史的経渦を簡単. 生徒が学習課題を. に説明する。 設定し、自分なりに て生徒に予想させ ・クェビング法を行い 調べる意欲をもつ。 生徒の発想を生かし、 米がとれ寧いから デンマークと気候が似ている’ 調べる、ことを整理す 土地が惑いから る。 <次嘩までに家族から取材>. 2 調査活動の方法ごとに、班に ・地域の人材バンク、 Sea血 分かれて、質問事項を考える。. 公的機関、図書室・. く. 調査の仕方を自分. ・全体の意見交換 ・全体の意. 3. ・今日の授業の感想を発表す争。. ・予感と聞き取りを確認しこ さら 紹介する。 Tllink に調づたいことを考え、質問事項 ・幌延町史や問寒別郷 を作成する。 土史・問寒別小中学 ◇情報を選択する力 ・班編制、班内の役割分担 校の周年記念誌など 情報メモの活用と を用意する。 視覚に訴える資料わ. 各如とに調査活動 5. ・役場に働く. pr(噂reSS. 深 ディスカッション2 JA幌延町で作成.した今 Progr?SS 化 後の酪農の取り組みの資 「閉塞別の酪農家が最も必要な取り組 料、を配布する 相互評価力 発 みは何か」を考える 発間「問寒別の酪農家 ディスカッシ が最も必要な取り組みは ヨンにより、 展 15 何か」 意見を練り合 い、方向性を 分 ・各班の意見発表 ・各班の意見を黒板歳暮 生・みだす。. インターネットなど. 4. 発間 「酪農がさかんになった. ◇情報を修正 「酪農がさかんな一番の理由」を考え か?」 ◇自己評価、 強 化 ・(班の話し合い5分) 相互評価カ 10 ・班の意見を黒板に書く’ ヨンにより、 分 ・各班の意見発表 意見を練り合 い、方向性を ・全体の意見交換 生みだす。. 6‘単元指導朋堰(8時間). 生徒の学習活動. Seach. 各班の発表を ・水軍について補足説明 廃す卑. ・入植者が多くきたので、酪鳥がさか ◇情報を発信 た人々の話。入植した経 する力 緯を補足説明 画用紙や書画 装置などを使 ・世界的に酪農が盛んなデンマ「クと っ七相手にわ かりやすく萌 「問寒別で畑作が不向き な理由を確認」泥炭地. 同. 睡 間. 「4つのSTEP」. (3)評価. ① 各班の発表に関心をもち、意欲的に発言したり聞くことができたか。 (社会事象への関心・意欲・態度) ② 酪農がさかんな理由と今後必要な取り組みについて多面的多角的に判断することが できたか。 (社会的な思考・判断) ③ 酪農がさかんな理由を相手にわかりやすく発表できたか。 (資料活用の技能・表現). 作成する。 ・地域人材く1ンクや役 場担当者との連絡調 整をする。パソコン. 」図書室、インターネットで調べる のソフトなどの利用 の仕方を支援する。. 6. 調べたことをまとめて相手にわ ・発表原稿を作成する Expre$5草○血 かりやすく発表する準備をする にあたり、発表の仕 ◇情報を創. 才の手本を配布説明. Z)指導記録 グラフや年表をな. どを使ってわかりや. ・.取材したことや由べたごとをわか. (り 本時までの指導経過. すくまとめる。. 7. 本時までの指導は,単元の指導計画七示した通りであ. 8 ′ 相手にわかりやすく発表し、間. るが,あらかじめ,本時に至るまでの具体的な経過を述. Expre$5ion. ◇情報を発宿する力 画用紙や書画装置な. べておく。. どを使って相手に かりやすく説明す. なお,以下の本文は,教師の発言を『』で表し,生. ・各班の発表の補足説 明をする。 Progre5S ◇情報を修正・補完 ・酪農がさかんになっ 「酪農がさかんな一番の理由」を 考える を考えさせる。 価カ わかりやすく説明する。. 徒の発言を「」で表している。. アイスカッソヨ/に. りA幌延町が作成した より、意見を疑り含 ・問寒別の酪農が今後目絶す道を班 「今後の顧慮の取り い、方向性をだす。 で話あい、クラス全員で考える。 する。 ・問寒別の酪農家が今 後目指す道を考えさ せる。. −109−. ○第1時. 第1時は導入授業である。生徒たちの中に課題を成立 することが目標であった。『問寒別は昔,米を作ってい たと思うか?』と切り出した。生徒たちは「作っていな.

