肢体不自由特別支援学校における医療的ケアの捉え方 : 教師・養護教諭・看護師のインタビュー調査から
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 肢体不自由特別支援学校における医療的ケアの捉え方 ― 教師・養護教諭・看護師のインタビュー調査から ―. 斉藤 有香・安井 友康* 北海道教育大学大学院教育学研究科 *. 北海道教育大学札幌校 障害福祉研究室. The perception of Medical Care in a Special Needs School for Children with Physical Disabilities ― Through the Interviews with Teachers, Yogo Teacher and Nurse ―. SAITO Yuka and YASUI Tomoyasu* Graduate School of Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education *. Department of Special Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 肢体不自由特別支援学校では,児童生徒の障害の重度・重複化により,医療的ケアを必要と する児童生徒の在籍数が増加している。そこで本研究では,医療的ケアが学校教育の中でどう 捉えられているのかを探るため,A養護学校の教師・養護教諭・看護師を対象にインタビュー 調査を実施した。医療的ケアに対する思いを聞き取るとともに,教師が医療的ケアを教育的に 捉えている部分を明らかにすることを目的とした。教師6名,養護教諭1名,看護師6名を対 象とし,半構造化面接を行った。その結果,先行研究に示されたように,医療的ケアの「教育 的立場」と「医療的立場」の視点がうかがえた。また,医療的ケアには「他者と関わりあい生 きることを学ぶ機会」「児童生徒の情緒の安定」「他者とのコミュニケーション関係の構築」と いった教育的視点があることが示唆された。. Ⅰ.問題と目的. る。それに伴って,特別支援学校にも濃厚な医療 的ケアを要する児童生徒が通学するようになり,. 近年,医療や医療技術の進歩により,重度の障. より一層,教育と医療の連携の重要性が指摘され. 害があっても医療や福祉の支援を受けながら自宅. ている。こうしたニーズの高まりを受けて,学校. や地域で生活していけるような体制が整いつつあ. でも一定の条件の下で,教員が「喀痰吸引」「経. 173.
(3) 斉藤 有香・安井 友康. 管栄養」 「導尿の補助」の3つの医療的ケアを行. 量の中で探っていく必要がある(山田ら,2010). うことができるようになった。実施にあたっては. と感じている一方で,保護者は「教育委員会が規. 医師や看護師の指示のもとに,個別のマニュアル. 定する内容を超えた役割を看護師に望む」 (清水,. に基づきながら行うことが求められている。また,. 2015)という研究結果もあり,異なる専門性の中. 日頃から看護師や保護者と児童生徒の状態につい. で動く上で,多くの負担があることが伺える。古. て話し合い,事故につながらないように慎重な対. 株ら(2012)は,チームとしての良好な人間関係,. 応・判断をしていくことが重要となる(文部科学. 専門性のある職務の遂行が満足につながり,看護. 省,2011) 。. 師のやりがいに通じていくことを指摘している。. 平成28年度の文部科学省の特別支援学校等の医. 梶原ら(2013)は,特別支援学校教員が医療的. 療的ケアに関する調査結果によると,全国の公立. ケアを実施する際の期待感・不安感の研究を行っ. 特別支援学校において,日常的に医療的ケアが必. ており,医療的ケアを実施する際に6割の教員が. 要な幼児児童生徒は8,116名であり,全在籍者に. 不安感をもっていることを指摘している。また,. 対する割合は6.0%にのぼる。一人で複数の医療的. 園田ら(2007)は医療と教育の潜在的ニーズを明. ケアを必要としている児童生徒も多い。平成18年. らかにすることを目的とした調査を行っており,. 度以降,対象幼児児童生徒は全般的に増加傾向に. 「姿勢管理・ADL介助及び医療的ケア」におい. ある。