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路上コミュニティの仲間たち : 野宿者と支援の社会学

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Academic year: 2021

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路上コミュニティの仲間たち : 野宿者と支援の社

会学

著者

山北 輝裕

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− 41 −

論 文 内 容 の 要 旨

 本論文「路上コミュニティの仲間たち―野宿者と支援の社会学」は、1)特措法体制のなかで、明らかに なった野宿者の差異と、その背後の知、2)その差異のなかで、支援者はいかにして介入しているのか、3) その介入・相互作用のなかで紡ぎ出された知は、野宿者をとりまく支配的な知に対してなにをもたらすのか、 を考察することを目的としている。  これらの検討を経て、近代個人主義的人間像の限界から、社会的に蓄積されつつある自他が応答するケア の領域の中で浮かび上がる協同をとおして、経済的不公正を是正するため「労働する自立」を掲げること/ (当面の)野宿(生活・労働)を承認させることのどちらかという二者択一ではない社会構想を示そうとする。 すなわち、「野宿者の差異をまえに、いかにして介入は正当化されるのか」という問題関心から、現代日本 における野宿者とその支援に注目し、野宿者と他者がつくりあげる関係性を、徹底した参与観察を通してソ シオグラフィ(=批判的社会誌)として記述している。  本書の構成は、野宿者についての研究史(1章)、と野宿者政策史(2章)、野宿者の生活誌(第一部)、 支援者のエスノグラフィ(第二部)および結論からなる。  1章では、社会病理学・解放社会学といった研究史を介入の観点から再検討することで、「野宿」の脱構 築をはかり、そのうえで、野宿者支援の底流をなす「見守り」の支援をもとに本稿のオリジナルな視点、「協 同論アプローチ」が提示される。2章では、戦後の「浮浪者対策」「寄せ場対策」および現代の「野宿者対策」 を検討している。その支援言説の変遷をみるなかで、野宿者と他者(特に支援者)がとりうる関係性の質の 変化が明らかにされ、昨今の特措法体制が歴史的に浮き彫りにされる。  第一部「野宿者をめぐる<仲間>の生成」では、野宿者の差異のなかで、いかにして他者は向き合うのか、 という問題関心から、野宿生活のリアリティ(3章)および、野宿者の「当事者運動」が記述される(4 章)。3章「野宿生活におけるもめごと」では、大阪市 X 公園において、集団で生活する野宿者への聞き取 りをもとに、野宿生活のリアリティへと接近する。なかでも、この章では、集団生活をおくるうえでの、「も めごと」に注目し、X 公園において、集団で暮らす人々は、「もめごと」をめぐり、いかなるリアリティを 訴えていたのか。そして、それは野宿者をめぐる社会的条件のなかでどのような意味を持つのかが、明らか にされる。4章、「路上に集う人々――『当事者運動』と野宿生活の狭間」においては、名古屋市において、 集団で生活する野宿者への聞き取りをもとに、野宿生活のリアリティを明らかにする。そして、さらに、「当

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− 42 − 事者運動」と野宿生活がどのような関係にあるのかについて明らかにされる。ここでは、「当事者運動」の 困難性や、「当事者運動」に関わる野宿者のジレンマが活写される。  第二部「野宿者と支援」では、介入の困難性を起点にしつつ、筆者の参与観察および、支援者、野宿者へ の聞き取りから、野宿者と支援者の関係性について考察している。5章「勝ち取ることの背中――野宿者支 援における『代行』の引き受け」では、支援者の「代行」という局面について考察している。野宿者の相談 を受けるなかで、資源の限界性をめぐって、「代行」とはいかなる経験として引き受けられるのか、支援者 の聞き取りから明らかにされる。6章「支援者からの撤退か、それとも…―野宿者支援における<応答困難 >の現場から」では、支援を拒否される場面において、支援者がどのように立ち居振る舞うのかが記述される。 支援を拒否される場面を主として、「支援する側/される側」という非対称的な関係性が鮮明になり、その後、 支援者の動きが止まってしまうような状態(そして、その動きが止まる根本にはポジショナリティの問題が 深く関係している)を<応答困難>とし、そのようななかで支援者がとりうる<応答責任>とはどのような ものかが考察される。7章「依存する自立のポリティクス」では、野宿者と支援者をめぐる関係性をめぐっ て、当事者主権を協同の観点から再検討している。野宿から病院・施設そしてアパートでの居宅保護へと移 行した人物に着目し、他者といかなる関係性を結んでいったのかが記述される。  以上のフィールドワークに基づいた記述・分析を経て、8章では「当事者運動=当事者主権」という等式 を協同の観点から捉え返した結論が展開される。特に後半においては、野宿者が野宿のまま生きることを承 認する「路上コミュニティ」の構想が提示される。そして、本論文では十分には展開されなかったが、この 支援者と野宿者の協同によって成立する「路上コミュニティ」から地域・行政・企業といった外部との<対 話>の知を検討することを通して、「野宿者と支援の社会学」のさらなる展開の可能性に開かれた結論へと 導かれる。