(11) 鈴 木 義 樹・深 谷 久 美・安 藤. い」と口をそろえて応えた。『それでは,畑はつくって. た。Sさんから,戦後入植による苦労話を聞いた。いも. いたか』と聞くと,「作っていたと思う」と応えた。『で. の増産によりでんぷん工場がたくさんできた。しかし. は,その畑でどんな作物を作っていたのか』と問うと「い. 冷害により酪農に転換していった話を聞いた。またSさ. も,かぼちゃ,わかんない?」とあいまいな答えになっ. んから,問寒別地区入植30周年記念誌『移苦闘生(いく. た。そして,『いつ頃から今のような乳牛を飼うように. とせ)』を参考資料として貸してもらった。. なったのか』と問う。「わからない?」七まったく予想. 第3班は,調査方法を図書室やインターネットで調べ. がつかないようであった。. ることであったが,留萌管内農協青年部長のSさんが, デンマークに酪農留学してた話から,酪農がさかんな国. そこで,教師は簡単に問寒別の農業の歴史を説明した。 生徒は,問寒別がいつから酪農がさかんであること確認. デンマークと,問寒別との気候を比較することとした。. した。次に,『問寒別地域が酪農がさかんになった理由. 気温と降水量を調べるために,理科年表を使用した。. は何か』を考えざせた。生徒は「広い土地,辛がある」「牛 はもうかる」「牛を飼う夢をもっていた」などの様々な. ○第6・7時. 第6・7時は,調査結果をまとめる活動の時間である。. 意見がでた。次に「酪農」をキーウードにしたウェビン. グ法を行い,事象の閑適を広げた。そして,次の時間ま. 教師は,『配布用プリントは,A4表裏1枚の紙にまと. でに,家族に「問寒別が酪農がさかんな理由?」を聞い. めること』『発表物は画用紙や模造紙を使ってまとめる』. てくることを宿題とした。. と指示した。また,発表原稿を作成するにあたり,その フォーマットを生徒に配布し説明した。各班は次のよう にまとめた。. ○第2・3時. 第2・3時は,理由の調査方法と調査の準備の授業で. 第1班は,農業生産額の推移と災害の歴史の資料より,. あった。生徒は,. 自然災害による被害から,畑作から酪農へ転換したと考. を行った。聞き取りをしてきた生徒たちは,「畑は天気. えた。. に左右されるので,酪農にした」「牛の経営は安定して. 第2班は,でんぷん工場の移り変わりと出身地別の戟. いた」「国の政策,国の融資があった」「四国,愛知,愛. 後入植者の状況についての資料から,でんぷん工場閉鎖. 媛からの入植が増えたから」などの意見が出た。ここで,. から,酪農に転換したのでさかんになったと考えた。. 第3班は,『理科年表』(CD−ROM2000年度).から,酪. 「四国,愛知,愛疲からの入植が増えたから」の部分は,. 道外からの入植者が後ほど,酪農を始めたので,さかん. 農がさかんな国デンマークと道北(稚内)の気候(降水. になったという意味であると思われる。次に,教師が調. 量と気温)をグラフにまとめた。そして,道北地方とデ. べる方法として,「役場や農協などの機関に聞く」「酪農. ンマークの気候が似ているから酪農がさかんになったと. の歴史に詳しい人に聞く」「図書室の資料やインターネッ. 考えた。. トで調べる」の3つの方法を提示し,3班に分けた。そ. して,質問事項を考えさせ,それを整理し,ノートにま. (2)本時の授業記録(第8時). とめさせた。. 問寒別の酪農がさかんになった理由 教師は本時の学習課題「問寒別の酪農がさかんな理由. を相手にわかりやすく発表し,これから酪農が目指す道. ○第4・5時. 第4. を考えよう」を確認した。. 管内農協青年部長のSさんが,第4時の最初の20分程度,. 各班は,調査方法別に理由をまとめている。班は3班. 全生徒に話をしてくれた。Sさんの親たちの入植話,デ. あり各班3名である。調査方法は,1班が役場に聞く,. ンヤークへ酪農留学した話などであった。その後,各班. 2班が地域の歴史に詳しい人に聞く,3班が図書室やイ. に別れ調査活動を行った。. ンターネットで調べるであった。. 第1班は,役場に聞く調査活動であった。生徒は,後. 次に,班ごとに発表させた。各班は,画用紙にまとめ. 場の農林課に電話をし,班でまとめた質問事項を送付す. たものを提示し,黒板の前に出て発表した。その他の生. る旨を伝えた。次に質問事項をFAXで送った。役場担. 徒には,画用紙と同じ内容のプリントが配布された。. 第1班は下のような資料を見せ,以下のように発表した。. 当者から農業生産額の推移と災害の歴史の資料(『幌延. 町史』の一部抜粋)が送られてきた。生徒たちは,緊張. 「これは,『幌延町史』からとった『農作物販売品取 扱高』です。これをみると,昭和32年に4,531万円になっ. しながら電話の受け応えを行っていた。. 第2班は;地域の歴史に詳しい人に聞くことであった。. た『でんぷん』が,昭和40年になくなり,その他の生産. 物も昭和43年にはなくなっています。『ビー. 第4、時に話を聞いたSさんから聞き取、り調査をおこなっ. ー110−. ト』が,昭.