それに伴って,特別支援学校では医療的ケ. て教員の自信度が有意に低かったことが述べられ. アに対応するために配属される看護師も増加して. ている。. いる(文部科学省,2017) 。こうした中で課題と. 重症心身障害児の中には医療的ケアを必要とす. なっているのが,教師や看護師といった多職種間. る児童生徒が多くいる。そうした児童生徒にとっ. の連携についてである。大森(2012)は「子ども. て医療的ケアは生活の中でなくてはならないもの. の学習上及び生活上の困難さを異職種間で共有す. である。宮田(2013)は重症児が病院ではなく地. ることが不可欠」であると述べており,多職種で. 域の中で暮らし成長・発育していくことは健康な. 連携を図りながら子どもを見ていくことが学校現. 子どもと変わりなく,医療的ケアが付随している. 場では重要である。. という条件が加わっているという視点をもつこと. その一方で,清水ら(2012)は,医療的ケアの. が必要であると指摘している。また岡澤(2012). 認識に関して,教育や生活の一部としてみる見方. も医療的ケアについて「超重症児が生活の上で有. と,医行為としてみる見方の二つがあるとしてい. する条件のひとつと捉え,それらの縮減に向けた. る。教育的見方,医療的見方の双方が学校現場に. 努力とともに,それらがあることを前提とした教. 存在していることから,両者の認識の違い,思い. 育的対応の工夫」が必要であることを述べている。. の違いにつながり,連携を難しくしている場面が. 学校現場で行われる医療的ケアには,教育と医. 少なからずあることが推察される。. 療の立場関係の曖昧さや,それに伴う看護師や教. 特別支援学校に配属された看護師の困難感につ. 師の不安や戸惑いが多くあることが推察される。. いての研究は過去に多く行われてきている。看護. しかし,特別支援学校における医療的ケアの意義. 師の役割遂行上の困難の研究(鈴木ら,2014)や. についての指摘がされる一方で,教師の立場から. 特別支援学校でアイデンティティを回復するプロ. 見た医療的ケアの思いや捉え方に焦点を当ててい. セス(古株ら,2014) ,看護師のストレス要因につ. る研究は少ない。本研究では,医療的ケアが学校. いて(松澤ら,2014)などの研究からも,看護師. 教育の中でどう捉えられているのかを探るため,. が学校現場で専門性を発揮して活躍できる環境を. A養護学校の教師・養護教諭・看護師を対象にイ. つくっていくことが課題だと言える。看護師は教. ンタビュー調査を実施した。さらに教師が医療的. 育を侵害しないような働きかけを,限られた情報. ケアを実施する際の思いを聞き取り,教師個々が. 174.
(4) 肢体不自由特別支援学校における医療的ケアの捉え方. 医療的ケアを教育的に捉えている部分を明らかに. 明できるような概念名の名づけ,定義づけを行っ. する。. た。生成した概念同士をカテゴリーに分け,さら にそれらをグループに分類した。カテゴリーやグ. Ⅱ.方 法. ループの相互の関連を検討して概念の関係性を簡 潔に文章化し,概念関係図を作成した。. 1.調査対象. 5.調査期間. 札幌市内のA養護学校の教師6名,養護教諭1. 調査期間は,2015年9月~10月であった。. 名,看護師6名とした。なお,A養護学校は肢体. 6.倫理的配慮. 不自由のある児童生徒の教育を専門とした特別支. 本研究は,北海道教育大学倫理委員会の承認の. 援学校である。小学部,中学部,高等部から成っ. 後実施した。対象者には自由意思での参加である. ており,児童生徒数は約140人程である。医療的. 旨を口頭で説明した。同意を得た対象者に,研究. ケアを必要とする児童生徒も多く,教員が医療的. の趣旨,プライバシーの保護,データの匿名性の. ケアに関わる機会が頻繁にあることが見受けられ. 保持,調査内容の取扱いを書面で説明した。また,. た。看護師は現在,常勤,非常勤を合わせて6名. インタビュー後にいつでも辞退できることを伝え. 勤務しており,痰吸引や経管栄養といったケアに. 同意を得た。. あたっている。 2.調査方法 半構造化インタビューを行った。インタビュー. Ⅲ.結 果. は録音機器で記録し,後に逐語録に起こして分析. 調査から,24個の概念,8個のカテゴリー,4. した。教師と養護教諭には15分~20分程度の個別. 