論 文 審 査 結 果 の 要 旨

本論文は、特措法体制下にある野宿者支援をめぐる<支援する者/される者>の関係に内在する諸難問を 協同論的アプローチにより解明し、論旨に関わる鍵概念を再構成し、さらに問題を切り拓き、実践をも構想 することを目的とした意欲的な論考である。また、方法に関しても、申請者自身がこの論文の方法を、「関 係性の間隙」に関する記述をとおして、「支援する側/される側」という関係性をいかにして組み替えてい けるのかという実践的志向性をもった記述であると位置づけていることを裏切ることなく、「関係性の間隙」 の記述が丁寧に為されている。それは申請者の7年以上にわたるフィールドワークに裏打ちされたものであ り、野宿者と支援者という、見えにくいが故に既存のカテゴリーに頼りがちな関係についての記述は、重厚 でありながら活き活きとした表現に満ちており、たいへん優れたエスノグラフィとしても読み応えのあるも のになっている。  これまでの野宿者研究が、一方で野宿者に介入することの困難性を突き詰めて検討することなく、また他 方で野宿者の抵抗に十分には向き合えなかったという学史的経緯を踏まえて、申請者の論点は、「当事者性」 を担保した協同の探求へと向かう。協同論という論点に申請者を向かわせたのは、長期にわたる支援の経験 のなかで見いだされた、野宿者と支援者が差異を含みながらも「仲間」であり得ることの可能性という原点 であったという。こうした、調査者/支援者という参与的フィールドワークと研究史の批判的検討、そして 記述との間の絶えざる往き来を通して分析がすすめられていくことが、この論文のおおきな魅力となってい る。  本論文の意義は、これまで「野宿者」をめぐる学問/実践双方においてともすると素朴に前提視されていた、 支援する側/支援される側という二項対立図式を、丁寧な記述を通して解体する作業を粘り強く続け、豊か

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− 43 − なエスノグラフィを記述し、分析し得ている点である。具体的には、ネオリベラリズムが席巻する中で、自 立を迫られる事態はたんに野宿者だけにたいするものではなく、その援助者との関係への介入でもあるとい う視点を提示し、それに対抗する論理をフィールドワーク/支援の実践を通して、「自立」や「自己責任」、「当 事者性」というような一見わかりやすい概念を丁寧に検討し直して、それらがもつ規範化の力をあきらかに したこと。さらにそれに留まらず、それを乗り越えていくための回路として、援助者としての介入の限界を 自覚しつつ、パターナリズムに限りなく近いかたちで抵抗的支援を模索し継続する「協同的代行」/「路上 コミュニティ」の可能性という、政策的な介入(「地域福祉」の現実的なあり方)をも視野に入れた実践の 論理を提出し得たこともまた評価すべき点である。  こうした申請者の貢献を認めた上で、本論文のもつ問題を何点か指摘しておきたい。まずは、論文の構 成であるが、3. 4章が第一部、5. 6. 7. 8章が第二部と括られ、それに先行する章(はじめに、1. 2章) が独立しているが、部立てをなくすなど、論文全体の構成を整合的にすることで、厚い記述がより活き活き と伝わるだろう。申請者の長年にわたるフィールドワークに裏打ちされた「記述」は、その文章の巧みさも あって読むものを魅了するのであるが、その記述の方法自体が本論文の重要な方法論的な貢献でもあるので、 その記述が「社会学という知」としてどのような位置づけをされるべきものかという点についてさらに掘り 下げていくことが期待される。  最後に、「結論」において「野宿者と他者がつくりあげる関係性」に関する重要な論点がいくつも提起さ れており、大きな可能性を感じさせる。それらは、先立つ章の議論を踏まえたうえで、緻密な概念定義に基 づく論旨展開を通じて行われる必要があるが、今後、それらをフィールドワークの継続によって丁寧に詰め ることが可能な課題群である。それらが一つずつ丁寧に解かれていけば、本論文の最後に示唆される「路上 コミュニティ」の可能性と「地域福祉」の現実的なあり方との接合が、(その否定も含めて)より現実的な 提案となるであろう。  以上、本審査委員会は、本学位論文の内容と研究活動を慎重に審査し、2009年6月24日に行われた公開の 最終審査面接の結果をも加味して判断し、山北輝裕氏は博士(社会学)の学位を授与するのにふさわしいと の結論を得たのでここに報告する。

参照

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