(12) No.59. 小中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践 2004.12. 生徒からの質問はなかった。 教師は,実物投影機を使って,洪水の時の写真をテレ ビに写し,生徒に見せてた。ひざまで水につかるほど道 路が水に覆われていたシーンを見て,生徒は驚いていた。 次に第2班は,下の2つの資料を提示して,以下のよ うに発表した。 「元留萌管内農協青年部のSさんによると,問寒別は 戦後入植者が多いことがわかりました。資料をみてくだ. さい。戦後入植は昭和22年から始まり,昭和38年までに 301戸が入植しました。 入植者が増えるにしたがって,畑でいもが作られでん ぷん工場が増えています。しかし,いもの生産が減少す. るにしたがって,第1班の発表のように,でんぷん工場. も閉鎖されました。農家は,その頃畑作から酪農に転換 したのではないかと考えられます。Sさんによると,当. 時の上田農協組合長さんが,酪農を押し進めたというこ 図16 「災害の歴史」. とです。. 和声0年から増え,昭和52年にはなくなっています。それ. いもでは生活できなくならたので組合長さんや農協の. に反比例するように,『牛乳』の販売品取扱高が増えて. 方針で酪農に転換したので酪農がさかんになったのでは. います。昭和23年に257万円だったものが,昭和31年に. ないかと思います」。. 1,171万円,昭和42年には1億464万円,平成8年には, 8億4,191万円となっています。. 生徒の発表後,教師は生徒Sの祖父もでんぷん工場. 一方,この資料は『災害の歴史』を表したものです。. を経営していたことを紹介した。生徒Sもそのことを知. これによると,明治,大正期,昭和(戦前期)に幾度も. らず驚きの様子であった。そして,問寒別に残っている. 冷害・水害(洪水)を記録しています。特に水害は天塩. でんぷん工場跡地の位置・場所を説明した。. その後,今年7月に,四国開拓団の入植50周年の記念. 川の氾濫による洪水が多く,昭和25年に天塩川が決壊し,. 行事が行われ,身近な先人たちゐ馬鈴薯づくりやでんぷ. 昭和27∼30年までは水害冷害に悩まされました。 以上のことから水害,冷害などの災害により,いもが. ん工場で働く苦労話を紹介した。. とれなくなり,それによりでんぷん工場が減産,閉鎖さ. 続いて,第3班は下の資料を示して,次のように発表. れ,代わって酪農に転換し,その後さかんになったと考. えられます」。. した。 「『理科年表』からデンマークの首都コペンハーゲン と稚内(問寒別データなし)の気温と降水量を比較した 資料をつくりました。これによると,コペンハーゲンは, 全年平均気温が8.7度,一番暖かい′7月の月平均気温が. 17.2度,一番寒い月が1月で0.6度です。稚内の全年平 均気温は6.4度,一番暖かい月8月で,19.2度,一番寒 い2月で−5.7度です。降水量を見ると,コペンハーゲ. ンでは,全年合計降水量は631mm,月平均降水量が8月. の63L.3mmで,最低は,2月で31.5mmです。稚内では,. 全年合計降水量は1123mmで,最高降水量は10月で 130mm,月最低は,3月で54.3mmです。気温について は,コペンハーゲンと稚内は同じくらいですが,. 降水量. は稚内が年間500mmぐらい多いことになります。これ. は,酪農には,さほど影響はないとされてます。 図17 開拓地区と入植者の状況 出身地別開拓者数. こめように,デンマークと道北地方の気候が似ていま. −111−.