個のグループに分けることができた。表1は概念. のインタビュー,看護師に対しては20分程度の座. の分類を示したものである。以下, 【 】はグルー. 談会形式のインタビューを行った。教師・養護教. プ,[ ]はカテゴリー,< >は概念を表して. 諭へのインタビューは,教員個々の教育的なエピ. いる。. ソードを得るために個別でのインタビュー形式を. 1.教育の中での医療的ケアの位置づけ. とった。看護師へのインタビューは,医療的立場. 医療的ケアは【教育の土台】のもとに成り立っ. から,学校現場における医療的ケアに対する代表. ている。その上で, 【教育的立場】と【医療的立場】. 的で共通性のある意見を得るために座談会形式と. によって影響を与えられながら「教育」が発展し. した。. ていく。【教育的立場】の中には[児童生徒との. 3.調査項目. 関わり]や[教育的視点からの捉え]によって教. 調査項目は⑴教育活動(授業等)への配慮,⑵. 育と医療的ケアを結び付けようとする教師の思い. 教員として感じる不安点,⑶教育活動への影響,. がある。それと同時に医療的ケアを行う[もどか. ⑷声かけ等の意図,⑸医療的ケアの意義,の5つ. しさ・とまどい]を抱えており,これらの葛藤の. である。インタビュー内容を決定するにあたって. 中で教育が行われている。 【医療的立場】の中には,. は, 実際に医療的ケアを行っている場面の観察や,. [教育を支える]という看護師の思いがある。そ. 現場の教師の意見を参考とした。養護教諭,看護. の思いを持ちながらも,医療とは違う環境の[不. 師は授業等の指導の場面で直接児童生徒に関わる. 安・とまどい]を感じており,負担ともなってい. 機会が少ないため,適宜質問の変更を行った。. ることがうかがわれる。不安・とまどい・もどか. 4.分析方法. しさを軽減するのが[連携]である。また医療的. インタビューの中から,話のまとまりとなる具. ケアにより[保護者のサポート]への効果も期待. 体例を抜き出していき,他の類似した具体例も説. できる。医療的ケアをより【教育の土台】として. 175.
(5) 斉藤 有香・安井 友康. 表1 特別支援学校における医療的ケアの捉え方 に関する概念分類. 確かなものとすることで,さらに「教育」の充実. グループ. カテゴリー. 図1は,特別支援学校における医療的ケアの捉. 教育の 土台. 学校生活に 欠かせない もの. 教育的視点 からの捉え. 概念 基礎的なもの 教育活動の継続. 児童生徒と の関わり. 2.カテゴリーの説明. 教育活動. ⑴ 教育の土台. 医療的ケアの雰囲気づくり 学校生活の一部として取り入 れる 児童生徒の尊重. ができる」ということである。「学校になかなか. 授業の中断. 大切に したい 視点. 連携. 来れなかったけどそのお陰で来れるようになっ て,学習できるっていうのはかなり,子どもにとっ てはそこはすごいメリットなんじゃないかな」と. 授業のサポート. いった<教育活動の継続>や,「やっぱり健康だ. 児童生徒の健康管理. からこそ何かができるわけだから,健康が崩れて. 医療の場とは違うことへの不 安 教育と医療の立場に対する戸 惑い. いるとやっぱり勉強っていうのはその前段階だよ ね」といった医療的ケアを子どもにとって生活の. 多職種との連携. <基礎的なもの>とする思いが教師の根底にある. 他者との情報共有. ようだった。また子どもが痰で苦しそうにしてい. 教員への指導 状態の判断. 保護者への サポート. 生徒が学習に取り掛かるために必要不可欠なもの. 責任の重さに対する不安. やむを得ないこと. 不安・ とまどい. このカテゴリーの意味は,「医療的ケアは児童 であり,それがあってこそ教育を行っていくこと. もどかしさ・ 医療的ケアに対してのもどか とまどい しさ. 医療的 立場. [学校生活に欠かせないもの]. 信頼関係 責任の重さの受け止め. 教育を 支える. え方に関する概念関係を図示したものである。. 児童生徒の負担軽減. 環境の変化 教育的 立場. に繋がっていくと考える。. るときに,教師がすぐに対応してあげられること. 保護者の時間の保障. は<児童生徒の負担軽減>につながると考えてい. 保護者の安心感. た。. 図1 特別支援学校における医療的ケアの捉え方に関する概念関係図. 176.
(6) 肢体不自由特別支援学校における医療的ケアの捉え方. ⑵ 教育的立場. を抱えながらケアにあたっている」ということで. [教育的視点からの捉え]. ある。教師は医療行為を行うことに対し<責任の. このカテゴリーの意味は, 「学校で行う医療的. 重さに対する不安>や<責任の重さを受け止め. ケアを教育的な側面から見て,児童生徒の関わり. る>覚悟を持ちながら行為にあたっている。さら. の中で実践していくこと」である。教師は「医ケ. に「(たん吸引の際に)もう少し入れたら(たんが). アが始まりますよとは言わないで,お水の時間だ. 取れそうだなって思うんだけど,やっちゃいけな. よとか,あるいは給食であれば,給食の時間だよ. い行為だから,もどかしさがあるんだよね」といっ. という言葉をかけさせていただいて,日常的な生. た<医療的ケアに対してのもどかしさ>や,「(前. 活の流れを崩さないように」といったことや,. にいた学校では)先生がリスクをしょってまでこ. 「ちょっと協力,お互いに歩み寄って協力しよう. ういうことをやる必要がないっていう医者の考え. ねみたいな感じの言葉かけはする」というような,. 方の下に,それをやらなくて良かったんだけど,. 医療的ケアを<学校生活の一部として取り入れ. やはりそうも言ってられない事情もあるわけだか. る>思いや,<医療的ケアへの雰囲気づくり>を. ら」という教師が医療的ケアを行うことは現状と. 意識して児童生徒に接していた。さらに「一つ一. して<やむを得ないこと>であるという捉え方も. つの行為が毎日の生活に生かされていくっていう. していた。また授業場面に関しては,「お子さん. ことが,大事な教育の側面でもあって」と,<教. が学習に集中している時に,どうしても,医ケア. 育活動>として医療的ケアを捉える見方もあっ. の時間で,授業を中断させなきゃならないってい. た。さらに学校に来ることができることで<環境. うこともあったんですよ」というように<授業の. の変化>につながり,子どもの世界が広がったり. 中断>にもどかしさを感じている部分もあるよう. 社会との接点が生まれると考えていた。. であった。. [児童生徒との関わり]. ⑶ 医療的立場. このカテゴリーの意味は, 「教師が児童生徒と. [教育を支える]. 共に医療的ケアに向き合い,積極的に関わり合い. このカテゴリーの意味は,「看護師は医療的な. の機会としようとすること」である。教師は「体. 立場から児童生徒の教育や心身の成長へつなげて. に触れるとか,医療的ケアでやってることが当た. いく思いを持っている」ということである。看護. り前に思わないっていうか,対・人なので」「当. 師は医療的ケアを「縁の下の力持ちじゃないけど,. 事者本位っていうのがすごい大事かなって」とい. 裏方的な,気持ちっていうか」と語り<授業のサ. うように,医療的ケアは児童生徒が行為の主体で. ポート>として捉えている。また医療職として<. あるという思いを持ち,<児童生徒の尊重>とい. 児童生徒の健康管理>にも気を付け,子どもが教. う意識を持ちながらケアにあたっていた。また. 育を受けられるように支えていこうという思いを. 「(子どもにとって)お母さんにはない,先生に. 持っていた。. 対しての不安はある」とし,子どもに安心して受. [不安・とまどい]. け入れてもらうためには「ちょっとした痴話ばな. このカテゴリーの意味は,「看護師は学校現場. しとかをすると,話上手な先生たちなんかはね,. において不安やとまどいを感じている」というこ. 子どもはすごく落ち着く」というように,医療的. とである。看護師は<医療の場とは違うことへの. ケアを実施する際には子どもとの<信頼関係>の. 不安>や,また<教育と医療の立場に対するとま. もとに成り立っていることを感じていた。. どい>を感じていた。今回インタビューを実施し. [もどかしさ・とまどい]. た看護師全員が,以前に病院で勤務した経験があ. このカテゴリーの意味は, 「医療的ケアに関わ. り,医療の場と教育の場という異なる環境に疑問. る教師は,不安や葛藤,現状へのもどかしさなど. を持つことも少なくないようであった。 「体調が悪. 177.