(13) 鈴 木 義 樹・深 谷 久 美・安 藤. 3班は,「1班の自然災害が一番の理由である。自然. す。デンマークは酪農がさかんな地域です。このことか. ら,道北地域が酪農がさかんになったと考えることがで. には勝てないからである」. 教師としては,①昭和20年代後半か30年にかけての冷. きます」。. 害や洪水などの自然災害・気候による畑作の被害が大き. な転換期であることに気づかやたいと考えていた。. また,②昭和30年代の高度経済成長に合わせた農業の 近代化(機械化)にも気づかせたいと考えた。生徒は, ①には気づいたが,②には気がつかなかった。 その後フリー討論の中で. ,Nさんが「1班,2班,. 3粧すべての理由が絡んで酪農がさかんになったので順. 番はつけられない」と発言した。これは,理由が複合的 に絡み合っていたと考えたのであろう。教師が一つに選 ばせようとする中で,逆に選べないくらいそれぞれが, 大切であることに気がついた意見であった。. 図18 稚内とコペンハーゲンの気温と降水量. 酪農の未来を考える. 酪農についてここまでは過去のことについて考えさせ. 発表後,教師は気候だけでなく,自然条件としては,. た。次に未来のことを考えさせた。. 道北地方は泥炭地が多く,土壌として,畑作には不向き. そのため下記のように酪農が未来に向けて発展するた. であることを補足説明した。. めに,これから必要な取り組みは何か?と生徒に問うた。. 第3班には,デンマークだけでなく,アメリカ・ニュージー. この発間の意図は,酪農後継者として,生徒達に酪農の. ランド・ドイツ・フランスなどの牛乳の生産が多い国の. よさを考えてもらうためであった。ちなみに生徒9名中,. 気候条件も比較させるとよかった。また,北海道の土壌. 6名の親が酪農家,残りの3名の親も農協職貞や親戚が. と土地利用について考えさえることも必要であった。. 酪農家である。そ−して,生徒たちの多くは,将来酪農後. 継者や関連会社に就職する。考える資料として,「JA幌 延町の営農の取り組み」(図19)を生徒に配布した。. 一番重要な理由はどれか. 一通り各班の発表が終わったところで,教師は次のよ うな尚題を提示した。. これまでの発表では,第1班は,「冷害などの自然災 害により,いもがとれなくなり酪農がさかんになった」. 第2班は,「入植者の増加によりでんぷん工場ができた が,工場閉鎖から,酪農に転換したのでさかんになった」, そして,第3班は,「道北地方とデンマークの気候が似 ているから酪農がさかんになった」が仮説であった。ど. の班の一仮説もそれなりに蓋然性があるが,ここではとり わけどれが重要であったかを考えさせた。これは,自分. の仮説の妥当性を再吟味させたいと考えたからである。 各班の発表の中でも,とりわけどれが重要であった か選びなさい。また,その理由も考えなさい。 3分間ほど班討論させたあと各班の代表に発表させ. 図19 「JA幌延町の営農の取り組み」. た。発表は次の通りであった。. 1班は,「3班の気候が一番の理由である。もう少し. この資料には∴「Aのとりくみが書いてあります。 この中で,押し進めるべきであると考えることを各. あたたかければ,畑作ができた」. 2班は,「3班の気候が一番の理由である。農業は気. 班一つずつあげなさい。. 候が大事である」. −112−.