(7) 斉藤 有香・安井 友康. いから駄目だね,駄目だねって言ってると教育の. 3.教育的視点から見たエピソード. 機会を奪う」というように,医療と教育の立場と. ⑴ 教師A. の折り合いの付け方に不安や難しさを感じていた。. 教師Aは,医療的ケア場面で「ありがとうって. ⑷ 大切にしたい視点. いうことを看護師さんにも伝えようねとか,あり. [連携]. がとうっていうのを,気持ちをお母さんに伝えよ. このカテゴリーの意味は, 「教師は医療的ケア. うねっていうことを,学習の一つでもあるんです. 実施の際に,看護師や養護教諭,保護者など様々. けど,そういうのはね,自分自身も気を付けてた. な立場と関わりを持ち合いながら医療的ケアに向. し,子どもとの関わりで,子どもが,そういう気. き合う姿勢が大切である」ということである。教. 持ちを持ってもらえるような,医ケアの仕方とい. 師は,医療的ケアに対して感じる不安を軽減する. うのを,すごく気持ちが良かったよって,その気. ためには 「どういう風にやればうまくいきますか,. 持ちの良さは,ありがとうに変えられたらいいか. とか,素直にこの辺がちょっと不安なので,って. なっていうことで,医ケアの方を進めてきました」. いう風に聞いたりしますね」というように,看護. と,感謝の気持ちを伝えられるように配慮してい. 師や教師,保護者と話をするなど,<他者との情. ると語った。. 報共有>をあげていた。また看護師は「周りの人. ⑵ 教師B. とか学年全体とかチーフとかと相談しながら進め. 教師Bは医療的ケア自体を嫌なものと思わない. てったりするので,なるべくお互いが負担になら. よう,「自分の生活にとってなくてはならないも. ないように」と語っており,<多職種との連携>. のなんだ」という思いを持ってほしいと願ってい. が医療的ケアを進めていくためには欠かせないも. た。痰吸引などの医療的ケアは,子どもにとって. のであると感じていた。さらに看護師は医療的ケ. 苦痛を伴うこともある。そうした子どものつらさ. アの技術的な部分に関する<教員への指導>,養. を認めながら,痰を吐き出したり吸引を終えた児. 護教諭は教育と医療とをつなぐ役目として子ども. 童生徒に対して「頑張ったね」「うまくできてい. の<状態の判断>など,各々の役割を意識しチー. たよ」といった声かけを意識的に行っているよう. ムとして医療的ケア体制を支えていこうとする思. であった。. いがうかがえた。. ⑶ 教師C,教師D. [保護者へのサポート]. 教師Cは,児童生徒が主体者となれるような医. このカテゴリーの意味は, 「医療的ケアは児童. 療的ケアの在り方が大切であると述べている。ま. 生徒へのケアだけではなく,保護者にも間接的に. た,教師Dは「今どうですか,これで居心地悪く. 良い影響を与えている」ということである。医療. ないですかって,話し言葉ない子だったら表情と. 的ケアによって保護者が学校に付き添わなくても. か声で,なんかちょっと変じゃない?とか,先生. よくなるというメリットは教師・看護師ともに感. やってるの心地悪くない?」等と,一つ一つ質問. じているようであった。医療的ケアは「家庭の負. を重ねながら医療的ケアを行うと語った。. 担っていうのはやっぱり大きいですよね」とし, 「学校でそうやって預けられるとか任せられる所 があるっていうところが,親にとってもいいし,. Ⅳ.考 察. 親がちょっと余裕できたら子どもに対するケアも. 1.特別支援学校における医療的ケア. もちろんよくなってくし」と語った。このように. 清水ら(2012)は「医療的ケアそのものに対す. <保護者の時間の保障>や<保護者の安心感>が. る認識として,主に教育活動と医行為の2種類の. 生まれることで,児童生徒にとってもプラスに働. 捉え方がある」と述べている。今回のインタビュー. くと教師は考えていた。. 調査からも,この2種類の捉え方が学校現場にお. 178.
(8) 肢体不自由特別支援学校における医療的ケアの捉え方. いて内在していることがうかがえた。教師は医療. ると指摘している。共通の目標に向かい支援を続. 的ケアを教育活動の一部として捉えようとする思. けていくことが児童生徒のQOL向上において大. いを持っており,児童生徒への関わりなどで教育. 切であることが伺えた。さらに大森は,「子ども. 的な配慮を行っていた。一方で看護師は,医療的. の学習上及び生活上の困難さを異職種間で共有す. ケアを医行為として捉え,児童生徒の健康管理に. ることが不可欠である」と述べている。本調査で. 重点を置いていた。看護師は教師との捉え方の違. も教師・養護教諭・看護師は<他者との情報共. いに戸惑いを感じる場面もあるようであった。こ. 有>が必要であると感じていた。. うした2種類の認識の違いが,特別支援学校での. このように,学校において医療的ケアを要する. 医療と教育の関係性を複雑にさせていると推察さ. 児童生徒を支援していくうえでは,教育活動と医. れた。. 行為という2種類の捉え方はあるものの,それぞ. 栗谷(1996)は学校で行う医療的ケアには「『教. れの立場と役割を明確にしつつ,情報共有の機会. 育』と『医療的ケア』の関係をどう考えるかとい. を持つ必要があることがうかがわれた。. う関係性の問題」があると指摘している。さらに. 2.教育的視点から見た医療的ケア. 「教育の主体性はどこに求められるべきなのか」. 教師Aは,児童が看護師や保護者に痰吸引のケ. という難しさがあることも述べている。医療的ケ. アをしてもらった時の場面を例に挙げ,児童が感. アを要する児童生徒の教育を行っていく上では,. 謝の気持ちを持てるような声かけを心がけている. 医療の介入が必要となることは避けられないこと. と語っていた。田中(2007)は学校での医療的ケ. である。一方で,教育と医療とを同じ場で円滑に. アについて,「治療のためではなく,ケアを通し. 進めていくためには,両者の関係性や位置づけを. て自分作りをし,そして,人と生きあうことを学. 教育職・医療職につく人々が共通認識として持っ. ぶのが学校の文化なのである」と述べている。教. ておく必要がある。インタビューの中で看護師は,. 師Aの取り組みは,医療的ケアを医療としての側. 医療的ケアは<授業のサポート>として行ってい. 面からではなく,人と関わり合い生きていること. くことが大切であると語っている。また児童生徒. を学ぶ機会という教育的な面から捉えているもの. の健康を損なわない程度で医療的ケアを切り上げ. であった。. るなど,病院とは異なる学校独自の対応の必要性. 教師Bの語りからは,教師が児童生徒を励まし. を感じていた。さらに教師Dは,「教師が教育的. たり,ねぎらったりすることで,医療的ケアの雰. な働きかけを行いながら看護師に医療行為を行っ. 囲気を良くしていこうとする姿がうかがえた。松. てもらう」など,子どもが一番楽に授業に参加で. 田(2002)は,「どのような医療的ケアを誰が行. きるよう,お互いの立場を理解しておく必要があ. うかという側面とともに,それをどのように行う. ることを指摘している。吉利(2016)は「それぞ. かという側面も等しく重要である」と述べている。. れの役割を明確化することで相互に自立した役割. 声かけ等を通した雰囲気作りは医療的ケア実施に. を遂行することが可能になる」と述べており,学. おいて重要な視点であると言える。笹原ら(2009). 校現場の教師や看護師はそれぞれの立場から,役. は,「ケアをより安心して受け入れられるような. 割を意識しつつ,児童生徒の学習のためにアプ. 具体的対処は重度・重複障害児(者)がより安心. ローチをしていることがうかがわれた。. して日常生活を送ることにつながり,彼/彼女ら. 本調査では,教師・養護教諭・看護師が「児童. のQOL向上といった観点からみて,重要な課題. 生徒の教育の機会を守る」という共通の目標を持. である」と述べている。教師Bは,「児童生徒が. ちながら児童生徒に向き合っている様子が見られ. 医療的ケアを嫌なものとして捉えて欲しくない」. た。大森(2012)は児童生徒のQOLを高めるた. という思いを持っており,児童生徒が安心してケ. めには支援の方向性を一致させることが必要であ. アを受け入れられるような「具体的対処」として. 179.