(14) No.59. 小中併置校における「情報を駆使した学び」と「体験的な学び」による教育課程編成と社会科授業実践 2004.12. 画用紙を各班に配り,それに今後取り組んで欲しいも. また,生徒たちは,働く時間が長く,中々休みがとれ. のを書き込ませた。3分後に発表させた。発表内容は次. ない親たちの実態を少しでも楽にしてあげたいと考えて. の通りであった。. いる。. 第1班は,「ヘルパーを増やす」であった。「酪農ヘル. 現在酪農を取り巻く環境は大変厳しい。生乳の輸入自. パーが現在,4人しかいないので,農家の休みが取りず. 由化が迫る中,酪農家たちはこれまで以上に経営努力を. らい」のが理由であった。教師から補足説明として,『J. 求められている。. A幌延町のアンケートでは,118戸中50件の半数の農家. しかし酪農家は,牛が好きで育て,働く喜びを感じる 人も少なくない。安心して,みんなに飲んでもらえる牛. は取れていない』と状況を説明した。. 第2班は,「搾乳ロボットの導入して休みを増やす」. 乳をつくる,やりがいのある仕事であると考えている。. であった。「酪農にはほとんど休みがない。仕事をして. 問寒別地域は,酪農後継者が育ってきている。次代を. いる人も疲れてきて,仕事に集中できなくなるから」が. 担う生徒たちが酪農の歴史的経過を知り,酪農地帯問寒. その理由であった。教師は,『JA幌延町のアンケート. 別をさらに発展させたいと考える生徒が増えることを願. では,平成15年度に3戸,平成16年度1戸,平成17年度. う。. 以降9戸の農家が搾乳ロボットの導入を計画している』 と補足説明した。. 4 むすびにかえて. 第3班は,「機械化の促進」であった。「安い乳価のた. めたくさん搾乳しなければならない」のが理由であった。. 本稿では,「/ト中併置校における『「情報を駆使した学. 教師は,『フリーストールとミルキングパーラーの導入. び』と『体験的な学び』による教育課程編成」とそれに. が進んでいる』ことを補足説明した。. もとづく或る社会和授業実践を事例として報告した。. 生徒たちは,これからの酪農は,より一層機械化を進. 教育課程編成は,学習指重要領上は,これまでも各学. め,労働時間の短縮が必要であると考えているようで. 校において編成されることとされてきた。しかし,′平成. あった。以上で授業を終えた。. 10年の改訂に当たっては,学習内容順や授業時数の扱い,. 選択教科の拡大,「総合的学習の時間」導入等々,大幅 授業を終えて \. な大綱化・弾力化が行われ,各学校の裁量にもとづく各. 授業後,生徒に感想文を書いてもらった。その中に,「酪. 学校独自の教育活動の創意工夫を積極的に推進すること. 農の歴史がわかってよかった」「災害に負けないで取り. が求められるようになった。. 従来,各学校の教育課程はややもすれば形式的で,関. 組んだのすごい」など,先人たちの努力と工夫を理解し. 係法令の規定や教育委貞会等の指導があって,それを校. てく′れた。. 内でリライトし成案化するのが一般的なあり方であった と思われる。. しかし,今次改訂によって,各学校は特色のある教育 課程編成が求められることとなり,従前にはない取り組 みが必要になったことになる。これが第一の意義である。 ここで,各学枚の教育課程の特色や独自性を担保する 要素は多様である。指導要領が強調する「生きるカ」や 地域性,問題解決的な学習や体験的な学習の重視などが それであろう。そしてなかんずく各学校を取りまく広い 意味での「環境」\がそれであろう。. 第二の意義は,各学校の教育課程それ自体が,価値あ る情報として交流の対象になるようになったことであ. る。延言すれば,これまでの観念的教育課程研究とは別 に,「現場的な」というほどの意味で新たな教育課程研 究のフィールドが成立したといえよう。 本稿で報告して幌延町立問寒別小中学校(中学校)の. 教育課程は,平成10年改訂の文脈で作成されたむのであ り,上のような意義を認めるならば,ささやかではある 図20 生徒の感想. が報告することは意味なしとしないであろう。. −113−.