(9) 斉藤 有香・安井 友康. 声かけ等を行っていた。これは特別支援学校学習 指導要領解説自立活動編に示される「2 心理的 な安定」の区分に示される「⑴ 情緒の安定に関 すること」にも通じるものと言え(文部科学省, 2009) ,教育的視点からの取り組みとみることが. アに関わる実際的研究,福井大学教育実践研究,38, pp.67-78. 梶原由紀子・原田直樹・三並めぐる・増滿誠・松浦賢長 (2013)特別支援学校教員の特定行為実施における期 待感・不安感に関する研究,日本保健福祉学会誌,20 ⑴,pp.21-34. 古株ひろみ・泊裕子・竹村淳子・道重文子・谷口恵美子. できる。 教師Cは,医療的ケアを行う際に,子どもの主 体性を大切にしたいと考えていた。一方で,突発. (2012)医療的ケアを担う特別支援学校に勤務する看 護師の他職種および保護者との連携と仕事満足との関 連,人間看護学研究,10,pp.59-65.. 的な痰吸引など急を要する場合などを含め,子ど. 古株ひろみ・津島ひろ江・泊裕子(2014)特別支援学校. もの意思や反応を尊重する余裕がないことも多. で働く看護師が看護のアイデンティティを回復するプ. く,児童生徒は医療的ケアに対して受け身になっ てしまう場合がほとんどである。笹原ら(2009) は,医療的ケアを双方向的な活動として実践して いくことが,より主体的な生活へと転換していく ために重要であることを指摘している。医療的ケ ア場面においても児童生徒が主体者であることを 念 頭 に 置 き 実 施 す る こ と が 求 め ら れ る。 荒 木 (2013)の研究では,医療的ケアをコミュニケー ションの機会として活用しており,それによって 子どもは親以外とのコミュニケーション関係を構. ロセス,小児保健研究,73⑵,pp.284-292. 栗谷玲子 (1996) 肢体不自由養護学校における医療的ケア, 脳と発達,28,pp.220-224. 松田直(2002)重度・重複障害児に関する教育研究実践 の現状と課題,特殊教育学研究,40⑶,pp.341-347. 松澤明美・吽野聡子(2014)特別支援学校において勤務 する看護師のストレスの要因,小児保健研究,73⑹, pp.874-879. 宮田章子(2013)重症乳幼児の医療的ケア, 発達障害研究, 35⑵,pp.128-135. 文部科学省(2009)特別支援学校学習指導要領解説自立 活動編. 文部科学省(2011)特別支援学校等における医療的ケア. 築することができたことを報告している。子ども. への今後の対応について,文部科学省初等教育課通知.. が医療的ケアの主体者となれるような声かけや関. 文部科学省(2017)平成28年度特別支援学校等における. わりを行っていくことで,様々な人とコミュニ ケーション関係を広げていくことにつながる様な 配慮も必要であることが推察される。 以上のように,学校における医療的ケアには, 「他者と関わりあい生きることを学ぶ機会」「児 童生徒の情緒の安定」 「他者とのコミュニケーショ ン関係の構築」といった教育的視点があることが. 医療的ケアに関する調査結果について. 岡澤慎一(2012)超重症児への教育的対応に関する研究 動向,特殊教育学研究,50⑵,pp.205-214. 大森保徳(2012)医療と教育の連携―障害のある小児を 支える地域リハビリテーション―,肢体不自由教育, 203,pp.52-55. 笹原未来・川住隆一(2009)医療的ケア場面における重 度・重複障害者の状況把握の促進過程,特殊教育学研 究,47⑷,pp.231-243. 清水史恵(2015)地域の小学校で学ぶ医療的ケアを要す. 示唆された。. る子どもの親からみた看護師の役割,日本小児看護学 会誌,24⑴,pp.9-16.. 謝 辞 本研究のインタビューに快く応じてくださった A養護学校の教師,養護教諭,看護師の方々に深 く感謝申し上げます。. 清水春美・楊娟・菅原弘・橋本陽介・松浦淳・泉山靖 人・熊井正之(2012)特別支援学校での教員による医 療的ケア実施における関係者の意識に関する研究,教 育情報学研究,11,pp.21-27. 園田和香・大歳太郎・池田泰敏・村木敏郎・岩崎信明・ 加藤令子・宮崎泰・山川百合子・佐藤秀郎・落合幸子 (2007)養護学校教員の児童への関わりの自信度から. 引用文献 荒木良子(2013)コミュニケーションとしての医療的ケ. 180. みた医療・教育連携の潜在的ニーズ,茨城県立医療大 学紀要,12,pp.51-57. 鈴木和香子・大見サキエ・坪見利香(2014)特別支援学.
(10) 肢体不自由特別支援学校における医療的ケアの捉え方. 校の看護師の役割遂行上の困難感とその対処―医療的 ケアにおける教員との協働確立に向けた検討―,日本 小児看護学会誌,24⑴,pp.8-14. 田中総一郎(2007)学童期の医療的ケアと地域連携,脳と 発達,39,pp.116-120. 山田初美・津島ひろ江(2010)A特別支援学校(肢体不 自由)における看護師の業務内容と業務量,日本小児 看護学会誌,19⑴,pp.73-79. 吉利宗久(2016)学校教育における「医療的ケア」の位 置づけをめぐる意識調査,岡山大学大学院教育研究科 研究集録,162,pp.71-77.. (斉藤 有香 北海道教育大学札幌校大学院生) (安井 友康 札幌校教授) . 181.
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