(15) 鈴 木 義 樹・深 谷 久 美・安 藤. 本教育課程は,一般的な学校教育目標に,僻地ゆえの. 3)幌延町立問寒別ノト中学校『「総合的な学習の時間」. 特色とする「情報」と「体験」の目標を調和させ,市街. 指導計画作成の基本的な考え方』 平成14年度版. 地形成の歴史性や酪農地帯であるという地域性と結びつ. 4)「平成14年度 第51回全道へき地複式教育研究大会. けたところにその独自性が認められよう。. 留萌大会 第一分科会」,問寒別小中学校『研究紀要』. ここで,「情報」は,各種機器の整備,いわゆるコンビュ. 5)「第51回全道へき地複式教育研究大会留萌大会留萌. ター・リテラシー指導もさることながら,その基本発想. 大会幌延会場 第一分科会」『学習指導案集』 問. において僻埠にありがちな情報間格差の解消を意図した. 寒別小中学校. ものになっている。先に「僻地ゆえ」と述べたが,周知. 6)『平成14年度 研究紀要 別冊 実践記録集』 幌. の通り,通信情報システムの高度化は僻地が逆に情報の. 延町立問寒別小中学校 7)『平成14年度 学校評議員会資料』. 先進地域になり得る可能性を秘めているのである。 次に「体験」であるが,これについては多くの説明は. 幌延町立問寒. 別小中学校 平成14年4月29日 8)『平成14年度 学校評議員会資料』 幌延町立問寒. 必要ないであろう。本教育課程にもとづく教育実践では, 学習者の日常経験に根ざした授業運営はもとより,ボラ. 別小中学校 平成14年8月29日. 9)『平成14年度 学校評議員会資料』 幌延町立問寒. ンティア活動,地域の特性を生かした自然体験活動,「総 合釣学習の時間」における職業体験学習など,「体験的. 別小中学校 平成15年2月6日. な学び」が深められていることが読み取れよう。. 10)『幌延町立問寒別小中学校 学校経営計画 平成15. 次に,本稿では上記の教育課程にもとづく一つの実践. 年度版』. 11)『幌延町立問寒別小中学校 教育課程基底編 平成. 事例として社会科授業の一単元(8時間)の授業「身近. な地域」(地理的分野)を報告した。. 15年度版』. 12)『幌延町立問寒別小中学校「総合的な学習の時間」. 本単元は「学習指導案」にみられるように「地域の特. 色」として問寒別の酪農業の未来予測をテーマとし,情. 平成15年度版』. 報活用能力の育成と体験的学習め深化を図りつつ問題解 決過程として授業設計している。 授業全体として体験的要素に弱点があるといえるが, ウエビング法による問題発見力の育成や,インターネッ トによる情報の収集,収集した情報の整理でのワープロ ソフトの活用などの情報活用能力の育成などに成功して いると評せよう。、この授業で注目されるのは,なにより も,今後の各学校のおける教育課程編成の課題の一つで ある地域社会との連携を実現しつつ,、学習者に,社会機 能の網の目の結節点の一つとして産業としての酪農業が 人々に欠かせないない有用な産業であり,自分たち自身 がやがてその一環を担う存在であることの自覚を促した 点にある。 この意味で,本授業は僻地における特色ある教育課程 編成の試みとその具現化として有意義な授業であっキと いえよう。. 最後に本稿の文責関係を記しておく。1∼3は安藤の 指導下に主に鈴木が執筆し安藤が検討・修正した。4は 安藤が執筆した。深谷は鈴木の授業全体をサポートした。. 【引用・参考文献】. 1)幌延町立問寒別小中学校『学校経営計画』平成14年 度版. 2)幌延町立問寒別小中学校『教育課程基底編』平成14 年度版. ー114−.

(16)

参照

関連したドキュメント

 “ボランティア”と言えば、ラテン語を語源とし、自

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

目的3 県民一人ひとりが、健全な食生活を実践する力を身につける

C :はい。榎本先生、てるちゃんって実践神学を教えていたんだけど、授

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

 自然科学の場合、実験や観測などによって「防御帯」の

具体的な取組の 状況とその効果 に対する評価.